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三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22:49:12 ID:g/mo7HSP
三つの鎖 22
古い本のすえた匂い。
本を片手に本棚の間を僕は歩く。
探しているのは法律や裁判の判例を記した本。
集めた本を手に閲覧コーナーで本を開く。ページをめくり文字を追う。
市民図書館の閲覧コーナーはそれなりの人がいる。
小さな男の子と女の子が寄り添って絵本を読んでいる。
楽しそうに寄り添う二人の子供。兄妹だろうか。
僕は頭をふりかぶり文字に集中した。
自首しようと言う僕の言葉を梓は鼻で笑うだけだった。
梓が殺したという証拠は今のところ無い。
証拠が無いのに警察に話しても相手にされない。梓は小柄な少女だ。大の男たちを殺傷したなど、何も知らない警察が納得するはずがない。
犯行現場を調べたけど、得たものは何もなかった。仮にあったとしても、警察がつかんでいるはず。発表が無いという事は、何も見つかっていないのだろう。今なお犯人が逮捕されていない事実がそれを物語っている。
打つ手は一つしかない。
だけど、それを試みる前に他に方法が無いかと思い、法律や判例集を調べる事にした。もしかしたら、証拠が無くても証言だけで逮捕につながる可能性があるかもしれない。
しかし、本で調べる限り、証言だけで逮捕に至ったのはほとんどない。逮捕につながるには、やはり証拠が重要だ。仮に本人の自白があっても、証拠がないといけない。
証拠といっても形のあるものでなくてもいい。犯人しか知らない事実を言えば、それが証拠になる。
閉館時間まで本を読み漁ったけど、それ以上の情報は無かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
紙袋を片手に夜の道を歩く。手にした紙袋にはケーキが入っている。
このケーキは、雄太さんが殺された日に梓が購入したお店のもの。
お店の人に話を聞いたけど、梓が来たかどうかは覚えていないとのことだった。一日に大勢の人が来るから仕方がない。
それでもレシートはある。梓があの日あのお店に行ったのは間違いない。
雄太さんは駅から夏美ちゃんのマンションに向かった。
人気の無い道。僕は同じ道を歩く。
僕は足を止めた。献花されている道。
ここで雄太さんと警察官は襲われた。
僕は再び歩き始めた。目的地は夏美ちゃんの家。
マンションの階段をゆっくりと登る。足が重い。
インターホンを押す。
『どちら様ですか?』
夏美ちゃんの声。
「夜分遅くに失礼します。加原です」
『お兄さんですか!?すぐ出ます!』
ぱたぱたという音が大きくなり、ドアが開く。
「お兄さん!こんばんわ!」
夏美ちゃんが嬉しそうに僕を見た。
「突然どうしたのですか?びっくりしましたよ」
「今日は一度も会っていないから夏美ちゃんの顔を見たくなって」
本当は心配だからだ。こうして見る限りは大丈夫そうだ。
「つまらないものだけど、どうぞ」
「ありがとうございます。あ!駅前のケーキ屋ですね。梓の好きなお店ですよ」
受け取った袋を見て夏美ちゃんは嬉しそうに笑った。
その様子に胸が痛む。
「おやおや。幸一君いらっしゃい」
「お母さん!お兄さんがケーキをくれたよ」
洋子さんは微かに笑って僕を見た。
「ありがとう。よかったら上がっていかないかい?」
「いえ、近くを寄っただけですから」
「まあまあそう言わずに。話したい事もある」
僕は洋子さんに押し切られて夏美ちゃんの家に入った。
夏美ちゃんがお茶を入れてくれた。冷たい紅茶。
洋子さんは軽く咳払いをして僕を見た。
「実は仕事を辞める事にした」
夏美ちゃんはびっくりしたように洋子さんを見た。
「そうなの?」
47 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22:50:07 ID:g/mo7HSP
「ああ。夏美の傍にいたいと思ってね」
洋子さんは微笑んだ。
「ああ、お金の事は心配しなくていい。蓄えは十分にある。それに今の私達は億万長者だからな」
僕は首をかしげた。
「実はですね、色んな人がたくさんお金をくれたんです」
「もらって困るような高価な贈り物までだ」
何でも雄太さんの知り合いの方が贈った現金や贈り物に加え、色々な国や部族(?)からの勲章や贈り物もあるらしい。勲章には年金や一時金があるものもある。贈り物で貰って困る物は会社が借り上げると言う形で保管してくれることになった。もちろんその分のお金も入る。
「私と夏美それぞれにたくさんのお金が入ってね。はっきり言って一生働かなくてもいいぐらいのお金だ」
洋子さんは事もなげに言うけど、それってすごい事じゃないのかな。
雄太さんってそんなにすごい人だったんだ。
「話がそれたな。とりあえず私は今の仕事はやめる事にした。夏美の傍にいられないからな。ただ、引き継ぎ等で3週間はアメリカに行くことになる」
洋子さんは立ち上がって僕を見た。
「私が帰るまで夏美の事をお願いしたい」
「はい。僕でよければ」
僕は迷わず答えた。
「あの、お母さん。いいの?お仕事はお母さんのやりたい事でしょ?」
「いいんだ」
夏美ちゃんの問いに洋子さんはかぶりを振った。
「今は夏美の傍にいたい。ちょうど仕事も飽きた事だしな。日本でのんびりするのも悪くないよ」
洋子さんは夏美ちゃんの頭をポンポンと撫でた。
夏美ちゃんの目尻に光るものがたまる。
「ほらほら。彼氏の前で泣いちゃだめだぞ?簡単に涙を見せる女は男に嫌われるぞ?」
洋子さんは笑いながら夏美ちゃんの頭を撫でた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕と夏美ちゃんはマンションの階段をゆっくりと降りる。
下まで送っていけとの洋子さんの一言で、下まで夏美ちゃんが見送ってくれることになった。
洋子さんの心づかいが嬉しい。
お互いの手が触れそうな距離で階段を下りる。
夏美ちゃんの横顔。微かに染まった頬が目に入る。
階段が終わり、くすぐったい時間はすぐに終わる。
「見送ってくれてありがとう」
夏美ちゃんは僕を見上げた。幼い子供のように頼りない光が瞳に浮かぶ。
その様子に胸が痛む。夏美ちゃんはしっかりしとした芯の強い子だ。それなのにこんなに心細い気持にさせたのは、僕の妹が原因。
「また明日。おやすみ」
何とか挨拶の言葉を口にして僕は背を向けた。
歩き出した瞬間、袖に何かが引っ掛かる。
振り向くと夏美ちゃんは僕の袖を掴んでいた。
悲しそうで心細そうな夏美ちゃんの表情。目尻に光るものが溜まる。
胸が痛む。
「お兄さん」
震える夏美ちゃんの声。
「お願いです。行かないでください」
夏美ちゃんの頬を涙が伝う。
「怖いです。お兄さんが私の手の届かない場所に行きそうな気がします」
僕の袖を掴む白くて小さな手。それが微かに震える。
夏美ちゃんは僕に抱きついた。背中に細い腕が回される。
「ひっく、お願いです、ぐすっ、行かないでください」
夏美ちゃんは顔を上げた。涙にぬれた頬。
「ぐすっ、お父さんみたいに、ひぐっ、いなくならないでください」
夏美ちゃんの言葉が胸を射抜く。
僕は必死に平静を装った。
夏美ちゃんの小さな背中に腕をまわし抱きしめた。
「大丈夫。僕はいなくならない。夏美ちゃんを一人にはしない」
「お父さんもそう言ってました」
震える声が僕の心を貫く。
「それなのに、死んじゃいました」
背中に回された夏美ちゃんの腕に力がこもる。
ささやかな力なのに、僕を締め付ける。
48 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22:50:55 ID:g/mo7HSP
僕と夏美ちゃんはお互いを抱き締めた。
「…変な事言ってごめんなさい」
やがて夏美ちゃんは腕を離した。
「おやすみなさい」
夏美ちゃんはにっこり笑って背を向けて階段を走って上った。明らかに無理をしている笑顔が目に焼きつく。
僕は何も言えなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夏美ちゃんが泣いている。涙を流しながら悲しそうに。
泣かないでほしい。それなのに僕は何も言えない。
夏美ちゃんが悲しんでいる原因を知っているから。
僕の妹が、夏美ちゃんのお父さんを殺したから。
夏美ちゃんは顔を上げた。涙にぬれた瞳が僕を射抜く。
「どうして梓はお父さんを殺したのですか」
震える声が僕を責める。震える理由は怒りか悲しみか。
「ひどいです。お父さんは何もしていないのに。どうしてですか」
その理由を僕は知っている。
夏美ちゃんの恋人が僕だからだ。
「お父さんは何の関係もないです!!それなのになんでお父さんを殺したのですか!!ひどいです!!」
夏美ちゃんの悲痛な叫びが木霊する。
「どうして!?どうしてですか!?何でお父さんは梓に殺されないといけないのですか!?」
夏美ちゃんの問いかけに、僕は何も言えない。
「兄さん」
僕は跳ね起きた。
「大丈夫?」
心配そうな梓の声が脳裏に響く。
頭が痛い。
寒い。全身に冷や汗をかいている。呼吸がおぼつかない。心臓がでたらめな鼓動を刻んでいるのが分かる。
「兄さん。大きく息を吸って」
言われるままに僕は深呼吸をした。霞みがかった思考が鮮明になる。そして自分の状況が頭に入ってくる。
夢だ。雄太さんを殺したのが梓なのを、夏美ちゃんは知らない。
「兄さん。これを飲んで」
梓はペットボトルのお茶を差し出した。僕は微かに震える手で受け取り、口にした。喉はカラカラに乾いている。
「大丈夫?随分うなされていたけど」
僕は時計を見た。もうすでに父さんも母さんも家を出ている時間だ。
学校に行くなら、あまり余裕のある時間ではない。
何で起きられなかったのだろう。いつもなら目覚ましが無くても起きられるのに。
僕は顔を上げて梓の顔を見た。おろしたままの長くて艶のある黒い髪が目に入る。
梓の小さくて白い手が僕の額に触れる。柔らかくてひんやりとした感触。
「兄さん。熱があるわ」
思わず梓の手を払った。
梓は驚いたように払われた手を見た。
「…僕は大丈夫。すぐに下りる」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
「…分かったわ」
梓はそう言って部屋を出て行った。梓の目尻に涙が溜まっているのを分かっていたけど、僕は何も言わなかった。言えなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
通学路を僕と梓はゆっくりと歩いた。
お互いに何もしゃべらない。食卓で梓は一生懸命に話しかけてくれたけど、僕はそれに答えられなかった。
鞄が重く感じる。中にはお弁当が入っている。梓の作ってくれたお弁当。
「あの、兄さん」
梓はおどおどと僕に声をかけた。
「体調は大丈夫?」
「大丈夫」
「そう」
ここで会話は終わる。
49 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22:52:10 ID:g/mo7HSP
僕は梓を見た。視線が合う。梓はぎこちない笑みを浮かべた。
結局、僕達はそれ以上会話せずに靴箱で別れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
耕平は僕を見て眉をひそめた。
「大丈夫かいな。えらい顔色悪いで」
僕は苦笑した。教室に入ったとたんにこれだ。
「幸一くん」
僕を呼ぶ声。振り返ると、白い手が伸びて僕の額に触れる。
滑らかでひんやりとした感触。梓のそれと同じなのに、反射的に振り払う事は無かった。
「熱があるよ」
春子は心配そうに僕を見た。そういう春子の頬は微かに腫れている。梓の仕業。
背筋が寒くなる。全身に鳥肌が立つ。
もしかしたら、梓は春子や夏美ちゃんまで。
「幸一くん?」
春子の声が遠く感じる。
「おい!幸一!しっかりせえ!」
耕平の声が上からかぶせられる。
違う。気がつけば僕は膝をついていた。
「幸一くん。立てる?」
白い手が僕に差し出される。
無意識のうちに僕はその手を掴んでいた。春子の柔らかい手の感触にホッとしてしまう。
春子に引き上げられて僕は立ち上がった。ふらつく体を春子が支えてくれた。
「耕平君。私、幸一くんを家まで送ってくる。もし遅れたら先生に伝えといて」
「分かった。幸一を頼むで」
勝手に僕の欠席を決める二人。
「待って。僕は」
僕の言葉は春子のデコピンに遮られた。
「お姉ちゃんの言う事を素直に聞いて」
そう言って春子は僕の手を掴んで歩きだした。
足元がおぼつかない。ふらつく上半身を春子は支えてくれた。
触れる春子の体がひんやり感じる。
「こんなに熱があるのに学校に来ちゃだめだよ」
春子に礼を言いたかったけど、意識が朦朧として何も言えなかった。
少し寝苦しく感じて目が覚めた。
見慣れた天井が見える。自分の部屋の天井。
寝起きの意識が徐々にはっきりとしてくる。
春子に送ってもらって、着替えて寝たんだった。
今の時間はどれぐらいだろう。起き上がろうとして初めて布団の上に覆いかぶさる存在に気がついた。
春子だ。僕のお腹の上に頭を預けて寝ている。
静かな寝息が聞こえてくる。だらしなく涎を垂らしながら幸せそうに眠っている。
寝苦しい原因はこれか。
起こさないようにベッドから出ようとして失敗した。
春子の頭ががくんと布団に埋もれる。
「びにゃ!?」
変な悲鳴を上げる春子。もぞもぞ動き、寝やすい位置を見つけたのか再び静かな寝息が聞こえてくる。
呆れながらも僕はベッドから出た。全身がだるい。ひどい頭痛。
時計を確認すると、3時間ほど眠っていた。春子は授業に行かなくていいのかな。
「ん?んんー?」
むくりと春子は起きた。眠たそうなとろんとした瞳で僕を見る。
「こーいちくん。横になってないとだめだよ」
春子は僕の手を掴んだ。春子の柔らかくて温かい掌の感触に安心してしまう。
僕はベッドに戻された。
春子の掌が僕の額に触れる。滑らかで柔らかい感触。
「んー。全然下がってないね」
そう言って春子はスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。
「熱が出た時には水分を補給しないとだめだよ」
僕は礼を言って受け取った。蓋をあけて口にする。体に水分がしみわたる感触が心地よい。
50 三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2010/06/18(金) 22:53:25 ID:g/mo7HSP
昔の事が脳裏に浮かぶ。風邪をひいた時、京子さんも村田のおばさんも看病してくれたけど、二人とも忙しい人だから手が回らない時も多かった。そんな時にそばにいてくれたのは春子と梓だった。
体調が悪くて心細い時に春子はそばにいてくれた。いつもスポーツドリンクを僕に差し出してきた。
「飲んだら横になってね」
言われるままに僕は横になった。掌に柔らかい感触。春子の白い手が僕の手を握っていた。昔からそうだ。春子は僕が眠れるまで手を握ってくれた。
周りの大人たちが忙しくて寂しく感じていた状況で、春子の存在がどれだけ温かく心強く感じたか、きっと誰も知らない。
「すぐに治るから安心して」
あやすような春子に声に僕の意識は眠りに落ちた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
えー。初登場じゃないけど、一応自己紹介しとく。
私は堀田美奈子。梓と夏美のクラスメイト。
え?知らない?
いやいやいや!私ちゃんと登場してるよ!?ほら、ちゃんと読んでよ!
…でしょ!?全く、しっかりしてよね。
授業が終わった。はぁ。お昼休みまで長いよ。
教室を見渡すと夏美がぼんやりと頬づえついている。
うーむ。ちょっと声をかけにくい。この前、夏美のお父さんが殺されて以来、クラスのみんなは夏美と距離を置いている。
別にいじめとかじゃない。ただ、どう接したらいいか分からない。
ま、私はあんまり気にしないから普通に声をかけちゃうけど。
「なつみー。授業終わったよ」
私をガン無視する夏美。って、聞いてないっぽい。
「夏美?」
私は夏美を揺らした。綺麗な髪が微かに揺れる。ちょっと伸びた気がする。前はショートだったのに、今は肩にかかりそうな長さ。
うーん。私はちょっと長めのショートだけど、夏美の髪の毛はなんていうか綺麗だ。ちょっとうらやましい。
夏美は今気がついたように私を見た。
「あれ?どうしたの?」
なんだか夏美の様子がおかしいかも。目の焦点が合ってない感じ。まだ寝ぼけているの?
「もう授業終わってるよ」
私の言葉に夏美は飛び上がるように立ち上がった。うおっ。びっくりした。
「美奈子ごめん!お兄さんに会ってくる!」
夏美は教室を走って出て行った。どうなってるのよ。
ていうか次の授業は理科室なのに。はやく戻って来ないと遅刻しちゃうよ。
クラスの女の子が数人集まって話している声が聞こえてくる。
「お兄さんの兄さんって馬鹿じゃないの」
「そうよねー。彼氏の事をお兄さんって呼ぶって、何を考えているのかしら」
夏美の言うお兄さん。梓のお兄ちゃん。
私はため息をついた。夏美と梓のお兄ちゃんが付き合い始めてから、夏美の陰口を言う子が増えた。
ただの嫉妬丸出しの陰口。梓のお兄ちゃんは背が高くて文武両道、料理もできるし、見た目も悪くはない。モテる要素はある。今までモテなかったのは、シスコンだと思われていたから。
でも、実は梓がブラコンだっただけと分かってから人気が急上昇した。けどその時にはすでに夏美が彼女になっていた。
全く。陰口なら聞こえないように言えばいいのに。聞いても気持ちのいいものじゃない。それなのに彼女達は聞こえるような声で陰口をたたく。
「お父さんが死んだからって悲劇のヒロインを気取ってるみたいでキモイよね」
私が言うのもなんだけど、女の子の嫉妬ってホントに怖い。夏美の今の状況すら陰口の要素になるのだから。
夏美はいい子だから陰口の類に過敏に反応したりしない。それが余計にクラスの子をイラつかせているのもある。
私はため息をついて梓を探した。梓は夏美と一番の友達だ。正直、明るくて社交的な夏美と無口でいつも不機嫌そうな梓とどこが気が合うのか分からないけど。
梓はすぐに見つかった。小柄で細く、綺麗な黒い髪を背中に垂らしている。いつもはポニーテールにしているのに、最近はそのままおろしていることが多い。でも、今の髪形も似合っている。
お人形さんみたいな綺麗な髪と白い肌。女の私から見てもため息をつきたくなるような儚い美しさを持っている。
私は梓に声をかけられなかった。
梓はいつも通りの無表情だった。
でも、瞳には背筋の寒くなるような感情を湛えていた。
梓が悪口を言っている子と同じ感情。
でも、その感情の強さは比べ物にならないほど強く感じた。
最終更新:2010年06月30日 19:07