タブンネさんの老後

イッシュのポケモンセンターでは多くのタブンネたちがナースとして働いています。
彼らは決して器用ではありませんが、いやしのはどうを使ってケガを治療したり、
触覚で患者の気持ちを理解したりすることで、できる限りのことをしています。
それに、ピンク色の柔らかい体とふわふわの白い尻尾、いつも浮かべている優しい笑顔は、
ポケモンセンターにやって来る人たちを明るい気持ちにさせてくれます。
イッシュ地方のポケモンセンターにとって、タブンネは必要不可欠な存在なのです。

しかし、タブンネたちはいつまでもポケモンセンターで働くことはできません。
どんなポケモンだって、生きている以上は歳をとります。
ポケモンセンターで働くタブンネたちも例外ではありません。
歳をとると、素早い動きができなくなったり、考える力が弱くなったりしてしまいます。
あまり器用でないタブンネたちがそうなった場合、治療中にミスをしてしまうかもしれません。
万が一にも事故が起こってしまったら、ポケモンセンターの信用にも関わってきます。
しかし、人間やほかのポケモンのために働いてくれたタブンネたちを放り出すのは、
タブンネたちにとってあまりにもかわいそうなことです。

そこで、イッシュの各地にある施設が建てられました。
それが、タブンネたちの老後のお世話をする「タブンネ療養センター」です。
ここには、ポケモンセンターで働いていたタブンネたちはもちろん、人間の家でペットとして
暮らしているうちに、歳をとってお世話することが難しくなったタブンネたちも入ることができます。
人間とともに暮らし、歳をとったタブンネたちの多くがここで余生を過ごすのです。
どういった場所なのかを見ていきましょう。

ここはある療養施設です。
施設の床にはふかふかのマットが敷かれています。
これなら、タブンネたちが転んでもケガをすることはありませんし、柔らかいマットの上でリラックスし、
タブンネたちはゆったりと過ごすことができるのです。
目の前にいるのは、今日この施設にやってきたばかりのタブンネたちです
マットの上に寝そべってタブンネ同士でにこにこ笑いながら何かおしゃべりをしています。

ご飯の時間になると、タブンネたちにご飯が運ばれてきます。
このご飯を持ってくるのは、まだ若くて元気いっぱいのタブンネたちです。
ポケモンセンター以外にもこうした場所でタブンネたちは働いています。
ちなみに、今日のごはんはオボンの実をすりつぶしてペースト状にしたものです。
これなら、歯が弱くなっているタブンネたちでもおいしいオボンの実を食べることができますね。
ご飯を食べるタブンネたちはとても嬉しそうで、幸せな自分たちの姿にタブンネたちは喜びを感じるのです。
……このときはまだ。

それから1週間後。
タブンネたちの様子は大きく変わっていました。
マットに寝転がったり、壁に寄り掛かったりしたままで、ぼんやりと過ごしています。
ご飯が運ばれてきても、もそもそと機械的に口の中に運ぶだけで、そこには何の感情もありません。
1週間前はみんなで楽しそうにしていたのに、いったい何があったのでしょうか。

実はこの施設、怪我を防止するためのマットが敷かれている以外は何もないのです。
テレビも、おもちゃも、そして窓さえも。
何の刺激もなく、外の景色を見ることもできず、漫然と日々を過ごすことでタブンネたちは、
だんだんと活力と感情を失っていきます。
ただ食べて、ただ眠る。
この施設に来たタブンネたちにできることは、それだけしかありません。

もちろん、こうするのには理由があります。
タブンネたちが大人しくしている方が世話をしやすいのです。
ご飯や排泄のお世話をするのは、器用とはいえないタブンネたちです。
彼らの負担を少しでも減らすために、あえて、この方法がとられているのです。

ここは別の街にある療養施設です。
この施設には、病気や怪我をしている高齢のタブンネたちがやって来ます。
ここにやって来たタブンネたちはベッドの上で過ごしながら、病気や怪我が回復するのを待つのです。
先ほどの施設とはちがい、この施設の中にはタブンネたちの声が満ちています。
ただし、その声は明るいものではありません。
苦しみ、恨み、悪態。
その声は今の自分の境遇を呪うものばかりです。

タブンネのための療養施設なのに、どうして、このようなことになっているのでしょう。
たしかに、この施設はタブンネたちの病気や怪我が回復するのを待つ施設です。
ただし、ほんとうに待つだけなのです。
根本的な治療は一切行われず、そのため、タブンネたちの体が良くなることはありません。
いつまで続くかもわからない苦しみの中で、タブンネたちは老後を過ごすのです。

1匹のタブンネが激しくせき込み始めました。
のどの血管が切れてしまったのか、飛び出す唾液は赤く染まっています。
すると、部屋のドアが開き、数匹の若いタブンネたちが入ってきました。
この施設で働いているタブンネたちです。

タブンネたちはベッドの周りに集まると、両手をかざし「いやしのはどう」を放ちます。
すると、あれほど激しかったタブンネのせきはピタッと止まります。
しかし、ベッドの上のタブンネには感謝の気持ちなどありません。
若いタブンネたちに向かって涙を流しながら訴えます。
やっと死ねると思ったのに、と。

実はこの施設、根本的な治療は行いませんが、できる限りタブンネたちを死なせないようにしています。
そうした方がお金になりますし、何より、タブンネを預けた人たちがそう願ったからです。
自分たちと暮らしてきたタブンネを少しでも長生きさせてあげたい。
かつて家族だった人間の優しい願いがタブンネたちを苦しめているのです。

今回は2つの施設を見ましたが、こうした施設はイッシュ各地に存在しています。
中には、タブンネたちを実験動物として扱うところや、ほかのポケモンの経験値稼ぎに使っている施設もあります。
今回見てきた2つの施設は、まだ良い方なのです。

人間とともに暮らすタブンネ。
その最期は、必ずしも幸せであるとは限らないのです。

(おわり)
最終更新:2014年12月31日 20:00