金は命よりも重いっ…

タブンネ(どうしようどうしようどうしよう…)
一匹のタブンネがショップ内のわざマシン展示を見つめている。
毛並みの良さやふくよかな体型からしてトレーナーの手持ちのようだ。
タブンネ(どうしようどうしよう…ご主人様に嫌われちゃう…)
しかし、今このタブンネのそばにトレーナーはいない。
それもそのはず、実はこのタブンネ、ご主人様つまりタブンネのトレーナーのわざマシンを
うっかりぶっ壊してしまい、怖くなって逃げてきてしまったのだ。
トレーナーがとてもとても苦労してそのわざマシンをゲットしてきたのをタブンネは知っていた。
タブンネに人間のお金の概念はよくわからないが、
ショップで売ってあるわざマシンの値札にはいっぱいの0が並んでいることはわかった。
タブンネ(どうしよう…ご主人様ごめんなさい…どうしよう…)
タブンネの中の悪魔が囁いた。(こっそり盗っちゃえよ!バレやしないって!)
タブンネの顔が強張り、下あごはガクガクと震え、息が段々荒くなる。
タブンネ(どろぼうなんて悪いことできないよ…でもおかねなんて私持ってない…どうしよう…)
???「おい、そこのヤツ!」
タブンネ「ひいっ!」
いきなり大声で話しかけられてタブンネの心臓が大きく跳ねた。
振り向くと、タブンネの後ろにはいつの間にか
カイリキー、カポエラー、キリキザンの三匹のポケモンがいた。
あまり真っ当な雰囲気のポケモン達ではない。
その中で声をかけてきたのはカイリキーのようだ。
カイリキー「お前、なにさっきからずっとショップで売り物見てるんだ?」
カポエラー「しかも顔面クリムガンにしちゃって息もぜーぜーしてるカポ」
キリキザン「はっきり言って怪しいポケモン。万引きでもしようとしてたんじゃねぇの」
ギクリ。内心考えていたことを当てられて引き攣るタブンネ。
それを悟られないよう必死に弁解しだす。その態度が逆に怪しさを増していたのだが…

タブンネ「ち、ちがいます!私、どうしてもわざマシンが欲しくって、それでどうしようって…」
タブンネの言葉を聞いて、カイリキーの目が光った。
カイリキー「ほほう。この売ってるわざマシンが欲しいんだな?」
タブンネ「は、はい。そうです。…あの、店員さんのポケモンさんなんですかミィ?」
カポエラー「ププッ、『ポケモンさんなんですかミィ~?』だって。媚びてるね~」
キリキザン「典型的な箱入りポケモンみてぇだな。俺が一番嫌いなタイプだ」
悪意に満ちたカイリキーの取り巻き二匹の態度に怯えるタブンネ。
タブンネ(…このひとたち、なんだか怖い…)
カイリキーはそんなタブンネの心中を知ってか知らずか、どんと胸を叩いて、
カイリキー「よし、困ってるやつを助けるのが俺の趣味リキ。
俺たちはここの店とは全く関係が無いが、店の物を買える金を、俺は持っている。
お前、ひとつアルバイトをして金を稼がないか」
タブンネ「えっ!そうなんですか。ぜひやらせてください!お願いします!
(わざマシンを買えるお金を持って帰れば、ご主人様も許してくれるかもしれない!)
…ところでアルバイトって何なんですか」
カポエラー「バイトってのは働いてお金をゲットすることカポ。お前そんなことも知らないのか」
タブンネ「いえ、そういう意味で言ったんじゃなくて、何をすればお金をもらえるのかと…」
キリキザン「それを今から兄貴が話すんだよ!ピンク豚は黙って聴いてろ!」
タブンネ「……ミィ……(怖い…)」
カイリキー「単純なバイトだリキ。お前たちタブンネ族は凄いさいせいりょくを持っている。
だから、それを活かして俺の子分二匹の技の練習台になってもらう!」
タブンネ「…えええっ?!」
カポエラー「なるほどカポ~。コイツが役に立ちそうなのってそれしかなさそうだもんね」
キリキザン「兄貴、トレーナーからの餞別を俺たちのために…!一生ついていきます!」
タブンネ「ちょ、ちょっと待ってください!そんな事、わたしできな…」
キリキザン「っるせえな!てめえさっき『ぜひやらせてください』て言ったばかりじゃねーか!」
カポエラー「今さらキャンセルなんて許さないよ。逃げようってならこの場でとびひざげりをぶち込むカポ」
タブンネ「……ミィ……(どうしよう、とんでもないひと達に捕まっちゃったよぉ…)」

がくがく震えるタブンネにカイリキーはグッとサムズアップして
カイリキー「大丈夫だって!お前、トレーナーの手持ちならその特性で何度か回復してるだろ!
それにお前がこのバイトをすると、俺の子分たちは強くなって嬉しい。
俺は子分が強くなって嬉しい、お前は金が稼げて嬉しいでみ~んなハッピーになれるんだ!だからやれ」
タブンネ「………………はい(目が本気だ…逃げようとしたら殺される)」
カイリキー「よし!早速草むらに移動だ!」

タブンネ「うう…痛いよぉ…」
タブンネは木の下にロープで吊るされていた。
両手を一まとめに縛られて宙にぶら下がる姿はサンドバッグ以外の何物でもない。
カイリキー「おい、もう泣き言言ってるのかリキ!ミィミィうるさいと金はやらんぞ」
タブンネ「…ミッ(練習台になってお金ももらえないなんて…それだけは避けないと)」
カイリキー「じゃあカポエラー、お前の苦手なローキックから練習始めるぞ」
カポエラー「あいあい~。なーんか重心が上にいっちゃって上手く足に決められないのよカポ」
カポエラーは逆立ちしてコマのようにぐるぐると回転し始めた。
相当高速で回っているのか、びゅんびゅんと風を切る音が聴こえる。
あのキックが…今から自分に…。タブンネの息が思わず荒くなった。
カポエラー「いっくよ~。えいや!」
ゴギッ!骨まで響く衝撃、音。
タブンネ「あぐっ!…(いっ…痛いぃぃぃぃぃ!)」
今の一撃だけで肋骨のどこかが砕けたのがわかった。耐え切れないほどの激痛がタブンネを襲う。
それでも、カイリキーの言葉に従って必死に鳴き声を堪えるタブンネ。
キリキザン「クケケケケ、すげえ、今にもゲロ吐きそうなのを我慢してるみてえな顔してるぜ!
おいカポエラー、腹の辺りを狙えよ。コイツまじで吐くぜ」
カポエラー「ええ~、吐いたら僕にかかっちゃうじゃん。絶対嫌カポ」
カイリキー「そもそも狙いが上すぎるぞ、カポエラー。
ローキックは相手の足にダメージを与えてすばやさを奪う技だ。
その分威力は心もと無いが、テクニシャンのお前なら最高に活かせる技のはずだ。がんばれ!」
カポエラー「あ~い。えいっ!たぁ!どりゃ!」
タブンネ「ミギャ!?ぎゅっ…ミッ…(た、耐えなきゃ!耐えなきゃお金が…)」

ガギィッ!ゴスッ!グシャ!カポエラーの蹴りの連撃がタブンネを見舞う。
湿ったような乾いたようなダゲキ音が辺りに響く。
木の下に吊るされたタブンネは蹴りを喰らうたびにブランコのように大きく揺り飛ばされ、
戻ってきたところをまた蹴られた。
カポエラーは本当にドヘタクソらしく足どころか顔面にも何回か蹴りが直撃している。

タブンネ「…ミ…ミ…(痛い…熱い…私の身体…どうなってるの…)……ガボォッ!」
カポエラー「うげっ、まじで吐いたカポ」
ひょいとカポエラーはタブンネの吐瀉物を避けた。吐瀉物と言うよりは血の塊に近かったが。
カイリキー「だーめだこりゃ。まだまだカポエラーは要練習だな。
サンドバッグが限界みたいだから少し休ませよう。その後にキリキザンの番だ」
カポエラー「ええー!もうちょっとやらせてよぉ!生身と樹じゃ技のかかりが全然違うカポ!」
キリキザン「駄目だね。俺もさっきからこのピンク豚相手にブチかましたくてうずうずしてんだ」
カポエラー「…ぶぅ」膨れるカポエラー。
カイリキー「っとその前に。あーあーこりゃ原型保ってないリキ。
顔なんか福笑いみたいにパーツがぶっ飛んでる」
カイリキーの言うとおり、強烈な蹴りを何十回と受けたタブンネの身体は
壊れた人形のようにぐにぐにと折れ曲がり、顔に至っては目鼻がバラバラの方に離れていた。
普通ここまでされたら生きていられるはずが無いのだが、これがタブンネの生命力、再生力であろうか。
カイリキー「まあ、一応顔ぐらいは元に戻しとくか。おりゃ!」
ぐぎょり!カイリキーは4本の腕を使ってタブンネの顔を無理矢理圧縮した。
タブンネ「ミギャッ…!」
カイリキー「これでいいだろ。女の子みたいだから顔は大事にしないとな」
カポエラー「…う~ん。ちょっと力込めすぎたんじゃないカポか?」
キリキザン「顔のパーツが中央に寄ってまんじゅうみたいになってら」
カイリキー「……。まあ、まんじゅうみたいな子もいいだろ。オレハイヤダケド…」
カポエラー「そもそもこんなゲロ吐きポケモンはゴメンこうむるカポ」
キリキザン「俺には兄貴さえいればいい」

十数分後。なんという特性か、あれほどバラバラだったタブンネの身体は
なんとか原型のシルエットぐらいは戻っていた。
ただし、内出血の跡や骨折した部分は治りきっておらず、カイリキーが余計な力を込めた顔は歪んでいた。
タブンネ「…なんだか頭がふわふわするミィ…。目と目が別の方を見ている気がするミィ…」
キリキザン「おらっ、気が散るからぶつくさ喋ってんじゃねえ!…では兄貴、ご教授願います」
カイリキー「おう。キリキザンの練習する技はクロスチョップだったな。
本来お前の種族が覚えない技だが、俺が格闘ポケモンNO,1の意地をかけて絶対に習得させてやる」
キリキザン「兄貴…!ありがとうございます!」
カポエラー「臭いことやってないでとっととやれカポ」
キリキザン「うるさい!だあっ!」
しゅんシュンッ!キリキザンの両腕がタブンネの前で交差する。
タブンネ「ミッ……(あれ、ひやっとした…あ、熱い!痛い!)ミィィッ…!」
タブンネの胸部にきれいな赤いクロスが刻まれ、血がだらだらと吹き出始めた。
カイリキー「駄目だ!お前はまだ刃の鋭さに頼っている!
格闘技は敵の内部に直接ダメージを叩き込むんだ、今のままでは外部しか傷つけられないリキ!」
キリキザン「難しいぜ!ふん!とう!せいや!」ビュン!シュバッ!ザクッ!
タブンネ「ミミミミミッ……ミギャッ……(ひっ…ひいいいいぃぃぃぃぃ)」
キリキザンが腕を振るうたびにタブンネの身体に浅く、深く、赤い線が刻まれてゆく。
一部の傷は皮膚を掠める程度だったが、多くは筋肉や脂肪を傷つけ
タブンネの身体は血だけでなく様々な体液を流し始めた。
キリキザン「これでどぉだぁあああ!」
雄叫びとともにキリキザンが技を繰り出すと、タブンネの腹がクロスに裂け
腹圧で内臓がボンッと飛び出した。
タブンネ「ミギャアアアアアアアア!」
タブンネはカイリキーの言葉も忘れて絶叫した。
苦痛もあるが、自分の内臓が見えている事態に気が狂いそうになって泣き叫んだ。

カイリキー「よくやったぞ、キリキザン!
これは立派な…シザークロスだ!よく新技を習得した!」
タブンネ「ミギャッ……痛い!痛いよお!」
キリキザン「兄貴ぃ!俺、やったよぉお!」
カイリキー「あ、抱きつくのは止めて。俺が痛いから」
タブンネ「ミィィィ!わたしのっ…わたしの腸がっ…ないぞうがああああ」
カポエラー「あーもう、うっさいカポ!」
ぐちゃゴボブッ。カポエラーは蹴りで強引にタブンネの腸を腹に押し戻した。
タブンネ「ぐぼえっ」
カポエラー「あ、なんとか戻った。これでおkカポ」
タブンネ「ぐぼおおお……おぶぅううう……」
カイリキー「なんかコイツ鳴き声がブサイクになったな」
キリキザン「カポエラーの野朗が適当に内臓ぶち込むから変な具合に声帯を圧迫してんでしょう。
ったくお前本当に器用がウリのテクニシャンか?」
カポエラー「内臓蹴って戻せただけでも充分器用だと思うカポ。
ってか足にぐんにゃりきてキショかったカポ」
カイリキー「まあ良いや。ご苦労さん、タブンネちゃん。ロープから下ろすリキよ。
これが金な。面倒くさいから紙袋ケツに突っ込んどくから」ブスッ
タブンネ「ミョブッ……」
尻から紙袋を生やしてボロボロのヤブクロンのように転がるタブンネ。
それを放置してカイリキーたち三匹は去っていった…。

トレーナー「全く…タブンネがわざマシンを壊してくれたおかげでサブウェイでBP稼ぎなおしだよ!」
一人のトレーナーがぶつぶつ言いながら自転車を漕いでいた。
トレーナー「あいつどこ行ったんだ?戻ったらきっちりお仕置きしてやらないと」
その時、トレーナーの前でざわめきが起こった。
なにかあったのか、とトレーナーが見てみると、ボロボロのポケモン…
いや、ポケモンと言えるのかどうかもあやしい何かグチャグチャの生き物がいた。
周りの人間が「うわっ何アレ」「気持ちわりー。誰か追い払えよ」などとざわめいている。
そいつは何故かトレーナーに近づき、「ミブィィィ…」とおぞましい声を発しながら、
血と汚物に塗れたおもちゃの札束を差し出してきた。
最終更新:2014年06月18日 22:43