野生の真実

野生の世界は厳しい。毎日毎日限られた餌や縄張りの奪い合い、殺し合いが繰り広げられている。
当然他のポケモンの餌にされてしまうポケモンもたくさんいる。弱肉強食の世界なのだ。
しかしタブンネだけは違った。優しい性格が他のポケモンに通じたのか、みなに愛され、大事にされていた。
餌場に行けば場所を譲ってくれる。当然、他のポケモンに襲われることなどない。
競争の世界から外れたタブンネたちはその数を大きく増やし、今や世界中にその住処を広げている。
ただし、ポケモントレーナーだけは違った。彼らはタブンネを探しては手持ちのポケモンをけしかけてくる。
命を奪われることこそないが、彼らは他の野生のポケモンには目もくれずタブンネだけを徹底的に痛めつけるのだった。

タブンネたちもとうとう我慢できなくなり、平和な生活を手に入れるためにトレーナーに抗議をすることにした。
自分たちを攻撃するのはやめてくれと、街へ出て涙ながらに訴えかけるのだ。
抗議活動の甲斐もあってか、非トレーナーを中心に少しずつタブンネ狩りに反対する人間が増えるようになった。
そういった人間の行き過ぎともいえる過激な活動もあって、トレーナーたちもタブンネを攻撃するのをやめるようになった。
こうして野生のタブンネたちは平和を手に入れた。これからは毎日のんびりとした生活が保障される。
自分の気に入った場所で飽きるまで眠り、目がさめれば好物の木の実をだれにも邪魔されることなく好きなだけ食べられる。
気ままに繁殖し、いくらでも数を増やすことができる。夢のような日々にタブンネたちのこころは弾むのだった。

ある日、タブンネがいつものように餌場である木へとやってきた。
木には鳥ポケモンがとまって実をついばんでいる。タブンネも早速ひときわ大きな実に手を伸ばす。
その時、鳥ポケモンの強烈な嘴が突き刺さった。今まで味わったことのない苛烈な痛みに泣き叫び、うずくまる。
そんなタブンネに次々と鳥ポケモンたちがけたたましい鳴き声とともに襲いかかる。タブンネは命からがら逃げ出した。
おかしい。昨日まではみなと仲良しで、高い所にある実を落としてくれてさえいたのにどうして今日は追い出されるのか。
とぼとぼと歩いていると、目の前に大きなヘビのポケモンが現れ、こちらをじっとみつめている。
いつもと様子が違う。タブンネは一瞬たじろいだが、会釈をしてすぐそばを通り抜けようとした。
その瞬間、長い体がタブンネにからみつき、ギリギリと締め付けだした。メキメキと骨の軋む音がする。
ヘビのポケモンがこうして他のポケモンを餌にすることはタブンネも知っていた。しかし、これまでタブンネたちは襲われたことがない。
どうなったのか理解できずに、慈悲を求める弱々しい声をあげることしかタブンネには出来なかった。

タブンネたちは他のポケモンに愛されていたというわけではなかったのだ。
トレーナーに攻撃された野生のポケモンは、その場では殺されなくとも、その後の厳しい競争世界で生きてはいけない。
弱った体は他の野生ポケモンの格好の獲物となってしまう。たとえ野生で頂点に君臨しているものであってもそれは変わらない。
強大なポケモンを何匹も従えたトレーナーたちは、すべての野生のポケモンにとってまさに恐怖の対象だった。
ある時、野生ポケモンたちはタブンネがトレーナーたちにとって何らかの「うまみ」のあるポケモンであるということを知った。
それ以来、みながタブンネに手を出さず、自分たちの周りにおいておくことでトレーナーの理不尽な攻撃からの盾にしてきたのだ。
ルール無用といわれる厳しい野生の世界での、唯一の暗黙の了解が形成されていた。そしてタブンネは数を増やした。

身の丈高々1mで、身を守る堅い殻や甲羅、鋭い牙や爪も持たない。
ネズミポケモンたちよりは大きいとはいえ、それらが備えている敏捷性など持ち合わせていない。
電気が出せるわけでも炎が吐けるわけでもなければ、空を飛ぶこともできない。水の中での生活に適応しているとも到底言えない。
得意の突進攻撃にしても、二足歩行かつ明らかな短足で、一体どの程度のスピード、破壊力が出ると言うのか。
かといって擬態能力もない。呑気に目立つピンク色の、ダブダブに弛みきった体つきをしている。なんと間の抜けた図体だろうか。
足の裏にできたハートマークの肉球といい、明らかに進化の方向を間違っている。実に勘違いをした種族である。
トレーナーのサンドバッグとしての役割があったからこそ生きてこられたのだ。いや、生かされてきたと言ってもいいだろう。
捕らわれたタブンネは涙を流したが、体中の骨をバラバラに砕かれたうえに、ずるずると頭から飲みこまれていった。

あれほど世界中に数多く生息していたタブンネも、もはや少なくなってしまった。
このようなのろまでブクブクと太った豚畜生を、肉食ポケモンが見逃すはずはなかったからだ。
タブンネは耳がいいため事前に危機を察知することは出来たが、丸い体と短い足では逃れることなど到底できなかった。
さらに、草食ポケモン間の競争にも敗れて餌場を追い出され、飢えと渇きに苦しみながら死んだものも相当いたようだ。
かつて自分たちを守ってくれたタブンネ愛護派の人間も、野生のポケモンが相手ではどうしようもなかった。
生き残ったものは他のだれもが住み着かないようなひどい環境に住み、泥水を啜り、他のポケモンの汚物を喰らいながら命を繋いでいる。
美しい日々を知るタブンネは時折悲しい鳴き声を上げるのだが、その声は主食をタブンネに切り替えた肉食ポケモンにしか届くことはない。

 >>69の妄想を完結させてみた。おしまい。
最終更新:2014年06月20日 21:54