第7話 「グルメな人々」







   ◆      ◆      ◆      ◆

 ――ルイズは夢を見ていた。
 まどろみの中でもそう確信できたのはルイズが今まで訪れた事も無い何処かの港町で、
 数多くのエルフの様に耳が尖った人々が行きかっていた。他にも亜人らしき小人や猫人、
 オーク鬼の様な巨体で蒼白な者もチラホラと見かけた。
 数少ないながらも通常の人間も何事も無い様に港の昼頃の生活を送っていた。
 その雑踏の外れでルイズは搬入された貨物箱に寄りかかり、きらきらと光る海を眺めていた。

『――探したわ、お父様の遺言に書かれた家に行ってみれば、ここ数年人は住んでいないも抜けの空になっていたもの。』
 ローブを着た人物が腰を屈みルイズの顔を覗き込んできた。
『・・・誰?』
(あれ?私何も言ってないのに?)
 ルイズが答える前に勝手に自分の口が開いた。
『私は――――、―――の―――――、もう聞き込みで大体貴方が探し人だと宛ては付いているけど、貴方の名前は?』
『……――――だよ。ただの――――。』
 肝心の名前の部分が波打つ音に消されよく聞き取れない。
『お父様の遺言に貴方と貴方のお母様の事を頼まれたのだけれども家の方には誰もいなかったわ、お母様は?』
『……二年前に病気で死んだよ……』
『そうだったの・・・・・・悪い事聞いちゃったわね。その時から家には帰ってないの?あ、隣良いかしら?』
 ルイズの頭が自然とうなずくと、隣にローブの人物が座り込んだ。
『うん、家にいても誰もいなくて寂しいからいつもここで海を眺めている。食べていくにも僕一人だけなら自分で何とかやっていけている。』
『まったくお父様も自分が病で倒れた時にもっと早く私に伝えてくれたらよかったのに……。――――侯爵家のプライドがあったのは理解できるけど自分の家族を省みないで家名なんてあったもんじゃないわ。早くにお母様が亡くなられて赴任先で恋はするなと言わないけど持つべき責任はちゃんと持って貰わないとその侯爵家当主の跡を引き継ぐ私が困るわ・・・・・・ああ、ごめんなさい、ちょっと愚痴っぽくなって』
『――――?父さんの事知っているの?』
『そう、――――侯爵は貴方のお父様であって、私のお父様でもあるの。お互いお母様は違うけど私達は姉弟って事になるわね』
『僕の姉さん?』
 そう呼ばれたのが嬉しいのかローブの人物は頭のフードを外してにっこりと微笑んだ。現れた両の耳がエルフの様に尖っていたとは言え、その少しウェーブが掛かった赤髪で綺麗で凛々しく整った女性の顔を崩す程の笑みがルイズの一つ上の優しい姉の笑顔に何処か似ていた。
『フフン……♪ これからは貴方はもう一人じゃないわ。お姉さん、まとめて面倒みてあげる。」


   ◆      ◆      ◆      ◆


 目を覚ましたルイズはふと自分の二人の姉達や親の事を思い返していた。
 そして夢の中の自分の境遇を思い出すとぞっとした。ルイズも今では親元離れて学院で生活しているが、夢の中の自分は天涯孤独の身となって、目的も無く、寂しさを紛らわせるために海を一人で眺めていた。
(帰る家も無かったら私は一人でここでの学院生活なんて耐えていられなかったわ。)
 自分の姉達や両親がいなかったらと想像したらふと涙が零れそうになった。
 でも、その夢の中で現れた『姉』と名乗る存在が、どんなに嬉しくて、救われたか。
(亜人の街でエルフと会話する夢を見るなんて随分不思議な夢ね・・・・・・使い魔のブロントと何か関係があるのかしら・・・・・・)
 ルイズは使い魔の姿を探すと彼は既に起きていて植木鉢の世話をしていた。
 ギーシュとの決闘騒ぎから一晩経ったが、ブロントは特に問題も無く学院生活に馴染み始めていた。
 貴族であるギーシュに大怪我(主に顔面に)を負わせたブロントだったが、正式な『決闘』であったという事とオスマン氏の計らいによってちょっとした注意を受けたぐらいで大したお咎めも無かった。
(そう言えばブロントにも家族はいるのかしら。特に戻りたいという様子は全然見せてないけれど)
 ルイズの視線に気付いたのかブロントは植木鉢の世話をやめルイズに挨拶した。
「もう起きたのか、今日は早いなルイズ」
「おはようブロント。まだ朝早いから私の着替えはその花の世話が終わってからでいいわ」
「そうか」
 ブロントは植木鉢に取り掛かった。
「・・・・・・ねえ、ブロントって家族はいるの?」
 ルイズはこの事を聞かずにいられなかった。
「・・・・・・家族がまだいるのかわからない」
「え?どういう事よそれ?」
 ブロントは植木鉢の世話を続けながら言った
「俺には二十年より前の記憶が無いんだが、気付いた時既に一人だった」
「記憶が・・・まったく無いの?」
 ルイズの脳裏に夢の中の自分の姿が映し出される。
「俺が覚えている事は自分の名前と身に付けていたこの夢幻花だけになっていた。冒険者になったのも誰か俺を知っている奴に会えるかと思ってやっている」
「そ・・・そうなの・・・ところで二十年より前の記憶が無いって事は自分の歳も?」
「わからないな」
 ルイズはエルフはかなり長命だとは知識として座学で学んだ事はあったが、その見た目からはブロントは自分より少し上程度の二十歳前だとばかり今まで思っていた。
 家族の記憶が無いと言う自分の使い魔の話と先ほどの夢が重なり、ルイズはとても寂しい気持ちになった。
「帰りたいと思わないの?」
「特に戻る理由はないな。そもそも帰る場所がにい」
「そ……そう……ま、まあ私の使い魔なんだから帰す訳にいかないけど勝手に帰られても困るから聞いてみただけよ!」
 帰る気はあまり無いと聞いてルイズは安心した反面、『帰る場所』がないと言わせてしまった自分を少し呪った。
「と、とにかく、折角早く起きたのだから私の着替え手伝って。使い魔とおしゃべりしてて授業遅刻したなんて悪い冗談にもならないわ」
 ブロントは甲斐甲斐しくルイズの着替えを手伝った後、ルイズを朝食の食堂までへと付き添った。
 ルイズはブロントが丸一日何も食べていないと思っており、一緒に食べていけばいいと勧めた。
 だが昨日の今日で貴族にホトゥケも驚く三発を入れて医務室送りにした平民が貴族のみに許された食堂で食べるのは問題だろうから厨房で賄いでも貰っておくとブロントは返した。
「そ、そうね。使い魔にしてはちょっと頭が回るようで安心したわ」
「何かあったらリんクパッルで呼んでいい。俺はこれから洗濯をする事となった」
 そう言って部屋に戻るブロントの背中を見つめながらルイズは呟いていた
「……でも一人切りの食事なんて寂しいじゃない……」
 ブロントは鎧をカチャリと鳴らして、行った。


 ブロントは洗濯籠を抱えて以前シエスタに教えてもらった水場まで来ていた。そこには先に洗濯を始めているシエスタの姿もあった。
「俺は洗濯物をするんだが、少し場所借りていいか?」
「あっ!ブロントさん」
 シエスタはバチャっと水から手を引き抜き手ぬぐいで軽く拭くと深々と頭を下げた
「なんだ?」
「あの……、すいません。あのとき、逃げ出してしまって。け、怪我はありませんでしたか?」
「怪我なんてものはにい。そもそもあれは俺が勝手に始めた事なんだが……」
「私の事を庇ったのは判ってます……ほんとに、貴族は怖いんです。私みたいな、魔法を使えないただの平民にとっては……」
 シエスタは目を輝かせて顔を上げた
「でも、もう、そんなに怖くないです!私、ブロントさんを見て感激したんです。『魔法』も『武器』も無く平民が貴族に勝てるんだって!ブロントさんってすごいですね」
「それほどでもない」
「その謙虚な所も憧れちゃいます」
 ブロントは小さく微笑み鎧をカチャと鳴らすと自分の持っていた洗濯籠を指した。
「俺にはこの絹のパンツの洗濯が繊細すぎて破る始末、それができるシエスタは俺にとっては憧れる」
「ふふ、これもちょっとしたコツさえ覚えればブロントさんにも簡単にできますよ」
 シエスタの教えを貰いながらブロントは洗濯を済ませた。
「そうそうブロントさん、朝食はまだですよね?もしよろしければちょっと厨房の方へきませんか?皆も改めてブロントさんに挨拶がしたいと言っていました」
「時間はあるからいってやってもいいぞ」

 厨房へとやってきた二人
「おお、『我らの盾』が来たぞ!」
 そう叫んでブロントを歓迎したのは学院コック長のマルトー親父である。四十過ぎの太ったおっさんのマルトーがブロントの背中をバンバンと叩きながらブロントのために用意していた一角の椅子に案内した。
 マルトー親父は平民であるのだが、魔法学院のコック長ともなればそれなりに羽振りもよかった。そして魔法学院のコック長を務めているくせに貴族と魔法を毛嫌いしていた。
 その間シエスタは温かいシチューが入った皿をだした。
「む!?」
 シチューの香りがブロントの鼻をくすぐった。
(ダルメルシチューか?)
「今日のシチューは特別ですわ」
 シエスタは嬉しそうに微笑んだ。ブロントは一口シチューを頬張ると、眼光を光らせた。
「ほう、昨日のと違って肉を使ったシチューか。シナモンと岩塩がうまく使われて野性味溢れる味が引き出されているな。
うまさに気がひゅんひゅん行くが力もみなぎってくると言う事もつけくわえないとダメだな」
 そう感銘を漏らすと、包丁を持ったマルトー親父がやってきた。
「『我らの盾』は強いだけじゃなくて、『とてもとても違いの分かるヤツ』だっただなんて、俺が工夫したところをぴったり言い当てるとは嬉しいねえ」 
「見事な食事は魔法よりも凄いと関心する。俺が思うにいい食事のあるなしで勝敗が決まる事が結構あるらしい。俺が昨日傷も付けられず良く戦えたのもあのうまいシチューのおかげ」
「お…おお……」
「あ、あの、マ…マルトーさん!?」
 シエスタはふるふると震えるマルトーを見るとその両目からぶわぁと涙が流れだした事にビックリした
「うぉー、わ、われら"のだでよぉ……ぐず……お前って奴は一体どこまでいいやつなんだ!そこまで言ってもらえると料理人冥利に尽きるぞ!
そうさ、そりゃメイジだってその魔法で鍋や城を作ったり、とんでもない火の玉出したり、果てはドラゴンを操ったりするが、この絶妙な味はそこらのメイジにだってできない、言うなれば一つの魔法さ」
 マルトー親父は手ぬぐいで涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭いた。
「なあ、『我らの盾』!俺はお前の額に接吻するぞ!こら!いいな!」
 マルトー親父はブロントの首根っこにぶっとい腕を巻きつけた
「おい、やめろ馬鹿」
 ブロントは必死が鬼になって思いっきりマルトー親父の顔を引き離した。
「どうしてだ?」
「凍える寒気がする始末」
 マルトー親父はブロントから体を離すと、両腕を広げて見せた。
「なあ、一体お前はどこで鍛えた?どこで鍛えたらメイジのゴーレムをその腕一本で吹っ飛ばせるんだ?まさに神の左手と右手よ!」
「それほどでもない」
「お前達!聞いたか!本当の達人と言うのは、こう謙虚なものだ!見習えよ!達人は謙虚であるべし!」
 若いコック達が声を揃えて唱和する。
「「「達人は謙虚であるべし!」」」
「シエスタ!『我らの盾』にアルビオンの古いのを注いでやれ!」
「はいっ!」
 二人の様子をニコニコと眺めていたシエスタが酒棚から一本のぶどう酒を取るとブロントのグラスになみなみと注いだ
「ほう、いいワイんだな。」
 ワインを堪能したブロントはワインが心地良く全身を巡り、心身ともにリフレシュしていた。そこにリンクパールからルイズの声が届いた。

[――ブロント、私は朝食が終わったからこのまま授業にでるけど、教室にこられても面倒事は避けたいから今日は自由にしてていいわ――]

「お?何か言ったかいブロントさん?」
「いや、なんでもない……ところでここではパイとかも作れるのか?」
「お、『我らの盾』は甘党でもあったか?好き嫌いが五月蝿い貴族連中の大事な大事なご子息様達がいる学院なんで、
料理の材料の種類ならトリステイン一に揃ってるからパイぐらいはお手の物だぞ!」
「作って貰いたい物があるんだが」
「おう!『我らの盾』の頼みとあっちゃ何だって作るぞ!」
「材料は……」
 ブロントはマルトー親父にヴァナ・ディールのあるレシピをハルケギニアで代用できる材料をマルトー親父に相談しながら伝えた
「ほほう、なかなか画期的なレシピに思えるな。さっそく、うちの若いやつに作らせよう、おい」
 マルトー親父はレシピのの概要を書いたメモを一人のコックに渡した。
「パイは晩飯の後にでもあればいい」
「おう、わかったそれまで用意しておくから好きなときに取りに来てくれ」

 その後も掃除等の雑用も終わらせたブロントは学院やその周辺を把握するためにぶらりと周る事でルイズが授業終えるまで過ごしていた。その内授業が終わったルイズに呼ばれ、ともに図書館まで付き添われた。
「何冊か借りて行くからブロント、あんたが持ちなさい」
「ほう、調べものか?」
 ドスドスとブロント手の上にルイズは本をどんどん載せていく。
 ブロントにはハルケギニアの文字が読めないので何の本かは判らなかったがどこぞの偉人の言行録や戦記ではないだろうとその装丁から判断していた。
「取り合えず私が今『持っている』得意な事は知識を集める事よ。それに今はうまく魔法を使え無いかもしれないけれど、調べていけば私の『爆発』を応用できるものがあるかもしれないもの。」
「そうだな、自分ができる自分の得意な事を伸ばせばいい。」
「昨日のあんたが起こした騒ぎを見て『魔法』は必ずしも万能じゃない事はわかったわ。使い方を間違えれば魔法も使えない素手のあんたに負けるぐらいなんだから。いざ私も魔法使いこなせる様になったとき使い方ぐらいは完璧にしておきたいじゃない。」
 ブロントは積み上がる本を持ち運びながらカチャと鎧を鳴らしてルイズの後をついて行った。

 その日の夜、夕食も取らずにルイズは部屋に篭もり借り出した本を開き勉強に没頭していた。
(そう言えばそろそろ出来ている頃か)
 ブロントはひたすら何かを書き留めるルイズを一瞥し、邪魔しないよう部屋を出た。

 音を立てぬ様ルイズの部屋の扉を閉めると同時にとなりのキュルケの部屋の扉ががちゃりと開いた。
 部屋から出てきたのはキュルケの使い魔のフレイムだった。
 そのサラマンダーはブロントを警戒するように眺めた後、きゅるきゅると言いながらブロントの方へと近づいてきた。
 ブロントもフレイムの事をじっと見つめた。
(サラむんダーの肉は調理するとなるとやはりレッドカレー。いや、キョフテにして攻撃と防御の両方があわさ……)
 途端、その燃え盛る尻が凍えるほどの危険な何かを感じ取ったフレイムは物凄い勢いでキュルケの部屋に戻っていった。
「なんだ?」
 サラマンダーの不自然な行動にブロントは不思議そうな顔をしてそのまま厨房へと向かっていた。

 一方キュルケの部屋
「ようこ……あら、フレイムどうしたのよ、ちゃんとブロントさん連れてきたの?」
 悩ましい下着姿でブロントを待ち構えていたキュルケは自分の使い魔が部屋の隅まで逃げ込みその巨体を小さく丸めてしまった。
「ちょ、ちょっとほんとにどうしちゃったのよフレイム!?ブロントさんを連れて来てって頼んだでしょ?」
 フレイムはひたすらキュルケに向かって頭をぶんぶんと横に振った。
「まるで天敵にでも会ったみたいに震えちゃって……ふぅ今晩は諦めるしかないね。今度また頼むからちゃんとブロントさんを連れてくるのよ」
 その言葉を聞いたフレイムはその晩自分の尾の炎を涙で濡らしたとか濡らさなかったとか。 


 程なくしてブロントは二つの紙の包みを持ってルイズの部屋に戻った。
 相変わらずルイズは書物と睨めっこを続けているようだった。
「ルイズ」
「何よ、ちょっと邪魔しないで……って」
 部屋中に香ばしい香りが漂った。そしてルイズの体の方もその匂いに釣られたのかグーと音を鳴らした。
「俺は食後にでもと思って作ってもらったんだが。まさか夕飯もとらない事になった。お前夢中になり過ぎてた結果だよ?」
 そう言ってブロントは包みの一つをルイズに放り投げた。
「ちょっと、何投げつけているのよ!」
「頭を使う時は甘いものでいい」
 ブロントは自分が持っていた包みを開け始めたので、ルイズもペンを置き受け取った包みを開いた。
 中には小麦色に焼かれたパイ生地に包まれたものがあった。そしてルイズにとっては特別な意味を持つ甘い香りが広がった。
「これって……もしかしてクックベリー?」
「俺はここでの材料の名前は良く知らないんだが、ロランベリーパイのレシピで作って貰った。」
「馬鹿ね、パイを持ってくるのはいいけど、食器が無きゃ食べられないじゃないのよ」
「これは野営中でも食べられるように作られているから手だけでいい」
 ブロントは包み紙から覗かせたパイをかじる様子をルイズに見せた。
 ルイズもブロントを真似てハルケギニア風ロランベリーパイをかじり、ぽろぽろとパイ生地のカスを数片落とした。
「あ……中はゼリーで固められているから中身がこぼれない様になっているのね」
 甘酸っぱいクックベリーの果汁が少し厚手のパイ生地にしみ込んで良い具合にしっとりとしていた。
 勉強詰めだったルイズの脳もその甘さに喜んでいた。それに食堂でたまに出される皿に盛られた物より心なしか酸っぱさが控えにも感じられた。
「俺がいた所ではメイジ達はこれを良く好んで食べていたんだが。魔法使うのにも甘い物がいい」
「へぇー……これなら部屋でも手軽においしく食べられて便利ね、あんた使い魔にしては結構気が利くのね」
「この辺の心配りが人気の秘訣。それにこれなら一人切りの寂しい食事にはならないしな」
「え?……ちょっと!?あ、あ、あんた聞こえていたの?」
 ブロントは少しにやりとして自分が身に付けていたリンクパールを指差しトントンと叩いた。
「何よこの使い魔!勝手にご主人様の事を盗み聞きな、なななんてして!」
「聞かれたくない事があるのなら首から下げる位置を少し考えるんだな」
 あれからルイズはブロントからリンクパールを予備のマントの紐にパールを取り付けて首から下げていた。
「気が利くって言ったのは撤回よ。ふん、パイがおいしいって言ったのも私がたまたまクックベリーパイが好きだったからよ、あんたと一緒に食べた事は関係ないんだから!」
「パイくずがこぼれているぞ」
「あんたが食器も持ってこないで持ちこんだパイでしょ。私は勉強で忙しいんだから、掃除して置きなさい!」
 ブロントはニヤニヤしながら箒を持ち出して床に落ちた屑を掃き始めた。
「ででも、こ、これからも夕食を抜く事が多くなると思うから、部屋で取れる簡単な物を用意しておきなさいよ」
「わかった。色々考えておこう」
 ブロントは鎧をカチャカチャと鳴らしながら箒を掃いた。
「あ、それと明日は虚無の曜日だから街に連れてってあげる。あんた剣が無いって言っていたでしょ。今月は思いがけない出費も無かったから、あんたにそれぐらいなら買ってあげるわ」
「ほう、それは助かる」
「使い魔として必要になる物だから買って上げるんだからね、それ以上の贅沢は癖になるから、勘違いしてこんなパイで何でも買ってもらえると思わないでね」
 そうしてブロントは部屋を掃除し、ルイズは食べかけパイを片手に本に戻り、夜は過ぎていった。





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最終更新:2009年08月01日 17:08
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