ルイズ達を乗せた黒き軍艦『イーグル』号は、浮遊大陸アルビオンの空岸線に沿って、雲に隠れるようにして航海した。三時間ばかり進むと、大陸。
岬の突端には、目的のニューキャッスルの城がそびえている。
、『イル』号は真っ直ぐニューカッスルに向かわず、大にもぐりこむような針路をとった。
グル』号が大陸の影の一部となったとき、遠く離れた岬の突端の上から、ニューカッスルへと降下してくる巨大な軍艦を
ウェールズが指差した。
「叛徒どもの、艦だ」
全長は『イーグル』号の優に二倍はある。舷側からは無数の大砲が突き出て、その艦上には火竜に跨る竜騎兵が舞っている。
巨艦が空したかと思うと、スルの城をめがけて並んだ砲門を一斉に開いた。
どこどこどっこーん、と、斉射の振動がルイズ達まで伝わってくる。
砲弾の雨が城に着弾し、城壁の一部を砕き、小さな国艦隊旗艦、『ロイヤル・ソヴリン』号だ。叛徒どもが手中に収めてからは、『レキシントン』と名前を変えている。あの艦の反乱から、すべてが始まった因縁の艦手にできるわけもないので、こうして雲中を通り、大陸の下に設けられた、我々しか知らない秘密の港を使ってニューカッスルに向かっているのだ」
『イーグル』号が大陸の下に潜り込むといので、辺りは真っ暗になった。
「大陸に座礁する危険があるからと、空を知らぬ無粋な叛徒どもは大陸の下には絶対近寄ろうとしないが、なに、地形図と測量だけで航海する事は王立空軍の航海士にとっては造作もないことなのだが」
ウェールズの命令の下、暗闇の中でも『イーグル』号の水兵達はきびきびと動き、正確な位置で停船し、頭上にぽっかりと開いている穴に向かって、ゆるゆると上昇する。
『イーグル』号の航海士が乗り込んだ『マリー・ガラント』号が後に続く。
ワルドが頷いた。
「まるで空賊ですな。殿下」
「まさに空賊なのだよ。子爵」
艦はニューカッスル地下にある鍾乳洞に設けられた秘密の港に到着した。
鍾乳洞の岸壁の上に待ち構えていた大勢の港の者達が、『イーグル号』に向けて一斉にもやいの縄を投げた。
『イーグル』号の水兵たちは、要領よくそれを受け取ると艦にゆわいつけ、艦を岸壁へと引き寄せ入港をすませる。
ウェールズはルイズ達を促し、艦に取り付けられたタラップを降りた。
背の高い、年老いた老メイジが近寄ってきて、ウェールズの労をね、大した戦果ですな。殿下」
「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」
ウェールズがそう叫ぶと、集まった兵隊がうおぉーっと歓声をあげた。
「おお!硫黄ですと!火の秘薬ではござらぬか!これで我々の名誉も、守られれるというものですな!先の陛下よりお仕えして六十年・・・・・・こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下反乱がおこってからは、苦渋を舐めっぱなしでありましたが、なに、これだけの硫黄があれば・・・・・・」
にっこりとウェールズは笑った。
「王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、散ることができるだろう」
「栄光のある散り様を飾れますな!この老骨、武者震いがいたしますぞ!して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日の正午に、攻城を開始するとの旨、伝えて参りました。まったく、殿下が間に合ってよかったですわい」
「してみると間一髪とはまさにこの事!戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな」
ウェールズとパリーと呼ばれた老メイジは二人して心底楽しそうに笑いあっている。
ルイズは二人の会話に、顔色を変えた。なぜ死ぬという事を、ここまで楽しそうに語れるのか?
「して、その方達は?」
老メイジが、ルイズ達を見て、ウェールズに尋ねる。
「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で参られたのだ」
「これはこれは大使殿。殿下の侍従を仰せつかっておりまする。パリーでございます。このような時ですが、遠路はるばる、ようこそこのアルビオン王国へいらっしゃった。大したもてなしは出来ませぬが、今夜はささやかな祝宴が催されます。是非とも出席くださいませ」
ルイズ達は、ウェールズに付き従い、城内の彼の居室へと向かった。
ウェールズの部屋は、粗末なベッドに、机と椅子が一組の鍵穴にそれを差し込み、箱を開けた。
蓋の内側には、
アンリエッタの肖像が描かれている。
小箱の中には一通の羊皮紙を丸めた手紙が入っていた。
それが王女からのものであるらしい。
ウェールズはそれを取り出し、愛しそうに口づけた後、開いてゆっくりと読み返した。
そして、ウェールズは再びその手紙を丁寧に丸めると、ルイズに手渡した。
「これが姫から頂いた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」
ルイズは深々と頭を下げると、その手紙を受け取った。
そして、その手紙を
ブロントに手渡す。
「ブロント、あんたのカバンの中が一番安全だから代わりにもっていて」
ブロントは手渡された手紙を厳重にカバンのだいじなものの所へと仕舞った。
ルイズは少し戸惑ったが、そのうちに決心したように口を開いた。
「あの、殿下・・・・・・。先程、栄光ある散り様とおっしゃっていましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」
ルイズは躊躇うように問うたが、ウェールズは至極あっさりと答える。
「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは、はてさて、勇敢な死に様を連中に見せる事だけだ」
「殿下の、討ち死になさる様も、その中には含まれるのですか?」
「当然だ。王族として、私は真っ先に死ぬつもりだよ」
ルイズは深々と頭を垂れて、ウェールズに一礼した。言いたい事があるのだ。
「殿下・・・、失礼をお許しください。恐れながら申しあげたい事がございます」
「なんなりと、申してみよ」
「この任務をわたくしに仰せ付けられた際の姫さまのご様子、尋常ではございませんでした。そう、まるで、恋人を案じるような・・・。もしや、姫さまと、ウェールズ皇太子殿下は・・・」
ウェールズは微笑んだ。
「きみは、従妹のアンリエッタと、この私が恋仲であったと言。アンリエッタが重婚の罪を犯すことになる。そうだとわかればゲルマニアの皇室も婚約も取り消す事だろう。そして、同盟相成らず、トリステインは一国でここまで膨れ上がった恐るべき貴族派に立ち向かわなければなるまい」
「とにかく、姫さまは、殿下と恋仲であらせられたのですね?」
「・・・昔の話だ」
ルイズは熱っぽい口調で、ウェールズに言った。
「殿下、亡命なされませ!お願いでございます!わたし達とともにトリステインにいらしてくださいませ!」
ウェールズは首を振った。
「それはできんよ」
「殿下!これはわたくしの願いではございませぬ!姫さまの願いです!わたくしは幼き頃、恐れ多くも姫さまのお遊び相手を務めさせていただきました!わたくしは姫さまの気性はよく存じております!あの姫さまがご自分の愛した人を見捨てるはずがありません。姫さまは、たぶん手紙の末尾に亡命をお勧めになっているはずですわ!」
「・・・その様な事は一行も書かれていない」
「でも姫さまなら・・・!」
「仮に、もしそうだとして、私がトリステインに亡命をすれば、それこそ貴族派どもにトリステインを攻め入る格好の口実ができてしまうだろう。アンリエッタも王女としてそれは望まぬはずだ。私達は王族だ。王家に生まれたものは国のために生き、その運命を国と共にする義務があるのも彼女は理解しているはずだ。自分の都合を、国の大事に優先させるわけがない」
ウェールズはルイズの肩を叩いた。
「殿下・・・」
「きみは、正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、いい目をしている。正直すぎて、大使は務まらないが・・・」
ウェールズはルイズに微笑んだ。魅力的な笑みだ。
「それ故にアンリエッタは、彼女の事を良く理解してくれているきみに、信頼を寄せているのだろう。今後も彼女の良き友人としイズは寂しそうに俯いた。
「さて、そろそろ祝宴の時間だ。きみたちは、我が王国が迎える最後の客だ。是非とも出席して欲しい」
ルイズ達は部屋の外にでた。ワルドは居残って、ウェールズに一礼した。
「まだ、何か御用がおありかな?子爵殿」
「恐れながら、殿下にお願いしたい議がございます」
「なんなりとうかがおう」
ワルドはウェールズに、自分のもめでたい話ではないか。喜んでそのお役目を引き受けよう」
祝宴は城のホールで行われた。簡易な玉座が置かれ、そこに年老いたアルビオンの王、ジェームズ一世が腰掛け、祝宴に集まった臣下達を目を細めて見守っていた。
明日には滅びてしまうというのに、とても豪勢な祝宴が催されていた。
つい先日まで攻城を受けていたと思えぬほどに、誰もが奇麗に着飾り、
テーブルの上にはこの日のために、とって置かれた、様々なご馳走が並んでいる。
ブロント達は会場の隅に立って、華やかな祝宴を見つめていた。
死を目前にして、明るく振舞う王党派の者達を見ていて、ルイズはその事が理解できず、憂鬱になっていた。
そこへ水兵姿をした痩せぎすの男と太った男がブロント達の元へとやってきた。
「よう!また会ったな、ブロント!」
痩せぎすの男が太った男の頭をパシンとはたいた。
「『よう!』じゃないだろ、ウェッジ。今は空賊ではないのだから、口の聞き方考えろ。トリステインの大使殿達を前にしてアルビオンの恥になるつもりか?大使殿、この度は我々が失礼を・・・」
「うるせえ、ビッグス。今夜の祝宴は平民の俺たち水兵も招いての無礼講だろ?堅苦しい事は無しにしようぜ」
ブロントが頷く。
「俺はそのまま話し易い方でもいいんだが?」
ウェッジが嬉しそうにブロントの背中を叩く。
「ほらな?ビッグス、てめえも慣れねえくせに無理に畏まるなよ、ガラじゃねえぜ。貴族には貴んだよ」
「まあ、それもそうだな・・・お前は作る飯はまずいくせに、言う事だけはたまに良い事言うな」
「うるせえ、俺が作る飯は関係ねえだろ!」
ビッグスはワインを運んでいた給仕を呼び寄せると、
盆からワインの杯を取り、ルイズ達に配る。
「大使殿もそんな辛気臭い顔しないで、今夜楽しんでいってくれよ。向こうのテーブルにはなかなかお目にかかれない料理がたくさんあるからさ。あの蜂蜜を塗った鳥とか結構うまかったぜ」
ルイズは何とか愛想笑いをして見せるが、ワインの杯に口もつけず、そのまま顔を俯かせる。
「でも、今日食った料理で一番うまかったのは、あの『石のスープ』だな。貴族の凝った料理もいいが、俺はやっぱりフネの皆で作ったあの味が忘れられねえ、またいつか食いてえな。おおっと、ようやく我らの『お頭』が来たようだ」
ホールにウェールズが現れると、貴婦人の間から、歓声がとんだ。
凛々しい若き皇太子はどこでも人気者のようだった。
彼は玉座に近づくと、父王に何か耳打ちをした。
ジェームズ一世は立ち上がろうとしたが、かなりの年であるらしく、よろけて倒れそうになった。
ウェールズがすかさず父王に寄り添うように立ち、体を支えた。
陛下がこほんと咳払いをすると、ホールの臣下達が一斉に直立した。
「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。いよいよ明日、このニューカッスルに立てこもった我らスタ』の総攻撃が行われる。この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。しかしながら、明日の戦いもう、戦いではない。おそらく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇な諸君らが、傷つたがって、諸君らに暇を与える。明日の朝、『イーグル』号が女子供を乗せてここから離れる。諸君らも、この艦に乗り、この忌まわしき大陸を離れるが良い」
しかし、誰も返事をしない。一人の臣下が、大声で王に告げた。
「陛下!今宵、うまい酒の所為で、いささか耳が遠くなっております!『全軍前へ!全軍前へ!』、それ以外の命令が、耳に届きませぬ!」
集まった全員がその勇ましい言葉に頷いた。
「陛下!異国の言葉で命令されても、さっぱりなんのことやら!」
「耄碌するには早いですぞ!陛下!」
老王は、目頭をぬぐい、ばかものどもめ・・・、と短く呟くと、杖を掲げた。
「よかろう!しからば、この王に続くがよい!さて、諸君!今宵はよき日である!よく飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」
王の言葉に、臣下達が一斉に祝杯を掲げ、アルビオン万歳!と叫ぶ。
会場の端でルイズ達と共にいたビッグスとウェッジも杯を掲げた後、
一気にワインをあおる。
「なあ、ウェッジ。お前はどうするんだ?陛下もああ言っているんだ、『イーグル』号に乗っていくのか?」
「別に料理番の俺がいなくたって、あのフネは動くだろ。ここで俺達アルビオン空軍兵の意地をみせねえでいつみせるんだ?俺はここアルビオンに残るぜ。ここで生まれ育ったんだ、死ぬ時もここだって決めてあるんだ」
「お前とはいつも言い争ってばかりいるが、結局考えている事は一緒だな」
「何だ、てめえもかよ。ま、空っぽの船倉で飛ぶフネに貨物番はいらねえのは確かだがな」
「なら俺とお前で、貴族派の連中に俺達アルビオン空軍兵の根性をみせつけてやろうじゃねえか」
貴族ですらない、ただの平民の兵士であるビッグスとウェッジの誇り高き覚悟を見せ付けられたルイズは、
これ以上この場の雰囲気に耐え切れず、外に出てしまった。
ワルドが棒立ちのまま、動かないのを見て、ブロあいうえおのお前は追いかけないのかよ?この辺の心配りがもてる秘訣」
ブロントに促され、ようやくワルドはルイズの後を追った。
ビッグスとウェッジは最後にブロントに向かってアルビオン万歳と叫び、去って行った。
一人祝宴に残ったブロントを見て、座の真ん中で歓談していたウェールズが近寄ってきた。
「やあ、使い魔のブロントだね。フネの中の時から思っていたが、きみは随分と色々な事を知っているようだね。まるで世界を見て回った事があるみたいに」
「それほどでもない」
ウェールズは屈託なく笑う。
「謙虚に隠さずとも、きみの凄さは分かるよ。たった一つの料理を通じて『イーグル』号のクルー達と打ち解けたんだ、それは並大抵の事じゃない証拠さ。きみのように皆の心をまとめる事ができたのであれば、この反乱も起きずに済んだのかもしれないな」
「俺は鍋に石をいれただけなんだが?」
「きっかけなどとは、そういう簡単な事から始まるものだ。だが、そんな簡単な事が中々思いつかないものなのかもしれんな」
二人して、ぼんやりと祝宴を眺めた。明日に死を控えた人たちを見て、ブロントはウェールズに語りらは馬鹿すぐる。死んでしまっては何も意味がないな」
「守るべきものがあるから、その為に死ぬ事は無意味ではなか
た後、誰がその守るべきものを守るんだ?残されたものを考えてない浅はかさは愚かしい」
ブロントがそう言うと、ウェールズは笑った。
「我らは確かに馬鹿なのかもしれんな。守るべきものが大きすぎて、基本い。だが厄介な事に我らの愚かさは、死なないと治らない重い病みたいなものだ」
「お前それで良いのか?」
「このウェールズ・テューダは王家に生まれたのだ。私一人の我侭のために、我ら王家に従う皆を見捨てるわけには行かないよ。だが、もし私がただ一人の人間であったのであれば、きみの様に一人の女性を守り、生き抜くのも悪くないと思っている」
「おいィ?そんな事俺に言っていいのか?」
「ふふ、我ながら臣下の者に聞かれたくない事を言っているな。きみと話していると不思議と心の内が曝け出てしまうようだ」
ウェールズは深い溜め息をついた。
「ここほんの数日の間で、私が長年信頼し、友人だと思っていた者達は軒並み貴族派に旗を変えていった。だが、今日会ったばかりのきみと話しているとまるで長年の知己と語り合っている感覚すら覚える。何とも皮肉だな。もっと昔にきみと出会っていれば、良き友になれたのかもしれないと思うと、悔やまれる」
「フレンドになるのは今からでも遅くにいのは確定的に明らか」
ブロントは右手をすっとウェールズに差し出す。
「『友』か。そうだな、友情の深さに時間は関係ないな。こうして最後に良き友人に出会えた事を、始祖ブリミルに感謝せねばいけないな」
ウェールズは差し出されたブロントの手を握ると、固く握手を交わした。
「さあ、友よ!夜は短い、今宵は語り明かそうでは無いか!友の武勇伝を是非聞かせてくれ!」
そうして、二人は宴の間、とりとめも無い事を語り合い、友好を深めていった。
その様子を遠く玉座から見守っていた老王は傍らにいたウェールズの侍従のパリー仕えしておりますが、陛下とはもう六十年以上の付き合いになりますでしょうか」
ジェームズ一世はパリーに手招きをする。
「・・・朕からそなたに最後に一つ頼み事がある」
パリーはジェームズ一世の耳元まで近寄る。
「陛下、何でございましょうか?」
「あの『イーグル』号に乗る者で、アルビオン王家をそなた程長年知る者はおらぬ。そして朕はここに集まる勇士達の事が語られる事もなく、忘れ去られてしまう事には耐え切れぬ」
「陛下・・・」
「パリーよ、ここに残りたいのだろうが、頼む、『イーグル』号に乗り、我らアルビオンの風が潰えぬよう、周りに伝え聞かせ、見届けてはくれまいか」
「陛下、これは王からの勅命ですかな?それならば、先程陛下から直々に暇を与えられたのですから、このける義務はありませんぞ?」
ジェームズ一世はパリーの手を握る。
「いや、六十数年共にしてきた友人としての頼みだ」
「・・・陛下は実に残酷な方ですな。それでは断れぬではないですか」
「すまぬな、パリー。我がアルビオン王家はそなたに世話になってばかりだ」
パリーは微笑む。
「では陛下、事が終わり、この老骨の体が朽ち果てた時は、長年溜まった恨み言を含めて後から陛下に報告に参りますぞ」
「それでよい。風の行方の良き報告、待って居るぞ」
祝宴が終わり、夜も更け、明日のために部屋に休みに行ったウェールズを見送った後、ブロントも割り当てられた部屋に向かうと、後ろから肩を叩かれた。
振り向くとワルドが立って、ブロントをじっと見つめている。
「きみに言って置かねばならぬ事がある」
ワルドは冷たい声で言った。
「お前そこにいたのか・・・」
「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」
「おいィ?何いきなり予定しているわけ?」
「是非とも、僕達の婚姻の媒酌を、あの勇敢な皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を挙げる。きみにも是非出席して貰いたいのだが」
ブロントは少し考え、そして黙って頷く。
「三人であれば私のグリフォンでも、滑空するだけなら、問題なく帰れるだろう」
伝える事だけを伝えるとワルドは自分の部屋に戻っていった。
ブロントは静かな廊下にガチャガチャと鎧を響かせて歩いていた。
廊下の途中に、窓が開いていて、月が見えた。月を見て、一人涙ぐんでいる少女がいた。
月明かりに照らされる桃色がかった髪、そして白い頬には涙が伝っていた。
ブロントが鳴らす鎧の音に気が付いたのか、ルイズは目頭をぬぐって、振り向いた。
だがブロントの顔を見ると、ルイズの顔は再びふにゃっと崩れた。
「・・・何いきなり泣いているわけ」
ブロントはその大きな手ですっぽりとルイズの小さな頭に乗せると、優しく撫でて慰める。
「どうして、どうして、ここの人たちは皆死を選ぶの?わけわかんない。貴族も、貴族で無い人も、誰しか考えてない、お馬鹿さんでいっぱい。あの王子さまもそうよ。残される人たちのことなんて、どうでもいいんだわ」
ブロントはそうではない、と言い返そたが言い返す言葉が出なかった。
ただ黙って泣きじゃくるルイズの頭を撫でた。
ルイズコートに顔をふふふふの体を抱きしめる。
「ブロント、わたしと約束して。何があっても自分から死ぬような事を選ばないって。あんたはわたしの使い魔なんだから、どんな事があっても生きてわたしを守ってもらうわよ」
「圧倒的な生命維持能力をント」
最終更新:2024年04月14日 19:14