ノスタルジア 第2話

234 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:17:43 ID:T3M55Cpp
澄川家の平日の朝は早い。
まず朝の六時には、父の武雄が家を出る。
さらに六時半には、母の八重子も家を出る。
それぞれ職場で重要な立場に就いている人間ゆえ、とにかく常に仕事に追われている。
八重子は五時には起きて夫と一緒に朝食をとり、さらに子供たちの食事を作っておくことをここ数年の習慣としていたが、最近になって変化が生まれた。
「じゃあ後はお願いするわね。私はもう行かなければならないから」
「わかったわ、お母さん」
「助かるわね。あなたは本当、出来た子だわ」
早朝の台所で、八重子は娘の千鶴子にいくつか指示をした後、そう言って微笑んだ。
きっちりとスーツを着込み、すでに化粧も済ませてある。
髪を後ろで結わえていたゴムを外すと、ややウェーブがかった黒髪が背中に流れた。
千鶴子の母親とだけあって、千鶴子に良く似た顔の造りをしており、大人らしい色気と美しさに溢れた女性だった。
ただ、八重子はその表情に生き生きとした変化があり、千鶴子はその表情には全くと言っていいほど変化が無い。
ともに美しいと言っても、その違いが、両者の美しさの種類を異なったものとしていた。
動的な八重子の美しさに対し、どこまでも静かな美しさの千鶴子であった。
「もう私よりもおいしいご飯が作れるんじゃないかしらね」
「そんなことはないわ」
八重子の褒め言葉に、千鶴子はその端正な顔立ちをほとんど動かさずに返す。
八重子は小さく笑って、先ほどまで自分が身につけていたエプロンを千鶴子にかけた。
「相変わらず愛想がないわね、あなたは」
「…………」
「学校でお友達はできた?」
「ううん」
「……まあ、あなたのことだから心配は無いと思うけどね。女の子なんだから、もう少し可愛く振舞っても罰は当たらないわよ」
「…………」
八重子が何を言っても、千鶴子はただ黙って八重子を見つめるか、一言短い返事をするだけだった。
生まれてこの方いつもこの調子だったので、八重子は今更特に思うことも無かった。
自分の娘に能力が備わっていることは既に承知していたので、この年齢にしては落ち着き過ぎに思える態度も、実に頼もしく思えた。
「頼むわよ、千鶴子。そろそろあのだらしないのが起きてくると思うから」
「誰がだらしないって?」
八重子が言うと同時に台所に入ってきた文雄が、寝ぼけ眼を擦りながら不満げな声を出した。
「あなた以外に誰が居るというのよ。まったく、本当にだらしない……。千鶴子を見なさい。もうきちんと着替えて、ご飯の支度だって始めているっていうのに」
「え……? う、うわっ!」
八重子の言葉に、文雄は千鶴子の姿を視界に捉える。
眠気に半ば閉じていた目を見開き、叫び声をあげて飛びのいた。
「なによ、あなた。千鶴子を見て飛び退るなんて。家族とはいえ失礼でしょう」
「あ、い、いや。居るとは思わなかったから」
「何言ってるの。このところあなたの食べている朝食を作っているのは千鶴子なんだから、起きていて当然でしょ」
「まあ、そうなんだけどさ……」
よほど心が乱れたらしい。
文雄は母の追及に、しどろもどろといった様子だった。
「まあいいわ。それじゃあ私は行くからね。二人とも、しっかりやりなさい」
八重子は時計を見ると、バッグを肩から提げてぱたぱたと廊下を走って行ってしまった。
玄関の扉が閉じる音がして、家の中には一瞬奇妙な静寂が訪れた。
後に残された兄と妹
千鶴子は文雄をじっと見つめ、文雄はその視線から逃れるように目を逸らしていた。
「おはよう、文雄さん」
千鶴子は文雄の様子など一切気にした風もなく、挨拶を口にする。
対する文雄の声は小さく、どこか落ち着かないものだった。



235 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:18:52 ID:T3M55Cpp
あの日から、文雄は千鶴子に対してよそよそしい態度をとってしまっていた。
冗談とはいえ、自分と性交渉を持ちたいと口にした妹を、意識せずにはいられなかったのだ。
自然に、何も無かったように振舞おうとしても、そこは澄川文雄、根が正直な男である。
気付けば千鶴子と距離を置くように動いてしまっていた。
「おい、文雄、どうしたんだ。このところ、随分粗末な昼飯じゃないか」
「ん? ああ……」
窓の開け放たれた五月の教室。
いつものように海風が通り抜け、真っ白なカーテンをはためかせる。
このところの陽気のおかげで、昼休みとなると生徒たちは屋外で食事をとるようになっていた。
人少なになった教室で、文雄と統治郎はいつもと変わらず、窓際の机を挟んで向かい合って座っていた。
文雄の手の中には、先ほど購買部で買ってきたカレーパンがあった。
「まあ、色々あったんだよ」
そう言って、文雄はカレーパンにかじりつく。
統治郎が自分の弁当のおかずを箸で指し示した。
「いるか?」
「いや、いいよ。案外足りそうだし」
「そうか? 遠慮しなくてもいいんだぞ? あの豪華な弁当からだと落差が激しいだろう」
「前が異常だったんだよ。これが普通さ」
「異常と言うか、尋常ではなかったのは間違いないがな。千鶴子ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
「……どうしてそんなこと聞くんだ?」
「あれほど凝っていた弁当がぱったりと無くなれば、不思議に思うだろ」
「別に……喧嘩なんてしてないよ」
喧嘩ではない。
ただ文雄が一方的に避けているだけだった。
例の冗談の数日後、昼の弁当はもういらないと言ってしまったのだ。
既に作ってしまった弁当を手に玄関口に佇む妹の、無表情ながらどこか寂しさを感じさせる顔を思い起こし、文雄は胸を痛めた。
「そう……喧嘩なんてしてないよ」
「何かあったのなら相談に乗るぞ?」
「何もないよ」
「お前は正直者だ。顔に出る。苦しそうな表情をしている。何かあったと書いてある。話してみれば楽になるかもしれないぞ」
「話すほどのことはないさ。心配してくれるのは嬉しいけど、気持ちだけ受け取っておくよ」
さすがに、妹を意識してしまって避けている、などとは口が避けても言えない。
俯く文雄の肩を、統治郎がどんと叩いた。
「気持ちだけなんて寂しいことを言うなよ。俺は出来る限りのことをするぞ。実際のところ、お前と千鶴子ちゃんが喧嘩をしていると困るんだ」
「? 何で統治郎が困るんだ?」
文雄の問いに、統治郎はそれまでになく真剣な表情を見せた。
「実はな、文雄よ。俺は今、ある悩みを抱えているんだ。その解決に力を貸してもらいたいんだよ。お前と、千鶴子ちゃんに」
「よくわからないけど、それは俺一人じゃ力になれないことなのか」
「無理だ。というか、千鶴子ちゃんじゃないと無理なんだ」
「何だそりゃ。そう思うなら、千鶴子に直接頼めばいいんじゃないか?」
呆れたように言う文雄に、統治郎はずいと顔を寄せた。
「簡単な話だ。俺から頼んでも千鶴子ちゃんは引き受けてはくれないだろう。ああいう子だからな。毎日愛情弁当を作ってもらうくらいに懐かれているお前から頼んでもらった方が、引き受けてもらえる可能性が高い」
「あ、愛情って、そんな……」
「それにだ。兄妹は喧嘩しているよりも仲が良い方がいいに決まってる。俺の相談をきっかけに、二人を仲直りさせることができれば、それは喜ばしいことだ。一石二鳥だ」
「仲直りって……だから、喧嘩とかじゃなくてもっと複雑なもので……それに、元々仲が良かったのかどうかも怪しいよ、俺と千鶴子は」
統治郎は、ふむ、と首を捻った。
「素直じゃないな、お前は」
「……それで、統治郎、お前の悩みっていうのは何なんだよ。千鶴子じゃないと無理という話だけど、それこそ俺だって出来る限りのことをするつもりはあるぞ」
統治郎は大柄な体をゆすって椅子に座りなおすと、一息ついてから話し始めた。
「実は、俺には従妹がいてな。この学校の一つ下の学年に在学しているんだ」
「へぇ……統治郎の従妹か。お前に似てワイルドなのかね、やっぱり」
「いや、これが全然似ていないんだ。俺の一族は確かに俺みたいに体が大きくて性格はいいかげんなのがほとんどなんだがな。その従妹はどこをどう間違ったのか、やたら小さくて、繊細な面構えなんだよ。千鶴子ちゃんほどではないが、まあ可愛いと言えるだろう」
「そう真剣に言われると、自虐ネタなのか従兄馬鹿なのか千鶴子へのお世辞なのかわからなくなるな……。で、その従妹がどうしたっていうんだ?」
「うむ、そいつがな、人を殺したと言っていてな」
「そりゃあ……なかなか……」
「困ったもんだろう?」



236 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:21:44 ID:T3M55Cpp
夏江統治郎には従妹がいた。
が、その従妹とはすでに数年間会っていなかった。
統治郎の親族は、そこまで付き合いが希薄な面々ではない。
ただ、その子の過去があまりに特殊だったからだった。
「お前を信じて話すんだ。口外はするなよ」
そう言って始まった統治郎の従妹の話は、驚くべきものだった。


美山叶絵、旧姓は里井。
彼女は中学に入学する少し前に、両親を亡くした。
父親が彼女以外の家族を皆殺しにした末に、自殺したのである。
殺人鬼の娘となった叶絵。
そのあまりの壮絶さゆえに、統治郎の両親をはじめ、親戚の者たちは彼女を引き取ることに消極的だった。
また、親族間で囁かれる噂が、彼女をさらに窮地に追い込んだ。
叶絵と父親は男女としての関係を持っていたのだという、そんな噂だった。
叶絵との関係が明るみに出た父親は、他の家族に責められることとなり、最終的に家族を皆殺しにしてしまったのだということだった。
親族の中で警察と繋がりを持つ者が聞きだしたもので、信憑性の高い話とされた。
家族を崩壊に導く要因となり、その命を全て奪い、一人生き残った娘――親族達は叶絵をそう認識し、蔑み、忌み嫌った。
当時統治郎はそのあたりの事情を良く知らずに、両親にうちで引き取ってはどうかと提案したが、一蹴されてしまった。
結局誰も引き取り手の現れないまま日は過ぎ、叶絵は施設に送られることになった。
しかし施設に送られる直前になって、ある人物が自分が彼女を育てようと言い出した。
その人物は美山作蔵という、親族の中の鼻つまみ者だった。
若い頃から粗暴で、親から受け継いだ財産で好き勝手に暮らし、暴力団関係など良くない人間達との噂も絶えなかった。
普通だったらそんな男が名乗りを上げたところで、他の親戚が止めるのだろうが、叶絵についてはそんな事情だったため、鼻つまみ者同士ちょうどいいということになってしまった。
そうして叶絵はそのまま美山作蔵の養子となり、名字を変えた。
以後、美山叶絵は美山作蔵と共に、秋日市郊外の山裾にある大きな一軒家に暮らし、他の親族とは断絶状態となった。
それまで従兄妹として普通に親交のあった統治郎は、彼女のことがずっと心に引っかかっていたのだ。
この春、新入生の中にその従妹の顔を見つけた時は本当に驚き、喜んだ。
年齢よりも幼く見える顔立ちと、くりくりと愛らしい瞳は、昔のままだった。
セミロングの髪を二つに分けて結び、新しい制服のスカーフを初春の風になびかせて歩くその姿を見た統治郎は、すぐに声をかけに行った。
が――
「私のような人殺しに何か用なの?」
悲しげに微笑んで、叶絵はそう言った。
「かなちゃんよ、そんな、自分を人殺しだなんて言うな。俺はそんな風に思っちゃいないぜ」
「何よ今更……あの時、助けてくれなかったくせに……」
唇を噛み、搾り出すように叶絵は言った。
悲しみとも憎しみともつかぬ、何とも言えない表情に、統治郎は胸をつかれる思いだった。
「統にい、もう私に近付かないで」
辛そうに呟き、統治郎から離れようとする叶絵に、統治郎は言った。
「確かに今更だ。今更だが……これからお前を手助けすることを許してもらえんか? 俺はずっとお前のことが心に引っ掛かっていたんだ」
「統にい、言ったでしょ。私は人殺しだって。近付くと不幸になるよ」
「だから、俺はそんな風には思っちゃいないと……」
「あの事件の話じゃないよ。あれからも、私は何人も殺しているの。最低の人殺しなんだよ」
「な……」
あまりの言葉に、絶句してしまった。
踵を返して立ち去る叶絵のその背中を、統治郎はただ見送るしかできなかった。



237 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:23:10 ID:T3M55Cpp
「というわけだ」
一通り話を終えて、統治郎は、大きく息を吐いた。
「どういった事情なのか、本人にきちんと聞きたいところなんだがな」
「聞きに行けばいいじゃないか」
「俺は恨まれているんだ。信用も無い。話してくれるわけがないさ」
「お前が悪いわけじゃないだろ。その時のお前には決定権も、両親をねじ伏せるほどの力も無かったんだから」
「どうだろうな」
自嘲気味に呟いて、統治郎は文雄の肩を掴んだ。
「とにかく、そういうわけだから、千鶴子ちゃんにお願いしたいんだよ、俺は」
「つまりあれか。千鶴子をその叶絵ちゃんとやらに接触させて、どんな状況にあるのか聞き出そうと、そういうことか」
「さすがは親友、理解が早いな」
「話はわかったけど、やめた方がいいんじゃないかな。千鶴子はそういうのには向かないよ」
文雄は妹の冷たい表情を思い浮かべた。
幼い頃からずっと千鶴子はあんな様子だった。
とにかく自分の興味ある事柄以外は眼中に無い。
家族との感情の交流ですら希薄なのだから、他人との交流なんてあるはずもなく、友人と呼べる存在が居たことは今までただの一度も無かった。
「あいつ、そういう、人付き合いとか苦手だからさ」
「そうなのか? 千鶴子ちゃんに任せれば間違いないと思ってたんだが」
「あれで色々欠点のある奴なんだ。同年代の子と話しているところなんて見たことないぞ」
「うーむ……まいったな。他に頼むとなると……」
腕を組んで考え込む統治郎。
文雄が空になったカレーパンの袋をくしゃりと握りつぶす。
と――
「人付き合いも、必要ならばするわよ」
澄んだ声が二人の真横から響いた。
「え……」
文雄と統治郎が声のした方向を振り返る。
真っ直ぐな目を文雄に向けた千鶴子が、いつもの弁当箱を両手で包むようにして持ち、少し離れたところに立っていた。
「ち、千鶴子……? お前、何しに……」
「これ。お弁当」
二人のついた机にするりと近付き、弁当箱を置く。
その視線が文雄から外れることはなく、文雄は思わず顔を逸らしてしまった。
「弁当はもういいって言っただろ」
「私が食べてもらいたいのよ」
「俺は別に……食べたくない」
千鶴子は少しの間黙って文雄を見つめていたが、やがて二人のやり取りを聞いていた統治郎の方を向いた。
長い髪が肩からさらりと流れ、窓から入る陽光を綺麗に映す。
統治郎は千鶴子の美しさを間近に見て一瞬どきりとしたが、顔には出さずにいた。
「夏江さん」
「おう、何だい、千鶴子ちゃん」
「先ほどのお話に協力します。一週間以内に調べてみせましょう」
「え……え? おいおい、そりゃ本当か? いや、だったらありがたいことこの上ないが……」
「ただ、条件があります」
「条件?」
「はい。その従妹のことを調べている間、文雄さんが私に付き従うこと。それが条件です」
光の具合のせいだろうか、統治郎は、千鶴子の瞳の奥に、赤く煌く何かが見えたような気がした。



238 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:24:47 ID:T3M55Cpp
次の日の放課後、文雄と千鶴子は市内を走る電車に乗り、郊外へと向かっていた。
電車といっても、線路はかろうじて複線だが車両は一両のワンマン車両で、窓の外の景色も民家や路地裏といった、いかにも日常的な風景である。
市民にとって最も身近な移動手段として親しまれている鉄道だった。
下校する生徒達の利用時間帯から少し遅れているため、車両内に人は少ない。
がらがらに空いた席に、文雄と千鶴子は二人、西日を背に受けて座っていた。
二人がこうして肩を並べるのは、実に数日ぶりのことであった。
「良かったわ。文雄さんが一緒に来てくれて」
「統治郎にあそこまでされたらな……」
千鶴子の出した条件を、統治郎はすぐに呑んだ。
そして、その場で文雄に土下座した。
「お前と千鶴子ちゃんに何があったのは知らんが、ここは条件を呑んでもらえないか。俺はあの従妹が心配でたまらんのだ」
そう言って床に額を擦り付ける統治郎を、文雄は拒むことは出来なかった。
こうして数日来の気まずい想いを抱えたままで、文雄は千鶴子と行動を共にすることになったのだ。
「というか、俺を従えてどうするんだ? 何か考えでもあるのか?」
「特に意味はないわよ。文雄さんが私を避けるから、傍に置いておこうと思っただけ」
「置いておくって……」
「文雄さんは本当、お人好しよね。あんな土下座一つで動いてしまうんだから」
「お前な、そんな言い方ないだろう」
統治郎との友情を馬鹿にされたようで、文雄はいい気分がしなかった。
が、そこは電車の中、仮にも公共の場ということで、うるさく言うのはやめにした。
「それで……どこに向かってるんだ、これは」
「言ったでしょう。美山叶絵さんの家よ」
「いや、言ってないから。放課後教室にやってきて、そのまま引っ張ってきたんだろ、お前が」
「そうだったかしら?」
「そうだよ! いや、まあいいや……。昨日の今日で、もう美山さんと友達になったのか」
「いいえ。今のところ彼女は私にとって赤の他人よ」
「だとしたら、家に行ったところで追い返されるだけだろ。話を聞きに行くにせよ、もっと関係を深めてからじゃないと無理なんじゃないか」
文雄は統治郎の従妹であるという、美山叶絵のことを思い出した。
既にその日の昼休みに、千鶴子と二人でその外見を確認済みであった。
統治郎の血筋らしからぬ、と言っては失礼だが、線の細い印象の、やや童顔の可憐な少女だった。
彼女は何人かの友人と食堂で昼食をとりながら、可愛らしく笑っていた。
統治郎の話から想像していたのとはまったく違った明るい様子が、文雄には何とも印象的だった。
あんな少女が凄絶な、暗い過去を持っている――そう考えるだけで胸が痛む思いだった。
「文雄さん、何を考えているの?」
千鶴子の呼びかけに、文雄は回想を打ち切られた。
「え……? あ、ごめん。別に何も……」
「美山さんのことを思い出していたんでしょう」
「いや、まあ……うん」
「よほどあの娘が気に入ったのかしら」
千鶴子の言葉を、文雄は首を横に振って否定した。
「違う。ただ、少し可哀想だと思っただけだよ」
「可哀想だは好きと同じよ、なんて言葉があったわね」
「だから違うって。しつこいぞ。何か言いたいことでもあるのか?」
「別に……そんな怒らなくてもいいじゃない」
小さく俯いて、千鶴子は言った。
文雄は少し気まずくなって、椅子に座りなおした。



239 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:25:14 ID:T3M55Cpp
「ま、まあ……とにかく、そういうわけで、話を聞きに行くのは少し早いんじゃないか」
「話を聞きに行くわけじゃないから」
「え?」
「話を聞くなんて無意味だから、聞かないわ。嘘をつかれたら確認のしようがないもの。自分で考えて、自分で調べるのよ」
「え……じゃあ、深山さんの家には何をしに……」
思わず千鶴子の方を向いて問いかける文雄の唇を、千鶴子の白い指が押さえた。
「わからない?」
「……わからない」
身を引いて文雄は答える。
少し離れて座りなおそうとしたが、気付いたら千鶴子に手を握られていた。
「文雄さん、人を殺したと言っている人間が、ごく普通に生活を送れるのはどんな時だと思う?」
「え、ええと……言っているだけの時とか?」
「半分正解」
口元だけ動かして、千鶴子は言う。
相変わらず文雄の手を握ったままで、どうやら離すつもりは無いようだった。
「半分というと、残りの半分は何なんだ?」
千鶴子と距離を置くことを諦めて、文雄は尋ねた。
「実際に人を殺していて、警察に捕まっていないときね」
「おいおい、そんなこと……」
あっさりと言う千鶴子に、文雄は反論した。
「そうそうあるわけないだろう。仮にあったとして、彼女のように人殺しを公言するなんてありえない」
「そうね、ありえないわ。せっかく捕まらずにいるのに、自分の罪を明らかにするのはおかしいわよね」
何という会話をしているのだろうと、文雄は思わず車内を見回した。
線路を渡る静かな振動音が響く車内には、自分達以外に年老いたの男女が数人乗っているのみである。
彼らはぼんやりと窓の外を眺めていたり、あるいはうつらうつらとしていたりで、文雄たちの会話は耳に届いていないのか、少なくとも興味を示している様子は無かった。
「以上のことを鑑みると、彼女の置かれている状況というものが見えてくるのよ」
「え? どうやって?」
「簡単な場合分けよ。中学校の数学でもやったでしょう」
「ええと、今の流れだと……美山叶絵が何もしていない場合と実際に人を殺している場合があるけど、後者の場合は公言するはずがないから、やっぱり何もしていないということになるのか?」
「捕まる覚悟で殺人を公言することもあるし、絶対捕まらないとわかっているから公言するということもあるでしょう」
「つまり、どうなるんだよ……?」
「捕まる覚悟で言うのなら、それこそ警察に行けばいいわよね。でも彼女は行っていない。ごく普通の、高校生としての生活を送っているわ」
「絶対捕まらないとわかってて言っている……お前はそう考えているわけか」
「ええ。もちろん、美山さんが何もしていない可能性や、何も考えずに口に出してしまったという可能性も、等しくあるわ。けど私はそう考えているの。ねえ、文雄さん」
千鶴子が手を伸ばし、文雄の頬を優しく撫ぜた。
「捕まらない人殺しって、どんなものだと思う?」
「え、そ、それは……」
ありうるのだろうかと、文雄は一瞬考え込んでしまった。
「……わからないな」
「私の考えるとおりなら、面白いものが見られると思うわよ」
淡々としながらも、千鶴子はいつもに比べてずっと口数が多かった。
アナウンスが鳴り、市の最北に近い、山際の駅に着く。
扉が開くと千鶴子は立ち上がり、文雄の手を引いた。
「行きましょう、文雄さん」
何だか千鶴子は楽しそうだ。
文雄はそう思った。



240 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:27:11 ID:T3M55Cpp
美山家は、駅から少し坂を上った高台に、その居を構えていた。
石垣に囲まれ、その全貌は見えないが、大きな家であるということはわかる。
夕刻、日が落ちるまでまだ一時間はあるという時間、あたりには人通りは無かった。
「それで、千鶴子、どうするんだ?」
「言ったでしょう、調べるって」
千鶴子は美山家の脇を通る細路地に入り、周囲を見回すと、ひょいと飛び上がって石垣の上に手をかけた。
「お、おい、千鶴子! 何を……」
慌てて文雄は止めに入るが、千鶴子は無視して石垣をよじ登る。
足を掴もうかとも思ったが、
「あら文雄さん、私の下着が見たいの?」
との一言に、引き下がらざるを得なかった。
「……犬がいるわ。放し飼いにされているみたいね」
石垣に登った千鶴子は、スカートのポケットから何か取り出すと、庭に向かってそれを放り投げた。
いったい何をしているのかと、文雄も覚悟を決めて石垣に登る。
草木の茂る、それなりの広さの庭の片隅に、犬が二匹、地面に鼻をこすりつけて何かを貪っていた。
「何をやったんだ?」
「非常食よ。このままじゃ庭に下りられないでしょう」
「いや、食べ物をやったところで、そんなすぐには懐かないと思うんだが……」
そう言っている間に、二匹の犬は千鶴子の与えた食べ物を食べ終え、地面から顔を上げた。
すぐに歩き始めるが、なにやらふらふらと足元がおぼつかず、やがて唸るような、苦しげな声をあげる。
ついには、二度三度と嘔吐を繰り返し、二匹が二匹とも横になって倒れてしまった。
「これで大丈夫よ」
千鶴子はひらりと庭に下り、文雄も続けて下りる。
犬たちの方を見ると、ぴくりとも動かず、自らの吐瀉物に鼻先を突っ込んで地面に倒れていた。
「何をしたんだ?」
「眠らせただけよ」
とてもそうは見えないが、文雄は可愛い妹の言葉を一応は信じることにした。
「……どうやって?」
「知識と、あとは自然の力ね。身近なところに、色々なものがあるものなのよ」
不法侵入という明らかな犯罪行為に加えて、先ほどの倒れる寸前の犬たちの不気味な様子。
文雄は正直怖かったが、千鶴子に従うと約束した以上、ここで逃げ去るわけにはいかなかった。
そもそもにして、この様子では自分がいなくなったらどんな無茶をするかわからないという思いがあった。
草木が伸び放題の、手入れの行き届いていない庭を、千鶴子は既に歩き出していた。
木造の、大きくはあるが質素な造りの家が見えた。
「まるで探偵ごっこね」
「ああ……そうだな」
「文雄さん、私の後についてきて。窓から死角になるように近付くから」
「近付いて何するつもりなんだ……?」
「中に入るのよ。決まってるでしょう」
「……おい、待てこら」
はっしと文雄は前を行く千鶴子の肩を掴んだ。
「家にまで入るつもりなのか。無茶を言うな」
「大丈夫よ。犬を庭に放し飼いにしていたから、意外と戸締りには気を遣っていないかもしれないわ」
「俺はそういうことを言ってるんじゃない。さすがにそれはだめだ。犯罪だろ」
「何言ってるの、夏江さんの従妹さんのこと、調べなきゃならないんでしょ」
「それはそうだけど、もう少しまともな手段でだな……て、何を……むぅ!」
文雄の言葉は、千鶴子によって遮られた。
突然飛びつくようにして、口を手で塞がれてしまったのだ。
「静かにして」
千鶴子が耳元で囁く。
妹の髪の香りにどぎまぎとしながらも、文雄はしっかりと頷いた。



241 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:27:48 ID:T3M55Cpp
「声が聞こえるわ」
「声?」
手を離してもらい、ひそひそと会話を交わす。
文雄の耳には何も聞こえなかった。
「文雄さんの日頃の行いのおかげかしら。どうやら、家の中には入らずに済みそうね」
「え……?」
千鶴子が身を屈めて歩き出し、文雄もそれに続いた。
植え込みの陰を縫うように進み、美山家の南側の縁側の前にたどり着く。
草葉の陰からそっと頭を上げて見えた光景は、衝撃的なものだった。
縁側のガラス戸の向こう側の、十畳ほどの居間。
そこで一人の少女が、初老の男性に背後から突かれて犯されていた。
少女は居間の隅にあるソファーに手を置き、男に向かって尻だけを高く掲げていた。
膝まで下ろされた白い下着と、捲くられたスカート。
それは紛れもなく秋日高校の女子制服で、男の激しい腰の動きに合わせて体を揺らしているのは、紛れも無く、あの美山叶絵だった。
「あ……ああ……! んぁあっ……!」
ここまで来ると、文雄の耳にもはっきりと声が聞こえた。
美山叶絵の喘ぎ声だった。
昼間話したあの娘が、小柄な体をびくびくと震わせて、よがり啼いていた。
「あ……! ああっ! だめ……だめぇえ……!」
ぱちゅん、ぱちゅんと、男の腰が押し出される度に濡れた音がして、叶絵の白い尻が揺れた。
「へへ……何が駄目なんだよ、え?」
「せ、制服……脱がないと……まだ新しいのに……汚れちゃう……」
「うるせえな。お前はだまって俺にまんこ差しだしてりゃいいんだよ」
初老の男が下品に笑って言った。
容貌を具体的に聞いていたわけではないが、あの男が叶絵の養父となった美山作蔵だろうと、文雄は思った。
あまりの光景に、文雄は顔を逸らしてしまう。
と、隣に身をかがめていた千鶴子と、ぴたりと目が合った。
千鶴子は目の前の光景に全く動じた様子は無かった。
「ほら、面白いものが見れたでしょう」
「千鶴子、面白いものって……これは……」
「例の話、堕胎よ。彼女はこれまで、養父との間にできた子供を、堕ろしたことがあるんでしょうね」
凍りつく文雄を気にした様子も無く、千鶴子はまたポケットから何やら取り出し、文雄に手渡した。
「はい、文雄さん。よろしくね」
「これは……?」
「家から持ってきたビデオカメラよ。しっかり撮ってね」
「と、撮るって、あれをか!?」
驚く文雄の口を、再び千鶴子が手で塞いだ。
「静かにして。ここでこうしているのがあの男にばれたら、無事で済まないことくらいわかるでしょう」
なるほど確かに叶絵を犯している男は、堅気の人間には見えなかった。
文雄は統治郎の説明に、美山作蔵は暴力団との関係などが囁かれているという話があったことを思い出した。
「千鶴子、さすがにまずいよ。帰ろう」
「駄目よ。きちんと証拠を撮っておかなくちゃ」
「証拠って……彼女に何があったのかということなら、俺とお前が統治郎に伝えれば十分だろ。さすがにこれは見ていられない」
「夏江さんに見せるための証拠じゃないわ。いつか彼女をこの家から救い出すのに役立つのよ」
文雄ははっとした。
確かに警察に行くにせよ相談所に行くにせよ、養父からの虐待の、これ以上の証拠は無いだろう。
しかし、だからといってこんな覗きのようなことが許されるのだろうか。
悩む文雄をよそに、千鶴子は冷静な面持ちでガラス戸の向こうで行われている行為を見ていた。
「文雄さん、最終的には、彼女のためなのよ」
冷たく響く千鶴子の言葉に、ついに文雄はカメラを構えた。



242 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:30:50 ID:T3M55Cpp
レンズ越しに見る養父とその娘の性行為は、激しく、いやらしいものだった。
制服のセーラー服もたくし上げられ、露になった叶絵の胸を男が乱暴に揉みしだく。
男の擦り付けるような腰の動きに合わせて、可愛らしい胸が揺れるのが見えた。
「あ……あっ! あ……やぁあ……」
「へへ、何がいやだって? たく、どこもかしこも柔らかい、スケベな娘だぜ」
「んふっ! ん! んうん~っ! ん……っ!」
背後から圧し掛かるようにして、男は腰の動きを大きなものにする。
ずぱん、ずぱん、と肉同士のぶつかる音がして、叶絵は膝をがくがくと震わせた。
男がにやにやと笑いながら叶絵の耳元で何かを呟くのが見えた。
叶絵は上気した顔で頷き、右足を浮かせて股を開くと、その脚を男に預けるようにして横を向いた。
文雄は叶絵の露になった肉体と表情を真正面から見ることになった。
叶絵は、唇を噛み締めて泣いていた。
「へへ……まだまだ。今日も犯しまくってやるからな」
男が、涙の流れた叶絵の頬にべたべたと舌を這わせながら言った。
やがて腰を動かし始めると、赤黒いペニスが叶絵の小さな性器を割り開くようにして入っていった。
小柄な叶絵が大柄な男の男性器を受け入れているその姿は、痛々しくもあった。
「おいおい、しっかり濡れてんのに、泣いてるんじゃねえよ。気持ちいいんだろ?」
「う……」
作蔵がねちねちと腰を動かすと、結合部からぬらりと光る愛液が溢れるのがわかった。
「おら、気持ちいいんだろ!?」
「……う……うぅ……」
「気持ちいいんだろ!?」
「あ、は、はい……いいです……気持ちいいです……っ」
叶絵の右の太腿を抱え、男はますます激しくペニスを抜き差しする。
ぬちょ、ぬちょ、ぬちょ、とくぐもった音が、微かに文雄の耳にも届いた。
目の前に広がっているのは、間違いなく虐待の現場だった。
許されざる行為が行われていた。
しかし、男性の自然な反応として、文雄はその光景に確かな興奮を覚えていた。
見知った女性が為すすべも無く男に蹂躙されるその姿は、いち男子高校生にはあまりにも刺激的なもので、本人も気付かぬうちに股間を硬くしてしまっていた。
不意に、その股間に何かが触れた。
思わず下を見ると、そこには千鶴子の手があった。
地面にしゃがみこんだ千鶴子が、文雄の股間を擦るようにして手を動かしていた。
「千鶴子……!?」
「喋ったり動いたりしたら、見つかってしまうわよ」
はっとして家の方を振り返るが、作蔵は義娘の体を貪るのに夢中で、気付いた様子は無かった。
ただ、犯されながら窓の外を見る叶絵と目が合ったような気がして、文雄は思わず固まってしまった。
そのわずか数秒間で、千鶴子は文雄のズボンのファスナーを下ろし、中に手を滑り込ませていた。
「わ、お、お前何を……千鶴子!?」
「静かにしてと言っているでしょう。見つかって捕まりでもしたら、私まで犯されるかもしれないのよ」
ある意味理不尽な物言いだったが、状況に呑まれていた文雄は、おとなしく言葉に従ってしまった。
千鶴子はそのままペニスを取り出し、手に握った。
「文雄さん、しっかり立ってるのね」
「千鶴子、いいかげんにしろよ、これ以上は……」
「あら、こちらにカメラを向けると、私が文雄さんのおちんちんを握っているのが映ってしまうわよ。後で人に見せるときに大変ね」
文雄は慌ててカメラを持ち直した。
目の前では叶絵が涙を流しながら犯され、喘ぎ声を上げていた。
「また硬くなったわね」
そんな千鶴子の声がしたかと思うと、文雄はペニスが何とも言えぬ温かな感触に包まれるのを感じた。
視線のみを移して下を見ると、なんと千鶴子が、文雄のペニスの先を口に咥え込んでいた。
「ん……ふ……」
鼻から声を漏らしながら、千鶴子は文雄のペニスを喉の置くまで咥え込む。
唇を窄め、すするようにして愛撫しする。
小さく水音が鳴り、文雄には自分のペニスが千鶴子の唾液に濡れるのが見て取れた。
「千鶴子、やめろ……」
拒絶の言葉を口にするも、その口調は弱々しいもので、千鶴子が聞いた様子はない。
一旦兄のペニスから口を離したが、亀頭をちろちろと舐めて濡らすと、再び深く咥え込んだ。



243 ノスタルジア  ◆7d8WMfyWTA sage 2008/05/29(木) 04:31:23 ID:T3M55Cpp
千鶴子の口唇愛撫は巧みなものではなかった。
しかし、妹が自分の股間に顔を埋め、ペニスを咥えているという事実だけで、文雄には十分に刺激的であった。
千鶴子がペニスを咥えたまま顔を前後に動かし、艶のある黒髪が揺れるのを見ると、文雄は何とも言えない背徳感に襲われた。
「千鶴子、お前、何を……」
文雄の呼びかけに答えず、ただ黙々と顔と舌を動かす。
千鶴子は次第に大胆になり、文雄のペニスを吸い上げ、舌を這わせ、頬の粘膜で擦りあげた。
舌を纏わりつかせる時には、いつものすまし顔が唾液と粘液にまみれ、この上なくいやらしかった。
気付けば文雄は、千鶴子の愛撫に身を任せていた。
草木の伸びた荒れた庭で、叶絵が蹂躙されるのを見ながら妹にフェラチオをされるという、異常な状況だった。
涙を流して犯される叶絵に興奮してしまっている自分。
実の妹にペニスを咥えられて感じてしまっている自分。
罪悪感と背徳感、見つかるわけにはいかないという恐怖感に縛られ、文雄は抵抗することができなかった。
構えたビデオカメラのレンズの向こうでは、叶絵が片足で必死に立ちながら、男に突かれていた。
未発達の陰唇をずるずると巻き込むようにして、男のペニスが叶絵を蹂躙している。
興奮が高まったのか、男は腰の動きをより速く、細かなものにして、「出すぞ!」と叫んだ。
「や、やめて……! やめてください! また赤ちゃんが……」
「うぉおお! 出る! おおっ!」
「やだ! いやっ! いやぁあっ!」
叶絵は目を見開いて悲痛な声を上げたが、男は薄ら笑いを浮かべながら、叶絵の膣を抉るように深くペニスを突き刺した。
「あ……あぁ……あ……あぁ~……」
叶絵が目を細めて宙を見つめ、細く唸るような声を出した。
脚をぴんと伸ばしたままで、微かに震わせる。
やがて耐え切れなくなったのか、膝を折って床に崩れ落ちてしまった。
その拍子に、男の赤黒いペニスが糸を引いて叶絵の膣口から抜け出た。
「お前もイったみたいだな」
笑いながら男は、肩で息をつく叶絵を、上半身をソファーに寄りかからせるようにして床の上に仰向けにした。
そして、乱暴な指使いで、叶絵の秘所を割り開いた。
「へへ、やらしい形になったよなあ。まあ、毎日あれだけやってりゃあたりまえか」
露になった膣口から、精液がねっとりと溢れ出るのが、文雄の目にも見えた。
「まだまだ終わらねえぞ。気が狂うまでイかせてやるからな」
「やあ……」
「おら、いくぞ」
男が叶絵の腰を掴み、ずぽんと一気にペニスを押し込んだ。
繰り出される荒腰に、叶絵は背筋を反らし、悶えるように声にならない声を上げた。
また繰り返される父娘の激しい性行為に、見ていた文雄の興奮もいよいよ高まり、同様に激しさを増す千鶴子の愛撫がそれにさらに拍車をかけた。
「んあっ! ああ~っ! やあ……やっ! んおっ、あっ! んぁあ~……っっ!」
叶絵の喘ぎ声が大きく響いたとき、ついに文雄は耐え切れなくなってしまった。
射精感に、慌てて千鶴子の口からペニスを引き抜こうとするも、千鶴子は文雄の腰にしっかりと手を回し、それを許さない。
さらに吸い付くように、文雄のペニスを喉の奥まで咥えこんだ。
「……! ちづ……こ……!」
あまりの刺激に、次の瞬間、文雄は千鶴子の口の中に射精してしまっていた。
これまで経験したことのないような快感だった。
数秒に渡る射精で、自慰のときとは比べ物にならない量の精液が出ているのがわかった。
「ん……んぅ……」
千鶴子は目を細め、慈しむようにして、それを飲み込んだ。
白い喉の嚥下の動きが、何ともいやらしかった。
全ての精液を飲み終えた後も、千鶴子は文雄のペニスを咥えたまま、口の中でねっとりと舌を這わせた。
「はぁっ! あ……ああっ! んぁあああああああっ! あああ~……っ!」
ガラス戸の向こうからは叶絵が何度目かの絶頂を迎える声が聞こえ、やがて千鶴子は文雄のペニスから口を離した。
亀頭の先と千鶴子の唇との間に、透明な糸が引いて落ちた。
「千鶴子、お前……何考えてるんだよ」
陰鬱な感情に支配されながら、文雄が問いかけた。
「こんな……こんなことして……」
「私が何を考えているか、わからない?」
千鶴子が顔を上げて文雄を見つめた。
日は既に落ちて、微かな残照がその美しい顔を映し出していた。
「文雄さんて、馬鹿なのかしらね」
そう言う千鶴子の表情には、柔らかな微笑が浮かんでいた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年10月28日 00:26
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。