悪質長男 第三話

10 悪質長男 第三話 sage 2010/05/05(水) 16:31:29 ID:YPcRBtZw
第三話
夜も更けた頃、それは穏やかな眠りの時間。玲二もただ息するだけの様に眠っている。
そんな時まで玲は起きていた。無表情ゆえ眠たそうな顔であるが、心はしっかり覚めている。否、興奮している。
玲にとって男と言う人種は怜二だけだった。父親は生まれた瞬間にはもういなかったし、学校の男子も姉の名と一緒に騒ぐ様に呼ばれていた。
怜二だけだった。自分を妹のように思い、優しく接してくれた。そして本当に兄になって、存在がより短くなった事でますます彼が欲しくなった。
彼女の中では兄妹の倫理観など、もう知った事では無くなっていた。

「・・・・・兄さん」

まず、そっと唇を合わせた。
ファーストキス。
触れるだけの接吻。
かつて味わった事のない幸福感が、衝撃が彼女の全身に駆け巡る。

その余波まで味わった後で、おもむろに兄の股間へ手を伸ばす。パジャマのゴムをずらしていく。
彼女の目的は夜這いだったのだ。

下着にも手を懸け、頭をゆっくりそこへ近づけると・・・

「むにゃ・・・べん・・と」

いきなり怜二が寝返り、膝が玲の頭を叩いた。
頭を抱えた玲が怜二に振り向くと、彼は丸くなっていて、さっきの続きは出来そうになかった。
仕方ないので背後に回ってしゃがみ込む。目の前には尻。おもむろに手を伸ばすと、意外と引き締まった感触がした。
そこへ、顔を埋めた。


ぷっ

っと音がした瞬間に玲は顔を離して鼻を摘んだ。
このタイミングが悪い時にこの男は屁をこいたのだ。
「・・・・・・・」
さすがに屁の匂いはショックだった玲は諦めて敗退する事にした。



11 悪質長男 第三話 sage 2010/05/05(水) 16:31:56 ID:YPcRBtZw



翌朝、怜二が自室からリビングへ行くと、良い匂いが鼻に掠めた。
かつて料理は専ら怜二のする事だった為に一瞬訝しげな表情をするが、キッチンにいたのは玲だった事から女家族が増えた事を思い出す。そんな事を忘れてた怜二は相当寝ぼけていようだ。
キッチンから顔を出した玲と目が合う。
「おっは玲。・・・ん?ちょっと目元隈っぽいぞ?」
「・・・・・・・」
まさか夜這いしてキスしてその興奮で一夜眠れなかったとは告白できるわけがなかった。

足音がして振り返ると麗華がやってきた。寝惚け眼が玲を見、キツイ目が怜二を睨む。
「おは」
「・・ふん」
そっぽを向く仕草さえ麗しく、だがシスコンの怜二は心泣くばかり。
ふと玲に振り向くと、彼女は大口を開けて欠伸をかいていた。
「ありゃありゃ玲。そんなに眠そうならもっと眠ればいいものを。寝不足は乙女の天敵だぞ?」
「・・・・・・・せっかく弁当を用意したのに」
「はえ?」
言われてようやく気付いた、学生三人分の弁当箱。色取り取りの野菜料理、男には嬉しい肉料理、白い御飯の上には・・・・・。



12 悪質長男 第三話 sage 2010/05/05(水) 16:35:54 ID:YPcRBtZw



      • これは女家族が引っ越す直前の話。
母から怜二にまず伝えられた言葉は、謝罪だった。
「ごめんな、怜二」
「うん?」
その後に伝えられたのは、離婚した経緯だった。
曰く、最初は娘にも恵まれた普通の家庭だったらしい。
だが怜二が生まれた頃に父の会社は倒産、仕事にも再起しようともせず、生活は日々苦しくなっていく。
そしてまた一人赤ん坊を身籠った時に、縁を切る事を決心した。
麗華を連れて。玲二を見捨てて。
「二人を育てるのに、あたしが働いても限界を超えてるくらいだった。
それでも、おまえを捨てた事には変わりない。
          • 本当に、悪かった」
対して怜二の顔はあまり興味がなさそうなものだった。
「僕はもう17だぞ?まだ乳離れしない赤ん坊じゃないんだから、今更喚いたりしないさ」
「へぇ・・・優しいな?」
「僕は完璧で不死身でシスコンで、紳士なのさ」
「そうかい。・・・そうだ、おまえと出会ったからだったな。
なんとなく旦那に似てるなと思ったら、本当に息子で・・・。健やかに育ったおまえを見て、あいつを見直した。
きちんと仕事して、子供を無事に育てて・・・・。だから思ったんだよね・・・もう一度、やり直せるって・・・・・・うぅ・・・」

その後に出てきたのは涙だった。
目の前の息子の前で。かつて経済的余裕が無い理由で見捨てざるを得なかった赤ん坊が、無事に生きていたから。

母は泣いていた・・・・・・・。



13 悪質長男 第三話 sage 2010/05/05(水) 16:36:32 ID:YPcRBtZw




「・・・君。・・・・おーい・・・・怜二―?」
体が揺さぶられる感覚で玲二は目を開けた。
起こしてくれた女子を見、周りを見て今が昼休みだと気づく。
「・・・眠ってたわけか」
「なんか夢みてたの?」
「うむ。僕が連続で大吉のおみくじを引く夢だった」
「へーえ。良い事ありそうね」
「そしてよく見たら全部犬吉だった」
「犬!?」
しょーもない漢字ミスの夢だそうだ。
その時前触れもなく教室が騒ぎ出した。出入り口に振り返ると、なんと玲がそこにいた。
怜二が問いかける前に玲が口を開く。
「兄さん・・・一緒に食べよ?」
騒然の次は惨然。哀れ自分の所に来ると願った男子一同は膝から崩れ落ちた。対照的に怜二の行動は早く、普段から共に食う女子グループの所に、玲の分の椅子を追加して手招いた。
「・・・・こんにちは」
挨拶だけで黄色い声が返ってくる。
それでも逃げも隠れもしない玲は黙々と怜二の隣に座り、弁当箱を開ける。
梅干しが顔を出す日の丸弁当に、前に記述した通りのおかず。
「これ玲ちゃんが作ったの?」
「初めて見たぁ。上手だね」
それを聞いた男子が興味を持って振り向いた時、
「ふふん。おかげで弁当が豪華になったよ」
怜二の飯も玲のお手製であると悟り、むさ苦しい集団が怜二に押し掛けた。
「その弁当を寄越せぇ~~~!」
「玲たんのお手製!玲たんのお手製!」
「させん!シスコンたる者、妹の飯は麦の一粒も奪われてたまるか!」

集団の鬼気にも一切臆せず怜二が弁当を開ける。料理漫画でよくある光が教室を包み込み、向い校舎にいる校長が「UFOか!?」と叫んだ。



14 悪質長男 第三話 sage 2010/05/05(水) 16:37:08 ID:YPcRBtZw


光が収まると弁当を覗いた集団は凍りついた。
おかずは隣のものと一緒だ。しかし問題は米の方。
桜澱粉で描かれた、ハートマークだった。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

鎮まる教室の中。動く影は、何事も無かった様に食す玲と、より響いて聞こえる怜二の笑い声だった。
「あっはっは!開いた口が塞がらないとはこの事だねぇ!昼飯だからって口開けてても飯はやらんぞ?」
我に返った様に男達が質問攻めに掛かる。
「れ、怜二!これは一体・・・?」
「玲たん、嘘だよね!?」
「おいおまえ、玲たん玲たんキメェぞ」
「こ、こ、こ、これ、ほ、本当に玲様が?」
しかし返ってくるのは怜二の意地悪な笑み。

「あはは、これは今朝僕が玲に頼んだものなんだ」

「「「何頼んどんじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」」


取り敢えず玲自身が作ったものでないとわかると、集まっていた女子も冷静さを取り戻した。
「シスコンもここまで来ると変態の領域よ?」
「何を言う。夢があるだろう?・・・まあ、我儘言って急遽作ってもらったから、さすがに悪いと思ったさ。だから今日だけにしてもらった」

そういえば今朝、そのように玲に伝えたら食い下がってきたのを思い出した。
怜二が澱粉が好物だと思ったのだろう。が、手間掛けさせたくないのでそのまま説き伏せたら、寂しそうな顔をされた。
あれは気のせいか?
ちらっと隣の玲を横目で見る。無表情。
やっぱり気のせいか。





15 悪質長男 第三話 sage 2010/05/05(水) 16:37:35 ID:YPcRBtZw
三年教室。
「・・・なんか光らなかったかしら?」
麗華が窓の外を見て呟く。女子の友人が受け答えた。
「あたし見えたよ。二年生の教室が光ったような?あそこは・・・あ、怜二君の所じゃない?」
(・・・・怜二の仕業ね)
「それよりまだ喧嘩してるの?あたしはてっきり姉弟仲良く登校すると思ってたのに」
「・・・・皆して怜二怜二・・・。はっきり言いますが、喧嘩しているわけではありません」
「でも怜二君に冷たいよ?」
「家庭の事情と言う事で、首を突っ込まないでください」
「ちぇー」

麗華は窓から怜二がいる教室を眺めた。

少し前までは、異性だと思っていた少年。
麗華は下唇を噛んだ。


(怜二・・・・・・。どうして貴方は、私の弟なの・・・?)



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最終更新:2010年05月09日 22:40
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