人タブ合戦

オレはカズト、まあそれなりのトレーナーだ。
オレはシンオウ出身で、これまでシンオウやジョウト、カントーを旅してバトルをしながら生計を立てている。
そんなオレも最近、イッシュ地方にやってきてヒオウギシティから旅を始めた。
今はイッシュリーグ殿堂入りの資格も取ってからシッポウシティに拠点を置きつつ、各地を飛び回りながらバトル大会などに出つつお金を稼いでいる。
しかしやってきた当初は大変だった。プラズマ団とかいう、ギンガ団みたいな妙な連中がこの地方にも居て、そいつらがキュレムという伝説に伝わるポケモンの力を悪用して
イッシュ征服と称した犯罪行為を行なっていた。やがてキュレムが姿を変えながら暴走し、キュレムの冷気で異常気象が起きたりもした。
オレや仲間のトレーナー達は協力してプラズマ団と戦い、結局プラズマ団をやっつけキュレムを止めることには成功したが、やはり夏に雪が降るなどの
異常気象が発生した影響やイッシュの一部が氷に閉ざされたことの影響は大きい。

そのせいなのかは知らないが、最近イッシュではとある問題が頻繁にニュースで報道されるようになった。
イッシュ各地にタブンネというポケモンが生息している。ピンク色とクリーム色のカーディガンのような模様の毛皮を持ち、
青い目と特徴的な耳に触覚を持つ。手足は短く、ぽてぽてとした体型で、初見では可愛いと感じる人がほとんどだ。
戦闘能力はお世辞にも高いとは言えず、ポケセンを通じて行われる世界中のトレーナーとのランダムマッチや、
その他のバトル大会でも使用者はあまり居ない。

そのタブンネのうち野生のものが最近、餌がないためか人里にやってくるようになった。最初は餌をねだるだけだったらしいが、
最近は人家や農地を荒らすなどの被害がたびたび報道され、ワイドショーでも見る話題になった。
また、タブンネは倒すと経験値がたくさん入ることでも有名だ。そのため、オレのようなトレーナーには
経験値を手っ取り早く稼ぐために集中的に野生のタブンネが狙われている。
サザンドラやガブリアス、バンギラスといった経験値を大量に必要とし、なおかつ肉食性で獰猛なポケモンを育てていると
そのままそいつらがタブンネを捕食してしまうなどのケースも珍しくないが、タブンネは尋常ならざる繁殖力も特徴だ。
そのためタブンネの個体数は、狩られていてしかも生態系の食物連鎖の下位にあるにもかかわらず無尽蔵とも言える。
最近ではプラズマ団に影響された一部の人間が無闇に野生にタブンネを大量に放流することもあってか、輪をかけて生息数が増加し、
一部の地域ではあるが生息数の増えすぎが問題になっていることもあるそうな。

かく言うオレも、この日は新しい型のバンギラスを育成するためにタブンネ狩りにヤグルマの森へとやってきていた。
卵から孵った6Vのヨーギラスも、今やサナギラスだ。ちなみに6Vを生み出すために時を司るポケモンの能力を利用した魔法具を
使ってタイミングよく時空跳躍を行い卵を受け取る方法、オレ達の間では「乱数調整」と言われているが、それによって6Vを生み出している。
まあ少し話が逸れたが、ともかくオレはサナギラスの進化のためにタブンネを探していた。
森の奥まで進んで辺りを見回すと、あったあった。タブンネの巣だ。すやすやと寝息を立てているタブンネの一家だ。
オレは逃げられないようにそっと近づくと、自分のポケモンを繰り出した。

オレは呑気に寝ているタブンネ一家にサナギラスをけしかけた。

「ミィ?」「ミッミ?ミミィ!?」「チィチィ」「みきゅ~?」

突然やってきた人間とポケモンの物音と姿に飛び起き、状況が掴めず惑うタブンネ一家。
つがいと思われる成体2匹と、子タブンネにベビンネだ。まあ悪いがお前らには糧になってもらおう。

「サナギラス、ストーンエッジだ!」
オレはサナギラスにストーンエッジを指示すると、サナギラスはまず子タブンネを狙って攻撃を放った。

「みっぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」ストーンエッジが命中して痛みに子タブンネが悲鳴を上げた。
「ミィ!?ミィィィィィィ!!」「チィィ…チィチィ…」
パニックに陥る、恐らくはママンネ。そしてベビンネは怯えきってしまった。子タブンネはまだ痛みでのたうちまわっている。
しかしパパンネと思われるオスの成体は「ミフーッ!!」と歯を剥き出しにしてこちらを威嚇した。
そして「ミギーッ!!」と叫ぶと突然、捨て身タックルを仕掛けてきた。

サナギラスは不意の捨て身タックルを受け、驚いてひっくり返ってしまった。
まあ岩タイプなので効果は今ひとつだが、成体の、しかも高レベルのタブンネと殴り合うのも少し面倒だ。
オレはサナギラスを後ろに引っ込めると、メタグロスを繰り出した。
「行けメタグロス、大爆発だ!」オレはメタグロスに大爆発を指示し、起き上がったサナギラスと一緒に
安全圏に退避した。
「ミギィーッ!!」パパンネは無謀にも更にメタグロスにタックルを仕掛けてきていた。しかしその刹那。
「メッタァァァァ!!」メタグロスの全身が紅潮し、そして直後、メタグロスの周りに大きな爆発が巻き起こった!
物凄い轟音がこだました。あまりの爆発音と爆風にケンホロウとマメパトの群れが
飛んで逃げていくのが見えた。しかし意外と他の野生ポケモンたちは慌てていないようだ。
大方、この近辺でもオレのようなトレーナーがタブンネボムを行なっていて慣れている奴も多いのだろう。

そして爆音の中からわずかに「ミギャァァァァァァ!!」「チギュピィィィィィ!!」
「ミィヤァァァァァァ」などとタブンネ達の悲鳴らしき音も聞こえた。
爆風が収まって見てみると、黒こげになって気絶しているメタグロスの周りに瀕死になったタブンネ達が横たわっていた。
「ミ・・・ィ・・・」爆発を至近距離で受けてしまったパパンネは今にも死にそうだ。
メタグロスはレベルがさらに高くレベル差もあったので、パパンネは黒こげで腹がえぐれている。

あーあ、やっちまった。まあオレも無闇な野生ポケの殺生は爵なので、こいつは昼飯にすることにすっか…
ガキの頃たまに鳥ポケモンや魚ポケモンを捕まえてアウトドア料理として食ったことはあるが、果たしてタブンネはどんな味なのか…
そうこうしているうちに、サナギラスの体が光り出した。お、進化が始まるな。
サナギラスの体が大きくなり、蛹状の体から二足歩行の怪獣のようなシルエットが現れる。
そして、ついにバンギラスの姿となった。

「ギシャーッ!!」進化したバンギラスは進化による体への負担で腹を空かせているようだった。
そしてバンギラスは辺りを見回し、倒れている子タブンネに噛み砕くを仕掛ける。そして。
「ミギギー!!ミッガガガガァァァ!!」瀕死とは思えない悲鳴を上げながら子タブンネがバンギラスに食われ始めた。
バンギラスはゆっくりと子タブンネをもぐもぐと咀嚼すると、子タブンネは気を失い、そのまま息絶えてしまった。
まあポケモンの捕食シーンなどオレはガキの頃から山などで見慣れているのだがな。

バンギラスはそのまま子タブンネだった肉を引きちぎりながら美味しそうに食べていた。
相当、タブ肉の味が気に入ったようだな。すると死にかけていたパパンネがそれを見て絶望の表情で涙を浮かべながら、声にもならない慟哭の声をあげようとしていた。
待っていろ、お前もすぐに楽にして昼飯にしてやろう。

そういえば、オレはまだ食ったことがないのだが、イッシュではタブンネを養殖して食肉として供する地域があり、ミィアドレナリンという物質を分泌させてから調理すると美味だと言われているという話を以前、郷土料理か何かの本で読んだことがある。
そしてミィアドレナリンはタブンネにストレスを与えるほどに分泌されるとかなんとか
オレは肉の味を確かめたくなったので、早速バンギラスに止めを刺すよう指示した。
「おおいバンギ、こいつの処理頼むわ」
子タブンネを食い終わってご機嫌なバンギラスはオレの指示通りにストーンエッジをパパンネに投げつけた。
「ミギッ…」と短い悲鳴を上げると、パパンネは息絶えた。
そしてオレはどこかでアウトドア料理をするかもしれないと持ち歩いている、木の実などをブレンドした特性のソースを瓶からパパンネの体に塗り、肉をサバイバルナイフで切り分けて、元気の塊を与えて元気を取り戻したメタグロスと一緒に食うことにした。

さて、初めて食うタブ肉の味は…

う…旨い!!柔らかくも肉の歯ごたえもしっかりしていて、そしてコク深く濃厚な味わいのある肉。
ガッツリ系な食べごたえがする。メタグロスも喜んでくれているようだ。
「ご苦労だったなメタグロス。雑用頑張ってくれたし、食べたきゃまだ食っていいぞ。」
すると横たわっていたママンネとベビンネに向けてバンギラスとメタグロスが歩いていき…
案の定、食い始めた。よほど腹が減っていたのだろう。あっという間に辺りにはタブンネ達の骨が散乱した。
まあこれが弱肉常食ってやつだから仕方ない。経験値と肉になってくれたタブンネに感謝しつつ
オレは森を後にして帰路に就いた。

だが、この日のオレはまだ想像だにしていなかった。オレの家も、オレの住んでいるシッポウにも、奴らの被害が及ぶ日が来ることを。
最終更新:2015年02月18日 17:59