「おつかれさまでしたー」
俺は大きくも小さくもない声でそういい残し、残業組を振り返ることもなく職場をあとにした。
今日もなかなか過酷な勤務だった。勤務自体が過酷なのではない。職場の人間関係にへきへきしているのだ。
いつもピリピリして、事あるごとに俺を怒鳴りつけてくる上司。わざと聞こえるような声で俺の陰口を叩く同僚。わざと俺にだけコーヒーを配らない事務員。
自転車をこぎながら今日の出来事を頭の中で反芻する。だが、今日はいつもの帰宅時よりかは幾分心が晴れやかだ。今月末に退社が決まっている俺は、
たまりにたまった有給の一部を明日から一部消費するよう、あのオコリザルのような上司から命じられた。つまり、明日から俺は会社公認の長期休暇というわけだ。
古びた外観の長屋アパート。ここの一室が俺の城だ。俺は駐輪場へ自転車を停めると、自室へ向かって歩き出す。まだ10月の半ばだというのに風がずいぶんと冷たい。
俺が今住んでいる地方は豪雪地帯としてそこそこ有名で、ちらりと長屋の一室の窓を見てみると、外気との温度差のせいか一部が結露していた。
自宅の前にたどり着き、上着のポケットを探り鍵を取り出す。カチャリと小気味のいい音をならしてドアを開けると、なぜか部屋の中から、外と同じ冷たい風が吹いてきた。
自分で言うのもなんだが、俺は仕事以外はなかなか几帳面なほうで、出勤時、外出時などは必ず窓の開閉や電気製品の消し忘れがないかどうかチェックする。
その俺の部屋からなぜ冷たい風が吹いてくるのか。まさか空き巣が?このぼろくさいアパートに?俺は最悪の事態を想定し、鞄を玄関に投げ捨てると部屋に飛び込み照明をつけた。
最悪の想像が的中してしまった。玄関の真正面に当たる窓のカーテンが、風に煽られひらひらと動いている。窓の近くには、拳より一回り小さな石と、飛び散ったガラス片と思われるものが見えた。
そのほかにも、泥の付いた足跡がリビング中、テーブルの上にまで付いている有様だ。
俺は青くなった。そしてこれ以上無いというほど混乱した。
まずこういう時は警察に連絡しておまわりさんに来てもらっていやいや現場はどうすればいいんだっけ確か空き巣に入られた時は・・・
「ミッ!」「ミキャッ!」
台所のほうから聞こえた何者かの声に俺の混乱はおさまった。そして次に、脊髄に直接氷を当てられたように戦慄した。俺の部屋に木霊する、俺以外の者の声。この状況下から推測するに、それが何者なのかなど火を見るより明らかだ。
俺は息を殺し、足音を殺し、玄関に立てかけてあったゴルフクラブを手にとった。接待ゴルフで一度使ったきりだったが、まさかこんな使い方をするとは夢にも思わなかった。
俺は台所に隣接する壁にゆっくりと背を持たれかけ、息を整える。台所から確かにゴソゴソとした気配を感じる。一、二の三で飛び込もう。侵入者が誰なのか、何の目的かはわからないが、一、二の三で目に物みせてやる。
俺は汗で滑りそうなゴルフクラブをぎゅっと握りなおし、五感を壁の向こうの気配へ集中させる。そして心の中で数を数える。一つ、二つ・・・
三つ!
俺はゴルフクラブを振りかぶり台所へ飛び出し、薙ぐべき敵の姿を目視しようときょろきょろ台所を見渡す。しかし、確かに気配こそするものの、侵入者と思われる姿は見受けられなかった。
「ミーッ!」「ミーイィ!」
突然木霊する声の方を振り向くと、俺の視線は台所の一角に鎮座する冷蔵庫にたどり着いた。冷蔵庫の一番下、野菜室が開け放たれ、そこから二つのホイップクリームのようなものが見え、フリフリと上下している。
俺は予想外の光景にあっけに摂られ、無用心に冷蔵庫に近づくと、野菜室を覗き込んだ。
野菜室の中では二匹のタブンネが、一房のホウレンソウをつかみ合い、まるで綱引きのように引っ張り合っていた。
二匹ともまだ小さく、25~30㎝といったところだろうか。俺が上から見下ろしてるにもかかわらず、二匹はこちらに見向きもしない。とても野生のそれとはかけ離れた警戒心のなさに、俺は荒らされた部屋の事もわすれ、しばし二匹に見入っていた。
タブンネが綱引きに夢中になっていると、ついにホウレンソウは千切れてしまい、二匹は勢いあまって仰向けに転んでしまった。そして必然的に、上から見下ろしていた俺と目が合う。
「ミキッ!」
一匹が俺を見て驚きの声をもらす。もう一匹は、驚きの余り声も出ないのか、俺を見つめたまま口をあんぐりと開け放っている。
そして俺と二匹はしばし見つめ合う。誰もがタイミングを計り損ねている。いや、どう行動したらいいのかすらもわかっていない。
膠着状態のなか、一匹がついに行動をおこした。ホウレンソウを握り締めたまま野菜室から飛び出すと、俺の足元をすり抜けて、侵入してきたであろう割れた窓ガラスの方向へ転がるように走り出す。
もう一匹は野菜室の中でホウレンソウを握り締めあたふたとしている。示し合わせた行動というわけではないようだ。
俺はゴルフクラブを放り、逃げようとした一匹の尻尾を、そして野菜室の中の一匹の触覚を掴み逃亡を阻止する。
(ここより便宜上逃げ出そうとしたほうを一号、もう一匹を二号と記載します)
俺はというと今だあっけにとられ、とりあえず捕まえた二匹を顔の高さまで吊り上げてみた。尻尾を掴まれた一号、触覚を掴まれた二号、どちらも相当敏感な部位らしく、ミキャアミキャアと子供特有の甲高い声で騒ぎながら、手足をばたつかせている。
突如「プッ」という音が聞こえたかと思うと、一号の尻から緩い便が飛び出し、俺の足の甲に落下した。靴下越しにほのかな温かみを感じる。
おそらく興奮の余り脱糞してしまったというところだろうが、俺はこの行為に激しく激昂した。
「こらぁ!」
俺は怒りに身を任せ二匹に激しく声をあびせる。ミキャアミキャアと騒いでいた二匹はビクッとし、手足をばたつかせるのをやめた。その引き換えに、二匹は痙攣したように震えだす。
するとまたもや足付近に湿った温もりを感じ始めた。どうやら今度は二号が、恐怖のためか失禁してしまったようだ。もはや俺の足は二匹の汚物にまみれてしまっている。
汚物が熱を失い、足元がひんやりとしてくると、俺はわずかに冷静さを取り戻しつつあった。俺は二匹を持ち上げたまま部屋を見渡す。
割れた窓ガラス、泥だらけのリビング、汚物にまみれた台所。
一日の就業を終え、肉体を行使し、上司や同僚の理不尽に耐え精神をすり減らした体を癒す空間を、この侵入者どもが蹂躙した。
俺の生活に、俺の心に余裕があれば、俺はこの可愛い侵入者をなんのことなく外へ逃がしてやっただろう。あるいは大家に隠れて飼ったかもしれない。
だが悲しいかな、俺の顔の前で宙ぶらりんになりプルプルと震えているこの幼いタブンネ二匹が、俺には憎悪の対象としてしか写らなかった。
俺は足を器用に動かし、足の甲に乗った一号の便を二号の尿だまりの上に移動させ、その上に一号を叩き付けた。
「ミキュッ!」
一号は叩きつけられた衝撃と、自らの汚物の臭気に思わず顔を上げようとするが、俺は躊躇なく一号の体の上に足を乗せ、身動きが取れないようにする。
うつ伏せで押し付けられた一号の呼吸だろうか、汚物の水溶液にコポコポと小さな気泡が生じている。
俺はその隙に近くにあった荷造り用のビニール紐を手にすると、怯えている二号の胴を両腕ごと、きをつけの姿勢でぐるぐる巻きにしあげ、同じく汚物の上に落とす。
「ミッ!ミ・・・ェッ!」
どうやら二号は落下の衝撃で口の中に汚物が入ったようだ。顔を顰めながら微かにえづいている。俺は次に汚物に塗れた一号を掴み上げる。一号の顔には自らの便が塗りつけられていた。一号も同様に縛り上げる。
俺は縛り上げた二匹をあらためて顔の前に持ってくる。手が汚物に塗れてしまっているが、もはやそんな事は気にならなかった。
二匹のベビンネは俺の顔を見ると、どうやら俺の顔は相当恐ろしい形相をしていたようで、突然二匹で示し合わせたのようにミイミイと困り顔で媚びた声をあげはじめた。
タブンネの触覚は他の生き物の感情を理解できると聞く。俺は二匹の触覚を握りしめ宙ぶらりんにした。
「ミィィィ!ミキャァァ!」
やはり相当敏感な部位なのであろう、二匹は甲高い声で鳴き始めた。俺は苦しそうに、芋虫のようにもがく二匹をしばらく観察した。
「・・・ごめんなさいはないのか」
俺は自分でも驚くほど低い声で二匹に語りかける。ベビンネ達はそれに応えるように一瞬もがくのを止め俺の顔を見るが、やはり触覚を掴まれた痛みの方が強いのか、また甲高い声と共にもがきだす。
「ごめんなさいはどうしたぁ!」
俺はベビンネ達に再び怒鳴りつけるが、どうやら逆効果だったようで二匹は縮み上がってしまい、チィ・・・チィ・・・とついに泣き出してしまった。
気づけば俺はその姿に、嗜虐的な感情で見入っていた。触覚を掴まれた痛みと、目の前の男の恐怖からか細い声で泣いているこのベビンネ達に、さらなる恐怖を与えてやりたい、そんな感情に取り付かれてしまった。
俺はベビンネ達の触覚を掴んだまま風呂場へやってきた。湯船の中を見ると、昨晩溜めた湯がすっかり冷め、この状況にもってこいの水攻め拷問具になっていた。
俺はベビンネ達を同時に湯船の中に放り込む。
「ミッ・・・ミプゥ!ミピィー・・・ッ!」
ベビンネ達は両腕を縛られた状態で、足をバタバタと上下させ、何とか水面にたどり着いては、泳ぎ疲れてまた沈む、を繰り返している。
しばらくその状態を観察する。苦しそうな表情で上下し、時たま思い出したかのように俺を見つめ「チィィ!」と助けをこう事も忘れない。
10分位が経過しただろうか。二号がついに、どんなに足をばたつかせても浮かび上がらなくなった。湯船の底に足が着いてしまい、苦悶の表情でもがいている。
「ミッ・・・チィッ・・・」
なんとかぎりぎり水面付近を保っていた一号も、後を追うように湯船の底へと沈んでいく。
ベビンネ達は示し合わせたように湯船の底でもがき苦しんでいる。俺はその様にしばし時を忘れ見入っていた。
しかしその状態も長くは続かなかった。二号がコポッと大きな気泡を出したかと思うと、ゆっくりと浮かび上がってきたのだ。
俺は慌てて二匹を掴み上げると、隣接する脱衣所のマットの上に放り投げた。ベビンネ達はケホッと小さなせきをすると、それを皮切りに、うつ伏せになって大量の水を吐き出した。
そして、恐怖のためか、または寒さのためかは分からないが、ブルブルと震えだし、か細い声で「ミィィ・・・チィィ・・・」と再び鳴き始めた。
俺はしゃがみこみ、縛り上げたベビンネ達に再び語りける。
「で、ごめんなさいは?」
ベビンネ達はビクッとして俺の顔を見る。すると今まで以上に怯えだし、芋虫のように二匹で寄り添いあい、こちらを見つめたままさめざめと泣き始めた。
なぜベビンネ達がこんなに怯えているのか、今度は俺もはっきりと理由が分かる。自分を水攻めに合わせた男が、苦しむ自分達を眺めて嬉々としているからだ。そう、俺は笑っていた。
俺は一旦ベビンネ達を放置し、汚れた部屋の片付けへと向かった。リビングに飛び散ったガラスを拾い集め、ベビンネ達の足跡を雑巾でふきあげる。自分でも気づかないうちに鼻歌まで歌っていた。
窓の大穴をガムテープで塞ぐと、俺は台所へ向かった。野菜室は案の定散々だった。まるで鼠に食い荒らされたかのように、ほぼ全ての野菜に歯型がついてしまっている。
だが俺は30分前のように激昂したりはしなかった。むしろ、これからベビンネ達に行う事への大義名分が出来たとさえ思える。俺は野菜室から目当ての物を取り出すと、脱衣所へ戻っていった。
脱衣所へ戻ってみると、うつ伏せの二号に縛りついているビニール紐を、一号が口を使って噛み切ろうとしていた。
「手伝おうか?」
「ミピッ!?」
一号は文字通り二号の上から飛び跳ねると、うつ伏せのまま額を床に擦り付け、「ミィ・・・ミィィ・・・」と媚びた鳴き声を出す。二号は俺から少しでも遠ざかろうと、匍匐前進を披露している。
俺はベビンネ達を一瞥すると、謝罪に夢中な一号を掴み上げ、逃げる二号の足を持って手繰りよせた。
俺は怯えるベビンネ達を、まるで愛おしいものをそうするように胸にそっと抱き寄せた。ベビンネ達は俺の態度の急変に、その可愛らしい目をパチパチさせていたが、野生の本能がそうさせるのか、二匹とも俺の胸に触覚をあてがった。
「ミ・・・ミィーッ!ミピィーッ!チィーッ!」
ベビンネ達は、俺が抱いている感情をその触覚で察したのだろう、胸の中でもぞもぞと暴れだした。
俺は試しにベビンネ達を床に放り投げてみる。ベビンネ達は競い合うように俺から遠ざかろうとしてもがいている。その姿に俺は思わず口元をゆがませる。
俺は逃げる一号の尻尾を掴み手元に手繰り寄せ仰向けにさせる。一号はその綺麗な目から涙を流してチィチィともがいている。俺は一号の胴を手で押さえつけ、逃げるのに必死な二号に語りかける。
「もっと遠くまで逃げてみせろ!もしかしたらお前は助かるかもしれないぞ!」
二号はビクッとこちらを振り向く。その二号に対して一号は「ミピィーッ!チィーッ!」と叫び始めた。これが「助けて」なのか「君だけでも逃げて」なのかはわからないが、
二号は悲しそうな顔で一号にむかって「チィ・・・」とか細くなくと、再び前に向き直り這いながらリビングへと姿を消した。
「さあ糞っ垂れ。用意はいいかい?」
俺は口元を歪ませて、一号の体を優しく撫で回す。先ほどの水攻めでしめった毛並みが指に絡み付いてくるが、なぜかとても心地よかった。
一号はその小さな体をブルブルと震わせながらも、「ミィ・・・ミィ・・・」と媚びた鳴き声を喉から絞り出している。
俺は愛撫する手とは逆の手で懐をまさぐると、熟れたレモンの果実を取り出した。
俺は愛撫するのを止め、一号の頬に手をあてがうと、ぐっと握るように力を込め無理やり口を開かせた。
「ミュッ・・・!アアイ・・・!」
舌足らずな口調になった一号の口の真上で、レモンの果実を思い切り握りつぶす。果汁が一号の口、そして図らずも鼻の穴に流れ込んでいく。
「ミュッ・・・ミピィ!」
一号はレモンの酸味に顔を歪ませ、鼻の穴から果汁を吹き出しながら、いやいやという風に顔を左右に振り始めた。
「こら、そんなに頭をうごかしちゃ、他のところにも入っちゃうかもしれないよ?」
俺は優しく一号に語り掛けると、一号の目蓋を無理やり開かせた。一号は、俺の意思を知ってか知らずか、「ミュィィ!ピィィ!」と俺の手の中でもがいている。
俺は一号の眼球に、レモンの果汁を真上から大量に注ぎ込んだ。
「ピィィィ!チィィィ!」
あらかた注ぎ終えたところで、押さえつけていた手を放してやる。相当しみるのだろう、一号は涙とも果汁ともつかない液体をかたく瞑った目蓋から流し、床の上をゴロゴロと転げ周っている。
俺はレモンの果肉を手のひらで握りつぶし、再び一号の目蓋を開かせると、潰れた果肉が眼球内に入るよう、念入りにこすりつけた。
「ミピィィィ!ピィィィ!ピキャァァ!」
俺は一号の悲鳴を背に、脱衣所からリビングへと戻ってきた。次は二号だ。俺は一本のボールペンを手に取ると、辺りを見渡した。
どうやらリビングに二号の姿は無いようだった。まさか本当に逃げ出したのか?俺はさらに念入りに探すため、玄関の方を覗いてみた。
俺が帰宅時に投げ捨てた鞄。その中から、真っ白なホイップクリームが覗いている。俺は思わず吹き出しそうになったが、あえて何も口に出さず、鞄へ近づいていく。
そして鞄に顔を近づけて、まじまじと鞄から飛び出した尻尾を観察してみる。おそらくさっきの一号の悲鳴も聞いていたはずだ。恐怖のためか、プルプルと細かく震えているのが愛らしい。
本人は完全に隠れたつもりなのだろうか。だとすれば、無駄に毛の多い尻尾が完全に仇になった。野生の過酷な環境下でこんな物をどう使うのかは皆目見当が付かない。
俺はあえて無言で二号を鞄から引っ張り出す。二号は「ミピッ!」と短い悲鳴を上げたが、無様にも尻尾をつかまれさかさまにぶら下がっている二号は、この場に似つかわしくない光を目に宿していた。
「ミーッ・・・!ミィィィィ!!」
二号は俺の顔を真っ直ぐ見つめ、瞬きすらすることなく、乳歯をむき出しにして、威嚇と思われるうなり声を上げた。これには俺も面食らった。今までずっと無様にはいずって逃げ回ってばかりだった二号が、いっちょまえに威嚇行動とは。
まったくこいつらは、本当に笑わせてくれる。
俺は二号を床に叩きつける。
「ミキュッ!・・・ミィィィ!!」
縛り上げられて受身のとれない二号は、体をしたたか打ちつけた衝撃で可愛い悲鳴を上げたが、すぐさま威嚇行動に転じてきた。俺はうつ伏せの二号の尻尾を軽く摘み上げると、目当ての部位を探す。
その間二号はずっと威嚇していたが、どうあがいても自由の利かない体、声色に若干の不安げな音も混じり始めた。見つけた。肛門だ。
俺は二号の尻尾を持ち上げ、ほぼ逆さまの状態にすると、先ほどのボールペンを肛門に三分の一ほど挿入した。
「ミィ・・!ミッ・・!キュッ・・・!」
雄雄しかった鳴き声から一転、二号は苦しそうな鳴き声をあげると、陸にうちあげられた魚のように口をパクパクさせている。俺はまるで肛門を拡張するように、ボールペンを円を描くように回し始めた。
「ミ・・・!キュァァ・・・!ミキュッ!」
プッと小気味のいい音がしたかと思うと、肛門とボールペンの間から軟便が飛び出してきて床を汚してしまった。二号の顔をあらためて覗いてみると、苦しさのためか羞恥のためか、目をギュっと瞑り、歯を食いしばり、顔を真っ赤に染めている。
しかし俺が覗き込んでいるのがわかると、再び「ミィィィ!!」と威嚇してきた。だが先ほどより元気がないのは気のせいではないだろうが。
俺は無言のまま、二号の肛門にボールペンを、さらに奥深くまで挿入する。ボールペンの半分が二号の肛門に収まった。
「ミィィ・・!ミ・・・ッ!」
威嚇途中に挿入したためか、二号の鳴き声はまるでステレオのボリュームを下げるように小さく、か細くなっていく。俺はボールペンを垂直に持ち上げ、串刺しになった二号の顔を俺の顔の正面にもってくると、優しく声をかけた。
「自分の粗相は、自分で片付けないと駄目だぞ」
俺はボールペンが挿入されたままの二号を、ボールペン部分を取っ手に、まるで小さなモップのように持ちながら汚物へと近づけていく。二号もなにをされるのか検討がついたのだろう、頭を左右に振りながら、「ミーッ!ミィーッ!」と叫んでいる。
俺はまるで顔に摺り込むように、二号を器用に使い汚物を擦り始めた。
「ミッ・・・ェッ!チィィ・・・!」
先ほどの威嚇の威勢はどこへやら、二号はえづきまじりの小さな悲鳴をあげながら、体を強張らせ、俺のなすがままに汚物まみれになっていった。
俺は汚物にまみれた二号を手に、再び脱衣所へと戻ってきた。一号は目を固く瞑りながら、未だ涙を流し、縛られている両手をモゾモゾ動かしていた。おそらく本能的に手で目に入った異物を取り除こうとしているのだろう。かなわぬと知っていても、痛みのあまりといったところか。
俺は二号を洗面台の上にもってくると、腸内が傷つかぬようゆっくりとボールペンを引き抜き始めた。
「ミ・・・!チキュィ・・・!」
二号は体をプルプルと震わせ、歯を食いしばりながら、腸内で異物が蠢く苦痛を必死に耐えていた。ようやく全部が抜け終わると、「チィ・・・」とか細く鳴き、糸の切れた人形のように脱力した。
俺は二号を洗面台でざっと洗うと、涙を流して頭をフリフリ振っている一号もつかみあげ、洗濯ネットの中に放り込み、ジッパーで封をする。サイズ的には若干余裕があるといったところか。
二号は一号が涙を流して「チィ・・・チィィ・・・」と鳴いているのを見ると、献身的に一号の目蓋の辺りをペロペロと舐めてやっている。
俺はベビンネ達の入った洗濯ネットを洗濯機に放り込むと、すぐさま蓋を閉めた。
俺は間髪いれず注水ボタンを押す。水量は最も少ない20リットルだ。ベビンネ達に死なれたり、障害を残してはこまる。
洗濯機の中に注水が始まった。うすら恐ろしい、くぐもった音を鳴らしながら、洗濯機の中が水で満たされていく。
「ミッ・・・ポッ!ミピィィィ!ミキャァァ!・・・!」
ベビンネ達の悲鳴は、悲しいかな洗濯機の駆動音にかき消されてしまった。
この有給は、どうやら実りある物になりそうだ。
一日目 終
2日目
カーテンの隙間から柔らかな朝日が部屋に入り込み、ベッドの上、俺の顔を暖かく照らしている。俺は寝転んだまま大きく伸びをすると、ベッドから起き上がり、煙草に火をつけ、ゆっくりと紫煙をはきだす。
俺は思う。今まで生きてきた20余年で、こんなにも清清しい朝が過去にいったい何度あったろうか。俺は昨晩の刺激的で、それでいてどこか淫靡な体験の一つ一つを頭の中で反芻していた。
俺はしんと静まり返った脱衣所にやってくると、洗濯機の蓋を開いた。中ではベビンネ達の入った洗濯ネットが、まるで本物の洗濯物のようにドラムの壁面にへばりついていた。
ベビンネ達は、洗濯ネットの中で体を縛られたまま、スウスウと小さな寝息を立てていた。時折寝苦しいのか「ミヒュゥ・・・」と小さな鳴き声も交じっている。
俺はその光景に満足すると、ベビンネ達を起こさないようゆっくりと洗濯機の蓋を閉め、寝巻きから私服に着替えると、バケツを持って外出した。
俺は家から5分とかからない近所の公園に到着すると、周りに誰も人がいないことを確認し、砂場の砂を持参したバケツの中に適当にかきこむ。ある程度大きな生き物を飼育するとなればトイレは欠かせない。
帰宅し、以前実家の母親に送ってもらった物資が入っていた大き目の発泡スチロールに公園の砂をぶちまけると、手で平坦にならした。簡素だがトイレはこれで十分だろう。
そうこうしていると脱衣所からゴトゴトという物音と「ミッミッ」という鳴き声が聞こえ始めた。どうやら我が家の新しいアイドルがお目覚めのようだ。俺は逸る気持ちと共に脱衣所へ向かうと、洗濯機の蓋を開ける。
「ミピッ!」
仰向けでもがいていたベビンネ達は、俺の顔を見るとビクッとしてもがくのを止め、引き換えにプルプルと体を震わせながら「ミィ・・・ミィ・・・」と媚びるように、怯えるように鳴きだすと、その綺麗な目から涙を流し始めた。
俺はそのいじらしい仕草に言い知れぬ満足感を覚えた。どうやら昨日の洗濯機攻めの効果は抜群だったようだ。俺はベビンネ達をネットから取り出すと、震えるベビンネ達を片手に一匹ずつ持って先ほど自作した簡易トイレの上に放り投げた。
「ミキュッ!」
うつ伏せに落下した衝撃でベビンネ達は短い悲鳴をあげたが、すぐに二匹で競いあうように匍匐前進して簡易トイレから脱出する。そして昨日ベビンネ達が叩き割った、ガムテープで補強済みの窓ガラスの前にやってきて、困り顔で俺を見上げてきた。
「ミィ・・・ミィィ・・・」
ベビンネ達は上目遣いで俺と窓ガラスを交互に見つめながら、媚びた声で鳴く。おそらく「外に出して。僕らを解放して」という意思表示だろう。
「ああ。いいとも」
俺はうつ伏せのベビンネ達を立たせてやったあと、窓ガラスの鍵を開け、窓を開放した。開け放った窓から秋の朝特有の肌寒い風が吹き込んできて、ベビンネ達の体毛をさわさわと撫でている。
だがベビンネ達は外に駆け出すことなく、困り顔で俺の顔を見上げると「ミィ・・ミィ・・」と例のごとく媚びた鳴き声をあげ始めた。
その理由は簡単だ。未だにベビンネ達の胴体は、荷造り用のビニール紐で腕ごと縛り上げられているからだ。この媚びた鳴き声は「この拘束を解いてほしい」というとこだろう。
「その紐はお前達への罰だ。ほどかないよ。さあ、出て行くか、ここに留まるかを選ぶんだ」
ベビンネ達は絶望の表情で俺を見つめると「ミッ・・ミッ・・」とか細い鳴き声と共にさめざめと涙を流し始めた。当然の反応だろう。手も満足に使えない状態では餌をとるとれないの問題以前に、天敵に捕食される運命が定まったようなものだ。
いくら幼いとはいえ、野生の経験上その程度のことはちゃんと理解しているらしい。俺はニヤリと口元を歪ませると、絶望するベビンネ達の前で窓ガラスをゆっくりと閉めた。ベビンネ達は名残惜しそうに、涙を流しながら外の光景を眺めていた。
俺は朝食を済ませた後、ベビンネ達の餌を作り始めた。ベビンネ達のちょうど首までが納まるくらいの深さの鍋で湯を沸かすと、その中に、昨日ベビンネ達が歯形をつけて使い物にならなくなった野菜を投入する。
申し訳程度に塩、胡椒をふったあと、水溶き片栗粉を混ぜ、あんかけ状にしあげた。火を止めた後試しに指を突っ込んでみると、案の定飛び上がるような熱さに仕上がっている。
俺は突っ込んだ指をさますために口でしゃぶりながら、これから起こることを想像すると笑みをこぼすのを禁じえなかった。
「さあ、餌の時間だぞ」
俺は窓辺でたそがれているベビンネ達に声をかけると、あんかけの入った鍋をリビングの床に直接置いた。
ベビンネ達はこちらを振り向くと、鼻をスンスンとさせ、涙目から一転、嬉しそうな顔で「ミッ!ミッ!」と鳴くと、転ばないよう気をつけながらヨチヨチと鍋に近づいてきた。
ベビンネ達は鍋を覗き込むと、綺麗な目をより輝かせる。ベビンネ達が野生でどんな物を食べていたかは分からないが、昨日野菜室で嬉々としていたことを考えると、目の前のこれはご馳走の部類に入るのだろう。
ベビンネ達は「ミッミッ!」と嬉しそうな声で鳴くと、俺を見つめながらまるで鳥の雛のように口をあんぐりと空けている。手の自由が利かない自分達に代わって、俺が餌を食わせてやるのを期待しているのだろう。
「食事の時間は10分だ」
俺はそう言い残すと鍋から離れ、ベッドに腰掛けてベビンネ達を観察する体制に入った。ベビンネ達は俺が食事の補助をしてくれないと悟ると「ミィ・・ミィ・・」と例のごとく媚びた鳴き声をあげ始めたが、
しばらく放置していると、諦めたのか鍋のふちへと近づいていった。
ベビンネ達は前かがみになり、ほぼ同時にあんかけに舌をつけるが「ミピッ!」と悲鳴をあげるとこちらを振り向き「ミィ・・ミィ・・」と困った顔で鳴き始めた。あんかけが熱すぎる事に対して「どうにかしてほしい」というアピールのつもりだろう。
「あと8分」
俺が抑揚のない声でそう告げたのを聞くと、一号はまだ俺に向かって「ミィ・・ミィィ・・」と鳴いていたが、二号が行動に出た。
二号は鍋に対して前かがみになると、あんかけの表面に浮いていたホウレンソウを咥えあげる。
「ムミィーッ!チィーッ!」
咥えあげたホウレンソウは思いのほか長く、熱々のあんかけと共に二号の体にベッタリとへばりついている。一号はその姿を見て「ミィィ!」と慌てていたが、やはり熱いのはいやなのだろう、何も行動出来ずにいた。
だが二号はプルプルと震えながらも熱さに必死に耐え、頭をフルフルと振り体からホウレンソウを引き離すと、それを床に落とした。そして一号に「ミッ!ミッ!」と呼びかける。「食べて」といったところか。
一号は目を輝かせると、特に二号に対する礼もなくホウレンソウにむさぼりつき始めた。二号はまた鍋に向き直ると、あんかけの表面に浮いた野菜を探している。
俺は思った。なかなか二号はいじらしい奴だ。だがいじらしい奴ほど、虐めてやりたくなる。
「それじゃ探しづらいだろ。どれ、手伝ってあげるよ」
「ミキュッ!?」
俺はそう言うと、前かがみになっている二号のフワフワな尻尾をつまみ上げ、二号を鍋の真上までもってくる。二号は俺の意図に気がついているのかどうかは分からないが、やはり尻尾は相当敏感なのだろう「ミィィ!」と鳴きながらもがいている。
俺は二号をあんかけの中に叩き付けた。二号の姿は完全にあんかけの中に沈んでしまったが、すぐにあんかけの表面から頭を出すと、けたたましい声で泣き叫び始めた。
「ミピィィィ!ピィィィ!ミキュィィィ!」
やはり相当熱いのだろう、二号はあんかけまみれの頭をフルフルと振り回しながら、苦悶の表情を浮かべている。ホウレンソウに夢中だった一号も二号の悲鳴に驚き、鍋の中の二号を見るや否や「ミィィィ!」と慌てふためいている。
「ピィィィ!!ンミィィィ!!」
一号がまごついている間にも、二号の悲鳴はどんどん大きくなり、顔も赤くなっていく。反対に一号は顔を青くして俺の足元までよちよち歩いてくると、自らうつ伏せになり、額を床に擦り付けながら「ミィィ・・ミィィ・・!」と媚はじめた。
おそらく「二号を助けて」といったところだろう。俺は近くにあったハサミを手に取り、笑みを浮かべながら一号に語りかけた。
「いいだろう、助けてあげようじゃないか」
一号は俺の言葉に顔を上げる。その顔には若干の希望の色もみえた。だが俺はさらに続ける。
「君がその可愛い尻尾を俺にくれるならね」
一号は俺の言葉に顔をさらに青くさせ、「ミィィ!ミィィ!」と鳴きながら頭を左右に振る。俺は一号を掴み上げ、鍋の方向、灼熱の責め苦に苦しみ、先ほどより弱弱しくもがく二号を見せ付けてやった。
俺は苦しむ二号を目の当たりにしてプルプルと震える一号をそっと床に戻し、優しい声色で語りかける。
「で、どうする?」
一号は震えながら涙を流しつつも「ミィ・・・」とか細い声で鳴くと、俺に向かってゆっくりと尻を突き出した。一号は自分の尻尾よりも二号を選んだようだ。
一方二号は鍋の中で虚ろな目をして「ミ・・ミッ・・」と弱弱しく鳴いているが、もがくことだけは止められないようだ。それを横目に俺はまず、プルプル震える一号の尻尾の半分をハサミで切った。ダンボールのようになかなか切りごたえがある。
「ミキャァァァ!!ンミピィィィ!!」
一号は、この小さな体のどこからこんな大きな声が出せるのだろうというほどの大きく、甲高い悲鳴をあげ、体を激しく震わせた。俺は言い知れぬ高揚感を覚え、少しずつ、じわりじわりと尻尾を切り進んでいく。
「ピィィィ!!ミャピィィィ!!」
途中一号は興奮の余り脱糞していたが、そんなことは気にならなかった。俺は一号の尻尾を切り取り終えると、約束どおり鍋の中の二号を引きずり出し、芋虫のように痛みにもがいている一号のそばへ放り投げた。
二号は床の冷たさに一時の涼を得たようだったが、尻尾のない一号が「ミィィ・・!ミピィィ・・!」とのた打ち回っているのを見ると「ミィ・・ミィ・・」と、涙を流しながら一号の元へ這っていき、かつて尻尾があったであろう傷口をペロペロと舐め始めた。
一号はそれがどうやら傷口にしみるようで「ミキュゥ・・!」と苦しそうな声をあげたが、二号の優しさを無碍にはできないのだろう、プルプルと体を震わせて耐えていた。
2日目午前 終
最終更新:2014年11月05日 13:28