辻月丹ら主催者打倒を目指す剣客達と果心居士の式神達との闘いの最中、突如として現れた
塚原卜伝。
卜伝の出現により、戦いは三つ巴の様相に……はならなかった。
実際には、闘っている主体は月丹達と卜伝の二者。
では果心の式神達はどうしているかと言うと、卜伝の武器・盾として使われているのだ。
剣客達の殺し合いを促進したい果心にとって月丹達よりも卜伝の方が好ましいのは確かだが、今の状況に果心の意志は関係ない。
新当流には剣を始めとする武器術の他に軍配術も含んでおり、卜伝はそちらでも達人の域に達している。
武芸者を兵法者とも呼ぶように、月丹や小兵衛も戦術の心得はあるが、戦国の世を生きた卜伝とはさすがに経験が違う。
そして、あらゆる権威が失墜し裏切り下剋上が日常であった戦国の軍配者には、相手の思惑と無関係に思い通り動かす程度は基本技術。
己に斬り掛かって来る法師の勢いを逸らして月丹に向け、法師の一人に仕掛ける気勢を見せて位置を変えさせ妖夢に対する盾とする。
卜伝の采配により式神達はいいように操られ、三対一とはいえ五人の異能者を武器として使われて、月丹達は苦戦していた。
一方、己の部下をいいように使われている果心は、それを憤るよりむしろ感嘆していた。
と言っても果心が注目しているのは卜伝の軍配術ではなく、自分を完全に無視し、式神達をただの道具として扱うその慧眼。
神官の子であり陰陽術や法術をも身に付けた卜伝ならば、果心が妖術師でこの御前試合の黒幕である事もある程度は悟っている筈。
だが、卜伝は剣客達と渡り合い、式神を道具として使いはしても、果心の事は全く無視。
この剣聖にはわかっているのだ……御前試合の開催により果心の役目はほぼ終わっており気にかける必要はないという事が。
一流の剣客というものがこれ程までに聡いのであれば、ここで果心が果てようとも、御前試合は成功裡に進む筈。
いや、むしろ果心等主催者の存在は既に御前試合信仰の為には無用の存在になっていると言うべきだろうか。
剣客達を挑発し、非道を行って見せ、穏健な剣客達に積極的な行動を促すという目的は既に達成した。
彼等は、卜伝と闘う月丹達のように、既に他の参加者と因縁を結んでおり、主催者が消えたからと決着を付けずに此処を去りはすまい。
今は主催者に憤っている剣客達も、主催者が消えて頭が冷えれば、この御前試合が彼等にとって害になるものではないと悟るだろう。
だから、ここで自分が討たれても問題ない……そう思っていても、自身の間近の死を予知した時、さしもの果心も微かに身震いした。
いつの間にか、式神と卜伝の刃を縫って果心の間合いの傍まで近付いて来ていた秋山小兵衛。
彼が、果心に自身の死を予感させた因であろうか。
上で述べたように、大局的に見れば果心の生死に大した意味はないが、今この局面に限っては話は別。
卜伝は果心の式神達を巧みに操る事によって数的不利を打ち消しており、彼等の主としては果心はこの闘いにおける意義ある存在。
術者である果心が斬られれば、その式神にも何らかの異変が生じる筈であり、そこを衝けば卜伝の戦術を破る機会が生まれる。
果心も一応は槍を構えてみるが、この状況ではとても小兵衛には対抗できないだろう。
先程は聖槍の癒しの力で
富田勢源を止めてみせた果心だが、それはいわば相性によるものであり、不具者でない剣客には聖槍は只の槍。
無論、神の力を承けたと称するだけあってそれなりの霊力を秘めてはいるが、一流の剣客との絶対的な技量差を覆すには程遠い。
加えて、己が妖力を分け与えて創造した式神を二体も倒された事により、果心もそれなりの痛手を受けているのだ。
小兵衛は無造作に果心の間合いに入り込んで……いきなり飛び退いて果心から離れる。
「やあ、やってますね。僕も仲間に入れてくれませんか?」
何時からそこにいたのか、果心の背後に、険呑な気を纏った剣士……
沖田総司が立っていた。
戦闘の気配を辿ってこの場を探り当て、気配を殺して果心の背後に忍び寄った沖田総司。
もっとも、果心の背後に位置取りしたのは、彼が発する濃密な妖気が自身の気配を陰に隠すのに都合が良かったというだけの事。、
特に果心を討とうという意図があっての事ではなく、沖田の目当てはむしろ……
「そちらの御老人、お相手願えますか?」
果心の側を離れて周囲を見回した後、沖田が敵として選んだのはやはり塚原卜伝。
しかし指名された卜伝は沖田を見向きもせず、代わりに斬り掛かってきた法師を避けると背中を軽く押し、沖田の方へ走らせる。
巨漢の法師は、軽く押されただけとは思えない勢いで跳躍させられ、気付いた時には沖田の間合いまで数歩の距離。
無理に足を止めれば体勢を崩し致命的な隙を晒す……式神は、基となった荒法師から受け継いだ戦士の本能に従い、敢えて加速。
この時点で、卜伝は初めて目線を動かし、法師の陰に隠れた沖田を見遣る。
沖田が法師を斬ればその隙を突いて討ち、いなすかかわしたらそのまま乱戦に引き込む。
剣技ならば才能や修練により若くして相当の域に達する事もあるが、用兵の妙を掴むには年輪と経験を積む事が不可欠。
沖田と妖夢は若いし、月丹や小兵衛にも合戦の経験はなさそうであり、つまりは状況が混沌とするほど卜伝には制御し易くなるのだ。
だが、卜伝のそんな戦略に対し、沖田はごく単純な手で返して来た。
沖田に突っ込んで行った法師がいきなり逆方向……卜伝を目掛けて飛び出す。
鞘ごと抜いた刀で沖田が渾身の突きを繰り出し、法師を突き飛ばしたのだ。
速度と気組みで剣に本来以上の力を籠められるとはいえ、沖田の突きには巨漢をこうも簡単に吹き飛ばす威力はない……一撃だけでは。
沖田は得意の三段突きにより、最初の突きの衝撃が法師に伝わりきるより早く更に二段の突きを放ち、与える運動量を数倍にした。
相手の動きと僧兵としての本能を利用して法師を沖田に差し向けた卜伝に対し、力技で法師を弾丸として飛ばした沖田。
卜伝にとっても予想外の反撃ではあるが、無論、この程度で慌てる事はない。
微動だにせず剣を振ると、背を向けた上に空中で動きのままならない法師は為す術なく両断され、卜伝の両脇を通り抜けようとする。
だが、法師を斬って開けた視界の中には肝心の沖田の姿はなかった。
法師を囮にして卜伝の気を逸らしその間に何処かに潜んだという事か。
五感を総動員して沖田を捜す卜伝だが、探り当てるよりも早く、第六感が卜伝を動かす。
直勘に従って傾けた卜伝の首の間近を、無限刃が貫く。
沖田は自身が吹き飛ばした法師をすぐさま追って身体の陰に隠れ、それごと卜伝を串刺しにしようとしたのだ。
間一髪でかわした卜伝だが、片手平突きは初撃を避けても安心するには早い。
法師の身体を貫いている為に横薙ぎに転じるのは無理だが、素早く剣を引き戻して卜伝の首を掻き切ろうとする。
咄嗟に剣を立てて引き切ろうとする沖田の剣を防ぐ卜伝だが、二本の剣の摩擦により無限刃が発火するところまでは予測できなかった。
剣を手に対峙する卜伝と沖田の間で、斬られ貫かれ点火された法師の半身が激しく燃え上がる。
そして、卜伝の頬にも、ごく軽いものながら火傷が出来ていた。
不調だった訳でも、戦略上の理由から力を抑えて闘った訳でもない。
全力を出して真っ当に戦い、暗器や飛び道具ではなく剣によって傷を受けたのは何年ぶりになるだろうか。
法師達を兵士として使い用兵術を駆使した卜伝に対し、沖田は法師をただの物体として扱い、一対一の勝負の駆け引きで対抗したのだ。
「名を聞いておこうか」
「はい!沖田総司と……」
張り切って卜伝に答えようとする沖田の声を凄まじく燃え上がる炎が遮る。
無限刃によって燃やされた式神ではなく、今度はその生みの親である果心居士が燃え上がったのだ。
そもそも式神とは術者の妖力・霊力によって作られ、繋がりを保ったまま操られ主の耳目や手足となる、いわば分身のようなもの。
当然、その分身に何かあれば、式神を隠され呪力を失った智徳法師の逸話の如く、術者もただではすまない道理。
しかし、五体の式神の一体が燃やされただけで主の果心までも燃え上がるというのは尋常ではない。
実際、先に二体の式神が妖夢に切り刻まれた時には、果心は密かに手傷を受けはしたが、ばらばらにはなっていないのだし。
またそもそも、無限刃の炎は、本来の持ち主ではない沖田が扱って人を焼き尽くす程の火力をだせるようなものではない筈。
なのにこのような事態が生じた原因は、実は果心の持つ聖槍に有った。
聖槍は耶蘇教の重要な聖遺物であり、様々な伝説に彩られ、それに対応する能力を持っている。
全能の神にさえ二千年以上も癒えない傷を与える力、一撃で一国を荒廃させる力、切支丹でない者の剣から持ち手を守る力……
当初の予定通り試合場に配置されていれば槍術をも心得た剣客にはまず「当たり」と言える武器だが、良い事ばかりではない。
聖槍には幾つか死角も存在し、中でも致命的なのが、炎に対する脆弱性。
伝承によると、かつて聖槍は失われ、耶蘇教の戦士たちが回教徒の支配下にある聖地を攻めた際にある兵士により再発見されたという。
だが、天使がその兵士の夢に現れ聖槍の在処を告げたという話がいくら何でも荒唐無稽にすぎた為か、
或いは高位の騎士や聖職者をさしおき一兵士にお告げが下った事を認められなかったのか、聖槍の真実性を疑問視する者も多かった。
己への疑いの目に憤慨した発見者は、聖槍の力を証明する為に槍を持って炎の中を通り抜けて見せ……大火傷を負い数日を経て死ぬ。
だが、人の信心がその程度で粉砕される筈もなく、少なくない者が発見者の焼死にもかかわらず聖槍を本物だと信じ続ける。
彼等によると、発見者自身が聖槍の真実性に一抹の疑いを抱いており、彼の死はその疑いの罪への罰だという。
それでも発見者が即死はせず、数日とはいえ命を永らえたのは、彼が本質的には敬虔で罪が重くはなかったからだとか。
これは言い換えると、聖槍は少なくとも罪人によって握られている時には使用者を炎から守る事はない、という事だ。
耶蘇教の神にとっては己を信奉せぬだけで十分な罪であり、まして果心は異教や耶蘇教異端の呪法をも駆使する外道の魔術師。
ほんの僅かの火種でもあれば、聖槍が神の怒りによりそれを増幅し、地獄の業火で包むだけの素地が果心やその使い魔にはあった。
そして、卜伝との斬り合いで無限刃に点った火が、無限刃に貫かれた式神を通して伝わり、果心を燃やし尽くそうとしているのだ。
「居士よ、そなたの望みは何であったのだ?」
燃え上がる果心に小兵衛が問い掛ける。
唐突な沖田の出現を警戒し暫し様子を見ていた小兵衛だが、沖田は卜伝との勝負に夢中だし、卜伝も小兵衛の妨害をする余裕はない。
今や小兵衛が果心を討つのを妨げる要素は何もない……もっとも、それに意味があるかは疑問だが。
果心は今、地獄の業火に包まれており、やがて完全に燃え尽きるだろう。
無論、果心とて戦国一とも言われる妖術使いだけあって、よく業火に耐えているが、いつまでもは気力が保つまい。
だからわざわざ果心を斬る必要はないとも言えるが、小兵衛は敢えて果心に近付き、質問の答えも待たず剣を振り上げる。
果心のこれまでの悪行に対する義憤か、生身のまま地獄の責め苦を負わされる事への憐憫か……
「我は居士……居士の願いは即ち成仏………ならば…外道の居士たる我が願いは、決して成仏せぬ事……」
小兵衛の問いなど気にしていられる状況ではないかと見えた果心が、灰になりかけた声帯を震わせ、言葉を紡ぐ。
「そして…我が願いの成就は、既に約束された」
そう言って果心が笑うと同時に、小兵衛の刀が一閃し、果心は斃れ燃え尽きる。
業火に苛まれ死を目前にしながらの笑みは、果心の最後の言葉がただの妄言ではない事を示していた。
術者である果心の死は当然の事ながら、彼により創られた存在である式神達に異変をもたらす。
式神の一体……鎌を手にした法師は空を駆けて何処かへ飛んで行き、もう一体は手にした傘の中に入るとやはり別方向へと飛び去る。
統率者である果心を失った事で暴走し、本能や基となった果心の弟子の性向に従って動き始めたのか。
本来、法師の動向など此処の剣客同士の勝負では副次的なものだが、剣客の中で最も法師に関心のない筈の沖田がこの事態に反応した。
行きつ戻りつして鋸の刃のような軌道で空中を駆ける鎌の法師と違い、直線的に飛ぶ傘の法師は飛んで行く先が読み易い。
そして、傘の法師が飛び行く方向は、ちょうど近藤が要る筈の地点へと向かっていたのだ。
あんな式神一体に近藤が不覚を取る筈もないが、今の近藤は土方との勝負の余韻に浸っている最中。
その邪魔をしない為に、近藤に勝負を挑みたいという欲求を抑えてここに来たのに、法師が近藤を妨げるのを許しては道理に反する。
「ごめんなさい、続きは後ほど!」
沖田は卜伝との勝負への未練をどうにか押し殺し、法師を追って駆け去った。
卜伝は一瞬だけ沖田を睨むが、考え直して残った剣客達と向き合う。
ここで追わずとも、沖田は――別の誰かに討たれない限り――卜伝の許に戻り、一人で勝負を挑んで来る筈。
どれ程の腕があろうとも、一対一の決闘で卜伝に対抗できる者などある筈もなく、故に沖田が卜伝に敗れる事は決定されている。
それよりも、徒党を組む事を知る剣客を混乱した状況が収まる前に打ち取っておく方が得策というもの。
卜伝は月丹達三人に、改めて刃を向けた。
【果心居士@史実? 死亡】
【にノ伍 街道脇/一日目/午後】
【
秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者を倒す。
一:果心居士の意図が何であったのか探る
二:この場を切り抜け吉宗の勝負を見届ける
三:辻月丹が本物かどうか知りたい
【備考】※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者、又は別々の時代から連れてこられた?と考えています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※
佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。
【
魂魄妖夢@東方Project】
【状態】健康
【装備】】楼観剣・白楼剣@東方Project、打刀(破損)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する。
一:この異変を解決する為に秋山小兵衛と行動を共にする。
二:卜伝を倒した後、吉宗の勝負を見届ける
【備考】※東方妖々夢以降からの参戦です。
※御前試合の首謀者が妖術の類が使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。
【辻月丹@史実】
【状態】:健康
【装備】:ややぼろい打刀
【所持品】:支給品一式(食料なし)、経典数冊、伊庭寺の日誌
【思考】基本:殺し合いには興味なし
一:主催者の正体を確かめる
二:困窮する者がいれば力を貸す
【備考】※人別帖の内容は過去の人物に関してはあまり信じていません。
それ以外の人物(吉宗を含む)については概ね信用しています(虚偽の可能性も捨てていません)。
※椿三十郎が偽名だと見抜いていますが、全く気にしていません。
人別帖に彼が載っていたかは覚えておらず、特に再確認する気もありません。
※1708年(60歳)からの参戦です。
※伊庭寺の日誌には、伏姫が島を襲撃したという記述があります。著者や真偽については不明です。
【塚原卜伝@史実】
【状態】左側頭部と喉に強い打撲、顔に軽い火傷
【装備】七丁念仏@シグルイ、妙法村正@史実
【所持品】支給品一式(筆なし)
【思考】
1:この兵法勝負で己の強さを示す
2:勝つためにはどんな手も使う
3:妙な気配を探ってみる
【備考】※人別帖を見ていません。
※参加者が様々な時代から集められたらしいのを知りました。
【沖田総司@史実】
【状態】打撲数ヶ所
【装備】無限刃
【所持品】支給品一式(人別帖なし)
【思考】基本:過去や現在や未来の剣豪たちとの戦いを楽しむ
一:近藤の余韻を邪魔する者を斬る
【備考】※参戦時期は
伊東甲子太郎加入後から死ぬ前のどこかです
※桂ヒナギクの言葉を概ね信用し、必ずしも死者が蘇ったわけではないことを理解しました。
※石川五ェ門が石川五右衛門とは別人だと知りましたが、特に追求するつもりはありません。
最終更新:2014年04月03日 23:14