「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」
テレビカメラが詰め掛け、フラッシュが嵐のように焚かれる中、
新党「タブ虐の会」の選挙事務所は繰り返される万歳の合唱に沸きかえっていた。
その中心で満面の笑みを浮かべるのはタブンネ虐待愛好会会長である。
「タブ虐の会」を結成して政界に殴り込みをかけた彼の賭けは吉と出て、
立候補者の8割が当選するという大戦果を挙げたのであった。
「それではダルマに目入れをお願いします!」
司会者の声と共に、台座に乗せられたダルマが運ばれてきた。
その奇妙なダルマはもぞもぞと動いている。生きたタブンネなのだ。
生きていると言っても、このタブンネは数日前に両手足を切断されて止血処理だけを施され、
耳も切り落とされて完全なダルマ状態にされた上で、
仲間の血で全身を真っ赤に染められ、声を出せないよう口を縫合されている。
ついでに尻尾も切断されて、黒くペイントして左目に突っ込まれていた。
正にタブンネ虐待愛好会ならではのダルマである。
「ムゥヴゥ……ンン゛~ン゛~ン゛~…」
唯一まともに残った青い右目から涙を流し、ダルマタブンネは身悶えした。
しかしその姿は、タブ虐支援者を興奮させるばかりである。
会長は大きな筆を手に取り、硯の墨をたっぷりと染み込ませると、
ダルマタブンネの右目を黒々と塗り潰した。
「ムグヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
縫い合わされた口の間から、苦痛の叫びが漏れる。
墨にはマトマの実やフィラの実をすり潰した激辛ペーストが混ぜてあったのだ。
その声を合図にしたように、事務所内は再び勝利の勝ち鬨の声が上がった。
「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」
その同時刻。新党「タブンネちゃんの生活が一番」の事務所は暗鬱な空気に包まれていた。
N代表がかろうじて当選したものの、それ以外のほとんどの候補者が落選し、
記録的な惨敗を喫してしまったのである。
マスコミ関係者の姿もまばらで、選挙運動員や支援者のタブンネ達の表情も沈んでいる。
大勢が決したところで、1台だけ待機していたテレビカメラを前にN代表の会見が始まった。
「全てはボクの責任です。見通しが甘かったと言わざるを得ません。
せっかくトモダチのみんなにも協力してもらったのに……残念です」
「ミィミィ!」「ミッミー!」(先生、気を落とさないで!)(先生のせいじゃないよ!)
ダンスを披露する
パフォーマンスなどで、サポートしていた数十匹のタブンネ達から励ましの声が上がる。
しかし子供にウケただけで大人の票の獲得に結びつかなかったのも、大きな敗因の一つでもあった。
「今は何も考えられません。明日、改めてコメントは出させていただきます」
沈痛な表情で一礼し、会見を打ち切ったN代表は退出した。他の立候補者もうなだれつつ引き揚げる。
「ミィ……」
家路につくN代表らを見送ったタブンネ達は、選挙事務所の
後片付けを始めようとした。
その時、事務所の前に数台のトラックが止まり、降りてきた屈強な男達がタブンネ達を取り囲む。
「おお、ここに来たら肉を採り放題だと思ったが、予想以上にいるじゃねえか!」
「祝勝会用にいくらあっても足りないくらいだ、残らず狩っちまえ!」「ヒャッハー!」
男たちは「タブ虐の会」の食料調達チームである。
祝勝会で振舞われる料理の『食材』をかき集めに来たのであった。
「ミッ!?ミビャアッ!」「ミヒェェェ!!」
慌てて逃げ出そうとする支援者タブンネは、男達にバットや棍棒でボコボコにされた上で、
次々とトラックに放り込まれてゆく。全員捕獲されるのにものの10分もかからなかった。
「大漁だぜ!」「俺達もおすそ分けがたっぷりいただけるぜ!」「ヒャッハー!」
歓声を上げながら、トラックは走り去っていく。
後には夜の冷たい風が吹き、「タブンネちゃんの生活が一番選挙事務所」と書かれた看板が、
一陣の突風に吹かれてバタンと倒れた。それを直す者はもう誰もいなかった。
(終わり)
最終更新:2015年02月18日 19:42