群れからはぐれた3匹の子タブンネちゃんたち、いつの間にか人里まで降りてきてしまいました。
「ミィ…」
お腹すいたよう…とでも言うように寂しく鳴く子タブンネちゃんたち。道行く人にミィミィと物乞いをしては蹴り飛ばされます。
「ミッミッ、ミィ…」
「うるせえぞ糞豚!」げしげし
「ミギィッ!?」
傷だらけのタブンネちゃんたち、ぼろぼろの体を引きずりながら当てもなくさ迷います。すると――
「おや、タブンネじゃないか。こんなところに珍しい」
「ミィ…?」
「心配しないでくれ、私はタブンネおじさんだ。寒かったろう、私の家に来なさい。オボンの実もあるよ」
「ミッミッ♪」
「ミィミィ♪」
「ミミィッ♪」
この町にはタブンネおじさんという少し変わったおじさんがいました。彼はタブンネが大好きで、たまに野良タブンネを見つけては育てているのです。
子タブンネちゃんたちは地獄に仏とばかりに大喜び。おじさんについていきました。
「おいしいかい、タブンネちゃん」
「ミィミィ♪」クチャクチャ
「ミッミッ♪」ペチャペチャ
「ミミミッ♪」グチャグチャ
「そうかそうか、よかったよかった」
オボンの実にむしゃぶりつく子タブンネちゃんたち、よっぽどお腹が空いていたのでしょう。すぐに食べ終わってしまいました。
「ミッミッ!」
「えっ、いいのかい?」
どうやら子タブンネちゃんは食べ物をくれたお礼に何か出来ることは無いかと言っているようです。いい子ですね。
「うーん…それじゃあ一つ頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「ミッミッ!!」ドヤンネ~
タブンネちゃんたちは声を揃え、得意気にうなずきました。効果音がムカつきますが我慢しましょう。
「ありがとう。じゃあこっちへおいで」
おじさんに連れられてきた先は家の
地下室。薄暗い紫の光が部屋の中心にある台を怪しく照らします。子タブンネちゃんは少し不安になってきました。
「それじゃあ誰か一匹、台の上に寝てくれるかな」
「ミィ!」
わたしが、と一匹の子タブンネちゃんが率先して前に出て台の上に寝そべりました。台はヒンヤリとしていて、まるで体が凍り付きそうでしたがタブンネちゃんは我慢しました。すると――
「ミィ!?」
ガシャン!と音を立てて台からいきなり金属製のアームが二本飛び出し、タブンネちゃんの首を固定するようにして繋がってしまいました。
タブンネちゃんたちは訝しげにしましたが、
「あぁ、気にしないで。実はタブンネちゃんには新しい首輪のモニターになってほしいんだ」
というおじさんの言葉を聞くとすぐに安心しました。
しかしその安心は次の言葉によってすぐに掻き消えてしまいました。
「あ、その首輪は爆発するから。助けたかったら二匹で殺し合ってね」
「ミッ…?」
「理解できなかったかい?その首輪は君たちの内どちらかが死なないと爆発するんだよ」
見ると、おじさんは右手にリモコンのようなものを持っています。
スイッチで起爆するタイプのようです。
「ミッミッ…ミィ!?」
「どうしてこんなことをするのか、だって?」
おじさんはそう言うと、質問したタブンネちゃんの脇腹に蹴りを入れました。タブンネちゃんは吹っ飛んで壁にぶつかりました。
「ブギャア!」
「君たちが悪いんだよ。あまり可愛いから虐めたくなるんだ」
「ミィ!?ミッミッ!ミィ!!」
「うるさい。いいのかい、仲間が死んでも?」
「ミ…」
おじさんがスイッチを押そうとするとみんな静かになりました。首輪ンネちゃんは寒気と恐怖に震えています。脇腹ンネちゃんは痛みで失禁しています。残りンネちゃんは歯をカチカチ鳴らして今にも気絶しそうです。
「でも君たちは弱いからね、何か武器をあげようね」
おじさんが壁にかかっている武器を脇腹ンネちゃんと残りンネちゃんに投げ渡しました。脇腹ンネちゃんには金槌が、残りンネちゃんには手斧が渡りました。
「じゃあ、ナイスファイトを期待してるよ」
残りンネちゃんは気が触れたのか、起き上がろうとしている脇腹ンネちゃんに奇声を上げながら襲いかかりました。
「ミッ…ミヒャィィィ!!」
しかし手斧はずっしりと重かったので、上手く振り降ろせず床に刃が刺さりました。脇腹ンネちゃんは体勢を立て直すと、残りンネちゃんに何か言い聞かせようとしました。
「ミィッ、ミッ?ミッミ!」
やめようよ、どうして殺し合わなきゃいけないの?と言っているようでした。脇腹ンネちゃんは首輪ンネちゃんの事など考えていないのでしょうか。
残りンネちゃんは構わず手斧を振り上げて脇腹ンネちゃんに向かいました。脇腹ンネちゃんは半ば諦めたのか泣きながら金槌で受け止めます。
「ミッ!ミッミィィィン!!」
金属音を鳴らしながらの小さな戦いに首輪ンネちゃんはただ叫んでいるだけしかできませんでした。
「どうだいタブンネちゃん。君のせいで彼らは傷付け合っているんだよ」
「ミッ!ミッ!」
おじさんは首輪ンネちゃんに優しく言いました。首輪ンネちゃんは涙を流しています。
「ミィィゥッ!」
「ブッ!…ギャァァア!!」
その内に残りンネちゃんの一撃が脇腹ンネちゃんのまだ痛みが消えない脇腹に入りました。錆びて切れ味の悪い刃が皮を破り肉を抉ります。
「フ、フフ、フミャァァッ!」
「ギュミィ…!」
新しい痛みと激しい出血にのたうち回っていた脇腹ンネちゃん、転がったおかげで次の一撃は何とかかわせました。刃が落とされた床は大きく裂けています。
「ミィ…」
「ミミッヒィィィ」
残りンネちゃんが脇腹ンネちゃんに再度斧を叩き込もうとしたその時、突如ボフッと音がしました。
「五分経過。あんまりのんびりしてると…どうなっても知らないよ?」
「ビャアアアアアッ!!!」
なんと天井に下がっている紫の照明から火が噴き出し、首輪ンネちゃんは火だるまになってしまいました。
照明の正体はお馴染みランプラーでした。ランプラーがニヤリと笑うと火は消えましたが、首輪ンネちゃんは大きなダメージを負ってしまいました。
「五分ごとにランプラーが火を噴くよ。タブンネちゃんが焼け死んだら君たちどっちも殺すから、早く決着を付けようね」
「ミ…ミッ……」
首輪ンネちゃんはブスブスと燻りながら濁った目で二匹の殺し合いを見ていました。恐らく次に火だるまにされた時が首輪ンネちゃんの最後でしょう。
「ミビィィッ!ブィッ!ブムィィィアッ!!!」
残りンネちゃんはひたすら斧を振り回します。脇腹ンネちゃんは身体に鞭打ち避けますが、何回か切られて血を流しました。
そしてついに痛恨の一撃が入りました。横殴りに振られた斧が脇腹ンネちゃんの柔らかいお腹に深々と刺さっていました。
「ビイイイイイイッ!」
「ブヒャヒャヒャ!ミュフィヤァーーッ!!」
しかし勝利を確信した残りンネちゃんが斧を振ると、なんと逆に残りンネちゃんの腕がちぎれてしまいました。
タブンネの弱い腕と肩は人間用に作られた手斧を振ることに耐えられなかったのです。
「ブギュアッ!?ブビャババババァ!!!!」
残りンネちゃんは、だくだくと血が流れる自分の腕――のあった場所――を見ると、いよいよキチガイみたいになって笑い出しました。
脇腹ンネちゃんは荒い息と黒い血ヘドを吐きながらヨロヨロと残りンネちゃんに歩み寄ると、ゲラゲラ笑っている残りンネちゃんの顔面に金槌を振り降ろしました。
バキャリと砕ける音が響き、残りンネちゃんは笑っているのか泣いているのかわからない顔になりました。
脇腹ンネちゃんがもう一度金槌を落とすと残りンネちゃんの頭はブバッと弾けるような音を立てて床に脳と鮮血をぶちまけました。
残りンネちゃんの体が火に包まれ、魂はランプラーに吸い込まれていきました。
「ミッミッ…ミィ……」
勝った脇腹ンネちゃんは首輪ンネちゃんのところへ向かいます。裂けた腹から腸が飛び出し、紫の光と紅い血がヌルヌルと混じり合って艶かしい輝きを放っています。
「……」
首輪ンネちゃんは既に正気を失っていました。ボーッと遠くを見るような目を脇腹ンネちゃんに向けるだけです。
脇腹ンネちゃんが最後の力を振り絞って首輪ンネちゃんに手を伸ばそうとするとランプラーの火が今度は脇腹ンネちゃんを包みました。
「おめでとう、勝ったね。でも今、ちょうど十分を過ぎたよ」
脇腹ンネちゃんは叫ぶ気力も無く床に倒れました。抵抗すらできずに火が体を焼きます。
しばらくすると痛みも熱さも無くなり、脇腹ンネちゃんの魂は火葬された自分を見ていました。
おじさんが合図をするとランプラーのガラス面にヒビが入り、割れたところが暗黒の空洞となって脇腹ンネちゃんを吸い込もうとしました。
脇腹ンネちゃんはせめて首輪ンネちゃんを助けようと思って空洞から遠ざかります。
しかし脇腹ンネちゃんが気付いた時には、首輪ンネちゃんは激しく血を噴き出しながら上半身を撒き散らしていました。首輪が繋がっていた台は跡形も無くなり、焦げ臭い煙を残すだけでした。
スイッチを押しながらにこにこするおじさんと爆死体から抜け出た首輪ンネちゃんの魂を交互に見ながら脇腹ンネちゃんは限界を感じました。
動けない脇腹ンネちゃんの魂は首輪ンネちゃんの魂とぐちゃぐちゃに混ざり合うと空洞の中に吸い込まれていき、空洞が塞がれるとランプラーのガラスの中に映る業火の一部になりました。
脇腹ンネちゃんは業火の中に、今まで吸い込まれてきた何処にも辿り着けない沢山の何かを見ました。
渦巻きのような何か。ハートのような何か。ホイップクリームのような何か。脇腹ンネちゃんはどこかでそれらを見たことがあるような気がしました。
しかし急に目の前が見えなくなると脇腹ンネちゃんは何も思い出せなくなり、そのまま何も考えられなくなってしまいました。
最終更新:2014年08月03日 23:56