復元 後編

719 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:18:08.65 ID:Cdc7qjoF
「お母さん、おはなしってなあに?」

幼い僕が母に話しかけている。
立ち鏡に洋箪笥、本棚には子供用の絵本がある。
ここは・・・母の部屋だ。

母は僕の姿を見ると自分の机の引き出しに大き目の封筒を入れ鍵を付けた。
4桁のダイヤル式の鍵だった。

(0526・・・僕の誕生日・・・)

母はダイヤルを回して施錠すると僕のほうを見て言った。

「明人、小学校楽しみ?あたらしいお友達できるね。」

「うん!とっても楽しみだよ!それで勉強して機関車に乗るんだ!」

「明人の夢はJRの運転手さんだったわね、偉いわ・・・」

その時の母は涙を浮かべていた。
あの時僕はその涙がなぜでているのか理解できなかったのを覚えている。

「・・・お母さん?悲しいの?」

そう質問した僕を母は愛おしそうに抱きしめる。
このときの母は何日も寝ていないような酷い疲れが顔に出ていた。
まるで何か恐ろしいものに狙われている小動物のような弱弱しさを感じた。

「あぁ、明人・・・私の可愛いぼうや・・・
悲しくないわ、あなたが幼稚園卒業するのがうれしいの。
あなたは命より大切な男の子だもの・・・」


720 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:20:27.82 ID:Cdc7qjoF
「うれしいのに涙が出るの?」

「大人になるとね嬉しいときでも泣いちゃうのよ。」

「え~そんな弱虫になるんだったら大人にならなくてもいいよ!」

母は僕を抱きしめたまま続けた。

「弱虫になるんじゃないの。優しくなるから涙が出るの。
私の明人はこれからも優しいままで居てくれる?」

「・・・うん、僕やさしいままでいる。」

「そう・・・いい子ね・・・
いい明人?これから何があっても優しくあって・・・
何があってもお姉ちゃんを守ってあげて。
お姉ちゃんは大人しいから、きっと誰かに守ってもらわないといけないわ。
だからできるでしょ?これから明人はピッカピカの1年生なんだから。」

「うん!僕守って見せるよ! お姉ちゃんをいじめるやつはやっつけてやる!」

「・・・ありがとう明人・・・お母さん嬉しいよ・・・」

母の頬に大粒の涙が流れた。
この涙は嬉しいときの涙じゃなかった。

母は抱きしめている僕を離すと窓のほうを見た。
そこには蔵に木箱を運ぶ業者とその先を歩く父の姿があった。

「・・・お母さんもういかなきゃ・・・
いい?明人、何があってもお姉ちゃんを守ってあげるのよ?」

「・・・お母さん・・・どこかいっちゃうの?」

「お母さんはどこにも行かないわ。あなた達をおいてどこにも行かないわ・・・
さ、遊んでらっしゃい!」

「うん・・・」

あの時僕は母がなにをしようとしているのか気になった。
その想いは今となっても全く変わっていない。

母は一体どこに向かったんだろう・・・・・


721 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:23:22.64 ID:Cdc7qjoF



「・・・・・・・・・・・朝か・・・」

今の夢、今まで見てきた母の夢と違う。
昨日思い出した記憶がそうさせているんだろうか?
少なくとも寝起きは前よりはいい。
快方に向かっているのだろうか。



今日は昨日のように急に思い出が蘇ることも無く淡々と時間が過ぎ
気づけば4時になっていた。

だが僕はその間これからのことをどうするか思い悩んでいる。

カラス・・・母の思い出・・・木箱・・・この地域の伝説・・・業者と蔵

なぜだか分からないが僕のトラウマの原因にこれらが近い気がする。
これらを思い起こすと開いてはならない扉の前にまさに立っている感覚に覆われるのだ。

「・・・母のあの机には何が入っているんだろう?」

トラウマに悩む日々に耐えるのはもう限界だ。
どんな痛みが伴おうとも僕は真実が知りたい。
だから僕は母の部屋へ行くことにした。




722 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:25:15.22 ID:Cdc7qjoF

母の部屋は母が居なくなっても使用人が掃除しているから
当時のままきれいな部屋だった。
夢で見たとおり机の引き出しには鍵が付いている。

「0526っと」

僕は夢で見た番号を合せて鍵を開けた。

引き出しの中から封筒を取り出して中を見ると
そこには古ぼけた鍵と絵本が入っていた。

「この絵本、オリオンの話・・・お母さん・・・」

絵本には付箋が付いていた。
ここのページに何かあるんだろうか?

『オリオンがいざ人食いライオンを退治しに行こうとしていたときでした。
お城のおひめさまがオリオンを呼び止めて言いました。

「人食いライオンは森のいちばん奥をすみかにしています。
やみくもにはいっても森の妖精たちがライオンを隠してしまいます。」

オリオンは言いました。

「どうすればいいのですか?」

「このたいまつを使いなさい。これはライオンの家の扉を空ける鍵となりましょう」

おひめさまはオリオンに魔法のたいまつを与えました。』

ここでページは途切れていた。

扉を開ける鍵・・・

僕はあのときの母のように窓の外を見た。
あの時と同じように木箱を蔵に運ぶ業者が居る。

今から僕はあのとき母がとったであろう行動をすることになる。




723 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:27:18.91 ID:Cdc7qjoF


僕はいつも業者が荷物を運び込む8番目の蔵の前に立った。
凄く心臓が高鳴り自分でも興奮しているのが良く分かる。

ガチャ・・・ガチャ・・・

扉は鍵が掛けられて開かなかった。
業者が荷物を運ぶだけなのに鍵を内側から掛けるなんてどうかしてる。
この中にやはりなにか隠されているんだ。

僕は母の部屋にあった鍵を扉に差し込んだ。
鍵は吸い込まれるように鍵穴に入り、あっさりと封印をといた。

ギギィ・・・・

扉を開けると埃と古い木の匂いが一気に吹き出てきた。
この匂いは・・・嗅いだことがある気がする・・・
どこか懐かしい感じがする・・・それが良い思い出によるものかわからないが・・・

キーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・

耳鳴りだ。
ここになんの思い出があるのだろうか・・・


「・・・おかあさん・・・?」

僕の後ろで幼い僕が母を呼んでいる。
朝見た夢と同じ背丈、同じ格好をしている。
僕はあの後母を追ってここまで来たみたいだ。

蔵の中に目を移すと母が蔵の置くに消えていくのが見えた。
母はあのとき父と業者を追ってここへ来た。
そして鍵を開けて中に入った。

「・・・どこ行くの?」

幼い僕も後を追って中に入っていく。
自然と僕の足は思い出を追うように幼い僕のすぐ後ろを歩き始めた。



724 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:29:43.01 ID:Cdc7qjoF
この蔵に入ったことは無いと今まで思っていた。
蔵は子供が入るのを禁じられていたし
親や使用人に蔵の中がどうなっているのか全然聞いたことが無かった。
でもそれは記憶違いでただ忘れていただけだった。

蔵の中にはアンティークも木箱も何も無かった。
ただ地下に通じるらしい階段があり、その先にトンネルの入り口があった。
トンネルは人が二人ほど並んで通れるぐらいの大きさだったが奥行きは相当あるようだ。
トンネル内には松明の明かりがぽつぽつと道案内のように置かれている。

「・・・お母さん・・・」

幼い僕は恐る恐るトンネルに入っていき僕もそれに続いた。

薄暗いトンネルを歩きながら僕は考える。
アンティークの業者なんて嘘だった・・・あの木箱は本当に何が?
あの噂話にあの本の挿絵・・・生贄なんて本当にあるのか?
この先に答えがあるのか?
答えを知れば僕は解放されるのか?

知りたいという欲求とこれがトラウマの記憶かもしれないという恐怖に葛藤しながらしばらく歩くと
ついにトンネルの先に太陽の光が差し込んでいる場所が見えた。

(ここは・・・・!!)

トンネルの先は天井が吹き抜けになり日の光が降り注ぐ洞窟になっていた。
ただ、青い空はなくカラスの大群がギャーギャーと鳴きながら空を埋め尽くしていた。

(毎日見ていた悪夢と同じ場所!!間違いない!ここが元凶だ!)

「・・・・おかあさん・・・」

幼い僕が見つめる先には母と父、それからそれを囲むように業者の男達がいる。
父の目の前には台座がありそこにはファスナーのついた長細い黒い袋が横たわっていた。



725 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:32:14.20 ID:Cdc7qjoF
「あなた、こんなことはもうやめてください!」

母が怒った口調で父に言う。
あれは本気で怒ったときの声だ。

「しつこいなお前も。しかも今度はこんなとこまで入り込みおって。
お前には関係無いことだ!今なら許してやる、今すぐ出て行け!」

父は本当に一体何をしているんだ?
台座に置かれたそれは・・・本当に・・・本物なのか?

「あの子達もいずれ巻き込むつもりなのでしょう?
私はそんなこと黙って見過ごすなんてできません!」

「これは松浦家がこの国が繁栄する唯一の希望なのだ!
松浦の名を継ぐ者はこの力を存続させるのは当然だ!」

「人殺しの習慣を!私の子供達にさせるなんて耐えられないわ!」

「何を言うかこの馬鹿女め!いままでいい暮らしをしてきたのも
この儀式で私が金を生み出したからではないか!
金を動かせば世の俗物共が動き、結果愚民共の職が増える!
こんな素晴らしいものをなぜお前は理解しない!
それでも松浦の人間か!恥を知れ!」

父は何を言ってるんだ?
儀式?金を生み出す?

「・・・こんな悪魔と手を結んで!人を食わせて願いをかなえるなんて!
人間のやることじゃない!あなたは鬼よ!」

「悪魔だと?ふざけたことを抜かすな!
金も人間の意志も命もすべて動かせる力なんだぞ!
それを統率し、この国が豊かになるようにしたのは他でもない!この松浦家だ!
ゴミどもを粛清し新しい世の流れを作るという崇高な使命・・・
そのためならそこらへんに転がってる人間一人なぞ死んでも
多くの人間が豊かになるならかまう事もなかろう!」

「なんて酷いことを・・・!
そんな外道のために無差別に殺すなんて!」


726 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:35:08.13 ID:Cdc7qjoF

「こいつらは屑だ!居ても居なくても変わらんそこらの雑草と同じ!
息を吸い物を食うだけのカスが一人死んでこの国が潤うのだ
この国のために生贄になるのならゴミも死んで喜ぶだろうよ。」

松浦家は生贄を用意して祈祷する、あの本の絵の神官の一族だった・・・
僕の今までは多くの人間の血の上に成り立っていたのか。
父の言い草は祈祷すれば何でも願いがかなうようなことを言ってるな。
それほど強力な術なのだろうか。

「・・・あなたがどうしてもやめる気が無いというのであれば!」

母が懐から短刀を取り出して父に駆け寄った!
父を殺す気だ!

「グッ!・・・この馬鹿が!!」

父は突き刺そうとする母の手を掴みこぶしを握りしめ
母を殴り返した。

「あぁ!」

母は吹っ飛び倒れこみ短刀はカランカランと音をたてて手から落ちた。

「こいつを押さえつけろ!」

父は落ちた短刀を拾うとそう命令し男達に母を拘束させた。

「あの子達に・・・この儀式を継がせようというの?
あなたがしたように!あの子も殺すことになるのよ!?」

「儀式を継ぐには同じ一族の血を持つものを生贄にしなければならない。
犠牲は何事にも不可欠だ。当然のこと!」

「私は忘れないわ!何度でもあなたに挑む!私の子を奪わないで!」

「心配するな・・・お前の記憶は消しても無駄なことは良く分かった。
今までは世間体があるから殺さず許しておいたが、もう我慢ならん。」

「・・・!!殺すのね!私を殺すのね!鬼畜よ!あなたは!」

727 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:37:43.30 ID:Cdc7qjoF

「良い子孫を残せるよう霊感の強い女を捜し、おまえを選んだ・・・
だが、術に抵抗力が備わる副作用をもっていたとはな。
消しても消しても思い出す。」

父は短刀を握り締め母の腹部を一気に貫いた!

「お母さん・・・」
(母さん・・・)

「あ・・・!あ・・・!」

「もう用済みだ。」

父は母から短刀を引き抜くと叫んだ。

「さぁ生贄の血が流れたぞ!我の願いを聞き届けたまえ!」

ギャー!ギャー!というけたたましい鳴き声とともに大量のカラスが洞窟に流れ込んできた!
同時に母の両脇を囲んでいた男達がいきなりカラスの大群に変身し
共々母に襲い掛かった!

「・・・あぁ!・・・ぁ!」


(うぁああああああ!!!あああああああ!!!!)

見たくない!夢の光景だ!耐えられない!
母は戯れてたんじゃなかった!

もうやめてくれ!!十分だ!嫌だ嫌だ嫌だ
助けてくれ!!だれか!僕をここから引き戻してくれ!

「・・・・!あきひと!こっち!!はやく!!!」

姉さん!?なぜここに!?



キーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・・



728 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:40:26.86 ID:Cdc7qjoF


「明人、なぜここにおまえがいる?」

気が付くと記憶と同じ光景が広がっていた。
ただ父の目の前に僕が立っていることだけが昔と違っている。

「父さんが・・・母さんを殺した。」

「なんだと?」

「おまえが!母さんを殺した!!」

僕は父が憎い!あの時僕らに無限の愛を与えてくれた母を奪った父を!
僕はこの家が憎い!僕の人生を狂わせたこの松浦の家が許せない!

「どこで知った!あの女が残した手紙でもあったのか!?」

「こんなことはやめろ!こんなもの間違ってる!!
人間はこんな悪魔に頼らなくても生きていける!」

「あの女にしてこの息子有りだな!
お前はあの女に良く似ているが脳みその糞まで同じに育つとは!」

「うるあああああ!!!」

僕は父を殴り倒し、馬乗りになって殴りかかった。

「お前さえ居なければ!お前さえ!」

「ばか者が!おい!こいつを引き剥がせ!」

男いや悪魔たちが僕を凄い力で引き剥がし拘束した。

「・・・ハァー!ハァー!絶対許さない!・・・」

睨み付ける僕を尻目に父は短刀を取り出した。
あの時母を殺した短刀だ、僕を殺すのか!?


729 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:42:31.94 ID:Cdc7qjoF

「僕を殺すのか!母のように!
これで松浦の血筋も終わりだな!
こんな馬鹿げた家に生まれるんじゃなかった!!
さっさと殺せよ!死んだほうがましだ!」

「お前が生まれたことについては同感だな!
だが子供なんぞ別の女に産ませればいいだけの話だ。
お前は失敗作だ!」

刀を握り締めた父が近づいてくる。
母さんごめん、守れなかった。
姉さんを残して死ぬ僕を許してください。
約束したのに守れなかった・・・ごめんなさい・・・・。

「明人さん!」

「姉さん!?」

「蘭子!?なぜここに!?」

ダァン!!という大きな音が響いた。

「うぐぁあ!!」

父が腕を抑えてうずくまる。
姉を見ると猟銃を構えており、銃口から煙が立ち上っていた。

「うぅ・・・なにを・・・なにをするんだ!この・・・!!
いままで育ててきてやった恩を忘れたか・・・!
姉弟揃って・・・ろくでもないのに育ちやがって・・・・!!」

悪態をつく父周りで悪魔が騒ぎ出した。


730 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:44:34.37 ID:Cdc7qjoF

『・・・生贄だ・・・』
『生贄の血が流れた・・・』
『生贄の儀が執り行われた!』

「・・・おい・・・まさか・・・やめろ!
俺じゃない!生贄は祭壇においてある!」

『生贄だ!生贄だ!!』

あの時と同じだ、空を覆うカラス達が洞窟に流れ込み、悪魔達が姿を変えて父に群がった!

「・・・うぁ!・・・やめ!がぁ・・・!!」

「わああああああ!!」

僕は子供のように泣き出した。
あのとき泣けなかった分までここで泣くように激しい悲しみにとらわれた。

「明人さん!こっち!」

姉は僕の手を引っ張ってきた道を走り出した。

僕は姉の後姿だけを見ながら必死に走った。
後ろの空間から逃げるように。

「やめろおおおおおおおお!!・・・・・・」

父の断末魔がトンネルに響いた。


731 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:46:33.98 ID:Cdc7qjoF

「はっはっはっ・・・・!!」

僕と姉さんは出口まで全速力を保って必死に逃げた。
トンネルの出口まで来ると僕は姉を外に出した後
燃えているたいまつを蹴り倒して蔵に火をつけた。

これですべてが終わるんだ・・・

僕はそこで意識を失った。





「・・・・・・・朝?・・・」

気が付くと僕は自室の布団で目が覚めた。
外を見ると8番目の蔵が焼け落ちている。

「夢じゃなかった・・・」

そう現実だった。そして・・・

「夢を見なかった!」

僕は解放された。

「・・・姉さんは・・・?」

姉さんはどうしたんだろう?
今は姉さんの顔が見たい。家族と話して安心したい!

僕は姉の部屋に向かった。





732 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:48:37.44 ID:Cdc7qjoF

トントン

「姉さん?」

姉の部屋の戸を開けるとそこには誰も居なかった。

「あれ?いないのか・・・」

姉の部屋はきちんと整理された清潔感のある部屋だ。
ここで僕はおままごとしたこともあるんだっけ。
ぼんやりと昔のことが思い出せる。
心のしこりが取れたような、すがすがしい晴れた感覚だ。

「なんだか懐かしいな・・・・・ん?」

しかし、その感覚も長く続かなかった。
再びあの耳鳴りが・・・

キーーーーーーーーー・・・・・・・・・


目の前でおままごとに興じる姉と僕がいる。
部屋の床におもちゃの野菜と包丁が転がっている。

「姉ちゃん俺もう小学生なんだからおままごとじゃない遊びしたいよ」

「だーめ!今日は私のお誕生日なんだから!」

「ちぇっ・・・しょうがないなぁ~」

あぁ、これは小学校に入ってすぐの思い出だ。
小学生になっても姉はおままごとが好きだった。
姉が卒業するまで誕生日になるとおままごとを強要されてたんだ。


733 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:50:39.79 ID:Cdc7qjoF

「パパ、今日も仕事がんばってね!」

「ぁぁ、行ってくるよ。今日は福岡まで行ってくるから遅くなるよ。」

「えぇ~寂しくなるわぁ!じゃあいってらっしゃいのチューね!」

「えっ!?いいよそれは。」

「なんでよ!今は新婚さんなんだからやらないとだめよ!」

いつになく強気の姉だな。
誕生日という絶対的な権力を握っているからだろうか。

「はいはい、蘭ちゃんそこまでよ。
お話があるから明人はちょっとお外で遊んでおいで。」

そこへ母さんが入ってきた。
あれ?たしかあの時は小学生に上がる前のはず
明らかにおかしい・・・

「「はぁあい」」

二人は元気な返事をし、幼い僕は部屋の外に出た。
だがこのとき僕は外で遊ばずに部屋の扉の隙間から中を見ていたんだ。
母の姿を見るのは久しぶりだったから。

母は姉の前に腰を下ろして姉と向かい合った状態でゆっくりと話し始めた。

『・・・いい子だねぇ・・・お前は本当にいい子だ・・・』

「どうして私がいい子なの?」

『おまえは魔力に満ちている・・・きっと良い術者になれるぞ・・・』

「じゅつしゃ?なぁにそれ?」


734 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:52:42.60 ID:Cdc7qjoF

母の声じゃない、なんだこいつは!?

『おまえの願いがなんでも叶う・・・おまえは将来そうできるってことさ』

「あきひともできるの?あきひとと一緒ならやる!」

『あいつはだめだ・・・おまえより劣っている。
だからおまえが術者になるんだよ。』

え?なんだって・・・?
僕はだめで姉がなる・・・?

『あいつに懐いてはだめだ・・・あいつはおまえの道になるのだから』

「なんで?道になるってどういうこと?」

『おまえが術者になるときにあいつはおまえのために死ぬんだよ。』

「そんなのだめッ!!!わたしあきひとが死ぬなんて絶対やだッ!!
あきひと居なくなるなんてダメダメダメッッ!!!!」

そんな・・・僕は最初から生贄だったのか・・・
死んでもいい、死ぬべき人間だった・・・

『仕方の無いことなんだよ、松浦は代々そうやって術を引き継いできたんだ。
おまえも一族の血を契約の証として我らに捧げなければならないんだよ。」

「一族の血・・・?」


735 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:54:44.31 ID:Cdc7qjoF

『そうだよ、お前と同じ血が流れている人間が必要なんだよ。』

姉が母を・・・母のようなものを見上げた。
姉の目は黒く染まって恐ろしい輝きを見せていた。
あんな目は今まで見たことが無いほど恐ろしい闇に包まれていた。

「じゃあ!お父さんをあげる!!」

なんだって?

「お父さんも同じ血が流れてるから!あきひとじゃなくお父さんにする!
あきひとはわたしとずっと一緒なの!
あきひとはわたしを守ってくれるの!
いじめられてもわたしをかばってくれる!
わたしのために尽くしてくれる!
そばに居てくれる!
わたしだけの王子様!

だからお父さんは要らない!お父さんなら死んでもいい!」

姉の言っていることが理解できずに僕は固まった。
契約に一族の血を・・・僕の代わりに父さんを・・・つまり?

『・・・ハハハハ!!いい子だ!欲望の強いとてもいい子だ!!
みな聞いたか!!この子は代々の松浦で一番だ!
我らは未来永劫安泰だぞ!!』

ぎゃー!!ぎゃー!!ぎゃー!!・・・

外でカラスの鳴き声がこだましている。
こいつは・・・なんなんだ!?

母のようなものの顔に違和感を感じる。
回り込んで顔を見てみたい!こいつの正体は・・・!?

『いい子だ!いい子だ!お前の望みを特別にかなえてやろう!』

736 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:56:53.50 ID:Cdc7qjoF
『本当!じゃああきひとに近寄る女を消して!
あきひとからその女の記憶をすべて消して!
あきひとが私を好きになるように
あきひとの私の嫌いな思い出を全部消して!!」

なんてことだ・・・僕の記憶が無いのは姉が術を掛けていたからなのか!

『ん?』

母のようなものは何かに気づいたように振り返り、
なんと僕と、扉から覗いている記憶の中の僕ではなく
今回りこもうとしている僕のほうを見上げた!

なぜだ?これは僕の記憶!過去の出来事のはずだ!
母のようなものの目は真っ赤でまるでカラスの・・・!!
悪魔・・・!



『だれだ貴様はああああああああああ!!!!!』

(うぁああああああああ!!!!)



キーーーーーーーーーーーー・・・・・・

「うあああああああああ!!!!」

「明人さん?明人さん!どうしたのですか!?
落ち着いてください!」

気が付くと姉が後ろに立っていた。

「・・・姉さん!?・・・!来ないでくれ!・・・!」

「・・・どうしたんですか?私がわからないのですか?
お姉ちゃんですよ?」

僕は姉が怖い。あの優しい笑顔を向ける姉が怖い。
その笑顔の裏にはあの悪魔が潜んでいる・・・!

「姉さんは初めから・・・全部知ってたのか・・・
それで僕から全てを・・・」

「・・・あら、思い出したのですか。」

737 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/15(金) 23:59:12.46 ID:Cdc7qjoF

やれやれといった風に姉はため息をついた。

「あなたにまとわり付く私以外の女が許せないから。
明人さんは私のものですよ?お母さんと約束してたじゃないですか。
私を守るって。」

「それは、この家から姉さんを守ってくれという話で・・・!」

姉さんの後ろから男達がぞろぞろと入ってきた。
もう逃げ場が無い!

「私を否定するの?お姉ちゃんが嫌いですか?
ふふ、素直じゃない明人さんは嫌いじゃないですわ。」

姉さんは徐々に僕に歩み寄りながら続けた。

「あなたの記憶は私で満たされればよかった。
あなたと私の間に必要ない邪魔者ですから・・・」

そう言って姉さんはゆっくり僕の目を見つめて近づき
あのとき僕が拒んだ口づけをした。

「この家の契約は私が引き継いだ。
松浦の資産もこの国の統治も秘術も全て私が引き継いだの!
あなたはこれから私だけのものになる。
完全に永遠に!」

「姉さんこんなことはやめるんだ・・・!今なら引き返せる・・・!」

「大丈夫よ明人さん。また悪い思い出とはバイバイしましょうね?」

ギャー!!!ギャー!!!

屋敷の周りを囲むカラス達の鳴き声・・・
僕は猛烈な吐き気を催しその場に倒れこんで・・・・




738 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 00:01:12.93 ID:dsOZ2ZJg
***********************


思い出した、僕は初めから姉さんの術中にいただけだったんだ。
父は生贄として死に僕は望みどおり生きながらえる。
姉のそばで一生抜け出せぬしがらみの中で。

「・・・・お願いしますわ先生。約束どおり研究機関を設けて国で取り組ませますわ。」

姉の声が聞こえる・・・

「あれ?ここはどこだ?」

気が付くと目の前に強いライトが当てられているのが分かった。
目を開けて周りを見ようとするが体の自由が利かない。
寝ぼけているのか全身がしびれるような感覚がして思うように動けない。

「先生?明人が・・・」

「あぁ心配ないこの手術は少し意識があるぐらいが丁度いいんだ。」

手術・・・手術!?なんだって?
そういえばベッドに寝かされて、ライトがあって、アルコールの匂い・・・
ここは病院の中なのか!

「この治療は画期的だった・・・だが一部の用法を誤った医者のおかげで
手術の失敗や患者がおかしくなってしまったんだ。
だが今の精神病を全て解決できる可能性を秘めた素晴らしいものだったのだ・・・」

この声は・・・姉さんに紹介してもらったあの医者の声だ。

「ええ、私もこの治療の価値を理解してますわ。
研究機関にはあなたを所長に・・・!」

「ありがとうございます・・・私の長年の夢が叶うのですね・・・」


739 名前:復元 後編[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 00:03:14.07 ID:dsOZ2ZJg

姉さんは僕と目が合ったのに気が付いて近づいてきた。
そして軽く僕に口付けをすると語りかけた。

「明人さん?聞こえてますか?
明人さんは本当に素直じゃないのですね。
それもお母さん譲りですか?

また記憶を思い出すなんて。」

また?思い出す?

「初めは思い出さないいい子でしたのに
だんだん前と同じように記憶が戻ってきて
また私から離れるって言うんですもの・・・

だから明人さんは素直な明人さんに戻ってもらうの。

もう思い出さないように、思い出しても私を受け入れてくれるように。
お母さんからもらった抗力が機能しないように・・・!」

「安心したまえ明人君。この手術は患者への負担が軽いから
術後は2週間ほどで退院できるよ。」

「・・・じゃあお願いしますわ。
明人さん今度目が覚めたら永遠に一緒ですよ?」

姉はそう言って部屋から出て行った。

「・・・それじゃあ始めようか・・・
大丈夫だ、私は一番臨床を経験したから失敗することはまず無いから・・・」

そう言って医者は僕の右目を開いたまま固定した!


やめろ!!やめてくれ!!


医者は棒のようなものを取り出して僕の目頭に近づけてくる!


うあぁああ!ああ!あぁああ!


うぁっ!・・・おぁ!・・・あぁ!・・・


あぁ・・・ぁ・・・・あ・・・・


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最終更新:2011年07月23日 18:36
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