椿花下眠翁/刀の銘は ◆EETQBALo.g
深夜の荒れ果てた廃寺に、場違いなまでに絢爛と咲き誇る大輪の赤。
見事な椿の木の前に、むさ苦しい風体の胡散な浪人崩れが二人並び立っている。
かたや無造作に白刃をぶら下げた男。
かたや無造作に両腕を懐中に組んだ男。
刀の男は蓬髪と髭、溜まりに溜まった垢が目立ち、一見年齢不詳。よく見れば
おそらく老人と言って差し支えない年齢である。だが逞しい体格と姿勢の良さ、
澄んだ瞳は未だ衰えを感じさせない。
懐手の男も小汚いことに大差はないが、こちらはもう少しわかりやすい。壮年の
頃と見て間違いなかろう。
互いに名乗りは終えたものの、一方のそれは到底信用に値しないものといえた。
不意に境内の鐘が重々しく丑三つの刻を告げ、二人はそちらに注目する。
その目配りは共に素早く隙がない。
朽ち果てた無人の鐘楼で、撞木がひとりでに鐘を打ち鳴らしていた――これも妖術か。
周囲一帯を震わせる残響が消えると、剽悍な壮年男は肩をすくめた。
「けっ、怪談話はもう間に合ってら。……しかしまあ」
鐘から隣の男へと視線を戻し、伸び放題の無精髭を撫でさする。
「その凄腕で号なんぞ名乗ってるところを見ると、あんたどっかの偉い大先生か。
にしちゃ俺よりひでえなりだなおい。変な爺だぜ」
初対面の相手に失礼千万な台詞を吐き、不敵に笑う素浪人。
辻月丹は特に怒るでもなく、椿の花を両断した刀を納めて応じる。
「お前さんこそ……大層な変わり者じゃないかね」
人別帖が支給されているにも関わらず、いかにも今思いついた出鱈目の名前を
名乗るとは、なかなかに人を食った男である。
そう指摘してやると、顎をさする自称・椿三十郎の手がぴたりと止まった。
「……」
「……」
椿が一輪、ぼとりと落ちた。
「……忘れとったのか?」
「……俺は椿の花が好きなのよ」
「そりゃあ……真っ二つにして悪かったな」
くつくつと肩を揺らして月丹は笑った。
「まあ、名乗りが嫌なら無理には問うまいよ」
意外に抜けた男だ。
だが剣者としての月丹の目は、眼前の男に宿る修羅の剣を確かに捉えてもいた。
こちらの出方を窺っている立ち姿からは相当の実戦経験を窺わせる。
ひとたび敵と見定めればその手は瞬時に動き、一切の慈悲なく相手を血の海に
沈めてきたのであろう。しかし――
「まだまだ……青いのう」
「もうすぐ四十だぜ俺ぁ」
「儂から見れば青二才よ」
説教臭いのは御免だ、と男の顔に書いてあったが構わず続ける。
「お前さんは……まるでギラついた抜き身だ。まことの名刀とはこれ、このように」
柄頭をぽんと叩く。「鞘に納まっておるものよ」
「……ち。どっかで聞いたような台詞を吐きやがる」
身に覚えはあったのか、大した反駁もなく男は胸元をぼりぼりと掻いた。
「同じ寺に飛ばされたのも何かの縁。どうだ……ひとつ儂と修行せんか」
「坊主の真似なんぞ願い下げだ」
「そうか」
それもまあ良し、と月丹は椿の木の根元に身を落ち着け、白州に召還される前に
そうしていたように端座して瞑目する。
「おい、本気で禅坊主の真似事か? こんな時に」
「お前さん……狐狸妖怪の類か?」
「あぁん?」
「違うか? ならお前さんも寝とけ。夜には眠るのが……人間様の……仕事よ……」
そのまま月丹は仮眠に入った。
眠りの世界へ落ちるわずかな時間、浅いまどろみの中でこの試合に考えを巡らせる。
◆
(下らぬ。綱吉公は何を考えておられるのか)
一介の浪人たる自分の興した無外流が上覧の誉れに与ることは、確かに長年の
希望ではあった。だがそれは、決してこんな馬鹿げた形でなどではない。
首を飛ばされたくなくば殺し合えなどとは、ただの残虐趣味な見世物ではないか。
近年の政策は愚策が目立つとは思っていたが、いよいよ物狂いにまで至ったか。
しかし、腑に落ちぬことが多過ぎる。
文を愛し武を厭い、自身の剣の稽古さえ何年も怠る当代将軍が、遠ざけていた
剣術指南役を使ってかくも血生臭い御前試合を企てるものであろうか。
乱心の一言で片付けることは容易い。が、本当にそうか。
それにあの二階笠の武士。柳生備前守俊方とはまるで齢が合わぬ。
柳生藩は先代が死去して代替わりしたはずだから、あの武士を父上と呼んだ
隻眼の男が俊方だという可能性も否定される。
人別帖には古今東西の剣豪に混じって何の酔狂か、若き紀伊藩主の名まであった。
いたく武芸に熱心だという彼が若気の至りで開いた催しだとすればどうか。
確証はないが、会ってみる価値はあるやもしれぬ。
彼が本物かつ主催者であったなら、この愚かな試合を中止するよう進言を試みる。
将軍への拝謁とは違い、同じ参加者同士ならどこかで出会う機会もあるはず。
己自身は浪人ではあるが、官吏や大名の弟子も増え、今では無外流の知名度も
そこそこ高い。噂通りの武を重んじる人物ならば、僅かでも耳を貸す望みはあろう。
とはいえ、夜のうちから闇雲に探し回って見つかるとも思えぬ。
何日に及ぶとも知れぬこの御前試合、主催者側もまさか不眠不休で戦えなどと
無体なことは言うまい。ならば寝られる時に寝ておくべきだ。
幸いこの廃寺は島の最辺境。参加者らが目指すような場所ではないため多対一の
状況に陥る危険性は低く、傍らの男に害意はない。
吉宗公が本物であれば密かに護衛も付けているだろうから、彼が他の参加者に
殺されることはまずないと見ていい。焦りは禁物だ。
(早朝発つとするか。……それにしても)
半ば夢の世界で、月丹は埒もない考えを遊ばせる。
人別帖に記された兵法者の中で、吉宗の他に目を惹いた名前があった。
宮本武蔵。
五輪書を著し、剣禅一如を体現した求道者。
月丹の先駆ともいうべき偉大な探究者。
過去の人物は全員――もしかすると柳生一族も――主催者が用意した騙り者で
あろう。それは承知している。
しかし自分を召還した方法や先ほどの鐘のような摩訶不思議な力で、もしも
時を超え場所を超え、本物の宮本武蔵と自分が相まみえるなどという夢物語が
実現したならば。
(既に悟りを開いたこの身なれど、是非とも論を交わしてみたいものよ――)
◆
(……寝やがった、この爺)
椿三十郎(仮名)――便宜上、以降は三十郎とのみ記す――は、樹下で寝息を立てる
月丹を呆気に取られて見つめていた。
いきなり放り込まれた死合の場で帯刀した自分を前にこの奇行。見た目に違わぬ
変人ぶり? 否、恐るべき傑物である。
太平の世にありながら彼が苛烈な実戦剣術の練達者であろうことは、先ほど
目撃した技から窺えた。三十郎とて神速かつ変則の居合の使い手であり、無数の
修羅場を重ねてきたにも関わらず、この老人に抜き打ちで勝てるかどうか疑わしい。
今も熟睡していると見せて、その実は四方に心を研ぎ澄ませ――
「ふごー、ぷしゅるるる、ふごー」
「……」
どう見ても熟睡している。誠にありがたき幸せ。
(舐められたもんだぜ、俺も)
三十郎にそのつもりがなくとも、死合に乗った者がいつ来ないとも限らない。
起こしてやろうかとも思ったが、やめた。そこまでしてやる義理はない。
それになんとなく、この老人は斬っても斬れない気がするのだ。
牡丹花下眠猫児ならぬ、椿花下眠翁といったところか。
(真の名刀は鞘の内、か)
小柄さえ持ったことのなさそうな婦人にいつか諭されたのと全く同じ台詞を、
彼のような無類の達人にまたしても言われるとは。皮肉なものだ。
白髪の七十郎になったとしても、己には到底無理な生き方だが。
胸中で自嘲し、踵を返す。
結局ろくに情報交換もできなかったが、それでも彼は重大な示唆を与えてくれた。
腐りかけた本堂の階段を風の速さで駆け上り、行李から人別帖を引っ張り出す。
格子戸ごしの月明かりを頼りに、三十郎は音もなく頁を繰り素早く目を走らせる。
最優先で探すべきは――自分の名前。
◆
今にして思えば、異常事態に己としたことが冷静さを欠いていたのだろう。
三十郎は廃寺で寝ていたところを白州に召還された。
二階笠の男に殺し合いを強要されたかと思えば謎の白煙に巻かれ、煙が晴れたら
再び廃寺の中。
夢か、狐狸の仕業かとも疑ったが、鼻孔をくすぐる潮の匂いと波濤の砕ける音は
これが紛れもない現実であることを示していた。三十郎が一夜の宿を借りたのは
山寺であったからだ。
かつてない事態に困惑しつつも、ともかく丸腰はまずいと、行李から得物を見つけた
ところで表に人の気配を感じた。
息を潜めて観察したのち、挙動不審だが殺人狂特有の凶気は纏っていないと判断し、
会話をするべく出て行った。――そこまでは良かった。
周到で抜け目ない常の三十郎からは考えられぬしくじりであった。
白州で聞いた人別帖の存在を失念し、いつもの癖で出任せの名を名乗るとは。
確認する余裕もなかった、などという言い訳は命のやり取りにおいて通用しない。
最初に出会ったあの老人が帳面との矛盾を理由にこちらを敵と断じ、問答無用で
斬りつけてくるような人物であったなら、己もあの花と同じ運命を辿っていたろう。
柄にもなく反省する三十郎であったが、彼の素の言動自体が喧嘩を売っていると
受け取られかねないものではある。もっともこちらは矯正不可能だが。
頁を繰る。ない。
頁を繰る。ない。
頁を繰る。ない。……
最後の頁まで目を通した三十郎は、あり得ないものを見る目で人別帖を凝視した。
(……これもけったいな術だってのか?)
自分の本名は――なかった。
主催はこちらの素性を知り、本来の姓名を載せているのではと疑ったのだが、
それはこの際どうでもいい。真の名を名乗らなくなって久しいのだから。
だが代わりに記されているのが、
“椿 三十郎”
なぜ、ついさっき適当にでっち上げた偽名なのか。
◆
思いつきで名乗った名が既に人別帖に書かれていたという怪奇。
主催者はサトリの化物か、はたまた未来を視る力、思考を操る力までも有して
いるというのか? だとすればさしもの己も手詰まりだ。
背筋を戦慄が走ったが、すぐに、そうではない、と思い直す。
(ち、とんだ面倒事を増やしてくれたぜあの餓鬼共)
思い出した。そういえば少し前に同じ偽名を使ったことがあった。
あの危なっかしい若侍達の誰かから噂が広がり、主催者の耳にでも入ったのだろう。
そもそも読心能力の類があれば三十郎の本名も容易に判明するのだから、あえて
偽名を載せる必要はない。先見の力など持った日には、あらかじめ結果の見えた
御前試合など退屈この上ないだろう。思考操作についても同様だ。
つまりこの一致は、単なる偶然。
返す返すも最初の邂逅は、場所、人、共に僥倖であったということだ。
今後自己紹介が必要な場面では無用の不審を招かぬよう、一貫して“椿三十郎”
を名乗るのが無難だろう。うっかりその場任せで桑畑某だの松林某だの名乗り、
そのたびに斬り合いになっては命がいくつあっても足りぬ。
同姓同名の参加者が別に存在する可能性も皆無ではないが、その時はその時だ。
人別帖のよく知らぬ他の名前を拝借するのはかえって危ない。
厄介な超常の力を使うといえど、主催側は決して全知でも全能でもない。
参加者一人の本名すら把握できぬという、実にお粗末な限界を露呈したのだ。
つけ入る弱味も、出し抜く隙もどこかに必ずある。
未知の妖術が蔓延る状況で動きあぐねていたが、これで腹は決まった。
この御前試合を大元から潰す。
椿三十郎という男は――偽名だが――、束縛を嫌う。
そして――天邪鬼ゆえ決して認めないだろうが――、みすみす悪の餌食になる弱者を
見過ごせぬ心優しさの持ち主でもある。
(気に食わねえ。他人を無理矢理呼びつけて餓鬼を殺生して『今から殺し合え』だと?)
大人しく鞘に押し込められようはずもなかった。
◆
そうと決まれば今後の行動方針だ。三十郎は改めて人別帖と地図を見る。
奇態な人別帖である。先ほどの老人――辻月丹――はともかく、はるか昔の豪傑までも
名を連ねているとはふざけた話だ。
常識的に考えれば騙りと見るべきだが、相手は非常識な力を操る存在だ。
大体名前を見ただけで騙りと知れる道化が、かくも多く御前試合に呼ばれるだろうか?
瞬きの間に他人を召還し、手も触れず首を飛ばし、無人の鐘を鳴らす奇怪な輩が、
三途の川を逆に渡す力を持っていないとは言い切れない。
いずれにせよ判断の決め手に欠ける今は、この問題はとりあえず脇に置く。
とにかく今はもっと情報が必要だ。
敵の全貌が掴めぬ以上、あの二階笠の男一人を斬って全てが終わるとも限らない。
妖術への対抗策がわからぬ限り、奴の居場所を突き止めて攻め入ったとしても
首を飛ばされて犬死にだ。
人別帖から三十郎は一つの名を拾い上げる。
柳生十兵衛。二階笠の老武士を父と呼び口論していた隻眼の男だ。
(片眼の十兵衛とはな。まるで講談だぜ)
白州でのやり取り、あれがもし演技なら稀代の名役者だ。
偽者ならばそれで良し。吊るし上げれば親玉に関して何か吐くだろう。
本物だとすれば過去の人間だが、なぜ、という疑問もひとまず黙殺する。
何も知らされてはいなかったようだが、老武士――柳生宗矩か?――とその
周囲の者を参加者の中で唯一知る人物と見て相違あるまい。
彼と接触を図り、敵の情報を探る。これを当面の目的とする。
地図に目を移す。老武士の居場所は城か、城下の屋敷のどこかだろう。十兵衛と
いう男もそこに向かう見込みは高い。
では島の北東端であるここ伊庭寺から、どの道を辿り城下を目指すか。
内陸と海沿い。どちらを経由しても距離に大差はない。
(舟着場か)
仁七村。地図を見る限り、島からの唯一の脱出手段であろう舟が存在する。
殺し合いに否定的な者が脱出を図るならここに集うだろうが――
(話が旨過ぎるな。危ねえ危ねえ、だ)
舟が破壊されているなどの妨害工作ならまだ可愛げがある。あえて記すことで
参加者を殺到させて仲間割れや反目を煽り、殺し合いの加速を目論む悪意さえ
この地図からは感じられる。
また首尾良く海に漕ぎ出したとして、妖術使いが素直に逃がすとも思えない。
(馬鹿やってる奴がいねえか、見に寄ってみるか)
他の参加者をいちいち救う義理など三十郎にはないが、白州には女子供もいた。
それに、脱出志願者の中に柳生十兵衛と遭遇した者がいるかもしれない。
十兵衛が必ずしも城下にいるとは限らないのだから、道中出会う者からも情報を
集めてゆくのがよかろう。
向かう場所は決まった。善は急げ。
◆
本堂内部からは金目の物はほとんど持ち去られており、天井裏や床下からも旅の
助けになりそうなものは発見できなかった。
鑿跡も荒々しい本尊らしき木仏が打ち捨てられ、床に横倒しになっている。信仰の
対象たるこちらは価値を認められなかったのか。罰当たりなものである。
仏像の中に秘宝が納められているという話はよく聞くが、鉈も鋸もなければ確認の
しようがないし、どのみち経典や秘仏など死合の役には立つまい。
刀の一振りも入っていれば別だが、武器を呑んだ仏など聞いたこともない。
よく見れば木仏の陰に蝋燭が数本落ちていた。火付け道具がなければ灯火の用は
成さないが、一応荷物に加えておく。
さっきから空腹で腹が鳴って仕方がない。
行李の食料にすぐ手をつけると後に響くが、背に腹は変えられぬ。道々食べるとしよう。
辻月丹はまだ椿の下で寝ていた。
ぼさぼさ頭の上にいくつか花が落ちている。童女ならともかく、彼の姿ではなんとも
滑稽な光景だ。
心の中でだけ老人に別れの挨拶を告げ、足音を忍ばせて三十郎は歩き出す。
と、背後から何か塊状の物が飛んできた。
反射的に振り向きざま受け止めると、笹包みである。中には戦国時代さながらの
兵糧丸や干し柿が入っていた。これも支給品の糧食であろう。
先ほどと変わらぬ姿で樹下に座る男は、瞑目したまま寝言のように告げた。
「その様子では……長いこと水っ腹なのだろう」
「ずいぶん太っ腹じゃねえか。あんたはどうするんだ」
「なあに……かなり多目に入っておったのよ。食いきれぬわ、持ってけ」
「そうかい、じゃ貰っとくぜ」
老人の言葉を鵜呑みにする三十郎ではなかったが、くれるというなら是非もない。
遠慮なく自分の行李に包みを仕舞い込む。
月丹という男がなぜこうもみすぼらしい風采なのか、三十郎はその一端を垣間見た
気がした。変人だが、ただの酔狂でできることではない。
「じゃ、くたばるんじゃねえぞ爺さん。あばよ」
「…………ふごー」
再び眠りに就いたらしい。
今は鞘の内にある名刀が、真の斬れ味を見せつける時は来るのだろうか。
ただならぬ実力を宿した老人の鼾を背に、三十郎は伊庭寺を後にした。
【いノ捌 伊庭寺境内/一日目/黎明】
【辻月丹@史実】
【状態】:健康、睡眠
【装備】:ややぼろい打刀
【所持品】:支給品一式(食料なし)
【思考】基本:殺し合いには興味なし
一:朝まで寝る
ニ:
徳川吉宗に会い、主催であれば試合中止を進言する
三:困窮する者がいれば力を貸す
四:宮本武蔵、か……
【備考】
※人別帖の内容は過去の人物に関してはあまり信じていません。
それ以外の人物(吉宗を含む)については概ね信用しています(虚偽の可能性も捨てていません)。
※椿三十郎が偽名だと見抜いていますが、全く気にしていません。
人別帖に彼が載っていたかは覚えておらず、特に再確認する気もありません。
※1708年(60歳)からの参戦です。
◆
夜明け前の道を歩きながら、自分に支給された握り飯を頬張り食う。
数食分あったそれの最後の一つを胃に収め、三十郎はようやく満足の息を吐いた。
まともな飯にありついたのは久々だ。
無論、辻月丹に感謝こそすれ、主催には別の意味で礼をしてやるつもりだが。
これでひとまず飢えで剣が鈍ることはあるまい。
(何しろこれから、おめでてえ奴らを斬らなきゃならねえだろうからな)
白州で提示された優勝者への褒美。所詮は口約束だ。
いかなる願いも聞き届けるなどという絵空事を信じる者がいるとは思えないが、
名声を求めて死合に乗った者も中にはいよう。
三十郎には誰の思惑も知ったことではない。降りかかる火の粉は払うのみ。
月丹ほどの手練れが数十人もいるのだ、せいぜい褌を締めてかかるとしよう。
強者ひしめく島を、潮風にぶらぶら袖をそよがせて風来坊が行く。
【いノ漆 路上/一日目/黎明】
【椿三十郎@椿三十郎】
【状態】:健康
【装備】:やや長めの打刀
【所持品】:支給品一式、蝋燭(5本)
【思考】基本:御前試合を大元から潰す。襲われたら叩っ斬る
一:柳生十兵衛から情報を得るため城下へ向かう
ニ:仁七村の船着場で周囲の状況を確認する
三:名乗る時は「椿三十郎」で統一(戦術上、欺瞞が必要な場合はこの限りではない)
四:辻月丹に再会することがあれば貰った食料分の借りを返す
【備考】
※食料一人分は完全消費しました。
※人別帖の人名の真偽は判断を保留しています。
※本堂は床下や天井裏を含めざっと探索しました。周囲の墓石等は見ていません。
本堂内部に丈およそ六尺の木仏が横倒しになっています。
※名前関連は映画版準拠です。鳥羽亮の小説版(椿三十郎が本名)は考慮していません。
※「用心棒」(幕末)と「椿三十郎」(江戸中期)は時代設定が異なりますが
前の書き手氏に従い、いずれの事件も経験済になります。
ただし参戦時期は江戸中期のいずれかです。
同時代の史実人物は知りませんが、明らかな過去(江戸初期以前)の歴史知識はあります。
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最終更新:2010年05月10日 19:30