ある日のこと、俺の庭先にボロボロに汚れて傷ついた子供タブンネが倒れていた。
近隣一帯で大規模な害獣
タブンネ狩りが行われた時期なので、このタブンネも家族を殺され、一匹だけ辛くも逃れてここまで辿り着いたのだろう。
怪我の具合を調べようと体に手をかけると、子供タブンネは頭をもたげて一人前に「ミガッ!」と威嚇した。何と、こんなにボロボロなのに目が死んでいない。凄い精神力だ。
もしこのタブンネがこんなに生意気でなければ、俺はちょっと調べて道端に捨てたかもしれない。
生意気なタブンネに心を騒がされた俺は、タブンネの襟首をつかんでぶら下げると家に連れ込んだ。
「ミィッ…ミィッ…」ぶら下げられてもまだタブンネは弱々しく威嚇している。
バスルームに入り、タブンネを床に抑えつけシャワーをぶっかける。「ミィッ!?ミィッ!」初めてのシャワーに驚いたタブンネが俺の手に噛みつこうとするので、タブンネの顔をタオルでギュウギュウ巻きにする。「ングミッ!ングミッ!」
タブンネの体にはたくさんの打ち身と3、4つの刃物による大きな切り傷があった。この程度の傷なら数時間眠ればきれいに再生する。
お楽しみはそれからだ。
俺はニヤリと笑ってシャワーの水量をふやした。切り傷にしみたのだろう、タブンネはタオルの下から「フミ---ッ!」と悲鳴を上げた。
俺はこのタブンネをベタベタになつかせたいとは思わない。生意気なままがいいのだ。しかし、同じ屋根の下で攻撃を受けたくはないので、ほどほどのなつきは必要だ。
餌を与える時にはまずいじめる。口元を引っぱって伸ばしたり、片耳をつかんでぶら下げたりする。「ミィッ!」タブンネはいい声で鳴き、恨めしそうに俺にガンを飛ばす。
「何だ、その目は」タブンネにデコピンする。「おまえは俺に餌をもらわなければ死ぬ身だぞ。感謝の踊りの一つでも踊ったらどうだ」
餌皿に盛ったオボンの実を見せびらかすと、タブンネは「ミィ…」と鳴き口惜し涙を浮かべて不器用に踊り出す。手を振り足を片足ずつ上げ、くるりと回る。鈍くさすぎて笑えて来る。
「そこで後ろを向いて尻を突き出せ」言われた通りにしたタブンネの尻を思い切り蹴ると、タブンネは壁まで飛んで行ってゴツッと頭を打った。
「よし、食っていいぞ」口惜し涙も乾いていないのに、タブンネは餌皿に飛びつきオボンの実を貪る。所詮畜生だな。
餌を食べてしまうと、バカなタブンネは「これでもう媚びる必要はない」とばかりに俺から顔をそむけ、行ってしまう。俺が追って行って撫でると「ミッ!」と怒ってよけようとする。
「ほう、そうか。明日の朝の餌はいらないんだな?」と言うと、ハッとして急に俺の手に顔をすりつける。
俺はタブンネがうっとりと目を閉じるほど優しく撫でてもやるが、不意に耳をつかんでクチャグチャに揉んだり、尻尾を持って吊り下げペシペシ叩いてミィミィ鳴かせもする。
ある時俺は風邪を引いて高熱を出した。歩くとふらふらしたが、タブンネのために庭の木からオボンの実をもいで来て皿に盛る。恒例のいじめをやっている余裕はなく、そのままベッドに入った。
タブンネは俺がいじめないので不思議そうだったが、すぐにガツガツと餌を食べ始めた。
「さすが畜生だ。食えりゃいいんだな」とベッドから見ていると、食べ終えたタブンネが寄って来た。いつもは自分から寄って来たりしないのに、俺が弱っているのを感じているらしい。
「もしやこいつ普段の仕返しに俺をいたぶる気か?そんなことをしたら俺が回復した時に倍返しになるんだが、バカだから目先のことしか考えられないもんな」
そう考えていると、タブンネは俺に向かっていやしのはどうをし始めた。
「やっぱりバカだ。人間の俺にいやしのはどうは効かないのに…」不覚にも涙がにじむ。タブンネがびっくりして俺の顔を覗き込む。
「タブンネ。額のタオルを濡らして来てくれないか」俺が頼むと、タブンネはさっとタオルを取り水道で濡らして来て注意深く俺の額に置いた。
「ありがとう、タブンネ」その時俺は心からそう言って、タブンネの頭を撫でた。
目が覚めると、タブンネは俺のベッドにもたれて眠っていた。
俺はすっかり元気になっていて、足どりも軽く庭に出た。「ミィ?」何ということか、タブンネも明るい顔でついて来る。
俺が木に登って高い所のオボンの実をもいでいると、下で「みっみっ♪」と手を叩いている。
とうとうあいつは俺になついたのだ。
俺は青くて堅いオボンの実をもぐと、木の上からタブンネに向かって投げつけた。「ミッ!」堅い実はタブンネのやわらかい腹にめり込んだ。
次々と堅い実をタブンネに投げつける。「ミィ!ミィ!」タブンネは上を向く暇もなく、頭をかかえて右往左往している。
俺は木から飛び下りる。タブンネはほっとしたように俺を見上げて微笑む。可愛い。天使のようだ。俺はそんなタブンネの頭をつかむと地面に押しつけてゴリゴリとこすった。「ウミッ!」
タブンネは信じられないというふうに目を丸くして泥だらけの顔を上げた。その顔に唾を吐きかけ、尻尾をつかんで庭中ひきずり回す。「ミミミミミミィ-----!!」
蒲団用の干し物ハサミで両耳をはさみ、物干しに吊す。まだ子供のほっそりとした胴体がぶらんと垂れ下がる。
「……ミィ?」どうして?という悲しげな目が俺をうんざりさせる。おまえは生意気じゃないといけないんだよ。俺を好きになんかなるな。俺はタブンネをさんざん木の枝で打ちすえた。
それからタブンネはまた俺を嫌うようになった。タブンネをいじめる楽しい日々が続いた。タブンネが大人になるまでは。
大きくなったタブンネはたとえ生意気でも可愛さが劣るからいらない。生き埋めにして始末した。
また生意気な子供タブンネが迷い込んで来ないだろうか。それともこっちから探しに行くかな。
最終更新:2014年07月19日 09:30