253 :
黒い百合2 2011/05/10(火) 20:15:39 ID:TaoVpjpY
カーテンの隙間から朝日が入り込む。
悠はいつもとは違う部屋の香りと朝日で目を覚ます。
そのまま十秒ほど寝ぼけていたが、自身が暮らしている部屋とは異なることに気づき、一気に眠気が吹き飛んだ。
そして多くのプレイヤーが『DLTB』に閉じ込められた昨日のことを思い出し、悠は深い深いため息を吐いた。
なぜなら目が覚めたら全部夢であって、いつもの部屋が見えるのではないかと淡い期待を寄せていたからである。
しかし現実は非情であり、これから悠たちは現実世界に戻れるかも分からない状態で、ファンタジーの世界で生きて行かなければならないことを再度突きつけられた気分
だった。
現実逃避も兼ねて、体を横にして布団に潜り込み惰眠を貪ろうとして……失敗した。
なぜなら体を横にしようとしたらうまく動かなかったからだ。
悠は隣のベッドで寝ているはずのリリィが居ないことに気づき、さらに自身の左半身に人一人分の体重が掛かっていることに気づいてしまった。
ある種の予感と共に布団を捲り、覗き込むと……全身白い少女が悠の上に乗るかの様な体勢でしっかり、ぎっちりと抱きしめて幸せそうな寝顔を浮かべて寝ている。
「…………~~~っ!!??」
悠はあまりにも幸せそうな寝顔に見蕩れてしまったが、今の状況を思い出して声にならない叫び声を上げた。
声は響かなかったが体の振動は伝わったようでリリィは目を覚ましたようだ。
「お、おはよう……」
余りにも混乱して何を喋れば分からなくなった悠は、とりあえず朝の挨拶をする。
しかしリリィはそんな悠を一瞥し、軽く会釈をした後、さらにぎゅっと抱きしめて目を瞑った
そんな様子に悠は慌ててリリィの体を揺さぶって起こそうとする。
「いやいやいや!とりあえず起きろ!」
「なんですか、もう」
リリィは非難するかのように、ジト目で見つめる。
「……明らかに現状がおかしいのに俺が非難されなければならないのか分からないけど、なぜ俺のベッドに潜り込んでいるんだ?」
「寝ぼけていたんです」
「嘘付け。仮に寝ぼけていたとして、何で抱きしめているんだ?」
「抱き枕がないと寝れないタイプの人間なんです」
「……とりあえず、次からは潜り込まないように」
「善処します」
そして再び目を瞑り、先ほどより強く抱きしめるリリィ。
この問答の最中、一時も離さずに悠に抱きついていたリリィはいい根性をしていると言えるだろう。
全くと言っていいほど悠の言ったことを無視しているリリィの様子にため息を吐く。
昨日から明らかにリリィのペースに乗せられて無茶を聞かされている悠はこのままでは駄目だと思った。
なぜ昨日会ったばかりの悠に、一緒の部屋で寝泊りして布団に潜り込むのかは分からないが、このままでは済し崩し的に不問にしてしまえば色々と拙いであろう。
そう思った悠はリリィを言い含めようとする。
254 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:18:34 ID:TaoVpjpY
「いくら親しい仲であろうと男女七歳にして席を同じうせずという言葉がある。しかも昨日会った人間にこんなことをするなんて女性としての節度が問われるぞ?」
「そのような男女差別的な諺はもう古いですよ。見ず知らずの人間が集まる学校でさえ座席配置など、基本的に男女混合しています。私はトモさんのことは信頼してい
ますし、信頼している人同士ならこれくらい問題ありません。それにトモさんは信頼してくれている人は無碍に出来ませんし、その他大勢が何を感じようと所詮は無
関係の人間です。ほら、何も問題がありませんよね」
「……」
微笑みを浮かべながら説き伏せるようなリリィのマシンガントークに、悠は正しいかどうかは分からないが絶句してしまう。
悠は一瞬、自分が間違っていてリリィが正しいのではないかと考えてしまったが、気を持ち直す。
正直、男としてリリィのような美少女に懐かれるのは嬉しいが、昨日会ったばかりなので逆に不気味の悪さを感じてしまう。
だから悠はその疑問を聞くことにした。
「……ひとつだけ聞かせてくれないか。なんで昨日会った俺をこんなに信頼してくれるんだ?」
「それはトモさんが昨日も言った大好きな人に似ているからですよ」
悠はその言葉に昨日のリリィとの会話を思い出す。
リリィが兄のことを、沢山の親愛を込めて話していたことを。
「確かリリィのお兄さん、リョウさんだっけ。そんなに俺と似ているの?」
「……ええ。まるで本人ではないかと疑うぐらいですよ」
リリィは兄のことを思い出しているのか、目を細め、とても愛しそうに言った。
それを見て悠は、リリィは兄のことがブラコンと言っていいくらい好きなんだなと思うと同時に、自身を兄として重ねているのだと思った。
しかし、これで悠はリリィがなぜ自分を過剰なまでに信頼しているのかは分かった。
「リリィのお兄さんは『DLTB』をやってないの?」
「……ええ、やっていません。だからといっては何ですが、時々とでいいですか甘えても構いませんか?」
そう言って、リリィは少し潤んだ目で上目遣いに悠の顔を見る。
同じことを言うが、リリィのような美少女に懐かれて嬉しいと思わない男はまずいない。
だから、そんな絵に描いたようなお願いのポーズにあっさりと陥落し、つい反射的に了承を出してしまった悠を誰も責められないだろう。
「い、いいよ」
「本当ですか!ありがとうございますトモさん!」
パッと顔を輝かせ、満面の笑みでお礼を言うリリィ。
本当はよろしくないのだが、リリィがそんなに喜んでくれてるので、まあいいかと悠は考えた。
そうしてようやくリリィは悠から体を離し、ベッドの淵に腰掛けることで今回の騒動が鎮火した。
しかし悠は、これからは共寝しないように注意しようとしたのが、完全に言い負かされた事実に気づかなかったのである。
* * *
朝の騒動が終わった後、悠はラピスのギルドの会議に参加する約束をしたことを思い出す。
なので悠はリリィにこれからどうするかを聞いてみた。
「これからのことなんだけど、俺はこれから知り合いのギルドの会議に行って情報交換するつもりだけどリリィはどうする?」
「私もそのギルドの会議に行ってはいけないんですか?」
「……それは少し聞いてみないと分からないな。聞いてみるから少し待ってくれない?」
そう言って悠は情報端末を取り出し、ラピスに会議の開始時間と共に聞いて見ることにした。
そして連絡するためにラピスの情報端末に繋げて数秒後、慌てた様子のラピスに繋がった。
『お、おはよう!こんな朝早くからどうしたの?』
その言葉に悠は壁に掛けてあるデジタル時計を見ると、まだ8:00と表示されていることに気がついた。
255 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:20:40 ID:TaoVpjpY
現実の世界で平日であるならば特に問題ない時間だが、これが『DLTB』の中であり、昨日の騒動で色々慌しかったことも考えると少々早すぎる時間だ。
しかし悠はリリィが共寝した問題で気づかなかったようである。
「あ~、実は今日の会議のことで聞きたいことがあったんだけど、朝に色々とゴタゴタがあったからこんなに朝早かったなんて気づかなかった。本当にごめん」
『別に7時くらい起きていて、慌ててたのは私もトモに連絡しようかと考えていたら、そっちから掛かってきたから驚いただけ。ところで聞きたいことって何なの?』
まだ寝ていたところを起こしてしまったのではないかと思った悠は、そのラピスの言葉にホッとする。
しかし朝早い時間であることには変わりないので、早々に用件を切り出すことにした。
「まずは今日の会議の開始時間を聞きたいのと、俺の他に一人ばかし連れて行っても構わないかを聞きたいんだ」
『会議の時間は13:00からを予定してるけど、連れて来たい人って誰?アキラとジュンの二人?』
「いや、違うよ。最近『DLTB』をやり始めた人で、Lvが低いから一緒にパーティーを組んで保護することを決めた人」
『何、それ。『DLTB』に閉じ込められてから状況が分からないのに、知らない人を保護する何て軽率すぎない?とりあえず保護した人の性別は?』
その言葉を聞いた瞬間、ラピスの声がかなり低くなった。
どうやら悠が見ず知らずのリリィを保護したことに不満を感じているようだ。
「女性だけど……」
『ふ~ん。どうせその子が可愛い子で釣られたんでしょ。そうじゃなきゃどんなに負担が掛かるか分からないのに、見ず知らずの人を保護なんてしないもんね』
その言葉に微妙に図星を指されて言葉が詰まってしまう。
保護した要因は短い会話ながらも、リリィの為人が誠実であると感じたのとレイプの件が大きかったとはいえ、リリィが女性だったことも要因として挙げられるだろう。
少なくても男性だったのならば、あそこまですんなりと保護まで至る事はなかっただろう悠は考える。
悲しきは男の性であった。
「た、確かにそういった面がなかったとはいえないが、保護に至ったのはその人の為人が信頼できると思ったのが決定打なんだぞ」
『本当の悪人は、最初は悪人に見えないものだと思うけどね。ただ保護した子がトモに依存しきって、最終的にトモの事を滅ぼす結果に繋がるんじゃないかと危惧した
だけで他意はないんだから……』
責めているかのように聞こえたが、どうやらラピスは悠のことを心配して言っていたようだ。
人一人を自立させるにはかなりの労力がいるのは確かであったため、悠はラピスに謝ることにした。
「確かに軽率だったことは認めるよ、ごめん。でも、もしそうだった容赦はしないから安心してくれ」
『本当にそう思っているのならいいけど……あ、それと会議に連れてくることは大丈夫だと思うけど一応ギルド長の聞いてみる。それに私も保護した子を見てみたいか
らダメでも無理矢理にでも了承させるから』
「了解。色々とありがとね」
互いに別れの挨拶を通信を切る。
そうして悠は顔を上げるとリリィがこちらをじっと見つめていることに気がついた。
「どうしたの?」
「いえ、トモさんが今連絡をしていた方はどちらなのかなと思いまして。トモさんが私のこと保護したことを咎めていた様子から鑑みますと、仲の良い女性の方だと思
うのですが」
悠はそのリリィの言葉に驚いた。
なぜなら情報端末でのやり取りは、周りに通信相手の声が聞こえないようにイヤホンのような端末を使ってやり取りをする。
だからこそリリィにはラピスの声が聞こえてないはずなのに、まるで聞いていたかのように話の内容やラピスが女性であることを推理したリリィに悠は驚いたのである。
「よく分かったな。リリィの言った通りだよ」
「そこまですごいことではありませんよ。トモさんの言葉を聞いていれば、私を保護したことを咎めていたことは分かります。後は女の勘です」
その言葉に理路整然とした推理を予想していた悠は、肩透かしを喰らうことになった。
「別に私を保護したことを咎められたことを悪く言うのではありません。私としても、自分の親しい人が見ず知らずの方を保護したら咎めると思いますし。ただ、トモ
さんは『DLTB』の中でも頼れる仲の良い方がいるのだなと思いまして」
リリィが顔を少し伏せながらそう言ってくる。
その言葉に悠はリリィがこの世界には頼れる人間がいないことを思い出し、だからこそ自分に保護されていることに思い当たる。
しんみりした空気を振り払うため、先ほどの会話の続きをすることにした。
256 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:22:56 ID:TaoVpjpY
「さっき話していた人はラピスと言うプレイヤー名の人で、リリィの言った通り仲がいい人だよ。しかもラピスさんは現実でも知り合いだから『DLTB』でも一番仲が良いと
言って過言ではないと思う」
「そうだったんですか?…………………………」
「ん?何か言った?」
最後の方は声が小さくてうまく聞き取れなかったので、悠は聞き返すことにした。
するとリリィ慌てた様子で取り繕う。
「な、何でもありません。それよりも私が会議に同席する件はどうなりましたか?」
「ああ、それならギルド長に聞いてみるけどおそらくは大丈夫だってさ。時間は13:00からで、同席が出来るか出来ないかは昼くらいに連絡してくると思う」
「分かりました。それではシャワーを浴びてきたいのですが、お先によろしいですか?」
宿屋には基本的にバスルームは存在しないのだが、高めの宿屋にバスルームが存在する。
そして今現在、悠たちが泊まっている宿屋もそれなりに高級なところなのでバスルームが存在あった。
以前、悠は現実と違ってインフラが整備されていない『DLTB』の中でどうやって電灯を点けたり、水道が通っているか疑問になり聞いてみたことがある。
すると帰ってきた返事はモンスターの宝玉を使用しているとのことらしい。
モンスターの宝玉とはボスモンスターや普通のモンスターが、極低確率で落とすモンスターの特性が封じられている宝玉のことだ。
その用途は色々とあり、プレイヤーの場合は武器や防具の性能アップに使うことが主である。
例えば無属性の武器に火属性のモンスターの宝玉を組み合わせると火属性の武器が出来上が、物理無効のモンスターの宝玉を防具に組み合わせると全ての物理耐性が上
がり、その反面魔法に対する耐性が下がる。
しかし、一度組み合わせた宝玉は取り外し不可能なので、武器や防具に宝玉を組み合わせるときは慎重に選ばなくてはならない。
そのモンスターの宝玉を使い、電灯には光属性のモンスターの宝玉を使い、水道関係は水属性のモンスターの宝玉を使っているそうだ。
だがこのモンスターの宝玉は上記に書いたとおり極低確率であり、ボスモンスターは宝玉を落とす確率は0.1%、通常のモンスターの場合は0.01%なので普通の
宿屋ではバスルームが存在しない。
正直、何でモンスターが宝玉を落とすのかなど突込みを入れると限がないので、ファンタジーだからと言うことで悠は納得している。
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます。では浴びてきますね」
そう言うとリリィはそそくさとバスルームに入っていく。
その様子を不思議に思いながらも悠はリリィがバスルーム入るのを見送った。
* * *
リリィを見送った悠は自身のベッドに仰向けに転がり、昨日はアキラと話の途中だったことを思い出して、アキラ連絡を取るために情報端末を取り出した。
そこで初めて悠は情報端末の片隅にインフォメーションの更新のマークがあることに気がついた。
インフォメーションとはLvが上がったり、新しいアイテムを入手したりすると情報端末に特技の取得や、新たに入手したアイテム名などの更新内容を記載するものである。
そして更新のマークがある場合、新たな更新情報が記載されていると言うことだ。
更新される度にバイブで知らせてくれるのだが、昨日は動転していたため気づかなかったのだろう。
なので悠はインフォメーションを開くと次のような情報が記載されていた。
【多くのプレイヤーが居る中、この閉じ込められた世界であなたが最初にモンスターとの戦闘に勝利することに成功したことにより、以下のボーナスが与えられます】
【記念アイテム〈命の輝石〉を取得しました】
【特別ボーナス経験値を取得しました】
ボーナス経験値の詳細な数値は表示されていないので分からないが、Lvが70から75に上がっていたことを考えると少しではあるまい。
とりあえず悠は〈命の輝石〉を取り出し、アイテムの説明欄を見ることにした。
【アイテム名:命の輝石】
【このアイテムは所持していると死亡しても一度だけ復活することが出来る、閉じ込められた世界で最初にモンスターとの戦闘に勝利することに成功した、勇気ある人物
に与えられるアイテム】
そしてこれらの情報を見て悠はある事実に気がついて固まってしまう。
それは多くのプレイヤーが『DLTB』の中に閉じ込められている現状は偶発的なものではなく、誰かの人為的なものだという事実である。
257 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:24:54 ID:TaoVpjpY
これが製作者側の起こしたものなのか、ハッカーなどによる第三者が起こしたものかは分からないが、こんな特典を付けているのだから間違いないであろう。
しかし逆に言ってしまえば分かるのはそれだけあり、閉じ込めた人物が誰なのかや、何の考えがあって閉じ込めたのかなどは一切分からない。
そんな現状も合ってか悠は閉じ込めた人物に対して怒りが込み上げて来るが、その怒りを当てられる人物も居ないので一先ず怒りを脳の片隅に追いやることにした。
そして悠は今の現状を考える。
「(とりあえず今現在、『DLTB』に閉じ込められていることは人為的であると分かっているのは、まだ閉じ込められてから14時間であることを踏まえると少数、もしか
したら俺だけかもしれない。それにこれが人為的であるならば現実に帰還する手段が用意されている可能性が高い。ただし閉じ込めたのが製作者側ではない第三者であっ
た場合、帰還する方法がない可能性がかなりあるが、その場合は製作者側に期待するしかないな)」
しかし、悠はこの事実を気軽には話せないことであると考えた。
なぜなら人為的に閉じ込められたことを信じて貰うには情報端末のインフォメーションの過去ログを見せる必要がある。
そうなればその情報と共に記念アイテムである〈命の輝石〉を悠が持っていることも周りに伝わってしまう。
すると様々なやっかみがあるだろうし、〈命の輝石〉を寄越せと言う者も出てくるだろう。
しかし、周りが人為的に閉じ込められていることが分かると、帰還する方法を探る人々も大量に現れる。
帰還する手段が有るかどうかも分からない状態よりも、帰還する手段がある可能性が高いと分かっている状態の方がやる気になるので当たり前であろう。
その為、悠が最善と考えたのはラピスやライトの所属するトップギルドの一つであるExtraにリーダーに相談することだ。
悠にとってはその人物に何度も世話になっていて、ある一点を除けば人柄も面倒見も良く信頼できる人物だ。
トップギルドであれば他のギルドや同じ都市での繋がりも豊富なので、もし悠以外に人為的に閉じ込められたことを知らない場合は、情報提供者を秘匿にして伝えて貰え
ば問題ないだろう。
とはいえ、Extraが情報発信源だと分かればある程度は特定されてしまうが、大都市カオミカに拠点を置いているプレイヤーの数は50万を超えているし、インターネット
などのネットワークが存在しないので白を切れば問題ない。
なので、早速悠は情報端末をその人物の情報端末に繋げて、数秒後に少々芝居がかった男の声が聞こえてきた。
『やあやあ!トモ君から僕に連絡をくれるなんて珍しいこともあったものだね。僕に掘られる気にでもなったのかい?』
「なるか阿呆。ちょっとチトセさんに相談したいことがある」
『その声からするとよほど真剣な相談事なんだね。トモ君からの相談だ、不肖ながら誠心誠意を持って答えようではないか!』
いきなり悠に対して洒落にならないことを言ってきたこの人物こそ、ラピスやライトが所属するギルドのリーダーで、職業は魔術師のチトセ・キサラギだ。
どう考えてもその筋の人間に聞こえるが、Extraに所属するチトセと現実の友人である人から聞いたところ、彼は非常にまともな人間であるとのことだ。
では何でこのような口調で同性愛者みたいな口調で話しているかというと、理由は『DLTB』内でカップルが誕生した時まで遡る。
この『DLTB』はプレイヤーの性別が偽れないようになっているため、知り合ったプレイヤー同士が現実で会ってみないかと言う話がよく上がる。
顔の見えないチャットなどでもあることだが、『DLTB』内の男女比が6:4であり、異性間の出会いを求めるため比較にならないくらい頻繁にそう言った話がある。
余談だが、その背景もあってキャラクリする時は自身の容姿に合ってる容姿にすることがお約束になってしまった。
そして『DLTB』が稼動してから4ヶ月たった時、とある一つの男女のカップルが成立し、そのことでプレイヤー間で様々な波紋を呼んだ。
そしてチトセは大学1年の頃、稼動してから半年後に『DLTB』を始めたのだが、この男にはかなり美人の彼女が居るらしい。
しかも頻繁に互いの家に泊まっていて、大学卒業後に籍を入れる約束もしているバカップル状態とのことだ。
ただ、チトセの彼女は『DLTB』をやっていないらしく、『DLTB』をやるのは週に3日しかやらないとの約束をしている。
そのため、チトセは現実で会わないかと誘われないためにこのような演技をしているらしい。
そのことでチトセと彼女の仲に多少の亀裂が走るのではないかと思ったが、少し会えない状態がスパイスとなって大学内とかで、さらにイチャイチャしていると聞いた悠
は心の中でこのリア充がと罵ったりもしている。
『ああ、そういえばラピス君から聞いたよ。見ず知らずの女性を手篭めにして悦に浸っているらしいじゃないか。僕と言うものがありながら君は一体なんて事をしている
んだい』
258 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:27:08 ID:TaoVpjpY
「まて!何を人聞きの悪いことを言ってやがる!ただ単に保護しただけだ!」
『うむ、そう言ったことにしておいてあげようではないか。ああ、因みに後でラピス君から聞くと思うけど、トモ君とお連れの方の会議の出席は歓迎だよ』
まるで聞いていないチトセの様子に悠はため息を吐いた。
先ほど上げた一点とはまさにことのことで、知り合いの男性プレイヤーには同性愛者のごとくこのような言葉を掛けてくる。
その尽力もあってか、彼に彼女が居るのを知っている人も知っていない人も、彼を現実で会おうと誘う人は皆無であった。
「会議の件は助かるよ、ありがとう」
『別に僕もトモ君に聞きたいことがあるからこれは相互扶助、若しくはGive and takeだから気にしなくても構わない』
悠はこの受け答えに元来の人の好さもあっていい人なのだが、あれが無ければ最高なのだが、と思う。
そして相談事をどう切り出そうかと暫く考え、とりあえず閉じ込められたのが人為的かを知っているかどうか聞いてみることにした。
「一つ聞きたいんだけど、チトセさんはこの『DLTB』に閉じ込められたのが人為的であるという情報は手に入れてる?」
『……いや、手に入れていない。少し詳しく聞かせてくれないか?』
悠が切り出した瞬間、一気にチトセの声が低くなった。
あまりの変わりぶりに恐怖を覚えながらも続きを話す。
「まず、昨日俺が五番街道で戦闘をしたことは知ってるか?」
『ああ、そのことならラピス君に聞いたよ。今日はそのことで聞きたいことがあったんだよ』
「実はな。その戦闘の後に記念アイテムと言う物を入手して、そのアイテムの説明文に『閉じ込められた世界で最初にモンスターとの戦闘に勝利することに成功
した、勇気ある人物に与えられるアイテム』といった説明文があった」
その後、少し待ってくれないかとチトセが言って暫く会話もなく沈黙が続く。
そして沈黙してから大体1分後位して、ようやくチトセが話を掛けてきた。
『それは本当かい?』
「ああ、間違いない。会議の前にそのアイテムを見せても構わない」
『……そこまで言うなら本当のことのようだね。それで相談事ということは会議に出す際に君の事は伏せて、僕の口から言って欲しいとのことかな?』
「ああ、それで合ってる。後は他の都市の大手のギルドとかに俺の名前は伏せて、このことを伝えて広めて欲しい」
『なるほど。人為的に閉じ込められたのだから脱出する方法があるかも知れないから、それを伝えて人海戦略で脱出の方法を探りたいので合ってるかい?』
「見事に言い当てられてるよ」
どうやらチトセは先ほどの悠の説明から悠と同じような結論に達したらしい。
しかもチトセのギルドはこの都市と同じくらいの規模を誇っている港都市マーコヨ、商業都市キサカワ、首都ヨキトなどに拠点を構えているトップギルドと知り合いなの
で、この情報は爆発的に広まっていくことが考えられる。
チトセは機嫌が悪いのか、明らかに少し強めの口調で話してくる。
『それにしてもトモ君。君は本当にとても最高で最悪な情報をもたらしてくれたよ』
「確かに。だからと言って俺を責めるような口調で話さないで欲しいがな」
『ごめんごめん。確かにトモ君に当たるのはお門違いだね』
とはいえ、チトセがそう言って当たってしまうのは仕方がないだろう。
確かに何も分からず閉じ込められていた現状が、人為的に閉じ込められたものだと分かっただけでも大きな一歩に間違いない。
しかしそれは、これから閉じ込めた人物の思惑に乗ってその人物の要求に答えなければいけないと言う事実でもあり、脱出するために無理難題を吹っ掛けられる可能性が
あるため、少し苛立っても誰も責められないことだ。
『本当、こっちは企業の内定を貰えて、卒論も大半を書き上げて卒業まで後5ヶ月の結婚まで秒読み段階だったのに、こんな下らないことに付き合わされると思わなかっ
たよ、全く』
このリア充めと内心で罵る悠。
『ともあれ、トモ君のその依頼は全部受け入れるよ。この情報を出すときはトモ君の名前は一切出さないことを約束する。ただ、他のギルドのリーダーを納得させるために
そのアイテムを借りることになると思う』
「そこら辺は仕方が無いな。会議の後で渡すことにするよ」
『後、もう一つ聞きたいのだが五番街道で戦闘をしたらしいけど、その時はスキルを発動することが出来なかったのかい?』
チトセが昨日の戦闘のことを聞いてくる。
259 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:29:59 ID:TaoVpjpY
しかしその口調は最初から発動できなかったことが前提なので、少々首を傾げながらも悠は否定の言葉を返す。
「いや、ガルム10体と戦闘になったけど囲まれた時にどうにか発動できた。それにしても何でそんな事を聞くんだ?」
『……それは驚いたな。もうトモ君は経験していると思うがスキルが発動しなかったり、攻撃がうまく当たらないといった現状に見舞われたことだろう。実は昨日の時点
でスキルを発動できたプレイヤーがいないんだ。だから戦闘のことも含めて会議の時に話して貰いたい』
悠はスキルが発動できたものが居ないという事実に大変驚く。
前にも述べたが『DLTB』のプレイヤー数は600万人を超える。
閉じ込められた人数がどれくらいか分からないが、3連休の初日だったことも踏まえると300万人は居ると考えていた為にその驚きは一塩だ。
しかし思い返して見れば、かなり切羽詰まった状況だったからこそ発動できたのかもしれないと悠は思った。
「なるほど、そういうことか。なら会議までに話すことを纏めておくよ」
『うむ、よろしく頼む!トモ君のお蔭で有意義な時間を過ごすことが出来た。御礼に今夜一発どうだい?』
「いるか!この阿呆!」
『その心意気や良し!ではさらばだ!』
ふはははと笑いながら情報端末の繋がりが切れる。
そして会話の始まりと同じような終わり方にどうやってもシリアスに終わらせるつもり無いようだと悠は頭を抱えた。
しかし、この下らない会話のお蔭で気を緩めることが出来たのでその点は感謝していた。
悠がチトセとの会話を終えてから10分後、バスルームの方からドアが開く音が聞こえてくる。
どうやらリリィが出てきたようだ。
足音が聞こえてきたので、リリィにお帰りと言おうと振り返った瞬間、悠は声を出すことが出来ず固まってしまった。
シャワーを浴びてきた影響か、リリィの上は肌着で頬や唇は上気して扇情的で、軽く濡れている髪や軽く火照っている素肌はどこか艶かしい。
リリィはいきなり振り返って呆然としている悠を怪訝に思いながらも声を掛ける。
「どうしたのですか一体?」
「い、いや、何でもないよ!」
悠は慌てて取り繕い、平静を装いながら視線を外すが、少し頬が赤くなるのを止められなかった。
怪訝に思っていたリリィはその様子に、なぜ呆然としていた理由に思い当たる。
「正直に答えてくださいね。私の湯上りの姿を見て見惚れていたのですか?」
思いっきり図星を当てられてしまい、思わず狼狽してしまう悠。
やはり女性と同じ部屋で暮らすべきではなかったと思いながらも、リリィに謝って部屋を別々にする旨を伝えようとする。
しかしリリィはその様子を満足そうに眺めながらも、悠に対してしな垂れかかる様に寄り添った。
「トモさん。私は気にしていませんから、こちらを向いてくれませんか?」
「リ、リリィ!?」
あまりに予想外のリリィの行動に裏返った声を出す悠。
慌ててリリィから離れようとするが、それよりも早く悠は顔を両手で挟まれ、強引にリリィの方に向けられてしまう。
そしてそこには遠目からでも見惚れてしまった顔が目の前にあり、思わず悠は唾を飲み込んでしまった。
「私は怒っていませんよ。それに湯上りの姿を見られるくらい昨日の時点で分かっていましたし、これぐらい全く問題ありません」
「……」
悠は驚きの余りに口をパクパクさせてしまう。
しかしどうしても今のツインルームからシングル二つに変えて貰いたい悠は必死に反論する。
「いや、でもな。リリィが良くても俺が駄目なんだ。ここはシングル二つにして別々に泊まった方がいいと思う」
しかしその悠の提案はリリィに反対の言葉を掛けられた。
しかも悲しそうに目を伏せるというおまけ付きで。
「そんな……先ほどは甘えさせてくれると約束してもらえたのに、もう前言撤回をしてしまうのですか?確かにトモさんの言うとおりにした方が自分だけの空間が出来
て、プライバシーの為にもいいことは分かります。ですが今のような非常時にはやはり一人より二人の方が安心できるんです」
そのリリィの様子に声を詰まらせると同時に、なぜ自分は先ほど安請け合いをしてしまったのかと後悔する悠。
そして悠は約束をしてしまったこともあって自分から折れることにした。
260 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:32:28 ID:TaoVpjpY
「……分かったよ。これからもツインのままにするからその顔はやめてくれ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
その言葉にリリィは顔を輝かせる。
悠はその顔を見て、自分が我慢するだけでリリィが笑顔になれるのなら別に構わないかと思う。
しかし傍から見たら、保護する側が保護される側に主導権を握られている状況であった。
* * *
あの後、悠は自身もシャワーを浴びた後、時間が11時を回っていたので朝昼兼用の食事を取るため、リリィを伴って町に出かけた。
昼時が近いせいか街中には大勢の人が溢れており、真直ぐ歩くのも困難なくらいの賑わいを見せている。
しかし悠には、この『DLTB』は本当によく出来ており、今歩いている人たちのどれくらいがNPCなのか見分けが付かない。
もしかしたらNPCを好きになってしまう人が出てきてしまいそうだと悠は思った。
そんな考え事に耽っていた悠の右手に何か柔らかいものが触れる。
何事かと思い右手を見てみると、そこにはリリィの左手が目に映る、即ちリリィが悠の手を握ってきたのだ。
なぜ手を握っているのかを問いただそうとしたが、制するようにリリィが悠の疑問に答えてくる。
「これだけ人が多いと逸れかねませんので、手を繋いだのですが嫌でしたか?」
先ほど人が多いと思っていただけに悠はできず、手を握られて嫌なわけが無かったので、照れ隠しを含めてリリィを引っ張る形でどんどん歩みを進める。
そんな悠をリリィは微笑みながら眺めていた。
「あっ」
突然、隣からそんな声が聞こえてきたので悠はリリィに問いかける。
「どうしたんだ、いきなり」
「あ、いえ、その……」
リリィは突然しどろもどろになり、少し恥ずかしそうに眼を伏せている。
悠は初めて見せるリリィの姿を新鮮に思い、眺めつつもリリィが話しかけるのを待つ。
そして、しばしの間を置いてようやくリリィが話をかけてきた。
「あの、出来ればでよろしいのですが昼食はあそこで取りませんか?」
そう言ってリリィの指した先を見るとパスタ専門店があった。
「構わないけど」
「本当ですか!?なら早速行きましょう!『DLTB』の中ではどんな創作パスタがあるか楽しみです!」
先ほどとは打って代わってリリィが悠を引っ張りパスタ専門店に驀進する。
悠はそんなリリィの横顔を見ると、興奮した表情を浮かべているリリィ居たのであった。
「やはりここは『DLTB』にしかない創作パスタを選択するべきでしょうか?それとも様子見として王道なパスタの方がいいでしょうか?迷ってしまいますね」
メニューを真剣に見ながら何を頼むべきか悩んでいるリリィ。
まるで人生に数度しかない運命の選択をしているかのような真剣さは、すでにカルボナーラに決めている悠が引いてしまうくらいであった。
「……トモさん。相談なのですが、トモさんの頼むカルボナーラ少し食べさせて頂けないでしょうか?」
「か、構わないけど……」
「流石はトモさん、ありがとうございます!それでは私は和風仕立ての海鮮三昧パスタにしてみます!」
そう言ってメニューを決めたリリィは店員を呼び、悠の分のメニューも含めて頼んでいる。
そんなリリィを見ながら悠はよほどパスタが好きなんだなと眺めた。
それと同時にとあることを思い出してしまい顔を顰めてしまい、それを不思議に思ったリリィが顔を顰めた理由を聞いてくる。
「どうしたんですか?何か私、気に障ることをしてしまったのでしょうか……?」
「いや、何でもないよ。ただ、俺の妹もパスタが好きだったから色々と思い出しただけだよ」
悠の妹の百合も大のパスタ好きで、よく色々なパスタ専門店に行っていた。
家で真剣にパスタの情報誌を見ている姿を何度も目にしている。
今回、真剣にパスタを頼む姿が妹と重なってしまい思い出してしまったのである。
「……そうだったの、ですか…………話は変わりますけど、私達は『DLTB』の中では食事を必要としていないのに今は必要としている。とても不思議ですよね」
湿っぽくなった話を変えるように話題を変えてくるリリィに悠は乗ることにした。
「確かに。俺達は今、どんな状況に置かれているかもよく分かっていないからね」
261 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:34:38 ID:TaoVpjpY
悠も食事の件は疑問に思っていた。
なぜなら『DLTB』をプレイしている時は食事や排泄行為が出来ないし空腹感も来ない。
一応、『DLTB』の中で食事を取ることは出来るが、勿論そんなことで実際の空腹が満たされることはない。
故にログインしてから5時間が経過すると食事を取るように情報端末から警告され、7時間が経過すると強制でログアウトされる。
これは余談だが、『DLTB』の中で食べても太ることがないので、様々な人達が食べ歩きをしている。
リリィは『DLTB』を始めたのが最近なため、こういったことを経験していないかもしれないが悠もラピスやライト、ジュンやアキラに連れまわされたり、逆に連れまわしたり
して食べ歩きをしたりしている。
だがしかし、今現在では空腹感を覚え食事をして、排泄行為をしなければならない。
だから悠は戦闘やアイテムなどはゲームチックなのに、食事とかは妙に生々しい今の現状に疑問を覚えているのだ。
そんなことを考えていると悠の情報端末がバイブして、誰かから連絡が届いたことを知らせる。
情報端末を取り出して画面を見ると、そこにはラピスの名前があった。
そこでようやく会議の前に、ラピスから連絡が来ることを思い出した悠は端末を繋げることにする。
「もしもし」
『私だけど会議の出席に関しての報告に来たよ』
「あ~、非常に申し訳ないんだが、……あの後チトセさんに連絡しなきゃいけないことが出来て、ついでにリリィの出席の件も教えて貰ったんだ。ごめん」
せっかくのラピスの厚意を無駄してしまったこともあり、どこか恐る恐る告げる悠。
案の定、悠の言葉を聞いたラピスの声が僅かに低くなる。
『別に構わないけど、次からはそういったことは報告してね』
「本当にごめん。お詫びと言っては何だけど、近い内に全額こちら持ちで出掛けない」
全面的に自身が悪い悠は謝るしかない。
しかしさほど怒ってないこともあり、悠が出掛ける提案をしたことによりラピスの声の調子が普段に戻る。
『本当に?こんなことになっちゃって、明後日の出掛ける予定も流れになったから絶対だよ』
「了解です」
その後、互いに他愛もないことを話し、会議で会う約束をして連絡を切る二人。
そして顔を上げると、すでにメニューが届いていたようで二人のパスタがあった。
リリィは手を付けていないようだが、ラピスとの話しが以外と長引いた為、少し冷めかけている。
「ごめん、少し話が長引いてね。それと先に食べても構わなかったんだけど」
「そうは言いますけど、こうして外食に来たのなら一緒に食べたいものですよ」
「うっ……本当にごめんなさい。……とりあえず食べないか?」
「そうですね。後、このことは軽い貸しにしておきますよ」
「……了解です」
ラピスの件に続き今回も自身に非がある悠はリリィに反論できない。
それにしてもと悠は思う。
普段の自分ならこういった面での心配りのミスは滅多にしないのに、今は連続でしてしまっている。
どうやら今回の騒動で、どこか冷静さを欠いていたようだと反省する悠。
悠がそんなことを思考した後、お互いに頂きますと声を出し、少し冷えたパスタを食べ始める。
「どう?味の方は?」
「とっても美味しいです。悠さんの方はどうですか?」
「俺はパスタなんて店で食べたことないから他との違いが分からないけど、これは美味しいと思うよ」
「これほどの味なら現実でもかなりの人気スポットになっていたと思いますよ。それにしても、これはこの店を含めたここら辺一帯のパスタを制覇した方がよさそうですね」
ふふふと少し怪しく笑いながらそんなことを言うリリィに、悠はそんなにパスタが好きなのかと少し引いてしまう。
その後お互いに食べ続けていたが、リリィが突然何かを思いついたといった感じで手を叩き、提案してくる。
262 : 黒い百合2 2011/05/10(火) 20:35:55 ID:TaoVpjpY
「先ほどのちょっとした貸しの件なのですが、トモさんのカルボナーラを少し頂く約束をしておりましたので、トモさんが私に食べさせてくれませんか。勿論、あ~んの掛
け声つきでお願いします」
「……はい?」
「それと間接キスとかは気にしていませんので、トモさんも気にしないでくださいね。では、どうぞ」
そういってリリィ少し前のめりの体勢になり、少し口を開けて、目を瞑った状態で待つ。
とんとん拍子で進められていく現状に悠は慌てて待ったを掛ける。
「ちょっと待って。別なことにしない?」
「ダメです」
取り付く島のないリリィ。
その様子に、元来このような借りを作ってしまった場合の相手の要望は出来る限り聞く悠は、リリィの要求をしぶしぶながら了承する。
「あ、あ~ん」
悠の差し出したフォークをから食べさせて貰ったリリィは、はにかみながら美味しいですと言う。
そのリリィの様子に少しドキッとしたが、リリィが自身のパスタをフォークに巻き付け、悠の口元に持っていこうとしたことにより正気に戻った
「……これは」
「食べさせて貰うだけでは申し訳ありませんから、今度は私が食べさせてあげますね」
「い、いや、別にいいから……」
「遠慮はしないでください。はい、あ~ん」
「いやいや、遠慮とかじゃないから!」
「あ~ん」
恥ずかしさもあり悠は必死に抵抗するものの、結局リリィに押し切られ食べさせて貰う。
その後、何度か食べさせ合いっこする二人は周りに害を与えるバカップルそのものであった。
最終更新:2011年08月17日 23:04