デスハロウィン

オラッ!入れオラッ!」
静かな昼下がりの夢の跡地に罵声が響き渡る

若い男が一匹のタブンネをスーツケースへ押し込みジッパーを閉めたところだった
2、3回蹴飛ばすと男は軽トラックにの牽引用チェーンをスーツケースにひっかけた後車に乗り込み、必要以上にエンジンをふかした後発車した

車がなくなると影になっていて見えなかったが、血塗れのタブンネに子タブンネ二匹がミィミィ泣きながら必死に揺さぶっていた

排気ガスに咳き込みながら車が走り出したのを見るとスーツケースを泣きながら追いかけ始める子タブ達

男はわざと悪路を走り、バックミラーで子タブが転ぶ様や、スーツケースが跳ねる様を見ながらニヤニヤと歯が見えるように笑った

数分前

「お疲れさま。おまけしといたよ!」
「ミッ!」
八百屋の店先でぺこりを頭をさげるタブンネ♂。木で編まれた可愛らしい篭にはたくさんの実が入っていた

おっ、帰るのか気を付けてな」「ばいばーい!」「また明日な!」
町の人達が皆タブンネを笑顔で見送ってくれるのには理由があった
タブンネは糞豚として有名だがこの個体は自ら町の清掃等を行い、初めは珍芸豚と笑われていたが
いつからかその真摯な態度が認められたのか皆に愛される存在になっていた

「ミー!」
水路がある公園からもう一頭のタブンネ、♀がポテポテ駆けてきた。その手には抱えきれない程のお菓子
♀は保育施設で子供達の相手をしていて、今日はハロウィンでたくさんお土産をもらっていたのだ
駆け寄る際に何個か落としてしまったが町行く人達が拾い、笑顔で渡す。優しそうな老婆はバッグからビニール袋を出しお菓子を詰め渡してくれた
二匹はならんで頭を下げ 子供達の待つ夢の跡地の巣へ帰っていった
この夫婦は豚の常識を覆す、としてタブンネ価値観を変える存在になるはずだった

俺に目をつけられるまではな。とにかくあの豚共が気に入らない。俺はバットを握りしめ軽トラを走らせ後をつけた

入り口に車を止め、しばらく歩くと鳴き声がきこえてきた
あの豚どもはムンナやチョロネコにお菓子を分けていた。意地汚い豚からは考えつかない光景だ
二匹の子供と思える二匹の子豚もチョロネコ達とならんでお菓子を食べ上機嫌だ。実に気に入らない

「うおおお!」叫びながら俺は一気に突っ込みバットを振り下ろした。グシャアと実が潰れ果肉が弾け飛ぶ
皆何が起きたかわからないと言った感じだが、♂は俺と実を交互に見た後 ポンと手をつき、目隠しした自分と棒と実を地面に描き手を振りどこかへいった
まさかこいつ俺がスイカワリか何かをしてると思ってるのか?なんというかかなり知恵があるようだな、人と関わってるだけある
周りの連中もそう思ったのがみんな笑顔に戻った
素晴らしいお花畑思考だ。俺は胸が熱くなった

そうこうしてると♀豚が いかが?と言わんばかりに丁寧に皮を剥いてある実を差し出してきた。子豚も真似るようにお菓子を俺に差し出してきた
俺はニヤリと笑い3匹から受けとると地面に落とし踏みにじってやる。ついでに他のも踏みしめ あんな綺麗だった実やお菓子は土と草まみれに変貌した
子豚は泣き出し、ムンナ達も困惑している。♀豚は瞳をうるうるさせながら 必死に踏みにじられた実やお菓子を手で寄せ集めていたから手ごと再び踏みにじってやった

何かの間違いよね?人間さん優しいもの と言わんばかりに踏みつけられながらも俺の目を優しい瞳で見据えてくるから蹴っ飛ばしてやる
「ミギッ!」短く叫び吹っ飛ぶと子豚とムンナ達が♀に駆け寄り、蹴られて悶える♀に撫でたり、舐めてやってる
几帳面にも目隠しして10回回っていたのかそんな様子をまったく関係なしに♂豚がフラフラ現れた

俺はこっちこっち、そこだ!と誘導し♂豚はミッ!と気合を入れると棒を振り下ろした
「ミギャアアア!」
ナイスヒット。叫びに目隠しをはずすと足元では自分の妻が悶えている。♂は嫁をぶっ叩いてしまった。いやあ愉快つうくわい

♂は必死に♀を撫でながら癒しの波動を放とうとしたので思いっきりバットでぶん殴ってやった
普通なら脂肪に邪魔されるが、こいつらタブンネにしては締まった体だ。吹っ飛び俺の軽トラにぶつかり落っこちた
さすがにヤバイと思ったのかチョロネコが飛びかかってきたが、俺はポケットからスプレーを出し噴霧するとチョロネコは静かに寝息をたて始めた
他のは殺る気はない

俺は「ウヒャヒャー」と狂声をあげつつバットを振り回しながら♂に接近しひたすら殴り付けた
「ゲブェ…ガフッガフッ!」
可愛い声が嘘のように汚くなり口からはどす黒い血を噴き出し、手足が痙攣しはじめた

「やめたげてお!」
とムンナが泣きながら俺の腕を掴むからチョロネコのように眠らせてやった。ムシャーナが出てこないうちに次いくか

トラックの荷台からスーツケースを降ろし…感じで現在に至る

現在スカイアローブリッジをドライブ中。カーステレオからはBW自転車の爽やかなBGMが流れている。俺も上機嫌に口笛や鼻唄で曲をなぞる
しばらくして俺は車を停めた。ここは四番道路住宅建設予定地。今日は作業休みで警備員すらいない
荷台から台車を降ろし豚ケースを乗せ侵入するが石につまづきケースは傾斜をゴロンゴロン派手に転がり落ち浜辺まで落下した
取りに行くのも面倒だからしばらくここでお茶でも飲んで休憩しとくか

いつのまにか寝てしまってたのか夕陽は沈みかけている
何気なくバックミラーに目をやると小さな影が二つ。その影が近づくにつれ その姿は先程の子タブ二匹と明らかになった
なんとここまで母親を追いかけてきたのだ。素晴らしい家族愛に俺は応えてやろうと車を走らせ子タブの前で停まった

「チィ……」
二匹はボロボロだった。鮮やかなピンクチョッキは灰色、転んだのかタブンネに存在しないはずの膝や肘からは血が流れていた
途中ポケモンに襲われなかったのは道路沿いにきたからかもしれんな
少し大きい方はふらつく片割れを必死に支え、俺に憎悪の目を向ける。それはそうだろう幸せを一瞬で俺に粉々にされたんだからな

「いいだろう。その根性に免じママに会わせてやる」
二匹を荷台にぶん投げ俺は進入禁止バーを避け浜辺へ向かった

車から降りスーツケースに目をやると、隙間から血が溢れだし転がってきた軌跡を示すよう血の後が続いていた
子タブをぶん投げるとよろよろ立ち上がりママの入ったスーツケースへ向かう
開け方なんてわかるはずもなく、片方はぐるぐる回りをまわり、もう片方は必死にケースを叩いては手を真っ赤にしていた
その大きい方は頭がいいのかそこいらの枝を拾い、ロック部をぺちぺち叩きはじめた
滑稽だな。俺はしばらくその様を楽しむことにした

子供達の健闘を嘲笑うのは俺だけではなかった。血の臭いにつられてかメグロコとズルックが浜辺に現れたのだ
血と薄汚いが柔らかそうな子供肉を前に舌なめづりする二匹。子豚は逃げるのか?と思ったがスーツケースの前に立ち塞がった
母親を守ろうとしているのだろう。このタブンネ一家はすごいな、ほんとうに人ができてる

そして子タブの母親を守る為の戦いがはじまる

だがやはり所詮は子供。片方はメグロコには太刀打ちできるはずもなく、頭に腕を置かれ手は宙をかくばかり。しまいには足かけで転ばされる始末
砂だらけになりそれでも「ママをたべちゃだあめえなのお!」と言わんばかり涙を流し何度も立ち上がる
そんな姿に俺の目頭も熱くなった

棒を持ってた方も何度も苦手な格闘タイプのズルッグに弄ばれながらも懸命に棒を掴み立ち向かう
ズルッグは棒を踏みつけ折り、二本をピアスのように耳に突き刺した
「チギャアアア!」
さすがに敏感な器官を突き刺されてはその痛みは尋常ではないだろう。そのまま 倒れこんでしまった
メグロコの相手してる方も限界らしく砂につっぷした

勝った二匹はまずはこっちとスーツケースにむかうがやはり開けられず右往左往している
ズルッグがガンガン蹴りはじめた。その音に反応したのか耳を刺されてない方が必死に手を伸ばすがメグロコに馬乗りにされ砂に沈む
「まずいな開けられる」俺は車から途中で買った菓子を取りだしズルッグとメグロコに投てきした
二匹は?って感じに口にすると旨い!って顔でこっちむいたから襲われる前に袋を遠くにぶん投げた。二匹は一目散に袋を追う

「よく頑張ったな。ママに合わせてやる」
二匹は満身創痍だが視線だけはケースをしっかり見ているのが都合いい。さあてオープン
ムアッ!と血と糞尿の混じりあった異臭が漂った。ママはとうに絶命していた
衝撃は想像より凄かったらしく腕はねじまがり、耳はちぎれかけ、目は飛び出している
乱雑にケースを放り投げママの死体を直視させてやった。子は必死に母に寄り触覚をあてたり顔を舐めたり必死に呼び掛けたが、飛び出た目に戦慄した
耳を刺された方は出血とショックにより既に死んでおり子タブは一人動けない体で変わり果てた母から離れることもできない

そして最期が訪れる。上空にはバルジーナとバルチャイが旋回していた
まずいな、俺が。襲われてはたまらんから俺は車に乗り込み、豚の鳥葬を見届け帰路についた

翌朝町はちょっとした騒ぎになった。タブンネがいつまでたっても現れないのだから
まあタブンネ自体はまだいなくなったわけじゃない。またあそこにはタブンネが住み着くだろう。あんなに嫌っていた豚がいまでは恋しくて仕方がない
そんな自分に苦笑し、次はどんなタブンネだろう と思いを馳せた
最終更新:2015年02月11日 01:50