「ミィ・・・ ミィ…」「ミィ!」「ミッミッ♪」
暗い押し入れから光ある世界に出てきた4匹の汚タブンネ達。明るいのにも慣れたようで
見るもの全てが珍しいみたいで部屋の中をおぼつかない足取りでうろうろと散策している
カーテンをくいくいと引っ張ってかじかじと齧ったり、座卓に手をかけて懸垂のようにぶら下がり何とか登ろうとしたり
床に落ちてたテレビのリモコンを大事そうに抱えてとたとたと走り回ったりと何をするかわからず見ていて忙しい
しかしこんな汚物どもを部屋で自由に歩きまわらせる訳にはいかない・・・ というかもうあんまり触りたくない
これは天誅を加える前にひとまず綺麗にしなきゃいけない。が、こいつらを風呂で一匹一匹あらうのもな・・・
・・・そうだ!、あれを使おう
「みんなー、アメをあげるよー」
「ミィーッ!ミッミッ!ミィミッミィ!」
ビニールに包まれたアメをプルプル振りまわし汚タブンネ達をある場所へと誘導してやる
行先は風呂場の前 ・・・もちろん風呂に入れるわけはない、ここには洗濯機というものがあるのだ
軍手をキュっとはめ、汚タブンネタブンネの腋の下あたりに手をまわして抱きかかえて洗濯機の中に一匹ずつ入れてやる
汚タブンネたちは抱き上げてもきょとんと不思議そうな顔をするばかりでなんの抵抗もしなかったが
薄暗い洗濯槽に入れられたら急に不安になったらしく、泣きそうな顔で上を向いて俺を見つめながら「ミィミィ」と少し震えた鳴き声を出している
そこで俺はまたビニールに包まれたアメを一個取り出し、洗濯機の上でプルプルと振ってやる
「ミィ!」「ミッミッ!」「ミッミッ!」「ミミッ!ミミッ!」
さっきまでの泣きそうな顔はぱあっと晴れて明るくなり、
「ちょうだい、ちょうだい」と言いたげに一生懸命上に手をのばしてぴょんぴょんとジャンプしている
たまに着地するときに足を滑らしてこてんと転げてしまうのがまたおかしい
もちろん落とすのはアメではなく、1すくいの洗剤である
「ミッヒ?!」「ケポッ、ケポッ、」「ヒィ!」「ムムムムム~~」
パラッと振りまかれた洗剤は上を見上げていた汚タブンネ達の顔面に容赦なく降りかかる
顔面をこしこしとこすったりケホケホと咳き込んだり滝のように涙を流したりでもうアメどころではない
その隙にばたんと蓋を締め、洗濯機の水量を設定し、
スイッチを入れる
親タブンネへのお仕置きも残ってるから水量は一番下の「20リットル」に設定してやる
『ヒッ!キィィ!ミィミィ!ミィミィ!ミィー!』
閉じた洗濯機の中、ジョボジョボと水が注がれると汚タブンネ達は火がついたように騒ぎだした
それから俺は寝そべってテレビを見ながら洗濯が終わるのを待つ
洗濯時の轟音に混じって「キィァァーーー!!」と金属が擦れあうような悲鳴が聞こえてくる
そして時折ゴドン、ゴドンと大きく揺れる。中で汚タブンネ同士がぶつかり合ってているのだろう
20分たち、ウオオオオンという脱水の音になると悲鳴は聞こえなくなった
俺は洗濯機に入った事はないのでわからないが、もしかしたら想像以上に過酷だったかもしれん
アラームが鳴ったので蓋を開けてみると普通の洗濯物のように丸い洗濯槽の壁に張り付き輪になっていて
ぐったりして動かない汚タブンネたちがいた。その姿はまさに「濡れネズミ」という言葉そのものだった
死んでしまったかと思ったがみんな弱々しく胸を上下させている。どうやら生きているようだ
うむうむ、みんなきれいになってるな。「汚タブンネ」から「子タブンネ」に昇格させてやろう
ふとゴミ取りネットを見てみるとピンクの毛の他にジャラジャラした小石のようなものがたくさん入っている
手にとって良く見てみるとそれは子タブンネの小さな歯だった。ぶつかった衝撃で折れたり抜けたりしたのだ
子タブンネのうちの一匹の首根っこを掴んで持ち上げてみると「ケホケホ」と小さく咳をして泡混じりの水を吐き出した
恐怖でプルプルと震えている感触が掴んだ手に伝わってくる
俺は子タブンネ達を洗濯かごに入れて窓際に連れて行き
一匹ずつ凧糸で両手を縛りあげそこからまた凧糸を通しカーテンレールに宙吊りにしていく
子タブンネたちは凧糸で結ぶ時も宙吊りにするときもほとんど無反応だったが
日光に当てられ、毛並みが乾いてくると体温が戻って多少は元気が出たのだろう
弱々しくクイクイと足を振りながら「フィィフィィ」と擦れた小さな声で鳴きはじめた。
歯が無くなったせいで締まりのない声になっているがこの声を俺は知っている
子タブンネが母親を呼ぶ声だ。 ・・・当のタブンネはぐっすり眠っているのだが
「ミィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
と思ったら背後から耳をつん裂くような悲鳴が、母タブンネが起きてきたのだ
混乱した様子で俺と子タブンネを交互に見て、そして俺にすがりついてきて服の裾を掴み
目に涙を浮かべながら「ミィ!ミミィ!」と俺に何かを訴えかけてきた
「タブンネ、お前最近痩せてたよなぁ、何でかと思ってお前の寝床を調べてみたら、悪い悪い泥棒子タブンネを4匹も捕まえたんだ
こいつらに食べ物を取られてたら痩せていくのは当たり前だよな。
だが安心しろよ。俺がこれからこの4匹を処刑してやるからな」
「ミィッ!ミィィッ!ミーッ!ミーッ!!!」
タブンネは遠心力で涙が飛び散るほど激しく首を横に振り否定する。 さて、ここからがタブンネへのお仕置きだ
俺はカーテンの裏に隠していた刀身がどす黒くなった木刀を取り出した。
それを見たタブンネはピタッと動きを止め、顔が見る見るうちに青ざめて行く
この木刀は飼い始めた時にタブンネのしつけに使っていた物で、黒いのは染み付いたタブンネの血が黒く変色した物である
トイレじゃない場所で粗相をした時、人間(俺)の食べ物をつまみ食いした時、夜中にうるさく鳴いた時…
何かやらかすたびにこの木刀でまだ小さかったタブンネをメッタ打ちにしたものだ。
この木刀へのタブンネの恐怖は尋常な物ではなく、見せるだけで震えあがって怯えた顔になり、何でも言う事を聞くようになるほどだ
「・・・ん?もしかしてこいつらはお前が産んだのか? うちではタブンネは一匹しか飼えないって言ったよな
もし無断でガキなんぞ産んだりしたら、お前どうなるか分かってんだろうなあ・・・?」
「ヒィィ・・・ミィィ・・・」
今度はゆっくりと震えながら首を横に振るタブンネ。親子の情は過去の恐怖に勝てなかったって事か?
よし、確かめるため第二ラウンドやってみるか
「だがこのまま帰したんじゃお前も腹の虫が収まらんだろ。ちょっくら痛めつけてやろうじゃないか
「ミィミィミィミィ!!!」
また激しく首を振るが木刀を鼻先に突きつけるとピタッと止まり、涙目でコクコクと頷いた
「よーし、じゃあこのチビどもを下ろしてやる」
宙ぶらりんな子タブンネの両足を掴み、一気にブチッと両手の凧糸の拘束から引っ張りぬいてやる
「ヒフィ!!」
手が千切れる事は無かったが糸にこすれて手の白い部分の毛が全部抜け落ち、地肌が見え、そこからじわじわと血が滲んでいる
同じようにして他の3匹も同じように下ろしてやる
「ファファ…」 「フィフィフィフェ…」
床にごろんと投げ落とすと子タブンネ達は何とか立ちあがってヨロヨロと歩きだし、母タブンネのもとに懸命に歩いていく
「ミィ!ミィ!」
「おい、糞ガキどもが生意気にも突進をしかけてきたぞ。近づいた所ではたく攻撃だ」
「ミィ!!!!??」
タブンネは「信じられない」といった表情で俺を睨むが俺は構わず後頭部に木刀を突き付けて「やれ」と指示を出す
何度も転び、それでもがんばって立ちあがり母のもとへと向かう。それを母タブンネはブルブルと震えながら涙が溢れる瞳でじっと見ている
そして子タブンネの一匹が母タブンネの膝もとまでたどり着いた時
「今だ!やれ!顔を狙え!」
「ミィーーーーーーー!!!!」
タブンネの白い手が母タブンネに子タブンネの顔面へと振り下ろされる
「フィヒッ!?」と小さな悲鳴を上げコロリと後ろに転がった
そしてゆっくりと顔を上げ母タブンネの顔を見上げる。
涙で潤んだ純真な瞳で「どうしてこんなことするの」と言わんばかりに母タブンネの目をじっと見上げる
一生消えないトラウマになるほどの苦痛と恐怖を味わった後、そんなときに真っ先に会いたいであろう母タブンネからの拒絶の一撃
たとえ命を奪う程の威力はなくてもその幼い心には大きな金槌で打たれるほどに強烈な一撃だっただろう
「ミヒー・・・ ミヒー・・・ ミヒー・・・・!」
罪悪感が耐えられる限界を超えたのだろう、母タブンネの呼吸が荒く苦しそうになり、口を大きく開けて舌を突き出してエッエッと嗚咽している
だが俺はやめない、子タブンネが近づいてくるたびに母タブンネに「はたく」の指示を出す。「もっと強く」「力を込めろ」[ぶっ飛ばせ」と指示を出す
タブンネはそれに応え、近づいてくる子タブンネ達を何度も張り飛ばす、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして、「ゼァーゼァー」と息苦しそうに
その度に転がっていき、でもそれでも諦めずに、泣きじゃくりながら、母の温もりが欲しいと母タブンネに向かっていく子タブンネ達
もう何回繰り返されただろうかわからない… しかし永遠に続くかとも思われた母子合戦は突然に終わりを告げた
「ミィ・・・?!ミィ!」
突然子タブンネ達がタブンネに背中を見せ、そのままミィとも泣かずにヨタヨタと母タブンネから離れて行った
そして部屋の隅っこに集まりこちらに背を向けながら兄弟で固まって背中を丸めてちょこんと座りこんでいる
タブンネが悲しそうな声で「ミィ、ミィ」と呼びかけても子タブンネたちはけっして母タブンネに目を向ける事は無かった
そう、子タブンネ達にとってタブンネは「敵」になった
つまりタブンネは母親の資格を失ったのだ
「おおー!やるじゃないかタブンネ、お前の攻撃で盗人のクソガキどもは逃げて行ったぞ」
しかしタブンネは俺の言葉も聞こえてないといった様子で赤くなった両手のひらをじっと見つめ、ガクガクと震えている
「ミ゛バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
タブンネちゃんの一世一代の大慟哭!よしよし、これで自分に母親の資格が無いとよーく分かっただろ♪
さて、後はあの子タブンネ共を生ゴミの日に出せるようにするだけだな
「フィィ・・」「ヒ…」
フラフラと弱々しい足取りで必死に逃げようとする子タブンネをひょいひょい捕まえ、また洗濯かごの中へ
籠のなかでゲームキューブのコントローラーの一番強い振動並にぶるぶる震える子タブンネ達、
自分たちがこれからどうなるか大方の予想は付いてるんだろう
もちろん行先は洗濯機、マジモンの洗濯ものみたいにドサリと一気に入れてしまう
「ヒフィーーーーー!!!!」「ピィィィィィ!!」
恐怖が蘇ったのか洗濯機の中に入れられたとたん狂乱状態になる子タブンネ達
壁をキュッキュッと引っかいたり足をかけて垂直な壁を登ろうとしたりで必死だ
「おーいタブンネ、今から泥棒を処刑してやるから見てみろよ」
「ミィ・・・」
タブンネはもうショックで目がうつろだ、そんなタブンネをひょいと抱き上げ、洗濯機の中を見せてやる
「フィーーーー!!!」「ヒッヒィ!」「フィヤー!フィヤー!」
「ミィ・・・?」
何という事、子タブンネ共は図々しくも見捨てた母タブンネに向かって泣きながら必死に手を伸ばし、助けを求めてるじゃないか
こんな図々しい糞どもに容赦はいらないな、水量100リットルと洗剤に柔軟剤もプレゼントだ
「フィーーーーーー!!!」
そして絶望の蓋を締めて・・・子タブンネちゃんのこの世からさよならツアーのスタートだ!
ジョロロロと水が注がれる音と共に叫喚のコーラス、バイバイ…子タブンネちゃんたち