SIDE-A
僕はタブンネを飼っている
元飼い主に虐待を受けたあげく捨てられていたとこを僕が保護したのだ
僕自信タブンネ好きであると共に欲しかったのもある
そして半年かけ療養させ、現在は失敗は多いが家事等を手伝ってくれるほど仲良くなった
ぱっと見る限り片耳、尾、指数本が欠損しており、片目も不自由している。再生力特性ではないようで治療しても治らない部分があった
内臓系には問題無いが皮膚の無数の切り傷によるハゲや火傷痕が痛々しく何故ここまでした?と怒りが沸き上がる
ある日テレビで赤ちゃんイーブイの子育て番組をやってる時、食い入るように観ていたタブに提案した
「なあ子育てしてみないか?」
仲間が増えるし俺が昼間学校でいない間も寂しさが紛れるだろうって言ったらミッ!と笑顔で了承した
辛い経験をしてきた彼女ならいい親になれる。そんな甘い考えだった
月日は流れ産卵したタブ。僕達はならんで寝転がり頬杖をつきながら卵を眺める。そんな幸せな時間を過ごしていた
卵も揺れが多くなり亀裂が走り待望のベビンネが産まれた
おめでとう、女の子だ。タブンネ改めママンネも涙を溜めながら我が子を抱き抱えるも顔を落としてしまう
僕はママを撫でベビを受けとり産湯につけ、しっかり乾かして粘液をとってやった
舌も欠損してるから長さが足りなくてなめてあげることができないんだよな
複雑な表情のママの腹にあてがい、虐待で切除された乳のうち残されていた一つだけの乳首におしあてるとベビはちゅちゅっ音をたて吸い始めた
乳を吸われ母性が強まったのかママはボロボロの触覚で娘の鼓動を確かめるようしっかり抱き締めていた
舐めれないぶん糞尿の始末もウェットティッシュで僕が教えるがなかなか指使いがうまくいかない
結果授乳以外は僕がほぼ担当していたようなものだ。帰宅時にベビが糞まみれってのはほぼ毎日だしね。ママも糞にまみれながら授乳させてるくらい
でもベビの笑顔ひとつでそれも幸せと感じられた
離乳期にもなると立派にチビンネで、トイレも覚え離乳食も僕から食べさせて貰わなくても自分ですませられるようになった
ママの指ではスプーンがうまくもてなくこぼしてしまうから僕が手伝ってたのは言うまでもない
食事以外は寝ており、目が覚めている間は僕が面倒みていたせいかママより僕になつきが強くなっていた。確かに母親のミスばかりみているのもあるからか
成長に従い♀としての本能かやはり♂である僕に対する態度と♀である母に対する態度に変化が出始めた
差別と思われても仕方ないがはじめてのベビの小ささや愛らしさに多少目をかけてしまったのも事実だ
それが増長させてしまった原因でもあるのかもしれない。確かな歪みが生じはじめていた事に僕は気づく事ができなかった
SIDE-a
憎い
いつからだろう、こんな感情が沸くようになったのは。しばらく娘とまともに会話もしていない
器用に椅子に腰かけてドリンクを両手で飲むあの子。お腹を痛めて産んだ卵、身を削って栄養を分け与えたはずの分身
あの子は私に無いもの、失ったものをたくさん持っている
天使の羽のような耳、綺麗なサファイアの目、クリームのような尾、艶のいいピンクと白の体毛。細く綺麗な指
私が奪われたものばかり
ご主人様もあの子を見る目が違う感じがするのは気のせいじゃない
うちには鏡というものが無い。私の酷い姿を見れないように気遣ってくれた気持ちは痛いほど解る。でも今 タブンネ がいるのだ
嫉妬。今の私にはそれしかない
でもあの子はご主人様の娘でもあるのだ。二人で育てた
愛の証、でもあの子がご主人様を見る目が父ではなく雄を見る目に変わっている
自然ではよりよい子孫を残す為♀同士で争うこともある。私が元野生だから本能を継いでしまったのたろうか
私が卵から孵った時そこは血の海だった。親の温もりなど知らない
初めて口にしたのは暖かい母乳ではなく流された親の冷たい血液
生きるためゴミも口にし、あげく殴られ蹴られた。そして あいつ に捕まり私は壊された
だからって娘に同じ想いをさせようなどとは思ってはいけないと必死にはらっても怒りや憎しみがわくだけ
テレビでイーブイを見たときの暖かな感情はもはや欠片もない。なぜ私はあんなものを見てしまったのか。よりによってイーブイを
なんの苦労もしてないくせに
汚水すすったことある?生ゴミを食べたことある?暴行されたことは?寒い思いしたことは?
無いよね
暖かい毛布やたくさんの愛情に包まれ幸せしかなかったんだもの
あの子は産まれた瞬間からご主人様の愛を一身に受け育った。それが一番許せない、私の幸せを奪うな
ようやく掴んだ幸せを 幸せを 幸せを
バアン!
気付くと私はテーブルを叩いていた。あの子はビクッとしたもののこちらをチラッと見ては再びジュース飲みを再開する
そう、これが現状だ。あいつは他のタブンネより顔がよくご主人様以外からもチヤホヤされることが多い
夢はミュージカルスターと言われた時はヘドが出た
もはや限界かもしれない
SIDE-A-2
それは突然起きた
ママが食器を落とした娘を叩いたのだ。娘はママを睨むような素振りをしたがすぐ僕に泣きついてきた
「叩くことはないだろ?」
だが僕の言葉に答えることはなくドスドス自分の寝床に入るとそのまま寝てしまった
僕は娘を宥め寝かしつけるとママの元へオボンの実を持ち向かった
「最近変だぞ?どうしたんだ?」「」
「わかった。これ、置いとくから食べて。おやすみ」
何も返事はなかった
翌朝僕は通う学校、ポケモンカウンセラー養成校で教授にここ最近のタブンネの様子を話してみた
すると教授は語ってくれた
地獄から生還した個体は自分の居場所を守るための行動も起こすこともある。と
しかしタブンネは家族愛に満ちたポケモンではなかったのか?まあうちの子の生い立ちは普通じゃないから当てはまることはないのかもしれないが
僕は眉を寄せた。たしかに愛情を二分割、いや比重を娘に傾けていた。それがママには苦痛だったのかもしれない
だからといって娘を手放すとかしたらそれこそ最低だ
僕は心に傷を持つポケモンを救うためこの仕事を志したが、今の僕は傷を抉る側にたったのかもしれない
僕の表情を読んだのか教授は僕の肩を叩き
「ただし、それを良しとするか悪しとするかは君の判断だよ。タブンネを救えるのは君しかいないと思うからね。虐待から立ち直らせた功績がある。自身の判断に自信を持ちなさい」
僕が救う…か。僕は深く頭を下げ相談室を後にした
僕はどうしたらいいんだろう
帰宅した僕の眼前にあったのは想像を絶する大惨事だった
SIDE-a-2
いってらっしゃい。そういわなかったのは今回が初めてだろう
枕元のオボンに手もつけず私はただ流れる雲だけみていた。娘はご主人様の用意していった食事にありつき満足そうにゲップしている
しばらくしてご主人様が運動用に買ってきたルームランナーに乗るとドスドス走りだした
鮮やかに走る姿(タブ視点)に私の何かに亀裂が走る
ランナーから滑りおちフロアに大の字に突っ伏し泣く声で何かが完全壊れた
私の手には組み立て時にご主人様がしまい忘れた電動ドライバー、アタッチメントはドリル。壁で補強した際につけたときのまま
娘は瞳をうるうるさせ「いたいミよう」と私に訴えたその瞬間
「ミッ!ミギャギャギャギャアアアア!」
私は娘の手の甲にドリルを突き立てトリガーを握りしめた。指が無い分握力的なものは鍛えていたつもりだ
血と肉片が飛び散り、娘は味わったこともない痛みに悶え失禁する
「トイレでできたね!おりこうさん!」「しーしーでたね!おりこうさん!」
ご主人様の優しい笑顔が思い出される。それは拾われたばかりの私に向けられた言葉。それも奪われたんだ
「いたミィ!いたミィ!」
初めて味わう痛みに苦しむ娘の姿に私は高揚していた
あいつ から受けた虐待の日々が思い出される
『こんな媚びた耳はいらねえよなあ!』
やめてやめてと悲願しても あいつ は耳までさけたような笑顔で何度も打ち付けた。確かにこんな楽しいならやめられるわけないよね
「こんな媚びた耳はいらねえって言われたんだミィ!」
「やめてミィお母さん!」
私はドリルを引き抜き耳に突き刺した。そして回すことなくそのまま引っ張るとビリリ!と裂け血が舞う
「ミィの大事な耳がー」
そう、その顔。絶望的な気持ちが触覚無しでも伝わってくる。実に心地よい
引き出しから筆記用具入れを取りだしコンパスを持ち針を耳の反対側、がら空きの目に突き刺した
「ミェェイ!!ワアアアアオッアオオッ!」
タブンネ特有の媚びた声はなく完全に獣の叫び。そう私も発した声
限界突破した痛みにただ体を強ばらせる娘の首根っこを掴みキッチンまで引きずる。まだ軽くてよかった
包丁を抜き出し娘の手を押さえつけ綺麗な指に押し当て全体重をかけた
ダン!とバラける指。それを拾い私は足りない指にテープで張り付けた
「ミフフ」
みて、綺麗な指。深紅の指は音もなく全て床に散らばった
「ミォッ、!ゲッ!ミィは悪いこと…してな…ママやめ…」
この程度で根をあげるなんて温室育ちは根性がないね
それに悪いこと?あんたの存在が悪いんだよ。私たちは♀同士。♂を奪い合うのは自然の摂理
それにママぁ?タブンネが不利な状況で媚びるってのはね、相手に「私を虐待してミィ!」っていうサインなのよ
さあて次は綺麗なお毛毛に死んでもらおうかな
娘の無防備な腹に向かってポッドの湯をぶちまけてあげた
ジュワア!と湯気をたてぶくぶくに皮の浮いた皮膚から少しずつ毛を抜き取る
「一日一本、三日で三本、三本抜いて豚が鳴く。タブ生はワンツーパンチ。痛ミィ?痛いよミィ?ん?ん?んんんんん?」
わざとふざけながらやるのは あいつ もそうしていたから。ジワジワ抜き取り、まとめて抜いた部分は皮膚がはがれ真っ赤な肉が露になった
プスッリリ
限界なのか娘は脱糞し、臭気が湯気にまじり不気味で不快な臭いがひろまる
「ウンチでちゃったミィね。ふいてあげるミィ」
タオルにベビーローション代わりのデスという辛味調味料を染み込ませ、下痢で敏感になった尻穴に押し当てると再び叫びがあがった
ここまでしても絶命しないのはタブンネ特有の生命力と自分でもわかっている。自分も何度も死にたいと願っても死ねなかった
特性とは別のタブンネの優れた点でもあり欠点でもあるの
「私の可愛いべびちゃん。私の居場所を奪う憎いクソブタ」
逃げようとのたうちまわる娘は棚につっこむが棚から何かが落下し、割れた
それは娘の誕生日に撮った写真。笑顔のご主人様と私が娘を抱いている写真。私は割れたガラスにむかって拳を叩きつけた
この気持ち悪い奇形豚が私。天使のような美タブンネの引き立て役なのおお!
子供なんていらないのよ!だから次は乳を使えなくしてやろう。と包丁を構えた時だった
SIDE-A-3
「なんなんだよ…これ…お前がやったのか…」
僕が訪ねるとママはニンマリと笑い、幽霊のように重症の娘に歩みだした
「タブンネ!!」
僕は思わず大声で怒鳴ってしまった。だがそれが彼女のトラウマを呼び覚ましてしまったらしい
「ンンー!ミィ」
僕に向け包丁を突きだしとっさに構えた腕を抉った
「ぐっ、やめろ!」
再び包丁が僕を襲う刹那
ママに食らいつき身動きを防ぐサンダースがいた
「大丈夫かよ!騒ぎをききつけてきたんだがおい!しっかりしろ!」
薄れ行く意識の中、隣に住む男性の顔が見えたが意識は闇に沈んだ
その後ママは害ポケとして拘束され、娘はボールに収納された時既に絶命していたと聞かされた時は言葉もなかった
もちろんポケセンでも蘇生はかなわなかった
僕は病室で筋が切れ動かなくなった腕を見つめ歯軋りをした。僕が…あんな軽い気持ちで
虐待タブを助けた事を内心自尊してしまった自分への罰なんだろうか
そんな時病室のドアが開いた
「大変だったな」
お隣の彼だ。僕は頭をさげ、助けてくれたサンダースにも頭を下げるとサンダースはヘラヘラしていた
彼は僕の腕を見ると顔をしかめ直ぐに視線を移し書類を渡してくれた
拘留中のママの報告書だ。精神状態が酷いようで糞尿垂れ流し拘束のチューブ給餌らしい
状態からしてトラウマ再発し他者に危害を加える恐れがあり、トレーナーライセンスがない僕にはとてもじゃないが返却できない。と
僕は涙が止まらなかった
彼の足元にじゃれつくサンダースとそれを笑顔で撫でる様子にかつての自分とタブンネが重なる。あの幸せな日々はもう戻ってこない
「あの…」
「なんだ?」
「どうしてタブンネ虐待は無くならないんでしょう」
「…俺は何も言えないよ」
彼は病室を後にした。僕はただ俯き涙を流すことしかできなかった
SIDE-?
病院の公園ベンチに腰掛け俺は一気に噴き出した
「いやあまさかあのタブンネだったとはなあ!いやはやビビるビビる」
サンダースにオヤツを与えながら大笑いしちゃう。まさかアレが拾われててしかも隣のうちにいたとはよ!
耳とか指ちぎったのサンダースだしさ!いやはや愉快痛快。ああいう勘違い野郎は大嫌いだ、なにがタブ愛だよ。二人してざまあだな
あんな薄汚いクズどもは駆逐されてなんぼだっつうのに
サンダースもオヤツ食いながら笑っている。そんな顔に俺はちゅっちゅしまくった
ああ、可愛い。気分いいからプレゼントに車のバッテリー買ってやるぞ!
サンダースは涎をたらしながら両手を頬にあてバッテリーにかじりつく自分を想像してるんだろうか
イーブイ時代から変わらぬ笑顔を撫で俺達は帰路につく
気分いいからといって途中草むらが揺れるのを見逃さなかった
薄汚れたパンクしているボール(ゴミ)で楽しそうに遊ぶ野生タブンネ親子に声をかける
「ミィつけた。サンダース、親はすきにしていいよ。ガキは俺がもらう」
親子の顔が絶望に染まった
終わり
最終更新:2014年06月29日 13:34