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悪質長男 第九話 sage 2010/07/01(木) 23:19:34 ID:hz09D2m7
第九話
(ふむ。今日は玲と二人きりか)
今回の話もとある休日のお話。
妹以外の家族が出払っている今、暇を持て余していた。
怜二はナンパに出かけようかと考えて、ふとソファーで読書する玲に視線が止まる。
ちょっと歩み寄って表紙を覗くと、
「ふむぅ何々?『幼馴染特集。妹キャラ万歳』」
物理学の本が顔面に叩きつけられた。
顔からずり落ちる本を、怜二は器用に捕まえるとそこら辺に置いておいた。
興が削がれたのか、玲は取り戻そうともしない。
「テストもまだ先だと言うのに、真面目なこった」
「・・・兄さんがノンビリなだけ。・・・勉強するべき」
普段からキリっと鋭い眼光の玲。
対して怜二は暖簾に腕押しのごとく、ヘラヘラとした笑顔。
「あはは。カッコつけようとする女子程可愛い者は無いよ。と、言う訳でスキンシップさせろー」
何がと言う訳なのか。
玲は別に何も言わず、黙って怜二にされるがままだ。
とは言っても、ソファーに座った怜二が玲を自分の膝に座らせ、頭を撫でる程度だ。
怜二は満足すると玲を退かそうとするが、玲は動かなかった。
「ん?なんだい、君も甘えたいのかい?」
「・・・ん」
肯定なのだろう。怜二は力を抜いてそのまま座らせる事にした。
それにしても・・・・顔が近い。
225 悪質長男 第九話 sage 2010/07/01(木) 23:20:29 ID:hz09D2m7
背中から抱き付く姿勢の怜二に、玲は体を捻って段々と顔を上げていった。
鼻先が触れ合いそうになった瞬間に怜二は静止を呼び掛ける。
「おっと玲。トイレ行かせて?」
「駄目」
即答。
怜二は何気なく予感はしていた。今の妹の目が、以前姉がいきなり部屋に乱入した時の目と、同じだったからだ。
「兄さん・・・」
彼女の手が彼の頬に触れ、唇が近づく。
瞬間、世界がひっくり返った。
具体的には兄が妹をソファーに押し込んで逃げたのだ。怜二は階段を駆け上がって自分の部屋に突入すると立て籠もった。
扉が閉まる音がしてようやく玲が動いた。あくまでのんびり冷静だ。
歩いて部屋の前に来ると戸を叩いた。
「はいはい?」
怜二の声が返ってきて玲はドアノブに手を掛けた。
鍵が掛かってた。
「兄さん・・・・開けて?」
「待ちたまえ玲君。今この扉を開けてはならぬ」
本気で籠城するつもりらしい。
だが玲は、すでに兄を手にしようと野心に燃えている。彼女にここで引き返す選択肢は無かった。
もう一度ノックする。
「兄さんは・・・トイレ行きたがっていた。なら・・・どうして部屋にいるの?」
「僕の部屋にオマルがあるからさ。だから開けちゃいけないのさ」
変な嘘だ。
玲はさらにノックする。
「兄さん・・・さっきの続きを・・しよう?」
「続き?何の?」
「わかっているくせに・・・」
今度は返答が無かった。
扉をノック、否、強く叩いた。
ドンッ
「兄さん・・・逃げないで?」
「・・・・・」
ドンッ ドンッ
「開けて・・・開けて・・・」
ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ
「兄さん・・寂しい・・・抱きしめて・・・?」
ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ
「兄さん・・」
「何をしているのです?」
我に返り、振り返る。
姉が怪訝そうな顔で姉が妹を見つめていた。
226 悪質長男 第九話 sage 2010/07/01(木) 23:21:15 ID:hz09D2m7
「・・・
姉さんには関係無い」
「い、いえ、関係無いと言われましても。怜二はリビングでプリンを食べてまして、無人の部屋に何をしているんだか・・・」
玲の抵抗する気力が失せた。主に脱力の意味で。
場所が変わって麗華の部屋。
もはや何言われても言い返せそうにない玲は黙って姉の言葉を待った。
麗華は部屋着に着替える間だけ黙したが、やがて妹と向き合ってようやく口を開いた。
「玲、貴方は、怜二の事どう思っているのですか?」
「・・・愛してる」
それはいつもの口調だった。麗華は一つ頷いて言う。
「私も好きよ。弟ではなく、男として」
一瞬で玲の目に殺気が宿る。
対して麗華は落ち着いた態度で制した。
「初めて好きになれた男の人。楽しい恋に巡り合えたと思ったのに、血の繋がりが邪魔をしている。それが許せなかった、そうでしょう?」
玲は再婚直後の麗華がどうも不機嫌だった本当の理由に思い当たった。
続けて麗華が言い放つ。
「玲、私は常識や倫理観を理解した上でそれらを踏み越えようと思います。
それで・・・協力しませんか?」
それが姉からの提案。
玲はちょっと唖然。
「何ともメンドクサイ同盟を作ってくれたな」
怜二の声。
227 悪質長男 第九話 sage 2010/07/01(木) 23:21:55 ID:hz09D2m7
姉妹は飛び切り驚いて慌てふためく。
どこどこと周囲を見渡すと、怜二が天井から現われた。
「ええ!?ちょっと怜二!?何で人の部屋に忍者屋敷の回転板みたいのがあるんですか!?」
麗華が叫び、
「んなもん、君らが引っ越してくる前からあったさ」
怜二が淡々と答え、
「・・・なら、兄さんの部屋にも?」
玲の問いに、
「いや、僕の場合は引き出しを開けてだな」
「猫型ロボットじゃないんだから!」
怜二は麗華にツッコまれた。
さて気を取り直して。
「まあ、僕もまんざらじゃないね。美人姉妹を両手に花。うむ、ウハウハじゃないか。
けどね、僕は君らと結ばれるつもりは無いよ」
普段の声色で彼はあっさり言い放つ。
隣に座る麗華は恋する瞳で言い返す。
「貴方はそれで結構です。私達が貴方をモノにするんです」
「常識や倫理観を理解した上でそれらを踏み越えようと思います、かい?御苦労なこった。
僕のエロ本の影響かい?」
「いいえ。失いたく無い恋だからです。貴方以外考えられないのです」
「兄弟発覚前からの話か。ふ、僕も罪な男だぐぇっ」
調子に乗るな、と玲が兄をド突いた。
「あだだ・・・。まあ、何だ?例え兄弟でなくても僕は君らと恋仲になる可能性は薄かったと思うよ?」
「え、それは何故です?」
彼女なりのプライドに障ったのだろう。ちょっと傷付いた表情で麗華は問うてみた。
「そもそも君らとの時間が少ないんだ。僕の視点じゃ、兄弟とは言っても出会ったのは高校生の時で、今も高校生。たかだか1,2年の付き合いでしかない。
それ以上の付き合いがある女子なんていくらでもいるし、幼馴染だって保育園からの知り合いで今でも連絡が取れる人も含めればもっといる。
ついでに言うと僕は小さい頃から女好きだからナンパも」
「この色魔!!!」
双方向からのパンチを食らった。
228 悪質長男 第九話 sage 2010/07/01(木) 23:22:52 ID:hz09D2m7
一部腫れた顔で怜二は何事も無かったように話をまとめた。
「まあ、要するにそんな馬鹿な事は止めなさいと言う事さ。と言うか学校のアイドル、姉妹姫が隠れブラコンだなんてスキャンダルも甚だしいぞ?」
「例え貴方がそれを告げ口したところで誰が信じるのでしょう?」
「えー?」
女好きな自称紳士と文武両道の姉妹。どちらの方が信憑性があるかは、一目瞭然だ。
「むう、こんな時でもシスコンが治らない自分が悔しい」
「では、まずは体の関係から始めましょうか」
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て」
「・・・欲しくありませんか?私達のファーストキッスと純潔」
「愚問だな。シスコンとは元来、可愛い姉妹を他の男から守る人種だ。兄弟が取ったら本末転倒じゃないか」
言葉が止まり、姉弟が睨み合う。
その隙をついて玲が兄の腰に飛び掛かるが、怜二の方から抱き止められて逆に確保される。
「あはは。ねぇ知ってる?近親相姦じゃ飽き足らず、兄か弟と結婚する執念を持った姉妹を一部で何と言うか」
彼女らには心当たりが無い。怜二は笑ったまま言い放った。
「キモ姉、キモウト」
またしばらく睨み合う、長男と姉妹。この男、どれだけアプローチしてもデレデレするばかりでちっとも欲情してくれない。
ふと、姉が何か思い出したかのように顔を反らした。
「貴方は私達の純潔を守ると言ってますが・・・」
「うん?」
「私、姉弟だと発覚した後に襲われた事があったのですよ」
「なんだと!?」
不覚、と言わんばかりに声を上げた怜二。今度は麗華が詰め寄られる番だった。
「いつ!?どこで!?誰が!?は、もしかして学校の連中か?」
「えっと・・・私達が仲直りする前日です。私が拗ねて家出した後、公園で・・・」
「くううううっ!そうか、僕は守れなかったのか・・・。純潔が無事だったって事は自衛手段が通用した意味を差している・・・。せめてこれが救いだったが・・・」
「は、はい・・・。それから、貴方を犯そうと閃いたのもあの時でした」
兄の横で妹が内心、自分の方がそう考えるのが早かった、と勝ち誇って(?)いた。もちろん無表情で。
一方で話を聞いていなかった弟が苦悶を続けている。
「くっ・・・。あの時・・・泣いてたから・・・。キッチンに涙が溜まったから池を作ってたせいで・・姉ちゃんを追いかけていれば・・・・」
「いい加減アレ直してください・・・」
怜二は苦悶から立ち直ると、麗華の両肩を掴んだ。
「姉ちゃん、教えろ!僕の美人な姉ちゃんを襲ったのは誰だ!?」
「えっと、名前は知りません・・。あ、スキンヘッドとリーゼント、それから金髪オールバックの三人組でした」
「む、知ってるぞ。典型的な集団チンピラだ。夜歩き回るもんだから夜道が不安だとメル友(女子限定)から聞いた事がある」
それから口調が恨みが籠る声色に変わる。
「おのれ社会のゴミが・・・。シスコンを持つ姉妹に手を出した者がどうなるか、身を持って調教せねばなるまい・・・!この世に生を受けた事を後悔させてくれる・・・!・・・と、言うわけで、ちょっと出かける」
姉妹が止める間もなく、まるでコンビニに駆け付ける足取りで、彼は出て行ってしまった。
229 悪質長男 第九話 sage 2010/07/01(木) 23:23:43 ID:hz09D2m7
昨日未明、男性三名が謎の浮遊物体、UFOに吸い込まれているのを近くの住民が目撃された。
目撃情報に寄ると、突然空からUFOが飛来し、光の柱で男性らを吸い込んだとの事。
警視庁の調べによると、この男性らは無職で、夜な夜な集団で歩いては、近くの民間人に迷惑を掛けていた様子。
この事件に対し警察は、誘拐事件をして扱うつもりだったが、「相手がUFOでは専門外」として、使命を放置する考えを示している。
○月×日 「キモ姉&キモウトを書こう!新聞」より抜粋。
翌朝、こんな記事が新聞の片隅に小さく掲載されていた。
ちなみにその日の新聞の一面は、多摩川にアザラシがやってきた騒動だった。
その町は案外平和だった。
最終更新:2010年07月12日 20:24