608 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 13:59:32.45 ID:RN0hb5KB
「コレはいったいどういう事なんですか!!」
テーブルの上にページを捲った状態の雑誌を叩きつけ目の前に居る女性に声を荒げた。
「どういうこと?どういう事ってそこに書いてる事をそのまま読めば分かるわよ」
私の声に反応する事無く、優雅に紅茶を啜る女性…その姿を見て、私の苛立ちは高まる一方だった。
――今私が居る場所は駅近くにあるお馴染みのカフェ。
何故朝っぱらからこんな場所に居るのかと言うと、ある人に真実を聞きたかったから。
「ふふ…そんなに大声出すと周りに迷惑よ?」
目の前に居るのは私の憧れでもある、篠崎 零菜さん。
些細な事で知り合いになれたのだが…今の私は憧れなど関係無く、零菜さんに怒りを覚えていた。
「…ッ…分かりました…だから理由を教えてくださいよ?」
椅子を引き寄せ腰を落とすと、雑誌を零菜さんの目の前に持っていき指をさした。
私が指さすページ…そこにはハッキリと『零菜、双子の兄の存在が発覚!』とデカデカと書かれていた。
元々謎めいた人だったので雑誌を見た時は「おぉ~、双子なんだー」ぐらいしか驚かなかったのだが…二人で歩いている写真と双子の兄である人物の名前を見たとき、頭が
真っ白になった。
609 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:01:43.99 ID:RN0hb5KB
「なんで、此処に優くんが写ってるんですか?」
そう…何故か分からないが、零菜さんと優くんのツーショット写真が写っていたのだ。
しかもこの写真…確か零菜さんの男性密会写真の時の写真…モザイクが有るか無いかの違い。
そしてその写真には記事が書いており、優くんの名前が何度となく書かれていたのだ。
何度も読み返したが、やはり優くんの事だった。
「何度も言うけど、優哉は私の双子の兄。貴女に隠していたのは優哉に迷惑がかかると嫌だったから」
「なんで迷惑になるんですか?」
「貴女私が優哉の妹だと分かると周りに言い触らすでしょ?そうなると優哉の所に私の事を聞きに行く輩が出てくるかもしれない」
「わ、私は言いふらしたりしないです!」
「そんなこと信用できないわ。
貴女とは偶然優哉の事を知らず友達になっちゃったけど、良いお友達だったと思ってるわよ?もう終わりだけど」
それだけ言い放つと、携帯電話にある私のメモリーを私の前で消して見せた。
「あと、優哉は責めないであげてね?あの子は貴女と私が知り合いなのを、このカフェに来て初めて知ったのよ」
確かに…優くんは知らないような素振りをしていた。
610 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:02:33.11 ID:RN0hb5KB
自分から零菜さんが双子の妹だって言えない理由も分かる。
だけど…だけどこれじゃあ、私一人がバカみたいだ。
優くんを驚かせてやろうと思って零菜さんを優くんに会わせたり、零菜さんと友達であることが自慢のように話したり…今まで私は何をしてきたのだろうか?
今思えばあの時、あの本屋で私に怒りを見せたのは双子の妹である零菜さんの悪口を私が言ってしまったからなのだろう……だから私はフラレたのだ。
「……ちょっと待ってください…ならあの時のテーブルの下で手がどうとか、夕方に送られてきたメールはなんだったんですか!?」
そうだ…あの日零菜さんから私を挑発するメールや言葉さえなければ私は零菜さんの写真を見て悪態をつく事も無かったはずだ。
「テーブルの下?メール?……あぁ、あの時の…別に理由は無いわよ?貴女が優に本気か確かめただけ。あれでも大切な兄だからね」
確かめただけって……あの時の挑発さえなければ間違いなく私と優くんは付き合えたはずなのに…。
「まぁ、男は腐るほど居るんだし…貴女に合う人もいっぱい居るわよ」
零菜さんの言葉を軽く受け流し、紅茶に口をつけた。
611 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:03:28.38 ID:RN0hb5KB
――やっぱり遠くで見てるぐらいが一番よかったんだ……芸能人って言葉に浮かれて一人はしゃいでたけど…あの時零菜さんと会わなきゃ……また、別の会いかたをしてたら…。
「…私……優くんの事諦めませんから」
小さく呟くように出た言葉に零菜さんの紅茶を持つ手がピタッと止まった…。
零菜さんの手からゆっくり上に視線を上げていく。
「へぇ……そう…」
「……ゃ…」
背筋に何か冷たいものが走った。
慌てて目線を自分の紅茶に下げた。
なに…あの目…?
零菜さんの目……氷みたいに冷たかった。
見たこと無いような瞳……一瞬誰か分からないぐらい顔が違って見えた。
再度視線を上にあげて確かめて見る。
「何かしら?」
「い、いえ…」
いつもの零菜さんだ……。
「それで…なんだっけ?優哉の事が諦められないだっけ?どうして?」
もうあまり私の話に興味が無いようだ…。
紅茶を飲み干すと、今度は片手で携帯をいじりだした。
「そんなにすぐ諦められるものじゃ……それに優くんは私の事を好いてくれてると思います。今度告白すれば必ずy「周りが見えていないのも恋のせいかしら?」
612 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:04:15.09 ID:RN0hb5KB
「え?なに…」
クスクスと笑う零菜さんを眉を潜めながら見ていたが、ふとテーブル上に先ほどまで無かった“不自然”なもの視線が落ちていった。
影?
テーブルに影が写っている…誰の…?
何故か分からないが、大きな胸騒ぎに襲われ、咄嗟に身体を後ろに仰け反らせた。
その瞬間、私の額をかすめテーブルの上に何かが落ちてくる。
“それ”は私に当たることなくテーブルにドンッとぶつかった。
目をぱちくりしながらテーブルを凝視する。
テーブルには私達以外の誰かの手が乗せられている。
後ろに誰か居るのだ。
「な、なに…」
私の後ろから伸びる腕を辿りながら恐る恐る後ろへと振り返った。
「避けないでよ、めんどくさい…」
「え?な、なんで貴女が此処に!!?」
後ろに立っていたのは、ラフな私服に身を包んだ優くんの実の妹である由奈ちゃんだった。
なんで由奈ちゃんが…いや、それ以前に何故机を…由奈ちゃんから目を放し再度テーブルに目を向ける。
「ヒッ!?」
テーブルを見て椅子から転げ落ちそうになった。
由奈ちゃんが叩いた木のテーブルには綺麗にフォークが突き刺さっていたのだ。
もしかして、フォークで私の頭を刺そうとしたの?
613 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:04:42.75 ID:RN0hb5KB
あり得ない…そんな事したらどうなるか分からない歳じゃ無いはず。
「なんて事するのよ!危ないじゃない!」
「危ないの承知でやりましたよ?だから耳元でギャーギャー喚かないでもらえますか?鬱陶しいんで」
それだけ言い捨てると、私の横を通りすぎてテーブルの上にある雑誌に目を向けた。
優くんには悪いがいったいどんな教育を受けたらここまでひねくれた事ができるのだろうか…。
「……零菜さん…貴女何を考えてるの?」
雑誌をゆっくり閉じると、別のテーブルから椅子を持ってきて座った。
「珍しく貴女から電話が掛かったきたから来てみたけど……この雑誌だって…何故公の場で兄の話をしたの?」
「写真を撮られたんだから、それしかもう方法が無かったからよ…優哉や貴女には迷惑を掛けた事は本当に謝るわ…ごめんなさい」
由奈さんに向かった小さく頭を下げた。
それを見ていた由奈ちゃんは、何の返答も返す事なく私に目を向けた。
零菜さんに向ける目とは違う…完全なる敵意。
とことん私は由奈ちゃんに嫌われてしまったようだ。
まぁ、あまり気にはしないのだが…。
私は由奈ちゃんを融通の効かない子供だと認識している。
614 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:05:26.24 ID:RN0hb5KB
たった一人のお兄ちゃんを取られるのが嫌だから、お兄ちゃんを傷つけてまで引きはなそうとするのだと…。
「とにかく…私は優くんが好きなので諦める事はできません」
こればっかりはハッキリ言わなきゃ伝わらない。
私は優くんを諦めない…絶対に…。
「………杉原 成治、四十七歳。○×会社に勤務」
「……ぇ…」
零菜さんが鞄から一枚の紙切れを取り出すと、突然それを読み上げだした。
「その妻、杉原 佐千子四十五歳。専業主婦」
「ちょ…ちょっと待ってくださy「二人の子供に恵まれ、一人は○○小学校六年生の男児で名前は杉原 健太」
意味の分からない汗が身体全体から溢れ出す。
なぜ?
なぜ、零菜さんが私の――
「もう一人はその杉原 健太の姉であり杉原家長女になる杉原 薫二十五歳。市内にある○×株式会社に勤務…」
――なぜ、零菜さんが私の家族の事を知ってるの?
唖然とする私の前に零菜さんが紙切れを滑らせる。
震える手でそれを掴み目を通す。
「……」
紙切れには私の家族の“すべて”がびっしりと書かれていた。
「手間が省けてよかったわ」
由奈ちゃんが私の手から紙切れを奪い取ると、静かにそれに目を通した。
615 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:06:30.19 ID:RN0hb5KB
手間が省けた?
何の事?
と言うか何故私の家族の事が紙に書かれているの?
――何故二人はそんな冷たい表情をしているの?
怖い…なんで?分からない…。
「○×小学校ねぇ……此処から一番近いわね……零菜さん…子供の方お願いね?私は父親の方に行くから」
イミガワカラナイ
「えぇ、あんまり目立たないでね?もみ消すのも一苦労だから」
コノカイワハナニ?
「“篠崎”の力があれば楽でしょ?零菜さんこそ学校は他の子供も居るんだから間違えないでよ」
ナニヲハナシテルノ?
「一度見たから顔は覚えてるわ。父親の方は係長だからすぐに見つかると思うわよ」
ワタシノカゾク二ナニヲスルノ?
「ま、待ってッ待ってくださいッ!!!」
――あまりに耳慣れない会話と言い知れぬ恐怖に私の精神が小さく悲鳴を立てて崩れていくのが、分かった。
「……なに?」
席を立ち、カフェから出ていく二人の足にしがみつき、見上げた。
見下ろす瞳は四つ…これは人間の瞳なのだろうか?。
私には悪魔に見えた。
「も、もう…優く…優哉さんとは…」
この二人に私達家族を壊す事などできるはずが無い…できるはずが無いのに…。
616 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:07:13.66 ID:RN0hb5KB
「関わりません……だから家族には手をださないで…くだ…さい…」
――二人の目は、間違いなく本気だった。
「あらそう…それじゃ、携帯貸して貰えるかしら?」
零菜さんに言われた通り鞄から携帯を取り出し手渡した。
私の手から零菜さんが携帯を受けとると、それを由奈ちゃんに手渡した。
そしてなんの躊躇も無く携帯を真ん中からへし折ると、隣にある水の入ったコップの中へと沈めた。
「これで関係は絶たれた…貴女は優哉とは“無関係”よ?」
綺麗な顔を歪めニヤァと笑みを浮かべると、ゆっくり私に近づいた。
「これで新しい携帯を買いなさい……そして新しい恋をして新しい男を作ればいい…男なんて腐るほど居るのだから」
財布から数枚の札を私の頭上に落として見せた。
周りが見たらお金を恵んでもらっているように見えるのだろうか?
実際はそんな可愛らしいモノでは無い…。
「それじゃ…杉原 薫さん……今までお兄ちゃんのお友達ご苦労様……」
私の耳元で由奈ちゃんが小さく呟くと、二人ともカフェから何事も無かったように出ていった。
「だ、大丈夫だったかい!?」
裏にいた店長が慌てて私の元へ駆け寄る。
617 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:07:50.00 ID:RN0hb5KB
「大丈夫です…大丈夫…」
足が震えてる…立ちたくても立てない…
「大丈夫って…薫ちゃん泣いてるじゃないか」
「ぇ…泣いてなん……ぁ…れ…?」
頬に触れると、初めて濡れている事に気がついた。
私いつから泣いていたんだろ?
そして、気がついた途端溢れ出す涙。
――お金を捨てるように渡された悔しさから?
――好きな人との恋愛を邪魔された悲しさから?
違う…。
これは、あの家族と関係を切れた安堵からくる涙だった――。
618 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:08:41.72 ID:RN0hb5KB
※※※※※※※※
「ふふ…案外簡単に終わったわね?」
「……えぇ…」
カフェを出た私と零菜さんは、カフェ近くの駐車場へと足を運んでいた。
零菜さん以外の車は一台も止まっていない。
こんな誰も停めないような駐車場にこんな目立つ車を停めて…それとも目立ちたいのだろうか?
まぁ、モデルをするぐらいだから目立ちたいのだろう…。
「それで……なんであの子を潰そうと考えたの?」
単刀直入に聞いてみた。
お兄ちゃんが駅のホームで待っているのだ…それに長々と見たい顔でも無い。
「あの子の出番はもう終わったはずなのに、私の許可無く表にでようとしたからよ」
「出番?表?」
また訳の分からない事を…。
「優哉にフラれてあの子の出番は終わりなの。だから強制的に排除した…分かる?」
「分からないわね…まぁ、私もあの女は鬱陶しいと思っていたからよかったけど…それじゃさようなら」
踵を返して、駐車場から離れる。
「あ…そうだ……零菜さん空ちゃんを連れて行ってくれない?私はお兄ちゃんと二人で帰りたいの」
「それは無理ね…実家につくまで空の恨み辛み小言を車の中で聞かされたくないもの……空はお兄ちゃんが出来て嬉しいのよ」
619 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:09:13.83 ID:RN0hb5KB
零菜さんの口から出たお兄ちゃんと言う単語に眉がピクッと動くのが分かった。
他の誰より零菜さんの口からお兄ちゃんと言う言葉が出る事が一番勘に触る。
「貴女お姉ちゃんなんだから仲良くしたら?」
私の表情の変化に気がついていないのか、零菜さんはお嬢様のような笑みを浮かべ私の腹部を軽くポンッと叩いてきた。
お姉ちゃん?私が?
悪いけど私は産まれて今まで妹しか経験してないし、その地位を譲るつもりも退くつもりも無い。
私はお兄ちゃんの妹なのだ。
「それじゃ、失礼します」
分りやすく零菜さんに触られた腹部を手の平でパッパッと払うと今度こそ駐車場を後にする為歩き出した。
「それと…空には気をつけた方が良いわよ?あの子の“変化”を見逃すと、周りの女は痛い目を見るから」
「……どういう…」
言葉の意味を聞こうと振り返る…が既に窓は閉められており、あっという間に私の横を通りすぎて走り去ってしまった。
あの子の変化?
なんの事だろう…意味が分からない。
「まぁ…いいか…早くお兄ちゃんの所に戻ろ」
考えていても仕方ない…あの子に何かできるとも思えないし…。
なんとなく走り去る車を見送ると、私も急いで駅へと向かった。
620 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:09:39.59 ID:RN0hb5KB
※※※※※※※
「遅い…」
携帯を開いて時間を確認する。
予定の電車が来るまで後10分。
由奈は何処に行ったのだろうか?
突然由奈の携帯に電話が掛かってきて、俺に「ちょっとだけ待ってて…すぐに終わらせてくるから」と言い残し駅を出ていったけど…。
「なぁ~、兄ちゃんこれ開かないから開けてー」
隣に座る空ちゃんが炭酸飲料入りの瓶を目の前に差し出してきた。
それを受け取り蓋を開けてやる。
「あれ?……あぁ、はい、どうぞ」
なんだろう…炭酸の抜ける音がしなかったが…。
手応え的に蓋は開いていたような感じだった……まぁ、考えすぎかもしれないな。
俺の手から瓶を受けとると、嬉しそうに瓶に口をつけた。
「はは、もっとゆっくりと飲まないと咳き込むよ?」
「兄ちゃんそんな事言って横から取るつもりだろ?絶対にあげないから」
俺の手が届かないように背中を向けると一気にジュースを飲み干した。
「別に取らないって」
なんだろう…この感じ好きだ。
幼い由奈を相手にしてた時を思い出す。
621 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:13:30.09 ID:RN0hb5KB
いつも後ろをチマチマついて来て、由奈を置いて行くと泣き喚く。
当時は邪険にあつかったりもしたが、それでも慕われる事は嬉しかった。
あの家では特に…。
「兄ちゃん、これあげるよ」
空ちゃんが瓶を俺に手渡してきた。
瓶を振ってみると、底にジュースが溜まってるのが分かった。
「これぐらい、飲めないの?」
「もうお腹一杯だから飲めない。兄ちゃん飲んで」
俺の手を掴み瓶を口に強引に持っていこうとする。
仕方ない…飲むというほど入っていないが瓶に口をつけた。
「…ちょっと待って」
突然口につけた瓶が後ろから奪われた。
咄嗟に後ろへ振り返り奪った人の顔を確認する。
「由奈?お前何処に行ってたんだよ」
後ろに立っていたのは駅を離れていた由奈だった。
いつの間に戻って来たのだろうか?
まったく気づかなかった…。
「友達に呼び出されてね……それより…これ飲んだ?」
「へ?いや、飲んでないけど?」
俺の返答を聞いても由奈は此方へ視線を向けず、瓶をゆっくり振ると太陽光に当て瓶を透かして中のジュースを見つめだした。
何をしているのだろうか?
622 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/07/09(土) 14:14:06.31 ID:RN0hb5KB
「…なんだよ?それ兄ちゃんにあげたんだから、由奈姉ちゃんは新しく買えばいいだろ」
空ちゃんが頬を膨らまし、拗ねたように呟いた。
「……その必要は無いわ。私とお兄ちゃんが半分ずつ飲むから」
空ちゃんの瓶をゴミ箱に放り込むと、自販機に向かい新しく飲み物を購入した。
由奈が買ってきたのはジュースでは無く緑茶…由奈だから分かる事だろう……基本俺はジュースを飲まないのだ。
別に嫌いというほどでは無いのだが、あまり好んで飲む事は無い。
「ほら、電車来たわよ?早く行こ」
由奈の声と共にホームに電車が入ってくる。
「それじゃ、行こうか空ちゃん」
「うん!私が兄ちゃんの隣ね!」
ベンチから立ち上がると、俺の手を引っ張り電車の中へと入った。
空ちゃんは多分遠足気分なんだろう…実家に戻れば学校の友達と会えると話していたのでそれも楽しみなのかもしれない。
年に一回の実家帰り……俺も空ちゃんみたいに無邪気に喜べたら…。
そう心の中で呟きながら、窓の外へと目を向けた。
「……(あれ?そう言えばさっき空ちゃん自分の事を“僕”じゃなくて“私”って………まぁ、いいか…)」
最終更新:2011年08月17日 23:12