子タブにお仕置き

最近なんだか「ミイミイ」と家の中で鳴き声がする事には気がついていた。うちではペットは飼っていないし、一人暮らしだから家族や同居人が隠れて世話しているハズもない。しかし俺は特に気にならなかった。実害がなければ何と言うこともない。
だが、それも昨日までの話。今、俺の手にはベビンネが握られていて、「チチイ…チイ」と、か細く鳴いている。そう。こいつとこいつの兄弟が鳴き声の犯人であり、木の実泥棒だったのだ。
俺が仕事から帰ってくると冷蔵庫の野菜室が荒らされていた。入れておいたモモンやオボンには全て歯形がついており、菜っ葉類は食い破られていた。それに対して怒り狂った俺は、冷蔵庫荒らしの犯人は鳴き声の主と決めつけ、探し出すことに決めたのだ。
犯人は簡単に見つかった。2LDKの部屋だから、今まで見つからなかった方が奇跡だろう。最も、捕まったのは囮になったベビンネだけだったが。他の兄弟はテレビの裏の壁に空けられた穴から逃げた。
俺はベビンネを掴む手を緩め、頭を撫でてやる。
「驚かせて悪かったな。でも俺も驚いていたんだ。悪者が来たんじゃないか。って。でも君は違うよね。お詫びに木の実をご馳走するよ」

そう言って机の上に座らすとベビンネは嬉しそうに「チイチ♪」と鳴いた。間抜けめ。
かじられたモモンとオボンを切り、皿に並べてベビンネの前に出す。腹が減っていたのか、ガツガツと食べ出した。
暫くするとベビンネは「チイチイチイチイ」と鳴き出した。何が起こるのかと見ていると、四匹の子タブが表れた。恐らく兄弟だろう。
「ミッミ♪」一匹の子タブが俺におねだりをする。自分にも餌をくれということか。意地汚い。俺はそれを断り、声高に宣言する。
「ありがとう! ベビンネちゃん。君のお陰で悪者が見つかったよ!」そして俺は準備していた三重のゴミ袋で子タブ共を捕まえる。
いきなりの出来事で子タブ共は反応出来ない。驚いたベビンネは俺に駆け寄り、「チイチイ」鳴いてイヤイヤと首を振る。

「どうした? もしかしてこいつらは君の兄弟なのかい?」そう言うとベビンネはコクコクと首を縦に振る。
「そうかあ。じゃあ君もお仕置きだな」再びベビンネの首を掴み、持ち上げる。抵抗して手を殴ってくるが無駄だ。さあ、どう料理してやろうか

「ミィッ!ミッミッ!」一匹の子タブが袋の中で暴れて威嚇してくる。体も一番でかいし、恐らく長男だろう。末の兄弟を守ろうとしているのか。
「そうかそうか。まずはお前からだな」

俺は長男ネを袋から出し、ベビンネの前に立たせる。そして懐からパチンコとビー玉サイズの鉄球を取り出す。
「10発ある。俺がベビンネに撃つからお前はそれから守れ」
「ミィッ!」長男ネはやる気満々だ。
「ほら、行くぞ」勢い良く飛ばされた鉄球は、大の字になって立つ長男ネの右手に直撃した。
「ミィィィっ!」痛みでうずくまる長男ネ。そのお陰でベビンネは丸見えだ。勿論そこを狙って二発目。長男ネは咄嗟に右手でパンチングし、なんとか軌道をずらす。だが右手は潰れてしまった。赤い実が弾けている。
「ほらほら、まだ行くぞ」今度は二発連続。上下に分けたのでキャッチは難しいだろう。
「ミギュイっ」長男ネは足を閉じて直立不動。顔面と膝に一発ずつ喰らう。よろめいてベビンネに寄りかかる。そこに追撃。脇腹に直撃した。長男ネは「ヒィーッ!ヒィーッ!」と声にならない悲鳴を上げている。呼吸も上手くできないのだろう。
「さあ、あと半分!」長男ネの顔面に向かって放った鉄球は左手によって防がれる。嫌な音がした。骨が折れたのだろう。そこへ更に二発。一発は折れた左手に。もう一発は左目にめり込んだ。
「ミィィィィィィィィ!!」鉄球は眼球を潰してしっかりハマってしまっている。長男ネは涙を流して転がっている。その隙にベビンネへ鉄球を撃つ。
「チィッ」顔面直撃。後頭部から倒れる。生えかけの歯が折れて散乱している。
「ミッミッ…」長男ネが立ち上がる。弟が傷つけられているのを見たら自分のことなど忘れてしまったのか。そこへ最後の一撃を放つ。それは長男ネから大きく逸れ、ゴミ袋の中のタブンネに直撃する。「ミビュイッ!」油断しているからだ。馬鹿。
その後はベビンネと長男ネを袋に戻し、ポリバケツにゴミ袋をセッティングする。ポリバケツの高さでは子タブのジャンプでは届かない。内部からタックルされて倒されないよう、壁とテレビで挟んで固定する。
中を見ると、一匹のメスタブンネが長男ネの右手を舐めている。こいつを妹ンネとする。油断していて一発喰らったバカは「ミイミイ!ミミイミイ!」と長男ネに文句を言っている。こいつを弟ンネ。そして、ベビンネによしよししているメスタブンネがいる。こいつは姉ンネだな。

俺はその袋の中に飴玉二つを落とす。姉ンネと妹ンネがキャッチしたが、妹ンネの飴玉を弟ンネが取り上げて口の中に入れる。妹ンネは泣きそうだ。姉ンネは奥歯で飴玉を砕く。そして、飴玉の欠片を四匹で分け合っていた。
今日はこれだけだ。明日からのお仕置きの準備がある。今夜が兄弟全員で過ごせる最後の夜だ。

翌朝六時。子タブ共が身を寄り添って眠るゴミ箱の中に爆竹を放り込む。連続した破裂音の後に、パニックが起こる。

「ミィィィィ!ミビィィィ!」 「ミッミッミッミ!」 「ミビャアァァァ!」 「チィィィ!チィィィ!」

正にパニックだな。タブンネは聴覚の鋭いポケモンだ。人間ですら寝ているところに爆竹を放り込まれたら酷く驚くのだ。奴らには何倍もの衝撃だろう。

しかしそれを「ミィッ!」の一声で止めるものがいた。長男ネだ。こいつはなかなかしっかりしている。逆に言うと、こいつ以外に兄弟を纏められる者が居ない。

「おはよう」
灯りを点けてゴミ箱を覗き込む。ベビンネと妹ンネは隅で震えている。長男ネは片目と両腕が潰れながらも威嚇してくる。弟ンネもミイミイうるさいが、威嚇というより文句だな。姉ンネもミィミィ鳴いてくる。弟ンネとは違い、媚びた声だ。許しを扱いているのか。

「朝ご飯にしようか」笑顔を作ってそう言うと、弟ンネは途端にご機嫌。「ミッミッ♪」と鳴いている。他の四匹も警戒しているが、空腹には勝てないらしく期待のまなざしで見上げてくる。

「さあ、たくさん食え」そして俺は、一食分のインスタントラーメンが入っている鍋をゴミ箱の上でひっくり返す。作り立ての熱々だ。沸騰したスープを全身に浴びた子タブ共は悲鳴を上げてのたうち回る。しかしのたうち回れば回るほど麺が身体に絡んで更に熱い。

もちろん、冷めてしまったらつまらないので一分ほど観察したら終了する。

「ばっちぃなぁ。洗ってやるよ」俺は子タブ共を一人ずつガムテープで雁字搦めにし、トイレへ連れて行った。

先ずはイマイチ面白みの無い妹を掴む。その足の裏に接着剤をつけ、蓋を閉じると逆さ吊りになるよう、トイレの蓋の裏にくっつける。これで準備完了。そして蓋を閉じ、大のボタンを押す。

「ミギャブブブガボブミギ」と意味不明な鳴き声を出す妹ンネ。しかし片足で吊られているため流されていくことはない。続けて大のボタンを押す。頭に血が上り、溺死寸前を何回も繰り返すのはさぞ苦しかろう。

「ミィミィミィミィ」姉ンネが俺の足首に頭をすり付けてくる。助けて欲しいのか? と訊くと「ミィッ!」と頷く。
「仕方ないな。お姉ちゃんに免じてだぞ」勿論こうなることは予想済みだ。俺はポケットからペンチを取り出し、妹ンネの足首を噛む。

「ミビュィィィィィィ!! ミビィィィィィ」と元気な悲鳴をあげる妹ンネ。ミチミチと繊維と肉を切り潰す音がした後、骨が折れる。
「ミビャァァァァァァァ!」一層酷くなる悲鳴。最後にペンチを捻ると足首はしっかり切断される。妹ンネは頭からトイレに真っ逆さま。トイレの水は途端に赤く染まる。

「ミィミィミィミィ」姉ンネが俺に「妹を助けて!」と言ってくる。自分は助けに行かないのか。俺は姉ンネを持ち上げ、トイレの中を見せてやる。

「ミッ…」妹の姿を見て絶句する姉ンネ。
「さあ、助けに行ってやれよ」姉ンネのガムテープを剥がし、ビニル紐で胴体を縛って紐の先を持ってトイレに姉ンネを垂らす。UFOキャッチャーだな。
姉ンネは手を伸ばして真っ赤な水の中で片足立ちしている妹を助けようと頑張っている。しかしタブンネの短足ではなかなか届かない。
姉ンネは届かない手に手を伸ばすのではなく、触角目指して手を伸ばす。意外に賢いようだ。そして、姉ンネが妹ンネの触角を掴んだところでトイレを流す。

勿体ないことをしたな。もっと妹ンネで遊べば良かった。四匹の子タブ共が洗濯機の中でミイミイ騒いでいるのを見ながら、俺はそんなことを考えていた。

洗濯機の中では強力な渦が出来ており、その渦の中で四匹の子タブ共はぶつかり合う。その度にあがる悲鳴が心地良い。

軽快な電子音が鳴り、洗濯機が震動を止める。洗濯が終わったのだ。そして排水が始まり、子タブ共は底にたたきつけられる。「ミギッ!」と小さい悲鳴があがったきり、四匹は動かない。立ち上がる元気もないのだ。

特に姉ンネは目の前で妹ンネを失ったショックからか、他の三匹よりも元気がなかった。最も元気があるのは弟ンネだ。兄弟の中で唯一泣く力が残っていた。

ずぶ濡れの子タブ共を電子レンジで乾かす為に一匹ずつ持ち上げる。すると長男ネが俺の手を噛んだ。
「ミィィ!ミィィ!」肩で息しながらも威嚇してくる長男ネに、内心俺は感心していた。その目には涙が光っている。妹ンネを失った悲しみか、俺への怒りか。あるいは両方か。
民家に入って盗みを働くほど餓えていたということは、恐らく孤児なのだろう。その長男ということは相当に責任感が強い筈だ。俺は長男ネを試してみたくなった。

「これからはお前の兄弟にだけ、お仕置きをする。お前はそれを助けても助けなくても良い。よく考えな」そう言うと長男ネは更に猛った。そう、それでいいんだよ。

手始めにずぶ濡れのベビンネを電子レンジに入れる。そして長男ネに針金を持たせる。何が起こるか理解できていない長男ネは首を傾げている。
「良いかい、タブンネ。今からお前の弟を焼き殺す。それが嫌ならそこのコンセントにその針金を差し込むんだ。最も、お前も無事じゃ済まないがな」
その説明を聞いたベビンネは中から扉をバンバンと叩く。しかし、ベビンネの力ではどうにもならない。長男ネも外から扉を叩くが、勿論壊れない。
「では、スタート!」タイマーを10分に設定してスタートボタンを押す。ベビンネと長男ネは最初戸惑っていたが、直にベビンネ体からプスプスと煙があがってきた。
「チビャァァァァァ!ウビィィィャァァァァ!」と泣き叫び、脱糞するベビンネ。それを見た長男ネは意を決して針金をコンセントに差し込む。
「ミバァァァァァ!!」叫び声と共にバチン!と音がしてブレーカーが落ちる。結果、電子レンジは止まってベビンネは助かったが、長男ネは感電。全身から煙を出して気絶していた。

続く
最終更新:2014年06月24日 20:59