あるタブの光と闇・ビギニング1_転落

ある森。その奥にあるタブンネの巣では堅い殻を破り、光の下へ生まれ出たベビンネ♀がいました
卵の中で感じたパパ、ママ、もしかしたらお兄ちゃんお姉ちゃん。みんな笑顔で誕生を祝ってくれる。そう思っていたのでしょう
しかし現実は想像を絶していました


ベビの眼前に広がっていたのは血、臓物、骨。たくさんの死骸
本能で気づいたのかベビが寄り添ったママは喉から股まで切り開かれ臓物を溢れさせた個体です。目と舌は飛び出さんばかりに突きでてますががベビにはそれが理解できるはずもありません
胸を、母乳をまさぐるも母のぬくもりはなく冷たい血液。ベビは流れ出る血液をコクコクのみ、母の腕と脇に潜り込むよう体を丸め身を寄せました


ベビが産まれる半日前。人間とそのポケモンが駆除と称しこの群れを壊滅させたのです
人間に鍛えられたポケモン達はそれぞれの長所を活かしタブ達の肉を裂き骨を砕く一方的な蹂躙、虐殺
抵抗も無きに等しい。自然でもありえない凄惨な光景


ベビは幸運にも、いや不運といったほうがいいのでしょうか。卵が発見されることはなく今に至ります


あれから数日が過ぎましたがベビは死んでおらず親の毛皮で暖をとり同族の血肉を糧とし幼いながらも生き長らえていました
ですがなんの処理も無く死体が放置されている現状。どうやら血の臭いが災いしたみたいです
空から降り立つたくさんの影。バルジーナの群れが死肉を喰らいに押し寄せます
捕食者のもつ独自のオーラにベビは抗えず頭を抱えその時を待つだけ
そして爪で捕獲され、静かに目を閉じますが、自分にあるのは死への願望ではなく、死にたくない。生への執着


だがいつまでも死は訪れません。自分は捕まっているのに痛みは無く、むしろ空を飛んでいるような解放感が
捕食者は何をしようというのでしょうか。疑問に思う事もなくタブは心地よさに身を任せいつしか意識は眠りに誘われます


気がつくと暗い場所。光の漏れる入り口らしき場所には石が積み上げられ幼いタブには崩せません
端に穴を見つけましたがとても抜け出せそうにはありませんでした
ベビは鳴くも反響すらせず何も起きません。ママ(死体)も暖かい毛皮(パパ)食べ物(兄姉)も無い始めての孤独はベビの心を追い詰め始めますが


ガチャン
石が崩れ 見たこともないものが放り込まれます。おそるおそる見に行くと鼻と腹を刺激するいい匂い
死肉や血液しか口にしたことの無いベビには未知の物
明かりが一瞬暗くなり、そちらに意識を向けると隙間からバルジーナが にらみつける してました
そして こういいます
「食え」


よく理解はできませんがやはりタブ脳もあり、おそるおそる舌を這わせると優しい甘さが全身を駆けます
バルジーナが与えたのはオボンの実。おめでたいタブ脳は 自分を助けてくれたいいポケモンさん と認識されかじりつき未知の甘さに幸を得ました


そんな生活が続き、オボンによる栄養もあってかベビは成長していき、穴は安全であり外に出られない不満など無く、苦の無い生活を続けていたそんなある日
いつのまにか覚えた端の穴での排泄を終えオボンを待っていると隙間から話し声が


「ねえママー、あれいつ食うの?」
「まだまだよ。もっとぶよぶよにしないと越冬の餌に使えないからね」
「ちぇー、ならはやくその冬ってのがはやくこないかな」
「冬なんてなくてもいいの!ほら飛ぶ練習するわよ」


タブはそういった経験はないはずなのに感情をよめるポケモンらしく、親子の楽しげな会話 として認識されます
さらに自分は食べ物であり、食うために育てられているとも

涙が溢れてきたのは至極当然。いつしかバルジーナを勝手に母のように感じだしていたタブにとっては裏切りでした


いつしかタブは夢を抱いていました。自分もいつかバルジーナママみたくなってダーリン()やベビと幸せに暮らしたい、と
そんなささやかな夢も現実に流されます。このままじゃ殺される


オボンのおかげか体力もついており石がことのほか軽く感じ、タブは脱走を決意することに


深夜。タブは石を避け外へ逃げ出すも、他の肉食から避ける為に木に作ったの穴だったのか落下してポヨンと地へ
不思議な感覚に足元を見るとラフレシアが水管を浮かせ激怒しておりタブは脱豚の如く逃げ出しました
本来ならドスドス走りであっさり捕縛されるでしょうが、飼いポケ並みに栄養豊富な食事のおかけが足取りは軽く、ラフレシアも寝起きの為が逃げ切ることに成功しました


必死に走ったその先にあったものは石で出来た光を放つたくさんの木
ブーン!と鳴き声をあげ鉄のポケモンが尻から煙りを出しながら駆け抜けていく。咳き込みながらも必死に隠せる場所をみつけ身を寄せました


ここは人間の街。石の光る木は家屋、鉄のポケモンは車です


おずおずしていると鼻をくすぐる匂い。青い箱から漂う匂いにつられ、故意ではないものの倒してしまいますがそこから溢れだしたのはみたことが無い物
人間からは残飯や生ゴミと呼ばれる廃棄物ですがそれもタブにとってはご馳走
走ってきた疲労も香しい匂いにつられがっつきます
ファストフードの香料や調味料によるそれは脳を刺激し歯止めを効かせません。一心不乱にゴミを漁っていた為に背後の存在に気づきはずもありませんでした


「なにやってんだ!こら!!」


不意にかけられた罵声にむせるも必死にゴミを口にかっこみます。口をパンパンにし振り返ったそこにいたのは人間
自分の幸せを奪った仇と同種ですがタブはそれをしりえません。タブはゴミ漁りを悪と知らずに食べ続けますがそれが人間に火をつけました


「もうゆるさねえからな」
人間は毛の生えた棒でタブをビシビシ殴りつけ、殴り付けられたタブは??といった感じですが痛みに耐えられずその場から逃げ出しました


なんとか逃げきりカラカラの喉を潤すべく石にくぎられた小さな川の水に口をつけ吐き出しました
いわゆるドブですから当然です。昔の巣の近くにあった自然の小川感覚で飲んで自滅してしまいますが、水分には変わりません。涙をこらえ喉に流し込み乾きを潤す


そして逃げた狭い路地裏で痛み疲労満腹感のコンボによりタブは眠りについてしまいましたが寒さに耐えきれず近くにあった紙を巻き付け震えながら眠りました


目を覚ますと目の前にギャラドスがおりタブはミー!と逃げ出しますがギャラドスはひらひら舞い地面に落ちました
昨晩巻いた紙、新聞を知らないタブにはさぞ驚いたと思います。先日の見開きはギャラドスの記事だったようです


お腹が空いたタブは再び食べ物を探すため歩いていると比較的広い場所にでました。街の公園です


「イーブイ!ほうらこっち!」
「きうー」
植え込みに身を隠しながら声のした方を伺うと人間の子供とイーブイが楽しそうに走っていました
イーブイはキラキラした瞳で人間に抱きつき、人間もイーブイに笑顔で応えてます。そんな様子を眺めていると


「オフフ可愛いイーブイつゃんだね。ほらサンダースも挨拶」
「オフフ」
もう一方から現れたのは青年とサンダース。タブは青年から得たいの知れない幸福感や底知れぬ愛情を感じます


この人達は優しい人だ。追い詰められていたタブに根拠の無い希望が灯ります。その暖かな感情はイーブイにしか向けられてないことには気づかずに


「にいちゃんのサンダースかっけー!そうだ僕のイーブイ芸ができるんだよ!ころがるは!?」
「き、う!」
コロコロ転がる姿はなんとも可愛らしいですが、適応力なら最終ダメージ四倍と恐ろしい破壊兵器です


「デュアフフオフフ!すごいね!そんなお利口で可愛くてプリティでキュアキュアなイーブイつゃむにはお兄さんからプレゼント。これあげてみなよ」
「なにこれ?」
「ポフィンってんだ、イッシュには無いお菓子なんだよ」
「うん!ありがとう!…おいしい?イーブイ」
イーブイはほっぺに手をあて おいちー と幸せな笑みを浮かべます
さらに丸まるなどの芸を披露してたくさんお菓子をもらってました


タブに電流走る。そうか、ああいうことすれば食べ物がもらえるのか。いわゆるタブ媚覚醒の初期段階です


「こんなもらっていいの?」
「いいよ!僕はイーブイてゃぬ達がだーいすーきなんだ!可愛いの見せてくれてありがとうね」
「うん!ばいばーい!」
「きっ、うー!」


手をふる少年とイーブイ。そして青年の足元ではサンダースが鼻水たらしながら、えっぐえっぐしていました
「そう妬くなよう俺が愛してるのはきみだけだよう」
チューしてから口移しでお菓子を与えています。そしてサンダースの鼻汁を


ほんと優しい人なんだ!タブは先のゴミ漁り時の暴行を忘れ、意を決し飛び出しました


「ミッミッー?」
イーブイのように丸まったり転がり、必死にアピールします。尾を振り、食べ物ちょうだい と両手を頬にあてウルウルします
そして胸に手をあてるクソポーズが決まり、完璧だ!と自負しました
これはバチュルが誰に教わったわけでなく完璧に巣を張るよう本能なのか血に刻まれた特能でしょうか?
覚醒初期にしては完璧なタブ媚がそこにありました



ですが人間は想像とは真逆のとても不愉快極まりないものをみるような目でタブを見下していました
触覚から伝わる底知れぬ憎悪と得体の知れない殺意にタブは失禁せざるを得ません。サンダースもバチバチしてます


タブはいつものように腰が抜けて動けません。人間はしゃがみこみ視線を合わせると言いました


「なにそれ」


時が停まったように感じたのはタブだけでしょうか。希望は絶望に変わりもはやおしっこすら出ません
「ああ、そういうこと」
青年はポフィンを眼前でチラチーノさせ、飛び付いてきたタブをサンダースが死なない程度に蹴り飛ばします


青年はボール、モンスターボールを握りしめ不気味に微笑みました

最終更新:2014年06月29日 13:51