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理を超えて ◆cNVX6DYRQU



噎せ返るような血の匂いの中、武田赤音は一体の死体の傍で立ち尽くしていた。
幾十名もの剣客が殺し合うこの島に於いては死体など珍しくもないし、現にすぐ近くにももう一つ死体がある。
だが、この死体だけは、赤音にとっては特別な死体。他の剣士全てを合わせても問題にならないほどに。
伊烏義阿……赤音の同門であり、執着し続けた相手であり、剣の帰結点であり……つまりは全てなのだ。
彼との勝負を望んだ赤音は万難を排してこれを実現させ、その勝負をもって、赤音の人生は、いわば完結した。
赤音にとっては満足の行く終わりだったが、主催者はそれを尊重する事なく彼等を、赤音と伊烏を御前試合に招く。
そして、伊烏は死んだ。赤音の関知しないところで。
上でこの島では死体など珍しくないと述べたが、伊烏の死体はその死因に関しては少々珍しいともいえる。
その首には動脈を噛み切られた痕。それも、野獣の鋭い牙ではなく人間の歯で無理やりに噛み千切られたものだ。
加えて、すぐ傍に斃れている死体の、口元の鮮血と切り落とされた両手首を見れば何が起きたのか想像は付く。
……伊烏は死に、それをやった剣士もまた死んだ。全ては、赤音の与り知らない所で、終わってしまった。
何を思っているのか、伊烏の傍で立ち尽くす赤音。
しかし、そんな彼の想いとは無関係に、時間は進み、状況は動き始める。

「どうされた!?」
声と共に、一組の男女が駆け寄って来るのが赤音の視界に入る。
少年と若い女。その表情から読み取れるのは心配と、若干の警戒。
まあ、この状況を見れば警戒するのが当然で、心配が先に立っている方が甘すぎると言っても過言ではあるまい。
ただのお人好しか、或いはここにある死体の迷いのない殺し方と赤音の儚げとすら言える今の雰囲気のずれを敏感に悟ったのか。
……何にしろ、今の赤音にとっては、他者がどんな人間で何を考えているかなど、瑣末な事だ。
「……丁度いい。少し、遊んでもらうぜ」
言葉と共に赤音は、男女に向かって駆け出した。

藤木源之助の襲撃によって山南敬助を喪ったトウカと烏丸与一
今この瞬間にも藤木のような剣士に脅かされている者がいるかもしれぬと、悲しみに浸る間もなく旅して来た二人だが、
彼等を迎えたのは、助けを必要とする者ではなく、死体と、またも殺人者の刃であった。
与一は負傷しているトウカを気遣って前に出ると居合いの気色を見せる赤音を木刀で迎撃する。
赤音が与一を居合いの間合いに捉えるよりも一瞬早く、与一の木刀が振られ、強風が発せられた。
「!?」
だが、与一の風は空振り。赤音が身を翻した事により目標を外し、無人の空間を抜きぬけたのみ。
赤音が与一が風を使うのを読んで身をかわした、という訳ではない。
初めから赤音が第一の標的として選んだのはトウカであり、与一に向かうと見せて直前で転進するのは既定の方針だったのだ。
無論、与一が風を操って迎撃してくるなどとは赤音も予想しておらず、風を回避できたのは偶然の結果でしかない。
しかし、今の赤音にとってはどんな達人もどんな凄まじい奇剣も無意味であり、予想外の技くらいで動きが止まったりはしない。
そのまま与一の脇をすり抜け、トウカに向かう赤音。与一も慌てて身を転じようとするが……
赤音は装備していた剣の一本を地に突き立て、与一の進路を塞ぐ。
咄嗟に剣の峰を蹴って突き進もうとした与一だが、寸前でそれが逆刃刀だと気付いて二の足を踏む。
それで出来た一瞬の間に、赤音はトウカに仕掛けられる間合いへと入り込んでいた。

迎撃の構えを取るトウカだが、こちらに向かおうとしている与一の存在が、全力で居合いを放つ事を躊躇わせる。
本来、彼女の力量をもってすれば、混戦の中で仲間を避けて敵だけを切り裂くのはさして難しい事ではない。
しかし、目前で仲間を殺されるという事を立て続けに体験した事が、彼女から思い切りを奪っていた。
結局、トウカは横合いから襲って来る赤音に対し、抜刀術の体勢から剣を抜ききらず、柄で突く事にする。
トウカの柄を野太刀で受ける赤音だが、こちらも与一を避ける為に体勢が不完全になっている点ではトウカと同様。
そのままなら、種族の違いに起因する身体能力の違いから、トウカが押し切っていたかもしれないが……
「は!」「ぐっ……」
赤音はトウカの剣の柄を素手で思い切りはたき、その衝撃で鞘を腹に叩き付けられる結果となったトウカは思わず呻く。
罪悪感と焦りから再出血した腹の傷の治療と血の処置を充分にしなかった事が、敵に傷を見抜かれ攻められる結果を生んでいた。
「何のお!」
精神を奮い立たせ、赤音の追い打ちをかわして再び居合いの構えを取るトウカ。
赤音が回り込みながら攻撃してくれたお蔭で、トウカから見て赤音と与一の居る方向は真逆。
つまり、次の一撃は与一を気にせず全力で放つ事が出来るという訳だ。
また、いくら精神力で傷の痛みを押し殺しているとはいえ、そんな状態で万全の攻撃が出来るのは一、二撃が限度だろう。
それで決着を付けるべく、渾身の一撃の準備をするトウカ。
対する赤音も、与一に対してトウカを盾にする位置を取ったとはいえ、時間を掛ければ回り込まれるのは間違いない。
トウカの渾身の一撃に対し、必殺の剣で応える事を決め、赤音は指の構えから思い切り剣を振り下ろした。
二人の剣がぶつかり合い、火花を散らす。
膂力ならトウカ、体勢では赤音が有利であり、押し合えば勝負は微妙だが、悠長に力比べをする余裕がないのは両者共通。
衝突の瞬間に微妙に角度を変える事で、二人の剣は正面衝突はせず、互いに弾き合って空を斬りながら振り切られる。
だが、この二人の必殺剣は一段では終わらない。すぐさま、二段目の攻撃が放たれた。
一撃目の居合いを振り切ってからほぼ零時間で納刀し、再び抜刀の構えを取るトウカ。
とはいえ、トウカの素早い納刀は基本的に、一撃目を当てた上で、素早く追撃するか他の敵からの攻撃に備える為のもの。
一撃を放ち終わってからの準備時間が短いとはいえ、一撃目を振り切る前に二撃目が発動する鍔眼返しに比べれば早さでは不利。
まして傷による焦りのせいで本来の俊敏さと脚捌きを奪われたトウカにこの魔剣がかわせる筈もなく……

「!?」
横合いからいきなり衝撃を受けて赤音は吹き飛ぶ。
トウカは何もしていないし、与一もまだ赤音を剣の間合いには捉えていない。
まあ、風を操るような技を操る剣士に間合いなど問題にならないかもしれないが、それでも明らかに方向が違う。
トウカも与一も、誰も居ない筈の左側からの攻撃。
痛みと衝撃の方向から考えて、まるで真横に並んでいる剣士に、峰打ちによる抜刀術をまともに叩き付けられたような……
(あいつか!)
赤音は直感的に真相を悟った。
上泉伊勢守……城下町に居た時、赤音はあの剣聖に、一瞬だけ完全に隙を見せた事がある。
宮本武蔵に伊烏の事を言われる事で赤音の心に空隙が生まれ、そしてその瞬間に聞こえた鍔鳴り。
あらかじめ相手を斬っておき、しかしすぐには効果を現さず、一定の時間経過や特定の条件によって相手を死に至らしめる秘技。
伝承……いや、御伽話としてはそのような技が語られているし、伊勢守がその技を使って無敵の忍者を倒したという話もある。
だが、そんな荒唐無稽な事を実際にやってみせるとは……
おそらくあの瞬間、伊勢守が赤音を峰で打ち、殺気を極限まで膨れ上がらせる事で痛みと衝撃が発現するよう仕掛けたのだろう。
痛みによって赤音が誰かを殺すのを防ぎ、衝撃で吹き飛ばして位置を変えさせる事で赤音が殺されるのも防ごうという事か。
以前、赤音は伊勢守のやり様を見て、神を気取っているのかと思った事があったが、それは認識が甘かったようだ。
伊勢守の技は、神の域など遥かに超越している。
そして、神仏ですら人に教えを垂れ戒律を授ける事を考えれば、彼程の剣士が他者を導こうとするのも無理ないのかもしれない。
だが……

赤音は立ち上がり、剣を構える。
先程の激しい痛みは嘘のように消え、強い衝撃を受けた割には身体の損傷も皆無。
痛みも衝撃も現実のものではなく、催眠か経絡に属する技で感じさせられているだけだという事だろうか。
だとすると、痛みは一度きりではなく、同様の状況になれば同じ症状が現れる可能性も低くないだろう。
そのせいで相手を殺すのが困難である以上、ここは退くしかないのだが……
赤音は、剣を構え直してトウカに向き直る。
何者にも……人や神仏は無論、たとえ相手が刀術を極めた剣聖であろうと、赤音は行動を強制されるつもりは毛頭ない。
状況が掴めない内に追撃の機会を逃し、傷の痛みが漸く響いて来たらしいトウカに仕掛けようとするが、
寸前に前方の地面が不可視の刃で切り裂かれるのを見て、横に向き直る。
そこに居るのは、トウカを回り込んで来た烏丸与一……強風の次は、真空を操って見せたというところか。
「トウカ殿、休んでおられよ。この者の相手は拙者が」

この場に居ない剣聖を挑発するかのように強烈な殺気を与一にぶつける赤音。
それに圧されるように、真剣の柄に手を遣りかける与一だが、すぐにそれを鞘ごと抜き取ると、投げ捨てる。
「何だ?俺の相手をするには木刀で充分だってのか?」
「……いや。真剣ではお主には勝てまい。故にこれで相手をする」
そう赤音に答えると、静かに木刀を構える与一。
確かに、風や真空を自在に操る剣士にとっては、真剣よりも軽い木刀の方が使い勝手がいいのかもしれない。
……遠距離戦ならば。

与一が構えた時点で、赤音は既に動き出し、トウカの方へ回り込もうとしている。
先程と同様に与一を無視してトウカに向かうつもりなのか、或いはトウカを風や真空に対する盾にしようという事か。
トウカも気付いて動き出そうとしているが、やはり傷のせいで動きが鈍い。
与一はトウカをカバーしようとその前に回り……その瞬間、赤音は跳躍した。
強烈な踏み込みで間を詰めると、鍔迫り合いに持ち込む。
接近戦になれば、浮羽神風流の特色の一つである、風を操る技は大きく制限される。
その意味では与一は不利な状況に追い込まれたと言えるが、実はこの展開は与一の予想の内。
だからこそ、彼は真剣を捨て、木刀一本で赤音に挑む事にしたのだ。

与一は木刀の刀身部分を掴み、赤音の力を逸らして組み伏せようとする。
木刀には刃も鍔もないが、それ故に使い方一つで剣だけでなく杖や棒にも変わるという特質を持つ。
その為、現在のように超接近戦に持ち込まれた状況では利点が多い武器だと言えよう。
無論、真剣の重量や切れ味、耐久性が有利に働く場面も多いのだが、与一には慣れた木刀の方がずっと使い良い。
そんな道理は与一が一番良く自覚している筈なのに、あの時、藤木源之助との対決で、与一は真剣を抜いてしまった。
あそこで、木刀を手にしていれば、如何に藤木が手練れであろうと、ああも一方的に押される事はなかった筈だ。
なのに思わず真剣を抜いてしまったのは、藤木の凄まじい殺気に圧倒されたが故の不覚。
今回、与一があらかじめ真剣を捨ててから赤音に向かったのはその反省から。
そして、与一が前回の藤木との戦いで得たものは、それだけではない。
与一は木刀を持ち替えて柄で喉を突こうとし、赤音は僅かに身を引いてそれをかわす。
それによって開いた僅かな間合い。無論、木刀をまともに振るえるような距離ではないが……
いきなりの突風に、赤音は後方に押しやられる。
風を起こしたのは与一の手。木刀を使えない距離で、与一は手刀でもって風を起こしてみせたのだ。
さすがに素手で起こした風は本来の「疾」に比べれば風圧は弱い。
それでも後退していたところで不意に力を受け、赤音は体勢を崩されるのを防ぐ為、已む無く自ら風に乗って後方に飛ばされる。
赤音が空中に居る間に、与一は木刀を振って数本の真空の刃を作り出し、相手の急所めがけて放った。

もしも剣術を殺人剣と活人剣に二分する事が出来るとすれば、与一の浮羽神風流は活人剣に属すると言って良いだろう。
しかし、殺人剣ではない、つまり不殺の剣でさえある事は、活人剣の必要条件でも十分条件でもない。
殺さないだけでなく、文字通り相手を活かしてこそ活人剣。
相手の何をどう「活かす」のかは剣士や流派によって様々だが、何にせよ、活かす対象を信じ認める事が必要となる場合が多い。
活かすに足る何かを相手が内在していると思えなければ、活人の難易度が跳ね上がるのは当然の道理。
そしてこの事が、御前試合開催以来、与一の剣を制約して来た大きな要因となっている。
今まで与一は、多くの場合、相手に共感する事で信頼し、それに基づいて全力の剣を振るって来た。
だが、この島で敵として相対して来た、殺し殺される事に全く忌避感を持たない剣士達に、与一は共感する事は出来ない。
そのせいで相手を信頼できず、剣に本来の鋭さを持たせる事が出来なかったのだ。
例えば土方歳三との勝負では、与一は真剣を鞘から抜く事も出来ず、殺傷力の高い「嵐」は急所を外して放つしかなくなる。
そんな中途半端な剣が一流の達人に通用する筈もなく、これでは与一が何度も不覚を取ったのも当然だろう。
ところが、藤木源之助に襲われた時には、与一は相手にまるで共感できなかったにもかかわらず、無意識に抜刀していたのだ。
藤木のあまりに禍々しい殺気を感じ、その強さを直感的に悟り、真剣を使えば殺してしまうなどとは考えなかった。
いわば、共感ではなく脅威や基づく相手の力への信頼と言い表せようか。
今回、赤音から藤木に劣らぬ禍々しさを感じた与一は、今度は自覚的に相手の腕を信頼して剣を振るっている。
直感だけを信じて一歩間違えば相手を殺してしまうような戦い方をする事に抵抗がない訳ではない。
かといって、手控えて戦えば、与一の剣は赤音に届かず、傷付いたトウカが殺される可能性が高くなるだろう。
敵の死と自身や仲間の死、その狭間にある紙一重の細い道の先にのみ、活人剣はあるのだ。

宙を舞う不自由な体勢に迫る不可視の数本の刃……武田赤音は与一の期待通りそれを野太刀で全て弾いてみせる。
ギンッ
しかし、最後の鎌鼬を切り裂いた瞬間、赤音の剣は砕け散った。
万全でない体勢でほぼ同時に数本の刃を防ごうとすれば、それが可能な防ぎ刃の軌道はごく限られ、あらかじめ予測可能。
与一は、赤音が完璧な受けを成す事を信じ、その場合に真空の刃が剣の芯を打ち、破壊するよう調節して「嵐」を放ったのだ。
結果、赤音は与一の期待通りに動き、剣を失った赤音に与一は突進し……
ピシッ
「嵐」を受け止めた事で勢いを増して吹き飛ばされた赤音の背中に行李が当たり、砕ける。
何時の間にか赤音は元の位置……伊烏の死体の傍まで吹き戻され、そこに放置されていた行李にぶつかったのだ。
衝撃によってぶちまけられる行李の中身。幾巻もの人別帳、大量の食料、そして……剣。

活人剣と言い、殺人剣と言うが、それらは原則として生きた人間を対象としたもの。
死者を活かすのはこの世の法に反するし、死者を更に殺すというのは理に合わぬ。
試し斬りで死人を切ったり、屍を武器や盾として活用する技法もあるが、それは単に器物としての死体を使っているだけの事。
真の意味で死者を殺し活かすのは、世の法理を超越した剣聖のみに可能な所業。
強い執着の対象を理不尽に失う体験が赤音を一時的にでも剣聖の域にまで押し上げたか、或いは全て奇跡的な偶然の為す所か。
ただ一つはっきりと言えるのは、この一瞬、赤音の精神が剣聖の技をねじ伏せたという事だ。
行李から現れた剣を見て赤音の神経は極限まで研ぎ澄まされ、それに反応して先程同様に痛みが走り身体が吹き飛ぼうと欲する。
だが、伊烏が死に、彼が遺した行李から己の剣が現れたこの状況で、痛みや生理反応に何の意味があるだろう。
赤音は全てを意志力で捻じ伏せると、己に可能な最速の剣撃を放った。

直前までは、確かに与一が優勢だった筈だ。
対手の剣を砕き、吹き飛ばし、体勢を整える前に相手を無力化する一撃を加えようという必勝の情勢。
だが、砕けた行李から剣が現れて吸い込まれるように赤音の手に収まり、長年愛用の剣の如く慣れた動きで一撃が放たれ……
必勝と見えた状況から一刹那にも満たぬ時が過ぎた後、与一は赤音の剣によって、両断されていた。
「――――――――――!!」
この様子を見ていたトウカは、声にならない叫びと共に、痛みも傷の事も忘れて突進を開始する。
頭が熱い。まるで、地獄の業火が脳の中で燃えているかのように。
だが、その熱さは、トウカの身体に常以上の力を与えてくれる、今の彼女にとっては福音とすら言えるもの。
このトウカの様子を見た赤音は、にやりと笑うと、与一を斬った剣を鞘に収めて腰に差し、柄に手を掛けたまま己も駆け出す。
二人の距離が縮まり、トウカが機先を制して必殺の居合いを放つが、その刃は空を斬り、赤音の姿は忽然と消え去る。
だが、トウカは驚かない。いや、闘争心に支配された今の彼女には、「驚く」などという無駄な機能は残っていないのだ。
視界の中に赤音が居ないという事は、つまり自身の死角に潜んでいるという事。
無数に繰り返してきた動作で自動的にトウカの剣は鞘に納まり、死角からの殺気を感じた瞬間、限界を超えた速度で放たれる。
そして……

「何故だ?」
トウカは呟いた。
心が静まって、傷と、限界を超えて酷使した腕が痛み始めているが、それ以上に痛いのは心。
「何故……」
四体……はじめからあった二体に、与一と、トウカ自身が斬った武田赤音の死体が加わり、四つの死体に囲まれた中で再び呟く。
何故、千石と山南に続いて与一まで自分の目の前で死んだのか。
自身が未熟であったから、という答え以外は有り得ないのだが、それにしても彼女を襲った状況はあまりに理不尽だった。
そして、この男……武田赤音の行動の動機もまた、彼女にはわからない。
いきなり斬りかかって来た理由もだが、より不可解なのは、彼の最期の動き。
突進と跳躍を混ぜた抜刀術。見事な技だが、赤音の身体能力や技の癖から考えると異質な感がある技。
何より、片手が動かない状況での抜刀術では、十全な速度が出せる筈もない事はわかっていただろうに。

あの時、いきなりの刀の出現によって与一は赤音に斃されたが、ただで斬られた訳ではない。
与一は既に相手の関節を打って動きを封じる「旋」を放っており、斬られる寸前に赤音の左肱を打っていた。
その効果で左腕が効かない状況で、抜刀術による短期決戦を挑むなど、明らかに理に合わない行動。
無論、片手が動かなくては、どう戦おうと赤音の不利は否めなかったろうが、少しは生き残る芽がある戦術もあった筈。
味方の死を受け入れられず、敵を理解できず、武人種族の娘は、傷の手当てを終えると半ば喪心したまま歩を再開する。

【烏丸与一@明日のよいち! 死亡】
【武田赤音@刃鳴散らす 死亡】
【残り四十一名】

【にノ参 街道/一日目/朝】

【トウカ@うたわれるもの】
【状態】:腹部に重傷(治療済み)、火傷数か所、疲労
【装備】:同田貫薩摩拵え@史実、脇差@史実
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者と試合に乗った者を斬る
一:精神的な打撃、迷い
二:山南殿の仇を討つ
三:センゴク殿の仇を討つ




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最終更新:2013年03月18日 22:33