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悪質長男 第四話 sage 2010/05/10(月) 09:50:48 ID:5Dn2FXHe
第四話
怜二。それが私の愛した少年の名前。
自称は完璧で不死身で紳士らしい。
でも私は貴方の事、意地悪でタチが悪い、生意気な後輩だと思います。
「横暴」だなんて言って私を怒らせるけど、本音で貴方と言い合えるのは嫌いじゃない。
好きです。
怜二、貴方が好き。
でもね・・・・・
86 悪質長男 第四話 sage 2010/05/10(月) 09:51:36 ID:5Dn2FXHe
私は男が嫌いでした。
小さい頃は皆が意地悪してくる。だから殴ってお返ししました。
成長すると今度はイヤラシイ目で見てきます。ですから私は露出の高い服を着れなくなりました。
妹も私と似たような境遇だったようです。
そうして出来上がった、「姉妹姫」と呼ばれる私達。
どうしてか皆告白をしてきます。変な「ファンクラブ」というものを知った時はとにかく不気味でした。しつこい人は、すっかり逞しくなった玲が追い払ってくれたこともありました。やっぱり私は男が嫌いでした。
もうそんなものに慣れた頃、私の世代が高二に進学した時でした。
周りでは「怜二」という一年生が噂で持ち切りとなっていました。聞いて拾った内容によると、何でも同世代の女子と仲良くなるのも飽き足らず、二年生、三年生の女子と仲良くなっているそうです。
予感はしていました。彼は私の前にも現れました。その時はこの人も今までのナンパと同じ、とでしか思いませんでした。
しかし、その時の怜二は終始、不敵、というより挑発的な笑顔だったのが印象でした。
それと一緒に、ナンパを諦めて去る際に残した言葉も、今も覚えています。
「肩の力を抜きましょうよ。ずっと猫被りのままっすか?」
猫被り、と彼は言いました。
人の本心を見透かす、不思議で不気味な人。
私の中で彼に関する観念が変わりました。
87 悪質長男 第四話 sage 2010/05/10(月) 09:52:17 ID:5Dn2FXHe
その後も怜二はめげずに関わろうとしてきます。どれだけあしらっても、あの不敵な笑みを嘘に思わせるあどけない笑顔で。
そんなある時、ある公園で怜二と二人きりで話し込んでいました。どうしてそんな状況になったのか、何を話したのかはもう覚えていません。後輩の怜二が挑発して、先輩の私が怒っていて。
しかも怜二は、何故か木の枝に脚を掛けてぶら下っていた。
とうとう私が手を上げました。久し振りに人を殴りますが、効果は高かったようで、怜二は木の枝から落ちました。
それはもう、グチャっと。情けないポーズと苦笑いで恨めしげに言い返されました。
「・・・・横暴」
そう言われ私の中で、何かが吹っ切れました。歯を見せて、笑いました。年甲斐もなく、童心に帰った様に。
それから怜二は良い友人となりました。
後ろ向きかもしれませんけど、私が心を許す最初で最後の男性でしょう。
そう思うと後から気付いた恋心を、自然と受け入れられるようになりました。でも怜二は女好きなので、しっかりと捕まえておかなければ嫉妬心が溢れてしまいます。
ずっと、
ずっと一緒にいられると願って
もしかしたら、夫婦として仲良くいられる事を信じて
88 悪質長男 第四話 sage 2010/05/10(月) 09:53:01 ID:5Dn2FXHe
寝る前の勉強の合間に喉を潤そうと、麗華はキッチンへ向かい、水を飲み干す。
部屋に戻ろうと回れ右。視界に怜二が入った。
「!?」
「?」
怯んだのは麗華だけだった。
驚いたと思ったのも束の間、怜二は風呂上がりの半裸状態である事に気づくと、麗華の顔は真っ赤になった。
「あっ、貴方ねぇ!何裸でうろついているのですか!?」
「怒られた・・・しくしく。・・・まぁ、何を今更な気も。皆で海に遊んだ時も僕は半日上半身裸だったでしょうに」
「水着とバスタオルとでは違います!」
しかも結んでもいないし、ギリギリの位置までずり落ちているし。
「ああ。クラスで、ビキニとバスタオルの格好ではどちらがエロイかの議論があったねぇ」
「私はそんな話をしたわけではありません!!!」
怒られてしゅんとなる怜二。
89 悪質長男 第四話 sage 2010/05/10(月) 09:53:37 ID:5Dn2FXHe
が、すぐに立ち直った。
「ま、何にしても半裸程度で怒らないでよ。男の裸なんてつまらないだろう?」
恋した相手の裸には興味があるとは言えない麗華だった。
「それは前までほとんど一人暮らしだったから許された格好です。今は女性もいるのですから慎みなさい」
「そう言う君は免疫が無さ過ぎるんじゃない?あ、でも初(ウブ)でよかったかも。そう言う人ってからかうと真っ赤になるから可愛いんだよね」
やっぱりこいつはタチが悪い。
悪戯っ子の顔で、バスタオルをスカートの様にチラチラ摘み上げているのは、さすがに鬱陶しかった。麗華は他の家族の迷惑にならない程度に怒鳴り付ける。
「いいですか!貴方が弟だなんて認めていません!私達はちょっと前までは赤の他人だったのですから。私から見れば、見ず知らずの男が家族の一員になるのと同じ事なんです」
そんなのは表向き。本当は、恋した相手が実弟だなんて認めたくなかっただけ。
「学園のアイドルがそんな狭量でどうするのさ。玲はすぐ受け入れてくれたし、僕は君達家族を歓迎したよ。母ちゃんは良い人そうだし、玲は可愛いし、君は美人だ」
この人は人の気持ちも知らないで。
「貴方はそれでもいいんでしょうけど、女の子はそうはいきません」
「あちゃー。そう言われると弱いねぇ。難しい年頃、複雑な乙女心だもんね」
怜二は両手を挙げて、降参のポーズ。だがすぐ下ろすと忠告する様に人差し指を突き付け、諭す様な声で続けた。
「だけど君には嫌でも慣れてもらうよ。たかが弟相手にいつまでもそんな剣呑じゃあ、迷惑なだけだ」
うるさい。何も知らないくせに。
「僕は完璧で不死身で紳士で、シスコンだ。でも姉や妹に手を出す兄弟はいないよ。それは安心していい」
手を出して欲しかったなんて言えない。
「あは。君と仲良くなりたかったのも本能なのかもね、僕がシスコンだから。玲にだって、こういう妹欲しいなーってよく思ってたくらいだ」
なんでそうヘラヘラと。・・・・・本当に貴方は私を姉としか見てくれないの?
90 悪質長男 第四話 sage 2010/05/10(月) 09:54:13 ID:5Dn2FXHe
「ま、偉そうに言ったけど後は君次第だよ。がんばってね、大好きな『姉ちゃん』」
でもそれはシスコンだから言っているだけで。
聞きたくなかった。
怜二が私を「姉」としか思ってくれないと言う事他にならない。
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌。
それが悔しくて、私は叫ぶ。
ずっと育ててきた、片思いの気持ちを。
「怜二、私は貴方の事・・・・!」
「ぶえくしょ―――――――――――――――――――――――――いっ!!!!!!!」
怜二が風邪を引いた。
そういえばずっと風呂上がりのままだった。それも当然か。
そして、一世一代の想いで告白した言葉は、完全に行き場を無くしてしまった。
「ああ、さむっ」
「・・・・・・・・馬鹿」
「ん?」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿アホマヌケ!大っ嫌い大っ嫌い大っ嫌い大っ嫌い大っ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――嫌い!!!!!!!!!!!!!!」
涙を湛えて家出する麗華。
打ちひしがれた怜二に追い掛ける気力も無く、その場に倒れて滝の様に泣いた。
キッチンに出来た池の中で、最後に間抜けたくしゃみをした。
「へ――――――――――――っくしょん!!」
最終更新:2010年05月10日 22:27