裏切られた人の話 4

399 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 21:57:38 ID:ilFLI4vw
「……すまなかった。」
「あら、どうされましたか、兄様?」
「あの事故から、ずっとお前に全てを任せて俺の傍に縛り付けていた。」
「ふふ、そんな事を謝られるなんて、いいんですよ今更。」
「全部俺が悪いんだ。お前は俺なんかに構わずに、友人や恋人を作って、もっと広い世界に居なきゃいけなかったんだ。
 それを、俺と夜澄しか居ない生活に閉じ込めて、俺なんかを愛していると言わせるまでに歪めた。
 夜澄、お前の愛しているって言うのは、だから、それは間違いなんだ。」
夜澄はその事に気づいていなかったのだろう、言葉の意味が分からずに困惑している。
「あの、兄様、……何を言ってらっしゃるのですか?」
「落ち着いてくれ、確かに今は受け入れられないかも知れないけどそうなんだよ。」
「ですが、そのお話ですと、まるで夜澄は兄様と一緒に暮らしたせいで狂ってしまったというように聞こえるのですが?」
「今はそう思うかもしれないけど、それでも。」
夜澄は正気を確かめるように、怪訝そうな目で俺の顔を覗き込んだ。
「まさかとは思いますが、兄様は夜澄が寂しいというだけでどんな男にも靡くような尻軽女だとでも思ってらっしゃいますか?」
「え、いや、ちがう、でも、俺を愛してくれているのは事故のショックと、そして、俺がお前を縛り付けたからなんだよ!!」 
夜澄は呆れたような表情になったが、何かに合点がいったのかくすくすとまた笑い出す。
「くすくす、そんな冗談はダメですよ、兄様。事故なんて何にも関係ないですって。
 そんな事がある訳無いじゃないですか、あんな事故なんかで夜澄は変わらないですよ?」
「事故は関係ない?」
「ええ、露ほども、くすくす、いいですか? 兄様。
 兄様と二人になる前も、二人だけになれた後も、ずうっと夜澄は夜澄のままですよ?
 夜澄は何も変わっていません、夜澄は初めから兄様だけを想っていたんですから。」
「は?」
「くすくす、生まれてからずうっと夜澄の大事なモノは兄様だけですよ?」
 思考が置いてきぼりになっている俺の顔を愛おしそうに見つめながら夜澄が続ける。



400 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 21:58:06 ID:ilFLI4vw
「夜澄がまだ小さな時、不思議に思ったことがあったんです。
 どうして兄様に触れられると心地良いのに他の人に触れられると気持ち悪いのか。
 兄様の声は夜澄の中に響くのに、他の声は唯の雑音なのか。
 兄様とは一つになりたいのに他の人からは離れたいのか。
 くすくす、今思えば本当に馬鹿らしいです。
 だって、兄様と夜澄だけが愛し合うことのできる人間で、他の人はみんな人形なんですから、くすくす。」
「人・・・形、人の形って書くやつだよな?」
「ええ、人の形をしただけの偽者です。
 人にそっくりなだけ、心なんて無い。
 くすくす、そんなもの愛せる訳ないじゃないですか。
 人そっくりに振舞う人形なんてただ気持ちが悪いだけですよね?」
「人形って、俺たちと何も変わらない人間だろ?」
「いいえ、人形ですよ? そして、夜澄と兄様だけが特別なんです。 
 だって、夜澄は兄様の痛みでしたらまるで自らの身が引き裂かれるように感じる事が出来ますよ。
 でも、他の人?、まあ兄様がそう仰るなら人としましょうか、が痛みにのた打ち回っていたり、
 大切な方を失って嘆き悲しんでいても、くすくす、ここは病院ですから毎日煩いんです、
 夜澄にはそんな方の気持ちなんて理解できませんでしたし、そもそも興味を持てませんでした。」
「お前は俺以外を人だと思えないって言うのか?」
「ふふ、そういうことになりますね。夜澄だって不思議に思う時もあったのですよ。
 どうして兄様だけは違うのか、どうして兄様は全てが愛しいのかって。
 でも、今の夜澄にはちゃーんと分かりますよ?」
今から言うであろう答えを確かめるかのように、じっくりと俺の瞳に視線を合わせる。
「兄様が夜澄のモノだからですよね?
 くすくす、兄様が居なければ夜澄は独りです。
 だから夜澄を寂しくさせない為に兄様は生まれてきてくださったんです。
 夜澄だけを守る為に、夜澄だけを愛してくださる為に9年も先に生まれてくださって、くすくす。
 ふふ、勿論、兄様は夜澄の為だけに、今までも、これからも生きてくださるんですよね?
 だから、兄様は夜澄のモノなんですよ? 
 ・・・…くすくす、本当に、夜澄は兄様だけを愛しているのですよ?」
そう言って嬉しそうに頬を赤らめる。
今夜の夜澄は今までにない位に表情が豊かだ。


401 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 21:58:44 ID:ilFLI4vw
だが、嬉しそうに夜澄の話すその内容は全てが破綻しており、俺の常識から逸脱しすぎているものだった。
少しでも理解できる部分を繋ぎ合わせるならば、夜澄は俺を愛していて、俺以外の者を認識すらもしていないという事なのか?
だったら、俺との、いやお袋や親父とのあの幸せだった頃の生活も夜澄の目には写っていなかったのか?
いや、そうじゃない、考えるべきはどうして今に繋がったのかだ。
「お前は昔から俺を愛している、それは良いとしてもどうしてこんな事をしたんだ?」
「あら? 今日の兄様はお疲れですね、鈍いですよ。くすくす、ちょっと考えればすぐ分かりますよ?」
「鈍い、というのは認めるが、その、これはさすがにおかしいだろう?」
夜澄の整った眉が少しだけ動いた気がする、何か気に触ったのだろうか。
「しょうがないですねー、くすくす。
 夜澄は兄様を愛していますけど、一つだけ、実は一つだけ大っ嫌いな所が有るんですよ?」
顔は笑顔のままだ。だが、目は笑っていない。
「教えてくださいね、兄様。どうしてですか?」
その目は怒りと、そして憎しみで歪んでいる。
「どうして兄様は夜澄以外のモノとお話が出来るんですか、夜澄だったらそんなの気持ち悪くてできませんよ?
 どうして、夜澄以外のモノに心を奪われる事ができるんですか、兄様は誰の為に存在していて、誰の恋人で、誰のモノですか?
 夜澄ですよね、夜澄のモノなのにどうして、夜澄と離れ離れになっていても平気でいられるのですか?
 今まで兄様が夜澄をどう扱おうと夜澄は心を痛めたりはしませんでしたよ。
 でも、夜澄の知らない研究室で気持ちの悪い女と実験に熱中していた兄様に、病室で夜澄の居ない職場の話を楽しそう話す兄様に、
 どれだけ夜澄は悲しまされたか分かりますか? そんなものを夜澄が望んでいるなんて思えるんですか?  
 ねえ、夜澄と離れていられる兄様、夜澄以外の事を考えられる兄様、そういう兄様を見るたびに何度も気が狂いそうになったんですよ。
 どうして兄様は夜澄無しの生活で気が狂わないんですか? そんな暢気な顔をしていられるんですか?
 だって、おかしいですよね? そんなの狂っていますよね? 兄様は誰のモノですか? 何が一番大切な事ですか?」
「や、夜澄?」
「今回だってそうです。・・・・・・本当は先生が居住権と移動権の売買を持ちかけて、夜澄が法廷で買い戻す手筈だったんです。
 なのに、自分から勝手に夜澄の傍を離れようとする。しかもあんな、気持ち悪い女の所に・・・。
 もし一歩間違っていたら今頃兄様は・・・・・・、夜澄は考えるだけでもおぞましいです。
 正直に言って夜澄は今回の兄様の愚行には絶望しましたよ。本当に兄様は何をしてらっしゃるんですか・・・?」



402 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 21:59:24 ID:ilFLI4vw
「夜澄、何を・・・?」
ぎり、と歯を食いしばる音がする。
今まで見た事もない夜澄の憎悪の表情に竦んで言葉が紡ぎ出せない。
「何を? それは夜澄が言いたいですよ?
 本っ当に、兄様は夜澄の為に生まれたという意味を、本当に分かっていますか?」
そこまでを息継ぎ一つせずに喋りきった夜澄が、ふぅ、と息を吸い込んだ。
そして、まあ過ぎた事ですけどね、と言ってまた楽しそうにくすくすと笑い出す。
「くすくす、夜澄はずっと兄様だけを想っているのに、夜澄のモノなのに、兄様はつまらない事にかまけてばっかり。
 それどころか、放っておけば今回みたいに夜澄の傍からいなくなっちゃうじゃないですか、くすくす。
 だから、ちゃんと兄様を夜澄のモノにしてあげるんですよ、心も体も。
 ふふ、お父様とお母様の事故が良い切欠になりました。
 ずっと病院に篭もって病気の振りをし続けるのは少し大変でしたけど、くすくす。
 ああ、でも学校に行って気持ち悪い思いをしなくて済んだ分快適な生活でしたよ。
 お蔭でお金も準備する事が出来ましたし。」
「金? そうだ、一体あの金は何なんだ?」
「お金ですか? 兄様が今まで夜澄の治療に出してくださったお金がありましたよね?
 元気な夜澄には必要なかったのでお医者様から返していただいて、
 ずっと兄様の購入資金として貯めてたんですよ、くすくす。」
「医者まで俺を騙してやがったのか?」
「あら、お医者様を責めてはいけませんよ。
 あの方にだって大切なご家族がいらっしゃっるのですから理解してあげないと、まあ、どうでもいい事ですよね。」
「お前が、人を強請ったのか?」
「ふふ、過程なんてどうでも良いじゃないですか。
 大切なのは兄様が完全に夜澄のモノになった事、愛し合う二人が一つになる事ですよ。
 さあ、結果を愉しみましょうか? いっぱい、くすくす。」
そう言い終えると夜澄は着物の帯を解く、白い肢体が目の前に広がる。



403 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:00:01 ID:ilFLI4vw
「夜澄、何をする気だ!?」
「何って、愛し合う男女がすることって一つになる以外にあるんですか?」
夜澄は不思議そうにコクンと首を傾げる。
そして、拘束されている俺のズボンを下ろし、俺のモノを口に咥えた。
その光景に固まっている俺を気にせずに舌を器用に絡める。
「ふふ、大きくなりましたね、もういいでしょう?」
夜澄はそのまま俺に跨り、糸を引く自分の秘部を指で押し開いて俺のモノをあてがおうとする。
「おい、待てよ!! 俺らは兄妹なんだぞ!!」
「そうですね、それが何か気になりますか? そんな事、・・・・・・っん・・・・・・。」
そう言ってそのまま腰を落とす。
ぬるりとした感触と共にあっさりと入った。



404 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:00:32 ID:ilFLI4vw
痛がる様子も無く、夜澄は気持ちよさげに腰を上下させる。
「やめろ!! やめろよ、夜澄!!」
俺の言葉など全く聞かずに夜澄はただ腰を振る。
快感だけに集中する夜澄には何も聞こえていない。
「・・・・・・んんっ、・・・・・・ひ・・・し・・・・・・りの兄様の・・・んっ・・・・・・体、
 ・・・ん・・・いい・・です・・・凄くいい・・・ん・・・、くす・・・くす、分かり・・・ます・・・よ、
 もう・・・・・・出ま・・・すね? ふふ・・・いっぱい・・・いっぱい夜澄の・・・子宮に・・・・・・。」
そう途切れ途切れに言って深々と夜澄は腰を落とす、その瞬間俺は腰が抜けるような快感を感じた。
暖かいものが自身のモノから流れ出す。
腰を深く落とし、恍惚の表情で夜澄はそれを受け止める。
頭から血の気が引いていく。
ああ、終わった、俺は妹の膣に、たっぷりと。
事が済んでしまってからも、まだ夜澄は蕩けた表情のままだった。
口からは涎も垂れている。
見た事も、いや想像だって絶対にした事がなかった夜澄の痴態がそこに有った。
もうそれ以上はそんな夜澄を見たくなかった、顔を横に背け目をつぶった。
それに気づいた夜澄が俺の顔を両側から掴み、強引に正面を向かせる。
「何をしてるんですか、兄様? まだまだ夜澄は足りませんよ?
 くすくす、勝手に終わらせないでくださいね?」
そう言って、体をぴたりと俺に付け腰の動きを再開する。
入れる、出す、入れる、出す…。
部屋の中にベッドの揺れる音と水音だけが響く。
3回目、4回目、5回目・・・。


405 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:01:02 ID:ilFLI4vw
・・・・・・2時間? いや3時間くらいだろうか? 息が苦しい、頭はまだぼんやりとしている。
一方、さっきまで横ではぁ、はぁと激しく息を切らしていた夜澄はもう落ち着き、今は俺の腹に跨る格好で座っている。
「ふふ、兄様のお×ん×ん最高でしたよ、くすくす、本当に夜澄の子宮にぴったりと嵌って。
 兄様、知っていますか? 兄妹同士のまぐわいは一番気持ちいいんですよ?
 もう兄様は夜澄以外の体では満足できませんね? 一生、くすくす。」
俺を見つめながら嬉しそうに夜澄は言う。
その言葉に我に返る。
俺は夜澄と、妹とセックスをしてしまった、いや、レイプされたと言ったほうが正しいのか…。
「本当に、気持ちよすぎて、…くすくす、たった一週間まぐわっていないだけで夜澄はおかしくなりそうでしたよ?
 はしたないですね、夜澄は、くすくす。」
「・・・・・・おい?・・・・・・一週間?・・・・・・一週間ってどういうことだよ・・・・・・。」
「くすくす、ですから一週間ぶりの兄様とのまぐわいですよ?」
また夜澄が笑い出す。この状況の何がおかしいのか俺には分からない。
「ふざけるな!! 俺はそんな事今までした事無い!! 無いに決まってる!!」
「あら、よく兄様は夜澄の所に来ると一緒にお昼寝して下さいましたよね?」
まさか・・・夜澄は・・・・・・。
「くすくす、ええ、実はですね、兄様に差し上げてたお茶に秘密がありましてね。
 幸せに眠れるお薬と、くすくす、元気の出るお薬、が入っていたんです。」
「お前は・・・・・・、俺と一緒の夢を見てくれたんじゃないのか?・・・・・・」
「くすくす、ごめんなさい、それもウソ、です。
 本当は、寝ている兄様のお召物を脱がせて、しゃぶって、犬みたいに腰を振って、お口いっぱいに含んで、
 兄様の匂いのするお口で、目を覚ました兄様と、お父様とお母様のお話をしていたんですよ。
 悪い子ですね? 夜澄は、くすくす。」
夜澄がまた笑う。本当に楽しそうに笑う。
「ああ、そうですね。いつもお母様の着物を着たままでしたから、
 これにはきっと夜澄の汗とよだれとお汁と、くすくす、兄様の匂いがいっぱい浸みてますね?」
そう言って夜澄が着物の裾に鼻をあてて、すんすんと匂いを嗅ぐ。嬉しそうに良い匂いですよ、と笑う。


406 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:01:31 ID:ilFLI4vw
気持ちが悪い。

俺はずっとそんな気持ち悪い着物の匂いを嗅いでいたのか、そう思うと胃の奥から熱いものがこみ上げる。
今まであそこで口にしたものを、肺に吸い込んだものを全て吐き出したい。
吐き気を堪えながら、聞きたくも無い質問を続ける。
「入院してから、ずっとそうしていたのか?」
「いえ、もっと前、二人で一緒に暮らしていたときからですよ。
 くすくす、良く食事をしてそのまま寝てしまう事がありましたね。」
あの時は研究が辛いからすぐに寝入っているのだと思っていた。
あれも、夜澄の仕業だったのか。
「あの頃も、本当はそれなりに楽しかったですよ? 
 いろんな夜澄の隠し味が入った食事を召し上がって頂いて、夜は夜澄をたくさん召し上がって頂いて。
 もし、隠し味を知られてしまったら、夜、目を覚まされてしまったら、
 兄様は夜澄をどうされるのでしょう? 夜澄は兄様をどうするのでしょう?
 そう考えながら、兄様の前では兄様が望まれる妹の夜澄を演じて、
 くすくす、本当に心臓が止まってしまうかと思いましたよ?」
そんな話は信じたくない。
それが本当なら、俺の大切な家族は、そんな事をしておいて、笑顔ができる女だというのか。
俺の大切な夜澄は、毎晩、家族である俺を犯しておきながら、涙を溜めて、独りにしないでとあの時俺に抱きついていたというのか。


407 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:02:03 ID:ilFLI4vw
「全部、嘘なんだろ? お前は、あんな生活には耐えられなかったんだよな!?」
「くすくす、これは全部本当、ですよ。ああでも、もう今の夜澄にはあの生活は耐えられませんね。
 こうやって最愛の兄様から全てを奪って夜澄だけのモノにする、こんな気持ちいい事を知ってしまった今の夜澄には、きっと。」
「気持ち良いだと!? 俺は、お前の為に自分の夢も、将来も、エリスも裏切って一緒に居たんだ、それを知ってて言っているのか!?」
「ええ、もちろん知っていますよ。兄様が悩んだ末に一緒に居て下さるといった時の必死に未練を振り切ろうとする表情、
 それに自らを売る前の晩にいらした時の苦悩しきった表情。
 いつも決断を迫られる度に夜澄を想う兄様、夜澄を選ぶ兄様、ええ、それを思い出すだけでも、くすくす、胸が満たされます。
 自分の夢より、体より・・・・・・、何よりも夜澄が大切、そんなに兄様から愛されているなんて、
 やっぱり兄様は夜澄のモノなんだって、そう思うたびに、くすくす、夜澄は幸せものです、くすくす。」
「幸せ?」
「くすくす、両親も、夢も無くされて、ご友人も、大切な物はみーんな、夜澄の為に無くなっちゃいましたね。
 最後に残っているのは最愛の夜澄だけ、夜澄は本当に幸せです、くすくす。」
理解が出来ない。
ただ自分の欲望の為に家族を騙して奪って、何の痛みも感じずに、自分が幸せだと言い切る夜澄が。
「これが幸せか? これがお前がずっと望んでいた幸せだっていうのか?」
「はい。これが夜澄の望んだ最高の幸せですよ。
 他にどんな幸せがありますか?」
夜澄は最上の笑顔で応える。
俺がいつか見たいとずっと願っていた不安も憂いも浮かばない綺麗な笑顔で。
「どんな幸せだと・・・。」
幸せ、両親との最期の瞬間を思い出す。
あの時の両親の顔が浮かぶ、夜澄を幸せに、と言い、
存在しない右手を夜澄に向かって伸ばしていた母親の姿が浮かぶ。
絶対に違う、あの時おふくろが望んでいた夜澄の幸せはこんなものではなかった。
「お前は、おふくろ達には、後ろめたく思わないのか? 後悔しないのか?
 こんな風に兄妹でやっちまって・・・・・・。
 ・・・覚えてるよな、あの時お前に手を伸ばしたおふくろの手をさぁ!?
 こんな事知ったらどれだけ悲しむか分かるよな!?
 親父や、お袋に済まないと思うだろ!? 
 頼むよ、そうだと言ってくれよ!! 夜澄!!」


408 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:02:26 ID:ilFLI4vw
必死の言葉に応えてくれたのだろうか、夜澄は真顔に戻り、物思いをしているようだ。
そして暫く考えた後、ちょっと困ったような顔をしてから答える。
「ん、兄様のお願いです、そうですと言いたいですが。
 ・・・・・・全然、思わないんですよ。
 ずうっと兄様は夜澄のモノなんですから、何に罪悪感を感じればいいんですか?
 ごめんなさい、何が悪いのか夜澄には本当に分からないんです。くすくす、困りましたね?」
夜澄はバツが悪いのか、照れくさそうに笑っている。 
その表情は穏やかで、この場所には全く相応しくない。
「それに、実はお父様やお母様の事を夜澄は何にも覚えてないんです。
 お母様の手の話だって兄様がそれを言うと構ってくれたから話を合わせていただけですから・・・・・・。
 良く考えてください兄様、あんな小さい子供が細々としたことを覚えていますか?
 さっき言ったじゃないですか? 兄様以外の人間なんていません、って。
 夜澄にとってはどうでも良いお人形さんが2つ減っただけですよ。
 そんな事いちいち覚えていられるわけ無いじゃないですか?
 私が覚えているのは、くすくす、今にも泣きそうな可愛らしい兄様のお顔だけですよ。
 くすくす、今のお顔とそっくりでしたよ?」 
夜澄の言葉にまるで針金をねじ込まれたように心臓が痛む。
それでも、そこで黙ってくれればまだ救いがあったのに。
「そうですね、他に覚えている事ですと・・・、」
なのに、夜澄は何かを思い出したようで楽しげに言葉を繋いだ。
「ああ、そういえばあの後、お手洗いで、くすくす、兄様の顔を思いながら、一人で慰めたら・・・、
 くすくす、涙が出るほど気持ちよくって、あれより気持ちよかったのは、くすくす、兄様と一つになった時だけですよ?」


409 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:03:05 ID:ilFLI4vw
う・・・そだ。
体中の血が引く。
記憶が巻き戻る。

あの時に夜澄は確かに居なかった。
ならば、泣き崩れる俺を置いて夜澄は一人で、その涙を思い出しながら、随喜の涙を流して、
そして、ついさっきまで俺の腕を握っていたあの小さな手で、
「自・・・慰をしてのか? そんな事どうでもよくって。 
 お前にとっては親父もお袋もそんな事なのかよ・・・。
 そんな事より、性欲の方が大事なのかよ・・・?」
「くすくす、そうですね? 少なくともお母様たちよりは、くすくす。」
「最低だよ・・・。お前は、最っ低の変態だよ!!」
今の絶望を俺はこんな風にしか表せない、その無能すら憎い。
「ふふ、兄様の大切な夜澄は本当に最低ですね? くすくす。」
気持ちよさそうに夜澄が言う。
そこには、昨日までのふっと消えそうだった儚い面影などはない。
そこに居る夜澄が誰なのか分からなくなってくる。
「お前は何なんだよ!? 何だったんだよ!?
 いつも俺の傍に居て、家族思いで、独りで、寂しくて、黙ってやさしい笑顔を向けてくれた夜澄は何だったんだよ!?」
「ええ、演技ですよ、それは。くすくす、夜澄はお利口さんですから。
 夜な夜な兄と交わる気持ち悪い妹なんて、兄様望まれない事ぐらい分かりますよ。
 お淑やかで、家族思いの妹の方が兄様はお好みですよね?
 よーく知ってましたよ。そして、必死にそれを演じきりましたよ、くすくす。
 でも、もう隠す必要も無いですから。これが本当の兄様の大事な妹の、夜澄です。
 気持ち悪いですか? くすくす。」
知られないように今までがんばりましたよと小さく胸を張り、くすくすと笑う。
「昨日の夜、俺を信じると言ってくれたのもみんな演技なのか!?」
「ええ、でも、信じていたのは本当です。
 兄様のする事はみーんな夜澄の為になるって。
 ちゃんと信じたとおりになりましたね、くすくす。」
その楽しそうな笑い方が煩い、耳に付く、くすくす、くすくすと。
何の罪悪感も無くこの状況で笑えるというのが理解できない。
「何が楽しいんだよ?」
「あら、何で楽しくないんですか? 
 夜澄は病気ではありませんでした、邪魔なモノは全てなくなりました、
 そして兄様は夜澄のモノで、二人はずうっと一緒になりました。
 ほら、ハッピーエンドじゃないですか?」
「ふざけるな!!」



410 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:03:31 ID:ilFLI4vw
俺は激昂した。
「俺が夢を捨てて、親友を裏切って、体まで売って、
 そこまでして求めたのはこんなお前との共同生活なんかじゃない!!!
 おれの夜澄は、お前なんかじゃない!! お前は家族でも、まして恋人でもない!!
 お前はただn「うるさいですね?」」ぱんっ、という音が響く。
異常者だ、と言い切る前に夜澄に平手で殴られた。
「夜澄のモノがそういうお口をきいてはダメですよ。
 夜澄を拒絶するのも不愉快にさせるのも禁止ですからね?」
そう言って夜澄はさっきまでの笑顔をそのまま凍らせたような表情で俺を見下ろす。
まるで本物の人形のようだと思った。
そしてふっと表情を緩めると、俺の口を塞ぐように口付けをした。
手馴れた動作で口に舌を捻じ込み、絡めて、くちゅくちゅと音を立てる。
5分はそれを続けただろうか? 
夜澄はやっと満足したようで、ゆっくりと口を離した。
「んんっ、はぁ、はぁ・・・・・・。
 ふふ、あんまり夜澄を困らせないでくださいね。
 あんまり意地悪な事を言われちゃうと夜澄は傷ついちゃいますよ?」
「何がモノだよ、俺は俺だ、なんでも思い通りに出来るとおもうな!!」
「くすくす、今日の兄様はとっても意地悪さんですよ?
 このままでは兄様を夜澄の思い通りにはできませんね。
 でも、ついちょっとだけ意地悪し返したくなっちゃうかもしれませんよ?
 兄様は痛いのが好きですか? くすくす、恥ずかしい事は? 熱い事や苦しい事は?
 ふふ、どんな意地悪をしようか迷っちゃいますね? 」 
夜澄は上機嫌で俺の顔に手を当てて愛しげに撫でる。
それは愛しい人に笑顔で投げかけるような言葉では無いのに。
気に入らない事をすれば拷問まがいの行為で矯正すると脅迫しているのに。
なのに、その表情は子供みたいに楽しそうだ、まるで何をして遊ぼうか迷っているかの様に。


411 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:04:04 ID:ilFLI4vw
「なあ、夜澄は俺のことを愛してるんだよな・・・・・・?」
「ええ、何よりも。」
「だったら、」
「でしたら?」
夜澄は不思議そうに小首を傾げる。
「だったら、どうしてこんな事出来るんだよ!?」
「こんな事、あら、どんな事ですか?」
「俺から何もかも奪って、俺の思いを裏切った事に決まっているだろ!?」
「ふふ、簡単じゃないですか、愛しているからですよ。
 くすくす、決まっているじゃないですか?」
夜澄は俺の質問がさも馬鹿らしいというように、笑う。
「愛しいから、自分のものに、独占したい、閉じ込めたい、どんな手段でも・・・・・・・、くすくす。
 それこそが正しい愛なんですから。好きな人の幸せを想うなんていうのは歪んだ、唯の自己愛ですよ?」
「ふざけるなよ、自分がしている事が分かっているのか? 
 こんなのはただの強姦だ!! 相手を犯す愛なんてあってたまるかよ!!」
「ふふ、そういう様に言うのは、自分が可愛いからですね。
 相手を傷つけたくない、なんてただの卑怯者ですよ? そんなの。」
あの気持ち悪い女みたいに、と夜澄が吐き捨てるように言い放つ。 
「そういう綺麗事を言う人は嫌われて傷つく事を恐れる臆病者で、
 くすくす、人形から非難をされるのが怖い卑怯者です。
 後はきっと、恋人を壊して愛せなくなるのを恐れる愚か者ですね、くすくす。」
「そんな筈があるか!! 本当に愛しているなら!!」
そこで言葉は夜澄に遮られた。
「本当に愛しているならば? それならば、どんな中傷でも甘んじて受けるべきですよ。
 犯して、壊して、禁忌も倫理も正義も、全てを捨てて手に入れるべきでしょう?
 そして、どんなに壊れた恋人でも、くすくす、ほら、笑顔で心から愛せるじゃないですか?」
夜澄は心からの笑顔で語りかける、凛とした声音には一点の濁りも無い。
きっとそれは妹の夜澄ではなく、本当の夜澄の笑顔なんだと思う。


412 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:04:35 ID:ilFLI4vw
本当の夜澄の笑顔は真夏の星空の様に明るくて、とても綺麗だった。
だから、俺はやっと、俺の夜澄への思いは始まりから裏切られていたんだと認め切る事ができた。
夜澄を唯一の家族として愛していた、そして家族でいる為に何度も悩んだ。
でも、夜澄はその思いを理解してくれなかった、その代わりに利用して、そして愉しんだ。
今までも、これからも俺を夜澄だけのモノにし続ける為に。
ああでも、もう夜澄を責めるもの筋違いに思えてくるよ。
だって、ただ俺と夜澄の『幸せ』に不運な齟齬があっただけなのだから。
そして、二人同じ時間を過ごして、その中で別々のハッピーエンドを求め続けていただけだったんだからな。
結局、俺は何年も1人で空回りし続けていただけだった、ただそれだけの事だ。
「兄様ならば、分かることができますよ? だって、夜澄のモノなんですから。」
もう力の入らない体から空気が漏れるように答える。
「俺には、分からないよ。もう、無理だよ、ごめんな、俺はもうお前を愛せな・・・・・・ウグッ」
「意見の相違ですね? でも夜澄はそんな答え求めてませんよ?」
今度は踵が腹にめり込む。
夜澄は立ち上っていた、俺の腹を力いっぱい踏み躙りながら言葉を続ける。
「さっき言いましたよね、夜澄を否定するなって? くすくす。
 まあ、それを思い通りにするのも、愛なのですね?
 それでも思い通りにならなければ誰にも盗られないように壊せばいい、くすくす。
 夜澄はどんな宗一兄様でも愛せますよ? くすくす。」
だから、頑張って夜澄を愛してくださいね、とまた笑い出す。
「でも安心してくださいね、いきなりそんなもったいない事なんてしませんから。
 何を考えれば夜澄の想いに添えるか、何をすれば夜澄の愛に応えられるか。
 一つ一つ、ぜーんぶ教えてあげますからね。何度でも、何度でも出来るまで永遠に・・・・・・、くすくす。
 だから、素直に従ってくださればちゃあんと夜澄を満足させられますからね。」
「そん・・・なの・・・壊れるのと・・・・・・何が……違うん・・・だ?」
夜澄がまた踏みつける。
「さっき言ったじゃないですか? 愛しています、って。
 夜澄の言葉を忘れちゃだめじゃないですか。」
痛みと苦しさで朦朧としながら壁に掛かったカレンダーを見る。
売買された人間には一ヵ月後に形だけではあるが様子見が来る、最も今更開放された所で・・・、


413 裏切られた人の話4 sage 2010/07/11(日) 22:05:14 ID:ilFLI4vw
「あら、日付が気になりますか? 
 くすくす、大丈夫ですよ、すぐに夜澄と愛し合う以外考えられなくなりますから。」
足をどけた夜澄は俺に跨り、触れ合うぐらいに顔を近づける。
「夜澄は今まで兄様だけを愛して、これからも兄様だけを愛し続けます。
永遠に、ずうっと、ずうっと、ずーーーうっと兄様は夜澄だけのモノですよ?
 絶対に手放したりなんてしませんからね、くすくすくすくす・・・・・・。」
見開いた夜澄の目が俺を見つめる。
欲望や嫉妬、狂愛でどろりと濁った瞳、なんてありふれた物は無かった。

夜澄の瞳はどこまでも、冬の夜空のように澄み切っていた、そして、そこにはうっすらと俺が写っている。
瞳に写る俺は涙を流していた、でも俺には何を悲しめばいいのかもう分からない。
これからは何に涙すればいいのかも夜澄は教えてくれるのだろうか?
なにも分からない。どうして・・・・・・、

どうしてだ、今まで俺は何の為に?
―くすくす、夜澄のモノになる為ですよ。

お前は、これで、こんな事で本当に幸せなのか?
―ええ、これ以上の幸せなんて考えられないほどに、夜澄は幸せです。
 そして、兄様もすぐ幸せになれますよ、くすくす。

俺の幸せは一体何なのかな?
―くす、『夜澄の幸せ』、ですよ、兄様?

それが、自分の意思で紡ぐ事を夜澄に許された最後の言葉だった。


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最終更新:2010年07月12日 20:35
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