一応、エンディング分岐
とある道から草むらに潜って、そこの崖を降りたところに、小さいタブンネの集落があった。
その集落のとある場所に、その中の一番大家族が住まう家があった。
傲慢な父、太った母、陰険な兄姉が住む、余り評判のよろしく無い家。
そこで一匹のタブンネ(♂)が生まれ、元気に泣き声をあげた。
しかしそのタブンネに母父兄姉は驚き、嫌悪した。
何故なら、そのタブンネは色が自分たちと違ったからだ。
「お前はタブンネじゃない、生ゴミの固まりだよw」親二匹はその仔タブンネを虐げた。
(この脂肪の塊が…)悪態を付くたびに、「しつけ」として暴力を受けた。
もっとも、日常的に虐げられていたのだが。
食事もろくな木の実を与えず、兄や姉、やがて生まれた妹弟にさえ暴力を振られ、嘲笑の的となった。
「あははっ!死ね死んじまえ!一家の恥が!」「何で生きてるの?ねぇなんで?」
(くそっ…俺が何をしたって言うんだ…!)理不尽な罵倒に、言い返すことはできなかった。
集落のタブンネたちも彼を嫌悪し、すれ違うたびに罵倒した。
もはや家の評判など忘れられ、ひたすっら村一丸となって彼を嫌悪した。
嵐のような罵倒を、唇を噛み耐え忍んだタブンネだったが……とうとう耐えられなくなり、ある夜そこを抜け出した。
しかし正直、彼が居なくなって悲しむタブンネなんて居なかった。
怒りと悲しみに任せて集落を抜け出したまでは良かったが、行く当ての無い放浪は体力を浪費するのみで、長くは続かなかった。
空腹になっても、寒さに震えても、荷物はきのみが2、3個のみ。
草むらを抜け、道を暫く彷徨い続け、ついに倒れこんでしまう。
そこで、一人のトレーナーと出会う。
「なんだ、糞豚か。でも
色違いだから捕まえるかな。それに……」
何せ疲労困憊である。彼はトレーナーの言葉を最後まで聞く前に、あっけなくスーパーボールの餌食になった。
目を覚ますと見知らぬ部屋に居た。
ひんやりとした空気の中、ありふれた道に居たはずの自分は、暖かい布団の中で眠っていた。
(俺は夢でも見ているのではないか…?)とも考えたが、暖かさや外の眩しさが現実である事を伝える。
「あ、起きた起きた。」今まで読んでいた雑誌を置き、トレーナーがこちらに近寄る。
どうやらこいつが昨夜自分を捕まえた奴だ。色違いは確信した。
トレーナーはまず、「お前、何でフラフラしてたんだ?教えろ。」と切り出した。
触角を当て、(その前に、何故俺を殺さなかったのか教えろ。)と伝える。
「あははっ、そうきたか。そりゃお前は色違いだし…」なおも言葉を続ける。
「お前は、まだやりたいことがありそうだったしな。」
どきりとした。
普通のタブンネはただ毎日を当てもなく過ごす。
顔は呆け、一日家で寝そべることも珍しくない。
しかしこの色違いは違った。
毎日毎日、自分を虐げるものたちへの復讐を考えた。
それが色濃く顔に出ていたのだろう。
「よし、じゃあお前がやりたいことを教えろ。」トレーナーの言葉が考えを断ち切る。
(俺は俺を虐げたものを殺したい。それだけだ。)と伝える。
「……そうか。じゃあ、俺がお前を鍛えてやる。」トレーナーはきっぱりと伝えた。
それを良しとしない色違い。(いや、これは俺一人でやらなきゃいけないことだ。)と伝えるも、
「お前は俺のポケモンだ。言う事を聞いてもらおうか。」という、当然な言葉に一蹴されてしまった。
(くっ、仕方ない…)「はは、解れば良いんだよ。」トレーナーはけらけら笑う。
「そうだ、俺の名前を教えておこう。ブランっていうんだ。」
(俺は…名前は特に決まってないから、『色違い』とでも呼んでおいてくれ。)
「解った、よろしくな色違い。」
「あ、それと…」トレーナーは、何かを思い出したように言う。
「俺の訓練は、厳しいぞ?」
(望むところだ。)タブンネは、目を細めて伝えた。
ブランの訓練は言葉通り厳しいものだった。
しかし色違いは必死になって食い下がった。
全ては自分のやるべきこと、「復讐のために強くなる事」、それだけであった。
「はぁー……」一通り終え、深いため息をつく。
そこに、「君が色違いか。」声がかかる。
「そうだけど?」目を向けるとそこにはキュウコンが居た。
「私はロートと言う。よろしく。」ロートと名乗るキュウコンは色違いをまじまじと見る。
「なんだ?色違いがそんなに珍しいか?」これまでの体験が蘇り、自嘲気味に言う。
「いや失礼。俺がこれまで屠ってきたタブンネと大分違うもんでね。」
「顔が呆けて無いし、何より卑しさが無い…ご主人が殺さず捕まえた理由はそこにあるかもしれないな。」
ロートはふふ、と笑って踵を返し、走り去っていった。
「あいつらと一緒にされちゃあ堪らんよ…」思わず一言漏らし、訓練に戻る事にした。
「なあロート。ご主人はお前と俺しか飼ってないのか?」日が暮れた後、率直な疑問を口に出す。
「あぁ、そうだな。何でかは知らんが…まぁその分しっかり訓練してもらえるから良いんじゃないか。」
「飯だぞー、こっち来い。」
ご主人が大声で俺らを呼んでいる、急ごう。ロートの言葉を待たずして、色違いは駆けた。
一月ほど経った頃だろうか。
レベルも上がり、技も覚えた。
技は穴を掘る、10万ボルト、どくどく、破壊光線だ。
これらはすべて、来たるべき時のための技。
そして、ついに復讐のときは来た。
「本当に一人で良いんだな?」深夜、集落前まで案内されたブランは問う。
触角を当て、(これは俺一人でやる。それは曲げられない。)あくまでもキッパリと言い放つ。
「……ならば、あいつらが逃げられないようにだけはしてやる。」ブラウは根負けしたらしかった。
(気持ちを汲んでくれてありがとう。じゃあ、行ってくる。)色違いは前を見据え駆け出した。
「……ちゃんと帰ってくるのだろうか。あいつは。」ロートは、なんとも言えない不安を感じていた。
何故かは解らない、しかし、とにかく不安だった。
「よし…ロート、火炎放射!」時を見計らい、命令する。
「了解。」崖の上から飛び出し、口から炎を吐く。
それは集落の周りを包んだ。
「何だ!?燃え始めたぞ!?」見張り役のタブンネが叫ぶ。
「えっ!なんだなんだ?」一斉に飛び起きるタブンネたち。
集落は大パニックだ。
その頃、色違いは集落の真ん中辺り…の地中にいた。穴を掘るだ。
小さく穴を開け、地上を見る。
タブンネたちが逃げ惑っている。
「覚悟しやがれ…糞虫め…」静かに呟き、一気に出た。
「お前はあのクズ…グぁぁッ!」背中から10万ボルトを浴びせる。
「誰がクズだ。ゴミムシめ。」焼け焦げたタブンネが倒れると共に次の獲物に手をかける。
技を使わず首を折った。
こきりという軽い音の後、力の抜けたタブンネはその場に崩れ落ちた。
色違いは自分の家を探していた。当然ながら、最大の標的は彼らだったのである。
家、住人、所かまわず電撃を放つ。
木製の家に飛び火し、集落は炎に包まれた。
感電死、焼死、暴徒化した住人による同士討ちで撲殺…まさに地獄と化した。
しかしまだ自分の家族は残っている。いや、意図的に残したと言ったほうが正しいか。
家のドアを蹴り破り、中に押し入る。
「何しに帰ってきやがったこのクズが!」父親が威勢良く罵声を浴びせるものの、自分に対しての恐怖感は見て取れた。
「何って…親孝行にですよ。お父さん?」嫌みったらしく言うと、どくどくを浴びせた。
「グ…ギィ…ッ」「その毒は動けなくなる毒なんですよ。せいぜい苦しんでください。」
苦しむ一家に詰めよる。
「散々俺を殴ってくれましたね?お兄さん。」「それが何だ!お前は一家の恥だから仕方ないだろうが!」
ギャンギャンと喚く兄。それと被るように家族の罵声が覆いかぶさる。
しかし色違いには何も感じさせなかった。
腰につけておいたナイフを取り出し、腹を刺す。
「うぐぅっ、何をすr…」「躾ですよ、糞野郎。」
何回も何回も何回も何回も何回も何回もザクザクザクザクザクザクザクザク刺す。憎しみや悲しみを込めて、力の限り。
「グエァ、やめて…やめてくれぇっ!」「俺がその台詞を言ったとき、貴方はやめてくれましたっけぇ?」
嘲るように言い、止めに首を掻き切った。
「さて次はお姉さん、貴方のその捻じ曲がった顔をまともにしてあげますよ。」
姉が何か言う間も与えず、顔にどくどくをぶっ掛けた。
「ギャアァァァァァ!?顔が、顔ガあァぁァァァ!!!」
顔がどんどん腐食していく。目が零れ落ち、口は解け、鼻は落ちた。
「あははっ!貴女にピッタリの顔ですよ!」思わず笑いを抑えられなくなり、ゲラゲラと下品な笑いを上げる。
「さてわが弟妹よ。君らは俺に何をしてくれたっけ?」
怯えた弟妹の顔を眺め、口角を上げ問う。
「え…えっと…」言葉に出す事ができずに口をもごもごと動かす。
「何をしてくれたんだっけ?ねぇ?ねぇ?」狂気のこもった表情でなおも問う。
答えない二匹に対し、途端に怒りが沸いて出て、色違いは軽い癇癪を起こした。
「もういい!答えなくて良い!そのまま死ね糞虫が!」ついに思いをぶちまけ、二人まとめて10万ボルトで消し飛ばした。
「さて……と。」あとは憎き父母のみ。だが…
「ぐぅっ!」頭に響く一発の鈍痛。振り返ると、そこには。
「居たぞ!こいつだ!」「あのゴミ野郎だったか!」「生きて帰れると思うな!」
数匹のタブンネ。犯人を捜していた自警団が、ついに居所突き止めてしまったようだ。。
「ははは!これでお前は終わりだ!苦しんで死んでもらうぞ!」急に威勢の良くなった父が笑いながら言う。
「はは……」「うん?何がおかしい。」
「元から生きて帰る気なんて無いですよ。あはははっ!」
その瞬間、色違いは破壊光線を放った。
家から光が放たれ、爆散する。
燃え盛る瓦礫の中、吹き飛び反動で動けなくなった色違いはなおも笑っていた。
「あはは、ごめんなブラウ。俺は最初からこうするつもりだったんだ…」
※エンディング分岐
+
|
ED1 一応BAD |
「一体、俺は何のために生まれてきたんだろうか…。」
燃え盛る集落の中で、自分の最期を迎えようとしている時、彼は笑うことを止め自問自答した。
「……駄目だ、答えられないや…」
そのとき流れる一筋の雫。
彼は、生まれて初めて涙を流した。その、ずっと耐え忍んできた涙を。
「でもやっぱ、死にたくなかったなぁ…」涙を流し呟くものの、その細い声は誰にも届かなかった…。
息絶えた彼の上に崩れた瓦礫が覆い被さる。火事は一晩中続いた。
翌日鎮火し、集落に突入するブラウ。
瓦礫と死骸の中をしばらく探し回ると、一匹辛うじて光る箇所があった。
瓦礫をどけ見えたそれは、紛れもなく色違いだった。
「……まさか、最初からこうするつもりだったのか…」「俺は、俺は……ッ!」ブラウは、気づかなかった自分を責めた。
しかしその声はもう、目の前の死骸には届くはずもなかった。
|
+
|
ED2 一応GOOD |
崩れる瓦礫が自分の周りを埋めていく。
空は夜なのに真っ赤に染まり、焼ける死骸の臭いが鼻を突く。
その内視界が歪んでくる。遠くでまた、瓦礫が崩れる音、助けを求める叫び声がする。
「あぁ…そろそろおしまいか…」彼に視界は霞んできていた。
「……」ゆっくりと目を閉じようとしたそのとき。
一つの人の形をした何かと、一頭のポケモンらしき何かが写った。
二つの形が何なのかわかる前に、彼は意識を失った。
目を開くとそこは地獄ではなかった。
前にも体験した事のある景色だ。そして自分を包んでいる温もりも。外の眩しさも。全てが前と同じだった。
一瞬タイムスリップを疑ったが、それはすぐにかき消された。
「良かった!死んでなかったんだな!」ブラウが駆け寄る。目には涙を貯めていた。
触覚をひょこひょこと動かそうとするが、何せ体がうまく動かない。
「今はじっとしてろ。お前に死んで欲しくないんだからな。」ブラウは一方的に言葉を投げつけると、足早に、さっさと部屋を出て行ってしまった。
ぽつんと一人ベットの中に潜り込み、考えを巡らせる。
「やるべきことをやり終えたのに、死ねなかった…。」恥じる気持ちと何故か安心した気持ちが入り混じる。
もうやるべきことは終わってしまったし、また厳しい訓練が待っている事だろう。
ならば自分がやるべきことをまた新しく作ろう。
それは、「ブラウのために強くなる事。」
|
おわり
最終更新:2014年08月25日 01:31