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人格転生10 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/19(木) 11:52:33.58 ID:TYMCT2Sl (5/9)
由衣と一緒に学校から帰ってきてからテレビを観ながらリビングでくつろいでいた。
ソファで俺の横になってウトウトしている由衣。
そろそろあいつとの交代時間か。
「由衣、眠いか?」
「ふぅ…う、うん…」
「そっか。でも日記はちゃんと書いとけよ」
「うん…んにゃむ…」
いつものようにリビングの棚にある真っ赤な日記に手を伸ばし今日の出来事について書き始める。
表情は眠そうだが真剣だ。こういう懸命なところは見てて可愛い。
「ふあぁ…また明日起こしてね、お兄ちゃん…」
そのままテーブルに日記を置いてソファに寝転がる。
「わかった。おやすみ」
そのまま眠りにつく由衣。
あいつを迎える準備をする。
と言っても気構えだけだが。
―こんばんわ、兄さん
由衣と同じ姿の妹が俺にそう呼びかけた。
~人格転生~
「ふわぁ…ご飯ですか?」
「ああ」
いつものようにあくびをしてから尋ねてくる。
「…食前?」
「そうだよ」
「わかりました」
起き上がりキッチンに向かおうとする。
「兄さんも一緒にするんですよ?」
目の前の冷静な口調で俺に問いかける由衣とまったく同じ姿をした人物。
由衣のもう一人の人格、美里由利(みさと ゆり)。
正真正銘の天才である。こいつは由衣と同じ姿形はしているが中身はまるで別物だ。
何しろIQテストなどの知能検査の類や学力試験で望みの点数を出せる能力がある。
高校受験の時は由衣に風邪ということで無理やり休んでもらって、特例の試験を夕方に受けさせてもらった。
まあ法律上は問題ないし同一人物だからいいのだろうが。
「わかってるって。でも昨日のカレーがまだあるぞ」
「捨てちゃいましょう」
さらに由衣の長所の運動神経などはほぼ変わらない。
だが由利が言うには細かいところも含めると運動能力に関しては由衣の方が上だとか。
前に由衣の撮影された体育祭のビデオを観てそう言っていた。
「もったいないだろ」
「いいんです。昨日は私が起きるのが遅かったら、作ってくれたんでしょう? あの子と一緒に」
749 :人格転生11 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/19(木) 11:55:06.52 ID:TYMCT2Sl (6/9)
由利は由衣のことを、あの子、と言う。このように性格も仕草も口調もまったく違う。
由利は由衣のような奔放さは一切ない。合理的で感情の起伏が少ない。
「だけど、まだ残ってるしさ」
「私は兄さんと一緒に作りたいんです。ダメですか?」
と言っても例外がある。俺に関することに異常な執着をみせる。
他人が見れば由衣もブラコンらしいが、それは当てはまらないと思う。
なぜなら俺は世話を焼いているだけだからだ。
当てはまるとすれば由利みたいなのを言うんだと思う。
由利は手段を選ばずに俺にくっついてくる。
「じゃあカレースパゲッティにしないか」
「そんなに私と料理を作るのが嫌なんですか」
「そうは言ってないだろ」
「麺を茹でるだけじゃないですか、つまらない」
まあ、その茹でるだけができない奴もいるけど。
膨れた顔をしているが、それも由衣とはぜんぜん違う。
もう髪のツインテールを外してストレートに下ろしている。
さっきキッチンに入るときも少しだが軽く化粧もしたりしていた。
表情も全く違う。由衣にはまったくない緊張感というのがある。
「サラダもつければいいんじゃないか?」
「なんで兄さんは簡単な料理を選ぼうとするんですか」
いったいどうしろと?
結局、予定通りカレースパゲティとサラダになった。
今、俺と由利はテーブルで食事をしている。
あのあと結局ぶつぶつ言いながらも由利と一緒に料理をした。
由衣と由利のことについて改めて考える。
多重人格。正式名称、DID乖離同一性障害。
由衣と由利の病名だ。ちなみに戸籍上は由衣になっている。
多重人格は幼児期のトラウマで発症するものとされている。
トラウマから逃げるために別の人格を創りだす、と。
ただ由衣たちに限ってはこの説には当てはまらないと思う。
「兄さん、何を難しい顔をしてるんですか?」
「別に」
確かに初めは由衣だけだった。由利の存在に気がついたのは俺が物心付く前だった。
両親が死んだ時期と重なるが、それが由衣に影響を与えたとは思えない。
それだったら俺もなにかしか心に傷を負っているはずだからだ。
別に過去に何かトラウマがあったとも思えない。
「おかわりはいりますか?」
「ん、たのむ」
「はい。うふふ…」
小学生低学年の頃までは由衣の一人遊びだとおもっていた。
ちょっと性格がおかしなことになる時もあったが別に違和感なんかなかった。
そう、由利は「最初からいた」。変な表現だがこう表現するしかない。
そもそも由衣と由利のどちらが美里由衣なのかも疑問だ。
紛らわしいから「由衣」と区別するために「由利」という名をつけただけだし。
750 :人格転生12 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/19(木) 11:58:03.92 ID:TYMCT2Sl (7/9)
「ごちそうさんっと、さあてPCでもするかな」
「ごちそうさま、では私もやります」
「じゃ俺テレビみるわ」
「何が何でも私といたくないんですね」
「違うって。つか先に日記みろよ」
「あ、忘れてました」
そして二人が交代する時間が決まっている。
夜寝て朝起きるときと夕方に寝て起きた時だ。
交代がどういう仕組みで起こるのかはわからない。
「片付けはあとでしておきます」
「サンキュ」
このことを知っているのは爺ちゃんと俺だけだ。
両親が知っていたのかはわからないが多分知っていたんだろうと思う。
他のみんなは知らない。愛理やさつきちゃんたちも知らない。
由利も夜にあの子らに会うと、由衣の振りはするが、ほとんど喋らなくてニコニコ微笑んでるだけだ。
リビングに置いてある俺と由利の共用PCでネット巡回をする。
ちなみに由衣はPCを使えない。使うどころかまた破壊されてもおかしくない。
32型の液晶テレビも横にあるが、繋げているのでそちらでも見ることができる。
「兄さん」
「何?」
「この『きれいな人』って誰ですか?」
日記を見ながら由利が尋ねてくる。なんかイライラしてるみたいだ。
「知らない人かな…たぶん」
あの人のこと忘れてた。俺の勘が正しければ、明日来る家政婦さんの可能性が…
「たぶん?」
「ああ、知り合いになる可能性もあるから」
「どういうこと?」
でも由利のことだ絶対に反対するに決まってる。
「いや、ごめん。
なんとなく会った気がしただけだからマジでよくわかんない」
誤魔化したほうがいいと判断する。まだ決まったわけじゃないし。
「デレデレしてたって書いてるわよ。それに愛理さんとさつきともずいぶん仲がいいみたいね」
「まあ仲はいい方だと思うが」
由利も愛理とさつきちゃんと会ったことはあるから面識はある。
彼女らとの付き合いは俺たちが高校に入ってからなのでバレていないはずだ。
夜に二回ほど会ったことがあるが微笑んで一言もしゃべらずに誤魔化していたし。
でもあのふたりはかなり勘がいいから、家に招待したら100%に近い確率でバレるだろう。
固定電話も俺が取るようにしてるし、由衣の携帯のデータには俺しか入れてないしチェックもしている。
「ほら、あの子からのメッセージもあるわよ」
由利が日記を俺に見せてくる。由衣たちにプライバシーというものはない。
「えっと…」
751 :人格転生13 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/19(木) 12:04:25.45 ID:TYMCT2Sl (8/9)
おにいちゃん大好きおにいちゃん大好きおにいちゃん大好きおにいちゃん大好き
おにいちゃん大好きおにいちゃん大好きおにいちゃん大好きおにいちゃん大好き
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おにいちゃん大好きおにいちゃん大好きおにいちゃん大好きおにいちゃん大好き
おにいちゃん大好きおにいちゃん大好き…
5行ぐらいに下手な字で書かれているのが目に付く。引くよなぁ。
でも由衣が書くとヤンデレ風というより、小学生を相手に見てる気になってむしろ微笑ましくなってしまう。
あとは普通に今日の出来事が書かれていた。
「私も負けないように書こうかしら」
「なんて?」
「兄さん愛してるって。あの子は31回書いてるから私は倍の63回書くわ」
「やめてくれ」
「冗談よ」
マジで洒落にならない。由利が書くと達筆だし本気でドン引きするだろう。
俺たちはテレビを観てから寝る準備を整える。
明日は土曜日で休みだ。たぶんあの人が来るんだろうな。
朝に来るか夜に来るかで違う対応を取らないといけない。
どうすればいいんだろう。その理由である由利に目をやると訝しげにこちらを見た。
「どうかしましたか」
「なんでもない」
ホントどうしたもんか…
最終更新:2012年01月21日 17:46