ズルズキンとタブンネおばさん

夏休みの初め、俺と友達の5人が寂れた公園にある段ボール製の秘密基地に行ってみると、
中からグゴグゴとイビキが聞こえてきた
「おいカオル、タツミ、ちょっと覗いてみろよ」
ガキ大将のゴウキが俺たちにそう言いながら肩を小突く。身体がでかいわりにけっこう憶病なんだよなぁ
仲間が見守る中、俺は恐る恐る入口のボロキレでできた扉をめくると、黄色いズボンをはいた子供が眠っていた
しかし、最初暗くてよく判らなかったが、オレンジ色の尻尾と、赤い背びれがある、人間じゃない
「隊長!どうやらポケモンが住み着いてる模様です!」
「何だと!おい、ブンチ!分析だ!」
「はいであります!」
ブンシチは俺たちの中で一番成績が良く、ポケモンにも詳しい
秘密基地の中をちらりと覗き、ちょっと考えてから結論を出した
「あれはズルズキンというポケモンです、本来なら砂漠にすむ獰猛なポケモンであります!」

「何、そ、そんな奴がいるのか・・・ ど、どうしよう・・・」
ゴウキは臆病モードになるととことんチキンだよなあ
いつの間にかイビキが止まり、中からノソノソとそのポケモンが出てきた
頭でっかちで身体は細く、眠そうな目をしている、そして俺たちより背が小さい
どう見ても凶暴そうには見えないぞ、俺でも勝てそうだ
「なんだこいつ!勝手に秘密基地に住み着きやがって、いっちょ俺が追い出してやる!」
ゴウキも俺と考える事は同じだった
得意の柔道でポケモンに挑みかかるゴウキ、しかしポケモンは上半身裸なので柔道技では上手く投げられない
「お、お前ヒキョウだぞ!」
結局ゴウキはポケモンに軽い足払いで転がされてしまった
「ねぇねぇ~もしかしたらこの子、そんなに悪いポケモンじゃないんじゃない」
グループ唯一の女子チハルはそんな事を言うと、ポケモンにスナック菓子を一つ差し出した、
ポケモンはそれを受け取ると、ムシャムシャと食べた
「ほらね、悪いポケモンならお菓子を袋ごと奪って食べると思うの
 この子、トレーナーに捨てられちゃったんじゃないかしら」
お腹がすいてるのか、小さな手をクレクレと差し出す姿が少し可哀想だった
「よし、入団テストは合格だ!、今日からお前はおれたちの仲間だ、よろしくな!スルズキン」
ゴウキのいろんな意味でのこういう所がこいつをリーダーたらしめてるのかもしれない


ズルズキンはすんなりと俺たちの仲間に加わってくれた
かなり頭もよく野球のルールを理解してピッチャー役をやってくれる
チハルに対してはわざとゆっくりな球を投げるなど気遣いも出来るいい奴だ
ただ、ちょっと挑発して怒らせるととんでもない速度の球をくり出すのだった
ブンシチが言うにはズルズキンは本来群れで暮らすポケモンで、とても仲間思いで寂しがりらしい
いつも残飯をあさって暮らしていたらしく、俺たちにパンの耳や野菜くずなどをプレゼントとして渡してきたり
残飯がたくさんあるゴミ捨て場の場所を教えてくれたりもした、正直余計なお世話だが
秘密基地はすっかりズルズキンの宿泊場所になっていた、捨てられていた座布団がまくら代わりだ
俺達がズルズキンとすっかり仲良くなったころ、公園の前にピンクのワゴン車が現れた
カウルには、大きなタブンネの顔が描かれている。
この辺りでは有名なタブンネおばさんだ
公園で数匹のタブンネを放し飼いにして散歩させるという評判の悪い人で
全身ピンクにドラムカンのような体型はまさにタブンネの親玉そのものだ
たぶん、何かやらかして大きな公園を追い出されてこんな俺たち以外来ないような寂れた公園まで来たのだろう
「さあさ、タブンネちゃん達、ここで楽しく遊んでてちょうだいね」
おばさんは5匹のタブンネと8匹の子タブンネを公園に放すと、嫌そうに俺たちを見ると
「これからタブンネちゃん達がお散歩をするから、危ないボール遊びはやめて頂戴」
と言い、車に戻ると、中から窓を開けてタブンネ達を見ている
公園中をミィミィと駆け回るタブンネ達、これでは野球もサッカーも出来ない

「どうしよう」
「ズルズキンが来たら、タツミんち(でかい)で遊ぼうぜ」
ズルズキンは餌を探しに行っていて公園にはいなかった、何か食べ物を持ってきてやればよかったな
「ミッ!ミッ!」
「キャッ!、何?!何なの」
気がつくとチハルが持っているスナック菓子の袋を、タブンネの一匹が引っ張っていた
タブンネを引き剥がそうとしても八歳の俺たちはあまりにも無力だった
「チハル!はやくお菓子放せ!」
袋を離すと、その勢いで後ろにこけるチハルとタブンネ
すると他のタブンネ達も凄い勢いで集まってきて「ミーッ!ミーッ!」と袋に群がり、すぐにお菓子は無くなってしまった
数秒でお菓子を食べ終わるとタブンネ達は「ミッミッ!」「ミッミッ!」とチハルの周りを取り囲む
服や髪を引っ張るタブンネ達、どうやらもっとお菓子を持ってると思いこんでるらしい
「やめて!痛い、痛いよぉ!」
千春はとうとう泣きだしてしまった、俺たちはタブンネを追い払おうと叩いたり蹴ったりした
それでも攻撃をやめないタブンネ達、
苛立ってきたのか「ミフーッ!ミフーッ!」と呼吸を荒げてチハルを引き倒しべしべしと叩いたり、踏んづけたりしている
タブンネというのはこんなに凶暴だったのか、姿とのギャップに驚愕した
「やめろぉ!やめろよう」俺たちも泣きながらタブンネを叩くが皮膚がプヨプヨするばかりでビクともしない
チラッとワゴンの方を見るとタブンネおばさんがニヤニヤしながらこっちを見ていた
するとその横からダッシュでこっちに向かってくる何かが
あのズルズキンだ、普段の眠そうな表情と違い、眉間に深いしわを目をつりあがらせて寄せて恐ろしい形相をしている

ズルズキンはタブンネの一匹を軽々と引き剥がすと、惚けた顔面に強烈なパンチを叩きこんだ
「ミブィッ!?」タブンネは鼻血を流しながらゴロゴロと地面を転がって「ミビィィィィィ!ミビィィィィ」と泣きわめく
「ミィィ?!」タブンネ達は驚いてチハルへの攻撃を止める、その隙に俺たちはチハルを引き剥がした
髪はバサバサ、服はボロボロでわんわんと泣きじゃくっている
ズルズキンはチハルを救出できたのを見て、今度はワゴン車に向かって突進していき
勢いをつけてとび蹴りをワゴンのタブンネが描かれているドアに喰らわした
「ギガゴン!」
車が1Mほど横にずれるほどの衝撃
まるで交通事故のような音が響く、車のドアがクレーター状に大きく凹み、衝撃で窓ガラスにひびも入っている
中のおばさんは顔面蒼白だ、これではドアを開ける事が出来ない
俺たちはこんな凄い奴といままで遊んでたのか
ズルズキンはまたくるりと向きを変えるて走り出し、
殴られて悶絶しているタブンネのわき腹に向かってサッカーのシュートのような蹴りをぶちかました
「ミギュエエ!!ブギッ!」タブンネは蹴られた勢いで回転しながら飛んでいき、
公園の隅で集まって怯えているタブンネ達に激突した
ズルズキンもまた怒りの形相でタブンネ達に向かっていく。タブンネ達は動けない、あまりの恐さに腰が抜けたようだ
「ミィィ!ミィィィ!!」ズルズキンがタブンネが固まってる中から耳を掴んで一頭を引きずり出す
そして前蹴りで蹴り倒し、顔面を凄い勢いでまるでピストンのように踏みつけた
「ミッ!ミフィッ!ミビィ!ブビェッ!ゴボゲッ!」
鼻や口から、耳からも血を垂れ出している
ズルズキンは蹴るのを止め腹にめり込んで背骨に届きそうな強烈なパンチを加えると、
歯が全部折れて血まみれになっている口に手を突っ込んだ
そして下顎を握りつぶさん勢いで掴み
「グァグェミギガガガ!!アガアガガガガッガガッ!!」
そのまま下顎をもぎ取り、皮ごと引っぺがしてしまった
舌ごと下あごが無くなり、腹のあたりまで皮がはがれている
「グギアェゴゴボゴボコボゴボ゙ゴボゴボ゙!!!」下顎を失ったタブンネはコイキングのようにのたうち回っている
あれじゃあ一生口から物を食えないよなぁ

次にズルズキンはよろよろと逃げようとしている一体に目を向けた
軽くジャンプして後ろから蹴り倒し、石でできたベンチの方に引きずっていく
そしてタブンネの後頭部の皮をムギュッと掴み、ベンチの角に顔面をズガン、ズガンと打ちつける
「ミフィ!ミフィ!フィッ!フィッ!フィッ!フィイイイイ!!」
良く見ると右目を角に当たるように計算して当てている。タブンネの顔は血と涙と鼻水とよだれでグチャグチャだ。汚い
そして最後にガン!といっそう強く叩きつけた後、
うつ伏せに地面に置きタブンネの両目の穴にボーリングの球のように指を突っ込み背中の腰のあたりを踏みつけ
「ミィッギュイイイイイイイイ!!!!」
ベキベキベキと嫌な音とともに足を支点にしてタブンネを二つ折りにしてしまった。
タブンネは喉から上がってくる血でゲボゲボと溺れながら二つ折りになったまま両手でクイクイと宙を掻いている。
腰が折れて足が動かなくなったのかな?
「ミギィ!ミギィ!ミュギィ!」
声の方を見てみるとズルズキンは3匹目のタブンネに制裁を加えていた
頭を片手で掴んだまま顎に膝蹴りを連発している
「グィッ!グィッ!グッ!」
口から血がプシャァと噴き出たかと思うと、タブンネの悲鳴がおかしくなった
なんと、下あごの歯が上あごにめり込んでるではないか
やがて限界までめり込ませると、ズルズキンは蹴るのをやめた
タブンネは大粒の涙を流しながら、小さな鼻の穴でプシュープシューと血の泡を出しながら必死に呼吸している
ズルズキンは耳を千切ると、涙が滝みたいに溢れ、血の泡もコポコポコポと激しく噴き出す
声は出ないけど叫んでるんだなというのがわかった
次にズルズキンは腹に噛みつき、一気に食い破った。タブンネがじたばた暴れても気にせずに
そして腸を引っ張り出すと、シュルシュルとリボン投げのように放り投げて3匹目は終わりのようだ
下あごが無い変顔で涙目になって腸をかき集めているタブンネをみて、プッと噴き出してしまった

ズルズキンは最初に殴ったタブンネの胸倉を掴んで持ち上げる
そしてゴウキのほうをちらりと見ると、タブンネをゴウキの足元にどさりとほおり投げたのだ
「俺にやれっての?、チハル、どうする?」
タブンネは上目づかいでゴウキを見ながら両手を合わせ「ミィミィ」と可愛い声で鳴いてぶりっ子している
「殺してっ!」
チハルが叫ぶと同時にゴウキはダブンネの胸の皮膚を掴み、一気に投げた
バァン!と強い音と共に、タブンネは地面に叩きつけられた、受身など知る筈もないタブンネは脊椎をもろに打ってしまった
しかし命を奪うには至らずタブンネは信じられないという表情でアガガッ、アガガガと震えてるだけだった
「ちっ、やっぱり駄目だったか」
くやしがるゴウキを尻目に、タブンネの胸倉を掴むズルズキン
ゴウキと同じような姿勢を取ると、そのまま一気に投げた
「パリン!」ズルズキンはタブンネを頭のてっぺんから地面に落とす
タブンネの頭を中心に放射線状に血が噴き出した
ズルズキンが手を離すと、タブンネは頭で逆立ちしたまま息絶えていた
タブンネの頭が平らになって立っている、コロンブスのタブンネだ


そういえば、タブンネの一匹と子タブンネ達がいない事に気づく
が、秘密基地の中からミィミィと小さな声がするのですぐに分かる
案の定、母らしきタブンネと子タブンネが隠れていた。自分から逃げ場所がない所に逃げ込むとは
ズルズキンが睨みつけると母タブンネは「ミィーッ!」と泣きだして子供を抱きながらぺこぺこ謝っている
だが許すわけはない、ズルズキンは子タブンネを一匹掴むと一気に首を食いちぎった
「ミィィィィィィィィィ!!」「ピィィ!」「ピィィ!」
タブンネ親子の絶叫の中、ズルズキンは親を睨みつけながらボリボリと咀嚼している
そしてもう一匹子タブンネを捕まえると
ィィィィィィムギュッ!?」
ぽっかり空いていた口の中に押し込んだ
子タブンネは母親の口の中から飛び出した足をじたばたさせている
母親は錯乱して口の中に何があるのか分からないと様子で、そのまま外に連れ出された
そして、やっと口の中に何があるか理解し、急いで吐き出そうとした時
「ズドン!」ズルズキンの強力なアッパーカットが顎に炸裂する
「ブフゥゥゥゥ!」タブンネは5メートルも浮き上がり、地面に顔から激突した
同時に、何か小さい物も落ちてきた。子タブンネの胴体だ。母親が自分の歯で食いちぎってしまったのだ
ズルズキンがそれを拾い上げ、母タブンネに見せつけてやると
母タブンネはぎょっとした後首を横に振り涙目でイヤイヤと否定する
するとズルズキンは胴体まで口の中に押し込む、
頭の方がどっかに詰まったのかタブンネは喉を押さえて苦しみ出した
ズルズキンはタブンネを蹴り倒すと、胸のあたりを押し始めた。心臓マッサージか?

もちろん違う。肋骨ごと肺と心臓を押しつぶそうというのだ
ズルズキンの手がメキメキという音と共にタブンネの胸にめりこむほど
タブンネは手足を激しくじたばたさせる
そして「パキッ!」と高い音がしたかと思うとズルズキンの手もズッと沈み込み
「ポンツ!」
タブンネの口から子タブンネの頭が空高く発射された
親タブンネの方は意識があるのかないのか分からないがビクビクッと痙攣している
タブンネが全滅した時、公園の入り口からなにやらわめき声が聞こえてきた
タブンネおばさんだ、何やら車の中からこっちに向かって何と言ってるか分からない程の罵声を飛ばしている
ズルズキンはまたあの怖い表情になると、全身の筋肉を隆起させた
ブンシチがいうには「ビルドアップ」という技らしい
そしてそのまま車の方へずんずん迫るズルズキン。今度こそ車を完全に破壊する気だ・・・
タブンネおばさんは青ざめた顔になり、タブンネ達を残して急いで車を発進させ、
とんでもない速度を出しながら逃げ出してしまった
今思えば、片側のドアは開いてたはずだ。タブンネを助けに行く事も出来ただろうに

ズルズキンは巣にもどると、巣に残った残った6匹の子タブンネを抱えてきた
子タブンネ達はプルプルと震えている
そして一人一匹ずつ子タブンネを配り出した、獲物の分配をしてるつもりらしい
「どうする、これ?」と扱いに困惑していると、チハルが子タブンネをべシャリと地面に投げつけた
「こいつっ!こいつっ!こいつっ!」チハルがタブンネをガンガンと足蹴にする
ピィッ!ピィツ!と悲鳴を上げる子タブンネ、チハルは最後に子タブンネを踏みつぶさんとしている
チハルの足を小さな手で必死に押し返さんとする子タブンネ、しかし抵抗むなしく「ぱきり」と踏みつぶされてしまった
せっかくの獲物を足蹴にされて悲しいのかズルズキンは悲しそうな目でチハルを見ていた、
「ご、ごめんね… ズルちゃん」
「そうだ、基地に置いておこうぜ」
「何か後で遊べるかもしれないしな」
「解剖とかもしてみたいですよ」
基地に置かれることとなったゴウキ、ブンシチ、タツミが貰った3匹
彼らは肛門にカラシを塗ってのタブンネレース、
ウルトラダッシュモーター搭載のミニ四駆を用いてのタブンネ交通安全などで俺たちを楽しませてくれ
最後は、タブンネ野球の球となってその生涯を終えた
「俺はせっかくだから飼ってみる事にするよ」
人間の言葉が分かるのか泣きそうだったのがぱあっと笑顔になり、ミィミィと可愛い声で甘え始めた
後に庭の隅の空き箱の中で雑草や生ごみを餌にこっそり飼ってて、
飽きて2週間ほど餌をやるのを忘れていたら干からびて死んでしまった子タブンネであった

タブンネおばさんはあれから交通事故を起こし、警察に突き出されたが
怒りと恐怖と事故のショックでで精神が崩壊しており、精神病院に一生収容される羽目となってしまった
おばさんの自宅にはまだたくさんタブンネがいたらしいが、
おばさんが居なくなったことで全員餓死してしまい、異臭騒ぎが起こるのだった
どこまでも迷惑な奴だ

「ズルズキンがタブンネおばさんをやっつけた」と学校で評判になり、公園には子供が一杯集まるようになった
ズルズキンは友達が大勢でき、給食の嫌いなおかずも沢山もらえて嬉しそうだ

一方、半死半生で生き残った3体のタブンネは後に「アゴなし」「自転車」「マジでアゴなし」と名付けられ
命ある限り子供たちの遊具になってくれた
                                                        おわり
最終更新:2014年07月02日 01:52