空き巣ベビンネ2


2日目午後
噂には聞いていたが、タブンネという種族の再生力は、俺が思っていた以上に素晴らしいもののようだ。一号の切り取られた尻尾のあとの傷口は、二号が涙しながらペロペロと舐めている献身的なサポートの効果もあってか、既に薄く皮膚が張られ、さながら円形脱毛症のようになっていた。
俺が切り取った一号の尻尾を物珍しく思い眺めていると、一号は泣きはれた顔のまま俺の足元まで芋虫のように這ってきて、か細い声で「ミィ・・ミィ・・」と、俺の手にある、自分自身の文字通り形見である尻尾を見つめながら鳴き始めた。「おねがい、僕の尻尾を返して」といったところか。
俺はそのいじらしい姿を見て形容しがたい興奮をおぼえると、一号に対してニヤリと笑いかけ、一号の尻尾を勢いのままにハサミでズタズタに切り刻み始めた。
「・・!ミィィ・・!ミキュィィ・・!」
一号は自分の目の前でズタズタに引き裂かれていく尻尾を見つめながら、いやいやをするように頭を左右に振りつつ、再びさめざめと涙を流し始めた。俺は一号の反応を存分に満喫すると、ズタズタになった尻尾を生ごみ用のごみ箱へと放り込んだ。
一号は自分の尻尾が放り込まれたごみ箱へ「ミッ・・ミッ・・」と泣きながら這っていくが、所詮は一人で起き上がることさえままならない体、自分の力では取り出すことは出来ないと悟り、体をプルプルと震わせ、声もなく静かに泣いていた。

朝食から大体2時間くらいがたったろうか。二号はすっかり塞ぎこんでしまった一号に「ミッ!ミッ!」と、困ったような顔をしつつも、一号に対して励ますような声をかけ続けていた。
すると突然二号は一号の元を離れ、俺の足元まで這ってくると、俺と窓を交互に見つめながら「ミィ・・ミィ・・」と媚びた声を上げ始めた。例の「僕達を解放して」アピールだ。これ以上自分と一号に被害が及ぶ前にここから逃げ出したいのだろう。
俺は二号を顔の前まで持ち上げ、二号の耳元でこうささやいた。
「一号の前で、その可愛い尻尾を俺がいいと言うまでフリフリと振って来い。そうすればお前をここから解放してやる。もちろんその紐も解いてな」

俺の言葉を受けて二号は泣きそうな顔になると「そんなこと出来ない」とでもいうように頭を左右に振った。尻尾を失った一号の前で自分の健全な尻尾をアピールするなどとても出来ないのだろう。だが俺はさらに追い討ちをかける。
「ならお前らは一生俺の玩具だ。身も、心も、お前らが死にたいと願うほどボロボロにしてやる」
俺の言葉を受けると、二号はプルプルと震えながら、ブルーの美しい瞳から涙を流し始めた。俺がしばらくその姿をニヤニヤしながら眺めていると、二号は観念したようにコクンと頷いた。

俺は二号を立たせてやる。二号はしばらく俺と一号を、まだ涙も乾ききってない顔でチラチラと見比べていたが、観念したようにヨチヨチと一号の方へ歩き始めた。二号は、うつ伏せでまだ放心している一号に向かって「ミ・・ミィィ・・」と遠慮がちに鳴く。一号は虚ろな目をしつつも、うつ伏せのままゆっくりと二号を見上げた。
二号は泣きそうな顔でしばらく躊躇していたが、おもむろに後ろを振り返ると、一号に対して尻を突き出し、真っ白でフワフワな尻尾をフリフリと左右に振り始めた。
「ミ・・ィィ?ミィィ・・?」
一号は二号の可愛らしい仕草を、口をあんぐりと空け「信じられない」といった表情で見つめた。一号の目から再び涙が流れ出す。対して二号も、今にも泣き出しそうな顔で、唇を噛み締めながら懸命に尻尾を振っていた。

俺は二号を再び掴み上げると、追い討ちをかけるように耳元で再びささやいた。
「一緒に歌も歌ってやれ。きっと一号も喜ぶ」
そして二号を、プルプルと震えている一号の近くにそっと下ろした。二号は再び涙しながら俺を見つめていたが、俺がキッと睨み付けると、二号は脅えたように俺から目をそらし、再び一号に向かって尻を突き出す。
「ミ・・ミ~ミィ・・♪ミ~ミ~ミィ~♪」
二号は俺の指示通り、一号に向かって尻尾をフリフリ振りながら、若干震えのまじる声で歌を歌い始めた。一号はしばらくその様を涙を流しながら呆然とした表情で見つめていたが、徐々に震えが大きくなり、歯をギリギリと噛み締めだし始めた。

「ミィィ・・!ミフーッ!ミフーッッ!!」
一号はついに怒りが頂点に達したようだ。流れるくやし涙を気にも留めず、白い乳歯をむき出しにして、二号に対して激しい威嚇をはじめ、うつ伏せで自由の利かない体のまま激しくもがき始めた。体二号はその威嚇に体をビクッとさせ、泣きそうな顔で俺を見つめてきたが、俺が険しい表情で二号を睨み付けると、再び一号に対して「・・ミ、ミィ~♪ミ~ィィ♪」と歌いながら尻尾を振り始めた。
「ミフーッ!!・・ミキュゥゥ・・ミフゥゥー!!」
一号は二号の行為に対して激しく激昂していたが、どうやら怒りの感情の中に悲しみも混じり始めたようで、威嚇の中に時折悲しい鳴き声も混ざり始めた。一号は最後に「ミィィィ・・」と涙声で鳴くと床に突っ伏し、体をプルプルと震えるのみになってしまった。

「よし」
俺が二号に止めの合図をすると、二号は涙を流しながら一号の元へ駆け寄り「ミィ・・ミィ・・」と悲しそうな声で一号に呼びかけながら、うつ伏せの一号の頭をペロペロと舐め始めた。しかし一号は、しんと黙ったまま体をプルプルと震わせるのみで、二号の方など見向きもしなかった。二号はそれがつらいらしく媚びた鳴き声をさらに媚びさせ一号に呼びかけるが、まったくもって効果はないようだった。
俺は相変わらず一号をペロペロと舐め続ける二号を持ち上げると、ハサミで二号を束縛していた紐を切り、窓辺に二号を放り投げると、窓を開け放った。
「出て行け」
俺が二号にそう語りかけると、二号は困惑の表情を浮かべ、うつ伏せで死んでいるような一号を指差し「ミッ!ミッ!」とけたたましく鳴き始めた。「一号も開放して」といったところだろう。
「誰が一号も開放すると言った。どうする?出て行くのか、ここに留まるのか」

二号は俺の言葉を受けるとさめざめと泣き出し、外と一号を交互に見つめていた。きっとこいつは一号の身を案じてここに留まるだろう。俺はそう思っていた。
しかし二号は一号に向かって「ミィィ!」とひときわ大きな声で鳴くと、脱兎の如く外へと飛び出して行ったのだった。

二号の行動には俺も少々面食らった。二号はこちらを振り返ることなく茂みまで一目散に走っていくと、茂みをガサガサと揺らしながら奥の方へと去っていったようだった。
少々もったいないことをしたかな。俺はそんなことを考えながら窓をしめ終わると、あらためて一号の様子をうかがう。一号はまだうつ伏せのまま体をプルプルと震わせていた。うつ伏せの状態なのでよくは分からないが、どうやら声もなく涙を流しているようだ。
俺は一号を軽くつま先で小突き、見下ろす形で語りかけた。
「二号は去っていったよ。お前を見捨ててな」

一号は俺の言葉に耳をピクリと動かしたが、それ以上の反応はなく、相変わらず体をプルプルと震わせるのみだ。俺はさらに続ける。
「二号はこれからどうするんだろうな。お前と違って何の束縛もない自由な体で存分に人生を満喫して生きていくんだろうか。あのフリフリで可愛い尻尾で雌をたぶらかしてな」
俺の言葉に一号は2,3回耳をピクピク動かし体の震えも徐々に大きくなっていったが、それだけだった。うんともすんとも言うことなく、うつ伏せの状態を維持している。俺はそれが気に食わなかった。
「おい、何とか言えよてめぇ」
俺は乱暴に一号を掴みあげてこちらを向かせる。一号の顔は俺の想像通り涙と鼻水でグチャグチャになり、人間の子供のようにしゃっくりまでしていた。だが、以前のように媚びた鳴き声も、脅えた鳴き声も上げることなく、ただ俺を光のない目で見つめていた。

だめなんだよ。それじゃあだめなんだ。わかるか一号?お前らベビンネ達は常に俺に畏怖の感情を抱き、俺が求めるときにはもがき、媚び、泣き叫ばなきゃならない。俺は一号の細く短い首に指をあてがうと、グッと締め付けるように力をこめた。
「・・ッ!ミ・・ッ・・ミチュ・・!」
俺が一号の首を締め付ける力と比例して、徐々に一号の可愛らしい目に光が戻ってくる。半開きになった口からは小さな舌がチロチロとのぞき、耳をピンと立たせ、苦しそうに足をパタパタと動かし始めた。目が裏返りそうになったところで、締め付けていた指を離してやる。
一号はケホケホと咳き込み、目は涙ぐんでいたものの、やはり以前のように媚びることも、泣き叫ぶことはなかった。いいだろう。お前が生意気にも俺の意思に従わないというのなら、そのお前の意思を俺が試してやる。

「参ったよ一号。お前も立派になったもんだ。それじゃあ一つゲームをしようじゃないか」
俺は一号を砂の敷き詰められた簡易トイレに叩きつける。一号は衝撃でピクンピクンと2,3回痙攣したが、それ以上の反応はすることなく、静かに俺を見上げた。
「10分だ。10分間お前が一度も泣き叫ばなければ、二号のようにお前も解放してやる」
一号の表情がパアと明るくなり、俺の顔を見ながらコクンコクンと何度もうなずいた。俺は一号の承諾を確認すると、さらに続けた。
「よし。俺はゲームの準備に取り掛かる。ちょっと待っていろ。そうそう言い忘れた、お前がゲームに負けた場合、俺は、お前を殺す」
一号は俺の言葉を受けると、希望を取り戻しかけていた表情を恐怖に満ち溢れた表情に変え、俺の顔を見つめたまま、足の先から耳の先までプルプルと震わせていた。

「またせたな。さあ始めようじゃないか」
俺はハサミとボールペンを持って一号に近づく。準備といっても簡単なものだった。フライパンを空焼きし、レモンの果汁にマスタードを混ぜたものを用意しただけだ。ベビンネ達の体は実に可愛らしい。俺は必要以上に一号の体を傷つけるのを嫌った。
俺はうつ伏せでプルプルと震え恐怖に耐えていた一号を仰向けにした。一号の表情には若干の希望も見えるが、やはり何をされるか分からない恐怖の方が大きいのだろう、今にも泣き出しそうな顔をしている。実にいじらしい。俺はまず、一号の目蓋を無理やり持ち上げると、先ほど自作したレモン水溶液を一号のブルーの瞳に注ぎ込んだ。先に視界を奪うことで、恐怖を倍増させるためだ。
「ミ・・!・・ミッ・・!」
一号は、泣き叫びこそしないものの、やはり相当の痛みなのだろう、体をプルプルと震わせ、足と耳をピンと硬直させながら、若干のか細い声をもらした。もちろんこの程度でゲームオーバーにする気はない。

レモン水溶液を注ぎ終える。一号は昨日のように、目を固く瞑って涙を流し始め、依然体を硬直させている。俺は次にボールペンを手に取ると、まるで赤ん坊のオムツを換えるときのように、仰向けの一号の両足を持ち上げた。尻尾を切り取ったおかげで肛門は簡単に見つかった。俺は一号の肛門にボールペンをあてがうと、ゆっくりと挿入を始めた。
「・・ミ・・!・・ッ!・・ミキュ・・!」
俺は円を描くようにボールペンを回しながら挿入する。一号は口を半開きにし、肛門をヒクヒクと動かしながら、腸内に異物が進入してくる不快感に耐えている。ボールペンを半分ほど挿入すると、突如ボールペンの先が柔らかい壁に当たったような感触がした。どうやらここが行き止まりのようだ。俺はその柔らかい部分をボールペンでグッグッと刺激してみた。
「ムミィ・・!ミィィ・・!」
やはり相当苦しいようで、相変わらず耳の先をピンと硬直させ、体をプルプルと震わせながら、か細い声で鳴いた。

俺はボールペンを挿入したまま次の作業へ移る。一号はまだ苦しそうだが、さっきと比べると若干落ち着いたようだ。俺はハサミを手に取ると、一号の真っ白で可愛らしい足にあてがった。突然足に冷たい感触をおぼえた一号は体をビクッと反応させる。挿入したままのボールペンがピクピクと微かに動いている。俺は一号の反応を楽しむと、縦にゆっくりと一号の足に切れ目を入れた。
「ミ・・!・・ッ!ミピ・・・!」
動物は皮膚に近い部分に神経が集中していると聞く。一号の足に浅くつけられた傷から、ジワリと血がにじみ出てきた。一号は目潰しされた目を固く瞑り、口をあんぐりと空け、尻尾の代わりに挿入されたボールペンをヒクヒクと上下させている。俺はその調子で足、腹、耳など、至るところに切り傷をつけた。特に耳を傷つけた時の反応は愉快だった。体をブルブルと震わせ、涙を流し、失禁までしたのだ。まあそれを計算の上で、簡易トイレの上で拷問しているわけだが。
さてそろそろクライマックスだ。俺は一号に挿入してあるボールペンを、ジワリジワリ、回しながらゆっくりと抜いていく。一号はボールペンが円を描くのにあわせて「ミ・・ミ・・」とリズムよく小さな声で鳴いていた。俺はもう一度一号にレモン水溶液で目潰しすると、一号を掴み上げ、先ほどから空焼きしていたフライパンの前までやってきた。既に十分熱され、油もしいていないフライパンからは、白い煙が立ち上がっている。俺はその中に、残ったレモン水溶液を全て注ぎ込んだ。ジュウという音をたて、一気に水溶液は沸騰する。俺はその中に傷だらけの一号を放り込んだ。

「ミ・・!ミ・・!ミピィィィ!!ミピャァァァ!!ミィィィィ!!」
一号の目に、口に、傷口に、沸騰したレモン水溶液が入っていく。一号は頭を左右に振り回し、全身でもがき、ついに泣き叫んだ。おそらくこの悲鳴の中には「もうやめて」という意思表示も含まれているのだろう。だが俺はそう簡単にやめるつもりはなかった。俺はしゃもじを取り出すと、水溶液が一号の体中にいきわたるよう一号を炒め始めた。
「ミピャァァァ!!ンミィィィ!!ミピィィィ!!・・・ミッ・・・ミッ・・」
ついに一号は気を失ったようだ。フライパンの中で脱力し、肌の赤い部分はより赤く、白い部分も心なしか赤くなっていた。俺はフライパンをシンクの上に持ってくると中身をぶちまけた。グッタリとした一号もシンクの上に転がる。蛇口を目いっぱい回し、一号に冷水を浴びせかけた。一号は体をピクッピクッと痙攣させると、ゆっくりと目を開けた。俺は、まだ呆然としている一号を掴みあげると耳元でささやいた。
「約束は守ってもらうぞ、一号」
一号は俺の言葉を受けるとじょじょに目に光を取り戻し、同時にさめざめと涙を流し始め、イヤイヤをするように頭を左右に振りながら「ミィ・・ミィィ・・」と、久しぶりに媚びた鳴き声を上げ始めた。最後にその鳴き声が聞けてよかったよ。一号。

「ンミィィ!ンミィィィ!」
俺の部屋にくぐもった一号の鳴き声が木霊する。一号は、簡易トイレの砂の中に生き埋めにした。いずれ酸素が無くなり、一号は死ぬだろう。しかしこの楽しい遊びも終わりか。俺は少々寂しい気もしたが、割れたガラス代くらいは楽しませてもらった。これでよしとしよう。
相変わらず部屋には一号のくぐもった悲痛な叫び声が響いていたが、俺はもう一つあることに気がついた。部屋の中が臭いのだ。確かに振り返ってみると、ベビンネ達はいたるところで粗相をしていたから当然といえば当然か。
俺は換気のために窓を少し開けると、眠気を覚え、ベッドに横になったのだった。

「ミイィィィ!!ミイィィィ!!」
まどろみから覚めると随分と部屋が騒がしい。俺が薄目を開けて一号を葬った簡易トイレを見てみると、予想外の光景が広がっていた。あれは・・・二号か?どうやら空けていた窓から入って来たようだ。俺が一号を埋めた場所を必死の形相で掘り返している。そしてついに、一号の顔が砂の中から顔をだした。
「ミ・・ミ・・ミィィィィィ!!」
どうやら一号はまだ死んでいなかったようだ。ケホッケホッと咳き込んだと思ったら、けたたましい声で泣き叫び始めた。二号もその姿に涙し、一号に抱きついた。ベビンネ達は「ミッ・・ミッ・・!」と安堵の声を上げながら抱き合っている。しかし何で二号はわざわざ帰ってきたんだろうか。俺はしばらく、寝たふりをしてベビンネ達を観察することにした。

二号は何かを思い出すように一号から身を放すと、自分の尻尾を手で探り始め、一つのオボンの実を取り出すと、それを一号の前に置き「ミィ・・ミィ・・」と媚びた声を上げ始めた。どうやら二号は、さっきの尻尾フリフリに相当の罪悪感を感じていたようだ。謝罪の印といったところか。
一号は二号とオボンの実を交互に見ると「ミィィィ・・!」と鳴きさめざめと泣き始めた。そしてベビンネ達は、再び熱い抱擁をした。俺はベビンネ達が感傷に浸っている隙をつき、ベッドから跳ね起きると、空いていた窓をピシャリとしめた。俺が寝ていると思っていたベビンネ達は「ミピッ!?」と驚きの声を上げる。
「おかえり二号また派手に汚してくれたなあ。んん?」
どうやらこの楽しい遊びは、まだ終わりではないようだ。


俺は洗濯機の中を覗き込んでいる。その中では縛り上げられたベビンネ達が、洗濯機の回転する水流にもまれてグルグルと回っていた。かつてのトラウマを再び味わうこととなったベビンネ達は、時折水面から顔を上げると「ミィィ!!ミピィィ!」と悲痛な声を上げるが、息つく暇もなく容赦ない水流に流されていくのだった。
すると洗濯機がガコンという音をたて、その回転をやめた。そして中の水を排水していく。排水溝を中心に出来た渦巻きの中で、その回転に合わせてベビンネ達もグルグルと回っている。ベビンネ達は何とか渦巻きから脱出しようと、固く目を瞑り必死の形相で足をばたつかせているようだが、それも徒労に終わり、水が完全に排水されるのと同時に排水溝に思い切り叩きつけられた。
「ミッキュ!!・・ミィ・・ミィ・・」
ベビンネ達は洗濯機の底で、肩で息をしながらグッタリとしている。どうやらこれで終わりだと思っているようだが、こんなビチャビチャな体で部屋を歩かせるわけにはいかない。きちんと脱水もしなければな。洗濯機がゆっくりと回りだす。ベビンネ達は「ミ・・ミィ?」と不安な表情を浮かべキョロキョロと回転するドラムを見ていたが、あっという間に洗濯機は凄まじいスピードで回り始めた。
「ミィィィィ・・・・!!」
洗濯機の中からガコンガコンと、壁面にベビンネがぶつかる音が響く。ベビンネ達はまるでスーパーボールのように、ドラムの中で跳ね、叩きつけられ、振り回されていた。

俺は洗濯機を開けると、脱水の終わったベビンネ達を掴みあげた。ベビンネ達はゼイゼイと肩で息をし、その表情は虚ろで、瞳からは涙を流し「ミィ・・ミィ・・」と鳴いていた。特に二号の表情は愉快だった。一度は自由の身になれたが、情にながされまたこの地獄に帰ってきた二号。二号は俺の手の中でゆっくりと頭を左右に振りながら絶望の表情でしゃくりあげていた。
俺はベビンネ達をリビングの床に放り投げた。そして俺は二号がさっきもって入ったオボンの実を手に取り、まじまじと眺める。俺はポケモンには詳しくないのでわからないが、こんなものがこいつらの好物なのだろうか。そうしていると、一号と二号が俺の足元まで這ってきて、懇願する表情で「ミィ・・ミィ・・」と、オボンの実を見つめながら鳴き始めた。そういえば、俺はこいつらに昨日から何も食わせてやってない。相当腹が減っているのだろう、二号は汚らわしくもヨダレまで垂らしている始末だ。外で何も食ってこなかったのか。この間抜けめ。
「もっといいものを食わせてやるよ」
俺はそう言うと、オボンの実を生ごみのごみ箱へ放り込む。ベビンネ達はそれを見ると「ミィィ・・」と、泣きそうな顔でごみ箱を見つめていた。

俺は冷凍庫を開けると冷凍チャーハンを取り出し、500g全てを皿に移すと、電子レンジで加熱を始めた。部屋にチャーハンのいい匂いが漂ってくると、泣き顔でごみ箱を見つめていたベビンネ達は一転「ミッ!ミッ!」期待のまじる声で鳴き始め、鼻をひくつかせながら俺の足元へと這ってきた。どうやら空腹のベビンネ達は食欲に翻弄されているようだ。そんなにせかさなくてもたらふく食わせてやるよ。たらふくな。
「ほら餌だ。遠慮せず食えよ」
俺はチャーハンの入った皿を床に置いた。するとベビンネ達は競い合うように皿まで這って行き、必死の形相で、まるで豚のようにチャーハンにがっつき始めた。ベビンネ達は久々のまともな食事に感極まったのか「ミッ・・!ミッ・・!」と、涙まで流して必死にがっついている。俺はその光景をにやにやしながら眺めていた。役10分位がっついていただろうか。ベビンネ達は「ミボッ!」「ミブッ!」と満足げにゲップをすると、皿から離れていこうとした。だが俺はその前に立ちはだかる。
「おいおい、まだぜんぜん食ってないじゃないか。遠慮せずもっと食えよ」
俺の言葉を受けると、ベビンネ達は「ミィ!」と一声鳴き、頭を左右に振った。「僕達もうおなかいっぱい」というとこだろうか。俺は黙ってベビンネ達の触覚を掴み上げる。ベビンネ達は突然の痛みにミキャアミキャアと甲高い声で鳴き、宙ぶらりんのまま足をパタパタと動かし始めた。

「お前らは俺の厚意を無駄にするっていうんだな?」
俺はベビンネ達の触覚を掴んだまま、頭の中で考えうる限りの残虐な拷問を思い浮かべた。するとベビンネ達は触覚から俺の考えを感じ取ったのだろう、体をプルプルと震わせはじめ、目に涙を浮かべながらブンブンと頭を左右に振った。俺は震えるベビンネ達をチャーハンの皿の近くに下ろした。
「さあ、俺の言いたいことは分かったな?『遠慮せず』たっぷり食えよ」
ベビンネ達は俺の言葉を受けると、またも競い合うように皿へ這って行き、さっきとは別の意味で必死の形相で、今にも泣き出しそうな表情でチャーハンにがっつき始めたのだった。

「ミィィ・・ミボッ!・・ミィ・・ミィ・・」
俺がベビンネ達を脅してから30分くらいが経ったろうか。チャーハンは半分位に減った。既にベビンネ達の腹は二倍位にポッコリと膨らみ、顔は涙でグシャグシャで、明らかに食うペースも遅くなってきている。ゲップをする回数も多くなってきた。すると突然二号がうつむき「ミ・・ェッ・・」と鳴くと、体をプルプルと震わせはじめた。おそらく嘔吐する直前なのだろう。俺は低い声で二号に語りかけた。
「おい。もし吐いたりしたら殺すからな」
二号は俺の言葉に体をビクッとさせると、プルプル震えながらもコクンとうなずき、再び、ゆっくりとした動作ではあるものの、チャーハンを口に運び始める。一号も涙を流しながら、体を震わせてチャーハンを口に運んでいた。

それから再び30分くらいが経過した。チャーハンの量はさっきと比べてまったく変わっていない。そもそも500gというとこのベビンネ一匹の半分くらいの量だ。二匹がかりでも早々食いきれる量ではないだろう。ベビンネ達は皿のふちで涙を流しながらプルプルと震え、時折思い出したかのようにチャーハンを口に運んでは「ミィェ・・ッ」と嘔吐しそうになるのを何とかこらえている状態だった。
「おい。ぜんぜん食ってないじゃないか。もっと食えよ」
俺はそう言うと一号のまるで妊婦のようにポッコリ膨らんだ腹をつま先で小突いた。すると一号は固く目を瞑り、口を空けながら「ミ・・ェェ・・」と苦しそうな反応をする。その反応が気に入った俺は、何度も一号の腹を小突いた。
「ミ・・ッ・・ミェェェェ!!」
ついに一号は嘔吐してしまった。汚物が俺の足にもかかる。一号は凄まじい量の汚物を吐き出すと、しばらくほっとしたようゼエゼエと肩で息をしうなだれていたが、どうやら俺の言葉を思い出したようだ、プルプル震えながら俺の顔をゆっくり振り向くと、涙を流し、頭を左右に振りながら「ミィ・・ミィ・・」と媚びた声をあげはじめた。俺は一号を掴みあげると、耳元でささやいた。
「今度こそさよならだ、一号」

俺は一号の束縛をとき、胴体を掴みあげると台所へ向かった。一号は「ミィィィィ!!」と号泣しながら、俺の手の中で俺の手をペシペシと叩いたりと今までにない暴れ方をしている。二号もその様子を見て泣きながら「ミィィィィ!!」と激しく鳴きこちらに這ってこようとするが、ポッコリと突き出た腹が邪魔をし、うまく動けないようだ。俺は一号をオーブンに放り込むと、勢いよく蓋を閉めた。中では一号が相変わらず号泣しながら、内側から蓋をペシペシと叩いている。俺はリビングへ戻ると、食いすぎで身動きのとれない二号を掴み上げ、オーブンの前までつれてきた。一号は二号の姿に気づくと「ミィィィィ!!と再び激しく泣き出した。「助けて、ここから出して」といったところか。二号はそんな一号の姿を見てさめざめと泣き出した。俺は二号に耳打ちする。
「絶対に一号から目を逸らすなよ。逸らしたらお前も殺すからな」
俺の言葉を受けると二号は、これから何がおこなわれるのか察したらしく、俺の手の中でブルブルと震えだした。俺はオーブンの中で号泣している一号にニヤリと笑いかけると、オーブンのスイッチを勢いよく回した。ゆっくりとオーブンの中が赤くおぞましく光っていく。一号はそれにさらなる恐怖を覚えたのか「ミピィィィ!!」とさらに激しく鳴くと、オーブンの蓋に体当たりを始めた。二号はそんな一号の姿を見て、しゃくりあげながら「ミィィ・・ミィィ・・」とか細く、絶望に満ちた声で鳴いている。
「ミィィ!!ミィ・・?ミッ!!ミピャァァァ!!」
どうやらオーブンの中の温度がかなり上昇し始めたようだ。一号は真っ赤に光るオーブンの中で手足を振り回し激しく暴れだす。一号の耳の先から煙が上がりだすと、その反応はさらに激しいものとなった。二号はもはや声も出さず、体を激しく震わせさめざめと泣くのみだった。

「ミィィィ!!ピィィィ!!ミピィィィィ!!」
一号はオーブンの中を走り回るように暴れている。既に一号の体のいたるところからブスブスと煙が上がり始め、、耳にいたってはかなり黒くなっていた。
「二号、お前のお友達が今どんな気持ちか、その触覚で聞いてみろよ」
俺は恐怖と絶望でしゃくりあげている二号の触覚を掴むと、オーブンの蓋にペタリと張りつけた。

「ミ・・ミ・・!ミピャァァァ!!ミィィィィ!!」
どうやら二号に一号の意識が伝わってきたらしく、二号はイヤイヤをするように頭を振り回し、さらに激しく泣き叫びはじめた。俺はその姿に満足すると、オーブンの中でもがき苦しんでいる一号に声をかけた。
「火加減はどうだ一号!お前がそんな目にあっているのは俺の家で空き巣をはたらいたからだ!俺の家の窓ガラスを割ったからだ!俺の家の近くで暮らしていたからだ!お前が生まれてきたからだ!」
俺はさっきと比べると弱弱しくなって、体がブスブスと焼け焦げていく一号を、一号の苦痛を感じ取り、絶望の表情で泣き叫んでいる二号を見ると、笑い出すのを禁じえなかった。どうやら俺はこの有給でかけがえのない物を手にいれたようだ。俺はもう、誰にも止められないだろう。
最終更新:2014年11月05日 13:29