害獣駆除

イッシュ地方では何年かに1回野生タブンネが大量発生して果樹園や畑を荒らす。やむを得ず、増えすぎたタブンネを減らすためタブンネ狩猟団が組織される。
何かとうるさい愛護協会もその時ばかりはタブンネ狩りに文句をつけない。
今年、3年ぶりにタブンネが大量発生した。
3年前、死んだ伯父の遺した果樹園を引き継ぐためイッシュ地方に移って来た俺は、相棒ゴウカザルとともに初めてタブンネ狩りに参加した。
狩りの現場は凄惨だった。
広い畑の右を見ても左を見てもタブンネがボコボコに殴られている。
カイリキーが腕2本でタブンネの両耳を持ち、残りの2本の腕で耳の付け根をチョップする。すると、タブンネの耳だけがきれいにちぎれて手に残り、タブンネ本体は地面に落ちる。
「ミギュアァァーー!」起き上がったタブンネはもと耳があった所に両手を伸ばすが、手は空しく空をかく。「ミィアアァァー!」耳をなくしたショックでタブンネは2度目の悲鳴を上げる。
紅顔の美少年ワンリキーが手早く耳を拾い袋に入れるのは、タブンネ耳のミミガーを作るためだ。
別の場所では樹に逆さまに吊るされたタブンネにモルフォンが群がって、タブンネの血を吸っている。
タブンネの目はもはやうつろだ。「ミッ…ミュ…ミィ…ミィ…」鳴き声がだんだんか細くなって行く。
モルフォンたちによる血抜きがすんだら、ハッサム、カブトプス、キリキザンら、鋭い刃を備えたポケモンたちがタブンネの皮を剥ぎ、食肉用に加工する。


見物しているばかりではなく俺も狩らねば、と思ってゴウカザルとともに人気のない方向に進む。
急にゴウカザルが足を止め、とある藪を睨んだ。「どうした?」と尋ねると「キッキッ」と指を指す。
よく見ると、その藪は木の枝や草でできた作り物だった。タブンネはここか。
俺はナタでニセ藪を払った。案の定、藪の向こうには小さな洞穴があり、奥ではタブンネたちが身を寄せ合っていた。
まだ赤ちゃんと言っていい小さなタブンネが2匹、それよりやや大きい子供タブンネが4匹、計6匹の子供たちを守ろうと短い腕を広げて前に立つのは母タブンネだろう。
大きい方の子供タブンネは状況がわかっているらしく、固く抱き合ってこちらを見つめている。しかし、赤ちゃんタブンネは何もわからない様子で母親を見上げて「みぃみぃ」と愛らしく鳴いている。
俺はポケットからオボンの実を取り出し、洞穴に転がした。「みぃ♪」1匹の赤ちゃんタブンネが嬉しそうに鳴いて、集団から這い出した。母親が大声で「ミィッ!」と呼んでも止まらない。
ニコニコしながら入り口近くまで這って来た赤ちゃんタブンネは、口をあけてオボンの実にかぶりつこうとした。そこで手を伸ばし赤ちゃんタブンネを引っつかむ。
「ミーーーッ!!」母親が絶叫し、両手を合わせて懸命に上下に振る。タブンネ種の「お願い」を表わすアクションだ。(子供を放して!)という気持ちが手に取るようにわかる。
俺はかまわず、まだ無邪気に「みぃ♪」と鳴いている赤ちゃんを足下の地面に叩きつけた。



「ミャッ!」赤ちゃんは痛みと驚きで目を見開いて固まった。逃げないように尻尾を踏む。「ミッ!ミッ!ミッ!」母親の威嚇する声が聞こえる。
赤ちゃんは泣き顔になり、両手両足を大の字に開いて見せる。これはタブンネの赤ちゃん特有の「降参」「許して」のポーズだ。やわらかい短い毛の生えたポヨポヨのおなかがやたらに可愛い。俺はこのポーズが好きでたまらない。
「ゴウカザル」名を呼ぶと、ゴウカザルは得たりとばかりに進み出て、赤ちゃんタブンネのポヨポヨのおなかを正拳で突いた。
「ンギュミャッ!」赤ちゃんタブンネの口からドロドロの液体が噴き出した。ほのかに乳とオボンの実の匂いがした。赤ちゃんはピクピクピクと震えた後、動かなくなった。
「ミァァァァァァーー!」母親は絶叫して地面に尻餅をついた。悲しんでいるのにコメディみたいだ。
母親が腰を抜かしている間にもう1匹の赤ちゃんタブンネが這い出して来た。
「ミィッ!」母親がつかまえようと飛び上がったが、俺の捕獲棒が赤ちゃんタブンネを確保する方が早かった。
捕獲棒の先には動物の首根っこなどをギュッと挟む金具がついている。今そこには赤ちゃんタブンネのまだ細い胴体がしっかり挟まれている。
「みぃ?みぃみぃ?」愛らしい声で鳴く赤タブをゴウカザルに渡す。ゴウカザルは赤タブの襟首をつかんで口の前に持って来ると、ボッ!と火を吹き、一瞬で丸焼きを仕上げた。


声も出せずにいる母タブンネにホカホカの赤タブ丸焼きを投げてやった。母タブンネは目をつり上げた物凄い形相でこちらにとっしんして来ようとした。
が、ぴたりと止まった。4匹の子供タブンネが必死で母を引き止めたのだ。やるじゃないか、子供たち。だけど、おまえたちの運命はもう決まっているんだよ。
母タブンネは狂ったように「お願い」アクションを連発し始めた。(もうやめて!見逃して!)というのだろう。
母親の後ろの子供たちも一斉に両手で自分の耳を軽く掴む。これが子供タブンネ特有の「降参」「お願い」を表わすポーズだ。
俺は言った。「子供たちの中から1匹選べ」。母タブンネは俺の意図がわからず「?」という顔をした。
「子供を1匹よこしたら残りの者は見逃してやる。だからどれか1匹選べ」
4匹の子供タブンネは「ミーッ!」と恐怖の声を上げ抱き合った。母親は真っ青だ。
「どうするんだ?1匹よこさないんだったら皆殺しだぞ」
母親は涙を浮かべて後ろの子供たちを振り返る。体がガクガク震えている。予感が働いたのか、子供たちはすくみ上がって「ミィッ!」と甲高い声を発した。
子供たちもみんな涙を流している。母タブンネは全員を見回すと、ゆっくりと腕を伸ばして4匹のうちの1匹に触れた。残りの子供たちの口から溜息が漏れた。
選ばれた子供と母親は固く抱き合った。それから母親はそっと子供の背を押してこちらに歩いて来る。
ゴウカザルが哀れな子供を受け取った。


ゴウカザルは子供タブンネを優しく抱き上げる。あやすように軽く揺さぶり、片手で頭を撫でる。
初めきょとんとしていた子供タブンネだが、気持ちよくなって来たのか目を閉じた。
ゴウカザルは両手でいとおしげに子供タブンネを抱きしめる。ギュウッと抱きしめる。
「ミィ…」子供タブンネがむずかるような声を出した。「ミ…ミ…」
やがてメキッという音がした。「ミゥ…」メキッ…「ミフ…」子供タブンネの体が逆エビ状に反る。
メキメキメキッ!「ミギュウウウ!」子供タブンネは口から泡を吹いてガクッと首を倒した。
ゴウカザルのサバ折りが子供タブンネの背骨を折り昇天させたのだ。
母タブンネは洞穴の奥でこちらに背を向け、震えながら残り3匹の子供を抱いている。
俺は声をかける。「さあ、次の1匹を選んでもらおうか?」
こちらを向いた母タブンネの顔は引きつっていた。手をいろんな方向に振り何かを訴えている。(約束が違うじゃない!)と言いたいに違いない。あいにく人間はすぐ気を変えるのでね。
「早く次の1匹をよこさないと皆殺しだぞ」
母タブンネの全身の毛が逆立った。(もう我慢できない!)という気迫に満ちている。読み通り、母タブンネはすてみタックルをかけて来た。
迎え撃ったのはゴウカザルのインファイトだ。母タブンネは破裂した。


3匹の子供タブンネは虚脱した様子で立ちつくしていた。
やがて1匹がよろよろと歩いて来て、地面の上の母親の皮膚や臓物の断片をかき集め始めた。ある程度集めるとその上に突っ伏しホロホロと泣いた。
俺もさすがに胸が痛み、悲しみを終わらせてやろうと思って、ナタで一気に首を切り落としてやった。首はコロコロとどこかに転がって行く。
あとの2匹は?と見ると、手を取り合い額を寄せて何事か相談しているようだ。やがて2匹は決意を秘めた顔でこちらを向くと、しっかりと手を繋ぎダブルでのとっしんをしかけて来た。
1匹では太刀打ちできなくても、2匹力を合わせれば何とかなる……わけがない。
ゴウカザルのフレアドライブ!
2匹の子供タブンネは手を取り合って走るポーズのまま炭になっていた。
征伐が終わって心に残ったのは、やはりタブンネたちの揺るぎない家族愛である。
俺は俺の目撃したタブンネの家族愛をこうして記録に残しておく。
読者諸兄もタブンネの家族愛を見たければタブンネ狩りに出かけるがいい。きっと君たちの出会うタブンネ一家も期待を裏切らないだろう。
最終更新:2014年07月07日 23:57