21XX年タブンネ
時は21XX年。タブンネと呼ばれたポケモンが世に知られた年から100年後の未来。
そのタブンネだが現在ポケモンとして認知されていない。
全国図鑑531には70年程前に見つかったドリュウズが進化したMOGERA(モゲラ)というポケモンが位置している
見た目は機械のような鋼タイプだがこれは割愛させてもらう。
様々な理由により害獣とされたタブンネとの長きに渡り続いた熾烈な争いは人側の勝利に終わった。
タブンネの大量処分と家畜管理により、人の手に納めることに成功したのだ。
今やタブンネという名は失われ、現在彼らは 「ニク」と呼ばれ人に飼育され食料や様々な加工品として人やポケモン達の糧になっている。
ポケモンというカテゴリから排除された人間の家畜、消耗品、物。それが今のニク達
まるで人間やポケモンに都合よく作られたタブンネの体は繁殖力の高さもあり安価で安定した安心して食せる肉を提供してくれる。
この食料事情により、カモネギの絶滅種認定が解除され、彼らは現在食料にされることなく生態系が戻りつつあった。
牛鶏豚魚等のポケモン肉を消費することも完全に無くなり、食肉はニクとして統一されている。
ここからは、数あるニク牧場のうちの一つから一連の行程を説明する。
「ナンバー1から30搬入します」
「1から30確認」
ホースから流れる水の音のみのコンクリ部屋に運ばれる三十匹のニクの列。
ニク達はここでその命を終え、食肉として加工される所謂屠殺場。
排水溝を真下に備えた断頭台に何の疑問を抱くこと無く首を差し出していく10匹のニク達。
コンクリにこびりついた黒ずんだ血液痕も気にもせしない。理解していないだけかもしれないが。
いずれも穏やかな笑みを浮かべているのは不気味に思えるかもしれないが、これには理由がある。
数十年前の種としてのニクが完成された頃から、家畜ニクは生後から現在一歳まで徹底した教育を施される。
自分は「人間とポケモン」の為にその命を捧げる名誉と幸福があり、それは何よりも素晴らしいこと。
ニク達がこれらを受け入れるのも理由があり、過去の彼らは本能で他者に対し献身的な態度を取ることがあった。
それが自身の命を狙う相手でも。
良い部分を伸ばし悪い部分を排除する理想の教育は成功し、
このような教育から「お世話していただく人間様に恩を返し、ポケモン達の糧となる」事もすぐ様受け入れる。
そして断頭台に首を差し出すこの瞬間の為にその身に肉を蓄えてきたのだ。
ニク達はこれから最高の名誉ある最後を迎える。今ここにいる事を皆誇りに感じているのだ。
「今までおいしいご飯と楽しい暮らしをいただけてありがとうございました。私達はこ」
ズダン!10頭はその命を捧げた。
排水溝に流れる水が赤く染まる。作業員がゴム製のレーキで血水ごと頭部を排水口に設置された篭へ押し出していく。
ニクそれぞれの表情は穏やかだが目尻に涙を浮かべていた。
これが屠殺だが 例外 というものはどんな物にも存在するのも確か。
次の10頭のうちの一匹が急に叫び出すが、すぐ様作業員に取り押さえられた。
これは100匹中1匹いるかいないか程度ではあるが、やはり生命体である以上確実とはいかない部分はある。
大暴れしながら断頭台に首をはめられる一匹のニクだが、周りのニク達はそれをまったく気にしないどころか軽蔑の眼差しだ。
死を受け入れられないニクは恥ずべき存在。
「ビィギィィッ!イギィィッ」
首を抜くべく顔を真っ赤にし両手で首の拘束をはずそうとするが、
ズダン!
叫び声は消え、残りの全ても命を捧げた。
司令塔を失った体は痙攣を終えるとフックに吊るされ、作業員に血抜きと毛皮をはがされ腹部を裂かれ肉にされていく。
それを終えると冷蔵室に運ばれていき各所に届けられる。
これら一連の作業はかなりの速さであり、すでに次のニクが運び込まれていた。
タブンネは昔から食用にされることもあったがその際に体や精神を痛め付けると肉質や旨味があがる性質があった。
だが現在は研究が進みその煩わしい作業の必要性も失われている。
科学の力により改善サプリが開発され、食肉用ニクの飼料にまぜて与えるだけで肉質を限界まで痛め付けられた同様にできる。
だが本ニクも気づかないが体は蝕まれ、結果寿命が一年になってしまうが食肉処理適齢が一歳なので問題にならなかった。
………………
ここは屠殺場から離れた畜舎。
棟の区画わけされた舎で百を越える母ニクが子ニクの世話をしている。
母が一度に持つ子は15から20。整った環境や管理された栄養状況により母はもちろん子も健康に育っている。
母は数匹ずつ順に授乳させ、終えると舐めて排尿排便や体を清潔にする、それらが仕事だがこれも順調に進む。
外敵もなく個別管理のため子育てに集中するのも教育の一つだ。
過去にタブンネによる畜産は子を隠すなど反抗があったが、現在は前述した教育により結果はこうだ。
母ニクも「人間の為に育て上げた子を献上する」事が名誉なこと。
子や仲間の死を目の当たりにしないぶん食肉ニクのような異変は無い。
隣の棟は適齢を迎えた子達を親から離していた。ここでも別れ際のいざこざもない。
これから彼らはそれぞれの道を歩む。
まずオスは100匹中一匹の割合で種雄となるが今回は不要だったようで、食肉や毛皮加工に回される
メスは出産用、食用卵用、該当無しは食肉にされるが、こちらも今回は不要だったようだ。
これらは一歳が適齢だが数ヵ月で肉処理されるニクもある。
その現場も少し解説するとようやく自分で食事ができるようになった一部子ニクは別の畜舎に運ばれる。
そこでは筋肉がつくのを防ぐ為に足枷をつけられ、基本的に食う寝るだけとなる。
自由を奪われ、まだ教育やサプリによる改善が行えない為に個室での孤独や不自由を意識し騒いだり涙する子ばかり。
だが拘束上始末に困る糞尿を世話する人間に抱く感情は子を安堵させ、そしてそれらがいなくなる寂しさを与える
屠殺は寝ている間に行われる。情けではなく過剰なアドレナリン分泌を防ぐ為。
一見悪意がありそうだが、この昔を彷彿させる自然なストレスの繰り返しでこれが高級食材に分類される子ニク肉となる。
とある都市に面した商店街の食堂の看板メニューの子ニク丼(600円)にニク卵をつけた孤児丼は半日どころか昼前には完売する程だ。
もうひとつ彼らがタブンネではなくニクになった証が退化した触角にある。
ちなみに耳はそのままだが聴力は落ちている。
人間に管理され外敵に怯えず、安定した食事はタブンネから野生で生き残る為の機能を消した。
個別管理の空間や、一貫した人間の教育による他人の感情を伺う事の不要さ。
最初は奇形とされたが、はっきり言えば「余計な情報を遮断する」のにうってつけと交配を繰り返し現在に至る。
稀に触角付きもあるが生後すぐに切除される。
元はタブンネで何故ここまで従順になれるかは、教育の成果と言ってしまえばそこまでたが、やはり様々な苦労はあった。
タブンネにとって一番の驚異である外敵、食糧難を解決したことにより精神のバランスを保ち、
さらに大量捕獲の際に性格が大人しく温厚な個体を選別し、それらにより継がせてきたものもある。
タブンネも悪ばかりではなく、善もある。そこも利用してきたのだ。
さらに触角を無くしたことで他者を知ろうとする意識が消え、さらに疑いも消えた。
教育は主にビデオでの刷り込みではあるが、タブンネはその野生での弱性から危険を伝える為に親の子への遺伝は強い。
先述の屠殺時のようなケースもあるが、そういう個体はまびくの一番早く周りに影響もない。
昔のように見せしめはせず、「悪い」とだけ教えるのだ。
これら一連の改良に異を唱える者は誰もいない。
今や原生を無くし完全に人間達の為に存在するポケモンですらない生物。これが ニク だ。
………………
ここから現在の野生タブンネの話。
100%タブンネはこの世から消えたかと聞かれればそうですとは言えない。
野生にはわずかだが残存しているのも確か。
ここは牧場の裏手にある小さな山の廃屋。
中には二匹のタブンネと命の消えかけたベビンネがいた。
薄汚れた傷だらけの♂ンネ
つがいであろう♀ンネも傷だらけで片足が無くなっており、痩せてしぼんだ乳をさらし仰向けのままだ。
その下腹部は垂れ流しの尿や糞で炎症を起こす程悪化している。
枯れた草に寝かされたガリガリのベビは二、三度苦しそうに呼吸をするとそのまま息絶えた。
「ミック…ミギィ…ミィのベビ…」
♀は必死に這うように我が子へ向かうと、まるでナメクジが這ったように糞尿の跡が残った。
「ミィ…ミィもあそこに行ってみるミィよ」
♂の言うその場所は牧場。あそこに タブンネ がいることを知っている。
だが隠れるよう細々生きてきた彼らは現状を知らない。あそこにいるのは同族ではない別の生物になってしまっていることも。
人間の管理する土地は昔からタブンネにとっては死地に等しい。
今のタブンネ達にとっては昔以上に警戒されるのだ。しかし財宝がある場所にはかわりないのも事実。
♂は夜が明けたら牧場へむかうことを決意した。
このつがいはこの山で10匹も満たなかった群れの生き残り。
彼らは安住の地を求めようやくたどり着いたのがこの山。
人の施設から近いということで野生ポケモンもおらず、苦しさから解放された安心感からか群生していた食料を根刮食い漁った。
そして陥る食糧難。本能レベルで進化や適応を知らない群れは過去のように人家を求めそして死ぬ。
餓死、人里へ向かい駆除、様々な理由で減り続け今に至る。
何匹かは牧場へ向かったまま戻らない。
さらに外だけでなく中も変わりないのも事実。
♂が傷だらけなのは食料をめぐった内部抗争の結果。巻き込まれたつがいの♀は足を失った。
極限状況であれば仲間を失っても今のタブンネには食料を争う相手が消えた程度。
本来の優しさを向ける相手はあくまでも自身の家族だけ。
それが今のタブンネ。
決意を固めた♂は無言で石を握りしめると微動だにしなくなった我が子へ向けて石を叩きつけた。
グチャグチャバリッピチッ
という音を聴かぬよう目をギュッと閉じ耳を塞ぐ♀。
すきま風が吹き込み、カタッと何かが落ちたような音の先にあるのは骨。
廃屋の隅に積まれた小さなたくさんの骨。それが今のすべてを物語っていた。
もはや未来を繋ぐベビ達は
非常食でしかない。
翌朝♂は下山し牧場を目指した。
いずれはこの山は牧場の所有地になることが決まっている。
ある程度開発された道により道中は楽だったが、かつて自分達が暮らしていた風景が無くなる様は、
野生タブンネには寂しさとなって現実を知らしめた。
牧場の放牧場。
一歳間近となったニク達がそれぞれのびのびと日光浴を楽しんでいる様子が見える。
ここまで近づけるのは普通はあり得ない。
黒ずんだワイヤーやトラバサミに付着したピンクの毛を含んだ肉片が♂に罠を示すよう揺れていた。
さらに今日は保険施設による免許更新日で主要なスタッフは出払い、わずかな作業員のみであったのが幸運だったかもしれない。
そんなことお構いなしに♂は身を隠すことも忘れ、見た目美しい同族に駆け寄り叫んだ。
「助けてくれミィ!ミィの奥さんが!!」
「あなたは誰ですか?知らない人とは話したり近づきたくないのでいなくなってください」
「なにしてるの?あ、「触角付き」だ!ダメだよいこう!」
返答は意外なものだった。
これもニクの教育で、自分達ニクと人間とそのポケモン以外には絶対関わらない。
残存する野生タブンネによる様々な過去の本能を刺激する要因を防ぐため。
「どうして仲良くしてくれないミィ?タブンネは優しいポケモンミィ!」
先日まで身内で争っておきながらこのような考えに至るのがタブンネである証拠だろう。
♂は柵を叩き必死に 同族 へ呼び掛けた。
「なんでいっぢゃうミィ!だずげミァ!それになんでミィミィいわないのミィ!?ミィはベビと奥ざん」
あちらでは数匹がなにかを笑顔で食し、別な場所では綺麗な水で水浴びする数匹の姿も輝いて見える
「ミィはっ!ミィはっ!ミブィフィーン!ミィも綺麗なところで、食べ物ををををを!」
情けないがこれが本音だろう。
「みんな触角はどうしたミィ!?タブンネは可愛い触角で意思をミゲフン」
突然の衝撃に倒れる♂。振り替えるとそこにいたのは
「またか」
棒を持った人間だ。
規定により古種は処分し、遺体は保険施設処理。それが今のタブンネへの対応。
人間は無言で♂の耳を掴み引きずり出した。
「痛いミィ!お耳とれちゃうミィ!」
激しい痛みにもがく♂だがやはり力で人間には叶わない。
「ミギュン」
♂が投げつけられたのは牧場の裏手にある用具洗い場。
金属音を鳴らしながら取り出されたのは大きな鉈に♂は失禁した。
さらに鉄板の上に蹴り込まれ、背中を踏みつけられ自由を奪われると死を意識したのか暴れるがやはりかなうわけもない。
踏まれた際に吐き出してしまったが、肺に残されたわずかな空気を絞り出すように
「ごめんなさミィごめんなさ」
と叫ぶがダンッ!という音でかきけされた
人間は何事もなかったように♂の頭を掴み、保険施設の名前と「特殊廃棄物」と書かれた厚手の大きな袋に死骸を詰め込んでいく。
トタン張りの物置に同じような袋三体ほどの上に投げ込まれた。
その後人間は鉈や靴に付着した血を洗い流すと放牧されているニク達に向かい大声で叫んだ。
「交代!」
その声にニク達は次々と畜舎へ戻っていく姿はいずれも不満な表情すら浮かべず、にこやかに戻っていった。
同じ頃、廃屋に残された♀も我が子の骨を抱きながら息を引き取った。
このつがいは一例に過ぎず今も野生のタブンネ達はその誇りを胸に今日もどこかで滅びの宿命に抗っているのだろう。
学者の調べでは現在の古種対策が続けば絶滅は確実だという。
………………
最後に肉として命を終える以外の種ニク、母ニク、産卵ニクはどうなるかを解説して終わりにしたい。
彼らは三年目を迎えると薬により最期を迎える。
品質を保つためには三年しか有効に働けないのはやはり人間の手が入ったからであろう。
ただし種ニクのみは一歳で必要分の精子が確保された時点で精肉となる。
遺体はミキサーにより液状化された様々な分野で活躍する万能燃料となる。
改良されていない野生のタブンネでは燃料にはならず、先ほどの♂のような野生の遺体は高熱焼却され灰すら残らない。
焼却炉のバーナーの燃料ももちろんニク油。
これらが21XX年のタブンネの現状。
長い時を経てようやく願ってやまなかった人との共存の道を得たのだ。
タブンネであることを捨て去っても、彼らにとっては他者から必要とされることが一番の幸福なのであろうから
終わり
最終更新:2017年02月14日 23:44