ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世と、トリステイン王女
アンリエッタの結婚式はゲルマニアの首都ヴィンドボナで行われる運びであった。
式の日取りは三日後のニューイの月の一日に行われる。
そして本日、新生アルビオン政府の客を迎えるため、トリステイン艦隊がラ・ロシェール上空にて停泊していた。
昼の刻を過ぎた頃、空の彼方から『レキシントン』号率いるアルビオン艦隊が静々とラ・ロシェール上空へと降下してきた。
「『ロイヤルゾヴリン』号、いや、今は『レキシントン』号か。こうしてトリステインのフネとも並ぶと、流石アルビオン最大の艦といったところだな」
タルブの砂浜で
ウェントゥスは一人呟いた。
タルブの村に滞在してひと月近くになるウェントゥスは、この親善訪問の行く末を固唾呑んで見守っていた。
側に立つ黒鷲の使い魔の視界を借りて、ウェントゥスの目には各艦隊の様子が鮮明に映る。
「やはり、戦力差で言えば、トリステインだけでは圧倒的に不利だな」
ラ・ロシェール上空に並ぶ両国艦隊の性能、数、操舵の技術を見比べれば、その差は歴然だった。
空軍艦隊のみならず、地上軍でもトリステインはアルビオンのものより遥かに劣るだろう。
トリステイン王国の軍備は貴族を主軸としているため、流石にメイジの質と数ではハルケギニア随一の座は譲らないが、貴族連盟を通じて貴族メイジの数を増やしたレコン・キスタも負けてはいない。
「しかし、あと三日もすればトリステインとゲルマニアの軍事同盟が確固たるものになる。そうすればあの叛徒どもも手がだせないだろう。そしてその時、アンは…」
ウェントゥスはその先を口に出さず、呑みこんだ。
トリステインが現状のアルビオンに対抗するためには、これが最善の策であると散々自分に言い聞かせていた。
しかし、アンリエッタの式の日が近づくにつれ、何ともいえぬ焦燥感にウェントゥスは悩まされていた。
その気持ちを察したのか、黒鷲が「クァ……」と寂しそうに鳴き、主人の腕をその嘴でつつく。
「ああ、大丈夫だ。ただのつまらない未練だ。わかっているさ、今の彼女を迫りくる敵から守ってやれるのはこの杖を握る手ではなく、ゲルマニアの兵力だ」
実際、帝政ゲルマニアの兵質はトリステインとは対極に、平民の兵士を数多く揃えている。
金を積めば誰でも貴族の地位を買う事ができると言ったハルケギニアでは異例な政治体制を取っているため、金払いの良い軍人を目指す平民も数多く、それがメイジの少ないゲルマニアの戦力を底上げしている。
メイジ主体のトリステインと兵士主体のゲルマニアが同盟を結べば、新生アルビオンが脅かす事は実質不可能であるのは歴然である。
(……ハルケギニア統一を謳うレコン・キスタが、このまま黙って指を加えて式を見過ごすはずはないとは思ったが、こうしておとなしく訪問に応じるからには、トリステインが軍事同盟を結んだ事で諦めたのか?)
その時、『レキシントン』号の大砲から火が噴き、煙が上がる。
実弾は込められていない、火薬を爆発させるだけの礼砲だ。
数秒の間をおいてから、鈍く、重い爆音が遠く離れたウェントゥスの耳にも届く。
ビリビリとした振動が肌で感じ取れる程だ。
(アルビオンの時とは違うカノン砲を載せているな。統一の野望を諦めた所が、新型の大砲を引っ提げて親善訪問にやってくるものだろうか?)
いよいよきな臭くなってきた、と感じたウェントゥスは使い魔を促し、ラ・ロシェール上空へと飛ばした。
黒鷲の目を通じて、アルビオン艦隊を間近で見たウェントゥスは奇妙な点に気がついた。
新型の艦隊を揃えたアルビオン艦隊の最後尾に、使われなくなって久しい旧型艦『ホバート』号の姿があった。
(新型大砲を搭載して、威圧目的の砲艦外交であらば、なぜ時代遅れの『ホバート』号を連れてくる必要がある?)
黒鷲を艦隊の周りを旋回させて、『ホバート』号を注意深く観察すると、何やら乗組員の様子がおかしい。
『ホバート』号の乗組員達は退出用のボートに<フライ>の魔法をかけ、フネを乗り捨てている。
その時、トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号が答砲を撃ち始める。
どん、どん、どん、と一定の間隔をおいて『メルカトール』号が空砲撃ち続けていると、突然『ホバート』号から火災が発生する。
『ホバート』号は見る間に高度が下がって行き、艦に炎が広まり、木っ端微塵に爆発した。
『ホバート』号は自分達で点けた火災で、あたかもトリステインの砲撃によって落とされたかの様に演出したのだ。
「馬鹿な!このような事で大義名分を得ようと言うのか、レコン・キスタは!」
ウェントゥスは驚愕する。
すでにこの事態を計画していたか、アルビオン艦隊の『レキシントン』号は既に込められた実弾にて、『メルカトール』号に向けて一斉射撃を行う。
辺りに響き渡る轟音と共に、『メルカトール』号に砲弾が着弾する。
マストが折れ、甲板に大穴が開く。砕け散った木片がバラバラと空に撒かれる。
ウェントゥスは眼下に目をやると、傭兵団の数隊が合流し始め、蟻の大群のように一斉にタルブへと向かっていた。
「ぬかった、傭兵どもの言う『タルブ』とはこの事だったのか!レキシントンの街を占領した様に、今度奴等はタルブを足がかりとするつもりか!」
大洋に面し、フネも直陸出来るほどの広い砂浜を有するタルブは、侵略の増援を送り込むのに絶好の場所であった。
王国の防衛隊が守るラ・ロシェールの街と違い、小さな村しかないタルブであれば大した抵抗も受けないであろう事もレコン・キスタは考慮済みなのだろう。
「まずいな、あと数刻もすれば傭兵どもがここにやって来ると言うのに、この様子であれば王宮の方は何も対処していないのだろうな……」
ウェントゥスは口笛を吹き、使い魔を呼び戻すと同時に、タルブの村へと駆けだす。
「急がねば、時間が無い!」
トリステイン王宮に、国賓歓迎のためにラ・ロシェール上空に停泊していた旗艦『メルカトール』号を含むトリステイン艦隊が全滅したとの報がもたらされた。
時同じくして、アルビオン政府から宣戦布告文が王宮に届けられた。
『貴国ハ不可侵条約ヲ無視シ、理由モ無ク我艦ヲ攻撃シタ事ニ、神聖アルビオン共和国政府ハ憤慨ノ意ヲ表ス。自衛ノ為神聖アルビオン共和国政府ハ、トリステイン王国政府二対シ宣戦ヲ布告ス』
ゲルマニアへのアンリエッタの出発でおおわらわだった王宮は突然の事に騒然となった。
すぐさま大臣や将軍達が集められ会議が開かれた。
しかし、会議は紛糾するばかりで少しも進展しない。
口々にアルビオンに急使を送りトリステインの先制攻撃が誤解である事を正すべきであるとか、ゲルマニアに急使を派遣し軍事同盟に基づいて軍の派遣を要請すべきであるとか意見はでれども、結論までには達せず、悪戯に時間ばかりが流れてゆく。
会議室にアンリエッタの姿もあった。
これから馬車に乗り込み、式のためにゲルマニアに向かう所であったので、純白のウェディングドレスに身を包んでいる。
アンリエッタは忘れ去られた人形の様に、会議室の上座に茫然とした表情で会議の行く末を見守っている。
「我が方は礼砲を発射しただけだと言うではないか!偶然による事故であると言う事を早急にアルビオンに打診すべきだ!」
「そうだな、全面戦争へと発展する前に、アルビオンに特使を派遣し、双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦であったと言う事を明らかにして置くべきだ」
現状の政務を取り仕切っているマザリーニ枢機卿も、このアルビオンに特使を送る案に頷き、賛同した。
その時、急報が入った。伝書フクロウによってもたらされた書簡を手にした伝令が会議室に飛び込んだ。
「急報です!アルビオン艦隊は降下して占領行動に入りました!」
「場所はどこだ?」
「ラ・ロシェール近郊のタルブの砂浜のようです!」
「なんだと!?よりによってあのタルブだと!?確か領主が不在の地であったな。これはやっかいだぞ」
伝令はまだ続ける。
「なお、身元不明の傭兵の数隊が同じくタルブへ向かっているとの事です!」
「傭兵団だと?王宮が傭兵を雇い集めていたとは聞いてないぞ。貴殿は知っておりましたか?」
隣に座る有力貴族に、話を振られた白髪の老獪そうな印象を与える貴族は首を振った。
「さて?このリッシュモン、その様な報告は今まで聞いておりませぬなあ……」
シエスタは幼い兄弟達を抱きしめ、寺院の天窓から空を不安げな表情で、炎の様に赤く染まる夕焼けの空を見つめていた。
先ほどウェントゥスの報を受けて、タルブ村の住人は寺院へ集められていた。
最初は突然の事に家から離れたがらない村人もいたが、アルビオン艦隊から飛来した火竜の騎士隊にドラゴンのブレスで村を焼かれ始めると、皆は異を唱えることなくウェントゥスの誘導に従い、寺院まで避難してきたのだ。
村人の何人かは以前イージスが飾られていた所に向かって祈っている。
中には村の御神体がいなくなったために村に不幸が訪れたと嘆く者もいた。
「何が起こっているの?お姉ちゃん」
幼い弟や妹達がシエスタにしがみつき訪ねる。
「大丈夫よ、すぐに怖い事は終わるわ」
シエスタは兄弟達を安心させようと言ったが、自分自身もぶるぶると震えていた。
ウェントゥスは村の全員が無事寺院に避難できた事を確認次第、寺院の扉を閉め、一人だけ外に出て何かをやっている様だった。
光を取り入れるための天窓しか無いため、中からは外の様子がまったく確認できないが、時折外から不気味な風を切る様な音が聞こえてくる。
ヒュー、ヒューと鋭く鳴る、その身も凍りそうな冷たい音が、シエスタ達の不安を煽る。
夕刻を過ぎても、王宮の会議室では未だに不毛な会議が続けられている。
「やはりゲルマニアに軍の派遣を要請しよう!」
「竜騎士隊全騎をもって反撃してみては?」
「いや、攻撃したらそれこそアルビオンに全面戦争の口実を与えてしまう、ここはやはり特使を派遣すべきだ」
一向にまとまらない会議に、マザリーニも、結論を出しかねていた。
彼は未だに外交による解決を望んでいたが、どうも現状ではそれは難しいようだ。
怒号が飛び交う中、アンリエッタは薬指に嵌めた『風』のルビーを見つめた。
人形の様に黙って佇む自分の姿を今
ウェールズが見ていたら彼はどう思うのだろうか?
優しい彼の事だ、アンリエッタを責める様な事は一言も言わないだろう。
軽い冗談の一つも言って、気を紛らわせようとしてくれるだろう。
アンリエッタが大好きだったあの屈託の無い笑顔を浮かべて「なに、心配ないさ。私にいい考えがある」とでも頼もしい事を言ってくれるに違いない。
しかし、彼はもういないのだ。
レコン・キスタの手によって彼はもういなくなってしまった。
「タルブの村、炎上中!なお身元不明の傭兵隊はアルビオンの占領行動に加わったようです!」
その急使の声で、アンリエッタの中に何かが弾けた。
(これ以上、あの者達の好き勝手にさせるものですか!)
アンリエッタは突如立ち上がる。
途端、会議室は静まり返り、一斉に視線は王女へと注がれた。
「姫殿下?」
「あなた方は恥ずかしくないのですか?国土が敵に侵されていると言うのに、同盟だの、特使だのと騒ぐ前にする事があるでしょう」
「しかし、姫殿下、我らは不可侵条約を結んでおったのだ、偶然の事故が生んだ誤解から発生した小競り合いですぞ」
「偶然の事故にしては随分と都合よく、アルビオンに味方する傭兵が集められる事ですわね。もとより条約を守るつもりもなかったのでしょう。時を稼ぎ、我々の虚を突くための口実に過ぎません。アルビオンは明確に戦争をする意思を持って、全てを行っていたのです」
「しかし、姫殿下……」
「我らは何のために王族、貴族と名乗っているのですか?このような危機の際に会議を開くためだとでも言うのですか?ですがこうしている間にも民の血は流され、大切なものを奪われていくのですよ。その力無き彼らを守るために我ら貴族の務めではありませぬか?」
誰も、言葉を返せなかった。
「あなた方は怖いのでしょう?大国アルビオンに反撃をくわえても勝ち目は薄い。そして敗戦後、反撃を率いた者として責任を取らされたくないと。ですが、そうしてアルビオンに恭順して生きながらえ、傷ついた民の前に立ち、尚も貴族と名乗るつもりですか?」
「姫殿下」
マザリーニがアンリエッタをたしなめるが、アンリエッタは言葉を続けた。
「よろしい、ならばわたくしが率いましょう。あなた方は好きなだけこの会議室で踊っていればよろしいですわ」
アンリエッタが会議室を飛び出した。
マザリーニや数名の貴族が王女を押しとどめようとした。
「なりませぬ!姫殿下!お輿入れ前の大事なお体ですぞ!」
「結婚一つで今ある危機を救う事ができますか?今この国を救える者がいるのであれば、連れてきなさい、わたくしは幾らだってその方と結婚してみせますわ!」
マザリーニを押しのけ、中庭にでたアンリエッタは叫んだ。
「わたくしの馬車を!近衛!参りなさい!」
聖獣ユニコーンが繋がれた王女の馬車が引かれてきた。
アンリエッタは馬車からユニコーンを一頭外し、自分のドレスの裾を縦に引き裂くと、ひらりとユニコーンの上に跨った。
「これより全軍の指揮をわたくしが執ります!各連隊を集めなさい!」
状況を知った魔法衛士隊の面々が集まり、一斉に敬礼する。
その様子をぼんやりと見つめていたマザリーニは、天を仰いだ。
彼もいずれアルビオンとは戦になる事は薄々感づいてはいた。
しかしまだ軍備が整わない今、小を切っても負ける戦をしたくはなかったのだ。
そのために時間を稼ぐべくマザリーニが傾注した外交努力も今となっては泡となり消えていた。
姫の言うとおり、今は会議室で騒ぐ時ではない。
国のため、民のためにすべき事があるのだ。
次々と幻獣に跨る魔法衛士がアンリエッタのあとを追って駆け出して行く中、一人の貴族がマザリーニに近づいて耳打ちした。
「枢機卿、特使の派遣の件ですが……」
マザリーニは被った球帽をその貴族の顔に叩きつけた。
「おのおの方!馬へ!姫殿下を一人行かせたとあっては、我ら末代までの恥ですぞ!」
その日の夜、トリステイン魔法学院にて。
明日の朝には、式に出席するために出発すると言うのに、
ルイズは未だに詔を完成する事ができないでいた。
自分の詩心の無さを呪うルイズだったが、それ以上にアンリエッタの事を考えると素直に祝福する言葉が思い浮かばなかった。
自室で未だに白紙の『始祖の祈祷書』と睨めっこを続けているルイズを横目に、
ブロントは昼間ギーシュのゴーレムの訓練で余った矢を集めて、一つに束ねているところであった。
未だに<レンジャー>の扱いが慣れないと言う事で、訓練に使うためギーシュは矢を張りきって生成したまでは良いが、百数本程の矢を<錬金>したところで精神力を使い果たし、倒れてしまい、訓練どころではなくなってしまったのだ。
そんな訓練の様子を見ていたモンモランシーは呆れて、「ギーシュとはもう別れたから」と何だかんだ言いながらも、ギーシュを部屋まで運び込み、甲斐甲斐しく世話をしているようだ。
矢を一束に纏め終え、鞄に仕舞った時、部屋の窓がコツコツと叩く音がする。
ルイズとブロントが窓に目をやると、大きな黒鷲が窓を嘴でしきりに突いている。
ブロントが窓を開くと、黒鷲は慌てふためくようにバサバサと翼を振りまきながら部屋に入るなり、「クァ!クァ!」と激しく鳴く。
黒鷲はすかさずブロントに飛びかかり、しきりに足の爪でブロントに突きだす。
「おい、やめろ馬鹿!」
「待って、ブロント。足に何か付いているわよ」
ウェントゥスの使い魔の足に、紙が釣り糸で括り付けてあった。
それにルイズが気づいた事を理解したのか、黒鷲はクイックイッと首で頷き、大人しく床に立ち止まり、紙が巻かれた足を差しだす。
ルイズは釣り糸を机にあったペーパーナイフで切り、くしゃくしゃになった紙を広げ、中身を読み上げた。
「えーっと、『タルブにアルビオン軍襲来。村人は寺院に匿い、これを死守す。恥を偲び、友の助力求む -風より-』って、何ですって!?」
黒鷲は「クァ!」と返答すると、窓枠に飛び上がり、そこから学院の使い魔の宿舎へと滑空する。
「マジでふざけンなよ!」
部屋のドアをバタン!と音を立ててブロントがイージスとデルフリンガーを携えて駆け出す。
「あ、ちょっと!待ってよブロント!」
ルイズも『始祖の祈祷書』を手に取ると、ブロントのあとを追った。
ブロントが寮の塔を降りて外に出ると、先ほどの黒鷲が
タバサの風竜シルフィ―ドの頭に乗って、ブロント達を待っていた。
ウェントゥスの使い魔にすでに言い包められたのか、シルフィードはその場に屈み込み、きゅい、と鳴いて、ブロント達に乗るようにと頭で背中を差す。
「シルフィード、何をしているの?」
タバサだった。
キュルケが突然シルフィードを借りたいとしつこくタバサに頼みこんできたので、タバサは渋々シルフィードを呼んだが、いつまで経ってもやってこないので探しに来たのだ。
主人に気づかれないようにこっそりと抜け出して、ブロント達を送るだけのつもりであったシルフィードは慌てふためく。
タバサはシルフィードの角を掴み、建物の陰まで引っ張って行く。
「どういう事?」
「うー、今タルブの村が大変なのね!ブロントさんが行かないといけないのね!早く行かないと、おいしい丸ごとツナがもう食べられなくなってしまうと鷲さんが言っていたのね!」
シルフィードの頭の上に乗った黒鷲が「クァ!ククァ!」と鳴く。
「きゅい、お姉さまも気にいっていたあのサラダも、皆全部燃えちゃって食べられなくなると言っているのね!」
タバサはしばらく考え込んで、答えた。
「……なら行っていい」
「本当!お姉さまありがとなのね!あらん、お姉さまはついてこないの?」
「眠い」
タバサは寝間着姿で、眠そうに目を擦っている。
寝ていた所をキュルケに突然叩き起こされたのである。
「じゃ行ってくるのね!すぐ戻ってくるね!きゅいきゅい!」
シルフィードはその巨体を揺らしながら、のしのしとブロント達の下へと歩いて行く。
韻竜の頭に乗った黒鷲が優雅に翼を開いて、タバサに向かって一礼をする。
ルイズとブロントを乗せたシルフィードが飛び立ち、西の空へと向かうのを見届けた。
寮の自分の部屋に戻ろうとしたタバサが飛び出てきたキュルケにぶつかる。
「きゃ、あ、タバサ!シルフィード見つかった?」
「貸した」
「ブロントさんとヴァリエールがこんな夜中に二人きりで出かけたのよ!早く追いかけ……って、ええ!?あんた、シルフィードをこのわたしにだって貸出したりした事無かったじゃない!?どうしたのよ」
キュルケはタバサの肩を掴み、ぐいぐいと揺らす。
タバサは首をかくんかくんと揺らしながらぼそっと呟く。
「貸し借り、これでゼロ」
最終更新:2009年11月16日 03:19