カオスワールド 第3話

737 名前:カオスワールド[sage] 投稿日:2011/05/30(月) 00:36:57.88 ID:et5964BA

共国オワリ。

今から500年も前、建国された人口ニ十万ちょっとの小国です。
しかしオワリは他の国に比べると、意外と歴史が深く、昔からの習わし事も豊富です。

例えば、七の月上旬に行われている七夕祭。これは、古来に魔物の大軍が押し寄せて来た時、とある巫女様がその日に一枚の御札に祈りを念じ、神木にそれを貼りました。

すると祈りは通じたのか、魔物の大軍はオワリを襲わずに跡形もなく消えてしまいました。
それから巫女は国中に讃えられ、巫女亡き後には、竹に願をかけた紙を吊るすという、今でいう七夕祭という形でオワリの人々から親しまれて行われています。

ちなみに『七夕』の由来はその巫女の名前が七夕(たなばた)だったからみたいです。

他にも多くの習わし事があります。それらは他国でも実施されているぐらいに。




「やっぱりここにいたか。」
「あら、一兄さん、今日は早いですね。」

まだまだ寝坊助さんが寝てる時間に、寝坊助さん代表の一兄さんが珍しく起きて来て、書斎と言うにはおこがましいけど、それでも三百冊の本があるこの場所は私達にとっては充分な書斎です。

「…一兄さんにとっては王室内大図書館かしら。」
「?」

運動、魔法だけでなく、頭も弱い一兄さん。いや、この場合は鈍感なだけなのかな?
でも、そんな一兄さんも大好きです。

「たく、燈は本当に本が好きだな~」
「正しくは歴史ね。」
「どちらにせよ、俺にはさっぱりだ。」
「馬鹿ですもんね、一兄さんは。」
「率直すぎるから!」

図星で真っ赤になる一兄さん。可愛すぎます!今すぐ抱き付きたいくらいに!

そんな淫らな衝動を抑え、私はわかりきってはいるけど、さっきからうずうずしてる一兄さんに敢えて質問してみました。

「今日は早いだけでなく、落ち着きも欠いてるよ?どうしたの?」
「おいおい、今日は待ちに待ったAランク依頼の初仕事だぞ!
これが落ち着いていられるもんか。逆に燈の落ち着き具合にビックリだよ。」

「気持ちを落ち着かせるためにここに来たんですが。」
「今日は何を?」
「オワリの歴史を。」
「せっかくならミノウの歴史の方が良くないか?」
「ミノウの歴史も面白いですからね。次回そうします。」



738 名前:カオスワールド[sage] 投稿日:2011/05/30(月) 00:39:31.05 ID:et5964BA

「おう。それより武器とかの準備は大丈夫か?」
「一兄さんと違って昨日の内に準備万端です。」
「おいおい、まるで俺がまだ準備してないとでも?」
「そうね………あっ!依頼書持ってますよね?」

ニヤニヤしながら意地悪に聞いてみました。

「…………ちょっと部屋に戻る。」

やっぱり肝心な依頼書は忘れてたんだ…
私がいないと本当に駄目な兄なこと。

私もオワリの歴史書を本棚に戻し、自分の部屋に荷物をとりに行きました。

「少し早いが行くか。」
「一時間も早いですけど。」

事務所兼自宅に鍵を閉め、私と一兄さんは、集合場所の大広場に向かいました。

「あら、一君に燈ちゃんじゃない。」
「司さん!」

先日の猫探しの依頼をしてきた近所のお姉さんである司さんにばったり遭遇しました。

「依頼かしら?」
「はい。」
「なんと、初Aランク依頼です。」

司さんのたゆんたゆんの胸をチラチラ見ながら喋る一兄さん。鼻の下を伸ばして、まったく!

「っ痛い!?」
「ほら、集合場所に遅れるから早くしますよ。」
「え?いや、まだまだ時k「じゃあ、私達急いでいるので失礼します。」
「うふふ…気をつけてね。」
「はい。また帰って来たらよろしくお願いします。」
「こちらこそね。」

一兄さんのつま先を踏み、耳を引っ張りながら私達は司さんを後にしました。

「まったく、司さんに鼻の下伸ばしすぎでしたよ。」
「悪かったよ。悪かった。」

あまり反省してなさそうな一兄さん。
そんな一兄さんが私のとある一部を一瞬凝視しました。勿論、見逃さず、

「一兄さん、今私の胸見たでしょ?」
「ぐ………あはははは。
燈も頑張れよ。」

流石にカチンときた。年頃な乙女に何て無慈悲な言葉を!
せっかく一兄さんのために頑張ってる最中なのに!



739 名前:カオスワールド[sage] 投稿日:2011/05/30(月) 00:40:51.86 ID:et5964BA
数歩前を歩いている一兄さんに手を向けて少しお仕置きをすることにしました。

バチッ

「っ痛!?」
「一兄さんのばーか!」

バチッ……バチバチッ

「ぎゃひん!?
ちょっと燈さん?タイムタイム!本当に悪かった!」

一兄さんに弱い雷系の魔法をちびちび与えながら、私達はゆっくり大広場に向かいました。
しかし、ゆっくり歩いてたことを後悔しました。


~~~

「………一兄さん?」
「………本当に申し訳ない…」

大広場に着いた私と一兄さん。しかし、その大広場はいつもの大広場らしき風景でしかなかった。

本当なら千にも上る軍隊と、私達以外に依頼されたギルドの人達が集まっているはずの集団が全くいなくて、それどころか、それっぽい人達もいません。

「…紙をしっかり読んでくださいよ…」
「ごめんなさい…」

公国ミノウの要請で、国の兵だけでなく、多くのギルドにも援軍の依頼をした今回の共国オワリからの依頼。

Aランクにしては依頼金は少ないですが、傭兵として雇ってもらえるようになるかもしれませんし、何よりも名誉も付きます。
私達の場合はどちらかと言うと後者で、名誉を少しでももらい、今後の仕事がたくさん来るようにするために依頼を受けました。

戦に関わる大変な仕事かと思いましたが、一兄さんが言うには全然違うらしく、一時的な兵の埋め合わせをさせられるそうです。
雑用はあるかもしれませんが、戦には全く関わらないようです。

そんな一兄さんは重要なところを見落としてました。

「昼前に集合じゃなくて、出発じゃないですか。」
「反省してます…」

昼前集合かと思ってたら、昼前出発予定と書かれている依頼書を握りしめる一兄さん。

「本当に愚図な兄でごめんな…」
「え…一兄さん……」


740 名前:カオスワールド[sage] 投稿日:2011/05/30(月) 00:41:33.72 ID:et5964BA

たちまち表情が暗くなり、とても申し訳なさそうな顔で謝ってくる一兄さん。
いや、やめて。私はそんな顔なんて見たくない。いつもの一兄さんの顔を見たいのに。

「元気出して、一兄さん。
まだ昼前だから早く出発しただけです。
それに一時間も早く出れたからまだまだ追い付けるはずです。」
「燈……」

いきなり、私に抱きつく一兄さん。

「ひゃ!?一兄さん?」
らしくない声が出てしまいました。恥ずかしい!

「ありがとう。俺はそんな優しい燈が本当に好きだよ。」
「!!!」

一兄さんが好き!?私を!?
え?…え!?

「もう!、こんなことしてないで早く行きましょう。」
「そ・そうだな。」

顔が赤い一兄さん。うふふ、多分私の方が真っ赤だろうな。
一兄さんに触れた場所全部が疼く。もっと抱かれていたかったです。
あ、そうだ。

「…ミノウに着いたら、抱きついていいですか?」
「え?」
「……さあ、急ぎましょう。これ以上遅れたら本当に間に合わなくなりますよ。」
「お・おう!」

わざと一兄さんの問いかけを無視して、そのまま早足で門まで向かいました。

公国ミノウに着くのが凄く楽しみになりました。
それは何で?それは着いたらのお楽しみです。私にとって、一兄さんにとっても。

まだまだ私達の道はこれからです。………胸はいい加減成長してほしいですが…


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最終更新:2011年06月03日 22:39
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