学院で盗賊騒ぎがあったその日の夕方・・・
ひとまずの事態の収拾を終えた学院中の教師達が宝物庫に集まっていた。
「白昼堂々と賊は学破壊の杖』を奪っていきおった。王宮の方々をも招いた使い魔の衛兵を割いたとは言え、賊ながらあっぱれとしか
言いようが無いのう」
オスマン氏は宝
「で、実際にその犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
オスマン氏が尋ねた。
「この四人です」
コルベールがさっと進み出て、に
キュルケにタバサと使い魔の
ブロントも敢えて含めて四人を指差した。
「ふむ、君達か、詳しく説明したま進み出て、見たべた。
「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。その時土煙が舞い上がっていて誰かは確認できかったんですが、
肩に乗っていたメイジが宝物庫の中から何かを・・・・・・、その『破壊の杖』だと思いますけど・・・・・・、持ち出した後、ゴーレムから降りて走って逃げ出して・・・・・・
残ったゴーレムの方も崩れて土になっちゃいました」
ルイズは態々言う事ではないと思い
キュルケ達の介入の事は言及しなかったので、後ろで聞いていた
キュルケがふんと鼻息を鳴らした。
「それで?」
「後を追おうとしたのですが、その時私達は土に埋もれていてすぐに身動きが取れなくてそのまま所しか見れませんでしたむ・・・・昼ごろの衛兵の報告によれば西側に金』によっけられたと思われる穴があったと言っていたな。後を追おうにも、そこから先は
手がかりナシというわけか・・・」
それからオスマン氏は思い出したようにコルベールに尋ねた。
「ときにグビルはどうしたね?」
「そういえば・・・・・・品評会の時は他の教師達と一緒に鑑賞していたはずなんですが・・・」
「この非どこ行ったのじゃ?」
「どこなんでしょう?」
そんな噂をしていると、ミス・ロングビルが現れた。
「ミス・ロングビル!どこに行っていたんですか!大変ですぞ!事件ですぞ!」
そう捲くし立てるコルベールをよそに、ミス・ロングビルは落ち着いてオスマン氏に告げた。
「申し訳ありません、昼から、急いで調査しておりましたの」
「調査?」
「そうですわ。王宮の方々をも呼んだ品評会の最中にゴーレムが現れて大騒ぎになった時、ゴーレムが学院の宝物庫前にいたので、
これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、私も駆けつけたのですが、その時にはもうゴーレムは焼かれ崩れ落ちてて、フーケがすでに逃走し
た後だったので、すぐに逃げ先を調査いたしました」
「仕いの、ミス・ロングビル」
オスマン氏は感心した様子で自分の髭をいじって
「そして、結果は如何に?」
「はい。フーケと思われる人物の居所がわかりました」
「な、なんですと!」
コルベールが素っ頓狂な声をあげた。
「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」
「はい、フーケが逃げたと思われる学院西側の近在の農民に聞き込んだ所、ここ数日前から、近くの森の廃屋に黒ずくめのローブの男が住み着き、時折大きな土
の塊を幾つか残していたそうです。おそらく、彼はフーケで、残った土の塊はゴーレムの跡、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」
ルイズが答えた。
「黒ずくめのローブ?それはフーケです!間違いありません!」
「そこは近いのかね?」
「馬で四時間といったところでしょうか」
「すぐに王室に報告しましょう!すぐに王室衛士隊に頼んで兵隊を差し向けてもらわなくては!」
コルベールが叫んだが、オスマン氏は首を振り怒鳴り返した。
「ばかもの!王室の兵が来るの待ってる間にフーケはまうわ!その上・・・・・・、王女殿下を含む王宮の方々を巻き込んだ騒動のみならず魔法学院の宝が盗
まれたので助けてくださいなどと無駄にいらぬ借りを作ってしまうだけじゃ!盗まれた『破壊の杖』に関しては当方魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決
」
オスマン氏はコホンと咳払いをすると、有志を募った。
「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」
しかし誰も杖を掲げず、お互いの顔を見合わせるだけだった。
「おらんのか?ええい、どうした!フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」
ルイズは
ブロントの顔を見て、
ブロントは何も言わず頷いた。それから
ルイズはすっと杖を顔の前に掲げた。
「ミス・ヴァリエール!何をしているのですか!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて・・・」
ミセス・シュヴルーズが驚いた声をあげた。
「誰も掲げないじゃないですか」
ルイズはきっと唇を結び、真剣なまなざしで言い放った。
ルイズが杖を掲げたのを見て、
キュルケも続いて杖を掲げた。
「丁度良いわ、先週の決着をこれで付けましょうヴァリエール」
「ツェルプストー!君は生徒じルが驚いた。
そして
キュルケが杖を掲げるのを見て、
タバサも掲げた。
「
タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」
キュルケがそう言ったら、
タバサは短く答えた。
「心配」は感動した面持ちで
タバサを見つめた。
ルイズも唇を噛み締めて、お礼をがとう・・・・・・。
タバサ・・・・・・」
そんなやり取りをする三人を見て、オスマン氏そうか、では、頼むとしようか」
「オールド・オスマン!わたしは反対です!生徒たちをそんな危険にさらすわけには!」
ミセス・シュヴルーズが叫んだ。
「彼女達は敵を見ている。その上、ミス・の称号を持つ騎士だと聞いているが?」
タバサは返事もせずに、ぼけっと突っ立っている。教師達は驚いて
タバサを見つめる。『騎士』と聞いてブ「ほう」、と感銘を漏らした。
「本当なの?
タバサ」
今まで知れていなかった
キュルケも驚いていた。
オスマン氏は、それから
キュルケを見つめた。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」
キュルケは得意げに、髪をかきあげた。
ブロントも先ほどゴーレムが崩れ落ちる瞬間に放たれた炎の魔法の事を思い出していた。
ブロントが知っている魔力を利用して放つヴァナ・ディール式の精霊魔法の<ファイア>系魔法とは何処か違っていたように感じていた。
ヴァナ・ディール式の魔力で具現化した炎とは違い、
キュルケのものは実際に物理的な炎を繰り出していた。
ハルケギニアの魔法は唱えるのに杖を振るう事が必要な点や
ルイズが夜な夜な魔法の自習している時に良く「精神力を利用して」と呟いていた事を考慮の上で
、
ブロントが知っている知識に無理やり当てはめればハルケギニアの『魔法』はヴァナ・ディールで知られる
溜めた精神力を基に繰り出す『武器の技巧』に性質が近いのでは無いか、と考えていた。
そう考察する
ブロントの横で
ルイズは今度自分がオスマン氏に紹介される番だとばかりに可愛らしく胸を張った。
オスマン氏は誉めるところが思いつかなくて困っていた。
「えー、その・・・ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で・・・あー、その、うむ、とても努力家なメイジと聞いているが
?しかもその使い魔マン氏は手を顎に当て考え込んでいる
ブロントい目で見つめた。。
「平民ながらあのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して、素手で勝ったという噂だが」
そしてオスマン氏は心の中で続けた、『と言うより実はエルフでしかもあの伝説の使い魔『ガンダールヴ』ならば、土くれのフーケなぞ相手にもならないだろ
う』、と。その時コルベールが興奮して調子で後に続いた。
「そうですぞ!なにせ、彼はガン・・・」
オスマン氏は慌ててコルベールの口を押さえた。
「むぐ!はぁ!いえ、彼は頑丈、ええとても頑丈との評判でして!あのグラモン息のゴーレムの攻撃をも物ともしないと!はい!」
ブロントは「それほどでもない」と軽く答えていた。
「さて、この三人とその使い魔に勝てるという者がいるのなら、前に一歩出たまえ」
オスマン氏はそう教師たちに向かって言ったが、教師たちは黙ったままで前に出る者はなかった。
「ふむ、魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
ルイズとタバサと
キュルケは三人同時に「杖にかけて!」と唱和した。
「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル、彼女たちの案内を頼む」
ミス・ロングビルは頭を下げたよりそのつもりですわ」
予想通りの展開に事が進んだ事にミス・ロングビルは誰にも知られぬようににやりと笑った
四人はミス・ロングビルを案内役に、早速出発した。
いつ襲われてもすぐに外に飛び出せるようにと屋根無しの荷車のような馬車に乗り、ミス・ロングビルを務めた。
キュルケが、黙々と手綱を握る彼女に話しかけた。
「ミス・ロングビル・・・・・・、手綱なんて付き人にやらせてばいいじゃないですか」
ミス・ロングビルは、にっこりと笑った。
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」
キュルケはきょとんとした。
「だった貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でもオスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
ミス・ロングビルはただ優しく微笑むだけで、それは言いたくないと意思表示した。
「よしなさいよツェルプストー。昔のこと根掘り葉掘り聞くなんて」
ルイズが割り込んだ。
キュルケはつまらなそうに荷台の柵に寄りかかって頭の後ろで腕を組んだ。
「暇だからちょっとおしゃべりしようと思っただけじゃないの・・・あ、これならどうかしら」
再び
キュルケは起き上がり御者をしているミス・ロングビルににじり寄った。
「今日の使い魔の品評会は最後に大騒ぎになって結果がうやむやになったけれど、ミス・ロングビル、貴女は学院の教師たち側の人間として今年の優勝は誰の使
い魔だと思った?」
「そうですね・・・ただの秘書の私自身には優勝者ですが・・・・・・やはりミス・
タバサの使い魔ではないのでしょうか?舞台に縛られず大空を飛
び回るなど中々注目を集める演出だと思いましたが」
「そう?確かに
タバサのシルフィードは素晴らしかったわ・・・」
そう言って
キュルケは荷台で本を黙々と読み続ける
タバサを一目見た。
「・・・でも
タバサには悪いけれど、会場の注目を浴びたと言う点で言えば
ブロントさんが文句無しに一番だったとあたしは思うわ」
「ブロントサン?」
「ええ、ヴァリエールの使い魔の彼よ。ほんと、主人がいけ好かないヴァリエールと言う所が今でも納得行かないわ」
そう言って
キュルケは二人の姿勢で静かに目を閉じている
ブロントを指差した。
ルイズは「何よ、悪かったわね」と言い、ふんとそっぽを向いてしまった。
「ああ・・・ミス・ヴァリエールの使い魔ですか・・・・・・そうですね、厳格そうな風貌をした彼が楽器の演奏だなんて意外性がありましたね」
「意外性なんて言葉で言い表せる程度の衝撃じゃなかったわ!あの躍動で!あのセンスで!あの脚線美で!あの情熱で!あたし自身を焼く尽くされてしまうかと
思ったわ!!」
キュルケは両腕で自分を抱いて体をくねらせていた、そしてその時
タバサは読む本のページをめくる指を止めていた。
ミス・ロングビルはうねうねとしている
キュルケに軽く苦笑いをして、手綱を引き馬を止めた。
「ここから先は森なので馬車を降りて徒歩で行きましょう、すぐ近くに情報を得た廃屋があるはずです」
馬車を降りた一行は薄気味悪い森へと入っていった。
茂る森を進む途中、ゴーレムが通ったのか一筋の道を作るように木々が激しくなぎ倒されていた。
「件の廃屋はこのすぐ先にあるはずです。フーケも近くにいるかも知れないので皆さん気をつけてください」
ミス・ロングビルがそう皆に注意を促した。一行は倒れた木々を道しるべに沿っていった先には、学院の宝物庫前にもあったような大きな盛土に半分埋もれた
ボロボロにくたびれた小屋があった。
「ここがフーケの隠れ家で間違いなさそうね」
ルイズは人が住んでいる気配がない小屋を指差した。
そこで
タバサは一つの作戦を提案した、偵察兼囮が小屋の中を確認し、フーケが中にいるのであればそれを挑発し、他の者が魔法で一気にフーケを攻撃する。
「俺がその囮をやる事になるのは確定的に明らか」
タバサはこくりと頷いた。
ブロントは腰からデルフリンガーを鞘から抜いた。
「お?相棒、やっと俺の出番か!よっしゃ!ここはいっちょ・・・・・・」
デルフリンガーがカチカチと鍔を鳴らした。
「うるさい、気が散る、一瞬の油断が命取り」
「わ、わかったよ相棒」
ブロントに一喝されデルフリ
デルフリンガーを右手に握った瞬間、
ブロントの体がギーシュとの決闘の時の様に軽くなった。
ブロントは一同がいる茂みから一足跳びで小屋の窓まで近づき中を軽く覗いて部屋の間取りをざっと確認した。