9 名前:
黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:24:36.44 ID:02hTBU+c
昼食を終えた悠とリリィは、ラピスやライト、チトセが所属しているExtraの本拠地である建物の前にやってきていた。
悠はリリィを伴い建物の中に入ると、短めの茶髪に少し釣り上がった目をしている一人の魔導師の男性が出迎えてくる。
その男性こそExtraのリーダーであり、ガチホモに見えるリア充野郎のチトセだ。
「やあやあトモ君、ようこそ我らのギルドへ。お連れの人も歓迎するよ」
「ああ、よろしく頼む」
「ところで会議が終わったら僕と一発どうだい?」
「帰れ」
出会って早々に朝のやり取りを彷彿させる洒落にならないことを言うチトセ。
しかし彼は回りに人が居るような所で、出会い頭にこんなことを言う人間ではない。
おそらくは隣にリリィが居るから色々と牽制のために言ったのだろうと悠は考える。
「やあ、初めましてトモのお連れの人。僕はこのギルドのリーダーをやっているチトセと言うものさ。今後ともよろしく」
「……り、リリィです……」
初めて見る及び腰のリリィ。
いくら悠を手玉に取っているリリィでも、初めて見るチトセのキャラには驚いたようだ。
そのリリィがチトセを警戒したような様子で、悠に囁くように話しかけてくる。
「その、トモさん。チトセさんは、その……同性愛者な方なのですか?」
「いいや、違うぞ」
そんなリリィに悠はチトセの事情、『DLTB』をやっていない彼女がいるので他の女性を近づけさせないように演技していることなど彼の事情を話す。
その事情を話すとリリィはチトセに対する警戒を解いた様子で、「面白い方なのですね」と一言つぶやいた。
そんな二人をニヤニヤしながら見つめていたチトセが、からかうように話しかけてくる。
「おやおや、顔を寄せ合って内緒話とは。昨日会った女性をもう口説き落としているとは、手が早いようだねトモ君は」
「断じてそんなことはないとないぞ」
「しかし目撃情報もあるのだから観念するべきさ。とあるパスタ屋さんで混んでる中、お互いに食べさせあって公害を振りまいているバカップルがいるとね」
「……今、なんて言ったんだ。耳が遠くなったようなのでもう一度頼む」
チトセの言ったことを理解したくない悠は聞き返した。
聞き間違いであってくれと願うように。
しかし現実は非常である。
「とあるパスタ屋さんで混んでる中、お互いに食べさせあって公害を振りまいているバカップルがいると言ったんだ」
「……そのことはどれくらい広まってるんだ?」
「少なくても今いるギルメンには全員伝わっているよ。さらに言うと昼時にそんな目立つことをやったら結構見られてると思うよ」
そのチトセの言葉に思わず頭を抱えてしまう悠。
もう一人の当事者であるリリィを見てみると、清々しくなるほど堂々とした態度で微笑みながら会話を聞いていたようだ。
そもそも今回の事はリリィからの提案であるため、そのことも相まって恨めしくリリィを見る悠。
しかしリリィの表情は一切揺らぐことはない。
「とりあえず人前でイチャイチャしない方がいいとじゃないかね」
「……お前には言われたくない……」
悠はそう反論するのが精一杯だった。
* * *
悠たちが会議室に入るとそこにはラピスやライトを含めたExtraの面々が揃っていた。
悠はExtraのメンバーの大体と顔見知りだが三人程見かけない顔が居て、「なぜ部外者が居るのか」と言う目でジロジロ見てくる。
その視線を無視しつつ空いている席の方に向かうと少し離れた所にラピスとライトを見つけた。
ライトが悠たちが入室したことに気づいたらしく、こちらに小さく手を振ってくるがラピスは目を合わせようとしない。
そのことに疑問を抱きつつも悠はライトに小さく手を振り返す。
そして悠は改めて周りを見渡すが少々Extraのギルメンの数が少ない。
元々Extraは少数のギルドであったが、今ここにいるメンバーを足したところで2桁にすら届かないだろう。
恐らくはアプデ前にログインしていなかったと思われるが、何か不慮の事故に巻き込まれた可能性もありそうだと悠は考える。
そんなことを思案しているとチトセが入ってきて会議が始まった。
10 名前:黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:27:14.72 ID:02hTBU+c
「それでは今より会議を始める。昨日の騒ぎから一夜が経ったこともあり様々な情報が入ったので、その報告が今回の会議の中心となる。何か質問はあるかい?」
「なら一ついいですか?なぜこの場に部外者が居るのですか?」
そう言ってチトセに質問を掛けてきたのは、先ほど悠たちをジロジロと見てきた数人の一人のである男だ。
流石にそんなことを言われると思っても見なかった悠は、その人物の方を向く。
その男は金髪のミドルで目が青く、ピアスをしている容姿がかなり整っている顔立ちで、邪魔者を見るような目でこちらを見ていた。
他の人物もそうなのかと初対面の他の二人の方を見てみる。
チトセに質問した男の隣に居る男性は似たように、邪魔者を見るような目で見ており、違う所に座っている男性は「何言ってるんだこいつ?」見たいな目でチトセに質問
した男の方を見ていた。
そのことから隣に座っている男は質問した男と知り合いで、もう一人は関係ないやつだと悠は推測する。
「勿論、僕が会議への出席をOKしたからここにいるんだよ」
「これはExtraの会議です。ならば余所者はさっさと追い出すべきだと思います」
「ふう、君が言っている人物の名前はトモと言うんだけど、そのトモ君には先日の五番街道での戦闘でスキルを使った時のことを話してもらうつもりだ。その代わりにこ
の会議に出席している。これならどうだい?」
そのチトセの言葉に周りは驚いたようで悠に視線が集まる。
流石にこれならば文句ないだろうと思ったが、その男はさらなる疑問を挙げてくる。
「本当にそれは信じられる話しなんですか?」
「実際にステータスを確認させてもらって経験値が増えていることを確認している」
チトセはそういったが悠はステータス画面を見せていなく、男を納得させるための嘘だと考えられる。
これで話は終わるかと思ったが、男はさらにリリィにも矛先を向けてきた。
「……ならばそっちの男は納得しましょう。では隣の女はどうなんですか?」
「トモ君の情報はとても貴重だ。故に、もう一人くらい参加させても問題ないと思っている」
「……」
「まだ納得しきれていないようだけど、そろそろ黙ってくれないかい。これは外部に秘匿しなければならない会社の会議のようなものとは違う。他のメンバーの友人を連
れて来られてだけで、我慢出来ないくらい君の器は小さいのかな?それに多数決で決めても構わないよ?新参以外のメンバーはトモ君とある程度以上の親交を持っていて、
君より関係は深いけどね」
「…………分かりました」
その言葉にようやく諦めたのか、男はチトセの言葉に従う。
しかし、まだ納得していないのか、それともチトセの言葉が悔しかったのか男は悠を忌々しく睨まれる。
悠は今の会話でなぜ睨まれなければならないのか分からないが、一連の会話の流れからこの男とは馬が合わないと漠然に思った。
そしてようやく会議が始まる。
「今から言う情報は他の何個かの友好がある、トップクラスの大型ギルドのリーダーからよる情報であることを念頭に置いてほしい。まずはみんなも気になっているであ
ろう死に返りの有無についてだが、これはどうやらないようだ。死んだ者はその場で消えてしまい、フレンド登録から名前が消えてしまったそうだ」
そのチトセの言葉に重い沈黙が場を包む。
その後も最初の重い空気を引きずったまま、淡々とチトセの言葉が続く。
一つは20名ほど居たExtraのギルメンは今いる9名だけで、他のメンバーはアップデート後に入る予定だった為、ここにはいないとのこと。
二つ目はやはり一部の非道徳的なプレイヤーが、この非常時に乗じて各都市の周辺や近くの適正Lvが低いフィールドで、PKや女性プレイヤーに対する強姦が少なくない頻
度で起きているそうだ。
一応、様々な都市のトップギルドは警戒や取締りに乗り出しているが、逃げる方法は豊富に有るため捕まえられるまでには至っていなく、現段階では都市の周辺に出ない
ようにして、一人で出歩かないようにするのが唯一の対策のようだ。
最後に現状の事で、自分たちに何が起きているのか、なぜここに居るのかなど全く分かっていないことだ。
食事や睡眠を必要としていることから、『DLTB』の中に閉じ込められているか似たような世界に来てしまったかと思われるが、現状では何も言えない。
続いて、悠の昨日のスキルの使用に関する報告が始まった。
まずはこの体は現実の自分の体ではなく、自身の使っていたアバターの体であることを理解することによって、自身の頭の中に武器の振り方やスキルの使用方法があるこ
とに気づいたこと。
11 名前:黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:30:28.35 ID:02hTBU+c
しかし体は自分たちが使っていたアバターのものであり、頭は現実のプレイヤーそのものなので、肉体と精神ギャップが生じている為、慣れるまでに時間がかかりそうだ
と伝える。
どうやら会議の内容はこれで終了らしく、質問がなければ解散の流れになる。
しかし、朝にチトセに話した内容は出されておらず、そのことに悠は疑問を覚えるが、次のチトセの行動によりその疑問は氷解した。
なぜならチトセは情報端末を取り出し、突然誰かと繋ぎ会話をしだして、その会話が終了した後に一拍を置いて次のような内容を話し出したのだ。
「諸君、貴重だがあまり嬉しいか分からない情報がつい先ほど手に入った。港都市マーコヨにあるトップギルドのNormalのギルド長からの情報なんだけど、どうやら我々
が陥っている現状は、誰かによる意図的なものであることが判明してしまった」
その言葉に再度、驚愕により会議室内がざわめく。
そして、場のざわめきが治まってきた所で、黒い髪を短髪にしたどこにでもいそうな風貌の男性がチトセに質問する。
このExtraの副リーダーであり、チトセの現実での友人でもあるヒサヒデだ。
因みにヒサヒデは大の日本史好きで、その名前の由来は茶器と共に爆死した人物の名前そのままなのだが、自身の名前にそのチョイスは如何なものかと悠は思ってしまっ
た。
さらに言うとヒサヒデは悠に、チトセが如何にリア充かを力説した人物でもある。
「……それは信頼できる情報なのか?」
「まず間違いないと思っていいよ。詳細を聞くとマーコヨを拠点にしている一人のプレイヤーが、昨日に弱いモンスターを刈ると一つのアイテムを入手したそうだ。そし
てそのアイテムの説明文に『閉じ込められた世界で最初にモンスターとの戦闘に勝利することに成功した、勇気ある人物に与えられるアイテム』と言う一文があ
ったようだ。後日、そのアイテムを借りたから、見せても構わないとも言われている」
「……それは、信じないといけないですね」
チトセの言葉を聞いたヒデヒサは何とも言えない微妙な表情をする。
一方、悠が齎したはずの情報が丁度いいタイミングで、他者から来たことに内心首を傾げた。
しかし、港都市マーコヨにあるギルドNormalはチトセの友人がギルド長であることを鑑みるに、口裏を合わせて件の記念アイテムの所有者を特定されない為の、小細工で
はないかと悠は予想する。
「つまり、その情報から予想できるのは、この世界からの脱出の手段はある可能性が高いが、脱出するには俺達を閉じ込めた人物の遊びに付き合わされることになると言
う考えで間違いないか?」
「ああ、恐らくね。Normalのギルド長も似たような予想をしていたよ」
ヒデヒサの予想とチトセの言葉に、また場がざわめく。
しかし、少数だがヒデヒサと似たような予想に行き当たった者はざわめくこともなく、目を瞑って静かにさらなる思考をしているようだ。
「これからの方針だが、恐らくは他のトップギルドにもこの情報を流し、互いに協力して今回の騒動で増えたダンジョンの攻略に乗り出すだろう。しかし、増えたダンジ
ョンはどれも難易度の高いものと予想されるから、攻略を開始するの時間が掛かると思われるので各自、準備を怠らないようにして欲しい。今後のそういった情報は入り
次第、報告する。何か質問が無ければこれにて解散だ」
「では一つ聞いていいですか。その記念アイテムを手に入れた方はどなたなんですか?」
そう言って質問したのは、悠たちの会議の参加に文句を言ってきた男である。
チトセはその男の顔を一瞥した後、軽く歎息を付き、何とも言えない表情で話し出す。
「それを知ってどうするんだい?」
「いえ、興味から聞いてみただけです」
「ならば言えないな。名前を出さないのは記念アイテムの所有者が、嫉妬などからくるやっかみを受けないようにする処置だ。それとも、なんだ?お前は所有者に対し何
か手を出そうとしているのか?」
「…………」
そのチトセの言葉に男は引かざるを得ない。
なぜなら理由もなくチトセから所有者の名前を聞き出すのは、その者にちょっかいを出すと同義であり、聞きたくば正当な理由を話す必要があるからだ。
しかし、チトセの言葉は相手を貶める感があったので、それによりギルド内で不和が生じるのではないかと悠は心配した。
「他に何かあるかな?………………無いようなのでこれにて会議を終了する」
そして会議はチトセの言葉により締めくくられた。
* * *
会議が終わり人が出ていく中、チトセが悠に近づき、周りに聞こえないように小さい声で話しかけてきた。
「トモ君、例の件で話がある。少し間を置いたら奥の個室に来てほしい」
12 名前:黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:33:25.29 ID:02hTBU+c
「了解」
記念アイテムの件だと当たりを付けた悠は、然程考えるまでもなく端的に肯定の返事をした。
悠の返事を聞いたチトセが奥の部屋に向かっていくと、入れ替わるようにラピスが悠に近づいてきた。
「トモ、デートの件で話があるんだけど、日程は明日でも構わない」
「デートって……まあいいけど。それにしても突然だけど、何か理由でもあるのか?」
「こっちにも色々と理由があるの。で、もし都合が悪いのなら別の日程にしても構わないけど?」
「……いや、了解。明日の10時に中央の噴水で構わない?」
ラピスのデートと言う言葉に気恥ずかしさを覚えるが、すぐに気を取り直してラピスに了承の返事を返す。
その悠の返事にラピスは「約束だからね」と言いながら顔を綻ばせ、満足そうな笑みを浮かべる。
しかし、すぐに顔の表情を戻し、今まで黙っていたリリィに向き直り話しかける。
「話は変わるけど、あなたがトモに保護された子で間違いないよね。私の名前はラピスと言うんだけど、あなたは?」
「はい、間違いありません。私はリリィと言います」
「…………トモ、私は少しリリィと二人きりで話したいことがあるから外してくれる?」
お互い自己紹介をして、ラピスはリリィのことをしばし見つめた後、ラピスは突然悠に退席を求めてきた。
突然の流れに戸惑いを覚えつつも、チトセとの話がある悠は一言了承の返事を返し、チトセが居るだろう個室に足を向ける。
この場に残り話を続ける二人に不穏なものを感じながらも。
奥の個室に入った悠はチトセが奥の長椅子に座っているのを確認する。
悠はチトセに座るように指示されたので、机を挟んだ向かい側のが長椅子に座ると、チトセが要件と違うことを話しかけてくる。
「おや、ラピス君と話すようだったから、来るまでにもう少し時間が掛かると思っていたのだが、何かあったのかい?」
「……ラピスさんがリリィと二人きりで話がしたいとのことだったからこっちに来たんだよ」
「おやおや、それは穏やかではないね。しかし、誰しも戦わなくてはいけない時があるから今は見守るべきさ」
「どういう意味だ、それ」
「どういう意味だろうね」
悠の疑問にチトセは軽く笑いながらはぐらかしてくる。
こういった場合のチトセは絶対口を割らないことを経験している悠は、話を変える意味も兼ねて記念アイテムの受け渡しする。
「とりあえずこの話は終わりにしてアイテムを渡すから情報端末を出してくれ」
「分かったよ」
何事もなかったように情報端末を取り出すチトセ。
そのチトセの対応に対し、悠は少し恨めしい気持ちを覚えるが、すぐにそれを無視して自身の情報端末を取り出す。
悠が自身の情報端末を操作すると、チトセの情報端末に【命の輝石】が移された。
アイテムのやり取りは悠とチトセがやったように、携帯の赤外線受信のようにして受け渡しされる。
これは盗難防止の為であり、相手の持っている装備やアイテムを奪おうとしても、このようなやり取りをしない限り元の持ち主の情報端末に戻ってくる仕組みだ。
故に直接手渡さず、悠とチトセがやったように情報端末からの受け渡しをする必要があった。
チトセは悠からアイテムを渡された後、【命の輝石】の説明欄を見てから話を続ける。
「確かに。これがあれば他のギルドのリーダーに今回の情報を信じさせることが出来るよ」
チトセのギルドのリーダーと言う言葉に、悠は先ほどの会議でチトセが嘘を言ったことを思い出し、直接聞いてみることにした。
「そういえばNormalからいいタイミングで連絡が来たけど、記念アイテムの保有者が特定されないように口裏を合わせたのか?」
「勿論だよ。知っていると思うけど、Normalのリーダーは現実でその為人は信頼できると分かっていたからね。申し訳ないけどこちらの独断で口裏を合わせるためにNo
rmalのリーダーに事情を話してしまったよ。流石にトモ君の話の後に記念アイテムの話をしたら、保有者の当たりを付けられる恐れがあったからね」
「いや、この件はこちらが感謝する話であって、謝られることじゃないよ。ありがとう」
実際問題、悠の言葉は心から思ったことである。
なぜなら悠は会議で記念アイテムの話を出されることによる、保有者特定のリスクを全く考えていなかったからだ。
さらに言うと悠がチトセに記念アイテムの話をした時間を考えると、あれから会議までは時間が少なく、悠に連絡出来ずに独断で判断したことは責められない。
むしろよく短時間でチトセはそのリスクに気が付いて、手を回したものだと感心するべきところである。
13 名前:黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:37:16.49 ID:02hTBU+c
「そう言って貰えると助かるよ。ただでさえ今回は僕のギルドの新人が君に対して失礼なことをしてしまったからね」
「ああ、あいつか。もしかしたらこの後、色々と因縁を吹っ掛けられる可能性があるから、出来ればあいつの為人を知っておきたいけど構わない?」
悠はチトセの言葉にあの人物が悠やリリィに会議で突っ掛かって来たことを思い出す。
チトセにしてはあのようなタイプの人間をギルドに入れるのは珍しいので、悠は今後の対策のためにあの人物の為人を聞くことにした。
「彼の名前はコーガ。どうしてもギルドに入りたいと何度も頼み込んできてね、根負けして加入を認めたんだ。だけどこのギルドより知名度が低いギルドの人員を馬鹿
にしたり色々と問題があったから少し早まったと思っているよ」
「なるほど。チトセさんにして珍しいと思ったけど、そういった理由があったんだ。チトセさん諦めが悪いに人間に弱いからね」
「全くだよ」
はははと苦笑しながらチトセは同意した。
「これ以上は長くなるから話はここまでにしよう。では、アイテムは返却や新しい情報が入ったら連絡を入れるよ。リリィ君をこれ以上待たせる訳にはいかないからね」
「確かにな。じゃあ、またいつか」
悠は先ほどのリリィとラピスの雰囲気もあり、チトセの言葉に同意して別れを告げて黙って歩き出す。
しかしチトセはそんな悠の背中にある意味いつも通りの言葉を掛けた。
「そうそう、トモ君。掘られる気になったら是非来たまえ。歓迎するよ」
「こんな時にも言うのかよ!」
その悠の言葉を聞いたチトセは楽しそうに笑いだす。
チトセの笑い声を聞きながら悠は憮然としながら部屋を出て行った。
* * *
悠が会議室に戻るとそこにはラピスは既に居らず、リリィが一人悠を待っていた。
先ほど会議室を出る前に不穏なものを感じていた悠は、リリィに近づき話しかける。
「お待たせ。ラピスさんとはどんなこと話していたんだ?」
「いえ、互いの事を話していただけですよ。トモさんが居なくなってから会話はすぐに終わりまして、ラピスさんは帰ってしまいました」
「……そうか」
リリィの態度から話の内容を話すつもりが無いのを悟った悠は、それ以上は聞かずこの会話を終わらせる。
「それより、今日はこれからどうするのですか?」
「それについてだが、これからフィールドに出てみるつもり。リリィはどうする?」
「外に、出るのですか?」
「ああ」
悠がフィールドに出ることを示すと、明らかにリリィの顔が陰った。
恐らく、先ほどの会議の内容を思い出したのであろう。
しかし悠は今のうちに積極的に外に出る必要があると考えており、その理由をリリィに語った。
「多分だけど、今のうちならPKとかも戦い慣れていないから出るとしても町の近辺だ。だから移動はアイテムで直接行けば問題ないよ」
「それはそうですけど……」
「それにPKとかは、基本的に大きいリスクを嫌うから、今の内に簡単に手出し出来ないくらいになっておいた方が後々の為にいいと思う。もし会ったとしても、
幸いアサシンは気配察知が得意だし、状態異常はアイテムですぐ直るから逃げるのは容易いよ」
最初の内は、どこか煮え切らないような表情をしていたリリィだが、悠の言葉にも一理あると思ったのか目を瞑り、首を数回縦に振りながら色々と思案している
ようだ。
そして十数秒後、どうやら思案が終わったらしく目を開けて悠に話しかけてきた。
「分かりました、確かに今だからこそ外に出た方がいい結果を生むかもしれないですね。後、私も御一緒してもよろしいですか?」
「とりあえずステータス見せて貰ってもいいか?話しはそれからだ」
悠の言葉にリリィは頷いて、情報端末を取り出してステータス画面を見せる。
悠は自身に保護を頼むのだから、Lvはかなり低いものだろうと考えていたが、ステータス画面を見て少し驚く。
そこには【Lv40】、【Class:Amazonas】と言う文字が見え、悠は自身に保護を頼むのだから、Lvはかなり低いものだろうと考えていたが、ステータス画面を見て
少し驚いた。
因みにアマゾネスは女性専用の中級職で、戦士の上位に当たるクラスだが野蛮と思われているのか、あまり人気のない職である。
「本来なら駄目と言いたい所だけど、今回はスキルや戦いに慣れるために適正Lvが低い所に行くつもりだから構わないよ。それにしても、これくらいLvがあれば
保護なんて要らなかったんじゃないか?」
14 名前:黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:41:15.62 ID:02hTBU+c
「ありがとうございます。ですがLvがカンストしている方が大勢いるので、私は全体から見たら低いほうですよ」
「言われてみればそうだな。じゃあ早速向かうから防具を装備してくれる?」
その悠の言葉にリリィは頷き、懐から小さめのアクセサリーを取り出し、小さい声で「展開」と口にする。
そうするとアクセサリーが輝きだし、次の瞬間リリィの服装がゴシックアーマーに変わる。ただし白い。
『DLTB』では小さなアクセサリーに防具が込められてあり、どこぞの魔法少女のように一瞬で着替えることが可能だ。
そのうえ持ち運びも楽で、非常に便利な品物であり、「展開」と「収納」で着脱可能である。
他の防具を装着している時に「展開」すると、今まで装着していた防具が小さいアクセサリーになり、新たに「展開」防具に変わる。
その為、「収納」を使うのは風呂など限定的な場面でしか使われない。
この防具は必要な鉱石などの素材と任意のモンスターの宝珠で作成される。
その際、自身で改造やデザインが出来るため、拘っている人は細部まで非常に精密な造りがされている。
因みに私服も防具にカウントされるため、先ほどリリィが着ていた服は小さなアクセサリーになって、リリィの手の中にあった。
「それにしても服といい防具といい、リリィは白が好きなのか?」
「……いいえ、そういう訳ではありません。白いものを着ているのは、ある種の決意や誓いみたいなものです」
服やキャラデザインが白で統一されているため、てっきりリリィは白が好きな色だと悠は思っていたが、どうやら違っていたようだ。
その後、その決意や誓いは語りたくないようなので、リリィは沈黙を保っている。
悠もそれを察して話題を元に戻すことにした。
「じゃあフィールドに移動するけど準備はいい?」
「はい、構いません」
リリィのその言葉を聞いた悠はワープアイテムを使用し、二人の姿が町から消えた。
* * *
今、悠とリリィが居るフィールドはキスズ草原という、適正Lv35くらいの所だ。
出てくるモンスターは2種類で、飛燕という燕みたいな特有モンスターと基本モンスターのボアLv10だけである。
遮る物の無い広大なフィールドで2種類しかモンスターが居ないのなら、比較的に簡単そうに見えるが問題は飛燕にあった。
ボアは某狩りゲーのブルファ○ゴみたいに突進しかないが、飛燕は攻撃力は低いものの速すぎて非常に攻撃が当てづらい。
全職業の中でトップクラスの素早さを持つアサシンで、高いLvの悠でさえ速度の点では、飛燕に及ばないためその速度は脅威の一言だ。
そして飛燕ばかりに気をとられていると、ボアの突進を食らってしまう。
適正Lvがあれば死ぬことは無いが、非常に面倒なフィールドである。
なぜそんな面倒なフィールドを悠が選んだかには、いくつかの理由が存在する。
一つは、悠は飛燕が攻撃やスキルを使い、当てる練習には最適だと感じたからだ。
まず、飛燕は攻撃力が極端に低い。
現実なら飛燕の速度で嘴で突かれたら、かなりのダメージを負う事になるが、どうやらHPが体中に生命力の膜を張っているため、HPが切れない内は大きな傷を負う事が
ない。
ましてや悠のLvはこのフィールドの適正Lvの倍以上あるため、HPの減りは毒のダメージ以下である。
後、飛燕は体が小さく動きが速いため、攻撃が当てづらい。
当てるには気配察知で飛燕の位置を把握しつつ、相手の動きを予測して攻撃を放たなければならない。
そのためにはスキルの使い方や武器の扱い方に慣れる必要がある
故に悠は、肉体と精神のギャップを埋めるには最適なモンスターだと判断した。
二つ目は広大なフィールドのためPKから奇襲の心配が無いことだ。
ワープで移動した場合、その到着地点は必ずフィールドの入り口である。
そのためこのキスズ草原の中心部分なら360°見渡せるためプレイヤーが居たらすぐに気づける。
以上の理由により悠はこのフィールドで狩りをすること決めたのである。
悠の気配察知が左斜め後ろから飛燕が接近すること感知する。
気配察知により飛燕の動きを察知しているが悠はピクリとも動かない。
動くのは相手の攻撃を回避する最小限の動きだけで十分だからと学んだからだ。
熟練のものならば、ここにフェイントを入れたり、隙を作ったりするのだろうが今の悠には関係の無い話である。
飛燕が近づいてくる。
その距離20メートル……まだ動かない。
15メートル……まだ動かない。
10メートル……動かない。
5メートル……それでも動かない。
1メートル……ここで悠は動く。
15 名前:黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:44:41.23 ID:02hTBU+c
右斜め後ろにステップを自身の最速で踏むと同時に、反動を利用して自身が元居た場所を切りつける。
すると悠の鎌の一撃は寸分違わず飛燕に当たり、飛燕は霞のように消えていった。
悠は軽く汗を拭うと、リリィの方を向く。
そこにはボアの突進を交わし、戦士系のスキルである“強撃”をリリィの持つ大剣でボアに叩き込んでいる姿が見えた。
二人の今Lvの関係上、悠が飛燕を担当し、リリィがボアを担当している。
リリィのLvだと飛燕の動きを捉えることは難しい。
しかしボアならば突進してくるだけな上、急な方向転換も無く突進のスピードも遅く、初めて実践を経験するリリィでも避けられる。
なのでこの分担は自然なことであった。
今でこそ慣れてきた動きを見せている二人だが、最初の方は酷いの一言であった。
悠は回避するタイミングが早く、飛燕が方向転換してきて攻撃を受けてしまった。
リリィはボアの突進を交わし、隙だらけの後姿のボアに攻撃を外してしまった。
悠は飛燕の動きを捉えられず、リリィへの攻撃を何度も防げずにいた。
互いに間違って攻撃をしそうになったことは数十回もある。
しかし悠は最初に戦ったことを思い出しながら、リリィは悠に教えてもらったことを心の中で反復しながら、肉体と精神のギャップを少しづつ埋めていった。
そして数時間後、ようやく一端の動きをすることが出来るようになったのである。
悠がリリィを眺めているとリリィに飛燕が接近するのを感じ取る。
すかさず悠はリリィの方に向かい、飛燕を横から斬撃を与える。
悠の攻撃はうまく飛燕に当たったようだ。
最初のうちは何度に飛燕にリリィへの攻撃を許してしまったため、うまくいって悠は一息吐く。
「ありがとうございます、トモさん」
「分担だから礼はいらないよ」
「それでもお礼を言わせてください。後、そろそろ切り上げませんか?」
悠はその言葉を受けて回りを見回す。
すると日が暮れてきていて、辺りが夜に包まれようとしている。
会議から4~5時間ほど狩りをしていたことに気づき、リリィの案に賛成する。
「そうだな。そろそろ戻ろう」
「はい」
そして二人はワープアイテムを使い、キスズ草原から姿を消した。
* * *
二人が大都市カオカミに戻ると、晩御飯を食べることになった。
……昼に食べたパスタ屋で。
悠はリリィの意見を却下しようとしたが、キラキラと期待するような目と、何度も何度も頭を下げるリリィに根負けしてパスタ屋に行くことになった。
そして晩御飯を食べた二人はぶらぶら町を歩いていた。
「すみません、我侭を聞いていただいて」
「構わないよ。パスタは好きな部類に入るから」
実はこれに似たやり取りは、これで6回目である。
いくら好きな食べ物だったとはいえ、連続で同じ店に連れて行ってしまったことを引け目に感じているようだ。
しかし何度も頭を下げられると悠としても悪いので、話題を変更することにした。
「それにしても、今回食べたパスタの味はどうだった?」
「『ボアの肉を使った野性味パスタ』ですか? とっても美味しかったですよ。味付けを大味にすることで野性味が増して、とても新鮮でした」
どうやら話題の変更は成功したらしく、リリィは笑顔でパスタの感想を述べる。
内心で安堵していると目の前に見知った人物を見つけた。
アキラとジュンだ。
どうやら二人も悠に気がついたようで、こちらに向かってくるので二人に声を掛ける。
「こんばんわアキラ、ジュン」
「こんばんわトモ」
「よっす」
リリィがアキラとジュンを目で「誰ですか?」と問いかけてくるので紹介する。
「この二人は俺がよくパーティーを組む人たちでアキラとジュンと言うんだ」
「そうだったのですか。初めまして、リリィと言います。今はトモさんに保護してもらっている立場です」
「ご丁寧にどうも、アキラと言います」
「俺はジュン、よろしくな」
悠がリリィにアキラとジュンを紹介すると、互いに自己紹介をしだす。
そして自己紹介が終わるとジュンが突然悠の首にヘッドロックを掛けてくる。
16 名前:黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:47:38.39 ID:02hTBU+c
「いきなり何してんだよっ?」
「お前が可愛い子を手篭めにして、それをいいことに食べさせあって公害を振りまいていると聞いて、どんな子かと思えばこんなに可愛い子をだったなんて。この
裏切り者! 性犯罪者!」
「うぐぐ、おそらくあの人だと思うけど、誰だそんなことを言ったのは!?」
だんだん力が入ってきているジュンのヘッドロックに、少し息が詰まりながらその情報源を問いただそうと悠は質問する。
するとアキラが間髪無く、予想通りの人物の名前を挙げた。
「チトセさんしかいないよ」
「やっぱりか! あの人はー!」
どうにかヘッドロックを外そうと奮闘していたら、突然圧力が消える。
何事かと思い後ろを振り返ると、ジュンはリリィに話しを掛けていた。
「リリィさん。トモの所じゃなくて俺のところに保護され……」
「お断りします」
「そんなあっさり!?」
ジュンがリリィに保護のされる人の変更を持ちかけようとした所、言い終わる前に拒否される。
そのことに大仰のリアクションするジュンの姿にみんな笑ってしまった。
一頻り笑うとアキラが話題を振ってくる。
「そういえばトモ。僕たちはさっきまでNormalの会議に出席させて貰ったんだけど、記念アイテムのこと聞いたことある?」
どうやらNormalの方でも記念アイテム話がされたらしい。
悠もExtraの会議に出席しているため素直に答える。
「あるよ。俺もExtraの会議に出席してたら、その話題が出てきたよ」
「なら話が早いね。最初は嘘かもしれないと思ったけど、後で知り合いのギルドからそのアイテムを借りてくるとまで言われたら信じるしかないからね」
「確かに」
「後、申し訳ないけど、これからジュンと寄る所があるからこれで失礼するよ」
「確かにゆっくりしていられる時間じゃないな。そういうことでじゃあなトモ、リリィさん」
そういってアキラとジュンが去っていく。
悠とリリィは別れを告げて、二人が泊まっている宿に向かう。
リリィはその間、ずっと下に俯いて、何やら思案しているように見えた。
悠とリリィが風呂に入り、そろそろ寝る時間になってきた時、リリィが話しかけてきた。
悠の予想しなかったことを。
「トモさん。記念アイテムを取得したのってトモさんですよね?」
「……何でそう思うんだ?」
悠は出来るだけ平静を装いつつ、問いかける。
「チトセさんとアキラさんの言っていることが矛盾していました。そうなるとどちらかが嘘か間違いを言ったことになります。そしてトモさんが閉じ込められた直後
に戦闘したことを鑑みて考察すると、チトセさんが嘘を言っていて、トモさんが記念アイテムを取得したことをばれないように偽装したと考えるが自然だったので」
悠は当事者であるため気づかなかったが、ここに至ってようやくアキラの言ったことがチトセの言ったことと矛盾していることに気がついた。
そしてリリィの追求から逃れられないことも。
悠はおとなしく真相を伝えることにした。
「リリィの言ったことは全て当たりだよ。出来ればこのことは誰にも言わないで欲しい」
「はい、勿論です。出来ればでよろしいのですが、そのアイテムを見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
そう言って悠は、自身の情報端末に【命の輝石】の情報を写し、リリィに見せる。
リリィは悠の情報端末を受け取り、暫しの間見つめた後、悠に情報端末を返す。
「本当に私達が意図的に閉じ込められたことを証明するアイテムがあったのですね」
「ああ、それが吉報かどうかは不明だけど」
「そうですね」
その言葉と同時にリリィが軽く伸びをする。
もうすでに23:00を回り、窓から見える町並みを見ると辺り着いている電気が相当減っていた。
自身も結構眠気を感じていた悠は、そろそろ寝ることを提案する。
「もう時間が時間だし寝ることにしないか?」
「はい、私も賛成です」
本来ならばここで電気を消し、寝ることにするのだが、朝のことを思い出した悠は釘を刺すことにする。
「ただし俺の布団に入ってくることは禁止」
「ええー」
「そんな不満そうに言っても覆らないぞ」
「分かりました。今日は入りません」
「出来ればいつも入らないようにして貰いたいけどな……」
悠は自身の眠気もあり深く考えずに電気を消して寝ることにする。
17 名前:黒い百合3 ◆YBm7PBq9q6 [sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:50:04.50 ID:02hTBU+c
辺りが寝静まり、悠の部屋にひとつの黒い影が立っていた。
リリィである。
「日付も変わりましたし、昨日は潜り込んでいませんから何も問題ありませんね」
そう言ってリリィは静かに悠のベットまで近づき、潜り込み、抱きつく。
悠の胸元に顔を埋め、数分後には寝息を立てていた。
最終更新:2011年08月17日 23:03