義手と偽手 ◆cNVX6DYRQU



突然の背後からの突風に突き倒される細谷源太夫。
すぐさま追い討ちの剣が振り下ろされるのを気配で察すると、咄嗟に勘だけで行李を振り回し、それを防ぐ。
行李が砕ける音で防御の成功を悟った細谷は、攻撃を続けようとする敵の足元に剣を薙ぎ、かわす隙に立ち上がる。
そこで初めて細谷は相手の姿を見るが、その異様な眼付きが、この敵に対しては誰何も問答も無意味だと如実に示していた。
思わず気圧される細谷だが、そうでなければ次にやって来た凄まじい横薙ぎであっさり斬られていたかもしれない。
及び腰になっていたおかげで、細谷は胸を浅く斬られつつどうにか間合いを外し、ここで漸く、剣を構え直す。
やっとまともに戦える体勢を整えた細谷だが、激しい気力の消耗により、既に肩で息をしていた。
この男は明らかに細谷よりも上手。しかも、不意打ちを受けた事で完全に戦いの主導権を握られている。
(これが、儂の最期の闘いとなるか)
あっさりと覚悟を決める細谷。だが、それは長い用心棒としての経験から導かれる確かな予感だった。
この相手は危険だ。いつもの仕事ならば逃げるか、時間を稼いで助けを待つしか手がないような強敵。
だが、こんな殺し合いを強制する者達が支配するこの島で、助けなど期待できない。
この者が弓を持っていない所を見ると、主催者の手先は別にいる訳で、仲間達が来てくれるとしてもそちらを片付けてからの筈。
たった数度の応酬で応酬でここまで消耗するようでは、仲間が来るまで持ち堪えるなど不可能だろう。
同様に、足腰の衰えた今の細谷には、この頑健そうな剣士から逃げ延びる事も出来そうにない。
そして何より、細谷には仲間の足手纏いとなってまで生き延びようという気は、既になかった。
妖術師と武術の達人の双方を抱える主催者、この男のような強く凶悪な参加者。
この状況では、いくら仲間達が強くとも、無傷でこの御前試合を切り抜けるのは難しいだろう。
そして、自分達の中で誰かが斃れるのならば、最初の一人は年の順から言っても、腕前から言っても自分になるのが道理。
第一、若く志のある他の者達と違い、細谷はここから生きて帰っても、待っているのは厄介者として息子の世話になる未来。
それならば、仲間の為、ここでこの危険な剣士を道連れに、無理ならせめて手傷だけでも負わせて死ねれば本望。
悲壮な覚悟を固めて、細谷は剣を構え直した。

一方、ここまで押し気味で闘っている男……藤木源之助の心にも、密かな焦りが生まれていた。
本来、藤木の力をもってすれば、押し気味に戦うどころか、既に細谷を討ち取っていてもおかしくないのだ。
なのに思うように身体が動かない。まるで、身体の重心がずれたかのように、完全な均衡が取れずにいる。
腰に脇差がないからか、長く行李を背負っていたのが悪かったのか……
まあ、不思議な珠のおかげで癒えたとはいえ、あれだけの重傷を負った後では多少の後遺症は仕方ないのかもしれないが。
藤木は再び剣を構え、左手に意識を集める。
身体全体の均衡が僅かに狂っているのに対し、左腕だけは普段よりも好調だ。
前の戦いではこの左腕のおかげであの若者との接近戦で優位に立つ事が出来たし、その風を操る技もすぐに修得した。
身体が本調子ではない以上、この戦いでは左腕に頼るしかないだろう。
「何かお前の左腕に引っかかるもんがあるんだ。一応気をつけとけ」
坂田銀時のその忠告を、藤木とて忘れた訳ではなかったが。

「しぐれ殿!」
富田勢源が抑えた声で叫ぶのを見守りながら辻月丹は周囲を警戒していた。
勢源が呼んでいるのは香坂しぐれ……勢源の同行者であった、重傷を負った女人の名だそうだ。
だが、あの夜明けの主催の声を聞いて激高した勢源が、彼女を道祖神の祠に置いて来てしまったとか。
そして、主催者との遭遇で負傷した勢源は月丹と出会い、共に祠に戻ってみると、そこにあったのは無残な焼け跡。
あれを見た勢源が、自責して懸命にしぐれを探そうとしているのも当然と言えよう。
だが、この決して小さくはない島で、人一人を碌な手掛かりなしに見つけ出すのは容易ではない。
加えて、あの焼け跡や勢源と彼を通して聞いたしぐれの体験からして、島には主催の言葉に乗せられた参加者も多いようだ。
勢源もそれがわかっているから声を抑えているのだろうが、それでも危険な剣士を招いてしまう危険はある。
だからこそ月丹は周囲に注意を払っていたのだが、その気配に気付いたのは勢源の方が早かった。
思わず小太刀に手を掛ける勢源。
普通の人間と似て非なるその気配に、咄嗟に夜明けに戦った妖術師を連想したのは仕方ない事だろう。
もっとも、落ち着いてみれば、その少女の気配があの妖人とはまるで違うとすぐわかるのだが。
近くの木の陰から現れた少女は勢源の動きに反応し、機敏な動きで剣を構える。
構えるだけですぐに切り掛からなかったのは、相手の二人が共に老剣士であったからだろうか。
「妖夢、待て」
妖夢と呼ばれた少女に続き、青年と老人の二人が現れ、少女を制止する。
「すまぬ、こちらは争うつもりはない」
危うく遭遇戦をしかけた五人だが、今回は出会った両者が集団であった事もあって簡単に誤解が解けた。
「こちらこそ申し訳ない。私は富田勢源、こちらは辻月丹殿です」
穏やかに自己紹介する勢源だが、その言葉に相手方にいる老人が眼を見開く。
富田勢源と言えば戦国の高名な剣客と同じ名前。それで驚いたのだろうか。まあ、月丹の名もそれなりに知られてはいるが。
「そうか。剣名は聞き及んでいる。余は徳川吉宗、こちらは秋山小兵衛魂魄妖夢だ」
その言葉に、今度は月丹が目を見開く番だった。

「一つお聞きするが、香坂しぐれ殿という若い女人を御存知ありませんか?」
余程しぐれという女が心配なのか、青年の、月丹にとっては衝撃的な名乗りをあっさり流して彼女の事を聞く勢源。
「すまぬが、この島に来て以来、ここにいる妖夢以外の娘には会っていない」
「私も知らないわ」
否定的な答えに勢源は落ち込むが、更に食い下がる。
「おそらく鞘のない小太刀を持ち、右手首を切り落とされた女性なのですが、本当に心当たりはありませんか?」
そう言うと、今度は三人が顔を見合わせる。
「そういう事なら、心当たりがある」
吉宗はそう言うと、一行を木立ちの中に導いて行った。

佐々木小次郎は、木刀を構えたまま、もう長いこと立ち尽くしていた。。
日の光を背に受け、少しずつ位置を変えていく己の影をじっと見つめ続ける小次郎。
どれくらいそうしていたか……小次郎は満足そうに頷くと構えを解く。
今までのは小次郎なりの修練で、何かしら得るところがあったという事だろうか。
傍から見ている分には、小次郎は何もせず突っ立っていたようにしか見えないのだが……
「退屈をさせてしまったか?ならば次は、もう少し面白いものを見せよう」
小次郎がそう言った相手は、何時の間にか彼の後ろに忍び寄っていた女剣士、香坂しぐれ。
両者はそれ以上の言葉を交わす事なく、ともに剣を構え、自然に交戦状態に入る。
しかし、小次郎はどうしてしぐれの接近を悟る事が出来たのか。
しぐれは完全に気配を消していたし、小次郎も一度たりとも振り返らなかったはずなのだが。
木刀では、刀身に背後の敵を映すような芸当も出来ようがないし……
そのような不審があった為に、しぐれはこの戦いでは慎重に臨む事にする。
即ち、小太刀の間合いの不利を補う為に至近距離に跳び込むのではなく、切れ味の差を活かして木刀の切断を狙う戦術だ。
そして、この待ちの戦法が、初手の応酬ではしぐれの命を救う事となった。

「未だ到らぬか……」
その声を聴きながら、しぐれは驚愕の表情を浮かべて跳び下がり、辛うじて小次郎の剣を逃れる。
それでも完全には避けきれず、その肩には木刀の鋭い斬り下げによる裂傷が刻まれた。
無論、小次郎の剣を小太刀で迎撃して破壊するような余裕は全くない。
何しろ、一瞬の間に、縦斬り・横薙ぎ・円を描く一撃の三つの攻撃がほぼ同時にしぐれを襲って来たのだ。
高速の連続攻撃などとは明らかに違う。
最初の縦斬りがしぐれに届くよりも前に、既に二撃目・三撃目が放たれてしぐれに迫っていたのだから。
では、隠し持っていた木刀による三刀流か。それも否。何しろ……
考えがまとまる前に、小次郎が再び動き、しぐれは考察を中断する事を余儀なくされる。
そして、この一撃、いや三撃は、最初の攻撃で小次郎が「未だ到らぬ」と言ったのがハッタリでない事を如実に示す。
先程の攻撃は、三つの攻撃が「ほぼ」同時に放たれたが、今回は三撃が全く同時に放たれたと言っても良いかもしれない。
一撃一撃が達人の渾身の一撃と変わら鋭さを秘めた剣が同時に三つ……さすがにこれを完全に防ぎ切るのは至難。
小次郎の剣が、ついにしぐれの右手を捉えた。

上段の構えから、再び左手だけを振り下ろす藤木。だが、使う技は前とは少し違う。
細谷が、両足を踏ん張り、再び突風に襲われた場合に備えているのを見たからだ。
浮羽神風流の技を盗んだ藤木だが、さすがに付け焼刃の彼の風には、あの少年が放った「疾」ほどの力はない。
細谷のように体格が優れた剣士に、そうと知って身構えられてしまえば、踏みこらえられてしまう可能性が高いだろう。
故に、左手から発する物をただの突風ではなく、鋭い刃と為す。
それは、刃の数や威力では劣るが、やはり浮羽神風流の一手である「嵐」に類似した技。
あの闘いで烏丸与一が見せた技は「疾」のみだが、剣によって大気を操れるならば鎌鼬に行き付くのはいわば常道。
特に、藤木は浮羽神風流の技を「晦まし」の延長として使っており、「晦まし」で振り下ろされるのは実体がないとはいえ剣。
ならば、藤木がこの新技で突風ではなく刃を放つようになるのは当然の成り行きと言える。
かくして刃が放たれ、回避の用意がなかった細谷の肩に切り傷が刻まれた。
しかし、細谷は傷を負いながら微動だにしない。
藤木の鎌鼬に達人を仕留める程の威力がなかったとはいえ、普通ならば予想外の技に驚いて隙を見せる筈なのだが。
原因は細谷の覚悟。
死を決したその覚悟が、一種の悟りに似た効果で細谷の心を鎮め、藤木の妖剣と負傷による動揺を抑えたのだ。

細谷は、藤木が左手に続いて右手を振り下ろすのと同時に身体ごと剣をぶつけて行き、鍔迫り合いに持ち込む。
鍔迫り合いは藤木も得意とするところだが、剣を保持するのが両手と片手ではさすがに不利は否めない。
それでも、体勢を崩されながらもどうにか堪え、左手を引き戻すまで転倒せずに耐えたのは流石と言うべきか。
左手を戻した藤木は、それを剣の峰に添え、包丁で西瓜を切るが如く、細谷の剣を切り裂いた。
「ぐっ!」
剣を切断した藤木の刀はそのまま細谷の身体を切り裂き、さしもの細谷も苦痛の呻き声を上げる。
とはいえ、体勢の崩れた状態から、剣を切断した余勢での一撃では、細谷に致命傷を与えるには至らない。
当然、死を覚悟している細谷が負傷したくらいで退く筈もなく、至近距離から、半ばまで切断された剣を突き出す。
既に振り抜いた剣を引き戻して防御するのは間に合わないし、体勢が崩れた現状では回避も困難。
すぐにそれを悟った藤木は、咄嗟に左腕だけを引き戻して細谷の突きを受ける。
敢えて左腕に剣を刺させる事で細谷の動きを封じ、とどめを刺そうと言うのだ。
ここまで役に立ってくれた左腕に重傷を負うのは痛いが、死を覚悟した達人を斃すのにそれくらいの犠牲は已むを得まい。
だが、細谷の剣と藤木の腕が接触した瞬間、予期せぬ衝撃を受けて、藤木は転倒する。
折れたとはいえ、日本刀の突きがあの勢いで腕に当たれば、剣は腕に刺さり、それによって勢いは減殺される筈。
なのに、まるで金属と金属がぶつかったような音と衝撃に、藤木は戸惑う。
慌てて腕の突きを受けた部分を見てみれば、そこは細谷の突きによって裂け陥没しているが、血は一滴も出ていない。
明らかに異常な事態に混乱し、何とか事態を把握しようとする藤木。
そして、持ち主が妖術の力によって惑わされているのを察し、藤木の懐にあった宝珠がまぶしく光る。
神仏をも使役したという役行者の力を受け継いだ珠は、藤木の左手と、更には心に施された幻術の力を除き、真実を露わにした。
藤木の頭の中に蘇る、無惨に死した師の記憶。
と言っても、昨夜、柳生の剣士によって眼前で虎眼が殺された記憶ではない。
もっと前、そう、伊良子清玄が師を討った時の記憶だ。
加えて、死の仇である清玄との、あの死闘の記憶、更に、己がこの新しい腕を得た記憶もまた……

木立ちの中、勢源が杖代わりにしていた二刀小太刀の鞘が、異物を踏み付けた。
「これは……木屑?」
そう、木立の一角、彼等が居る辺りに、木屑が散乱しているのだ。
「妖夢、頼む」「ええ」
その中心となる一般の木の傍で、吉宗に促され、妖夢が跳躍する。
この木は、下の部分は枝や足掛かりとなる物がなく登るのが困難そうな一方で、上方では太い枝が交わっており、
彼女のように身軽な者にとっては良い休憩場に、また作業場にもなりそうだ。
「しぐれ殿がここに?」
「うむ。余等がここに身を休めに来る前に、その者が使っていた形跡がある」
そう聞かされて勢源は少しほっとする。
あの高い枝の上に上れるくらいなら、祠で何があったにせよ、しぐれが更なる重傷を負ったという訳ではなさそうだ。
ここで休んでから移動したという事は、体力もある程度は回復できている可能性が高いし。

(忍びか……)
一方、月丹は妖夢の跳躍力から、そう推測した。それならば、常人とは何処か異なる気配にも納得が行くというもの。
忍びの女と、経験が豊富そうな老人。剣術に優れた貴人の護衛としては、まっとうな剣客よりも適任かもしれない。
そう、月丹は、徳川吉宗こそが、この御前試合の黒幕であり、小兵衛と妖夢はその護衛ではないかと疑っていた。
目の前にいる青年は、立ち居振る舞いからも高貴さが滲み出ており、彼が吉宗と言うのは嘘ではないだろう。
もっとも、吉宗は他の参加者と争うつもりはないと言うし、それが真実なら主催者では有り得ない事になるが。
だが、その言葉を月丹がいまいち信用する気に慣れない理由は、吉宗の二人の供。
魂魄妖夢から感じられる普通の人間とは異質な気配と、秋山小兵衛の自分に対する異常な関心だ。
特に、小兵衛は、あからさまではないものの、出会った時から月丹を伺っているのが感じられる。
或いは、月丹が吉宗を疑っているのを悟っているのだろうか……?
「これよ」
月丹が考えをめぐらしている間に、妖夢が枝の上から何かを取って下りて来た。
「多分、これは作り損じて捨てたんだと思うけど」
そう言って妖夢が見せたのは、作りかけではあるが明らかに……
「義手!?」

【へノ壱 木立の中/一日目/昼】

【徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀(破損)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者の陰謀を暴く。
一:小兵衛と妖夢を守る。
二:主催者の手掛かりを探す。
三:妖夢の刀を共に探す。
【備考】
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識及び、秋山小兵衛よりお互いの時代の齟齬による知識を得ました。

【秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】基本:情報を集める。
一:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
二:辻月丹が本物かどうか知りたい
三:主催者の手掛かりを探す
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
 又は、別々の時代から連れてこられた?とも考えています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
 ただ、吉宗と佐々木小次郎(偽)関しては信用していいだろう、と考えました。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】健康
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する。
一:この異変を解決する為に徳川吉宗、秋山小兵衛と行動を共にする。
二:愛用の刀を取り戻す。
三:主催者の手下が現れたら倒す。
四:自分の体に起こった異常について調べたい。
【備考】※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。楼観剣と白楼剣があれば制限を解けるかもしれないと思っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類が使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

【富田勢源@史実】
【状態】足に軽傷
【装備】蒼紫の二刀小太刀の一本(鞘付き)
【所持品】なし
【思考】:護身剣を完成させる
一:香坂しぐれを探す
二:死亡した佐々木小次郎について調べたい
佐々木小次郎(偽)を、佐々木小次郎@史実と誤認しています。

【辻月丹@史実】
【状態】:健康
【装備】:ややぼろい打刀
【所持品】:支給品一式(食料なし)、経典数冊、伊庭寺の日誌
【思考】基本:殺し合いには興味なし
一:富田勢源の探し人に付き合う
ニ:徳川吉宗が主催であるか探り、そうであれば試合中止を進言する
三:困窮する者がいれば力を貸す
四:宮本武蔵、か……
【備考】
※人別帖の内容は過去の人物に関してはあまり信じていません。
 それ以外の人物(吉宗を含む)については概ね信用しています(虚偽の可能性も捨てていません)。
※椿三十郎が偽名だと見抜いていますが、全く気にしていません。
 人別帖に彼が載っていたかは覚えておらず、特に再確認する気もありません。
※1708年(60歳)からの参戦です。
※伊庭寺の日誌には、伏姫が島を襲撃したという記述があります。著者や真偽については不明です。



佐々木小次郎が三つの斬撃を同時に放ち、しぐれに迫って行く。
だが、当然の事だが、放たれたのが全く同時であっても、軌道が異なる以上、しぐれへの到達は同時にはならない。
更に、しぐれは小次郎の縦斬りに対して自ら右腕を差し出し、接触を早めた。
腕一本を犠牲にして三つの攻撃の内一つを防ぎ、残りの二つを体術と小太刀で凌ぎ切るつもりか。
しかし、腕を砕かれる痛みを意志力で抑え込んだとしても、衝撃が身体に伝わる事による隙はなくせない筈。
そして、小次郎の木刀がしぐれに接触し……
「何!?」
小次郎の刀はしぐれの手首に命中したものの、砕く事はなかった。
と言っても、弾き返されたのではなく、逆に木刀が腕に切込んだのだ。
(義手か!?)
そう、小次郎が持つ木刀は明らかに通常の木刀を上回る鋭さを持ってはいるが、しぐれの手が生身であればこうはならない。
しぐれの右腕が木製の、それも粘性と柔軟性に富んだ木で作られた義手であった為に、木刀が食い込んだのだ。
今までそれを見抜けなかったのは、義手が精巧であった為もあるが、より大きいのは二人の立ち位置。
しぐれが日のある方向から小次郎に近寄って来た事もあって、小次郎は真っ向から太陽を見る形になっている。
ここまでは逆光の不利を全く感じさせずに闘っていた小次郎だが、彼の心眼もしぐれの義手までは見抜けなかったようだ。
そして、しぐれは義手に食い込む事で一瞬だけ動きを止めた小次郎の剣に、小太刀による一撃を浴びせた。
更に、木刀を受けた義手を外して吹き飛ぶに任せる事で、縦斬りの衝撃を本体に及ばせる事なくやり過ごす。
続いて襲って来る横薙ぎを、反動を利用して振るった小太刀で弾くしぐれ。
しかし、いくら小太刀が俊敏性と防御力に優れているとはいえ、瞬時に二撃を放つのは無理があり、しぐれは体勢を崩す。
小次郎の最後の一撃が弧を描いて防御が出来ない状態のしぐれを襲う……が、その前に木刀が折れる。
慌てて小次郎は跳び下がるが、しぐれも追い討ちをできるような状態にはない。

睨み合う小次郎としぐれ。
木刀が折られたとはいえ、その長さはしぐれの小太刀と比べてそう劣っている訳ではない。
義手を失って片手となったしぐれとどちらが優位かは定めがたい所だが……
「よそう」
小次郎は剣を引いた。
「続きはいずれまた。私も、その時までにより修練を積んでおこう」
そう言うと、しぐれに背を向けて歩き出す。
小次郎の新しい燕返し。これは、元々の燕返しと良く似ているが、大きく異なる点がある。
それは、三つの攻撃が全て同一の剣によってなされる事。
そして、相手にとっては三つの攻撃は同時だが、剣にとっては前後がある事だ。
おそらく、しぐれはそれを初手の応酬で知ったのだろう。
あの時、しぐれの肩を裂いた縦斬りは三つの攻撃の内、剣にとっては二つ目。
よって、その攻撃で付着した血液は一撃目には現れず、三撃目には技の出だしから既に付着済み。
それを見れば、勘の良い者には、剣にとっては燕返しは通常の連続攻撃と変わらない事は一目瞭然。
小次郎の次の燕返しに対し、しぐれはその剣にとっての順番を見切り、義手を犠牲にして一撃目の縦斬りに痛打を浴びせた。
結果、二撃目は既に損傷した木刀による一撃であった為に、体勢の十分でない小太刀に簡単に弾かれる。
三撃目は、一撃目で受けた傷と二撃目を弾かれた衝撃で始めから折れ掛けており、円軌道の遠心力に耐えられなかったのだ。
しぐれにとっては同時だった筈の攻撃の順番を当てたのは、小次郎の構えや眼つきから読んだのか、ただの勘か。
何にしろ、一撃目で完全な燕返しを出し損なって仕留め損ね技の性質を見切られた事、そして同時攻撃の順番を読まれた事。
どちらも小次郎がこの新技を十分に己のものと出来ていなかった事による失策と言える。
故に、小次郎はこれ以上の勝負を諦めた。不完全な技で戦い続けるのは相手に対しても非礼であるし。
更なる修練によって技を完成させなければ……。まあ、今はまず得物の調達が先決だが。
一方のしぐれは、小次郎を逃がしたくはなかったが、相手の技の正体がまだわかっていない状況で戦い続けるのは余りに危険。
仕方なく、小次郎が去るに任せて決着を先延ばしにする事とした。
まあ、苦労して作った自信作の義手があっさり破損した事に落ち込んで追う気にならなかった、というのも大きいが。
元のあの安全な作業場に戻って作り直すか、より良い材料がある所を探すか……
しぐれの心は己の新しい手の方に向かっていた。



【へノ陸 平地/一日目/午前】

【佐々木小次郎(偽)@Fate/stay night】
【状態】健康
【装備】妖刀・星砕き@銀魂(破損)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:強者と死合
一:愛刀の物干し竿か、それに代わる刀を見つける。
二:燕返しを完成させる
三:完成したなら、近藤と土方に勝負を挑む
四:その後、山南と再戦に望みたい。
【備考】
※自身に掛けられた魔力関係スキルの制限に気付きました。
※多くの剣客の召喚行為に対し、冬木とは別の聖杯の力が関係しているのか?
 と考えました、が聖杯の有無等は特に気にしていません。
 登場時期はセイバーと戦った以降です。
 どのルートかは不明です。
※この御前試合が蟲毒であることに気付き始めています。

【香坂しぐれ@史上最強の弟子ケンイチ】
【状態】右手首切断(治療済み)、肩に軽傷
【装備】蒼紫の二刀小太刀の一本(鞘なし)
【所持品】無し
【思考】
基本:殺し合いに乗ったものを殺す
一:新しい義手を作成する
二:富田勢源に対する、心配と若干の不信感
三:近藤勇に勝つ方法を探す
【備考】
※登場時期は未定です。



一筋の光も刺さぬ闇の中、すぐ傍では何やら人ならざる気配が蠢き、彼の身体に何かをしようとしている。
普段なら、そうと察すると同時に怪しい気配を叩き斬っている所だが、今は頭に靄がかかったようで、何もする気が起きない。
どれくらい経ったか、ふと前方に、やはり常人とは少し異なるが、間近にいる者ほどには禍々しさを持たない気配が現れた。
「果心殿、何を……ほう、これは御親切な」
新しい気配が妖しい気配に声を掛け、二つの存在の間に、殺気に近い緊張感が走る。
慣れた感覚に、夢うつつだった彼の意識も現実に戻りかけるが、未だ覚醒する程ではない。
「この調子で、この者の弟弟子や但馬守殿の息子にも眼を戻してやるおつもりか?」
「いや、大僧正。私は武には疎うございましてな。下手な手出しをすれば彼等の力を損なってしまうやもしれません」
「では、何故にその者だけ?」
「……藤木殿は連れて来られた時期に問題がありましてな。無論、この時期が最適と判断された故に選ばれたのでしょうが。
 ただ、“あれ”は武術の知識はあっても人間の心に関しては無知な筈、そこに陥穽があるやもしれません。
 死んだ筈の師や、決着を付けた筈の相弟子の生きた姿を見ればどう反応するか……」
師、という言葉に反応して彼……藤木源之助の意識は現実に戻りかけるが、直後に妖しい力が彼の心に侵入する。
「故に、藤木殿の識の一部を封じます。となれば当然、師の死後に失った腕も元に戻さなければならない訳です。
 この腕ならば、本来の腕に劣らぬ働きをしてくれる筈……さて、これで済みました」
そう言うと、果心と呼ばれた妖しい気配は、未知の力に脳を蝕まれつつある藤木を離れ、去って行く。
もう一つの、大僧正と呼ばれた気配は黙ってそれを見送り、続いて己も去るが、一言だけ呟く。
「成程。武に疎いというのは確かなようだな、居士よ」

藤木ははっとする。懐の珠が光ったと同時に心の中に生まれた忌まわしい記憶は現か幻か。
ふと腕を見やると、そこにあったのは生身の肉体ではなく、金属で作られた精巧な義手。とすると、やはりこの記憶は……
だが、藤木には過去の事を落ち着いて考えている暇はない。
細谷源太夫が、倒れた藤木に決死の一撃を叩き込もうと、早くも剣を突き出し始めている。
むしろ、時間的には一瞬だったとはいえ、藤木が急に蘇った記憶に惑乱している隙に攻撃されなかったのが不思議なくらいだ。
宝珠のいきなりの発光に、細谷も目を晦まされたという事だろうか。
とにかく、藤木は様々な疑問を一時棚上げにし、細谷の突きに合わせて自身も突きを繰り出す。
空中でぶつかる二人の突き。
体勢の差、また藤木が義手を使うのを厭うて片手で突きを放った為、細谷の突きが勢いで勝り、藤木の突きを弾く。
だが、それは藤木の計算の内。
折れた剣で諸手突きを放った細谷に対し、十全の剣で藤木が放った片手突きは、間合いの点で大きく勝っている。
弾かれつつも軌道の変化を最小限に留めた藤木の突きは、細谷の剣よりも先んじて相手の身体に達し……
(すまぬ……)
頭の中に響いた妖人の言葉を認識する暇もなく、無言で崩れ落ちる藤木。決死の突きで藤木を斃した細谷は、大きく息を付く。
その肩は藤木の剣に貫かれているが、すぐに致命傷になる程ではない。
本来であれば、藤木の剣は弾かれたとはいえ、ここまで大きく急所を外す事はなく、細谷は致命傷を受けていた筈だ。
そうならなかった原因は、藤木の右手首に刺さった刃。
これは、鍔迫り合いで折られた細谷の刀の切っ先が跳ね上がり、あの瞬間に落ちて来た物。
剣の切っ先が突きを繰り出す藤木の手に刺さった為、その軌道が大きく逸れ、細谷は致命傷を免れたのだ。
倒れた藤木への細谷の追い討ちが一瞬遅れたのも、それに機を合わせる為だが、細谷もここまでの効果は期待していなかった。
本来ならば、藤木程の剣客が、降って来る刃に、刺されるまで気づかないという事はまず有り得ない。
細谷が目論んでいた事は、切っ先を避ける為に藤木が迎撃の一撃を放つ時期を半拍だけ遅らせる事。
そうすれば、剣を弾いて軌道を僅かに急所から逸らした効果と相まって、藤木の剣に殺される瞬間をかなり遅らせる事が出来る。
これで稼いだ時間を使って、突きに充分な勢いを持たせ、相討ちに持ち込むか、せめて手傷を負わせようという策。
だが、不意の混乱により藤木が周囲の状況を察知し損ねた為、結果として藤木だけが死ぬ事となった。
果心が余計な事をせず、はじめから片腕で戦っていれば、おそらく悪くても相討ちにはなっていただろうに。
あの妖人が、最後の瞬間の藤木に謝罪の念を送る気持ちになったのも当然と言えよう。
まあ、果物居士が藤木の腕と記憶に細工をしなければ、その行動は島に来た当初から大きく変わっていただろうから、
そもそもここで細谷と死闘を演じるような事にはならなかった可能性が高いのだが。
だがどちらにせよ、果心が良かれと思って施した、記憶の封印と義手の装着が、藤木が実力を発揮する事を妨げたのは事実。
今頃、藤木の戦いの一部始終を見守っていた怪僧はほくそ笑んでいる事だろう。

藤木に装着された義手は、嘗て鋼の真実に最も近付いた、と称された刀工が使っていた義手を果心の魔術で返還したもの。
名工が使っていただけあってその質は極めて高く、果心居士がこれなら藤木の助けになると思ったのも無理ないかもしれない。
元は別人用かつ右腕だった義手を果心の術で藤木の左腕用に改造したが、その工程も義手本来の質を損なうものではなかった。
しかし、結果はあの有様。道具や武器の作品としての質が、使い手に与える力と比例する訳ではないという事だ。
これは、香坂しぐれが佐々木小次郎との闘いで使っていた義手と比べればわかり易いだろう。
しぐれの義手は、彼女が腕を失った後に、ありあわせの道具と材料を使い短時間で作った間に合わせの物。
当然、義手としての質では、藤木の義手とは比べ物になるまい。
しかし、そんな急造の代物でありながら、しぐれの義手は小次郎の心の眼に彼女の真正な腕と映る程、一体化していた。
対して藤木の義手は、剣を交えた訳ですらない坂田銀時に、あっさりと違和感を見破られる始末。
結局、道具の質や幻術でどう誤魔化そうとも、道具の真の優劣は、使用者がそれと心を一つにできるかで決まる。
なのに、既に別の人間の心が詰まった義手を、無関係な剣士に、本人に知らせずに使わせるなど愚の骨頂。
その程度の事すら知らず的外れな援助をした事により、果心は、己が謙遜ではなく本当に武に疎い事を怪僧に曝してしまった。
これが御前試合にどんな影響を与え、参加者達に何を齎すのであろうか……

【藤木源之助@シグルイ 死亡】
【残り四十五名】

【ほノ伍 北部/一日目/昼】

【細谷源太夫@用心棒日月抄】
【状態】手首、胸に軽傷、肩、腹部に重傷
【装備】打刀(破損)
【所持品】なし
【思考】
基本:勇敢に戦って死ぬ。
一:主催者の手下を探し出して倒す。
二:五ェ門に借りを返す。
【備考】
※参戦時期は凶刃開始直前です。
※桂ヒナギクに、自分達が異なる時代から集められたらしい事を聞きました。ちゃんと理解できたかは不明です。





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最終更新:2013年03月14日 20:25