序章・畜舎編
ガタン ガコッ
隙間から吹き込む風が冷たい暗闇に包まれた空間。
たまにある揺れに軋む金属のオリ中にはたくさんのチビンネが詰め込まれていた。
オリは複数あり、それぞれ不安そうな顔で揺られている。
そんなオリとは別にぽつんと端に置かれた一台の小型ポケモン用キャリーバッグ。
この薄汚れた小さなキャリーの中には二匹のチビンネがいた。
「お兄ちゃん怖いミィ…」
「だいじょうミィ!ママが言ってたミィ、僕達はこれから楽しいところへいくんだミィから!」
妹らしいチビンネを撫でる兄と呼ばれたチビンネ。
この二匹だけじゃない。皆つい数時間前まではお家(畜舎)でたくさんの家族や、
耳に飾り(管理タグ)をつけた母親とともに藁のベッドで寝息をたてていたのだ。
妹ンネをなだめた兄ンネはまだお家にいた頃を思い返していた。
優しい母とたくさんの兄や姉達に囲まれ幸せな暮らしを送ってきたベビンネ時代を過ごし、
そしてミィチィ入り交じる程になるチビンネと呼ばれる時期にさしかかった頃、唐突にママンネから自分達の未来を伝えられたのだ。
「ミィんな、大きくなったらみんなはここから離れて幸せに暮らすミィよ」
「やだチィ!チィは離れたくないチィ!」
「ミエーンやだミィ!」
「しあわせってママよりすごいミィチィの?」
「もちろんミィ。みんな別々になっちゃうかもしれないけど、みんな幸せになれるって人間さん言ってるミィから」
20頭近くいるチビンネたちはそれぞれの不満や疑問を口にするが、時々顔を曇らせながらもママンネは笑顔のまま話を続けたのだった。
そんな中涙も流さず震えていたのは妹ンネ。彼女はママや他の兄姉より、この兄ンネに執着している。
まず兄と離れるのが一番の不安なのだろう、そんな姿に兄ンネも妹ンネのを手を握り、
「もちろん、僕はずっと妹ンネと一緒ミィ」
と優しく微笑んだ。
この兄妹は個体としては大変優秀で同時期のタブンネより知能も体力も優れている。
そんなチビらしさの少ない二匹は互いに疎外感からかたしかな絆が生まれていた。
高い知能に合わせ、兄はさらに知能に優れ、妹は体力に優れている。これが後に関わってくるのだが、まだ先の話。
その夜子供達は全てママに寄り添い寝息をたて、もちろん兄妹も母に寄り添うもその手は互いにしっかり握られていた。
数日後
朝ご飯(廃棄野菜)をくれる人間達がいつものバケツではなく、大きなオリを手に畜舎へたくさん入ってきたのだ。
いつもと違う様相に不安を感じ、震えたり威嚇するチビ達を無視し、人間は次々とオリにチビを放り込んでいった。
兄ンネ達の畜舎は後列なので、その一部始終の叫びをたくさん聞かなくてはならない。
震える子達にママンネは目を細め、目尻に涙を溜めながら笑顔でこういった。
「お別れミィ、みんな、必ず幸せになるミィからね」
そして最後に自分の家族も次々放り込まれていった。
逃げ惑う子、ママにしがみついて離れない子、人間の手を叩いているような素振りをする子、何事も無いようオリへ。
できるだけ端に身を寄せていた自分と妹にも手が近づいたが、何もせず人間は柵の入り口を閉め去った。
震える妹ンネを抱いたまま、兄ンネはママンネに叫んだ。
「ママ!みんな怖がってるミィ!どうして」
「…………」
ママンネは何も言わず笑顔のまま涙を流していた。
すぐに人間が戻ってきて、その手には小さなバッグが。兄妹はそこに入れられた。
視界からどんどんママとお家が離れていく。
窓から見えた他のママンネ達もみんな同じように手を腹前に組んで笑顔なのが不気味に感じられた。
そんな中でも一瞬だけ不安と悲しみに満ちた表情をした自身のママに気づいてしまった。
その意味には近い未来理解することになる。
そして大きな箱(トラックのコンテナ)に詰め込まれる視界は暗闇に閉ざされ、冒頭に繋がる。
これはこの兄ンネと妹ンネが主軸の話
最終更新:2016年06月09日 22:29