狂もうと 第22話

649 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:33:10.78 ID:mGFyOs7l (3/26)
お兄ちゃんが失踪して五日目…。
まったく手掛かりが無いまま時間だけが無駄に過ぎていく。
留美子さんを捕まえようと零菜さんのマンション前で待っていても現れなかった。
多分零菜さんが留美子さんに姿を消すように伝えたのだろう。
実家に電話しても未だに父は居ないと言われ続ける。

「なんなのよ…何が目的なのよ…」
お兄ちゃんのベッドに横たわり枕に鼻を埋め、息を吸う。
微かにお兄ちゃんの匂いが鼻を刺激する。
お兄ちゃんの残り香も部屋から消えようとしている…。

「早くお兄ちゃん探さないと…お兄ちゃん…お兄ちゃん…」
私の精神も自分で分かるほど弱ってきている。
今はもう零菜さんを殺す事は脳内から消えようとしていた。
早くお兄ちゃんに会いたい…今はただそれだけ。
会って一緒に話しをしたい…顔を見たい…声が聞きたい…触れたい……お兄ちゃんを感じたい…。
私の中に存在するお兄ちゃんが日に日に薄れていく…。

「お兄ちゃん…」
駄目だ…弱ってしまえば負ける。
ベッドから立ち上がると、重たい足取りでリビングへと向かった。

「あ、由奈姉ちゃん…」
リビングに入ると、椅子に座っていた空ちゃんが携帯から目を離して此方へ目を向けてきた。


650 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:33:33.91 ID:mGFyOs7l (4/26)
零菜さんの部屋は今は誰も帰ってこないだろう…実家に帰らせてもいいのだが、空ちゃんの携帯に留美子さんから電話がかかってくるかもしれない。
だから仕方なく家に泊めてあげてるのだ。

「携帯に電話あった?」
冷蔵庫から麦茶と棚から二つのコップを取り出しテーブルへと向かう。
空ちゃんの前にコップを差し出すと、何も言わずに受け取った。

「まだ…なにも…」
空ちゃんのコップに麦茶を注ぐと、テーブルにお茶を置いて私も椅子に腰かけた。
あれだけ元気だった空ちゃんも、流石にお兄ちゃんが心配になってきたのだろうか?
昨日から携帯を眺めながらずっとソワソワしている。

「あ、そうだ。由奈姉ちゃん、これ」

「ん?何よこれ」
空ちゃんがテーブルしたから一枚の可愛らしい封筒をテーブルの上へ差し出してきた。

「なんか分からないけど、さっき扉の郵便受けに入ってたよ」
花柄の封筒…こんな封筒知り合いからしか普通送ってこないと思うけど、私の知り合いにこんな封筒送ってくる人物はいない。
雑に封筒のノリを剥がして中に手を突っ込んでみた。

「手紙?……とDVD…?」
封筒の中からまた可愛らしい手紙が一枚。
そして一枚のDVDが入っていた。


651 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:33:59.69 ID:mGFyOs7l (5/26)
「空ちゃん、これレコーダーに入れて」
DVDを空ちゃんに手渡すとテレビ下にあるレコーダーを指差した。
私の手からDVDを受けとると、それを掴んでテレビの元へと駆けていった。
それを見送り再度手に持った手紙へと視線を落とす。
子供用の便箋のような感じだが…。
これも封筒と同じように雑に開封すると、中から紙切れを取り出し手紙に目を通した。







『妹がほしい?弟がほしい?』
手紙にはそう一行だけ書かれていた。
二~三度読み返して考えてみる。



――と、やっ―ん―

「……?」
手紙を見ていると、突然耳障りな聞き覚えのある女の声が入り込んできた。
手紙から目を離して声が聞こえてきた方へと視線を向ける。

声が聞こえてきた場所には空ちゃんが座っている…しかしこの声は空ちゃんのモノでは無い。
空ちゃんの前にあるテレビから聞こえてきているのだ。
手紙を掴んだまま空ちゃんの背後まで歩いていく。

「何見てるの?」
空ちゃんの背中に問いかける…が空ちゃんは肩を震わせるだけで私の問いかけに返答しなかった。
視線を上げてテレビに目を向ける。


「なんだよ…これ…ッ」
空ちゃんの呟きと私の心の声が重なる。


652 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:34:38.68 ID:mGFyOs7l (6/26)
身体全体の力が抜け、その場にへたりこむ。
汗が身体から溢れるように流れ、手紙が震える指の隙間からすり抜け床を滑る。

――優哉ぁ―あっん―!――ッ

それに視線を奪われたが、流れ続ける女の声にまた視線をテレビ画面に奪われた。

これは誰の夢?
私の?
絶対に私の夢じゃない――私はこんな悪夢見たことがない。

怖い…何が怖いって……



――当たり前のように全裸で私のお兄ちゃんの上に股がり腰を打ち付けるこの女がコワイ。
私のお兄ちゃんを自分の所有物のように扱うこの女が…


「兄ちゃんは絶対に傷つけないって言ったのにッ!!!」
空ちゃんの叫び声と床を殴る音で現実に意識が現実に引っ張りあげられる。


「傷つけない?あんた傷つけないってなによ?」
子馬のようにガクガク震える足腰を無理矢理立たせて、空ちゃんの背後に立つ。

「零菜言ったんだ!兄ちゃんが居なくならない方法があるってッ……だから…だから僕は何も…」
背後から見ても分かるほど怒りで震えているのが分かった。

「……あんた本当にお兄ちゃんの居場所知らないのね?」

「知ってたら言ってるッ!!」
私を睨み付けると強く叫んだ。
再度画面に目を向ける。


653 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:35:18.50 ID:mGFyOs7l (7/26)
零菜さんがお兄ちゃんの上でしがみつき、何度も何度も…。

「ッ……」
やはり弱っては駄目だ。
それにこの映像を見て分かった事がある。

――これは完全なる強姦。
間違いなく同意では無い。
その証拠にお兄ちゃんが微動だにしないし、目が拒否するように零菜さんを見ようとしない。

零菜さんは完全に私を甘く見ている…私がお兄ちゃんの表情の変化を見逃す訳がないのに。


「空ちゃん…留美子さんの携帯に入ってる男の子誰か分かる?」

「携帯?……あぁ、弟だよ」

「弟ねぇ……空ちゃんあの子と知り合いなの?」

「知り合いってほどでもないけど、アイツ僕が通ってる中学の近くにある小学校に通ってるから。だからたまに話す程度だよ」

「今から出掛けるから貴女も来なさい」
喘ぎ声が止まらない画面を消してDVDを取り出すと、真ん中から割ってゴミ箱に捨てた。
リビングから外に出て玄関で靴を履く。
空ちゃんも何も言わずに私の横に並ぶと靴を履いて立ち上がった。
多分今から私がする事を空ちゃんは理解したのだろう。
もう私は手段を選ばない。
零菜は殺す。

零菜さんの殺意が消えたかと思っていたが……やはり私は零菜さんを殺さないと気がすまない。


654 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:35:46.44 ID:mGFyOs7l (8/26)
「今からお兄ちゃん助けるから。あんたもお兄ちゃんの妹になりたかったら誰が“敵”なのか理解しなさい」
私の言葉に一度コクッとうなずくと、険しい表情を浮かべたまま玄関を開けて外に出ていった。
頭の弱い人間は使いやすくて本当に有り難い。



「……バカな子……妹は私一人なのに」
そう…妹は私だけ。
私もお兄ちゃんと一つになりたいと心から願ったけど……今では実行しなくてよかったと本当に思う。
零菜さんはもうお兄ちゃんの妹には戻れない。
事実上お兄ちゃんとの兄妹関係を壊したのだから――。

「お兄ちゃん待っててね。私が絶対に助けてあげるから」
一人自分にそう言い聞かせると、立ち上がりマンションを後にした。


655 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:36:10.39 ID:mGFyOs7l (9/26)



※※※※※※

この町には大昔から強く根付いた風習がある。
現代ではもう薄れているが、未だにその風習を信じる老人も少なくはない。
その風習というのが“畜生腹”
二つ以上の命を一つの腹に宿すのは獣と同じ。
だから双子の片方を封印…簡単に言えば殺してしまう事があったそうだ。
そんな忌々しい風習が五十年ほど前まで行われていたというのだから閉鎖的な町は怖い。

――その風習が無くなったのは今からちょうど五十年前の十一月……雪化粧が始まり森の表情が変わる季節に、綺麗な顔をした双子が産まれたそうだ。
皆に幸せを与えるかの如く天使のような笑顔を浮かべ、小さな手を振りながら…。
――しかしその笑顔すら何百年続いてきた風習が染み付いた町人達には悪魔に見えたのだろう。
子が産めないからと言う単純な理由から、町人達は男の赤ちゃんを封印する事にした。
風習だから仕方ない…町の皆は泣き出す母親を説得して男の子を連れていこうとした。
産んだ母親でさえ諦めていたのに…

――一緒に産まれた双子の妹だけは諦めなかった。
連れていかれそうになる兄の手をしっかりと握りしめ、あれほど笑顔を見せていた顔をくしゃっと歪めて声をあげて泣いたのだ。


656 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:36:35.35 ID:mGFyOs7l (10/26)
大の大人が手を引きはなそうとしても離れず、双子は泣き続けた。

――しかし、赤子の力が大人に勝つわけも無い…。

母親を部屋から移動させると、離れない男の子の手を包丁で切り落としたのだ。
やっとの事で二人を引き離す事に成功した町人は山奥にある洞窟に赤子を連れていき封印したそうだ…。


三日後――山側にある町は大きな雪崩に襲われ、九百五十人という死者を出す大災害に見舞われた。
その中には腕を切り離した町人や立ち会った者…母親や双子の妹も全て含まれており、町の皆が祟りだと信じた。
その一番の理由が亡くなった双子の妹の姿……何故か洞窟で兄と一緒に封じたはずの切り落とした腕にしがみついた状態で凍死していたそうだ…。
その日から被害にあった山側に祠が建てられ、腕無子地蔵という地蔵まで建てられた。
未だに十一月になると供養する為に町の皆が供え物をする習慣があるほど、双子という存在に皆が敏感なのだ。

そう…私達が産まれた時も……。


657 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:37:11.86 ID:mGFyOs7l (11/26)


※※※※※※

「どう?勇哉知らなかったでしょ?実家にある倉の中から新聞の切り取り見つけて調べてみたの」
部屋に充満する蒸せる程の熱気。
窓はくもりベッドは私と勇哉の汗で常に湿っている。

――もう何時間“繋がって”いるのだろうか?
腰の感覚も無くなってきている。
腰を落とす度に優哉の熱いモノが中に入ってくるのが分かった。

「ふぅ…んっ……由奈が優哉しか目に写らないのも分かる気がするわ」
自分でも二日前まで処女だったと思えないほど行為にのめり込んでいる…。
私は義務的に性行為だけを行い子を孕むつもりだったのだが…

「優哉…貴方苦しそうな顔する時、随分苛めたくなるような表情するわね」
そう…優哉のモノを出し入れすると微かに眉を潜め唇を噛み締めるのだ。

「んっ…ちゅっ、はむ」
噛み締める唇に舌を這わせて強く腰を打ち付ける。
パンッパンッと肌と肌が重なりあう度、お互いの吐息が混ざり合い空中で散っていく。
兄妹で恋人同士が重ねるようにいとおしく愛撫する日が来るとは夢にも思っていなかった。
実際一年ほど前まで、もう彼氏作って結婚しようかと思っていたのだ。


658 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:38:00.11 ID:mGFyOs7l (12/26)
しかし、お母様から言われた「優哉の血に他人の血を混ぜる事は許さない」という言葉が脳裏に焼き付きどうにも離れない。
優哉が付き合った三人はお母様と私が用意した篠崎家関係の女達だ。
お母様が優哉が可哀想だからと言う理由で、絶対に優哉の血を汚さないという条件の元、人を選び優哉と付き合わせた。
避妊具、膣内洗浄、どれもお母様が優哉と身体の関係を持たせた女にさせていた。
しかし、初めてお母様が付き合わせた佐野理恵…あの女はお母様の言葉を無視して優哉にのめり込んでしまった…結果お母様の怒りに触れ、消された。
可哀想と思ったが仕方のないことだ。
だから私も自分の血を汚さないようにしてきた。
今まで守りたくもない処女を守り、汚れのない子供を産む為だけに身を守ってきた。
他人から見たらアホらしいかもしれない。
実際私もアホらしいと思う。
だけどこれは私しかできないこと。
優哉の事は恨んでいる…一時期は殺したいほど恨んでいた。
しかし、優哉でないと私の中にいるお母様は毎日のように顔を覗かせるのだ……あの日見たような表情で。
だから優哉の子を産めば私の中にいるお母様も優しい表情に戻るだろう。
そうなれば後は優哉なんてどうでもいい。


659 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:38:31.22 ID:mGFyOs7l (13/26)
そう思っていたのだけど…。

「優哉…私を見なさい…」
眼球と眼球を合わせように顔を近づける。
優哉の眼球は動く事なく空気を見ている。
今では正直分からなくなってしまっていた…優哉を壊したい気持ちは今でも存在するはず。
だけど全て壊してしまえば優哉の温もりをしってしまった私はどう自分を慰めればいいのだろうか?
それこそ慰め目的で身体を売るような事をしてしまうかもしれない。
多分この気持ちは味わえないだろうけど…。
「ふふ……はぁん…気持ちいぃ」
既に拘束具は全て外されている…しかし優哉は逃げるどころか私がする事を全て受け止めている。
今の私には優哉は子供ほど小さく見えていた。
これはもう優哉が私の手の内に落ちたから言える事なのだろうか?

「うぁんっ…勇哉ほら、いっぱい出たっ、わね」
勇哉のペニスを引き抜くと、抜ける瞬間いやらしくヌチュっと粘りけのある音が大きく部屋に響いた。
精液が太股を伝いシーツに染みていく。
それを拭く事もせず優哉の横に倒れ込むと、未だに立っている優哉のペニスを右手で握りしめ上下した。
私の液と優哉の液が混ざり合いペニスの皮の中へ入り込み泡立つ。


660 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:39:08.98 ID:mGFyOs7l (14/26)
クチュクチュといやらしい音をわざとたて、尿道を軽く爪先で刺激しながらゆっくりと…たまに激しく擦る。
激しく擦る度に優哉の顔は微妙に歪む。
それを真横でジーっと眺めながら優哉が絶頂を迎える瞬間を間近で見てやるのだ。

「ッぁ!」
大きくビクつくと、水っぽい精子が優哉のお腹へ勢い無く飛んだ。

「ふふ、麻薬と一緒ね…」
精子を指ですくい取るとそれを優哉に見せるように舌で舐めて見せた。
優哉の胸板に私の胸を押し当てると、二つの心臓の音が同じ速さで重なりあうのが分かった。

「感じるでしょ?やっぱり私達は二つで一人なの……諦めて私の一部に戻りなさいよ」
優哉の顔に股がり陰部を口に押し当てると、反対を向いて優哉のペニスを両手で掴んで口でくわえた。
正直優哉と関係を持つまで男の股に顔を埋めるなんて死んでも嫌だと思っていたが、興奮すると知らない間に自分から優哉のペニスを口に含んでいた。
これも…あれも…全て私の一部。

「んちゅっちゅ、んはっ、あむっ、んん!」
口内でペニスを包みこみ忙しく舌を這わせると、優哉のお尻に手を回して中指を穴へゆっくり差し込んだ。
ズブズブッと中に入る度、優哉の苦しそうな吐息が私の陰部を刺激する。


661 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:39:35.23 ID:mGFyOs7l (15/26)
「はぁ、はぁ…勇哉…んゅっぷはッ、」
中指で勇哉の中を掻き出すように第一関節を折り曲げ内壁を爪で掻く。
それと同時にペニスに唾液を垂らし、持ち上げるように擦り上げる。

「ぐ、ぁあっ!」
身体を反り、あっという間に射精してしまった。
射精と言っても、もう精子と呼べるようなモノでは無い。

「ふぅ…流石に疲れたわね」
汚れた身体のまま勇哉の横に寝転がると勇哉と同じように天井を見つめた。
汚い天井…前の住人がタバコ好きなのか、白い天井は黄色く変色している。

「産まれて来る頃には家でも買う?家族団欒…いい響きでしょ?」
反応しない優哉の手を掴み、私のお腹を擦らせた。
死んだような表情をしているが手は凄く温かい。

「ふふ…もう少ししたらまた子作りしましょうね…アナタ」
優哉のペニスを人差しと指と中指で撫でると、また天井に視線を向けた。
お母様は優哉とこんな生活をしたかったのだろうか?
確かにこれはこれでいいかも知れない。
誰にも邪魔されずずっと繋がっている…。
もしお母様が生きていたら…お母様は優哉を連れて家を捨てたかも知れない。
その時、私も連れていってくれたのだろうか?

「はぁ…アホらしい」


662 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:40:06.49 ID:mGFyOs7l (16/26)
もうお母様はいないのだからこんな事、考える自体無駄なことなのに。
天井から目を反らし優哉に目を向ける。
優哉と身体の関係を持った瞬間から、何故か優哉の考えてる事が読めなくなってしまった…。
何度も優哉の目を見て読み取ろうとしたが雑音だけが頭に響き、まったく優哉の思考が見えない。
何か私の中で変わってしまったのかもしれない。
優哉と私の間にある何かが…。

「ふん…大きな悩みが一つ消えて清々するわ」
優哉を横目で睨み付け言い放つ…が聞こえていないのかやはり天井を見たままだ。
流石にここまで反応されないのは面白くない。

「優哉ぁ…いいこと教えてあげる」
優哉の耳たぶに下唇をつけて囁く。

「私と勇哉のエッチ…襖の隙間からカメラで撮ってるの。それね…由奈にあげちゃった」
満面の笑みを浮かべて勇哉に教えてあげる。

「ぅ…うぅ」
あれだけ反応しなかったのに、今度は顔を歪めて目を潤ませた。

それを見た私は胸に込み上げてくる何かを止める事が出来ずに、勇哉に抱きつきキスをした。
舌を押し込み、わざと音を出していやらしくキスを繰り返した。


663 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:40:47.49 ID:mGFyOs7l (17/26)
「んちゅっ、ん……大丈夫よ…勇哉は私が居るでしょ?由奈は優哉を嫌いになるかもしれないけど…私は大丈夫」
優哉は完全に私に落ちている。

「それじゃ…続きしよっか?」
糸を引く唇を手で拭い優哉に股がる。
由奈の悔しがる顔が頭に浮かぶ。
由奈は私と勇哉のDVDは見てどう思ったのだろうか?
由奈の事だろうから、発狂ぐらいしてくれてると思うのだけど…。

「まぁ、まだ時間はたっぷりあるし……また送れ…ば?」






「時間切れよ…零菜さん?」
突然後ろから声が聞こえたかと思うと、首元に黒い何かを押し当てられ身体全体に凄まじい痛みが走った。
悶える私の髪を何者かが掴み、床に引き摺り下ろすと私を仰向けにさせた。

「っ!?な、なんで貴女が此処…に」
見下ろす一人の女性を見上げて呟く。
この場所は私と留美子しか知らないはず。
なのに何故…。



――何故由奈がこの部屋にいるの?
考える暇もなく由奈の手が私に振り下ろされる。
黒い何かを私に押し当てると、また強い痛みが身体を走った。
身体をくねらせ何とか距離を取る。

「離っッぐっぁ!!!」
今度はその黒いモノで何度も私の顔を強打してきた。
たまらず顔を両手で防ぐ。


664 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:41:12.16 ID:mGFyOs7l (18/26)
「あんた台所に行って包丁持ってきて!早く!」
後ろに振り向き誰かに言い放つ。
包丁?
背筋に嫌な汗が流れた。

「痛ッ!」
腹部を蹴って由奈を引き剥がすと、近くにあった服を掴みよろよろと立ち上がる。

「あんたみたいなバカ見たことがないわ。もう終わりよ?何もかも自分で潰したの」

「はぁ?何を意味の分からない事を…」

「あんたは家族の関係を自分から切り捨てた。もう貴女はお兄ちゃんの妹に戻れないわ」
妹?そんなもの初めからいらない。
勝手にすがり付いていればいい。
とにかく今のこの状況を何とかしなくては…。
確か箱の中にまだ凶器になるようなモノが…




「……由奈…もういいから…」
後ろから聞こえてきた声に無防備に振り向く。
いつの間にか勇哉がシーツを下半身に巻いてベッドに腰かけていた。

「零菜…もうお前は俺の妹じゃない。分かるな?」

「分かる?何が?はっ、そんな事初めから興味無いわよ!第一妹を切り離したのは貴方からでしょ!?今更偉そうに説教?私の中に散々出しといて、馬鹿馬鹿しいッ」
そう言い捨てると、勇哉の頬を叩いてやろうと手を振り上げた。


665 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:41:40.18 ID:mGFyOs7l (19/26)
「うぐっ!!?」
振り上げた瞬間、横腹を由奈に蹴り飛ばされ壁に肩から激突する。

「汚い手でお兄ちゃんに触るな豚」
私に目を向ける事なく由奈は勇哉に近づく。落ちている勇哉のシャツを勇哉に着せると勇哉を抱き抱えて部屋からゆっくり玄関へと向かう。
私はそれを止める事もせず睨み付けた。


「はは、勇哉覚えておいて。私は貴方を恨んでいるわ!何も知らず平凡に生きてきた事がどれだけ罪か分からせてあげる!いつか…貴方が私にy「零菜……もう終りだから…全部…」
終り?何が終り?
私はまだ何も達成していない。
お母様の遺言も果たせていないのだ。

「終わらせないわよ!?貴方が私しか目に映らないようにこれからも追い込んであげるわ!
由奈も覚えておいて!私は貴女なんかに絶対に殺されない!私が死ぬ時は勇哉も道連れよ!!!あははッ、勇哉も私の身体を知ったでしょう!?絶対に私の元に戻ってくるわよッ!」
荒い息を吐きながら、部屋から出ていく勇哉の背中に言い放った。

「貴女哀れね…そんなんだから誰からも愛されないのよ」
それだけ言い捨てると、勇哉を抱えて出ていってしまった。

「何が哀れよ糞女ッ…あんたなんかに言われたくないわ」


666 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:42:44.15 ID:mGFyOs7l (20/26)
誰も居なくなった部屋で一人呟く。
無論反論なんてものは返ってこない。
自分の声が反射するだけで虚しいだけだった…。

「無茶苦茶やってくれたわね…痛っ」
身体のあちこちが痛みで痺れている。
先ほど由奈が持っていたもの…あれはスタンガンの一種だろう。
痺れる身体で服を着替えて、私もすぐに部屋を出た。
この部屋にいると今にも自分が発狂してしまいそうになるからだ。
玄関の鍵を閉める事すらせず部屋から出ると、痛む足を引き摺り階段へと向かった。


「次はどうやって痛め付けようかしら…」
壁に身体を預けて小さく鼻で笑う。
由奈に頭を殴られ続けたせいか、頭痛が激しい。
ズキズキする頭を押さえ手すりに肘を乗せる。

「……?」
ふと階段から駐車場に視線を落とした。
駐車場に人影が見える。
目を凝らして、人影を見つめる。
――由奈だ。
にやっと笑いながら此方へ指をさしている。

「ふん…笑ってられるのも今のうッ!?」
突然私の下半身が宙に浮き上半身が外に放り出された。


――零菜が悪いんだからな!!!

後ろから聞こえてきた声の主を確かめる事すら出来ず、自分の体重を支える事も出来ないまま人形のように駐車場へと落下していく。


667 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:43:20.46 ID:mGFyOs7l (21/26)
一瞬に頭に過るのは“死”の一文字。
何故か咄嗟に頭ではなくお腹を抱えて“何か”を守ろうとした。

「いッぁあ!!!」
数秒後、今までに感じた事の無い痛みと衝撃が身体全体を襲う。
ズドンッ!という本当に自分の身体から聞こえてきた音なのかと疑いたくなるほどの衝撃だった。
一度目の衝撃を受けた後そのまま転げ落ちるように首から落ち、二度目の痛みがすぐに襲ってきた。

「ぁ…ぐあ…っ」
薄くなる視界…黒く広がる夜空から白い綿のような雪が降り注いでいる。

「車に当たるなんて運がいいわね」
頭上から由奈の声が小さく聞こえてきた。

「まぁ、このまま放っておけば死ぬかしら?」
クスクスと笑う声に反応出来ず、ただ身体の動く箇所を探して指を一本一本力を入れてみる。

「ぅう…ッ」
まったく動かない…身体を強く打ち付けたせいか、息もできない。
ヒューヒューと喉の奥から漏れる息も、呼吸とは違う息の漏れ方をしている。

「頭から血がいっぱい…貴女死ぬわね?どぉ?一人で死ぬ気分は」
視界は未だに真っ暗な夜空。
まったく視界に入ろうとしない由奈に苛立ちを覚えながらも、眼球しか動かない今の身体に恐怖を感じていた。
本当に私は一人で死ぬの?


668 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:43:55.88 ID:mGFyOs7l (22/26)
こんなアスファルトの冷たい上で…。

「死な…よッ」
苦しい言葉を口から吐き出す。
口の中が鉄のような味でいっぱい…多分舌を噛んだのだろう…唾液と血が混じり口の中に溜まっていくのが分かった。

「ふぅん…大事そうにお腹両手で抱えてるけど…何か大切なものでも入ってるのかしら?」
由奈の声に動かないはずの身体が一瞬大きく跳ねた。
腹部を両手で抱えて空を睨み付ける。
本当なら由奈を睨み付けてやりたいのだが、身体が動かない…せめて首だけでも…。

「まぁ、どうせ死ぬんだから貴女には必要ないわね」

「や、やめっ!」
視界にゆっくりと入ってきた由奈の靴裏…何の躊躇も無く私のお腹を踏みつけた。
何度も降りてくる由奈の足…ドスッドスッドスッ!っと鈍い音と痛みが襲う。
それを両手で必死に庇いながら、居るかも分からない我が子を守ろうとした。
哀れと言われても仕方ないかもしれない…だけどコレは私と優哉のモノだ…絶対に他人は壊させない。

「由奈姉ちゃん、あんまり騒ぐと人くるよ?兄ちゃんも車で待たせっぱなしだし早く帰ろうよ」
幼い声と共に由奈の攻撃が止んだ。
声の主は多分空だろう……そして私を突き飛ばしたのも…。


669 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:44:21.73 ID:mGFyOs7l (23/26)
「そうね、お兄ちゃんお風呂に入れないと。それじゃ、零菜さん…お母様と仲良くね」
笑い声と共に二つの足音が遠ざかっていく…。
いつの間に仲良くなったのだろうか?
まぁ、姉妹なのだから仲良くなるものなのかも知れない…。


「うっ、がはっごほっ!!ぅうッ」
足音が完全に消えると我慢していた咳が血と共に口から漏れた。
身体の感覚を徐々に取り戻すと同時に痛みが酷くなっていく…これは本当に危ないかも知れない。
視界はボヤけ助けを呼ぶ事すらできない…誰かに見つけてもらうまで此処で転がってるしか…。

「……誰からも愛されない…か」
ふと、由奈が呟いた言葉が頭に浮かび上がる。
そんな事言われなくても分かっている。
お母様が亡くなった日から私は誰からも愛されない鬼だと…。
諦めている…だから私の思い出にはお母様しか存在しない。
他の記憶は全て消す。
必要ないから消す。

そうやって今まで生きてきた。
優哉の子供を産めば、お母様も喜んでくれる…だから今まで頑張ってきたのに…。

「なぜお母様は微笑んでくれないの…?」
痛みか悲しみか…理由の分からない涙が雪と重なり頬を伝う。
目の前に映る歪んだお母様の顔にゆっくりと手を伸ばす。


670 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:45:17.96 ID:mGFyOs7l (24/26)
その時初めて手が動かせるようになっている事を知った。
震える手で遠くから険しい顔で見つめるお母様…月に映るお母様……ずっと私を見ている。
そう…あの遊園地の時みたいに。



――零菜自分で立ちなさい。貴女はもうお姉ちゃんでしょ?

――やだぁ!抱っこがいい!

「抱っこ…が…いい…」

ダメよ。もう小学生なんだから早く立ちなさい。

――うわぁぁぁん!ママのバカァ!

「ママ…なんで怖い顔する…の?」
あの時のお母様は何故か怖い顔をしていた…。

だから私は…。

――お兄ちゃんおんぶしてよぉ!

優哉に両手を差し出して、おんぶをねだった。

――ったく、仕方ないなぁ零菜は。ほらっ、背中に乗れよ。

小さな背中に私はしがみつき、おんぶしてもらった…。
いつからだろうか?優哉を見ていると苛々するようになったのは…。
私から逃げるように家を出た時から?
違う…。
お母様が亡くなった時から?
違う…。
分からない…分からない。
私の愛する人はお母様ただ一人だけ。

私は優哉を恨んでいる…恨んでいるはずなのに……。


671 :狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2011/11/17(木) 13:46:16.33 ID:mGFyOs7l (25/26)

――冷たい雪が私の心を酷く溶かしていく――







「――うぇっ…お兄ちゃ、ひっぃ…ぅッ、痛いよぉお兄ちゃん…ふぇっ、たすけ…て…お兄ちゃ…んッ」
頭に浮かぶのは愛する母の顔では無く、なぜかあれだけ恨んでいたはずの優哉の顔だった…。
子供のように手を差し出し居ない兄を探し続ける。
空をさ迷う手…その手を握り返してくれる手は存在せず…虚しく私の声だけが駐車場に小さく響いた。
迷子が必死に兄に助けを求めるかのように私の白い手は雪降る中をさ迷い続ける……ずっと…ずっと……赤子のように泣きながらずっと――――。


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最終更新:2012年01月21日 16:44
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