タブンネ水槽観察日記・母親視点

私はタブンネ、もうすぐお母さんになります

大切に暖めてきた5つのタマゴ、ときどき「はやく出たいよう」ってカタカタ動くんだよ
赤ちゃんに会えるのが楽しみだなぁ、生まれてきたら、ずうっとお母さんと一緒だよ
秘密の場所に、赤ちゃんのためにふかふかの大きな干し草のベッドも用意してあるの
まわりにはおいしい木の実がたくさんなってるんだよ、おっきくなったら一緒に食べようね、赤ちゃん

…あっ、いまタマゴにヒビが入った!ペキペキペキってヒビがどんどん広がっていくよ
心臓がドキドキする、もうすぐ赤ちゃんに会えるんだ
ああっ、タマゴの上の方がパカッと割れて、あ、赤ちゃんが生まれたよ!
赤ちゃんはミィミィって泣いてママを探してる、優しく抱っこしてあげなきゃ
体はビショビショだから、ママがペロペロして綺麗にしてあげるの
赤ちゃんがお腹をまさぐってる。おっぱいを探してるのかな?
あっ、赤ちゃんがおっぱいをチュウチュウ吸ってる!ちょっとくすぐったいけど、最高に、最高にしあわせああ、私はお母さんになれたんだね

それからは毎日のように卵が孵りました、
おっぱいをあげて、うんちやおしっこを綺麗にしてあげたり、本当に忙しいです
でも、干し草のベッドですやすや眠る赤ちゃんたちを見るとどんな疲れも吹き飛んでしまいます
一番最後に生まれた子は一番ちっちゃくて、一番あまえんぼさん
おっぱいを飲む時には一番最後まで離れなくて
それに私がちょっとでもおうちを離れようとするとミィミィって泣いて引き止めようとするの
一番最初に生まれた一番おおきな子はよくばりさん
他の子を押し退けて、一番におっぱいを飲もうとするの
ママが他の子を抱っこするとミッミッ!て自分も抱っこしてって怒っちゃうの
でも、それは一番ママが大好きっていうしるしだから、ママはとっても嬉しいよ
かわいいかわいい私の赤ちゃん
歯が生えてきたら、おいしい木の実を食べようね、
おっきくなったらママと一緒におさんぽして、タブンネのお友だちをいっぱい作ろうね
どんどんおっきくなっていく大切な大切な私の赤ちゃん。ずっとママと一緒にだよ

ある日、一番おっきな赤ちゃんがベッドから居なくなってたの
ビックリして大慌てで探してたら、何かが太股に抱きついてきたの、
いなくなってた赤ちゃんだ!歩けるようになったんだね!
あかちゃんを高い高いして喜んでたら、巣にいる赤ちゃんたちもよろよろと立ち上がろうとしてる!
可愛い赤ちゃん、一緒にあるく練習をしようね、
すぐ転んじゃうけど、ママのお腹に向かって転べば痛くないよ
いっぱい練習したら、いっぱいお乳を飲んで、いっぱい眠って、早く上手に歩けるようになろうね
今はまだよちよちだけど、上手になったらお外の世界を見せてあげるよ
ぴかぴかのおひさまの下で、いっぱいいっぱい遊ぼうね
今はまだおっぱいしか飲めないけれど、美味しいものがたくさんあるんだよ
楽しみにしててね、わたしの赤ちゃん

赤ちゃんたちと一緒にすやすや眠ってたら、外に足音がしたの
人間と、いつも人間と一緒にいるはなの高い青いポケモン
青いポケモンはいつもタブンネ達に乱暴をする怖いポケモンなの
大変!こっちにやってくる、赤ちゃんたちはまだよちよち歩きで逃げられない…
しょうがないからベッドの上に藁をたくさん被せて赤ちゃん達を隠したの
ちょっと息苦しいけど我慢してね、赤ちゃん
私は近くの茂みに隠れて、じっと足音が離れるのを待ったの
足音が遠くへ離れて、秘密の巣に戻ってみると、ベッドがズタズタに壊されてた
驚いて赤ちゃん達を探したけれど、みんないなくなってる
巣から飛び出して、一晩じゅう赤ちゃん達を探したよ
赤ちゃん達の声を聞こうとしたけど、何も聞こえない
もしかしてあの人間とポケモンに殺されちゃったの…?
そんな事を考えると胸がバクバクして、涙がポロポロとこぼれて、不安で頭が変になりそう
結局みつからなくて、秘密の巣に戻って、まだ赤ちゃんの臭いがする藁の上で横になった
もう心配で一晩じゅう眠れなかったの、
朝になって、外に出てみると、どこかで赤ちゃん達のお腹が空いたってママを呼ぶ声が聞こえた
結構近くにいる!はしって赤ちゃんの声がする所に向かったよ
そしたら、赤ちゃんたちは荒れた草むらの上でおなかがすいたよって泣いてたの
その場で横になって赤ちゃん達におっぱいをあげようとしたけど、
ひんやりするばかりで赤ちゃんはお乳を飲んでくれないの
赤ちゃん達を見てみても、たしかにおっぱいに吸い付いているのに…
どうやら赤ちゃんたちは、見えない箱に閉じ込められているみたいなの

こんなことなら離れるんじゃなかった。ごめんね、可愛い赤ちゃんたち
寒かったよね、お腹も空いたよね、いま助けてあげるからね
はやくおうちに帰って、おっぱいをたくさん飲んで、こんな冷たい箱じゃなく、ふかふかの藁のベッドでねんねしましょうね
…なんとかよじ登って上から入れないかな?
跳び跳ねて縁に掴まってなんとかよじ登ろうとしたけど、
縁に捕まった瞬間手のひらが凄く痛くてびっくりしたの
血がだくだくと出てきた、イバラみたいなトゲが生えていたみたい
赤ちゃんたちはまだミィミィってママに助けを求めてる…
ごめんね、ごめんね、ママには何もできそうにないの…
箱の中には食べる物も何もない、このままじゃ私の大切な赤ちゃんたちは…
嫌!そんなのいや!大切な赤ちゃんが飢え死にしていくのを見てるしかないなんて!
なんとかしないと…なんとかしないと…なんとか…

いつの間にか眠ってしまってたの。目が覚めたら、お日様が顔を出そうとしてる
そういえば昨日から何もたべてないの、それは赤ちゃんたちも一緒だけど…
何か食べないと、何か食べ物を探しにいったの
少し離れたとこで食べ物を探してたら、ガンという音と赤ちゃんたちの鳴き声が聞こえて、大急ぎで赤ちゃん達の所へ戻ったの
赤ちゃん達は無事だったよ、良かった…
赤ちゃんたちがうんちやおしっこで汚れちゃってる
綺麗にしてあげたいのに、今は赤ちゃんたちを触ることもできない
かわいそうに、痒いよね、臭いの嫌だよね…
赤ちゃんたちは泣き止むと壁にくっついてる管のついたビンみたいなのに集まって管の先をペロペロ舐めてる、
あれにはお水が入ってるみたい。
赤ちゃんを取られたみたいでちょっと悔しいな、でも赤ちゃん達が生き延びられるならもうなんでもいいや
でも水の管は一本しかない…取り合いになっちゃう、喧嘩なんかしてほしくなかったのに
あの一番ちっちゃな子が私の所へよちよち歩いてきてお乳ちょうだいよう、お乳ちょうだいよう、って泣いてるの
やめて、やめて!
今の私はあの管よりもよりもなにもしてあげられない、何もできないの!
それでも一番ちっちゃな赤ちゃんはお乳をせがみ続けるの
お乳、お乳ちょうだいよう、オカアサン、オカアサンって、ずっとずっと…
気休めにしかならないけど、透明な壁にお腹を押し当ててあげたら、ペロペロなめてるよ
ごめんね、ごめんね
目の前にお腹を空かせた赤ちゃんがいるのにお乳をあげられないなんて、私、お母さん失格だね
目の前におっぱいがあるのに飲めないなんて、切ないね、切なすぎるよ…
でも、無駄だからお乳舐めるのをやめてなんて言えないよ、
残酷だよ、残酷すぎるよ
冬の氷みたいに、こんな壁溶けて無くなっちゃえばいいのに
そしたら、赤ちゃんたちにいっぱいお乳をあげて、体を綺麗にしてあげて、
おうちに帰って、フカフカのベッドでみんなで一緒に朝まで眠りたいな
一番ちっちゃな赤ちゃんはいつまでもペロペロを止めないよ。一滴も飲ませられてないのに…
目の前のものを諦めきれないんだ、赤ちゃんも、そして私も…


気がつくと、お乳をあげる体制のまま眠っちゃってたみたい
目が覚めたら朝になってたの
一番ちっちゃな赤ちゃんも壁に倒れかかって眠っちゃってた
でもいつもと様子が変、寝息が聞こえてこないの
どんなに耳をすませても、聞こえる寝息は4つだけ
まさか、そんな… 最悪な予感
透明な壁ごしに耳を当てて、赤ちゃんの体の音を聞いてみる
何も聞こえない、心臓の音も、息をする音も、血がめぐる音も、
毎日のように聞いていた、体が成長していく音も
一番ちっちゃな赤ちゃんから、命の音が全部消えていた
…嘘だよね、なにかの間違いだよね?
一番甘えっ子で、いっつもミィミィってママを呼んでて、一番手がかかる可愛い子…
そんな、そんな私の大切な赤ちゃんが死んじゃうなんて…
信じたくないよぉ… 一声、一声でいいからミィって鳴いてよぉ…
私はガラスに手をついたままわんわん泣いたの
べとべとに汚れて、カラカラに干からびて苦しんで死んじゃった私の赤ちゃん
私が、私がいけないんだ、何もできなかった、一番諦めちゃいけない所で諦めてしまったの
許せない、何もかもが許せないよ
私は目の前の壁をを全力でベシベシ叩きました
この壁が、この壁が無かったら赤ちゃんは死なずにすんだのに
けれども壁にはひびひとつ入らないの
距離をとって体当たりしてみたら突然目の前が真っ暗になった
気絶しちゃって、そのまま夜になっちゃてたみたい
壁は、何一つ変わっていなかった、もちろん、死んじゃった赤ちゃんも
私は悲しさと悔しさで自暴自棄になって、小雨が降りだした夜の道をふらふら歩いていました

雨はどんどん強くなる、赤ちゃんの死を悲しむように私の赤ちゃん、大切な大切な赤ちゃん
汚れて乾いて、冷たくなって死んじゃった
胸がズキズキする、目の奥が熱くなって息が苦しい
もういやだ、耐えられないよ
ひとりおうちに帰って泣いてるうちにいつの間にか眠っちゃってた
でも、赤ちゃん達がママを呼ぶ声で目が覚めたの
そうだ、悲しんでちゃいられないよ
もうこれ以上、赤ちゃんを死なせるなんて絶対にいやだ
ぜったい、ぜったいに助けてあげるからね
赤ちゃんたちの所へ着くと、赤ちゃんたちは雨に濡れて泣いていました
箱の上に大きな穴が空いていて、そこから雨が入ってきちゃうの
このままじゃ赤ちゃんたちが風邪をひいちゃう!
私は頑張って上に上ろうとしました、トゲがあることは忘れてたけど
手のひらがズキズキいたいよ…、でも、でも、何をしても赤ちゃんたちを助けないと
手にとげが刺さるのも気にせず、箱の上によじ登りました
なんとか穴を塞がないと、なにか穴を塞ぐものは…
雨はどんどん赤ちゃんたちの所へ落ちていく、私は焦りました
このさい自分の体で塞ぐしかありません
箱の上にもトゲがいっぱい意地悪そうに、ニョキニョキと生えてるの
この上に倒れ込むなんて… 想像しただけでも背筋におぞ気が走るよ
でも赤ちゃんたちの命には代えられない、私は目をつぶって歯を食い縛って穴に倒れかかります
全身に鋭い針が突き刺さります、今まで感じたことのない全身を火で炙られたような痛みに、私は悲鳴を上げてしまいました
下を見ると、赤ちゃんたちが不思議そうにこっちを見ています
赤ちゃんの前で泣くわけにはいきません、頑張って笑顔を作って赤ちゃんたちを励まします
ママは、ママはいつまでもみんなと一緒だよ、
もうどこにも行かないよ、ここにいて赤ちゃんたちを守ってあげるからね…

可愛い可愛い私の赤ちゃん、ずっとずっと、ママが側にいてあげるからね…

冷たい雨と鋭い棘に挟まれて一晩中眠れませんでした
今すぐにでもここから逃げ出したい、でも、赤ちゃんたちの傍から離れる事なんてで
きないよ
少しでも気を抜くとお腹に針金がぎゅーっと食いこんで、すごく痛いの
おひさまが上る前に赤ちゃんたちは起き出しました
いつもならまだねんねしてる時間なの。かわいそうに、お腹がペコペコで眠れないん
だね
赤ちゃん達はお腹の下に集まって、指をしゃぶりながら上を見てる
お乳が欲しいんだよね、ごめんね、傍に行ってあげられなくて
悲しくて気が抜けてしまい、とげ付きの金網が一層強くお腹にめり込みました
まるでお腹が切り裂かれるようで涙がでてくるよ
…?いまミィッって赤ちゃんの喜ぶ声が聞こえたの
涙を拭って、赤ちゃんたちを見てみると、お顔を真っ白にして喜んでるの
あっ!金網に絞り出されて、お乳が赤ちゃんたちの所へポタポタ垂れてるよ!
赤ちゃんたちは口を開けて、一生懸命おいしいおいしいって飲んでるよ!
ミルクを飲んでくれたのが嬉しくて、金網にお腹をギューって押しつけました
身体がバラバラになりそうなくらい痛かったけど、赤ちゃんがお乳を飲めるなら
どんな痛みだって耐えられるよ、耐えてみせるよ

隅っこで冷たくなってる一番小さな赤ちゃん。いつも一番最後までおっぱいを放さな
い子だったね
あの子にも、もう一度おっぱいをお腹いっぱい飲ませてあげたかったな…
おっぱいの下でぴょんぴょん跳ねて飛びつくみたいにお乳を飲んでる赤ちゃんたち、
いっぱい飲んで大きくなって。ここから出られるくらいに、大きくなってね
それまではお母さんがここからお乳をあげるよ、
もうちょっとだけおっきくなって、おっぱいと他の物が食べられるようになったら
柔らかくておいしい木の実も、たくさん落としてあげるよ
ジャンプして天井に届くようになったら、ママが手を取って、お外に出ようね
その頃にはきっとママはボロボロになってるけど、癒しの波動っていうのを教えてあ
げる
どんなケガだって一瞬で直っちゃう、とっておきのタブンネの魔法だよ
じょうずに使えるようになったら、ボロボロのママを治してね
それでみんなで、大きくなれなかったあの子の分まで幸せに暮らそうね…

痛みと安心感でよくわからなかったけど、
何処かそう遠くない所から、大きな何かが飛び立つ音が聞こえたの

その時、背中にぶわっという風を感じました
上から降ってくる風なんておかしいなあ?
考える間もなく、背中を大きな何かに掴まれました
鋭い爪をぐいぐい食いこませながら、私の身体を持ち上げようとするの
私は痛みで悲鳴をあげ、上を見てみるとムクホークさんが私をがっちりと掴んでいたの
…?!ムクホークさんは他のポケモンを食べてしまう怖いポケモン
それが私を掴んでるということは・・・?

あっああっ… 嫌ああああああああああああああ!!!!
待って、ちょっと待って!今連れて行くのはやめて!
あの赤ちゃんたちはまだママのお乳しか飲めないんだよ!?
いまやっと、やっと4日ぶりのお乳を飲んでる所なんだよ
今連れていかれたら、あの赤ちゃんたちは何も食べられずに死んじゃうんだよ?
あんな冷たい箱の中で、あのまま干からびて死んじゃうなんてかわいそう過ぎるよ!
お願い、お願いだから見逃して!後で何でもしますから、とっておきの木の実だってあげますから
腕の一本くらいここで食べさせてあげるから
だから、だからだから今ここから連れて行くのだけはやめて!!

私の願いは聞き入れられる事は無く、身体は宙に浮いていきます
金網を掴んでふんばったけど、掌から血が噴き出してすべって手が離れちゃったの
私の可愛い赤ちゃんたちが、私からどんどん離れて行きます
ごめんね、もう、みんなとといっしょにいることはできなさそうです
赤ちゃんたちは行かないで、行かないでと泣いています
一番大きなあの子は、大声で鳴いてムクホークさんを威嚇しているの
私だって、赤ちゃんたちから離れたくないよ、ずっとみんなのそばに居たいよ…
どんどん小さくなっていく赤ちゃんたちの姿と声、私は最後まで、最後の最後まで見つめていました

どんなに暴れても、どんなに叫んでも、ムクホークさんは放してくれなかった
木の上にあるムクホークさんのお家が近づくと、私は木の幹に叩きつけられました
そしてツルでできた巣に、どさりと放り投げられたの
逃げようとしても、全身がビリビリ痛くて、手も足も動いてくれないの
ムクホークさんは鋭いくちばしでお腹をまさぐっています、チクチクしてむず痒かった
…!!ムクホークさんが私のおっぱいに噛みついたの
そして一気にブチブチと引きちぎって、ムシャムシャ食べてるの
電流のような痛みが、体の芯まで駆け巡ったの
赤ちゃんにお乳をあげる大切な所なのに、
まだまだ、赤ちゃんにあげるはずだったお乳がたくさん詰まってたのに
無造作に、何の躊躇もなくブチリブチリと次々と引きちぎられていきます
おっぱいがあった所からは、赤い血が白いお乳と一緒に噴き出しました
生きて帰っても、もう赤ちゃんたちにお乳をあげられないよ…
乳首を全部食べ終わると、ムクホークさんはするとい爪でビアーの実のようにお腹を引き裂いたの
痛みで盲ろうとする意識の中で、ムクホークさんが私のお腹の中からヒモのような物を食べてるのが見えて
そこで記憶が途切れました

次に目が覚めた時、私はお腹が空っぽになって木の枝に串刺しになってたの
遠くから、赤ちゃん達のママを呼ぶ声が聞こえたよ
オカアサン、オカアサン、どこにいったの?はやくかえってきてよ、さみしいよ、おなかすいたよって
私の赤ちゃん、どんな物よりも大切で、どんな者よりも愛しい赤ちゃんたち
ごめんなさい、本当にごめんなさい、お母さんはもう、赤ちゃんたちになにもしてあげられないよ
身体から血の気が引いていき、どんどん寒くなって行きました、最後の時が来たようです
空を見上げると、三日月のお月さまが綺麗に輝いていました
お月さま、お月さま、どうか赤ちゃんたちをお救いください…
最後にそう願い、私の意識は闇に消えて行きました
最終更新:2014年07月08日 21:20