押し入れの隠し子

うちのタブンネは公園に散歩に行くのが大好きだ
近くの広い公園には野良タブンネが何匹か住み着いていてそいつらと遊ぶのが楽しみなようだ
しかしなぜか今日に限っては散歩の時間になってもタブンネの寝床がある押し入れから出てこない
心配になって懐中電灯を片手に押し入れを開けて様子を見てみる
「ミィッ!?」
タブンネはベッドに横たわっていた。しかし寝ている訳ではなく目はぱっちりと覚めている
「タブンネ、気分でも悪いのか?もう公園にいく時間だぞ」
「ミッミッ」
「どこか悪いのか?」という問いにフルフルと首を横に振っている。
確かにけづやも良く風邪や下痢をしてるようでもない
「ははーん、公園のタブンネたちと喧嘩をしちゃったんだろ、それで行きたくないんだな」
「ミィ〜…ミッミッ!」
ちょっと考えたあとこくこくと首を縦に振った、
なんだ、そういうことか。起きてこないのはベッドで泣いてたからだな
なんか引っ掛かる所もあるが散歩の手間が減るのはありがたいことなのでそういう事にしておこう
それからというものタブンネは食事とトイレの時間以外は押し入れに引きこもって過ごすようになった
よっぽど酷いケンカで落ち込んでいるのかといえばそうではない
出てくる時はいつもニコニコ笑顔を浮かべてご機嫌な様子だ
もしかして押し入れの引きこもり生活が気に入ってしまったのか?

そんな生活が続いて一週間ほど経った、
そろそろ寝床の毛布が臭くなってくる頃だ、洗濯してやろう
押し入れを開けてタブンネの寝床にある毛布を取ろうとした
「おーいタブンネ、毛布洗ってやるぞ」
「ミッ、ミィィ!!ミッミッ!」
タブンネ毛布にギュッと抱きついて取られまいとしている
こいつけっこうきれいずきなのにどうしたんだ?…ん?
「ミッミッミッミッ!」
「ミッミーッ!」
なんか毛布の中で何かがモゴモゴ動いてるーっ!?
…一瞬驚いたが正体はすぐにわかった、毛布の隙間から小さな白い足がちょろりと見えたのだ
それは紛れもなくタブンネの赤ちゃんの足だった。
そうか、話が見えてきたぞ。タブンネは野良タブンネといつの間にか交尾をしてここでタマゴを産み、こっそりと育ててたのだ
そういえば前にタブンネがどこからか小さな子タブンネを拾ってきて、
俺はその時「タブンネは一匹以上飼う気はない、捨ててこい」とタブンネを叱り飛ばし、
子タブンネを元の場所に返してこさせたんだった
そのときの記憶から子タブンネを産み育てる事を俺が許してくれないと思い込んでいたんだな
その通りだから何とも言えんが
だからといって俺に内緒でこっそりと育ててやがるとは…
二度とガキを作ろうなどと思わないように強烈なお仕置きをしないとな!

だが今すぐにはやらない、母タブンネがしくじって子タブンネを死なせる可能性があるからだ
もし自然死で全滅することがあったらタブンネには「お前には子供を育てる事なんて無理なんだよ」としっかり諭してやろう
とりあえず、作り笑いをしてタブンネに語りかける
「…今週は洗わなくていいのかい?」
「ミィ!ミィ!」
ほっとした顔でこくこくと首を縦に振っている。どうやら子供の事を俺が気づいてないと思っているらしい
そのへんがタブンネの浅はかさだな

それからもタブンネは押し入れに引きこもり、飯とクソの時だけ出てくるという生活を続けた
どうやら子タブンネどもは順調に育っているらしく、飯と糞の時の様子から子供がいるという事がわかる
餌の時はいつもはしない追加を要求してきたり(あげないけど)餌皿を押し入れに持っていって中で食べたり
トイレの時は子タブンネの糞とおぼしき茶色いものをトイレ砂の上に口からペッと吐き出したりしていた

そんな暮らしが続いて3ヶ月、いまだに引きこもり生活を続けているのを見ると子タブンネたちは順調に育っていってしまっているようだ
それとは対照的にというかなんというかタブンネが急激に痩せだした。どうやら子タブンネが乳離れしたため、
与えられるご飯の大半を分け与えて自分はろくに食べてないらしい
餌は大人タブンネ一匹分しか与えてない、
それで育ち盛りの子タブンネ3匹を育てるとなると親タブンネの食べる分はほとんど無いだろう
抜け毛が多くなり毛並みがボサボサ、ついでに体臭が異常に臭くなった、うんこのような臭いだ
そういえば最近タブンネが砂のトイレにウンチをしなくなった、子供の便を吐き出すことも。
おそらく空腹のあまり自分と子供のウンチを食べてしまったんだ
これはあまりにもかわいそうだ
これは飼い主の俺が早く楽にしてやらないとな!

それから数日して

「最近疲れてんじゃないのか?、いい薬があるから飲めよ」とげっそりしたタブンネに睡眠薬を飲ませる
口の中に錠剤を3粒入れてコップでゆっくりと水を流し込んでやる
弱々しくコクコクと喉を鳴らすタブンネ、睡眠薬でも疲れが取れる事には変わりないからゆっくり休んでてくれ
飲んだ後3分もしないうちにソファーに倒れかかり、そのまま眠ってしまった
「スゥ… スゥ…」
よしよし、ぐっすり眠ってるな。この隙に押し入れを大掃除してやることにしよう
押し入れの戸をガラッと全開にすると中からムワァッとあの動物園なんかと同じションベンの匂いが漂ってきた
懐中電灯を照らしてやると、そこには汚れきった毛布をかけられてこれまたすやすやと眠っている4匹の子タブンネたちがいた
大きさはだいたいみんな40センチ位、3か月の子タブンネにしては小さい
成タブンネ一匹分の餌を4匹で分け合っていたのだから当然か
食べ物を子供に分け与えた親タブンネが空腹に耐えかねて食べたのだろうか
押し入れの中にしまっておいた段ボール箱の一部が齧られて無くなっている
それはいいとして当の問題は子タブンネだ、こいつらをどう処分してくれようか
かけられていた毛布をバサッとめくり取ってやる、とてつもなく臭い上に何かが染みこんでいてずっしりと手に来る
毎日そんな物にくるまっ眠っていたのだから子タブンネも相当なションベン臭を放っている
ちょっと黒ずんでいてしっとりと湿気を帯びた毛並みが最高に汚い、ここまでくるともはや汚物といっていい
「…ミィ?」「ミィ!」
毛布を剥がされ寒気を感じたのだろうか、汚タブンネ達はもぞもぞと起き出してきた
そして初めて見る「タブンネじゃない生き物」に戸惑っている
「ほら、これをあげるよ。べっこうアメっていうんだ」
「ミィ?」「ミィィ?」
あらかじめポケットに仕込んでおいた飴を汚タブンネ共に手渡す
見た事が無い物で食べ物だと分からないらしく両手で転がしたりスンスンと匂いを嗅いでいたが
一番体格のいい一匹がペロリと舌で舐めたとたん驚いてくりっと目が丸くなり、
そのままぱくりと口に含んで舌でコロコロと鳴らしながら美味しそうに舐めだした
「ミィ!ミィ!」「ミッミッ♪」
一匹が美味しそうに食べているのを見て他のタブンネ達も一斉に飴を口に含んだ
チュパチュパとよだれを垂らしながら食べる子、我慢できずにボリボリと噛んでしまう子さまざまだ
「もっとあげるから、ここから出てこいよ」
押し入れの戸をザーッと開けてやると中に光がぱぁっと入り込んだ
すると汚タブンネたちはビクンと驚きミーッ!ミーッ!と耳に刺さるような高い声で鳴きながらパニックを起こした
両手で目を覆ったり光に背を向けてうずくまって震えてたり腰を抜かして尻もちをついていたり忙しい
そうか、こいつらはずっと暗闇の中だけで生きてきて、光ってもんを見た事が無かったんだな

「ミィ・・・ ミィ…」「ミィ!」「ミッミッ♪」
暗い押し入れから光ある世界に出てきた4匹の汚タブンネ達。明るいのにも慣れたようで
見るもの全てが珍しいみたいで部屋の中をおぼつかない足取りでうろうろと散策している
カーテンをくいくいと引っ張ってかじかじと齧ったり、座卓に手をかけて懸垂のようにぶら下がり何とか登ろうとしたり
床に落ちてたテレビのリモコンを大事そうに抱えてとたとたと走り回ったりと何をするかわからず見ていて忙しい
しかしこんな汚物どもを部屋で自由に歩きまわらせる訳にはいかない・・・ というかもうあんまり触りたくない
これは天誅を加える前にひとまず綺麗にしなきゃいけない。が、こいつらを風呂で一匹一匹あらうのもな・・・
 ・・・そうだ!、あれを使おう
「みんなー、アメをあげるよー」
「ミィーッ!ミッミッ!ミィミッミィ!」
ビニールに包まれたアメをプルプル振りまわし汚タブンネ達をある場所へと誘導してやる
行先は風呂場の前 ・・・もちろん風呂に入れるわけはない、ここには洗濯機というものがあるのだ
軍手をキュっとはめ、汚タブンネタブンネの腋の下あたりに手をまわして抱きかかえて洗濯機の中に一匹ずつ入れてやる
汚タブンネたちは抱き上げてもきょとんと不思議そうな顔をするばかりでなんの抵抗もしなかったが
薄暗い洗濯槽に入れられたら急に不安になったらしく、泣きそうな顔で上を向いて俺を見つめながら「ミィミィ」と少し震えた鳴き声を出している
そこで俺はまたビニールに包まれたアメを一個取り出し、洗濯機の上でプルプルと振ってやる
「ミィ!」「ミッミッ!」「ミッミッ!」「ミミッ!ミミッ!」
さっきまでの泣きそうな顔はぱあっと晴れて明るくなり、
「ちょうだい、ちょうだい」と言いたげに一生懸命上に手をのばしてぴょんぴょんとジャンプしている
たまに着地するときに足を滑らしてこてんと転げてしまうのがまたおかしい
もちろん落とすのはアメではなく、1すくいの洗剤である
「ミッヒ?!」「ケポッ、ケポッ、」「ヒィ!」「ムムムムム~~」
パラッと振りまかれた洗剤は上を見上げていた汚タブンネ達の顔面に容赦なく降りかかる
顔面をこしこしとこすったりケホケホと咳き込んだり滝のように涙を流したりでもうアメどころではない
その隙にばたんと蓋を締め、洗濯機の水量を設定し、スイッチを入れる
親タブンネへのお仕置きも残ってるから水量は一番下の「20リットル」に設定してやる
『ヒッ!キィィ!ミィミィ!ミィミィ!ミィー!』
閉じた洗濯機の中、ジョボジョボと水が注がれると汚タブンネ達は火がついたように騒ぎだした
それから俺は寝そべってテレビを見ながら洗濯が終わるのを待つ
洗濯時の轟音に混じって「キィァァーーー!!」と金属が擦れあうような悲鳴が聞こえてくる
そして時折ゴドン、ゴドンと大きく揺れる。中で汚タブンネ同士がぶつかり合ってているのだろう
20分たち、ウオオオオンという脱水の音になると悲鳴は聞こえなくなった
俺は洗濯機に入った事はないのでわからないが、もしかしたら想像以上に過酷だったかもしれん
アラームが鳴ったので蓋を開けてみると普通の洗濯物のように丸い洗濯槽の壁に張り付き輪になっていて
ぐったりして動かない汚タブンネたちがいた。その姿はまさに「濡れネズミ」という言葉そのものだった
死んでしまったかと思ったがみんな弱々しく胸を上下させている。どうやら生きているようだ
うむうむ、みんなきれいになってるな。「汚タブンネ」から「子タブンネ」に昇格させてやろう
ふとゴミ取りネットを見てみるとピンクの毛の他にジャラジャラした小石のようなものがたくさん入っている
手にとって良く見てみるとそれは子タブンネの小さな歯だった。ぶつかった衝撃で折れたり抜けたりしたのだ
子タブンネのうちの一匹の首根っこを掴んで持ち上げてみると「ケホケホ」と小さく咳をして泡混じりの水を吐き出した
恐怖でプルプルと震えている感触が掴んだ手に伝わってくる
俺は子タブンネ達を洗濯かごに入れて窓際に連れて行き
一匹ずつ凧糸で両手を縛りあげそこからまた凧糸を通しカーテンレールに宙吊りにしていく
子タブンネたちは凧糸で結ぶ時も宙吊りにするときもほとんど無反応だったが
日光に当てられ、毛並みが乾いてくると体温が戻って多少は元気が出たのだろう
弱々しくクイクイと足を振りながら「フィィフィィ」と擦れた小さな声で鳴きはじめた。
歯が無くなったせいで締まりのない声になっているがこの声を俺は知っている
子タブンネが母親を呼ぶ声だ。 ・・・当のタブンネはぐっすり眠っているのだが
「ミィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
と思ったら背後から耳をつん裂くような悲鳴が、母タブンネが起きてきたのだ
混乱した様子で俺と子タブンネを交互に見て、そして俺にすがりついてきて服の裾を掴み
目に涙を浮かべながら「ミィ!ミミィ!」と俺に何かを訴えかけてきた
「タブンネ、お前最近痩せてたよなぁ、何でかと思ってお前の寝床を調べてみたら、悪い悪い泥棒子タブンネを4匹も捕まえたんだ
 こいつらに食べ物を取られてたら痩せていくのは当たり前だよな。
 だが安心しろよ。俺がこれからこの4匹を処刑してやるからな」
「ミィッ!ミィィッ!ミーッ!ミーッ!!!」
タブンネは遠心力で涙が飛び散るほど激しく首を横に振り否定する。 さて、ここからがタブンネへのお仕置きだ
俺はカーテンの裏に隠していた刀身がどす黒くなった木刀を取り出した。
それを見たタブンネはピタッと動きを止め、顔が見る見るうちに青ざめて行く
この木刀は飼い始めた時にタブンネのしつけに使っていた物で、黒いのは染み付いたタブンネの血が黒く変色した物である
トイレじゃない場所で粗相をした時、人間(俺)の食べ物をつまみ食いした時、夜中にうるさく鳴いた時…
何かやらかすたびにこの木刀でまだ小さかったタブンネをメッタ打ちにしたものだ。
この木刀へのタブンネの恐怖は尋常な物ではなく、見せるだけで震えあがって怯えた顔になり、何でも言う事を聞くようになるほどだ
「・・・ん?もしかしてこいつらはお前が産んだのか? うちではタブンネは一匹しか飼えないって言ったよな
 もし無断でガキなんぞ産んだりしたら、お前どうなるか分かってんだろうなあ・・・?」
「ヒィィ・・・ミィィ・・・」
今度はゆっくりと震えながら首を横に振るタブンネ。親子の情は過去の恐怖に勝てなかったって事か?
よし、確かめるため第二ラウンドやってみるか
「だがこのまま帰したんじゃお前も腹の虫が収まらんだろ。ちょっくら痛めつけてやろうじゃないか
「ミィミィミィミィ!!!」
また激しく首を振るが木刀を鼻先に突きつけるとピタッと止まり、涙目でコクコクと頷いた
「よーし、じゃあこのチビどもを下ろしてやる」
宙ぶらりんな子タブンネの両足を掴み、一気にブチッと両手の凧糸の拘束から引っ張りぬいてやる
「ヒフィ!!」
手が千切れる事は無かったが糸にこすれて手の白い部分の毛が全部抜け落ち、地肌が見え、そこからじわじわと血が滲んでいる
同じようにして他の3匹も同じように下ろしてやる
「ファファ…」 「フィフィフィフェ…」
床にごろんと投げ落とすと子タブンネ達は何とか立ちあがってヨロヨロと歩きだし、母タブンネのもとに懸命に歩いていく
「ミィ!ミィ!」
「おい、糞ガキどもが生意気にも突進をしかけてきたぞ。近づいた所ではたく攻撃だ」
「ミィ!!!!??」
タブンネは「信じられない」といった表情で俺を睨むが俺は構わず後頭部に木刀を突き付けて「やれ」と指示を出す
何度も転び、それでもがんばって立ちあがり母のもとへと向かう。それを母タブンネはブルブルと震えながら涙が溢れる瞳でじっと見ている
そして子タブンネの一匹が母タブンネの膝もとまでたどり着いた時
「今だ!やれ!顔を狙え!」
「ミィーーーーーーー!!!!」
タブンネの白い手が母タブンネに子タブンネの顔面へと振り下ろされる
「フィヒッ!?」と小さな悲鳴を上げコロリと後ろに転がった
そしてゆっくりと顔を上げ母タブンネの顔を見上げる。
涙で潤んだ純真な瞳で「どうしてこんなことするの」と言わんばかりに母タブンネの目をじっと見上げる
一生消えないトラウマになるほどの苦痛と恐怖を味わった後、そんなときに真っ先に会いたいであろう母タブンネからの拒絶の一撃
たとえ命を奪う程の威力はなくてもその幼い心には大きな金槌で打たれるほどに強烈な一撃だっただろう
「ミヒー・・・ ミヒー・・・ ミヒー・・・・!」
罪悪感が耐えられる限界を超えたのだろう、母タブンネの呼吸が荒く苦しそうになり、口を大きく開けて舌を突き出してエッエッと嗚咽している
だが俺はやめない、子タブンネが近づいてくるたびに母タブンネに「はたく」の指示を出す。「もっと強く」「力を込めろ」[ぶっ飛ばせ」と指示を出す
タブンネはそれに応え、近づいてくる子タブンネ達を何度も張り飛ばす、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして、「ゼァーゼァー」と息苦しそうに
その度に転がっていき、でもそれでも諦めずに、泣きじゃくりながら、母の温もりが欲しいと母タブンネに向かっていく子タブンネ達
もう何回繰り返されただろうかわからない… しかし永遠に続くかとも思われた母子合戦は突然に終わりを告げた
「ミィ・・・?!ミィ!」
突然子タブンネ達がタブンネに背中を見せ、そのままミィとも泣かずにヨタヨタと母タブンネから離れて行った
そして部屋の隅っこに集まりこちらに背を向けながら兄弟で固まって背中を丸めてちょこんと座りこんでいる
タブンネが悲しそうな声で「ミィ、ミィ」と呼びかけても子タブンネたちはけっして母タブンネに目を向ける事は無かった
そう、子タブンネ達にとってタブンネは「敵」になった
つまりタブンネは母親の資格を失ったのだ
「おおー!やるじゃないかタブンネ、お前の攻撃で盗人のクソガキどもは逃げて行ったぞ」
しかしタブンネは俺の言葉も聞こえてないといった様子で赤くなった両手のひらをじっと見つめ、ガクガクと震えている
「ミ゛バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
タブンネちゃんの一世一代の大慟哭!よしよし、これで自分に母親の資格が無いとよーく分かっただろ♪
さて、後はあの子タブンネ共を生ゴミの日に出せるようにするだけだな
「フィィ・・」「ヒ…」
フラフラと弱々しい足取りで必死に逃げようとする子タブンネをひょいひょい捕まえ、また洗濯かごの中へ
籠のなかでゲームキューブのコントローラーの一番強い振動並にぶるぶる震える子タブンネ達、
自分たちがこれからどうなるか大方の予想は付いてるんだろう
もちろん行先は洗濯機、マジモンの洗濯ものみたいにドサリと一気に入れてしまう
「ヒフィーーーーー!!!!」「ピィィィィィ!!」
恐怖が蘇ったのか洗濯機の中に入れられたとたん狂乱状態になる子タブンネ達
壁をキュッキュッと引っかいたり足をかけて垂直な壁を登ろうとしたりで必死だ
「おーいタブンネ、今から泥棒を処刑してやるから見てみろよ」
「ミィ・・・」
タブンネはもうショックで目がうつろだ、そんなタブンネをひょいと抱き上げ、洗濯機の中を見せてやる
「フィーーーー!!!」「ヒッヒィ!」「フィヤー!フィヤー!」
「ミィ・・・?」
何という事、子タブンネ共は図々しくも見捨てた母タブンネに向かって泣きながら必死に手を伸ばし、助けを求めてるじゃないか
こんな図々しい糞どもに容赦はいらないな、水量100リットルと洗剤に柔軟剤もプレゼントだ
「フィーーーーーー!!!」
そして絶望の蓋を締めて・・・子タブンネちゃんのこの世からさよならツアーのスタートだ!
ジョロロロと水が注がれる音と共に叫喚のコーラス、バイバイ…子タブンネちゃんたち

タブンネは洗濯機の前でゴウンゴウンと激しく揺れるそれに負けないくらいガクガク震えていた
頭に血が上りすぎているのか鼻の穴、耳の穴、涙腺から血をタラタラと垂れ流し
唇を食いちぎらんばかりに噛みしめていて顎から胸まで血の筋が通り
股間からは糞尿が洪水のように溢れ出ている
タブンネは洗濯機の轟音の中から子供たちの悲鳴や救いを求める声を聞き続けているのだろう
やはり最後のご対面をさせたのはまずかったか、あれでまた母親の自覚とかが戻ってきちゃったかな
このままじゃあまりにもかわいそうだ

「ミッミッ!」
あの事件から数か月、タブンネはすっかり元気を取り戻した
しかし押し入れの中で引きこもる癖はまだ治っていない。なぜかって…?
それは押し入れの中に、可愛い4匹の子タブンネがいるからだ
もちろん本物じゃないよ、ぬいぐるみが4こあるんだ
でも毛皮は本物、洗濯が終わったあの4匹の毛皮でこっそり作ったんだ
今日もタブンネは堂々と部屋に出られるようになった可愛い子供たちと一緒におままごと
おもちゃの木の実を子供たちに振り分けてあげます
そしてお父さんは俺の役。タブンネのお父さんの仕事はお家にご飯を持ってくる事
たまに100均の食品サンプルを買ってくるのがそれに当たる
でも今日はそれだけじゃない・・・新しい家族も連れてきてあげるよ

厳しいしつけで言う事聞かせるだけじゃなく、
できる限りでいいからタブンネの希望を叶えてあげたり、楽しく遊んであげたりするのがタブンネと一緒に暮らすコツなのだ

おわり
最終更新:2014年08月15日 13:50