僕がテレビを見ていると、飼っているタブンネが僕の服を引っ張っている。
どうやら見せたいものがあるらしい。
タブンネについていくとそこは公園だった。
するとタブンネはミッ!って言い残し茂みに行ってしまった。
5分後タブンネはピッピを連れて戻ってきた。
といっても毛は汚れておりやせている。捨てられたピッピだろう。
そのうえこのピッピはたまごを持っている。まさか……
「このピッピはタブンネちゃんのお嫁さんなのかい?」って聞いたら
「ミィィ♪」って顔を赤くした。
「じゃあこのタマゴはタブンネちゃんとピッピのこどもなんだね?」
「ミッミッ!」って胸を張って答えた。
「おめでとう!タブンネちゃんもついにパパになるんだね!!」
僕はそう言って2匹を祝福した。
公園では2匹を祝福した僕だが、タブンネがパパになることに納得したわけじゃない。
その日の夜、タブンネを呼び出し今後のことを聞いてみた。
「ねえタブンネちゃん?君はこれからどうするんだい?」
「ミィ?」タブンネは不思議そうな顔をしている。
「タブンネちゃんとピッピちゃんはこれからどこで暮らすんだい?」
「ミッミッ」そういってタブンネは家の床をパンパンたたいた。
やっぱり僕の家に連れてくる気だったようだ。
「それで、ピッピちゃんと子供の面倒は誰がみるのかな~?」
僕はちょっと怖い顔をして質問した。
そしたらタブンネは僕のうでをつかみスリスリしながら「ミイ~~♪」って
かわいい声を出した。
なるほど、これがメロメロか。
だがタブンネちゃん、男の僕にメロメロは効果はないんだよ。
僕は腕を振りほどき、タブンネの頬に鉄拳を放った。
タブンネは頬を抑えながら転がっている。
「ふざけるな!!勝手に子供をつくりながら面倒を全部僕にみさせるとは
どういうことだ?子供をつくり、育てることを簡単に考えるんじゃない!」
僕ははじめてタブンネに怒鳴った。
僕の怒鳴り声にタブンネはブルブルふるえている。足もとをみると
おしっこをもらしたようだが僕はタブンネにさらにこう言った。
「子育ても何もしないポケモンなんて必要ない!!
とっとと出て公園で暮らせ!!」
「ミヤアァ~~!!」タブンネは僕の足にすがりつき泣きわめいている。
「それがいやなら自分たちの生活費を自分で稼ぐんだ。
タブンネが仕事をして3匹分の生活費を稼ぐならピッピちゃんたちも入れてやる。」
僕がそういうと
「ミイ!ミイ!」そういってタブンネは顔をブンブン縦に何度もふった。
「よ~し、わかったな。じゃあ明日からタブンネちゃんのご飯は
タブンネちゃんのお給料から出すからな。
仕事探しは僕も協力してあげるからしっかり働くんだぞ」
こうして、タブンネは働くこととなった。
翌朝、僕たちはピッピとタマゴを家に連れて行き、そのあと
ポケモンハローワークに行き、仕事探しをした。
さいわいにも宅配の仕事があったのでそこで働くこととなった。
宅配所から出てきたタブンネは帽子をかぶり、ミィミィうたいながら
歩いている。そして10分後、配達先の家についた。
1人暮らしのおばあさんの家だ。
タブンネが荷物を渡すとおばあさんは
「お利口さんなポケモンだねえ、どうだい?お菓子でも食べるかい?」
とすすめてきた。タブンネは大喜びでおばあさんの家に入っていった。
「バカ野郎!!近所の配達に4時間もかけてんじゃねえ!!
次こんなチンタラやったらクビにするぞ!!」
宅配所の人に怒られたタブンネはしょんぼりしながら次の配達先にむかった。
次の配達先は何事もなく終わったが、帰る途中だらしない格好の高校生たちに目をつけられた。
「お~い、そこの帽子かぶったタブンネちゃーん。」
しかし、タブンネは無視して歩いている。
それが気に入らなかったらしく高校生たちは
「タブンネの分際でシカトしてんじゃね~よ!!」
といいながらタブンネを路地裏に連れ込み、暴行を加えた。
その後タブンネはボロボロになりながら配達所に戻ったが
配達所に帰ってきたのは3時間後だったのでクビになってしまった。
その日の夕食、僕はピッピにはオボンのみ2つとモーモーミルク
タブンネにはオレンのみ1つと水を用意した。
いつもオボンのみ3つを食べているタブンネはその食事に不満そうな顔をし、
僕に文句を言ってきた。
「何を言っているんだい。君はお給料をもらえなかったじゃないか。
本来なら2匹とも何にも出さないところだけど家のお手伝いをがんばったピッピちゃんには
僕からごほうびをあげなきゃいけないし、君が飢え死にしたらピッピちゃんと子供が
かわいそうだからね。だから君にがんばってもらおうと大サービスで……」
と僕が説明していたら、
タブンネはあおむけになり、短い手足をバタバタしながら
大声でミーミー騒ぎ出した。
まるでおもちゃをねだる子供である。こんな子がパパになるんだと思うと
僕は怒りを通り越して悲しくなった。
「わがまま言ってもダメだよ。オボンのみが食べたかったら
きちんと働きなさい。文句があるなら追い出すよ。」
僕がそういうとタブンネは涙を流しながらオレンのみを食べ始めた。
そんなタブンネに対しピッピはよしよしとなぐさめ、
自分のオボンのみを1つタブンネにわたした。
とりあえずママはしっかりものでよかったな……と安心した。
その後もタブンネは果樹園、工場、公園の掃除など
いろいろな仕事にチャレンジしたがどの仕事も1日でクビになった。
僕は気にしていなかったがこのタブンネは「ぶきよう」らしい。
ほうきとちりとりも扱えないタブンネにつとまる仕事などあるはずもなく
ポケモンハローワークからも来ないでくださいと言われてしまった。
ある日僕は求ポケ広告でタブンネにもできる仕事はないかと探していたら
『タブンネ大募集!!労働時間は1日2時間で3000円・
自宅送迎あり・勤務終了後は体力を回復させてから自宅にお送りします。
どんなタブンネでも採用します』という内容が目に入った。
お客のストレスを解消してあげるのが業務内容らしいが
給料がやたらと高いし異常に待遇のいい会社である。
「なんか怪しいけど……ここにかけてみるか。
電話番号はえ~と、796-531と」
・
・
タブンネの採用を申し込んだらなんなくOKをもらった。
「ぶきよう」な点も話したのだがタブンネなら特性、性別、年齢、レベルなど
何にも関係なく採用しているようだ。
翌日、新しい職場’タブンネヘヴン’のスタッフさんがお迎えに来た。
作り笑いをしているスタッフさんは
「では、今日からよろしくお願いします。タブンネちゃんもよろしくね~~☆」
とあいさつし、タブンネを車に乗せた。
どんなことをするのかはわからないが、
タブンネがクビになって帰ってこないように僕は祈った。
数時間後、タブンネが給料袋を持って帰ってきた。
が、笑顔はない。体力を回復しているとはいえキツイ仕事なのだろうか。
しかしスタッフさんは
「いや~ご主人。あなたのタブンネちゃん☆いい仕事しますよ☆
また明日もよろしくお願いしますよ☆」
と明るい声であいさつをし、帰って行った。
その夜僕はタブンネの初給料祝いにオボンのみを5個も用意した。
これだけあれば喜ぶだろう。
しかしタブンネは喜ぶどころか
ため息をつきながら食事をし、数分後
「ミィ……ミイイイィィィ!!!」と突然叫び、ベッドに隠れてしまった。
僕とピッピはふとんをかぶりながら震えるタブンネに優しく声をかけたが
タブンネはその夜ずっと震えていた。
仕事2日目、スタッフさんがお迎えに来たがタブンネはまだ布団で震えている。
「すみません。いま引っ張り出しますので……」と僕が言うと
「だいじょーぶっす☆タブンネちゃんが働きたくなる呪文があるんですよ☆」
そういってスタッフさんは「ヒャ・ク・マ……」と言い始めた。
するとタブンネはこっちに向かって走り出し、スタッフさんに抱きつき
「ミイィ~♪」といいながらスリスリしだした。
「いい子だね~☆じゃあ今日もよろしくねタブンネちゃん☆」
そういってタブンネは仕事に出かけた。
タブンネを見送ったあと僕は、タブンネは具体的にどんな仕事をしているのか
気になったため、タブンネヘヴンに電話をし、仕事を依頼した。
1時間後、見ない顔のスタッフさんがタブンネ(僕のではない)を連れてやってきた。
「え~と、1時間6000円ですね。ではよろしくお願いします。」
僕はお金を払い、ベッドにうつ伏せになったらスタッフさんが
「お客さ~ん、うちはマッサージ屋じゃないんですよ」
と笑みを浮かべながら言い出した。
「えっ?ストレス解消ってマッサージとかじゃないんですか?」
僕はそう聞いたらスタッフさんはバッグから金属バットやポールを取り出し
「ストレス解消と言ったらタブンネをボコボコにすることに決まってるじゃないですか。
こいつ弱いけど生命力は高いし、ミーミーって悲鳴が心地いいんですよ。」
こんなことをさらっというなんて恐ろしい人だ。
タブンネは目に涙を浮かべている。
「大丈夫ですよ。反抗しないよう教育してあるし、逃げないようはりつけもできます。
武器も金属バットやメリケンサック、スタンガンなど用意してあります。
それに血や糞尿が部屋につかないようビニールもしくし、掃除もオレがやりますんで。」
だが、人様のポケモンを殴るなんて……
「そんな考えなくていいんですよ。タブンネは癒すのが好きなポケモン。
どんな方法だろうとお客さんがスッキリすればタブンネだって喜びますよ。
さあ、お客さんだってストレスあるでしょ?」
そういってスタッフさんは金属バットを僕に手渡した。
僕はタブンネを見る。タブンネは手を合わせ、「いじめないで……」とでも
言いたそうな目で僕を見ている。
僕のタブンネも今ごろ同じことをしているんだろうな……
だけど、僕の家でピッピたちと暮らすことを選んだのは彼だ。
仕事をすることで彼にパパとしての自覚を持ってほしい。
「立派なパパになれ~~!」
そう叫びながら僕はタブンネの顔面に金属バットをフルスイングした。
知らない人に殴られているであろう僕のタブンネに思いをこめて。
タブンネヘヴンで働き始めてから1週間がすぎた。
僕のタブンネは家にいるときは元気がないが、仕事をさぼらず続けている。
パパとしての自覚がでてきたのかな……とも考えたが彼がそう変わるとも思えない。
それに「ヒャクマ」という呪文はなんなのか?
僕はタブンネヘヴンに電話をし、社内見学を申し込んだ。
タブンネヘヴンにつくと何と社長がでてきた。社長自ら案内してくれるらしい。
まずはタブンネがいっぱいいる部屋を見せてもらった。
「お客様のもふくめて、スタッフタブンネはまずここに行きます。
そして依頼があったら連れて行くというやり方です。」
次に医務室だ。広い室内で何人ものドクターが大けがしたタブンネを治療している。
「仕事が終わったタブンネはここで治療をしてからトレーナーのもとへ帰します
ここのドクターはタブンネ治療に特化した者ばかりなので大丈夫です。
何より人様からお預かりしたタブンネを殺すわけにはいきませんからね」
最後に新人が入るという部屋を見せてもらった。
「ここではちょっとしたドッキリをタブンネにさせています。
このドッキリによってタブンネを働き者にするのです。」
社長がそう説明している間、1匹のタブンネがスタッフとともにやってきた。
タブンネはジュースをもらい、歩き出すと突然転倒し、
ジュースをじゅうたんにこぼした。
するとスタッフさんが走り出し、
「あ~~!!これ100万円もする絨毯なんだぞ!!
どうするんだ!」と怒鳴りだした。
タブンネはミィミィ言いながら頭を下げているが
「100万円の借金作ったなんて君のトレーナーに言いつけたら
ぜ~~ったい嫌われちゃうね。
捨てられちゃうかな?それともお肉屋さんに売られちゃうのかな~?」
スタッフさんが意地悪そうな顔にタブンネは青ざめている。
「実はあのじゅうたん、1000円の安物ですが微弱な電磁波が流れてまして、
タブンネを転ばせるようにしてあります。
ああやって弱みをつくり、さらにトレーナーの家まで送り迎えすることで
サボらないタブンネにするのです」
なるほど、あのときスタッフさんに駆け寄って甘えていたのはそのためか……
その後僕は社長室でお茶を飲んでいると、社長は100万円を渡してきた。
「あなたは当社がタブンネが殴られる仕事なんて思っていなかったでしょう。
治療しているとはいえ、人様のポケモンをサンドバッグにするなんて
最低な仕事だと思っているでしょう。
あなたのタブンネは当社をやめさせるようにします。これは慰謝料です。
本当に申し訳ございません。」
そういって社長は頭を下げた。
それに対して僕は……
タブンネが仕事を始めてから1年が過ぎた。
タマゴからかえったピィも順調に成長し、ピッピもうれしそうである。
そして部屋にはピィ用のおもちゃや小さなプラネタリウムがある。
みんなタブンネのお給料で買ったものだ。
タブンネは仕事をする前と比べ、口数は少なくなったが
わがままを言ったり僕に甘えたりすることはなくなった。
パパとしての自覚が本当にでてきたみたいだ。
野生のポケモンと違い、人に飼われているポケモンは
家族を命がけで守ることがない。特に僕のタブンネは
あのままだったらわがままばっかりの情けないパパとなり
ピッピやピィに見捨てられていただろう。
そうなって欲しくなかったから僕はタブンネヘヴンをやめさせなかった。
見てないところで命をかけて働く立派なパパをピッピとピィに見せてやりたいから。
そんなことを考えていたらタブンネが帰ってきた。
ピッピとピィが笑顔でパパを迎える。
そんな家族を見て僕は、
「この子たちのためにもっと広い家に引っ越そうかな……」
とつぶやいた。
終わり
最終更新:2014年08月25日 01:35