396 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:44:25 ID:VSwEIp7P
「ねぇ…どっちが可愛い?」
目の前に、可愛らしい花柄ピンクと淡い水色のロングスカートが揺れている。
「う~ん…どっちも可愛いけど、由奈はスカートよりデニムのほうがいいんじゃないか?」
近くにあったジーンズを手に取り、由奈の腰に当ててみた。
やはりスタイルがいいのだから、腰のラインがはっきりと見えるモノのほうが見栄えするし似合う気がする。
「でも、お兄ちゃんはこんな感じのスカートのほうが好きなんでしょ?よく、雑誌見て可愛いって言ってるじゃない…」
頬を膨らまし此方を睨むと、ジーンズを元のあった場所に戻せと言わんばかりに、俺が由奈の腰に当てているジーンズの上から花柄のスカートを合わせて見せた。
確かに俺はふわっとした雰囲気を好む…それは身近に居た妹二人が可愛いと言うより美人の部類に入るからだと俺は思っている。
簡単な話、身内とはいえ美人を見慣れている俺は、自然と可愛いおっとりとした子に目が向いてしまうのだ。
だからといって美人が嫌いな訳では無い。
やはり綺麗な人には視線を奪われる事だって多々あ……。
「ちょっと……今、私と買い物してるんでしょ?どこ見てんのよ?」
由奈に頬をつねられ、引き寄せられた。
397 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:45:12 ID:VSwEIp7P
「い、痛いって!ただ、ボーってしてただけだろ!」
由奈の手を頬から引き剥がし、頬をさする。
「…本当に?」
下から覗き込むように顔を近づけてきた。
「本当だって…だから早く服選べよ」
まぁ、ぼーっとしていたのは嘘で本当は店の外を歩く綺麗な人に見とれていたのだが…それぐらい男として許してほしい。
「しかし…本当に大きな所だな」
店の外に目を向け呟いた。
由奈と買い物に出掛け、由奈に連れられて来た場所は最近出来た市内にある大型ショッピングモールだった。
雑貨から洋服和服までなんでも揃っているらしく、一昨日オープンしたばかりなので言葉は悪いが人が蟻のようにごった返している。
その中に俺達も混ざっているのだが、そんな人間達が足を止めてまでも見ようする一際目立つ存在が俺の目の前にあった――。
「可愛いよね~、こんな綺麗な身体私も欲しい~!」
「スタイルも良いし顔も小さいし、それに雰囲気が高嶺の花って感じで近寄りがたい所がまた憧れるよねぇ~!」
隣に居る女子高生二人が俺と同じものを見て目を輝かせている。
「はぁ、私も零菜みたいになりたいなぁ…」
そう…目の前にあるのは妹、零菜の特大ポスター。
398 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:45:51 ID:VSwEIp7P
店の外ガラスに大きく貼られており、誰もが目につく所を零菜が独占している。
この店をアピールする為にこの店のブランド服を着ているのだろう……だからだろうか、ポスターを見た女性達は当たり前の様に次々とその店の中へと吸い寄せられていく。
トップモデルという肩書きは女性の憧れを一身に受けるのだろう……これなら親も鼻が高いはずだ。
旧家だの掟だの世間体に拘っていた親類達は最初猛反発したそうだが、一度成功するとやっぱり零菜は高杉家の華だと懐に入ろうとする。
自分自身の事では無いのに、何故かイライラする…。
「お兄ちゃん、どうしたの…顔、恐いよ?」
由奈に肩を掴まれ、はっと我に返った。
「いや、なんでも無い…。それより買いたいモノは買ったのか?」
「うん…一応お兄ちゃんが持ってたジーンズと水色のスカート買ったよ」
手に持っている紙袋を嬉しそうに持ち上げ中を開いて見せてくれた。
中を確認すると、確かに紙袋の中には俺が手に取ったジーンズが入っていた。
「なんだ…結局買ったんじゃないか」
「ふふ…お兄ちゃんが似合うって言うから仕方なくね」
仕方なくって…別に俺の意見に合わさなくてもいいのだが…。
399 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:47:49 ID:VSwEIp7P
「んで、これからどうするんだ?まだ買いたいモノあるのか?」
時計に目を向ける。
7時30分…この店に来たのが6時だから、すでに1時間30分も服選びに付き合わされた事になる。
女の買い物は男に苦痛と言うが、まさにその通りだ。
俺としては、歩きっぱなしだったので少し休みたいのだが…。
「そうねぇ……後はCDショップと本屋に行って終わりね。お兄ちゃんのお箸とコップも買いたかったけど、それはまた明日にしよっか」
「明日も来るのか!?」
「えっ?当たり前じゃない。模様替えの為のカーテンも欲しいし、あとは小物類も――」
次々に由奈の口からでてくる言葉に明日だけでは終わらない事を悟った。
「あとはパジャマもy分かった、分かったから。はぁ…だから早く今日買いたいモノを買ってしまおう」
ため息を吐き由奈が話続ける言葉を遮ると、由奈の手から先ほど買った衣服が入っている袋を手に取り人混みの中へと入っていった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
後ろから慌てたような声と共に俺の空いている腕に手が巻き付いた。
勿論由奈の手だと思っていた俺は、人前で腕を組むなという訴える目を隣に落とした。
「ふふ、優くんビックリした?」
400 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:52:27 ID:VSwEIp7P
――隣に居たのは由奈では無く、小柄な女性。
くりっとした目に母性をくすぐる(母性など持ち合わせていないが、何故かその言葉がしっくりくる)あどけない表情。
「あれ?薫ちゃん?」
顔を確認すると、自然とその子の名前が口から出た。
――俺の腕を取っていたのは大学時代からの女友達である杉原 薫だった。
「何してるの?一人で買い物?」
俺の手にある紙袋の中身を確認しようと、手を伸ばしてきた。
「ちょ、恥ずかしいから勘弁してくれ…」
苦笑いを浮かべながら紙袋を薫ちゃんの手から遠ざけた。
中には由奈のスカートが入っているのだ……流石に見られるのは抵抗がある。
それに万が一変な趣味だと思われたら…。
「えぇ~?いいじゃん、見せて見せて~」
人混みの中、薫ちゃんは俺の袋を奪おうと必死になって紙袋に手を伸ばしてきた。
此方も何とか手から逃れようと右へ左へと薫ちゃんの手が届かないように袋を動かした。
そんな事をしているうちに薫ちゃんも夢中になったのか、俺の身体へ自分の身体を押し付けてくるようになった。
小柄なのだが出ている所はちゃんと出ているので感触が…。
「ちょっ、薫ちゃん身体が」
401 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:53:01 ID:VSwEIp7P
流石に人前で、しかも人々が行き交う中でこんなことをしていたら周りの迷惑になるし、自分自身困惑してしまう。
それに周りの人だって変な目付きで俺達を見ながら通り過ぎていく。
中には立ち止まって此方を睨み付けている人だっ……て…。
「ちょっと……私のモノにベタベタと触らないでもらえますか?」
睨み付けていたのは我が妹の由奈だった。
そう言えば由奈も居たんだ…。
人混みの中、此方へツカツカと歩み寄ってくると、俺の手にぶら下がっている紙袋を強引に引き剥がした。
「由奈…お前またそんな言い方を」
由奈を咎めようと眉を潜めた。
しかし、由奈は俺に見向きもしない。
由奈が見ているのは……。
「な、なんですか…?」
由奈の視線を感じたのか、薫ちゃんはおどおどと後退り俺の後ろへと隠れた。
「また―たない手で――ちゃんを―――ねよ―がッ―」
雑音で由奈の声が途切れ途切れしか聞こえない。
ブツブツと呟くように話しているので余計聞こえにくいが、由奈の顔を見る限り何となくあまり良い言葉を呟いているようには見えなかった。
昨日の出来事を思い出す…。
お互いに良い出会い方をしたとは言えないだろう…。
402 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:55:19 ID:VSwEIp7P
ファミレス前での一件……それに俺はよく薫ちゃんに由奈の事で相談をしていた。
お互い二十歳を越えているのだから、そろそろ恋人や好きな人ができてもおかしくない年頃。
いや、中には結婚して子供が居る人だって山ほど存在するのだ。
それなのに由奈の口からはこれと言った特定の男性名が出た事が一度も無い。
由奈なら選び放題とまではいかないが、間違いなく良い男を捕まえれるだろう。
目利きもいいので悪い男に引っ掛かる心配も少ないはずなのだが……。
――ふと由奈に視線を向けてみた。
「お兄ちゃん、早く行こうよ」
薫ちゃんから視線を外し、いつの間にか此方に目を向けていた。
その目は明らかな苛立ち色を含んでいる。
「そうだな。それじゃ薫ちゃん、買い物楽しんでね」
ここは由奈の言うことを聞いていたほうが無難だろう。
薫ちゃんに軽く手を振り、人混みに紛れようと由奈の背中を軽く押して歩き出した。
「待って、優くん!」
歩き出した直後、後ろから薫ちゃんに呼び止められた。
再度、後ろを振り返り薫ちゃんに目を向ける。
何故か頬を赤らめ、上目遣いで此方を見つめもじもじと身体をくねらせている。
403 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:56:06 ID:VSwEIp7P
正直、この仕草に俺は滅法弱い。
恥ずかしがる女の子と言うのは誰でも心揺すられるモノだが、俺は人一倍揺すられるのだ。
それに見た目が伴うと尚更…。
「あの、あのね…今日…一緒y「すいませんが、先を急ぐので失礼します」
薫ちゃんの言葉を遮る由奈の声が聞こえたかと思うと、後ろから腕を力強く引っ張られ一瞬で人混みの中に吸い込まれた。
人混みに飲まれる間際、薫ちゃんの表情が酷く歪んだのは気のせいだろうか…。
※※※※※※
「はぁ……上手くいかないなぁ…」
空を見上げながらため息を吐く。
小さな星が数個見えるだけだ。少し曇っているのかも知れない…市内の方にいくと曇ってようが無かろうが星は常に見えづらいのだが、今私が居る場所の周りには古家しか無い。
昔から変わらない風景だが、私はこの風景が気に入っている。
今私が居る場所は実家の近所にある小さな橋の上…昔から悩み事があると私はこの場所に来ていた。
橋の下を流れる川水の音に虫が鳴く音…夏になるとカエルの鳴き声も聞こえてくる。
実家に居る時もそうだが、カエルの鳴き声や虫の音は小さい時から聞き慣れているので私の子守唄となっている。
404 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 22:58:11 ID:VSwEIp7P
それを周りの友達や知人に話すと決まって驚いた表情を見せてくれた。
しかし、一人だけ私に共感してくれる友達が居たのだ。
それが優くんだった…。
初めは別になんとも思わなかったのだが、色々な優くんとの共通点を見つけていくにつれていつの間にか優くんの事が好きになっていた。
まぁ、察しが悪い人でも分かると思うが、私が悩んでる事…それは優くんのこと。
優くんの事と言うより、優くんの家庭事情と言ったほうがいいかも知れない。
優くんに相談されたのは一年ほど前だった。
仕事場が突然倒産して、仕事が無くなったらしい…。
そんな事はなんら問題では無い、若いのだから次の仕事を探せばいいだけだ。
この御時世すぐに見つかるとは思えないが、優くんならまた良い仕事が見つかるだろう…。
だから私は軽い気持ちで相談に乗っていたのだが……半年ほど前に突然優くんから優くんの妹に対する相談を受けたのだ。
相談窓口じゃないんだからと少しムッとしてしまったが、優くんから頼られる事に優越感を覚え相談に乗る事にした。
優くんには3つ年の離れた妹がいるのだが、優くんから話を聞く限り、その妹が優くんの行動を制限しているようなのだ。
405 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 23:00:04 ID:VSwEIp7P
確か名前は由奈ちゃん…だった気がする。
始めは「兄になついている妹なんだなぁ…」ぐらいにしか思っていなかったのだが、ある日由奈ちゃんから頻繁に送られてくるメールが気になり、一通だけ優くんにお願いして見せてもらった事があるのだが……見た瞬間、背筋がゾッとした。
兄に送るメールの内容では無いのだ。
なんと言えば伝わるだろうか……妻が愛する旦那に送るメール…と言えば分かりやすいだろうか…。
とにかく兄妹のメール交換では無かった。
もしかして優くんも…気になり優くんのメールも確認したが、優くんは割りと普通のメールで返していたのでホッとした。
だから由奈ちゃんと会うのは正直恐かった。
由奈ちゃんがどんな人間か分からなかったから。
そして昨日…初めて由奈ちゃんと対面した。
結果…やはり私の考えていた通りの子だった。
あの子は優くんに依存している…それもかなり重度に。
他人の私が引き剥がそうとすれば由奈ちゃんは躊躇する事なく私に攻撃してくるだろう…。
それは昨日由奈ちゃんの行動を見てはっきりと感じた。
あの時、優くんが助手席に向かわなければ間違いなく何らかの攻撃を仕掛けられたに違いない。
406 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 23:01:14 ID:VSwEIp7P
「う~ん…どうすればいいんだろ…」
優くんと由奈ちゃんを普通の兄妹に戻さない限り優くんと遊ぶ事すら儘ならない…。
そうなると付き合うなんて夢のまた夢のような話になってしまう。
私に対する優くんの印象は多分良いほうだと私は思っている。
家族の悩みを打ち明けてくれたのだから、少なからず好意も寄せられていると思いたい…。
「あぁー、誰か助けてよ~!」
暗闇の中、近所迷惑にならない程の声で叫んだ。
――「どうしたの?」
後ろから聞こえてきた声に思わず小さな悲鳴をあげ、頭を抱えてしゃがみこんだ。
私が座り込んでいるアスファルトのすぐ隣に人影が写っている。
真後ろに誰か居るようだ。
声から察するに女性の声だったけど…。
やはり近所迷惑だったのだろうか?
恐る恐る腕の隙間から後ろを確認した。
「あら…ごめんなさい。驚かせるつもりなんてなかったのよ?」
外灯の明かりに照らされたシルエットが私に手を差し出している。
差し出された手に戸惑いを隠せなかったが、女性なので痴漢の類いでは無いと勝手に判断し、差し出された手を取らせてもらった。
407 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 23:09:14 ID:VSwEIp7P
「す、すいません…ッ…ありがとうございます」
触れた瞬間、心臓が跳ね上がるほどの冷たい手だったが、顔には出さず立ち上がり頭を下げた。
「くすくす……何か悩み事でもあったの?声がお腹から出てたわよ?」
女性は小さく上品に微笑むと、私のお腹を軽くポンポンと叩いて見せた。
普通なら「他人になんでそんな事言われなきゃならないのよ!」と文句の一つでも言うところなのだが、何故か言えなかった。
多分この人の容姿のせいだと思う…。
顔が化け物みたいとか、おかしな場所があるとかでは無い。
……ただ、綺麗過ぎるのだ。
同性の私が見ても純粋に綺麗だと言える程に――。
腰できっちり揃えられた艶のある黒髪に、細い目……日本人形の様な不思議な雰囲気をもっている。
身長も私より10センチ以上高い。
女性の後ろにはいかにも高そうな車が橋の真ん中で停まっている。多分この女性の車だろう…運転している姿を頭で想像する……似合い過ぎるぐらい絵になっていた。
恥ずかしい事に目の前に立つ同性に見とれている自分が居た。
「……あっ、すいません!大声だしちゃって!」
我に返った私は、またも響くような声をだしてしまった。
408 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 23:10:35 ID:VSwEIp7P
慌てて口を押さえて、目だけで女性の顔を確認する。
表情変えず、まだクスクスと微笑んでいる。
「ごめんなさいね?貴女あまりにも元気だから」
私の顔がおかしかったのだろうか?
口元を隠して笑いを堪えている…が目が笑っている。
「はは、あはは…は…」
彼女につられて私も笑う。
まぁ、私の場合は苦笑いなのだけど…。
「ふぅ……で、貴女は何をしていたの?」
お互いに意味の分からない事で数分笑った後、息を落ち着かせた女性が私に問いかけてきた。
「いや、別になにもないです…」
流石に見知らぬ人に相談していいことでは無いだろう…。
まぁ、友達になれば相談もアリかも知れない…けど…。
「……あれ?お姉さんどっかで会いませんでしたか?」
ふと、女性の顔に見覚えがあることに気がついた。マフラーで口が隠れているので見え辛いが、最近どっかで見た様な気がする…。
「ふふ……会った事は無いわね。多分今日が初めてよ。
ただ、私は人の目につきやすいお仕事をしているから」
意味深な発言と共に首に巻いてある黒いマフラーを外して見せた。
「え……ウソ…な、なんで!!?」
多分今日一番デカイ声を出したんじゃないだろか。
409 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 23:11:24 ID:VSwEIp7P
勢いよく女性から距離を取り再度失礼の無いように顔を確認する。
「あの…すいませんけど」
絶対に間違いない。
今さっきコンビニで買った雑誌の表紙に大きく写っていたので鮮明に覚えている。
ドキドキする胸を両手で押さえ、恐る恐る聞いてみた。
――「モデルの篠崎零菜さん…ですよね?」
「……あら、私の事を知ってくれてるのね。ありがとう」
ニコッと微笑み手を差し出される。
なんの躊躇もせず私はその手を両手で握りしめた。
「キャー!本当に凄い!なんでこんな場所に居るんですかぁ!?」
私の興奮が一気に爆発した。
女性の憧れであり、誰もが認めるトップモデルの篠崎零菜が私の前にいるのだ。
雑誌やテレビでしか見れなかった人が私の目の前にいる。
それだけで気絶しそうだった。
「弟と妹に会いにね…。その帰りに貴女を見かけて、珍しいモノを見せてくれたから声を掛けさせてもらったの」
「珍しい……ですよね…はは…」
自分でも分かるぐらい顔が真っ赤になっている…。
まさか零菜さんがこんな田舎に居るなんて想像すらしていなかった。
今日私は誰よりも幸福者なのだろう…。
いや、運を使い果たしたかも知れない。
410 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 23:21:08 ID:VSwEIp7P
申し訳ないのだが、この時ばかりは優くんの相談事が頭から抜けていた…。
一時間の零菜さんとの雑談は緊張しっぱなしだったけど本当に楽しかった。
私の知らない世界を数多く教えてくれたし、コンビニのロールケーキが好きと、小さな庶民性も見せてくれた。
多分一般人では私が一番零菜さんの話を聞けたかも知れない。
帰り際そんな零菜さんから、迷惑じゃなければ電話番号を交換しようと言ってくれた。
「本当ですか!?私で良ければ喜んで!!」
断る理由なんて一ミリも無いので、快くOKさせてもらった。
お互いに手を振り颯爽と車で走り去る零菜さんを見送り、再度携帯の画面を確認する。
零菜さんと書かれた文字の下に11桁の数字が並んでいる。
間違いなく零菜さんの電話番号だ。
「わぁ…私本当に零菜さんと話てたんだ……それに電話番号まで……」
携帯を頬に当て空を見上げる。
夢のような時間だったけど、本当に楽しかった。
これで優くんの悩み事も解決できそうな気がしてきた。
411 狂もうと ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/05(土) 23:21:44 ID:VSwEIp7P
「あれ?そう言えば優くんの名字も確か…」
ふと頭の中で優くんと零菜さんの顔を同時に浮かべてみた。
「……まぁ、同じ名字の人なんていっぱい居るしね…よし!明日から頑張るぞ~!」
二人の重なり合う顔を頭から無理矢理消すと、携帯をポケットに突っ込み、零菜さんの余韻がまだ残る橋の上から自宅へと走りだした。
最終更新:2011年03月26日 11:11