砂上の楼閣 後日談

ベルトコンベアに乗って、20匹ほどのベビンネが流れてきました。
どこに行くのか誰も知らず、きょろきょろ周りを眺めたり、ベルトコンベア自体が珍しくて「チィチィ♪」とはしゃいだりしています。
その終点で、ベビンネたちはこてん、ぽとん、ぺたんとコンベアから5センチくらい下に落下しますが、特に痛くありません。
直径2メートルほどの丸い地面は白いものが敷き詰められており、周りは金属の壁に囲まれています。

ベビンネ達は「なんだろう」「ここどこだろう」ときょろきょろしますが、1匹のベビンネが騒ぎ出しました。
「チィチィチィ!」(これあまいよ!すごくおいちいよ!)
足元の白いものを舐めて興奮しているようです。他のベビンネ達もそれに習って舐め始めました。
「チィチィ♪」「チィーィ♪」「チュイイ、チュッピィ♪」
白いものの正体は砂糖でした。ベビンネ達は大はしゃぎで砂糖をペロペロ舐めています。

すっかりリラックスしたベビンネ達は、めいめい遊び始めました。
雪合戦よろしく砂糖の塊を投げあったり、砂糖で砂のお城を作ったり、走り回ったり寝転んだり、
チィチィはしゃぐ声が実に微笑ましいですね。

おっと、ここでガラスで仕切られた隣の部屋に、ぞろぞろとタブンネが入ってきましたね。
遊んでいるベビンネ達の親なのでしょう、楽しそうな子供の姿を見ると「ミッミッ♪」と手を振ります。
それに気づいたベビンネも「チィー♪」と笑顔で手を振り返します。

そうしている間にベビンネ達の頭上に、金属製の機械が動いて移動してきました。
そこから降ってきたのは熱湯でした。沸騰したお湯のシャワーです。

「ヂヂヂヂィーーーーッ!!」「チギャァァァーーーーーーーーーー!!「ヒィィーーーーピヒィィーーーーーー!!」
(あちゅあちゅあちゅいよう!)(たしゅけてえ!)(おかあしゃあん!)
絶叫を上げながら砂糖のフィールドの上でのた打ち回るベビンネ達。

「ミィィィ!!」「ミッ、ミヒィーーーッ!!」(やめてええ!!)(ベビちゃんに何てことするの!!)
親タブンネ達も同じく絶叫し、子供を助けようとガラスをバンバン叩きますが、強化ガラスはびくともしません。

熱湯の雨がひとしきり降って、砂糖がかなり柔らかくなったところで、
今度は金属の壁に取り付けられていた筒から、熱湯が噴出してきます。
4箇所の筒から壁沿いに激しく噴き出すお湯は、砂糖を溶かしながら渦巻きとなり、ベビンネ達を押し流していきます。
「ピヒィィーーーー!!」「チビャァァァァァァァ!!」(あちゅいよう!)(おぼれちゃうよう!)
必死に泳ごうと頑張るおちびちゃんもいますが、既に半数が力尽きて溶けた砂糖の渦潮の中に沈んでいます。

そしてお湯が止まったところで、上から金属の板が降りてきました。
砂糖をゆっくりかき混ぜていきます。これは攪拌板のようですね。
かろうじて抵抗していたベビンネも力尽き「チュィ…」「フィィ……」と、次々に絶望の表情を浮かべながら、沈んでいきました。
「ミギャアーーーー!!」「ミェェーーーン!!」
泣き崩れる者、ガラスに頭を叩きつけて血だらけになる者と、親タブンネ達の悲痛も絶頂に達しています。

これがいまやイッシュを代表する人気の銘菓「ベビンネの地獄砂糖漬け」の製造工程です。
このお菓子を考案なされた創業者の社長さんにお話を伺ってみましょう。

「きっかけは、ベビンネが絶望する様を存分に堪能したいということで砂糖責めにしたことが始まりでした。
 タブンネを虐待するとミィアドレナリンが生成されて旨味が増すのは常識ですが、
 甘いものを与えて喜ばせた後に奈落の底に突き落とすと、その直前の記憶がDNAに反映されるらしく、
 甘みも格段によくなることがわかったのです。
 あとは試行錯誤を重ねた結果、やはり親タブンネの見ている前で調理するのが一番でしたので、現在のやり方に落ち着きました。
 そして親タブンネの方もですね……」

社長が操作盤のレバーを下ろすと、子供を失ったショックからまだ立ち直れていない親タブンネ達のいた部屋がガクンと揺れました。
そして一方の壁が競りあがっていき、部屋全体が傾いていきます。
「ミミッ!?」「ミィーッ!!」
タブンネ達は慌てふためきますが、部屋はどんどん傾く一方です。逃げようとしても入ってきたドアは鍵がかかっています。

何もつかまる物もなく、ずるずると滑り落ちていくタブンネ達の耳に不気味な機械音が聞こえてきました。
壁が競り上がったサイドの向こうに見えたものは、ゆっくりと回転を始める鋭い鋼鉄製の刃でした。
みるみる内にそれは高速回転して親タブンネ達を待ち構えます。これは巨大なフードプロセッサーなのです。

「ミヒィィィィーッ!!」
手が汗で滑ったタブンネが1匹、滑り落ちていきました。「ミギャ!」と一声残してプロセッサーの餌食になります。
飛んできた血しぶきで残ったタブンネはパニックになりますが、傾斜は90度近くになり、もはや持ちこたえられません。
「ミビャアー!!」「ピギーーー!!」「ギヒィーーーー!!」
次々と落下してミンチと化していきます。プロセッサーの下方では、ピンク色のペーストがコンベアで流れていきました。

「このように、提携しているポケモンフーズの会社からプロセッサーを供用していただき、
 用済みになった親タブンネは、この場でペーストに加工しているというわけです。
 子供が調理された直後の加工とあって、こちらもミィアドレナリンは抜群だと好評ですよ」

そうしている間に、砂糖の攪拌機が止まりました。大量の砂糖と共に砂糖漬けになったベビンネが流れてきましたね。
様々なポーズ、様々な表情で固まったベビンネは、真空パックされて出荷されていきます。

今日は特別に、出荷前の砂糖漬けベビンネを試食させていただくことになりました。
この子はベソをかきながら最期を迎えたようですね、泣き顔がとってもプリティです。
ではいただきましょう。このおててのところをかじってみます…うん、甘い! 今まで食べたことのない甘さです。
そして意外にもくどさがなく、いくらでも食べられそうです。タブンネが万能食材ポケモンと呼ばれる所以ですね。


「ベビンネの地獄砂糖漬け」は○○製菓から好評発売中です。では社長、最後に一言どうぞ。
「是非一度ご賞味ください。頭から丸かじりもいけますよ!」

(終わり)
最終更新:2015年02月18日 19:51