最終部「森の医者」
卵割り事件で大きなショックと責任を感じ、自ら病院を出て行ったタブンネ…
病院を辞めて三日間、タブンネはフラフラとあてもなく森の中を彷徨っていました。
生まれてからずっと育成場で育ってきたタブンネには、もう帰る場所などないのです。
「たぶぅ……」
ほとんどまともに食事もとれていないタブンネのポッテリしていたお腹はすっかり引っ込
み、絶え間なくキュルキュルと音をたてています。
体もボロボロで、所々血が滲んでいます。
育成場育ちのタブンネにとって、野生の世界はとても厳しいものだったのでしょう。
「た…ぶ…ぅね…」
とうとうタブンネはその場に倒れ、動けなくなってしまいました。立ち上がろうにも手足
に力が入りません…
「た…ぶ…」
生きることに絶望していたタブンネは、そのままゆっくりと目を閉じました。
「…たぶぅ?」
どのくらいの時間が経ったでしょうか…
タブンネが目を覚ますと、そこは柔らかい干し草のベッドの上でした。
自分の体を見てみると、怪我をしていた箇所も薬草等でしっかりと治療されています。
…ここはどこ? あの世…?
タブンネがどういうことかわからずに周りを見回していると、数匹のタブンネがそこに入
ってきました。
「たぶ~!」「たぶねぇ♪」「たぶね!」
そのタブンネ達はタブンネが目を覚ましたのを見て
「あっ、目を覚ましたよ!」「よかったぁ!」と喜びの声をあげます。
「たぶ、たぶたぶぅ~、たぶねぇ?」
そんなタブンネ達にタブンネは、ここはどこ?わたしはどうなっちゃったの?あなた達は
だぁれ?と次々と質問を投げかけます。
タブンネ達のうち、一匹がそれを説明してくれました。
ここは野生のタブンネ達が集まった集落で、食べ物を探しに出掛けた若いオスンネ達が
森で倒れているタブンネのことを発見して、この集落まで運んできてくれたんだそうです。
何日かして、怪我の治ったタブンネはこの集落の一員として暮らすことになりました。
集落の仲間達はみんなとても優しく、親切で、傷付いたタブンネの心を徐々に癒してくれ
ました。
そんなある日、食べ物を探しに行ったオスンネ達が大怪我を負って集落に帰ってきました。
「たぶ!?」「たぶねぇぇ!?」
驚きの声をあげる集落のタブンネ達、どうやら人間の経験値目当ての狩りに遭ったようです。
オスンネ達はみんな重傷で、中には自力で立てない者や、火傷を負った者、意識のない者
までいます。
慌てて治療を始める集落のタブンネ達、傷口をペロペロ舐めてやったり、木の実を使った
りして治そうとしますが、予想以上にオスンネ達の状態がひどいのと、重傷者の数が多い
のとで、みんな手間取っています。
どんどん弱っていくオスンネ達…
ここのタブンネ達は誰もいやしのはどうを覚えていないようです。
「たぶ!?」
騒ぎに気付いたタブンネもオスンネに駆け寄って治療に参加します。
「たぶぅ~!!」
タブンネはいやしのはどうを放ち、次々とオスンネ達を治していきます。
そして火傷を負った者はいやしのこころで、いやしのはどうも効かない者には近くに生え
ていたふっかつ草を使うなどして、育成場で習った医療の知識や経験を駆使して的確な
治療を施していき、ものの数十分ですべてのオスンネを治してしまいました。
「たぶぅ!?」「たぶねぇ!!」
その手際の良さ、判断力、初めて目にするいやしのはどうに集落のタブンネ達は驚愕します。
タブンネはその後、その医療技術、ここのタブンネ以上の木の実や薬草の知識、いやしのはどうが
使える等といったことが買われ、この集落で一番偉い長老タブンネに、ここのお医者さん
になってくれないかと頼まれました。
本当は卵割り事件のこともあり、そういった仕事はあまり気が進まなかったタブンネでし
たが、ここのタブンネ達には助けてもらった恩もあったので引き受けることにしました。
この日から、タブンネの集落の医者としての生活が始まりました。
タブンネの元には毎日いろんな怪我を負ったタブンネや病気のタブンネが運ばれてきます。
タブンネは優しくそれらの患者さんを治療してあげます。
タブンネの評判はたちまち集落全体へと広まりました。
医者としての日々はとても大変でした。でもとても遣り甲斐のあるものでもありました。
ナースではないものの、患者を救い、希望を持たせてあげる仕事ということは変わりません。
みんなから信頼され、必要とされ、怪我や病気を治してあげればとても喜んでもらえる…
まさに幼い頃タブンネの抱いた理想の姿でした。
そして時は流れ…
「ボクと結婚してください!」
ある日タブンネは若いオスンネに告白を受けました。
このオスンネとは怪我を治してあげた縁で親しい関係になっていたタブンネ、
もちろんその告白を受け入れました。
そして二匹は集落中のタブンネ達に祝福されてめでたく結婚をしました。
「たぶぅ~♪」「たぶたぶ♪」
そのうち二匹の間に小さな子タブンネも産れ、三匹で幸せな家庭を築きました。
仕事と子育てを両立しなくてはならないので、前以上に生活は忙しくなりましたが、
それでも毎日充実した日々でした。
たまに子タブンネを自分の職場に連れて行ってあげると、患者のタブンネ達も可愛がって
くれます。
「たぶ♪」「たぶねぇ~♪」
仕事が終わって家に帰ったら子タブンネのお世話、夜になれば夫タブンネが美味しい木の実
をたくさん持って帰って来てみんなで楽しい晩ご飯…
可愛い子供に優しい夫…タブンネにとって夢のような幸せな結婚生活…
そんな生活の中、育成場や病院での苦しかったことや辛かったこと、そして卵割り事件の
記憶も薄れていき、遠い記憶の底へと埋もれていきました。
しかしそんな幸せな生活も長くは続きませんでした…
その日、一人の人間が集落に入ってきました。
「たぶ…?」「たぶねぇ…!?」「たぶぅ…」
自分達を狩る存在である人間が現れたことにタブンネ達は動揺します。
「…ここがタブンネの集落か」
そう呟くと人間はモンスターボールを数個手に取り
「ペンドラー、ヌケニン、ヘルガー出てこい」と三匹のポケモンを出しました。
人間の目的は明らかです。タブンネ達は不安そうな鳴き声をあげます。
いつものように仕事をしていたタブンネも、騒ぎに気付いて外に出てみます。
「たぶねぇっ!」
すると、ひしめきあうタブンネ達を掻き分けて一匹のがたいの良いタブンネが出てきて、
人間の前に立ち塞がりました。
「たぶぅ!」
「ふぅん、お前がこの集落で一番強い奴か」
人間は馬鹿にしたような笑みを浮かべて、ペンドラーに相手にしてやれと指示します。
「たぶぅぅぅ!!」
がたいの良いタブンネはペンドラーに向かって猛スピードでとっしんを仕掛けます。
他のタブンネ達は「がんばれっ!」「あんなやつやっつけちゃえ!」とエールを送ります。
しかしその攻撃は素早い動きによってかわされ、そのままタブンネは大木に激突しました。
「たぶねぇぇぇえ!!」
痛みにぶつけた顔を押さえるタブンネ、ペンドラーはそんなタブンネに向けてメガホーン
を放ちます。
「だぁぅぅぅっ!!」
メガホーンは大木ごとタブンネを貫通し、大きな風穴をあけました…
「た……!」「たぶね……!!」
集落一の力自慢がいとも簡単にやられてしまった…
はじめは何が起こったかわからない風だったタブンネ達でしたが、ことの重大さに気付いてか、
悲鳴をあげてあっちこっちに逃げ出しました。
中にはベビンネや木の実を抱えて逃げようとする者もいます。
「逃がすかよ、出てこいドーブル!くろいまなざしだ」
人間が新たなポケモンを出して指示をすると何故か逃げられなくなってしまうタブンネ達…
「たぶぅ!?」「ぶぅ!?」「ねぇぇ!!」
どんなに短い足をバタバタ動かしても逃げられないという状況にタブンネ達は困惑します。
「…たぶっ!」
もう戦うしかない…そう思ったのか、集落のオスンネはメスンネや幼い子タブンネを後ろ
の方にやり、自分達は前にでて戦闘態勢に入ります。
「やれ」
人間が言うと三匹は一斉に襲いかかってきました。
オスンネ達も一斉に攻撃を始めます。
「たぶーーー!!」「ねぇぇーーーっ!!」
まずは一番体の小さなヌケニンに集中的にとっしんを仕掛けるオスンネ達、
しかし当然それは命中する筈もなく、オスンネ同士で正面衝突してしまいます。
鼻血を出しながら地面を転がり回るオスンネの手足をヌケニンは切り落とし、動けなくなった
ところをペンドラーがハードローラーでひき潰していきます。
「んねっ!んねぇぇ!!」「たったぶぁあぁ!!」
手足が再起不能になり、いも虫のように這ってハードローラーから逃れようとするオスンネ
達、メスンネや子タブンネはその光景に悲鳴をあげますがすぐにそんな余裕もヘルガーの
炎によって掻き消されてしまいます。
「たびゃぁああっ!!」「ぴぃぃぃぃぃ!!」
炎に包まれながら走り回るメスンネと子タブンネ、動けないオスンネはただただそれを
泣きながら見ているしかありません。
炎は集落の建物にも燃え移り、たちまち集落は地獄絵図と化します。
「たぶっ、たぶぅぅ!たぶね!」
そして医者であるタブンネの元には次々と重傷の仲間達が運ばれてきました。
下半身がぺしゃんこに潰されて腸の飛び出した者、腕を両方とも切り落とされた者、
眼球が飛び出してブラブラとぶら下がっている者、全身大火傷で皮膚が爛れて血管が浮き
出ている者等々…
とにかくみんな恐ろしくひどい有様でした。
それは小さな子タブンネやベビンネも例外ではなく、中には息絶えてしまった子もいましたが、
ひっきりなしに重傷患者が運ばれてくるのでそれを悲しんでいる暇すらありません…
治しても治しても治してもきりがなく、ほかのメスンネ達や夫のタブンネの協力のお陰で
なんとかギリギリ追いついている状態です。
「ぅう…いたいよぉ…」「たちゅけてぇ……」「あつい…あついぃ…」「ヒリヒリするよぅ…」
仲間の苦しそうな声を聞くとタブンネは焦ります。
しかしそれでパニックになったりしてはいけません。
冷静に判断をして治していかなければ…ほんの少しの判断ミスが文字通り命取りになるの
です。
「…おかしいな、結構倒した筈なのにまだ出てくるぞ…」
しかし人間はその異変に気が付きました。
周りを見回してみた人間は、メスンネ達が怪我をした者をタブンネの元へ運んでいるのを
発見しました。
「なるほど、あいつが怪我を負った奴を治していた訳か… ヌケ二ン、やれ、」
ヌケニンははかいこうせんでタブンネの手伝いをしていたメスンネ達を吹き飛ばしました。
「たぶっ!?」
一瞬で消えてしまった仲間達…そこで初めて人間に自分の存在を知られてしまったことに
タブンネは気付きます。
「お前、この集落の医者か、いやしのはどうが使えるところを見るとレベルはそこそこのようだな」
「た…ぶ…たぶ……っ」
人間に嫌な笑みを向けられたタブンネは体が強張って動けません…
たとえ動けたとしても患者を見捨てて逃げる訳にもいきません…
(それ以前にくろいまなざしで逃げられない)
「たぶ、たぶね、たぶねぇ!」
タブンネは勇気を出して人間に訴えました。
なんでこんなことをするの…?どうして私達のことを傷付けるの…?みんなこんなに苦しんでるんだよ…?
タブンネがどんなに訴えても人間は表情一つ変えず、冷酷な目をタブンネに向け続けています。
その目を見てタブンネは病院で働いていた頃の患者、ロアーさんを思い出しました。
…もうダメだ攻撃される! そう思ったタブンネはキュッと目をつぶりました。
「たぶーー!」「たぶねっ!」
その時、二匹のタブンネが飛び出してきてタブンネの前に立ちました。
「たぶぅ!」
その二匹は、タブンネの夫と子供でした。
二匹はママに手を出すな!とばかりに両手を広げて人間を威嚇します。
「へぇ、そいつらがお前の旦那とガキか?素晴らしい家族愛だね」
と、人間はすぐに察したように言いました。
「たぶーーっ!たぶね!」
ここは危ないよ!子供を連れて逃げて!とタブンネが言っても夫タブンネは首を横に振って
動こうとはしません。体を張ってタブンネを守る覚悟が出来ているようです。
「ドーブル、雌タブンネにかいふくふうじといえき、ペンドラーとヌケニンは旦那とガキ
にそれぞれどくどくとおにびだ」
「たっ…!」「たびゅぅ…!!」
「たぶぅ!?」
「さ、お前の旦那とガキは毒と火傷を負っちゃったよ、医者ならしっかり治してあげな」
突然苦悶の表情を浮かべて地面に突っ伏す二匹、タブンネは二匹の様子を見てすぐにどう
いう状態なのかを理解しました
まずは毒と火傷で減ってしまった分の体力をいやしのはどうで回復させようと手先に力を込めるタブンネ。
「た、たぶねぇ!?」
しかしタブンネの手先からはいやしのはどうは出てきません、
何度も何度も力を込めても何も出ません…
どうして…!?まだ使えなくなるほど使ってないのに何で…!?
「た……ぶ…」「ぶっ…ぐぅ…」
タブンネがあたふたしている間にも夫タブンネと子タブンネはどんどん弱っていきます。
「おや、どうしたのかな?もしかして医者なのにいやしのはどうが使えないにかな?」
「たぶ…」
もう何故いやしのはどうが使えないのか考えている暇もありません。
体力回復を諦めたタブンネはいやしのこころで毒を治そうと子タブンネをギュッと抱き締めます。
「た…ちゃぶぅ…ねぇぇ……」
「たっ!?」
子タブンネの様子は一向に変わりません。タブンネはもっと強く子タブンネを抱き締めます。
「たびゅん…ねぇぇ…!!」
それでも子タブンネは吐血しながら「ママ…くるし…よ…」と苦しむばかり…
いつもならすぐに発動する筈のいやしのこころ…いやしのはどうに続いてこれではさすが
のタブンネも冷静さを失ってしまいます。
「たぶ~っ!?たぶね、たぶねぇぇ~~!!」
「どうした?まさか毒も治せないのかな?」
人間は面白そうに慌てふためくタブンネの様子を見ています。
「た…ぶっ!…たぶんねぇぇ!!」
オロオロしているタブンネに夫タブンネは火傷に苦しみながらも「木の実を使うんだ!」とアドバイスしました。
木の実に気付いてハッとしたタブンネはすぐに木の実を二つ持ってきました。
毒と火傷はモモンの実とチーゴの実で治せる筈です。
これで夫と子供を救える…タブンネが子タブンネに木の実を渡そうとしたその時、
タブンネの手からパッと木の実は消えてしまいました。
驚いたタブンネ、次に夫タブンネに渡そうとした木の実も消えてしまいます。
「たぶぅ!ねぇ!たっ、たぶ~~!?」
タブンネは完全になす術がなくなってしまいました。
どうして!?何で何もできないの!?どうして肝心な時に…!
「……た……ぶ……」「ぷぅ…ぅ……」
かいふくふうじの効果が切れた頃には夫タブンネも子タブンネも既に力尽きていました…
「たぶ?たぶねぇ!!」
いくら体を揺すっても二匹の反応はありません、やっと使えるようになった木の実を口の
中に突っ込んでもボロボロと血の混ざった唾液と一緒に零れ落ちるばかり…
タブンネはわかっていました。もう二匹が死んでしまったことを…
でもとてもその現実を受け入れることができないのです。
「あ~あ、死んじゃったよ、お前がちゃんと治せないから…ひどいね、医者のくせに大切な
家族を見殺しにしちゃうなんてさ、旦那もガキも『くるしいよ、くるしいよ、どうしてたすけてくれないの?』って
思いながら死んでいったんだろうなぁ…」
「た……た……ぶぅ……」
最早タブンネは放心状態でした。
「さて、回復役も機能しなくなったことだし、これでスムーズにいくな。みんな、やっていいぞ」
「たぁぶぅんねぇぇぇ!!」「たびゃぁぁああ!!」「ぶねぇぇぇぇ!!」
「…たぶぅ?」
日の暮れる頃、タブンネは目を覚ましました。
「ぶねっ!?」
体を起こした瞬間電流のような痛みが全身に走ります。
辺りを見回してみると、たくさんあった集落の建物はすべて壊滅し、瓦礫の山と化していました。
所々まだ燃えている部分もあります。
そしてその周りには仲間達の惨殺体が…
煎餅のように潰れてしまっている者、毒で悶絶の表情のまま力尽きている者、
体の原形をとどめていない者…いずれも共通しているのはみんな見るに堪えない姿だということ…
「た……ぶ……」
みんなみんな死んでしまった、優しかった夫も、いつも甘えてきていたふわふわでとっても
あたたかかった子供も、結婚を祝ってくれた集落の仲間も…今はもう冷たい肉の塊…
タブンネは他のタブンネ達よりも少しレベルが高かった為、こうして生き残ってしまったのです。
仲間の死体を目にして、育成場の最終試験がタブンネの脳裏に
フラッシュバックしました。
「たぁぁぁ……ぶぅぅ……!」
それと医者にも拘わらず家族を救えなかった無力感、罪悪感、喪失感…
様々な感情がタブンネの頭の中をぐるぐると巡ります。
「た……たぶぅぅぅ!!」
タブンネは泣き崩れました。
自分の人生の中で一番幸せを感じることのできたここでの暮らしや結婚生活…
故にそれを一瞬で奪われてしまった悲しみは如何程のものか…
タブンネは辺りが暗くなっていくのも構わず泣き続けました。
一晩中泣き明かしたタブンネは、傷だらけの体でフラフラと森の中を彷徨っていました。
病院を出て行ったばかりの頃とほとんど同じ光景です。
ただ強いてその時とは違うところを挙げてみろと言うのであれば、今のタブンネはその時
以上に重く、暗く、陰鬱な気分になっているということでしょうか…
「たぶぅ…たぶぅ…」
集落もなくなってしまい、タブンネの帰る場所はいよいよどこにもありません、
ただ、泣き腫らした目でひたすら歩き続けるタブンネ、その姿はまるで自分の死に場所を
探している風にも見えなくはありません。
しばらく歩き続けたタブンネは、ある建物の前まで辿り着きました。
その建物は、タブンネの故郷「ナースタブンネ育成場」でした。
行き場を無くしたタブンネは無意識のうちに、自分の生まれ育った古里のような存在であるこの育成場に足を運んでいたのです。
育成場を前にタブンネはいろいろなことを思い出しました。
一人でも多くの患者さんの命を救ってあげる立派なナースになるんだ!
それを胸に厳しい訓練を耐えてきた日々…
そして遂にナースになれた時の喜びと決意…
たくさんの人を助けたい、希望を持たせてあげたい、そう思いながらどんな時も必死になって頑張ってきた…
それがどうしてこんなことになってしまったのか…
それを思うともうとっくに枯れた筈の涙が溢れてきます…
「ん、あれタブンネじゃないか?」「あ、ホントだ、どうしたんだろ?」
そんなタブンネの存在に気が付いた育成場の職員二人が駆け寄ってきました。タブンネにとってはとても懐かしい顔です。
「ひどい怪我じゃないか、今すぐ治療してやんないと!」
こうして治療が施され、一命を取り留めたタブンネ、今は温かい医務室のベッドですやすやと眠っています。
そのベッドの横でタブンネを助けた職員二人が話していました。
「いやー、なかなかの良個体値だし、いい雌のタブンネが見付かりましたね先輩」
「ああ、昨日ベビンネ生産用のタブンネが一匹死んじゃって替えのタブンネはどうしようかと思ったが、コイツなら申し分ないな」
目を覚ませばタブンネはさっそく鎖で繋がれ、無理矢理人工授精をさせられて大量の卵を産まされる、
その卵は抱いてあげることも許されずにすべて回収されてしまう。
そして与えられる餌は自分の産んだ子供達のミンチ肉…
一日中繋がれたまま卵を産まされ続ける、何の娯楽も楽しみもない苦痛に満ちた日々が死ぬまで続くのです。
ベッドで安らかに眠るタブンネ…彼女はまだ知らない、本当の地獄はこれからだということを…
おわり
最終更新:2014年07月26日 15:05