キモガールズトーク

276 キモガールズトーク sage 2010/10/06(水) 01:27:23 ID:yvAF/CBj
「好きな人とかいないの?」
 暗闇の中、ドアの隙間から漏れる光を眺めていたら、突然、質問された。
 私が寝返りをうつと、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた友人の顔が、私に迫る。
 仮に、彼女の名前をAさんとしておこう。
「ねえ、いないの?」
 Aさんは、ずりずりとこちらに体を寄せて、再度問う。
 その小さい体で、布団ごと移動してくるなんて、無駄なところで器用な娘だ。
「私も気になるな。匡子(きょうこ)のそういう話は、聞いたことがないから」
 今度は、足元から私の名前を呼ぶ声がする。
 仮に、Bさんと呼ぶことにしよう。
 Aさんと同じように、Bさんもにやけた顔で私に這いよる。
 ちょっと二人とも、なんか怖いんだけど。
 思わず後ずさる私の足を、Bさんの長い手が捕まえた。
 そのまま、四つの布団の真ん中まで引きずられる。
 ちょっと、やめて、と制止する私の声を無視して、ケラケラと笑うBさん。
「先生が来てしまいますよ」
 それを止めたのは、浴衣の乱れ一つなく寝ていたはずの、Cさんだった。
 どうやら、私達の声で目を覚ましてしまったらしい。
 ごめんね、と口々に謝る私達に、「お気になさらず」とあくまで上品に微笑むCさん。
「私も気になります。匡子さんの好きな方のこと」
 Cさんまでも、こんな事を言い出す始末だ。
 明日は、丸一日、自由行動で名所を巡るのだから、早く寝た方が良いんじゃないの、
と言っても、三人の友人は、一向に諦める気配を見せない。
「いいじゃん、なんなら協力するし」
「水臭いな、友達だろう?」
「ドキドキしますね」
 私だけが置いてけぼりだ。
 確かに、このテの話は、修学旅行の夜の定番である。
 しかし、困ったことに、現在、私には特に意中の人がいるわけでもなく、
もっと言えば、生まれてこの方、恋愛というものをしたことがない。
 正直に白状すると、三人は、信じられない、という顔をした。
「ちょっと気になる、でもいいんだよ? 何となく目で追ってる、とか」
 Aさんの問いにも、首を左右に振ることしかできない。
「まさか、女に興味がある、とか言わないよな?」
 勢いよく首を振って、Bさんの疑いを晴らす。
「匡子さん、どんなに頑張っても、二次元には行けないんですよ?」
 Cさんから、とんでもない言葉が飛び出した。


277 キモガールズトーク sage 2010/10/06(水) 01:29:44 ID:yvAF/CBj
 改めて考えてみても、私の頭には「気になる男性」が、浮かばない。
 今度は、私が三人に質問してみることにした。
 あなた達は、今、好きな人はいないの。
 あはは、ふふん、うふふ、と三者三様の忍び笑いが返ってくる。
 まずは、Aさんが語りだした。
 それは、私にとって想像を絶するものであり、彼女のことをよく知らないうちに、
その話を聞いていたら、私は間違いなく友人にはならなかったであろう、
と思わせる内容だった。
 なんと、Aさんの好きな人は、彼女のお兄さんだという。
 全てを聞いていたら、夜が明けてしまう。
 Aさんの話を三十分ほど聞いて、そう判断した私は、特に印象に残っている
エピソードを聞かせてもらうことにした。

 Aさんのお兄さんは、つい先日、誕生日を迎え、世間一般で言うところの成人となった。
 Aさんとは四つ違いで、妹を非常に可愛がってくれる兄なのだそうだ。
 ご両親が苦笑気味に、あの子は、いわゆる「しすこん」ね、と言うくらいだから、
本当に溺愛しているのだろう。
 当然、Aさんもお兄さんが大好きで、彼女は、自分たちは、ずっとこのまま、
仲良しでいられると思っていた。
 しかし、その未来予想図は、唐突に切り刻まれた。
「会ってほしい人がいるんだ」
 ある晩、家族団らんの席で、お兄さんは言いだした。
 ご両親が驚いたのは勿論だが、何よりも、衝撃を受けたのは、Aさんだった。
 付き合っている女性がいる。
 その人との結婚を考えている。
 相手も同意してくれている。
 お兄さんが口を開くたびに飛び出してくる、信じられない、信じたくない言葉の数々。
 Aさんは、突然、猛烈な吐き気に襲われ、胃の中の夕食を全て床にぶちまけた後、
気を失ってしまった。
 過度のストレスが原因だった。
 それから、Aさんは部屋にこもり、たとえ、それが大好きなお兄さんであっても、
部屋にいれようとはしなかった。
 一週間後、Aさんは部屋から顔を出した。
 葛藤につぐ葛藤を乗り越え、久しぶりに目に入れた外界は何もかもが輝いて見えた、という。
 気持ちは、もう決まっていた。

「それで、私はお兄ちゃんをレイプしたの」
 耳がおかしくなったのか、頭がおかしくなったのか、どちらを疑うべきか迷った。


278 キモガールズトーク sage 2010/10/06(水) 01:31:52 ID:yvAF/CBj
 もう一度、いい?
 私が聞くと、Aさんは顔を真っ赤にして、こう言った。
「だからね、お兄ちゃんの手足を縛り上げて、大好きだよ、って言いながら
おちんちんを口で綺麗にしてあげた後、もうびしょびしょだった私の」
 すいません、もう勘弁してください。
 誠心誠意、土下座して、話を打ち切らせてもらった。
 ただ、一つだけ気になった私は、最後にこう質問した。
 お兄さんは、その後、彼女とどうなったの、と。
 Aさんは、きょとんとして、首を傾げる。
 だから、お付き合いしていた女の人とは、結局別れたの?
 言葉を変えて、もう一度質問してみたが、Aさんは困り顔だ。
「彼女なんて、いなかったよ?」
 だから、訳が分からない。
「お兄ちゃんに彼女なんて、最初からいなかったんだよ」
 いつも快活なAさんから、表情という表情が消えた。
 これ以上追求すれば、私の存在もなかったことにされそうなので、話題を変えることにした。
 次に語りだしたのは、Bさんである。
 Bさんとの付き合いは、それなりに長い。
 だから、私も彼女に歳の離れた弟さんがいることは知っていた。
 でも、流石にこれは予想外だった。

 Bさんの弟は、小学生。
 顔立ちは実に可愛らしく、ひねくれたところのない、素直な少年だ。
 目上の人間には、敬意を忘れず、女性には優しい。
 ご両親の熱心な躾の賜物であろう。
 このようなルックスと性格を持ち合わせているのだから、人気者にならないはずがない。
 男女問わず、彼は人気者だ。
 そんな弟さんも、年相応に甘えん坊で、夜になると、姉であるBさんの布団に潜り込んでくる。
 姉としては、庇護欲を大いにそそられるのも仕方のないことだ。
 ソトでしっかりしている分、ウチでは甘やかしてあげよう、とBさんは考えていた。
 ところが、だ。
 ある日、Bさんは見てしまった。
 弟さんとしっかり手を繋いで歩く、上級生の女の子の姿を。
 嬉しそうに、腕にすがりつき、「お姉ちゃん」と甘える弟さんの顔を。
 Bさんは、逃げるようにその場を立ち去った。
 どうやってたどり着いたのかも分からない。
 気がつくとBさんは、自分の部屋の布団にくるまっていた。
 顔中がベタベタで、喉はちくちくと痛みを訴える。
 泣き疲れて眠ってしまったのだ。


279 キモガールズトーク sage 2010/10/06(水) 01:34:31 ID:yvAF/CBj
 涙と共に、嫉妬や屈辱感は、すっかり抜け落ちてしまったようで、Bさんの心中は、
台風一過の青空のように、晴れ渡っていた。
 隣を見ると、いつものように弟さんの寝顔がある。
 もう真夜中で、家の中は静まり返っていた。

「それで、私は弟をレイプしたんだ」
 どうしてこうなった。
 頼むから、結果に至る理由をきちんと述べてほしい。
「だから、寝ている弟を起こして、唇を奪ったあと、全身を舐めてあげて、
耳元で、お前はもう、姉ちゃんのモノなんだからな、他の女を見ちゃいけないんだよ、
と囁きながら、皮を被ったままのあの子のぺニスを、私の」
 少しだけ我慢してみたけど、やっぱり無理です、勘弁してください。
 深々と土下座をする。
「大体、あの子の姉なんか私以外に務まるものか」
 当時を思いだしたのか、憤懣やる方ない、といった表情で、Bさんは口を開く。
「私が、拳骨を数発くれてやっただけで逃げだす女に、弟を守れるものか」
 帰り道にばったり会ったので、つい、やってしまった、とBさんは言った。
 完全に通り魔だ。
 この狭い部屋に暴行犯が二人もいる。
 しかも、片方は殺人犯の可能性もある。
 AさんはBさんと更に深い話を始めているし、Cさんはにこやかに相づちを打っている。
「さあ、次はCの番だぞ」
 Bさんの言葉に、Cさんは、笑顔を浮かべて、
「実は、私も匡子さんと同じで想い人はいないんです」
と答えた。
 良かった、やっぱりCさんは、まともだった。
 私は胸をなで下ろすと、じっくり探していきましょうよ、とCさんに語りかける。
 そうですね、とCさんは応え、「私には、手間のかかる家族がいますから。
そちらの世話だけで手一杯です」と、ふざけた調子で言った。
 おそらく、双子の弟さんのことであろう。
 彼もCさん同様、顔立ちから仕草まで何もかもが上品だ。
 もしかしたら、家では、そうではないのだろうか。
 Cさんが、いつもより、少しだけ姉の顔で、双子の弟を叱る姿を想像すると、
ついつい頬が緩んでしまう。
「あの子ときたら……いつも、いつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも
いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも」
 頬が緩んだままの状態で固まった。


280 キモガールズトーク sage 2010/10/06(水) 01:35:54 ID:yvAF/CBj
「他の女の子にばっかり優しくして。ねぇね、と呼んでもくれないし、部屋には
勝手に鍵をつけるし、最近は、専属のガードマンまで雇って、私を遠ざけるし、
挙げ句の果てに、私」
 Cさん、寝ましょう。
 明日は朝が早いですから。
 知らない。私は何も知らない。
 Cさんの目がくわっと見開いて、瞳孔が収縮仕切っているのも、その手が掴んだ枕が、
綿飴のようにブチブチちぎれていくのも。
 実は担任の村井先生が、Cさんの弟と恋仲という極秘情報も、私は知らない。
 知らないのだ。

 AさんとBさんのノロケ話とCさんの呪詛の声に包まれながら、私は、ただひたすらに
夜が明けるのを願う。
 もうおうちかえりたい。
 家に帰って、いつものように、兄さんに抱っこされてのんびりしたい。
 時刻は二時。
 夜明けは、まだ遠い。


 終

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最終更新:2010年10月24日 21:53
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