ミィミィデスマッチ1

某所の野外会場。日がとっぷりと暮れている。
場内の照明が消され、スクリーン替わりとして張られた白い幕に映像が映し出された。

カメラが草むらの中をかき分けて進んでいく。
ほどなくカメラは、タブンネの群れに行き当たった。
数組のタブンネの夫婦と子供達だ。それぞれの子供を抱っこしたり、
卵を温めたりして、「ミィミィ♪」「ミッミッ♪」と幸せそうだ。
突如現れたカメラに対して、怪訝そうに見たり、子供をかばう仕草などをしている。
ところがさらにタブンネ達の背後から、覆面をかぶった人間の巨漢が現れた。
片手には有刺鉄線をグルグル巻いたバットを持っている。
マスクは口元が開いたデザインだ。その口が大きく歪むように笑った。

覆面男はタブンネの群れ目掛けて襲い掛かった。
「ミギャアーー!!」有刺鉄線バットで殴打されたタブンネが吹っ飛んだ。
「ミィミィミィ!」「ヒィィ!」「ミビャアアア!」
タブンネ達はたちまち大パニックになって右往左往しながら逃げ惑う。
しかし覆面男の動きは素早く、有刺鉄線バットが一閃するごとに、
1匹また1匹と血だるまになったタブンネが倒れてゆく。

覆面男は子タブンネやベビンネに対しても容赦しなかった。
親の死骸に取りすがって「ミィミィ!」「ミェェン!」と泣く子タブンネ2匹は、
有刺鉄線バットを叩きつけられ、親の死体にめり込んで断末魔の痙攣を始める。
親に取り残され――といってもその親は既に撲殺されていたのだが――
よちよちと逃げるベビンネにも、バットが振り下ろされる。
「チビィッ!」悲鳴を上げたベビンネは、グシャグシャの肉塊に変わった。

さらに覆面男は、卵も片っ端から叩き壊してゆく。
「ミヒエエエエン!!」号泣する母親タブンネの声など、まるで聞こえていないようだ。
覆面男は1個だけ残した卵を手に取ると、カメラの方を振り向いた。
カメラもズームで覆面男を大写しにしてゆく。

覆面男がその大きな左手で卵を握ると、ピシピシとひびが入った。
右手で殻の上半分を剥がす。中には孵化前のベビンネの姿があった。
まだ目も開かず、この世に生まれる準備もできていないのに、外界の風に晒され、
戸惑ったように弱々しく「チュピィ…フィィィ……」と声を上げている。

邪悪な笑みを口元に浮かべた覆面男は、左手に一気に力を入れた。
たちまち卵の殻はグシャリと潰れ、中のベビンネは苦悶の声を上げる。
「フィィ!チヒィィ!キュヒィィーーー!」そして血しぶきが飛んだ。
「ミヒェェェーーーー!!」フレームの外から母親らしき絶叫が聞こえてくる。

満足げな笑みを浮かべた覆面男は、あえて生かしておいた子タブンネ数匹を、
血みどろの手で鷲掴みにし、カメラに向けてアピールした。
「見たか、タブンネども!これが俺のやり方だ!悔しいか?かかってくるか?
 OK!カモン、タブンネ! アイアム ザ・TAB(Tabunne All Butcher)!」

そしてチィチィ泣き叫ぶ子タブンネ達を抱えて、ザ・TABはのしのしと去っていった。
それに代わって、カメラはタブンネの群れを映し出す。
数分前までの幸せな光景は粉々に打ち砕かれ、仲間や子供の死体、卵の残骸を前に、
かろうじて生き残ったボロボロのタブンネ達はさめざめと泣いていた。
その内1匹が血に染まりながらも、怒りに燃えた顔を上げた。「ミィミィミィ!」
「あの人間…絶対許さないミィ!必ず復讐してやるミィ!」

映像はそこで終わり、観客の拍手と歓声と共にスポットライトが再点灯された。

ここはタブンネプロレス団体TWA(Tabunne Wrecking Association)の会場。
タブンネ虐待愛好会がスポンサーのTWAは、人間とタブンネのデスマッチをプロモートし、
たちまち巷のタブ虐ファンの熱狂的な支持を得たのである。

中でもエースの覆面レスラー、ザ・TABは
「人間相手では殺さないよう手加減しなくてはならないからつまらない」
という理由で、タブンネプロレスに転身したイカれたファイターである。
先程のプロモーション映像のように、野生のタブンネを襲撃しては虐殺し、
強引に遺恨を作り出してはタブンネ達をリングに引きずり出しているのだ。

「青コーナーより、タブンネ軍団の入場です!」
入場曲とともに、先日ザ・TABに襲撃された生き残りのタブンネ達が入場してきた。
みんな気が立っており、獰猛な表情になっている。
「人間共、うるさいミィ!」「遊びじゃないミィ!こっちは真剣だミィ!」「ミフーッ!」
興奮して観客に襲い掛かる者もおり、女性客が悲鳴を上げて逃げ出した。
「お気をつけ下さい!危険です、お気をつけくださーい!」
リングアナが絶叫する中、その様子を撮影しているカメラもある。
もちろん、愛護団体に「タブンネはこんな危険な生き物です」とアピールするための材料だ。

「続きまして赤コーナーより、ザ・TAB選手の入場です!」
ハードロック調の入場曲が流れると、会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。
その中を、ザ・TABがダッシュで花道を走ってきて、スライディングでリングインした。
まだモタモタしてリングに入れないタブンネ達に、中指を突き立てて挑発する。
「F○CK!」「ミーッ!ミフーッ!」早くも激しい火花が散った。

最終更新:2014年12月30日 17:35