タブンネと桜エピローグ

桜の色も変わり、道路隅に山のように花びらが積もりだしてそれを蹴り散らかす子供達の姿が見え出す時期。

花見そっちのけでうまいタブ肉料理会場と化した公園は、大盛況を見せていたのが嘘のように以前の静けさを取り戻していた。


ガササとあの茂みに分け入る二人の男性、作業服にヘルメット姿だ。

「いやはやずいぶん手入れされてないんだな」
「特に邪魔になりそうな物はないですね、これなら作業も伐採と整地だけですみますね」

二人は工事作業員で、春先から予定されていた地区開発で邪魔になるこの茂みの伐採の下見に訪れていた。

「ここも綺麗になれば、あそこの桜も目立つだろう。ん?ここは拓けてるな、なんだ?」

歩みを進める作業員だが、その足が止まった。

「なんだこれ……」


現場にあったのはおびただしい数の肉片。いずれも木の枝に刺されていて、シルエットだけなら 串焼き のようだった。

小汚ない段ボールが二つあり、片方は文字から判別する限りは逆さまに置かれている。
さらに箱の上には桜の花びらが敷かれていた。雨風にさらされ、黒ずんだ花びらがびっしりと。

唾を飲みながら肉片を調べると、緑に変色した腐肉だが、先に辛うじて判別できるピンクの毛。
さらに肉片からはちょこんと足先のような部位がみうけられ、その特徴的な肉球は

「タブンネか…?」

「どうしたんです………か…」

もう一人の作業員も現場の凄惨さに絶句した。
立ちすくむ二人だが、背後の茂みが揺れる音で我にかえる。

「ミィ……」

汚いという言葉がきれいに思える程のタブンネが木の枝を抱えていた。
タブンネは二人を視界に収めながらもう一つの段ボールの横に枝を置くと、逆さまの段ボールに手をついた。

「いやっしゃいあせミィ」

作業員はそのあまりにも不気味な姿に護衛に連れているポケモンのボールにも手をかけず、立ちすくんでいた。

タブンネは背後の腐肉串を二本つかむと、段ボールに置いた。
まるで 屋台 を彷彿させるような行動だ。
そしてもう一つの箱を開封した。
彼らが目にしたのは、緑に変色した肉塊の山。
所々にピンクらしき部位が見え、やはり予想通りベビンネの死骸だったのだ。

タブンネが持ち上げた一つは眼窩がぽっかり空いていた。
重力に従うようズルッと頭の皮膚が剥がれ落ち、眼窩からは何か白い塊がドサッと落ちバラバラと蠢いている。
タブンネはその腐肉をちぎり、木の枝に突き刺していく。

「おまちどうミィ」
差し出されたそれの肉は溶解したように枝からちぎれ落ちた。

「うああああああっ!」
二人は一目散に逃げ出したが、タブンネはそれに気づいてないようにひたすら肉を枝に刺し続けていた。

このタブンネ…いやバカンネが破綻した精神から得た結論は人間の真似事だった。
あの後空腹に耐えかね食べたベビの肉。そしてあの地獄の三日間の記憶をはバカンネを完全に破壊した。

桜の花びら、屋台、タブンネ料理、生きる術を持たない彼女はこうして毎日仕込みをして調理をしていたのだ。

まだ形が保たれている死骸を取り出すと石で叩き潰し始めた。
不快な音をたて崩れ行くベビンネに、バカンネはニヤけた顔のまま何度も何度も石をたたきつける。

その姿はもはや前向きなバカンネ、いや、タブンネですらなかった。


ザッザと音をたて人間が戻ってきた。片方はホルダーに手を掛けボールを手にとる。
もう片方は携帯電話でどこかに連絡しているようだ

「はい、わかりました。こちらで処理します。はい、その後はそちら、保健所さん任せで。失礼します」


彼女がこれからどうなるかは語る必要はないであろう、この茂みと共に消え行く運命にあるのだから。

「ミィのおいしいベビちゃん……いかがミィ?」

最終更新:2016年06月09日 22:26