195 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:01:40.97 ID:KKrkdgre
深夜ふと目が覚める事がある。
これは俺だけじゃないはず。
特に楽しい夢を見ている時に限って何故か良い所で目を覚ます。
夢食いバクの嫌がらせだとしても、もう少し待ってほしいものだ。
そんな時、また同じ夢を見ようと眠りにつく事に必死になって逆に何時間も寝れないのは俺だけだろうか?
今もその状態なのだけど…。
「……(なにやってんだよ…)」
俺は今、別の理由で寝られなくなっていた。
確かに俺は楽しい夢を見ていたはず…だけど今はもう思い出せない。
まぁ、それは当たり前の事…普段なら必死になって夢を思い出すように頭の中から夢の記憶を探すのだが…今の俺はそんな些細なことに頭が回らなくなっていた。
何故かと言うと…。
「…はぁんっ…お兄ちッゃ…はぁ、はぁっ…あっ」
真後ろで悩ましい声をあげ、俺の耳に吐息を吹き掛けている人物がいるのだ。
まぁ…この家に居るのは俺以外に血の繋がった妹しか居ない訳で…。
と言うか間違いなく由奈だろう…。
そりゃたまにおかしな事をする妹だと思っていた…そんな妹だけど血の繋がった可愛い妹だからと大目に見てきたが…流石にこれはダメだろ…。
196 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:02:35.39 ID:KKrkdgre
「はぁ、あっダメッ…ッ…んッ…」
俺の寝間着をギュッと握ると、一際大きくビクつくのが背中越しに分かった。
あまり考えたくは無いが…まぁそういう事だろう。
「はぁ、はぁ……ふぅ…」
一段落ついたのか布団の中でモゾモゾすると、俺の頬にキスを落として部屋を出ていった。
「はぁ…マジかよ」
由奈が部屋に戻るのを確認すると、ため息を吐きベッドから起き上がり頭を抱え込んだ。
ここまで来ると本格的に由奈の事が分からなくなってきた。
由奈いったい何がしたいのだろうか…。
俺が何か間違いを犯したのか?
ちゃんと由奈と話し合うべきなのだろうか…。
誰かに相談できればいいのだけど…。
「あ…そう言えば零菜から携帯番号の紙を…」
ふと零菜の紙切れの存在を思い出した。
確かポケットの中に入れたままだったけど……。
「零菜かぁ…」
零菜の顔を頭に浮かべてみる。
冷たい表情しか思い浮かべられない…。
正直零菜とは顔を会わせたり話したりするのは避けたい。
多分向こうも同じ考えなはず…。
だが同じ名字を持つ人間としてほっておけないのだろう…“篠崎”という古くから力のある名字を持つ人間としては…。
197 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:03:16.03 ID:KKrkdgre
「はぁ…めんどくさいなぁ……冷たッ!」
ベッドに倒れ込み枕に顔を埋めると、頬に冷たい水のようなモノが当たった。
何かと思い手で触って確認すると、枕の真ん中辺りがじんわりと湿り気を帯びていた。
先ほどの行為の最中、由奈が何度か俺の首筋に鼻を押し当てていたのでその時だろう……すぐに由奈の唾液だと分かった。
「ったく…せめて拭いていってくれよ」
枕を裏返し、再度頭を乗せる。
こんな状態で眠れる訳が無いが、朝までこうしていればいつの間にか眠っているかも知れない。
そう思い目を閉じた。
次の日の朝、俺は由奈を見送った後零菜へと電話した。
朝といっても昼前の11時頃だ。
悩みに悩んだ末零菜に相談する事にしたのだ。
『もしもし?』
「もしもし…俺だけど…」
『どちら様でしょうか?』
「…勇哉だけど」
『あら、珍しいわね?どうしたの?』
「いや…番号教えてもらったから電話したんだけどさ」
『あぁ…本当に電話してくるとはね…』
クスクスと零菜の笑い声が聞こえてきた。
やはり面白半分だったのか…。
だから嫌だったんだ。
「……やっぱりいいわ、仕事頑張って」
話を強制的に終わらせ受話器を置いた。
198 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:03:56.55 ID:KKrkdgre
零菜との会話はやっぱりイライラする。
基本、人を見下したあの態度が気に食わない。
まぁ、育った環境が環境なだけに仕方のないことなのだろうけど…。
その環境から逃げた俺が口を挟める事では無いから余計にイライラするのかも知れない。
そんなことを考えながらリビングにある椅子に腰掛けていると、普段鳴らない電話が鳴り響いた。
十中八九零菜か由奈だろう…。
まぁ、確率的には由奈の方が高い。
無視しようと思ったのだが、由奈の場合無視すると後が面倒なので仕方なく電話に出る事にした。
「もしもし?」
『突然電話してきて、一方的に切るなんてどういう神経してるの?』
どうやらハズレを引いたようだ…。
「あぁ、悪かったな。人を逆撫でするほど忙しそうだったから電話を切らせて貰ったんだ…対応を間違えたか?」
此方も嫌味たっぷりの返事を返してやる。
『偉そうに、落ちこぼれの分際で口だけはいっちょまえになったのね?』
「挑発してるつもりか?……もういい。お前との会話は疲れる。やっぱりお前に電話したのは間違いだったな。
勝手に父さん達に媚び売ってろ…んじゃな」
199 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:04:39.47 ID:KKrkdgre
言い終わった後に少し言い過ぎたかと思ったが、俺に言われてどうこうなる人間でもないだろう…そう思い直しまた電話を切ろうとした。
「……待ちなさいよ。言いたい事言って逃げるつもり?いいわ…今偶然貴方の家の近くに居るから話をしましょう。貴方が私に電話をしてきた内容も気になるし。それじゃ、また後で」
「おっおい!待てよ!」
俺の言葉を聞かずに電話は切れてしまった。
まさか…本当に家に来るのか?
それはマズイ…何がマズイって俺の精神的にかなりマズイ。
零菜と一対一で話すなんて身が持たない。
そんなことを考えながらアタフタしていると、インターホンの音が家の中に響いた。
「まさか……零菜?いや……流石に早すぎるだろ…た、宅配かな?」
零菜との電話が終わってまだ5分ほどしか経っていない。
そんなに早く来る訳が無い。
そう自分に言い聞かせながら、リビングにあるモニターで玄関前を確認する。
「……勘弁してくれよおい…」
玄関前に立っていたのは間違いなく双子である妹の零菜だった。
カメラに向かって笑顔で小さく手を振っている。
此方も苦笑いいっぱいで弱々しく手を振り返すが、向こう側に見える訳が無い。
200 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:05:25.80 ID:KKrkdgre
まだ5分しか経っていないのに心の準備すらできていない俺が零菜の対応を出来るのだろうか?
いや、絶対に無理だ。
「……居留守使うか…いや、でも5分前まで家に居るってバレてるしなぁ…あぁマジでどうしよ~!」
モニター前でウロウロしながらどうするか悩んでいると、またインターホンの音が鳴った。
今度は三回連続で…。
再度モニターに目を向けて見る。
何故か零菜の顔がカメラにアップで映っていた…。
他の人には綺麗な顔が画面一面に映るのだから喜ばしいことなのかもしれないが、俺には“憂鬱”という言葉しか頭に浮かばなかった。
「はぁ……ん?」
アップになった零菜の口が小さく動いた。
何か言葉を口にしてるようだ…。
「…あ…け…て?開けて?………あぁ、もうダメだ!居留守バレてる!」
頭を抱えてフローリングに転がる。
零菜と二人で話し?何を話せばいいんだ?由奈のこと?いや、本当に由奈の事を零菜に話していいのだろうか?
由奈の事が零菜から父さんに伝わりでもしたら…。
「ダメだ…零菜に言えない…」
地面に転がり続けている間にまたインターホンが鳴った。
今度はイラつき気味に四回…。
「はいはい、お兄ちゃんが出ますよ!」
201 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:06:01.80 ID:KKrkdgre
自棄になり、そのまま玄関に向かう。
お茶を飲ませて帰らせば大丈夫だろう…。
電話の内容は些細な事だから忘れてくれと言えば良い…まぁ、些細な事では無いのだけど。
とにかく適当に零菜の話を合わせて帰ってもらう。
それでいこう…。
「開けるって!何回も鳴らすなよ!」
俺が玄関に到着する間際にまたインターホンに指を持っていく姿が玄関の硝子越しに見えたので、その前に扉を開けてやった。
「遅かったわね、待ちくたびれたわよ?」
微笑みながら玄関前に立つ零菜を見て、あぁやっぱりモデルなんだなぁと一瞬思ってしまった。
美人はやはり何処にいても美人なのだ。
黒い髪が風に揺れている……風すらも背景にしている。
「……家の中に入れてもらってもいいかしら?」
細い目で俺の目を直視すると、手に持っている紙袋を持ち上げて見せた。
紙袋の隙間から小さなカップがいくつか見えた。
食べ物だろうか?
「あ…あぁ、悪かった。どうぞ」
何故双子の妹に見とれなければいけないのか…頭から雑念を振り払い零菜をリビングに通した。
202 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:06:35.22 ID:KKrkdgre
リビングのソファーに座らせお茶をだすと、紙袋からカップを取り出しテーブルの上に起き出した。
「これ…プリン?」
「えぇ…私が作ったのよ?よかったら食べて」
テーブルに置いたプリンを一つ俺の前まで滑らせると、丁寧にカップのふたを外してくれた。
一つ一つの仕草が女性らしい…教育が行き届いているのだろう。
紙袋からプラスチックのスプーンを俺に差し出してきたので、それを掴み無言でプリンを食べてみた。
「……美味しい…」
自然と言葉が漏れてしまった。
腹立つ事に店に出しても問題無いぐらい美味しかったのだ。
「ふふっ、ありがとう。それじゃ残りは冷蔵庫に入れておくから」
立ち上がりプリンの入った袋を掴むと、冷蔵庫に向かって歩きだした。
「さて……どうするかな」
これで零菜に帰ってもらえると一番有難いのだが、そんな訳にもいかないだろう…。
「それで?電話の内容だけど。あれはなんだったの?」
いつの間にか零菜が冷蔵庫にプリンを入れてソファーに戻って来ていた。
「いや…あれは言い過ぎたよ…悪かった」
ここは謝っといたほうがいいだろう…。
頭を下げて零菜に謝罪した。
203 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:07:11.69 ID:KKrkdgre
「そんな事じゃなくて…貴方何か用事があって私に電話してきたのでしょう?」
頭上から呆れたようなため息が聞こえてきた。
やはり、話はすり替えられないか…。
「いや、ほら…零菜言ってただろ?電話してきなさいって…なんであんな事言ったのかなぁって…」
自分でも目が泳いでるのが分かった。
何故か零菜と対面すると目を合わせられない…多分殆どの人がそうだと思うがあの目を前にして直視できる人は少ないんじゃないだろうか?
「ふ~ん…まぁいいわ…私が電話した理由…それは由奈の事よ」
信用していないのか興味無いのか鼻で小さく笑うと、俺が入れたお茶に少し口をつけた。
「由奈の事って?」
零菜の口からでた由奈の名前に昨夜の事を思い出し、背筋が震えた。
「あの子ももう二十歳を過ぎているでしょ?そろそろいい人を見つけないとダメだと思うの」
確かに…由奈は二十歳を過ぎて彼氏すらいない…それは俺も同じだ。
それに零菜だって結婚していない。
順番からして、まず俺や零菜から家庭を持つべきじゃないのだろうか?
「お前だって結婚してないだろ?まず自分からじゃないのか?」
思っていることをそのまま口にだした。
204 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:08:28.93 ID:KKrkdgre
俺が言えた事じゃ無いがお互い二十歳半ば…。
零菜は彼氏ぐらいなら居るかも知れないが、それを父が許すのだろうか?
篠崎家の血に見知らぬ血を混ぜる事を極端に嫌うあの父が…。
「あら…私は婚約者がいるのよ?」
「え……はっ?」
婚約者?なんだ婚約者って?
零菜から出た“婚約者”という言葉に思考がストップしてしまった。
当たり前のように出た婚約者と言う言葉…。
零菜に目を向けて見ると、なに食わぬ顔でお茶を飲んでいた。
「こ、婚約者って…お前確か仕事が忙しいからって…」
「婚約は昨日決まったことだから」
昨日?零菜が家に訪れたのが一昨日…そんな一日で話が進む事なのか?
「ちょっ、待ってくれ…頭の整理をするから」
他人事なのに、何故自分がこんなにも焦っているのか分からなかった。
「もう決まってる事なのよ?それに此処に来る時も送ってもらったの。今も家前の道で待ってくださってるから私も早く戻らないと」
お茶を飲み干し、テーブルの上にカップを置くと、カバンを掴み立ち上がる。
「ちょっ、待てって」
「それじゃ、またね」
俺の言葉を無視してリビングから出ていくと、靴を履きそのまま家から出ていってしまった。
205 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:09:30.12 ID:KKrkdgre
慌てて俺も靴を履き後を追う。
何故こんなに零菜を引き留めようと必死になっているのだろうか?
家から出ていってくれるのだから好都合なはずなのに…。
――零菜の言うように、玄関前の道路には高級車が一台停車していた。
真っ黒な外車…車には詳しく無いが、多分数千万するだろう。
どんなヤツが乗っているのだろうか?
零菜が助手席に乗る間際、運転席が見える様に身体をずらし覗き込んでみた。
「遅かったね零菜ちゃん。それじゃ行こうか?」
運転席に座っていた男性を見て身体に鳥肌が立った。
――髪は薄く、腹が自分の膝に乗るほど太っており、脂ぎった顔に嫌らしい目付き…。
明らかに40才越えているその男に俺は一目見て生理的に受け付けないと判断した。
「ごめんなさい。兄と少し話があって…」
零菜も笑顔でその男に話しかけている。
俺には見せたことないような笑顔で…。
「いいよ、零菜ちゃんの為なら何時間でも待つから。今日は夜まで大丈夫なんだろ?」
嫌らしい目付きで零菜の胸をじろじろと見つめている。
「はい…父には伝えてありますから」
俺がいても関係無いのか、別の意味で耳が痛くなるような会話を話し出した。
206 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:10:06.48 ID:KKrkdgre
流石に生々しい会話を見ているのが嫌になり、車に背を向けて玄関に向かった。
アホらしい…なんで俺が苛つかなきゃいけないのだ。
零菜が誰と結婚しようが関係無い…どうせあの父が連れてきた男なのだろう。
あれが零菜に相応しい相手なら勝手にすればいい。
もしあれが由奈の相手なら、考え直せと必死になったかも知れないが零菜の事なんて俺には関係無い。
「優哉」
玄関の扉を開けた時、後ろから声が掛けられた。
「日曜日、昼の十二時に○○駅に来なさい。遅れないでね」
それだけ言うと、脂ぎったオッサンと共に零菜は帰っていった。
「なんだよアイツ…誰が行くか」
やはり零菜と会ったのは間違いだった…アイツと会話するとストレスが溜まる。
「はぁ…もう一度寝るか…」
どっと疲れた頭でこれ以上考える事は難しく、そのままリビングに戻りソファーの上で眠ってしまった…。
――この日、本来の俺なら絶対にしないミスを犯していた。
207 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:10:43.65 ID:KKrkdgre
「う~ん……ぐッ、ぁあ!?」
突然気持ちよく寝ていた俺の腹部に鈍い痛みが襲った。
驚き、起き上がる為に上半身を持ち上げようとするが腹部になにか乗っていて動かせなかった。
何か確認する為に薄目を開けて確認する。
真っ暗な部屋…何時間眠っていたのだろうか?
時計を探すがこんな暗くては見えない…それより早く上に乗ってる物体を確かめないと…。
そう思い腹部に目を向ける。
窓から射し込む月明かりに照らされて人のシルエットが写し出されていた。
「だ、誰だ!」
俺の上に乗っているのは人間。
身の危険を感じた俺は右手を人影に伸ばし突き飛ばそうとした。
しかし寝ている状態で手を突き出してもまったく力が入らなかった。
それに触った感触だが、多分女…。
「どけって…言ってるだろ!」
なんとかもがいて抜け出そうとするが、寝起きなのもあり上手く身体が動かせなかった。
このままじゃ危ない…上に乗っかっている人影は右手に大きな何かを持っているのだ。
もし何かの武器なら――。
「……お兄ちゃん」
「このっ……え?お兄ちゃん?」
小さく呟いた聞き覚えのある声に、抵抗する手が止まった。
「お前……由奈…か?」
208 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:11:17.67 ID:KKrkdgre
震える手で頬に触れてみる。
触っただけじゃ分からないが、声で由奈だと分かった。
「おまえビックリするだろ!」
妹なりの悪ふざけなのだろうが、流石に心臓が破裂するかと思った。
由奈を横にずらし、立ち上がろうとする…が由奈が移動する気配が無い。
「どうした?何かあっッ!?」
突然由奈が肘で俺の首をソファーに押し付けときた。
「なにするんだッゴホッゴホッ!」
由奈の肘を両手で掴み押し退ける。
喉を押さえてソファーからフローリングに落ちると、蒸せるように咳をした。
「お兄ちゃん…これなに?」
精気の無い声でそう問い掛けると、フローリングに勢いよく叩きつけた。
グチャッと潰れる音と共にフローリングに何かが飛び散った。
それを手で触り確認する……やっとそれが何か確認できた。
――零菜が置いていったプリンだ。
「お兄ちゃん私が居ない時にあの女入れたでしょ!?なんでそんな勝手なことするの!!!」
そう怒鳴り付けると、勢いよく俺の上にのし掛かってきた。
「お兄ちゃん、私の言ったこと分からなかったの!?しかもこんな紙まで!」
後ろから俺の首に腕を回しグイッと持ち上げると、小さな紙を目の前に見せつけてきた。
209 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:12:03.59 ID:KKrkdgre
小さな紙には「由奈ちゃんと食べてください。零菜」と書かれていた。
「仕方ないだろ!?妹なんだから追い返す訳にもいかないし!(あのバカ余計な事を!!)」
思い出したく無い零菜の顔を頭に浮かべ、罵倒する。
しかし今はそれどころじゃない。由奈をなんとかしなければ。
「妹は私でしょ!?いい加減にしないと本当に怒るわよ!」
耳元で怒鳴り髪を掴むと強引に由奈の目と俺の目が合うように顔を持ち上げられた。
「落ち着けって…勝手に家に入れたのは悪かったよ」
ここはちゃんと謝った方がいいだろう。
零菜にも謝ったが…俺は基本妹に頭が上がらないのだ。
「お兄ちゃんの妹は?」
「は?」
「お兄ちゃんの妹は誰って聞いてるのよ!!」
イラついたように力強く髪を引っ張ると、うつ伏せから仰向けにひっくり返された。
「痛いって!お前だよお前!妹はお前だ由奈!!!」
「はぁ…はぁ…お兄ちゃん…食べたの?」
息を整えた由奈が、耳元に口を近づけてきた。
この流れはヤバい…。
「食べて無いよ…零菜が一つ食べてたけど、俺は由奈と一緒に食べようと思ってたから」
多分由奈はゴミ箱に入っている食べ終わったカップの存在に気がついているのだろう…。
210 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:12:55.87 ID:KKrkdgre
だから俺に問い掛けているのだ。
ここで俺が食ったと言えば多分またトイレに連れていこうとする…。
あんなこと今後一切真っ平ごめんだ。
「そう、分かった…信用する」
「はぁ…ありがとう…」
髪から由奈の手が放れ、フローリングに頭を付ける事ができた。
首を痛めたかもしれないが、なんとか生き延びることができた…。
しかし何故由奈ここまで過剰に反応するのだろうか?
零菜だって家族なのに……まぁ、俺も人に言えた事ではないが。
「って、おい…」
話し合い?は終わったはず…なのだが由奈が俺の上から退く気配を見せない。
それどころか、俺に身体を擦り寄せてきた。
「そろそろ退いてくれるか?腹減ったし」
「お兄ちゃんさぁ…私これでも我慢してるんだよ?」
俺の言葉を無視しスーツを脱ぎ捨てると、今度は俺の服に手を掛けてきた。
「由奈…マジで止めろ」
由奈の手を掴み睨み付ける。
これ以上すれば兄妹ではいられない。
「ふふ…お兄ちゃん昨日起きてたでしょ?」
「な、おまえッ!?」
俺が起きてるのを気づいてあんなことしてたのか…。
目を見開く俺の顔を満面の笑みで見下ろすと、マーキングするように俺の足を股に挟み込んだ。
211 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 17:14:11.64 ID:KKrkdgre
「……今度あの女がこの家を訪れたら、車の後ろにくくりつけて引きずり回してあげる。
お兄ちゃんには特等席で後部座席に座ってもらうから。
……ふふっ…なんてね…冗談よ冗談……でも…本当に冗談になればいいね…」
耳についた口を動かしそう呟くと、俺の首筋に痛いぐらい吸い付いてきた。
「んっちゅっ…ふぅ…お兄ちゃんが私のモノって証…」
見えないが、首筋には丸く赤い痣がついてることだろう…。
それで満足したのか、由奈は俺の手を掴み立ち上がると俺をソファーに座らせ鼻歌混じりにキッチンへと向かった。
零菜の存在が由奈の狂気を加速させていく。
やはり零菜とは関わらないほうが良さそうだ…。
最終更新:2011年03月26日 11:06