存在しない理想郷

私はあるビジネスを思い付いた。
そこで1匹の家族のいるタブンネを捕獲する。
このタブンネに嫌な思いをさせることなく一年間甘やかす。
家族の事も気になるが、それ以上に今の甘い生活を捨てきれないタブンネを生み出す。
そして一年が経った頃。私はこう言い放つ。
「お前、家族とここで暮らしたくは無いかい?」
即答。どこの赤ベコだ、というほどの速度で首を縦に振るタブンネ。
「じゃあ約束だ、外に出す代わりに、この施設の事をタブンネというタブンネに伝えろ。いいな?」
タブンネは首をさらに強く振り、赤ベコからヘッドバンキングにレベルアップした。



そうしてイッシュ地方には私の施設の話が徐々に広まっていった。ああ、タブンネ間だけね。
あれよあれよと集まってくるタブンネの数。私はそれを施設の入り口…言い方こそ入り口ではあるがこの入り口が出口になることは無い。
イメージして欲しいのは外国の洗濯部屋に叩き落とすあのパイプである。
滑り台の如く楽しい構造にしたので入った時点で気付かれることはない。
タブンネ達の楽しい時間は、そこで終わる。
滑り台は敢えて同じ場所をぐるぐる回るようにし、時たま平坦な状態になるようにしている。その平坦な場所に防音扉を付け、その扉を開けさせることによって、さらに滑り台が現れる仕組みだ。
こうすることで地下のスペースが狭くても、この悪夢の施設が建設できる、というわけだ。
3枚ほどある防音扉を抜け、滑り台を滑りきった先。
そこにあるのは巨大なタブンネカッター。とは言ってもタブンネ以外も平然と切り裂いて肉塊にしてしまうただの凶器だ。
眼下に見えるは仲間の無残な姿と悲痛な叫び。
しかし滑り台となっている上に後ろからは仲間がどんどん滑ってきている。逃れられるはずもない。
肉塊になったタブンネは、タブンネ食肉工場に運ばれていく。
このタブンネの良いところは仲間の惨劇を目撃し、尚且つ自分は逃れられないという恐怖。いざ自分の番になってみてわかる、仲間から助けてもらえないという恐怖。
なぜあの時無理矢理にでも助けてやらなかったのか、という後悔。
全てがタブンネの肉に旨味を増す調味料となる。




この施設は未だにイッシュ地方のタブンネの間では話題である。
何より、「誰も戻って来ない」から真相が分からないのである。
真相が分からないという事は、本当にユートピアなのかもしれない、という事。
タブンネの頭では、きっと目の前に釣られた餌がディストピア以上に残酷な世界に繋がるなど考えもしないのだろう。
今日もまた、1匹のタブンネが斬り刻まれて行く。
最終更新:2016年06月14日 22:59